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住み慣れた街の声-障害者問題における地域福祉の在り方調査・研究

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第4章 教育

 盲学校、聾学校、養護学校などでは必要な設備が整い、教員数も充実し、障害を考慮した学習と訓練が行なわれています。しかし、スクールバスによる通学は地域の学校と比べて時間が何倍もかかり、しかもその間は車窓に映る街を眺めるだけの単調な移動に費やされてしまいます。こうした送迎の状況ひとつを取り上げても、近隣の人たちの目にふれ、街の風景にとけこみ、友だちと連れ立って登下校する健常児とは格段の違いがあります。
 学校とは、単に教科を学習するだけの場ではありません。家庭とは異なる集団生活のなかで友だちを作り、情操を養い、精神力を高め、生活経験を豊かにする場でもあります。盲学校、聾学校、養護学校と分かれて在籍する障害児は、自分と近しい障害を持つ子どもとしか接することができず、健常児との交流や他の障害を理解する機会を奪われているといえます。また、家が近い同じ年頃の子どもと通い先が違えば、帰宅後や休日に遊ぶつながりも持ちにくく、親も子も地域との関わりが薄くなりがちです。このような生活で、障害児は社会性を育んでいくことができるのでしょうか。“街の中で、仲間と共に支え合いながらいきいきと生活している自分”を将来像として思い描けるでしょうか。健常児もまた、障害児と交流することにより、見えない、聞こえない、歩けないなどの「障害」に触れ、さまざまな個性を知ることができるのです。いってみれば、健常児もお互いに学び合う機会を奪われているのです。
 ダウン症の女子大生や全盲の東大生がいるように、受け入れる側の体制で障害当事者の選択の幅は広がっていきます。身辺介助や通学の移動手段等の問題も密接に関係するため、大変奥の深いテーマですが、どこに通うかを選択する自由が障害児にもっとひろがるよう、ハード面を含めて普通校の教育内容を整備することが必要ではないでしょうか。§重度障害児は養護学校へ

§学校は楽しいところ?

§重度障害児の卒業後の不安

§自立プログラムが必要

§全ては子どもの最善に利益のために -子どもの権利条約と障害児- 

§街を切り拓く

Point

障害児の通学先

 学校教育に特に関係すると思われる18才以下の障害児は、30人(全体の8%)で、全員家族が代理で回答していました。その中でも通学先が明確な障害児は28人と少数で、保育園や普通校、盲学校、聾学校も選択肢にありますが、養護学校(17人)と心身障害学級(11人)の2種に分かれただけでした。
 回答者の身障手帳や愛の手帳の等級から、養護学校生の方が重度で、大半は重複の障害を持っていることが明確になりました。また設備の違いも顕著に表れ、養護学校生は8人が車椅子もしくはバギーを使用しているのに対し、心身障害学級に通う障害児は全員補装具を使用していませんでした。

学校教育と進路の問題点

 学校への満足度を5つの選択肢で尋ねた結果からは、「満足」9人、「やや満足」3人と、半数が肯定的な回答です。「不満、やや不満」と回答した10人に不満の具体的な内容を11の選択肢から選んでもらった結果は「通学に時間がかかる」が最も多く7人でした。障害程度や興味、特性が教育内容に沿っていないなどの理由を挙げた回答者のほとんどが養護学校生の家族であり、普通校へ通えない重度障害児が学ぶ養護学校の問題点とも受けとめられる結果となっています。
 進路に関しては対象を中・高等学校通学中の障害児に絞り、「高等学校卒業後には希望に沿った進路を選択できると思いますか」と質問しています。この質問の回答者は13人と更に少なくなりますが、選択が困難という 11人の回答者が挙げた理由は、「選択肢が少ない」、「興味、特性を生かす進路先がない」、「障害程度に合う進路先がない」、という3つに集中し、障害児の進路選択の厳しさが伺えます。

”学ぶ場”へ望むこと

 「余暇時間を利用して、どのようなことを学びたいですか」という質問では、「スポーツやダンス」10名、「調理・被服・住居等の学習」9名、「金銭管理・外出・対人関係等の学習」8名という結果でした。自立に向けた学習の要望が強く、学校教育での不十分さを裏付けるものとなっています。
 幼い頃からの重度障害者には学齢期からより厚い支援が必要であり、個々の力に沿った「地域自立」への視点が重要です。卒後対策としては生活実習所の早期実現が優先課題ですが、障害児が学び、楽しみ、十分に自己表現できるよう、地域の教育環境の充実が望まれます。

重度障害者は養護学校へ

第1表 障害児の通学先
総数:28人
養護学校
17人(61%)
身障手帳1級もしくは愛の手帳1,2度 11人(重複6人)
身障手帳2級もしくは愛の手帳3度 6人(重複2人)
心身障害学級
11人(39%)
身障手帳2級もしくは愛の手帳3度 9人(重複なし)
愛の手帳4度 1人
無回答 1人

 回答者の中で、18歳以下の障害児は30人、全体の8%で、全員家族が代理で回答していました。通い先を具体的に尋ねたところ、第1表のとおり養護学校17人と心身障害学級11人という結果となり、普通校や盲、聾学校等の回答はありませんでした。
 第1表で示されているように養護学校では身障手帳1級、愛の手帳1度、2度が11人、重複障害も8人と障害が重度である事がわかります。養護学校では8人が車椅子もしくはバギーを使用しているのに対し、心身障害学級は2級や3度の障害児で、全員が補装具は使用していません。重度障害児は明らかに普通校への通学が困難で、車椅子の使用によって設備が大きな問題となる事が伺えます。
 また新宿区では、障害のある乳幼児には通所訓練施設あゆみの家で療育指導・訓練が行なわれています。しかし、「障害をもっていても地域の中で育てたいと思っていますが、新宿区では肢体不自由の子の保育園、幼稚園(区立)の受け入れがありません。他区では受け入れているのに、新宿は『障害児の福祉』の考えがとても遅れています。」(肢体不自由・5歳・男)という街の声もあり、教育現場のバリアを厳しく指摘しています。

学校は楽しいところ?

 第2表は、現在通学している学校をどのように感じていますか、と尋ねた結果を通学先別に表したものです。「満足」「やや満足」と「不満」「やや不満」は全体でほぼ同数ですが、養護学校では「やや不満」が7人と多く、「不満」1人、心身障害学級は「やや不満」と「不満」が各1人です。養護学校の方が不満と感じる人が多いという結果から、普通校に通えない重度障害児の親の方が教育体制の不十分さを感じているといえるでしょう。
 表1は新宿区在住の障害児の通い先を表したものです。

第2表 学校への満足度
総数:26人
満足 やや満足 どちらともいえない やや不満 不満
心身障害学級 4人(40%) 1人(10%) 3人(30%) 1人(10%) 1人(10%)
養護学級 5人(31%) 2人(13%) 1人(6%) 7人(44%) 1人(6%)


表1 新宿区在住の障害児の通い先
(平成10年5月現在)
学校種別 学校名 小学校 中学校 高等部
盲学校 八王子盲学校 - - 1
久我山盲学校 1 - -
ろう学校 大塚ろう学校 3 1 -
江東ろう学校 1 - -
杉並ろう学校 - 2 -
石神井ろう学校 - - 1
大田ろう学校 - - 3
養護学級 光明養護学校 2 - 8
北養護学校 - - 1
中野養護学校 11 9 28
新宿養護学校 9 12 -
新宿養護訪問学校 1 2 -
村山養護学校 - - 1
しいの木養護学校 - 1 1
久留米養護学校 - 1 -
国立筑波桐丘養護 1 2 1
国立筑波大塚養護 2 3 4
私立旭出養護学校 - 2 1
心身障害学級 愛日小学校 2 - -
東戸山小学校 10 - -
花園小学校 9 - -
落合第二小学校 14 - -
四谷第二中学校 - 5 -
東戸山中学校 - 8 -
西新宿中学校 - 7 -
情緒障害学級 戸塚第二小学校 13 - -
健康学園 箱根岡田高原学校 8 - -

自宅から近くの学校に通いたい

第3表 通い先別不満な理由
総数:23人 
不満理由 心身障害学級 養護学校
健常児との交流が少ない - 1人
教師の理解が得られない - 1人
送迎体制が不十分 - 2人
進路指導が不十分 - 2人
設備が整ってない - 2人
障害程度に添った教育が不十分 - 2人
障害程度や興味、適性に沿ったカリキュラムがない - 3人
障害程度や興味、適性に沿った内容が選べない - 3人
通学に時間がかかる 2人 5人

 学校に対して「やや不満」「不満」と回答した人にその理由を尋ねた結果が第3表です。最も多かったのは「通学に時間がかかる」の7人でした。他の回答では「障害程度や興味、適性に合った教育内容がカリキュラムにない」「障害程度や興味、適性に合った教育内容が選べない」が3人ずつで、本人の個性を尊重した教育内容を望んでいる事が浮き彫りになっています。
 また、「健常児は小学校・中学校と自宅にいちばん近い学校に行く事ができるのに、なぜ障害児は遠くまで行かなくてはならないのでしょうか。」(9歳・男)という進路選択への不満もあげられていました。さらに、「養護学校へ通いながら普通校との交流ができるようになると地域とのつながりが自然にとりやすくなります。」(肢体不自由・7歳・男)という健常児との交流を望む声もありましたが、大半の普通校の設備は車イスを配慮した構造になっておらず、ハード面も大きなネックとなっています。統合教育への大きな流れの中でハード面の設備も忘れられない問題だといえるでしょう。

重度障害児の卒業後の不安

第4表 進路選択の難しさと障害の状況
総数:13人
1級 1級
2度
2度 2級 3級 4級
3度
3度 無回答 合計
どちらかというと難しい - 2 - - 1 3 - 7人
非常に難しい 1 - 1 1 - - 1 - 4人
どちらかというと選択できる - - - - - - 1 1 2人

 第4表は、対象を中・高校通学中の障害児に絞り「高等学校卒業後には希望に沿った進路を選択できると思いますか」と尋ねた結果を、回答者ひとりひとりの障害の状況とともに示したグラフです。総回答数は13人とごくわずかですが、積極的に肯定する回答はなく、「非常に難しい」4人、「どちらかといえば難しい」7人と進路選択が困難な状況を示しています。一般就労が困難な障害者のために様々な施設がありますが、こうした既存の施設をわずか数年後には利用することになる人の意識であり、重度重複障害者や知的障害者の昼間の活動に対する不安と受けとめる事もできるでしょう。
 表4-1は新宿区内の通所施設の定員と現在の利用人数を表したものです。


表4-1 新宿区内の通所施設の定員と現在の利用人数
(平成10年4月現在)
名称 定員 利用者
あゆみの家 45 42
新宿福祉作業所 70 70
高田馬場福祉作業所 59 45
あすなろ作業所 12 10
生活実習所 40 23
新宿あした作業所 20 21
クリーンあした 7 7
新宿第二あした作業所 20 16
ムツミ第一作業所 25 25
ムツミ第二作業所 25 25
新宿西共同作業所 25 23
工房「風」 15 15
麻の葉クラブ 30 30
クラブハウスストローク 25 20
チャレンジワーク (個人会員) 159


第5表 希望の進路を選べない理由
総数:22人
1級もしくは2度 2級以下、3度 合計
選択肢が少ない 4 4 8人
興味、特性を生かす進路先がない 4 2 6人
障害の程度に合う進路先がない 1 4 5人
通勤、通学の困難 1 - 1人
学校の進路指導が不十分 - 1 1人
進路に関する情報が少ない - 1 1人

障害や興味に沿った進路を選びたい

 第4表の選択にあたって「どちらかといえば難しい」「非常に難しい」と回答した人に理由を尋ねた結果が第5表です。最も多かったのは「選択肢が少ない」の8人で、養護学校に通う1級もしくは2度(重複含む)の重度の障害児と、2級以下もしくは3度の障害児の両方の層が最も多く挙げた理由でした。「興味、特性を生かす進路先がない」6人、「障害程度にあう進路先がない」5人ですが、前者は重度の層、後者は軽度の層の回答が多くなっています。しかし、自分に合った活動の場をすすんで選ぶより、他に行くところがない、といった苦渋の選択であることは想像に難くありません。
 また、「区立の障害者施設、福祉作業所等愛の手帳をもっていなくても希望する人は通所できるようにしてほしい。また民間の作業所も定員を増やしてひとりでも多く入所できるようにしてほしい。」(44歳・男)という要望もありました。
毎年の卒業生の数から各施設の定員がいっぱいになる時期も予想されていますが、進路の拡充のために既存の施設は障害程度や活動内容もより流動的に改善していく必要があるといえるでしょう。通所施設や作業所については第 章昼間の活動で詳しく述べられており、現在利用している人からも多くの課題が提起されています。

自立プログラムが必要

第6表 学齢期の障害児が学びたいメニュー
総数:28人 回答対象者:7歳~19歳 
学びたいメニュー 人数
ピアノ・ギター・歌などの音楽 6人(13%)
テニス・水泳などのスポーツ・ダンス 10人(21%)
料理・手芸・工芸・美術・茶道・華道 3人(7%)
ワープロパソコン 5人(11%)
算数・国語などの基礎的学習 4人(9%)
介助サービス・社会保障・福祉制度 1人(2%)
金銭管理・外出対人関係 8人(17%)
調理・被服・住居 9人(20%)

 第5章昼間の活動で詳しく紹介されていますが、「日常生活の中で余暇時間を利用してどのようなことを学びたいですか」という質問の結果を在学中の28人に関して示したグラフが第6表です。
  「テニス・水泳等のスポーツ、ダンス」が10人と多く、次いで「調理・被服・住居の管理等家庭生活技術に関する自立に向けた学習」9人、「金銭管理・外出・対人関係等社会生活に関する自立に向けた学習」8人という結果です。余暇時間を想定して尋ねたものですが、学校の授業では不十分なメニューを望んでいると考えられ、特に生活力を高める自立プログラムの希望の多さは「年齢が低いうちから学び、自立のための力をつけてほしい」という親の願いが数字としてあらわれているといえるでしょう。
  「施設や学校しか行き場がないのではなく、学校などで学んだ事を実践する機会、身近行ったり来たりできる場が地域の中でたくさんほしいです。」(知的障害・7歳・男)という街の声からも明らかなように、学校で、あるいは地域という社会資源の様々な場所で、個性を伸ばし、生活経験を豊かにするための教育環境の整備が望まれます。

すべては子どもの最善の利益のために

―子どもの権利条約と障害児―

 今日広まりつつあるノーマライゼーションという理念の背景には、人間の尊厳や基本的人権の価値を明文化した世界人権宣言(1948年に国連で採択)や、精神発達遅滞者の権利宣言(1971年)、障害者の権利宣言(1975年)などに見られるような、人権に対する認識の深まりがあります。こうした認識の深まりは、子どもに対する考え方へと広がり、子どもを権利主体として位置づけ、子どもの諸権利を明確にした、“子どもの権利条約”が1989年に国連で採択されています。
 子どもの権利条約という条約名からは“障害”という文字はうかがえませんが、障害をもつ子どもについて重要な条項があります。例えば、第2条第1項では、子どもが障害によって差別されることなく、子どもの権利条約に掲げられている諸権利が保障されることを謳っています。したがって子どもの権利条約は、障害をもつ子どもをめぐる現状が、この条約に照らし合わせて適切であるかどうか問い直す、ひとつの試金石となるといえるのです。
 なかでも注目されるのは、障害をもつ子どもの権利を謳った第23条です。この第1項には、「締約国は、精神的または身体的に障害をもつ子どもが、尊厳を確保し、自立を促進し、かつ地域社会への積極的な参加を助長する条件の下で、十分かつ人間に値する生活を享受すべきであることを認める」(国際教育法研究会訳)とあります。障害をもつ子どもが、生まれた地域社会のなかで自らの役割を持ち、その地域に溶け込みながら自立生活を目指し成長していく。そんな生き方を、子どもの権利条約では障害をもつ子どもの権利として認めているのです。
 そしてこうした子どもの権利を実現するためにも、子どもの権利条約第12条の意見表明権をどう生かしていくかが鍵となると思われます。子どもに対して行なわれるさまざまな処遇が、本当にその子のためになるのか、子ども自身の声に耳を傾け、その声の可能な限りの実現が目指されてこそ、子どもたちの自立生活へとつながっていくのです。また、子どもたちの声が十分に届かないとすれば、子どもたちの声を代弁するおとなの存在も子どもの権利を保障するためにも欠かせません。この意味で、子どもに対する権利侵害が行なわれていないか監視する第3者機関であるオンブズマンやNPO団体などの役割も重要となってきます。
 子どもの権利条約第3条では、「子どもにかかわるすべての活動において、…子どもの最善の利益が第一次的に考慮される」ことを指摘しています。障害をもつ子どもをめぐる問題はさまざまありますが、子どもの権利条約を読み進めながら、何が子どもの最善の利益になるのか、今一度振り返ってみることが必要なのではないでしょうか。

教育  街を切り拓く  課題と展望

 親の手伝いでいくらかお金を預かり近所の店に買物にいく、友達とお互いの家を行き来したり一緒にどこかへ遊びに出かける、そうした行為は子供が成長する過程で自然と経験していくものです。日常生活を送りながら、興味と自主性に後押しされ、歳を重ねる中で「自分で自分の生活を管理する」力が身についていくのです。しかし、そうした経験がないまま成人した障害者は自立プログラムで子供の頃に獲得できなかった生活技術を学んでいます。障害者は社会性がない、と言われることも少なくありませんが、生活経験が乏しく、行動範囲も狭められてしまうのは周囲の環境によって作られた2次的な障害だといえるでしょう。例えば、習い事に通う、遊びに出かけると一口にいっても参加できるメニューは限られてしまいます。送迎も含めて親が同伴しなければならないため負担も大きく、放課後や休日もテレビを見ていることが多い、というケースが珍しくありません。
 養護学校では障害に応じた訓練・教育のために他の障害や健常児と一線を画すことになりますが、自分の家の周りの身近な生活圏を巻き込み、日常の交流があってこそ、障害児の生活経験が豊かになり、個々の生活能力も高められるのではないでしょうか。普通校では障害者に対する理解を深めるために当事者を招いて講演会を開催したり、ボランティア活動が行われたり、障害者と接する機会も増えているようです。しかし、啓蒙や一時的な交流だけでなく、健常児と障害児が教育環境を共有できるよう統合教育を目標とする体制が推進されなければ根本的な解決にはなりません。
 新宿区では保母を削減し、障害児の対応は非常勤職員で対応しようとする動きがあり、現場では反対の署名運動も起きました。区の財政難が障害児の支援を後退させ、マンパワーの拡充を求める現場との認識の違いが改めて露呈されたのです。人件費の予算措置に際し、行政はニーズを把握した慎重な姿勢が求められ、また、未組織者の家族に対する情報提供も、入園手続きを機会に接する身近な窓口である行政側が担う重要な役割でしょう。
 障害児を持つ家族は、社会参加を望み、地域の支援体制の充実を願う障害当事者と同じように、統合教育や地域との交流を切望しています。多くの仲間とふれあいながら生活を豊かにしていきたい、当事者も家族もその願いは同じです。いろいろな力を身につける発達の途上にいる障害児は、保護者であり介助者でもある親との結びつきが強く、家庭以外の場から受ける刺激に期待が寄せられるのは、そうした親子の関わりの影響も大きいといえるでしょう。学校で過ごす時間が生活の大半を占めている子供にとって、学校での学習や行事、交友関係が小さな「社会」であり、家族の声は「ノーマライゼーション」の訴えそのものです。卒業後の進路を決める時に地域とのつながりがにわかに問題になるのではなく、幼い頃からの日々の生活の連続に障害当事者の主体的な社会参加があるのです。

第5章 昼間の活動

 社会の一員として労働し、所得を得て経済的に自立したり、趣味や習いごと、あるいはボランティアなど自分の興味に応じて職場以外に拠点を持ったり、就学を終えて社会人になるという節目は生活に大きな変化をもたらします。社会的な活動への参加が人を成長させ、生きがいを与えるといっても過言ではないでしょう。
 しかし、進路の選択肢も限られている障害者は就労の問題ひとつを考えても厳しい現状があり、一般就労が困難な障害者には、家族や当事者の社会参加への意欲が原動力となって作業所や通所施設が開設されてきました。「充実した時間を過ごす場」を作り上げるために試行錯誤が繰り返されていますが、作業所は単に労働の場として捉えるのではなく、自立プログラムの視点から本人の能力を引き出し、生活の質(QOL)を高められるような支援が必要です。日中の活動は、地域に根をはり積極的に生きていこうとする障害者を取り巻く多種多様な社会資源を視野に入れて展開されるのが、本来の在り方といえるのではないでしょうか。仕事を与えて決められたルールに沿って1日を過ごすよう「指導」し、いちばん理解があるのは自分だと思い込む周囲の謝った認識が、本人の適性を封じ込めているかもしれません。生活を支えるのに十分な所得の保障、当事者のニーズに沿った制度利用、自己表現を豊かにする芸術・文化活動など、情報の切り口は際限なくあります。
 本人の持つ力が最大に生かされ、より良い状況へと努力し、そして新たな可能性に挑む。それが、どんなに重い障害を抱えていても手にすることのできる「自立生活」です。いうまでもなく障害が重度であるほど支援者の援助の質が問われ、そのノウハウの少なさは否めません。しかし、失敗を恐れない前向きな当事者の姿とエンパワメントを基本とした支援の積み重ねが、他の誰のものでもないその人らしい生き方に結びついていくのです。§作業所に通っている人が多かった

§障害によって違います/ライフスタイルに見合う作業内容

§重度障害者にも働くチャンスを

§一万円以下が大多数

§働く意欲はあるんだぞ!

§生活できる年金を

§カルチャーメニューの多様化を/若い人ほど自立プログラム

§いろいろな余暇を楽しみたい

§もっと利用したい

§街を切り拓く

Point

就労をめぐる問題

 昼間の通い先を尋ねたところ、福祉的就労や通所・訓練施設に通っている人が一番多く、234人(66%)でした。あわせて通所先の満足度を確認したところ、63%の人がほぼ満足しているという回答でした。一方で、なんらかの不満を感じる理由としては、「給料が少ない」、「作業内容が合わない」という回答が目立ちました。生活の質をより高めていくためにも、こうした点の改善が求められているといえるでしょう。
 また、一般就労している人も62人(17%)と、私たちが当初予想していたよりも多い結果でした。さらに就労したいと考えている人も53人いました。こうした声を生かしていくためにも、一般企業での障害者の雇用枠の拡大、新宿区障害者就労福祉センターなどでの受入れ先の拡充が求められています。

生活を支える収入

 福祉的就労による収入を尋ねたところ、1万円未満の人が121人と、全体の4分の3を占めていました。こうした状況では、生活を支えるために、年金や手当に頼らざるを得ないといえます。年金・手当の受給状況を確認したところ、手当では心身障害者福祉手当が、年金では障害者基礎年金がもっとも多く見られました。障害や収入によって受けられる年金・手当は異なりますが、収入源の中心となっていることが理解できます。
 また、こうした年金・手当の管理者を尋ねたところ、半数近くは本人が管理していました。一方で、親が管理しているという方も30%いました。本人の自己決定を尊重していくためにも、収入をめぐる問題は、こうした管理面も含めて考えていかなければなりません。

デイサービス・余暇の過ごし方

 デイサービスの満足度については、半数以上の方がほぼ満足しているという結果でした。しかし他方で、利用できる回数が少ないという不満が多くあげられており、サービスを提供する施設の増設や、利用枠の拡大が求められています。
 また、余暇時間を利用して学びたいことを尋ねたところ、パソコン・ワープロが最も多く、ついで料理・手芸・工芸、スポーツ、といったものがあげられていました。こうした一般的なメニューに加えて、金銭管理・外出・対人関係、調理など、といった、自立プログラムに含まれる内容も多く回答されていました。創作活動事業の充実はもちろんのことですが、作業所などにおいても単に仕事に従事するだけにとどまらず、自立プログラムを取り入れながら多面的な関わりをもっていくことが求められていると言えるでしょう。

作業所に通っている人が多かった

 第1表は昼間の通い先について質問しています。障害者の昼間の通い先として考えられるのが福祉的就労ですが、やはり「福祉的就労」と回答した方が126人と最も多くなっています。次いで「通学・訓練等」と回答した方も108人と多くいました。「一般就労」と回答した方は62人おり、比較的多いことが伺えました。
 昼間の活動に参加することは、新しい経験ができたり、様々な人とのつながりという大きな利点があります。
障害によって違います 
 「作業所も定員を増やして希望する人は一人でも多く入所出来るようにして欲しい」(44歳・男)という声もあるように、 利用者を障害や年令等で制限するのではなく、その人の抱える障害の程度や状況に応じた活動の仕方や参加する環境を、より整備していくことが強く望まれます。

第1表 昼間の通い先内訳
総数:373人
通い先 人数
一般就労 62人(18%)
福祉的就労 126人(35%)
通所・訓練・通学等 108人(31%)
特に通ってはいない 56人(15%)
無回答 21人(6%)

障害によって違います

第2表 昼間の通い先(障害別)
総数:240人
障害別 一般就労 福祉的就労 通所訓練・通学等 特に通ってはいない 無回答
肢体不自由    13人 19人 44人 17人 7人
視覚障害 29人 22人 16人 29人 4人
聴覚障害 52人 10人 10人 21人 7人
内部障害 20人 20人 17人 29人 14人
知的障害 14人 36人 46人 - 4人
精神障害 3人 87人 3人 5人 2人

 昼間の通い先を障害別で表したのが第2表です。「通所・訓練」では肢体不自由が44%、知的障害が46%と高く、「福祉的就労」では精神障害が87%と他の障害と比較しても高い割合が見られました。また、「一般就労」では視覚障害、聴覚障害、内部障害が高い割合を示しており、障害によって昼間の通い先の違いが見られます。
 「特に通っていない」と回答したなかでは肢体不自由、これに次いで視覚障害が多いという結果となっています。「特に通っていない」人たちの年齢や障害などは様々で多くの要因が考えられますが、肢体不自由者や視覚障害者は、移動の困難性も要因の一つとして挙げられるのではないでしょうか。

ライフスタイルに見合う作業内容

 第3表は、通所先の満足度を尋ねた結果です。
 昼間の通所先に対して131人が現在の通所先に「満足」「やや満足」であるという回答が出ており、利用者の通所先についてはある程度満足していることが伺えました。
 一方で「不満・やや不満」と回答した人は46人でした。「不満・やや不満」と回答した人にはさらにどのような点に不満があるのか尋ねました。
 ハード面に関する不満では、「設備が不十分」8人、「作業所が狭い」7人という点が多くあげられていました。こうした不満を訴えていた人は、公立の作業所の通所者が多くみられました。ソフト面での不満は、「給料が少ない」15人、「職員が少ない」9人、「作業内容が単純」9人といった回答が目立ちました。こうした作業内容に関するような不満は、公立、民間に関わらず、一律にあげられていました。
 作業内容に関するようなソフト面の不満が多いことから考えると、通所者の作業内容が、その人自身に必ずしも見合うものではないということが現れているのではないでしょうか。

第3表 通所先をどう感じるか
総数:208人  満足している回答者:63%
人数
満足 79人(38%)
やや不満 52人(25%)
不満・やや不満 46人(22%)
どちらとも言えない 27人(13%)


通所先への不満内容
総数:94  複数回答:3つ 
不満内容 人数
ハード面の不満 通学バスがない 1人(1%)
利用者用の休憩室がない 4人(4%)
駐車場がない 4人(4%)
作業室が狭い 7人(7%)
設備が不十分 8人(8%)
ソフト面の不満 作業内容が難しい 1人(1%)
職員の対応が悪い 2人(2%)
人間関係の不和 2人(2%)
作業時間が長い 2人(2%)
プライバシーが守られていない 3人(3%)
通所バスの本数が少ない 4人(4%)
通所時間がかかる 5人(5%)
職員が少ない 9人(10%)
作業内容が単純 9人(10%)
自分に合った仕事がない 9人(10%)
給食がない 9人(10%)
給料が少ない 15人(16%)

重度障害者にも働くチャンスを

第4表 就職を希望しているか
総数:373人
就職したい 53人(14%)
否定的に捉えている回答層 就職できない 140人(38%)
わからない 44人(12%)
無回答 136人(36%)


回答数:188  複数回答:3つ 
一般就労できない理由 人数
障害が重いため 89人
受け入れる職場がない 41人
自分に合った仕事がない 23人
人間関係が難しい 14人
就労時間が長い 7人
労働条件が不十分 5人
通勤の手段が確保できない 4人
給料が少ない 2人
通勤時間がかかる 1人
プライバシーが守れない 1人
家事・育児等 1人

 第4表は就職を希望しているかを尋ね、さらに「就職できない」と回答した人にその理由を尋ねた結果です。就職を希望しているかという質問に対し「就職したい」と明確に意思表示をした人は、373人の回答者のうち53人にすぎませんでした。残りの約50%の人は就職に対して「就職できない」や「わからない」と否定的にとらえている人が多く見られました。
 「就職できない」と回答した人にその理由を尋ねると「障害が重いため」と回答した人が140人のうち89人と多く、次いで「受け入れる職場がない」と回答した人は41人もおり、障害が重度であるため就職できないと感じている人の多いことが浮き彫りになっています。
 新宿区にある福祉ショップスイングでは、ジョブコーチ*1が援助することで重度障害者でも売り子として働いています。「福祉ショップスイング開店当時は障害者とふれあったことのない人達が多く、回を重ねる毎に違和感もなくなり、『頑張って』と声を掛けられるようになり、子供たちも当番がくるのを楽しみにしています」(24歳・男)という声もよせられています。職場と障害者の橋渡し的な役割を中間に置くことで、重度障害者でも働くことは十分に可能なのです。
 障害者が就労できる環境づくりを企業や行政を含め、地域が積極的に考え、障害者を受け入れる体制作りについて真剣に取り組んでいく必要があります。1:ジョブコーチ
 障害を持つ人が一般企業や福祉作業所等で就労する際に、当人と一緒になって職場に出向き、技術や対人関係等を援助する人。

1万円以下が大多数

 第5表は作業所や福祉的就労をしている人の収入状況を表したものです(年金や手当等は含まない)。働いて収入を得たいという思いは誰にでもありますが、1万円未満の収入に回答した人は全体の74%を占めています。第3表の「給料が少ない」と不満回答した人の収入面を調べた結果、、2万円以下の人が占めていることがわかりました。
 給料として得ている金額が低くなってしまうのは、様々な障害に合わせた活動のため、生産性の面で非効率にならざるを得なかったり、内職的受注生産の仕事がほとんであることが影響しているのではないでしょうか。
 それでも無認可の作業所は増加の傾向にありますが、これは卒後の障害者の受入先が少ないということがその背景に存在するからではないでしょうか。
 こうした民間の作業所は厳しい運営を強いられています。通所者の低収入の裏側にはこうした運営側の苦悩も存在するのではないでしょうか。

第5表 福祉的収入
総数:162人
人数
1万円未満 0円 34人(20%)
5千円未満 53人(33%)
1万円未満 34人(21%)
1万円以上 1万5千円未満 6人(4%)
2万円未満 12人(7%)
2万5千円未満 7人(4%)
3万円未満 3人(2%)
3万5千円未満 3人(2%)
4万円未満 2人(2%)
4万5千円未満 1人(1%)
5万円未満 1人(1%)
5万円以上 6人(1%)

働く意欲はあるんだぞ!

 第6表は福祉的収入の状況を障害別に表したものです。これを見ると肢体不自由の0円と、精神障害に「5千円未満」と回答した人が多いことが分かります。視覚障害では、鍼・灸などの専門的な職業の人が多いためか、比較的高収入を得ている人もいます。
 精神障害児・者の人達は、肢体不自由児・者と比較してみても明らかに福祉的収入が0円の人が多くなっています。ここから浮き彫りになるのは、単に収入が少ないということではなく、働く場所そのものが限られていることが考えられます。
 精神障害児・者のこうした状況の背景には、平成5年に法的に障害者と認められたにもかかわらず、社会での認識が薄く、対応について積極的に考えられていないのではないかということが考えられます。
 「労働場所の確保、就労所の充実を」(精神障害・46歳・男)という声に表れているように、働く意欲があるにもかかわらず、社会の側がその声に応えられていないという現実が現れています。第6図 福祉的収入(障害別)

生活できる年金を

第7表 年金の受給状況
総数:359 複数回答:3つ 
年金種類 人数
障害者基礎年金 55%
厚生年金 14%
生活保護 10%
国民年金 9%
遺族基礎年金 4%
心身障害者扶養年金 3%
老齢基礎年金 2%
老齢年金 2%
老齢福祉年金 1%
付加年金 0%


第8表 手当の受給状況
総数:254 複数回答:3つ 
年金種類 人数
心身障害者福祉手当(新宿区) 48%
重度心身障害者手当(東京都) 17%
特別障害者手当(国) 8%
高齢者福祉手当(新宿区) 6%
特別児童手当(国) 4%
児童育成手当の障害手当(新宿区) 3%
児童育成手当の育成手当 2%
障害者福祉手当(国) 2%
児童扶養手当(国) 1%

 第7表は回答者が受けている年金の受給状況を表しています。年金では、55%の人が「障害基礎年金」を受けていました。受給している年金によって、受給額は異なっていますが、例えば「障害基礎年金」の場合は1級の人の月額でさえ8万3千円程度の収入にとどまっており、生活保護が定めるところの最低生活費にも満たない金額です。障害者が就労による賃金収入を得るのが難しい現状では、生活の基盤となるのは年金ですが、この金額では地域で自立した生活を営むことは到底不可能だといえます。
 また、第8表は回答者が受けている手当ての受給状況を表しています。手当では心身障害者福祉手当が48%と最も多くの人が受けていました。手当は障害を抱えている人が日常生活を営むために、生活基盤となる所得を補完するものとも言えます。「心身障害者福祉手当」は、働く場所も少ない精神障害児者の受給が未だ認められておらず、早急な拡充が必要です。
 「心身障害者福祉手当と障害者基礎年金を持っているけど足りないのでもっと増やしてほしい」(61歳・女)といった声もあるように、就労による所得が見込めない障害者にとって、年金・手当の充実は生活の広がりに直結する問題です。

カルチャーメニューの多様化を!

第9表 余暇時間に学びたいこと(障害別)
肢体不自由 視覚障害 聴覚障害 内部障害 知的障害 精神障害
調理・被服・住居 15 5 - 2 24 15
金銭管理・外出・対人関係 16 2 - 1 22 12
介助サービス・社会保障・福祉制度 11 3 3 1 5 5
算数・国語などの基礎的学習 4 1 4 - 5 4
ワープロ・パソコン 42 12 5 4 11 12
英会話等の語学 5 2 2 2 - 10
料理・手芸・工芸・美術・茶道・華道 29 6 8 5 12 13
テニス・水泳などのスポーツ・ダンス 20 9 6 5 23 10
ピアノ・ギター・歌などの音楽 16 7 1 4 8 7
その他 8 1 1 - 5 4

 第9表は余暇時間を利用して、どのような事を学びたいか尋ねた結果を障害別に示したものです。最も多かったのは「ワープロ、パソコン」、それに次いで「料理・手芸・工芸等」「テニス・水泳等スポーツ・ダンス」が多くなっており、カルチャー講座的なメニューを志向している事がわかります。「パソコン・ワープロ」の希望者は肢体不自由と視覚障害が多く、情報の収集と自己表現の手段としてこうした機器の活用を望んでいるのではないかということが考えられます。知的障害ではスポーツの他に「調理・被服・住居の管理等家庭生活技術に関する自立に向けた学習」「金銭管理・外出・対人関係等社会生活に関する自立に向けた学習」が多く、生活能力を高めるための自立プログラム的なメニューを志向する様子が伺えます。
 障害によって、それぞれの立場から志向するメニューは様々なものがあります。求められているような講座は現行でもいくつか存在しますが、講師が題材を教えるだけで介助者のいない一般の講座では障害者は参加を躊躇せざるを得ません。様々な内容のプログラムを学べる場を作っていくと共に、介助者を配置するなど学びやすい環境作りも重要です。
 新宿区では、新宿区立障害者センターでの編み物やマクラメ、陶芸等の創作活動、パソコン教室、料理講習会、コズミックセンターでの水泳教室、知的障害者を対象にした新宿青年教室など障害者向けの講座が多様に開催されています。介助者が配置され、きめ細かな対応を確立する事で、こうした講座が実現し障害者の生活の幅を広げることができるのです。

若い人ほど自立プログラム

 余暇時間に学びたいという質問について、選択肢として挙げられていた調理・金銭管理・介助サービスをまとめて「自立プログラム*2」、基礎的学習・ワープロ・英会話等の語学をまとめて「勉強」、そして、残りの項目を「趣味」として3つに区分して、年齢による傾向をみたものが第10図です。年齢では20歳未満と20歳から39歳以下の層に同じような傾向があり、ともに自立プログラムを強く希望しています。幼い頃からの障害のため、あるいは親の高齢と親亡き後を懸念しての結果であることが伺え、「周囲への依存を減らし、生活を自己管理できるように」という自立への思いが表れています。
 40歳から64歳では趣味としてのメニューが特に多く、65歳以上の高齢者も含め、余暇の充実に対して意気盛んです。2:自立プログラム
 障害を持つ人が、地域で生活をしていくための技術を実践を通して学ぶこと。自分のできないことを障害の程度に応じて認識し、習得・学習する場でもある。

第10表 余暇時間に学びたいこと(年齢別)
総数:407人 複数回答:3つ 
年齢 自立プログラム 勉強 趣味 その他
0~19歳 22人 10人 24人 0人
20歳~39歳 48人 37人 49人 5人
40歳~64歳 38人 55人 74人 7人
65歳以上 8人 10人 15人 5人

いろいろな余暇を楽しみたい

 第11表は昼間の通い先別での3項目の傾向を見たものです。特徴的なのは、福祉的就労や通所訓練に携わっている一般就労が困難な人たち、また、学齢期にある人たちが、自立プログラムを多く希望している点です。
 「企業で働き規則的な生活をおくる」というような健常者型のライフスタイルとは別の形で、社会的な経験を積むことに積極的な姿勢がうかがえます。
 また、通い先の違いにかかわらず多くあげられていたのは、趣味的なメニューでした。余暇を楽しみたいという思いは障害があるなしにかかわらず誰もが持つものなのでしょう。
 自立プログラムは、障害をよく理解した経験豊かな職員の日常的な厚い支援が必要であり、また、同じ障害をもち、同じような悩みを経験してきた、よき相談者の手助けも必要です。こうした介助者を配置するなどの充実した対応ができなければ、要望に応えようとしても利用者に見合う形でのサービスは行なえません。

第11表 余暇時間に学びたいこと(通い先別)
総数:423人 複数回答:3つ 
通い先 自立プログラム 勉強 趣味 その他
福祉的就労 60人 51人 65人 4人
通学・通所 44人 26人 42人 6人
一般就労 12人 25人 40人 5人
通ってない 8人 12人 20人 3人

もっと利用したい

第12表 デイサービスの満足度
総数:140人  満足している回答者:83%
人数
満足 83人(58%)
やや不満 35人(25%)
不満・やや不満 17人(12%)
どちらとも言えない 7人(5%)


デイサービスへの不満内容
総数:17人 
不満内容 人数
利用できる回数が少ない 35%
サービス自体の質が低い 12%
サービスを提供する職員の質が低い 12%
設備面が利用しにくい 6%
受けたいメニューがない 6%
その他 29%

 デイサービス*3の満足度を尋ねた結果、80%以上の人が「満足」「やや満足」と回答しており、満足度の高さが伺える結果となっています。第12表ではデイサービスの「やや不満」「不満」と回答した人にさらにその理由について尋ねた結果です。
 「やや不満」「不満」と回答している人の不満内訳を見てみると、「利用できる回数が少ない」と答えている人が35%と最も多く見られました。それ以外の項目はそれぞれ10%前後と、人によってまちまちの不満が出ていました。
 「リハビリを週一回、午後のみですが、できれば週2~3回くらい受けたいと思います。」(身体障害42歳・男)といった声に現れているようにサービスを受けたい人がいても、利用者が多いために充分なサービスを提供できていないのが現状のようです。3:デイサービス
 在宅の高齢者、障害者に対し施設等に通って、施設内の設備を利用して入浴、給食、リハビリなどのサービスを行うこと。

昼間の活動  街を切り拓く  課題と展望

 昼間の活動と一口にまとめれば簡単ですが、障害の違い、年齢の違い、知識、技能、性格……など、抱えている要件で活動も多様化してきます。例えば活動の場の拡大として、障団連では第2福祉センターの建設を提唱していますが、新宿区立障害者福祉センターのカルチャーやデイサービスは、利用者が一杯で、応募しても新規の利用ができない状況にあり、新たな活動場所の設置は至上課題と言っても過言ではない状況です。また、平成5年の障害者基本法制定で、精神障害者は正式に障害者としての位置付けがなされながら、未だに制度が立ち遅れている現状があります。一般就労が困難な人は作業所等福祉的就労が中心になりますが、区内には精神障害者の公立の作業所が未だ存在しません。民間の小規模作業所には東京都の施設借上げ費助成制度などもありますが、金額的には更なる充実が望まれています。このように多様な形態が要求される障害者それぞれの昼間の活動に対応することや、上記のような精神障害者の作業所の実現も含め、総合的要素を盛り込んだ福祉センターを早急に設置し、対応を図る必要があります。
 また、昼間、作業所や通所施設に通う重度の障害者は、土・日曜日など施設が休みの場合、大概は家族の元で過ごすことになり、家族の負担もさることながら、一日中家にこもっていたのでは、社会参加から遠ざかる結果になってしまいます。そうした時間を補うため、ガイドヘルパー事業やレスパイト事業などの充実もまた欠かせません。レスパイト事業は、昼間の介助を他人介助者に預ける仕組みで、利用する障害児・者は、親以外の介助を受けることで経験を獲得したり、余暇時間を充実させることができ、また家族自身の休息や社会参加にもつながります。しかし、現在行われているレスパイト事業は利用者が一杯で、必用な時に利用ができないこと等、問題が多い現状です。職員体制や予算的問題など様々な制限があり、現行の施策ができうる範囲で実施されていることは事実でしょう。しかし、例えば現行の学童保育施設などの既存施設で、障害者を受け入れられるよう環境整備しながら体制を組みたてていくなどの工夫をすることで、更なる拡充は充分可能ではないでしょうか。
 活動の場所の確保、利用しやすい環境を整備することと平行して、受け入れる施設側の「エンパワメント」も要素として含まれていかなくてはなりません。エンパワメントとは、利用者がより良い生活を確保するために必要な働きかけの在り方をさしています。単に受け入れ、サービスを提供するのみではなく、意識した働きかけを行なうことで、これまでよりも昼間の活動が利用者にとって生きがいのある成長の場となることでしょう。また、エンパワメントを実現していくには豊かな経験を積んだ介助スタッフが必要ですが、現行の身分保証制度では、民間施設などにおいて経験豊かなスタッフの流出を避けることが出来ません。福祉従事者の身分保証の充実もあわせて図り、より高いレベルでのエンパワメントを実現していくこともまた、至上課題です。これらの要素はどれ一つ欠けても障害者の日中の活動を不充分なものとしてしまいます。▲戻る


主題:
住み慣れた街の声 障害者問題における地域福祉の在り方調査・研究 No.3
57頁~80頁

編集発行者:
新宿区障害者団体連絡協議会

発行年月:
平成11年(1999年)3月

文献に関する問い合わせ先:
新宿区障害者団体連絡協議会
〒162-0052
東京都新宿区戸山1-22-2
新宿区立障害者福祉センター内 障団連オフィス
電話03(5285)4333