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~震災5年目にあたっての活動報告と提言~ 障害理解をもとに災害に強い強靭な地域づくりを

社会福祉法人仙台市障害者福祉協会
会長 阿部 一彦

東日本大震災前後の取り組みの評価

 宮城県沖地震発生の確率が高くなっているという危機感もあり、仙台市障害者福祉協会では平成17年頃から加入団体等とともに防災・減災に関する取り組みを行ってきた。研修会の開催、備蓄品の準備、総合防災訓練への参加、福祉避難所に関する検討、災害時障害者ボランティアの養成等である。震災発生後、協会では会員名簿をもとに、加入団体、災害時障害者ボランティア等の協力を得て災害時優先電話を使用して安否確認活動を行い、必要な場合には災害時障害者ボランティアを派遣するとともに、3か所の福祉避難所を開設した。また、多くの登録ボランティアの協力も得て、行政等が発行した生活支援情報等を墨字版、点字版、音声版、メーリングリスト版でそれぞれ19号まで発行し、関係団体との情報共有と連携に努めた。これらの取り組みについてはその後の加入団体アンケートによっても評価が高かった。
 しかし、福祉避難所や指定避難所運営等では課題が残った。例えば、福祉避難所が指定避難所利用後の二次避難所として位置づけられていたため、指定避難所に避難できなかった多くの障害者はその存在すら知らなかった。発災直後、市民の10人に1人にあたる10万6千人が指定避難所に押しかけて混乱したため、多くの障害者は避難所に留まることができなかった。そこで、仙台市避難所運営マニュアルが見直され、現在は指定避難所で障害の有無や必要な配慮を避難者カードに記すことが徹底され、避難スペースも配慮されることになっている。

アンケート調査等から見えてきたもの

 当協会では、東北福祉大学や同志社大学との協働で障害者の震災後の生活困難調査(ワークショップ:平成25年10月)等を行った。その後、仙台市在住障害者(3,005名)を対象に平成27年1月に仙台市の協力を得て郵送式調査を行い、1,083名から回答を得た。得られた結果を被害の大きさをもとに検討したところ、被害が小さいグループではライフライン・交通・情報の途絶等の環境因子によりセルフケアに支障をきたしたこと、被害が中位のグループでは公的・非公的な被災者支援サービスへのアクセスや物資の調達が身体運動・移動の困難により阻まれ、仕事や日課の遂行にも支障をきたしたことが判明した。被害が大きいグループでは、激甚な環境変化により、モノ・用具の欠如に見舞われるとともに、極端な事例では偏見・差別により公的・非公的なサービスを受けられなかったことが分かった。これらは震災後の1,000時間(42日間)までいずれの時期でも共通していた。また、障害があるために生じた困難に対して、障害に応じた適切な配慮(合理的配慮)が求められていたことが判明した。さらに長い期間で検討すると、他とのつながりの少ない障害者ほど、復興感が低いこと等も分かった。これらの概要は国連防災世界会議パブリックフォーラム(平成27年3月17日、仙台市、日本財団、東北福祉大学、仙台市障害者福祉協会主催)で「障害者の視点からのコミュニティ全体で備える防災まちづくりへの提言」として報告した。

地域とのつながりの重要性と障害理解促進のための活動

 上記の調査結果でも地域とのつながりの重要性が指摘されているが、震災直後から障害者団体の活動だけでは限界のあることが痛感された。地域で暮らす障害者にとって、地域の人々とつながること、地域と連携することが大事なのである。そして、そのためにも地域の人々の障害理解が求められる。仙台市では同意に基づいた災害時要援護者情報をもとに、平成24年12月から町内会や自主防災組織等が避難支援体制づくりを行っているが、この円滑な実施に際しても障害理解が必須である。
 障害理解を地域の中で拡げるためには、障害者自身が自分自身の生活のしづらさと必要な支援について地域に発信する必要がある。そして、地域の人々や組織を巻き込んだ活動を行うのが、障害当事者団体の役割である。障害について体験的に知り尽くし、災害時に必要な支援ついて明確に発信できるのが当事者だからである。困難な体験は「受援力」を発揮する原動力である。
 大震災後、外見上障害が明らかな肢体不自由者はさまざまな面で地域の人々の支援を受けた。近所の人々が給水車から水を運んでくれたり、長時間並んで入手した食料品を届けてくれたりした例も多かった。一方、外見では障害が分からない内部障害者や精神障害者等は地域の人々とのかかわりがなく、困難な生活を強いられ続けたという。さらに、障害の理解不足や偏見のために、さまざまなトラブルが生じたという報告もある。
 障害に基づく差別や偏見を取り除き障害理解を促進するために、震災後、当協会も含めさまざまな当事者団体が障害者差別禁止のための仙台市条例づくりに取り組んだ。条例づくりの必要性は震災前から指摘されていたが、震災を契機に大きな動きになった。そして、条例策定の過程で、多様な障害当事者が主体的に行政や市民との対話を行った。平成27年12月28日に答申された「条例のあり方」には、基本理念の中に災害時における障害者の安全確保のための地域の支援体制の確立や支援活動の重要性が盛り込まれている。
 障害者差別解消法が平成28年4月から施行される。これらの法や条例の趣旨は、障害に基づく不当な差別をなくすとともに、過重な負担が生じない限りにおいて個別的に必要な配慮が当たり前に行われるようにすることである。仙台市条例も平成28年4月施行予定であるが、条例施行が最終ゴールではなく、それらをもとに地域に障害理解を浸透させる必要がある。障害理解とは、障害によって困ることを理解するだけではなく、その困ることについてどのような配慮が求められるかを理解して、配慮(合理的配慮)を実践することである。当協会も主体的に取り組みたい。

今後の展望、提言

 震災後の取り組みを通して、当協会には会員であってよかったという声が寄せられた。連携と協働の重要性が再認識されたことを踏まえ、さらにつながり、支え合いの仕組みづくりが重要になる。集まる機会と場づくり、そして集まるための移動手段の円滑化に取り組みたい。
 平時にさまざまな工夫をして生活を営んでいる障害者にとって、災害時にはさらに大きな困難が強いられる。どのような困難が予想されるのかについて行政や地域の人々に発信するのは震災を体験した障害者の役割である。災害時であっても、より安全で安心した生活を送るためには平常における暮らしやすいまちづくりが大切である。非常時(災害時)の対応は平時の対応の延長である。
 東日本大震災を契機に、人々の間に絆、つながり、支え合いの大切さが意識されていると言われているが、これらを一時的なものにすることなく、社会全体に定着させることが重要だ。加えて、今後危惧される災害に対して、障害理解を図りながら、防災・減災に向けた意識啓発を当事者から発信していくことが重要である。そのとき、障害者差別解消法、そして、差別解消のための自治体条例を強力なツールとして、障害理解をもとに災害に強い強靭な地域づくりを行っていくのが障害者団体の大きな役割である。

 (震災直後から宮城県内各地ではJDFみやぎ支援センターや日身連加盟団体の支援を受けたことは心強いことだった。しかし、本稿では、編集者の依頼もあり仙台市障害者福祉協会を中心とした取り組みに限定して記した。)