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Ⅰ.障害別のニーズと配慮事項

5-2.発達障害

発達障害者について

発達障害は複数の障害概念から形成されておりその特徴について一括して示すことには無理があります。そこで同法で示されている複数の障害について簡単に説明することとします。ただし注意が必要なのは、これらの特徴が発達障害の一個人内に典型的に見られるケースだけでないことと、障害が重複していることによって複数の特徴が併せて見られることがあるという点です。

※ここでは「発達障害者支援法」第2条第1項による「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」を指し、特に断らない限り「発達障害児」すなわち、「発達障害者のうち十八歳未満のもの」も含むものとします。

【学習障害(LD)】 文部省調査研究協力者会議(1999)による定義

学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。

学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。

 

【注意欠陥多動性障害(ADHD)】文部科学省調査研究協力者会議(2003)による定義(試案)

ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。

また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

 

【自閉症】

・ことばの発達に遅れや偏りがあるため、ことばの意味理解に困難があり特に抽象的な内容や長文での理解に困難があることが多い。

・対人関係の発達に遅れや偏りがあるため、周囲の人との共感的な関係を築くことに困難があることが多い。

・知覚や感覚の発達に偏りがあるため、特定の感覚に鈍感であったり逆に過敏であったりします。例えば乳幼児の泣き声に過敏に反応し、泣き叫んだりすることがある。

・知的発達に遅れや偏りを持つことが多い(全体の約8割程度ともいわれる)ため、抽象的な思考や複雑な課題処理が困難であることが多い。

・活動や興味の範囲が狭く特定の対象や行動パターンに固執するという特徴があり、このため周囲の環境やスケジュールの変化に対し、強い不安感を示したり抵抗したりすることがある。

・参考:「自閉症の手引き」(社)日本自閉症協会(2004)

 

【アスペルガー症候群(AS)】

・高機能自閉症、または高機能広汎性発達障害などはアスペルガー症候群とほとんど同じ意味で使われることがある。高機能自閉症とは知的発達に大きな遅れのない自閉症のことで、高機能自閉症とアスペルガー症候群を区別するかどうかについては研究者の間でも意見が異なるので注意を要する。

・最近の考え方では自閉症とアスペルガー症候群は連続するものであり、アスペルガー症候群では典型的な自閉症の特徴が目立たないといわれる。アスペルガー症候群の人は一見して障害があるようには見えないことが多く、言語能力もあり時には学業成績が平均以上に優れている場合もある。しかし、社会性や対人関係での問題を持ち、①社会生活における暗黙のルールや了解事項について理解ができにくい。②言語能力に見合った会話が成立しにくく、自分の興味関心のある話題を一方的にしゃべる。③相手の言葉を字義通り受け取ることがあり、言外の意味や相手の気持ちを読みながら対応することが苦手である。④パターン的行動を好み融通が利かないことから、臨機応変の対応が苦手である。などの特徴を持つことが多い。

・参考:「アスペルガー症候群を知っていますか?」(社)日本自閉症協会東京都支部(2002)

 

【広汎性発達障害(PDD)】

・「広汎性発達障害」とは、「自閉症」「アスペルガー症候群」「レット症候群」「小児期崩壊性障害」「その他の自閉症」の総称。「社会性の障害」「コミュニケーションの障害」「想像力とそれに基づく行動の障害」が見られる。

災害時に困ること

発達障害者の抱えている困難は多岐にわたり、また個々人によっても大きな違いがあるので一概に説明することには無理がありますが、次にあげるような点が共通して持っている困難といえます。

●災害時のような突発的な状況変化の把握が困難であり、臨機応変に対応することが困難。

●同時並列的な情報処理や行動調節のための優先順位決定が苦手なため、適切な行動が取りにくい。

●災害情報や避難情報などを自分の置かれた状況に照らし、適切に取捨選択し取り入れることが困難。

●外見上は健常者と区別がつかないため、視覚・聴覚的な情報が当然得られているだろうと見られがちなので、逆に適切な情報提供を受けられないことがある。

●特に発達障害児に見られる傾向として、災害後の混乱した状況に不適応を起こし情緒不安定になったり、行動面で退行的な現象が見られたりする。

(1)日ごろの備え

本人の備え

発達障害者はテレビ・ラジオ等からの災害情報の入手が苦手であったり、情報そのものの正確な理解が困難な場合がありますので、普段から災害関係のニュースに接する習慣を身につけたり、災害関係の用語の意味を理解しておく必要があります。

一人暮らしをしている場合には近隣者からの支援が必要になることも多いので、近所付き合いのノウハウを身につけておくと良いでしょう。

避難訓練のイラスト

事前に避難場所の下見をしておく必要がありますが、発達障害者の中には、しばしば固執傾向が見られるので、災害の種類・内容により避難場所が異なる場合や、避難場所への経路も状況によって変更せざるを得ないことが通例であることなどを良く理解しておく必要があります。

災害発生時に適切な非難行動ができるように、家庭、学校、職場などでこのような支援をしてもらえる人と、事前に良く話し合い意思の疎通ができるようにしておく必要があるでしょう。

発達障害者の場合、外見上では災害時要配慮者であるとはまったく分かりません。そのため外出先などで被災した場合は、自らが意思表示をしない限り周囲からは適切な支援を受けられないケースが多いことが予想されます。普段から人に物事をたずねたり、質問できるようなスキルを身につけておく必要があるでしょう。災害などの緊急時に備えた、カードなどに質問事項をまとめて書いておき、いつも携帯しておくことも必要かも知れません。携帯電話やメールなどを利用できる人は、災害時を想定して予行演習しておくと良いでしょう。

周囲の備え

発達障害についての社会一般での理解は残念ながら不十分な状況であり、「特別支援教育」の進展によって主として義務教育の場面を中心にして浸透してきたばかりです。自治体等に配慮してほしいことは多岐にわたりますが、発達障害者の困難の特性や日常生活で必要とされる支援について理解・啓発を進めるための冊子作成や、講演会開催などを通じて進めていく必要があります。

少なくとも、自治体や自治会等の防災担当セクション関係者向けには啓発活動を早急に実施することが必要です。このことは「発達障害者支援法」の立法趣旨からみても、緊急に取り組まれるべき課題でしょう。

(2)災害が起きたとき

災害発生時、ご本人の特性をある程度理解している人が周囲にいる場合には、そのような人の支援により避難行動を取ることができるでしょう。発達障害者の場合、障害のない人以上に災害時の突発的な状況変化に適応できにくい傾向があり、パニックに陥ったりすることがありますので、支援者の適切な声かけや指示で適切な避難行動を取る必要があります。

外出先などで被災した場合で周囲に適切な支援者がいない場合は、自ら意思表示をすることで適切な支援を受けられるようにすることが必要です。発達障害者の場合、外見上ではいわゆる健常者と区別がつきにくいのでこのような意思表示が大切です。

逆に言いますと、本人や家族などからの意思表示がない限り、周囲に気づかれにくい状況があります。災害時の混乱した状況の中ではこのような傾向は強まるでしょう。

さらに問題を複雑にしているのは、発達障害者の場合、ご本人または家族などが周囲に告知していないケースが多いと考えられることです。このような事態をまねいている原因は様々でしょうが、発達障害者を持つことが原因で近所付き合いが疎遠になっているケースもあるようです。具体的な配慮事項としては述べにくいのですが、このような複雑な問題があることを考慮する必要があります。

(3)避難しているとき(避難行動・避難生活)

発達障害者と災害に関する確認のイラスト

発達障害者の中には、もともと環境の変化に適応するのが苦手な人が多く、情緒不安定になったり、普段できていたことができなくなるといった「退行的現象」を示す人がいます。このようなケースで、心理などの専門知識を持ったカウンセラーや、児童生徒の場合は学校の先生などによる「心のケア」が必要であり、一定の効果がみられた例があるとのことです。

また、災害後日数が経過し状況が落ち着いてきた場合には、発達障害者ご本人が避難所内などでのボランティア活動に参加することで、情緒の安定を取り戻した例があるとのことです。

また、発達障害者の中には、避難所で見知らぬ人たちと長時間一緒に過ごすことが苦手な人がいます。可能であれば大部屋ではなく、他の人たちから離れた避難場所を提供するか、もしくは比較的人数の少ない小規模な避難所に移動できるような配慮が必要です。

発達障害者の中には、コミュニケーション能力の一部に困難がある人があります。避難所の建物内での放送等による伝達や、張り紙などの掲示物による伝達ではスムーズに伝わらないケースがあります。個別にその人にあった伝達方法を工夫する配慮が必要です。

避難所での集団生活という悪条件に、さらに災害のフラッシュバック現象が重なると、発達障害者の中には、周囲の人たちにとって問題行動ととられる行動をとってしまうケースもあります。このような場合、ご本人の環境を調整したり、発達障害者の抱える困難や特性に関し十分な知識と理解を持つカウンセラー等の派遣を配慮して欲しいところです。

また、発達障害者の中には適切な支援者のもと、自らが避難所内での様々な活動に参加できる人が多くいますので、このような能力を過小評価することなく活用していくような配慮も必要です。必要以上に子ども扱いしたり、足手まといのように扱うことは避けて欲しいものです。

 

<参考資料>

過去の災害時における発達障害者支援に関する報告は大変少ないのが現状ですが、次のような貴重な報告があります。

●阪神・淡路大震災時の体験談が兵庫県LD親の会「たつの子」ホームページで、報告集「たつの子の震災」が公開されています。
http://www.sanynet.ne.jp/〜tatunoko/sinsai/sinsaiFrame-1.htm

●新潟県中越大震災について新潟県軽度発達障害児者親の会「いなほの会」と新潟大学教育人間科学部が実施したアンケート調査報告書、「新潟県中越大震災による心理的ストレスと支援の実際−軽度発達障害のある児童生徒を対象とした親の会による調査−」が公開されています。
http://niigata-inaho.com/essay/shin_rep.pdf

●「新潟県中越大震災復興祈念誌 忘レナイデクダサイ 〜震災被害軽減マニュアル〜(新潟県知的障害者福祉協会)」に、「自閉症親の会 震災レポート」が掲載されています。

 

災害について話し合う家族のイラスト