音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

講演2

「障害インクルーシブな防災の実践に向けて~別府市における"誰一人取り残さない防災"~」

村野淳子 別府市共創戦略室防災危機管理課 防災推進専門員

はじめに

皆さん、別府市をご存じでしょうか。九州の大分県にあります。湯布院のほうが有名かもしれませんが、別府市の方が温泉は豊富に出ています。

私は2年半ぐらい前から、別府市で仕事をしていますが、その前は約15年間、大分県社会福祉協議会で仕事をしていました。社会福祉協議会の職員として、災害が起こりますと被災地に出向いて、被災された方の生活支援をずっと行っていたという関係から、災害支援活動を行うようになりました。

社会福祉協議会で勤めていますと、同じ会館の中で、車いすバスケットをしに来たり、盲人卓球しに来たり、障害のある人と日々当たり前のようにお会いするのですが、災害が起きて被災地に行くと、なかなか出会うことがありません。これはどういうことなのかと考えたのが、今の活動を行う最初のきっかけかなと思います。

現在、私は市役所にいますが、インクルーシブな防災ということで、障害当事者の方を中心とする市民団体と協働しながら、別府市はこの問題に取り組んでいるところです。障害当事者の方には、会合などの講師として、地域の方々に災害の問題をご自身のこととしてとらえてもらう講義をしていただいたり、パネラーとして出ていただいたり、そういう形でずっと付き合っていただいています。

別府市の条例について

別府市では、「別府市障害のある人もない人も安心して安全に暮らせる条例」が、2014年4月1日に施行されています。障害者の差別禁止条例に当たるものです。

「福祉フォーラムin別杵速見実行委員会」という市民団体と一緒に、別府市ではこの条例を作るための活動をしていたのですが、特に千葉県で条例ができて以来、みんなで勉強会をしたり、また障害者がどんなときに差別を受けたと思うかを尋ねるアンケート調査もしてきました。

そして別府市としては、親なきあとの問題と、防災について、特に取り入れていこうと話を進めているところです。

「福祉フォーラムin別杵速見実行委員会とは」別府市「ともに生きる条例」について

この条例ができてから、行政はいろいろなことに対応していかなければなりませんが、その中で、障害当事者が、条例を実施するためのバックアップをできるのではないかと話し合いました。

条例の第12条に「防災に関する合理的配慮」というのがあります。私は今、これを具体化するための活動を、別府市でしているところです。

障害当事者の声と役割

障害当事者は、条例を実施するために何ができるのでしょうか。障害といっても、視覚障害、知的障害、聴覚障害など、さまざまです。このことはなかなか理解されません。当事者はどんなことに困っているのか、災害時にどんな支援を希望しているのか、具体的に明らかにしようと、皆さんに集まっていただき、会議で議論していただきました。知的障害の方の親御さんや、盲導犬協会の会長さんも含めて集まっていただき、議論の成果については報告書を作り、提言という形でまとめせていただきました。

その中で大事にしているのは、障害者や、保護者の生の声をきちっと伝えていくことです。そして当事者を含む皆さんで研修を受けた中での方向性として、災害時における要援護者の支援は、障害者、高齢者等を取り巻く日常的な地域づくりなくしては、実現できないということが、一致した見解として出てきました。

5つのポイント

この話し合いの中で、取り組みにあたってのポイントが5つ挙げられました。

1つ目は、要援護者名簿の作成とその情報共有のあり方です。

2つ目は、個別避難計画の重要性とその作成に向けての課題です。

3つ目は、自治会、民生委員、自主防災組織の役割と新たな地域づくりの必要性です。「新たな」というのは、高齢者が非常に多い地域の現状で、はたして支援活動が展開できるのかどうか、もう少し具体的に考えたほうがいいんじゃないかということです。

4つ目は、福祉避難所をめぐる諸問題です。福祉避難所という言葉がありますけど、本当に機能しているのかというようなことです。

5つ目は、避難行動要支援者連絡会議の意義とその運用のあり方です。個別計画を具体的に作っていくためには、連絡会議を立ち上げて、きちっと機能させようという話を皆さんでしていました。

報告書から(1)報告書から(2)

地域における仕組みづくり

別府市には7つの地域包括支援センターがありますが、高齢者については、各居住地といいますか、生活エリアで、ある程度情報が共有できています。厚生労働省は、地域包括ケアシステムというものを使って、高齢者等を地域のいろんな資源とつないで、その中で課題を見つけて解決していく取り組みを進めています。ところが障害者は、福祉関係者や、支援者等とはつながっていても、地域とはつながっていません。厚労省は地域包括ケアシステムを高齢者中心に進めていますから、この言葉が適切なのかはわかりませんが、このシステムの中に障害者も入れて、ある程度、地域の中で情報共有をして、その中でお互いに助け合えるような仕組みを作っていこうと考えています。

別府には立命館アジア太平洋大学があり留学生も多いですし、今は子どもの問題もありますよね。そのような地域の課題を地域の中で取り組むことが必要です。なぜ地域にこだわるかというと、災害は人に起こるのではなくて、その地域の災害リスクによって起こります。津波エリアの場合もありますし、土砂災害に見舞われる地域もあります。地域によって災害リスクが違うわけですから、それに備えてみんなで情報共有し、助け合える仕組みを作らないといけないと思っています。別府市では被災者生活支援相談窓口というものを作ろうとしていますが、ここには日常的に包括支援センターの各エリアからいろいろな課題が集まってくるようにします。またここには多種多様な能力のある支援者たちがいらっしゃって、集まってきた課題をきちっと解決につなげます。解決ができなければ、例えば市外などから支援を募ります。このように、集まってきた情報を、それぞれの関係機関が日常からネットワークを作って支援を行う仕組みを作ろうとしています。ですからこれは災害時だけではなくて、日常にも有効に使えると思っているのですが、そのネットワークを進めるための役割を今担っているところです。

市民を支える支援の仕組み(案)被災者生活支援相談窓口と、各地域包括支援センターネットワーク

別府にある7つの包括支援センターの下に、17地区・自治会があり、その下に145自治会の地区があって、各地区から順々に情報が上がっていく仕組みを作ることを考えているのですが、情報としては、7つぐらいのエリアで、なんとかまとめていける仕組みをつくりたいと、働きかけているところです。

個別計画と訓練の実践

このような仕組みを目指しながら、障害者の方の個別計画の作成や、障害者を含む地域の避難訓練を、具体的に実践してみることも行っています。スライドは、平成29年1月15日の避難訓練の写真ですが、この前の年に、熊本地震がありましたよね。4月14日に前震があって、16日に本震がありましたが、別府も16日には震度6弱を経験しています。ですので地域も混乱していまして、そのあとほとんど自治会が機能していませんでしたから、地域に入って計画を作れるようになったのが12月です。12月からの1か月の間で、22人の個別計画をとりあえず作りました。このときは、地域で支援するのは5人だけでお願いしたいと言われました。自分たちがマンパワーとして全部行えるか分からないということで、5人だけを支援し、あとは関係者で支援を行いました。ここに至る状況を動画にしていますので、ご紹介します。

(動画の紹介)

古市町避難訓練(1)古市町避難訓練(2)

地域との話し合いを何度も重ねていきました。自治会長さんは、一番先頭になって理解し、賛同してくれました。障害の方22人が、このとき初めて地域での訓練に参加をされました。これが1年目です。

この方が14自治会の自治会地区会長さんですが、2年目は、相談支援専門員さんに個別避難計画を作成していただいて、17人の障害者の方と一緒に訓練を行いました。

このときは全体で200人が参加をしました。先ほどロープで車いすを引っ張る映像がありましたが、1年目は急遽行ったためロープが自分たちの手に合わなかったということで、2年目には自分たちでロープを買って準備されていました。

また今回は、知的障害があって、ご自分では危険を認知できない方がいらっしゃったので、リヤカーに毛布を巻きつけて、避難訓練をしていただくとか、調整会議でご本人の支援をどうするのか自治会の方々と話し合う場もあり、本当に皆さんたちが一緒に避難するということを心がけていただいています。

地域の方が一番気にしていたのは、「このようなご本人の個人情報をもらっていいのか」ということでしたので、私たちとしては「確認書」というものをお付けしています。これは、ご本人自身が、自分の住んでいる地域にどんな災害のリスクがあるのか確認し、それに対して具体的にどんなことを備え、足りなかったことは自分で準備し、いざというときに私はこういう支援が必要になるので、地域の方にはその支援をお願いしますということを確認する内容です。国立障害者リハビリテーションセンター研究所で作っていらっしゃる、障害者の備えのキットを使っているのですが、これによって、当事者が自分のことを知り、それが言えるようになることが一つと、日常から周りにいる人との関わりを積極的にもって、この情報を皆さんと共有することへの同意を示すものです。これを書いていただいて、皆さんたちに実際に訓練に臨んでいただいています。

またこのことを通じて、当事者や地域力のアセスメントをし、具体的に災害時のケアプランをどう作ったらいいのかも見据えています。地域と調整会議を行い、今回はどのようなプランを作って訓練に臨みましょうかということを話し合います。そして避難訓練をやってみて、不都合があった場合は、あとからそれを変えることもありますし、ご本人の意見も聞いてみるというふうに進めています。

災害時に私に必要な確認書個別支援計画とともに行っている事業

地域でのネットワークづくりと研修

東日本大震災や熊本地震で、東先生などがされた取り組みを見ていると、やはり災害が起きたあとに、地元の障害者団体などいろいろな人がネットワークを作り、一生懸命支援しています。私たちは、そういう教訓を基に、日常から地域においてそれぞれが安否確認をしたり、ニーズを把握できるようなゆるやかなネットワークを作ろうということで、準備会を始めています。1月19日には、関係者の方々と、安否確認ネットワーク設立総会を開こうとしているところです。

それから施設等でも、施設にいらっしゃる方や職員の命を守れるのか、また自分たちに余裕があったら、困っている人を受け入れることができるのかを確認するために、事業継続計画を作成していただくことも、一緒に取り組んでいます。

福祉避難所と言われている協定は具体的な協議を行っているわけではありません。ですので、それぞれの施設が、どういう状況であれば、福祉避難所として被災者を受け入れられるのかを確認いただき、余裕があれば受け入れていただきたいなと考えているところです。

もう一つは、防災と地域づくりを考える研修会を、自治体等と話をしながら開いています。例えば、今行っているお祭りは本当に地域に必要なのか、もしかすると、地域の課題を考えれば、お祭りをするより配食サービスをしたほうが、地域が継続していくためにはいいのではないか、というような見直しであったり、その他会議の見直し、役の見直しなどについて、専門家の方に来ていただいて、地域の在りようが今の現状に合っているかを考える勉強会をしています。

そうした事業を通じて、毎年報告書を作成するとともに、1年間に20分ぐらいの動画を作って、それを他の地域でも一緒に取り組んでいただけるよう、お伝えしています。

さらに、サービス等利用計画を作っている福祉関係者に、災害時のことを知っていただくため、同志社大学の立木先生に来ていただいて、勉強会を行っています。専門職の方々に対しては、人と防災未来センターで、災害時ケアプランコーディネーター養成研修というものがモデル的に始まっています。

避難所に関する取り組み

もう一つ、避難所についての動画がありますのでご紹介します。今年度、避難所を運営する訓練について、地域との調整会議をどう行っているのかを、ご覧いただきます。

(動画の紹介)

北部中学校というところが、亀川地区の避難所になっています。この中学校で、知的障害のあるユミちゃんが、どのように避難するのかについて、地域の方々と話し合っていただく場を持ちました。

彼がユミちゃんの相談支援専門員の首藤さんという方です。いつも彼が寄り添って、一緒にこの親子の伴走をしてくださっています。

これは一例なんですけれども、このような形で地域の方々と、実際に話し合うことによって、どうすればいいのかというイメージを持っていただきます。

このあと避難所運営訓練を行いましたが、ユミちゃんは、個別のお部屋を準備しても、何かあったときに、結局騒然とした中ではなかなか行動ができません。だったら事前にどうやって対応できるように準備していくのかということを、今実際に取り組んでいるところです。

このようなことを、一つのところから始めていって、市内のそれぞれのところで、少しずつできるように、進めているところです。

さいごに

先ほど東先生から、サービスとつながっておらず、自分の情報を開示していいと言っていない方にどう対応するのかという話がありましたが、それは次の課題だと思っています。まずはできるところから、少しずつ進めていっているというのが別府市の状況です。

「いつ」「なにを」「だれが」行うか… とるべき行動や行動時間、各地域の役割を、細部にわたって協議し、決定していくということに、今別府市では取り組んでいます。そして安心して安全に暮らし続けられる別府市を目指しています。そのためには、最初にありましたように、地域づくりと人づくりを丁寧に行っていかないと難しいと考えています。誰一人取り残さない防災をテーマに、具体的には、障害当事者の方々を中心とする福祉フォーラムという民間の団体と、当事者を含む人たちの声とともに、取り組んでいるところです。