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東日本大震災5年目にあたっての報告と提言 ~日本自閉症協会の取り組みから~

全国自閉症者施設協議会 会長
日本自閉症協会 前副会長
五十嵐 康郎

1.大震災後の初動調査と義援金の取り組みについて

 2011年3月11日 14時46分、誰も予期していなかったマグニチュード9.0の大地震と大津波が東北・関東地方を襲い、死者・行方不明者を合わせて、2万人を超える尊い命が犠牲になった。
 (社)日本自閉症協会に大規模災害への事前の備えは無かったが、各関係団体が現地入りし、調査や支援を開始したことから、震災1か月後の4月11日(月)から23日(土)の13日間にわたり、全国自閉症者施設協議会広報委員長森下尊広氏(当時)を(社)日本自閉症協会施設部会派遣員として宮城県、岩手県の被災地に派遣した。
 調査は主として、自閉症児者のご家族や相談機関、施設職員へのヒアリングを通して行われ、当時の報告書に、被害の状況があまりにも壮絶で「辛くて聞けない」との心情を吐露している。
 (社)日本自閉症協会は同調査及び被災地からの報告に基づき、会員に義援金の協力を呼びかけ、約2千万円の義援金を集め、被災地の自閉症協会に2011年4月に第1期分、同年9月に第2期分として、岩手県、宮城県、福島県に各400万円、茨城県に200万円を配分し、2012年3月末日に残りを第3期分として配分した。

2.厚生労働省委託研究について

 2011年度に厚生労働省障害者福祉推進事業の「災害時における自閉症をはじめとする発達障害のある方の行動把握と効果的な情報提供のあり方等に関する調査について」と題する調査の委託を受け、「研究1」被災地の現況調査およびケース検討、「研究2」自閉症をはじめとする発達障害のある方々の行動の変化と支援に関するアンケート調査、「研究3」「防災・支援ハンドブック」の作成と公刊の3つの研究を行った。
 「研究1」は、2011年11月から12月にかけて、被災地の関係者1名を含む3名1組のチームで、被災地(宮城県、岩手県、福島県、茨城県)の県庁・市町村役場・支援施設など20か所を訪問し、現況調査およびケース検討を実施した。
 自閉症の子どもたちの多くは避難所に入れなかったり、入れても泣き叫んだり、跳びはねるために怒鳴りつけられ、車中や被災した自宅で過ごしたり、親戚の家を転々としていた。避難所に入っていないために水や食料品の配給が受けられず、障害児を抱えながら長時間店の前に並んだ人もいた。
 ケース検討では、①原子力発電所のある双葉町から放射能を逃れて、5回も引っ越さざるを得なかった子ども、②双葉町から転居・転校を繰り返し、最近になってやっと落ち着きを取り戻しつつある特別支援学校高等部2年の自閉症の青年、③避難所暮らしで苦労し続けた19歳の自閉症の青年とその家族の3ケースを検討した。
 「研究2」のアンケート結果は、「要援護者名簿に登録していましたか」の設問には「要援護者名簿に登録していた」が11.1%、「登録していなかった」が25.1%、「登録について知らなかった」が57.0%だった。
 「どのような支援が特に必要でしたか」(主なもの3つ)の設問には「本人が安定する場・対応」が56.0%で最も多く、「発達障害児者への理解・配慮」が44.7%、「家族の安否確認ツール」が43.2%、「物資の配給」が43.2%、「福祉避難所」が32.5%だった。 「欲しくても得られなかった支援」(複数回答)の設問には、「物資の配給」が22.6%、「本人が安定する場、対応」が17.9%、「発達障害児者への理解・配慮」が15.2%、「福祉避難所」13.2%の順番だった。
 「欲しくても得られなかった情報」(主なもの3つ)の設問には、「原発事故の情報」が37.4%、「地震、津波などの災害の状況」が29.8%、「物資の配給」が25.7%、「家族の安否確認」が25.5%、「本人が安定する場・対応」が22.2%だった。
 アンケート調査を通して、要援護者の登録についての設問で「登録していた」とする回答は11.1%に過ぎず、「登録していない」「登録について知らなかった」を合わせると80%を超えていた。また「必要な支援」「欲しくても得られなかった支援」の設問では、「本人が安定する場・対応」、「発達障害児者への理解・配慮」、「物資の配給」、「福祉避難所」が共通して高い割合を占めた。「欲しくても得られなかった情報」の設問では、「原発事故の情報」「地震、津波などの災害の状況」が多くみられた。
 「研究3」は、「研究1」と「研究2」の結果に基づいて「2011.3.11東日本大震災を受けて 防災・支援ハンドブック」を当事者・家族向けと、支援者向けの2冊公刊し、広く配布するとともに、ホームページに公開した。

3.原発事故に伴う被害状況について

 福島県の場合は、大地震・大津波以上に原発事故の影響が極めて大きく、避難区域外からも多くの県民が県外等に避難し、教員が避難して授業に影響が出たり、県立の医療機関から60人もの医師が退職するなど、教育や医療に支障をきたす状況になっていると聞いて原発事故の深刻さを痛感した。
 また、警戒区域内にある障害児・者入所施設は、職員自身も被災者でありながら、避難区域の拡大に伴い避難先を転々とし、4月に千葉県鴨川市の千葉県立鴨川青年の家に移動し、事業を継続していた。
 福島県立富岡養護学校は、校舎に亀裂が入るなど、地震による被害のみだったが、原発事故により福島県内の9校に分教室を設けて授業を行い、在校生中、県外避難児童が半数を超えているために、いわき市に仮設の校舎を造る予定だが戻れない児童は転校することになるとのことだった。

4.今後想定される大災害への備えと今後の課題について

 東日本大震災において、支援員の派遣や派遣に要する費用などの体制が事前に準備されていなかったために、派遣に時日を要したこと、支援員派遣を1法人に依存せざるを得なかったこと、派遣費用の捻出に苦慮したことなどへの反省から、今後発生しうる災害に備え、災害時に支援員を派遣し、活動を支援するために設置する「災害活動支援本部」や「支援活動ベースキャンプ」の運営などに係る初期活動資金を確保することを目的として、平成26年に「日本自閉症協会災害活動支援基金」を創設した。大災害時に迅速に対応するためには、スタッフの確保や連絡体制などの具体化を図る必要がある。
 現地調査やアンケート調査で、福祉避難所の指定などの準備がほとんどなされていなかったことが判明した。特に原発事故のあった福島県では避難者の人数が極めて多かったために、障害のある人まで手が回らないという状態があった。
 東日本大震災以後、大災害に備えて、各地で福祉避難所の指定や避難訓練に取り組んできたが、障害特性に応じた避難所の設置や要支援者の把握は必ずしも充分とは言えない状況である。
 福島県では、JDF被災地障がい者支援センターなどのNPOが迅速に対応し、当事者から頼りにされたり、各県の自閉症協会などの民間組織が安否確認や被災地支援に取り組んでいた。その一方で組織に属せず、サービスを利用していない要援護者の安否確認が困難だったことから、行政を中心に関係機関が連携し、迅速に要支援者の情報を把握し、支援するための仕組みを確立する必要がある。