音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

障害当事者が参加する
中野区総合防災訓練(東京都中野区)

三宅 隆 中野区視覚障害者福祉協会理事

(1)取り組みが始まったきっかけ

2005(平成17)年9月4日から5日未明にかけて、台風14号の影響による雷を伴った1時間あたり最大降水量66ミリという激しい雨が東京23区および多摩北部の一部地域に降り、多くの家屋などで床上、床下浸水に見舞われた。この水害では、障害当事者も避難できず孤立し、危険な状態も起きてしまった。

今後の災害により、このようなことが再び起こらないようにするため、中野区に障害当事者による防災委員会が組織された。

翌2006年12月、中野区役所西側にあった公園で、障害者防災訓練が実施された。訓練では、大地震発生を想定して、障害当事者の安否確認、避難場所までの同行支援などを実施。参加した障害当事者は身体障害者で車いす利用者のみだったようだ。この年より中野区で毎年行われている総合防災訓練に障害当事者も参加できるようになったようだが、障害当事者団体として参加していた記録が残っていないため、個人でも参加していたのかは分からない。

現在は、中野区の北部と南部でそれぞれの地区町会が順番に訓練担当地域となり、毎年1回、小中学校などを会場として中野区総合防災訓練が行われており、障害当事者団体として中野区障害者福祉団体連合会も参画している。

(2)組織体制

身体障害、聴覚障害、視覚障害などの各当事者団体や、知的障害、精神障害などの家族会など、10団体が加盟している中野区福祉団体連合会と、担当地区の町会ならびに、警察、消防、水道、ガス、電気、医療・介護、車両、民生・児童委員などの関係団体、社会福祉協議会、行政機関からなる中野区総合防災訓練実行委員会が行っている。

毎年8月から9月ごろに開催されていたが、熱中症の危険があることから、今回(2018(平成30)年)は11月に開催された。(写真:2018年訓練の様子)

写真

(3)取り組みの内容

区の北部と南部でそれぞれの地区町会が順番に訓練担当地域となり、毎年1回、小中学校などを会場として防災訓練が行われている。

訓練内容は、初期対応訓練、参加者体験訓練を北部と南部ともに行い、防災関係機関・災害時応援協定締結事業者との連携を深めるための公助連携訓練と、拠点医療救護所開設・運営訓練については北部と南部の地区がそのいずれかを行っている。

初期対応訓練は、初期消火訓練・避難訓練などを、参加者体験訓練は、消火器的当て・起震車体験等や防災関係機関による普及啓発コーナー(パネル展示等)を行う。

公助連携訓練は、応急給水・備蓄物資搬送訓練、道路啓開訓練を行い、拠点医療救護所開設・運営訓練は、災害時の医療解説、負傷者搬送・判定・医療救護訓練、重症者搬送・受け入れ訓練を行う。

また、中野区福祉団体連合会では、視覚障害者の誘導体験、難聴者との筆談体験、車いす体験、知的障害者とのコミュニケーションについてのパネル展示を行った。年によっては、手話体験やオストミーの理解啓発のための展示なども行っていた。

各障害当事者は、体験コーナーに訪れた方への対応をするだけでなく、各訓練コーナーにも足を運び、自身やその家族などが防災や災害時対応についての意識を深めた。

この総合防災訓練は、毎年約2,000名の参加者があり、中野区障害者福祉団体連合会の体験コーナーにも多くの方が訪れる。視覚障害者の誘導体験では、区の視覚障害者福祉協会の当事者が手引きの仕方、段差や障害物といった情報の提供方法をレクチャーし、会場を1周する。体験を始めたときは、肩や肘に力が入っていて、歩き方からも不安感が伝わってくる。誘導される側は、ただ誘導の仕方だけを体験してもらうのではなく、外出したときや生活上での経験談を話したり、まったく誘導とは関係のない話をするなどして、少しでも不安や緊張をやわらげようとする。誘導体験の最後には、今回の体験は災害時に行っていただきたいだけでなく、普段の生活の中でも支援を必要としている人はいるので、声かけとともに実践していただくことをお願いしている。(写真:体験コーナーのデスク)

写真

(4)その他特記事項や考察など

会場が小中学校を主としていることもあり、まだまだバリアフリーになっていないところが多くある。階段での経路しかなかったり、そこかしこに段差があるなど、車いすやベビーカー利用の参加者に不便なところがある。

過去の防災訓練では、当日雨に見舞われ、規模を縮小して体育館など屋内施設で開催しようとしたところ、車いす利用者や救助犬、視覚障害当事者が入れず、グランドに張られたテントで待機したこともあった。

訓練場所となる施設は、実際に災害が起きたときの避難所となるため、早期のバリアフリー化を実現する必要がある。

また、障害当事者も支援をお願いするときは、個々に何ができて何ができないかを整理しておき、必要な支援を伝えることが大切だ。災害という特殊な場面で初めてお互いを知ることのないように、日ごろから近隣の方々とのコミュニケーションも必要である。

ここで紹介した防災訓練は、障害のある方々も地域住民の一員として検討段階から参加している。防災訓練ではこのような取り組みがあるが、まだまだ地域活動に障害当事者がさまざまな場面に参加しているとは言えない。地域や行政などと障害当事者団体が連携を深め、障害当事者も含めた地域活動を増やすことが必要である。