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Ⅱ.課題別の対応

1.緊急情報の入手と情報発信

緊急情報の保障は“いのち”に直結する問題

突然、災害が起こったときに、それがどのような災害なのか、すぐに避難をすべきかどうか、どこへ避難すればいいのか、住んでいる地域はどうなっているのか、などの情報を素早く、的確につかめるかどうかは、文字どおり“いのち”に直結する問題です。正確な情報なしには、一人ひとりが自らの行動を自分で判断することができません。

このことは健常者にとってももちろん重要ですが、特に視覚や聴覚に障害がある人たちにとっては、発生後、数時間は情報が途絶してしまうなど、大きく、深刻な"バリア"があるのが現実です。

 

「防災行政無線や広報車のスピーカーで避難を呼びかけられても、耳が聞こえないのでわかりません」(聴覚障害者)

「地震直後は停電でFAXもテレビも使えず、携帯電話もつながらなかったので、まったく連絡がとれなかった」(聴覚障害者)

「緊急の災害ニュース番組には字幕が付かず、なにが起こっているのかわからなかった」(聴覚障害者)

「テレビで流れるニュース速報はチャイムで気づくが、あとは文字だけなので中身がわからず不安になります」(視覚障害者)

「避難所で、張りだされたお弁当支給の連絡メモに気が付かず、空腹をがまんしていた」(視覚障害者)

障害に応じたきめ細かな情報保障が大切

また、視覚障害、聴覚障害といっても、全盲や弱視、ろう者や難聴者、話すことができる人やできない人など、障害の状況はさまざまで、おもなコミュニケーションの手段もさまざまです。

視覚障害だからといってすべての人が点字を読むことができるわけではありませんし、聴覚障害だからといってすべての人が手話で話すわけではありません。

したがって、障害者としての一律のモデルをイメージして対策を考えるのではなく、障害者1人ひとりの状況に適したきめ細かな方法で情報を保障することが大切です。

普段から使い慣れた方法こそ“いざ”という時にも役に立つ

災害が起こって、ただでさえ気が動転しているときに、普段は使ったことがない機器を操作して情報を送ったり、取り出したりすることは、とてもできません。

災害情報の発信や入手は、情報の送り手の側も、受け手の側も、普段から充分に慣れ親しんだ方法で行ってこそ、役に立ちます。

その意味では、情報発信のシステムでも、また手話通訳者や要約筆記者、ガイドヘルパーなどの専門スタッフの派遣でも、日常的に機能しているのかどうかが決定的です。

毎日の生活がきちんとサポートされている社会、地域こそ、災害に強い町だといえるのではないでしょうか。

「これさえあれば大丈夫」はあり得ない 二重三重の仕組みを

「災害に携帯電話が有効か、テレビの方が有効か、インターネットはどうか……」などという議論はほとんど意味がありません。

健常者はそれらのほとんどすべてを利用することができ、状況に応じて使い分けているのですから、障害者もそれらすべてを使えるような状況をつくることが大切です。

ある程度の予測がつく災害があっても、それにとどまらないのが災害の怖さです。1つの情報伝達手段を作り上げて、「これで安心」とはなりません。

携帯電話やテレビやインターネットなどには、それぞれ優れた点があり、同時に欠点があります。停電になったら……、通信が制限されて携帯電話がつながりにくくなったら……、充電が切れたら……。

“いのち”にかかわる大切な情報を確実に伝えるために、二重三重の仕組みを作っていくことが重要です。

新しいシステムや機器の開発には障害者が参画して

本格化する地上デジタル放送やワンセグ放送の普及をはじめ、携帯電話、パソコンなどの機器の開発が進んでいます。また、地震の初期微動をとらえて大きな揺れの強さや到達時間などを予測し、通信衛星を使って情報を送るシステムや、消防庁などからの緊急警戒情報を、通信衛星を使って全国に瞬時に伝達し、市町村の防災行政無線やテレビ放送と自動的に連動させて住民に知らせるシステムなど、新しい技術を駆使したさまざまな情報発信システムの開発が進められています。

こうした開発のプロセスに障害当事者や関係者が参画し、障害者が利用できるもの、障害者にとって使いやすいものにしていくことが大切です。

障害者からの情報の発信

障害者は単に情報を受け取る“受け身”の立場だけではありません。自分たちの情報を仲間に、地域に、全国に自ら発信することが必要です。

障害者関係団体が中心となった情報発信の仕組み作りを広げて行く上で、何らかの公的な支援が求められています。

また、草の根からの障害者の声や要望を、テレビ放送やラジオ放送などのマスメディアが取り上げ、効果的に発信していくための仕組みやルールを作り上げることも重要です。

人と人とのつながり、地域の結びつきこそ

新しい技術や機器の活用は必要不可欠なことですが、これまでの数々の災害現場の教訓からは、人と人とのつながり、地域の結びつきこそが根本的な問題であることが浮かび上がっています。被災した障害者の避難生活をサポートし、不安を少しでも和らげていくためには、“人”が必要です。人の結びつきを介してこそ、情報はその人にとっての具体的で生きた情報になります。

そうした意味では、日頃からの隣近所との結びつき、障害者団体への積極的な参加、手話通訳者や要約筆記者、ガイドヘルパーなどの専門スタッフの養成と配置など、“人”の力が充分に発揮される体制づくりが決定的ではないでしょうか。

課題ごとに見る災害情報保障のポイント

①「避難準備情報」「避難勧告」などの緊急情報の確実な伝達

新しくできた「避難準備情報」

災害などによって住民に人的な被害が発生する恐れがある場合には、市町村長は住民に対し、法律にもとづいて「避難勧告」や「避難指示」などを発します。さらに、内閣府が示した災害時要援護者対策(「避難勧告等の判断・伝達マニュアル制作ガイドライン」2005年3月)では、新たに「避難準備情報」が設けられました。

この「避難準備情報」は、障害者や高齢者など、特に避難行動に時間がかかる人に対して、早めのタイミングで避難行動を開始すること、またその支援者に対して支援行動を開始することを求めるものです。

すべての住民への徹底は市町村の責務

市町村長が、住民に避難を求める緊急の情報を、当該地域のすべての住民にすみやかに、確実に伝達することは、市町村の重要な仕事です。それは、障害があろうと、なかろうと、すべての住民に対して市町村が責任を持たなければならない課題です。そのため、国、都道府県、市町村は、障害の状況に応じた緊急情報伝達の仕組みを早急に作り上げなければなりません。

特に、視覚障害者や聴覚障害者に対する確実な情報伝達の仕組みを作り上げる必要があります。防災行政無線(同報系)の戸別受信機(聴覚障害者用の文字表示式の受信機もあります)の普及、事前に登録されたFAXや携帯電話メールなどへ情報を発信するシステム、地上デジタル放送(字幕付きワンセグ放送)やコミュニティFM放送との連携、要援護者一人ひとりの避難支援プランにもとづく支援者からの声かけなど、地域ごとにその方法を確立し、対象となる障害者などに周知・徹底しなければなりません。その際、1つだけの伝達方法ではなく、複数の方法をとり、確実に情報を伝える保障を作り上げましょう。

わかりやすい表現、日常的な学習が大切

また、情報の中身や表現をわかりやすいものにしていく工夫が必要です。日頃使い慣れていないむずかしい言葉や言い回しは避け、障害者が理解できる、障害者の判断に役立つ情報にしなければなりません。

同時に、日頃から、障害者が参加する防災講座や防災訓練などで、「避難準備情報」や「避難勧告」の意味、それらが発せられたときにはどのような行動をとればよいのか、まずどこにどうやって避難すればよいのかなどを、障害者一人ひとりがよく理解できるようにしておくことが大切です。

②障害者関係団体としての情報収集、発信の取り組み

障害当事者団体、関係団体が必要な情報を集め、会員や上部団体、行政機関などに発信する取り組みも大切です。

公的な情報を入手する方法を決める

まず、障害者関係団体が、災害に関する正確な情報をどのような方法で入手するのかを明らかにしましょう。災害時には情報が入り乱れ、ときには間違った情報や憶測が飛び交うおそれもあります。自治体や防災関係機関などからの公的な情報が入るように、事前によく相談しておきましょう。

必要な場合は、都道府県や市町村との間で「災害情報の伝達に関する協定」などを結ぶことも検討しましょう。

障害者関係団体では、休日や夜間も含めて、緊急情報を受ける体制、受けた場合の対処方法などを明確にしておきましょう。

会員などの安否確認、支援情報の発信

会員などの安否や避難先の確認は、障害者関係団体が行う情報収集として大変重要です。

災害時にはどのような方法で安否確認を進めるかについて、事前に会員に周知・徹底するとともに、その際に会員の氏名や住所、Eメールアドレスなどの個人情報を当該団体の判断で支援組織や支援者に知らせることがありうることなどへの同意をとっておくことも大切です。その一例として、団体のニュースや機関誌、会費の領収書などにその旨を書き込んでおき、了解を求めることも効果的でしょう。

安否確認の方法の一つとして、「災害伝言ダイヤル」や携帯電話各社の「災害伝言板サービス」の利用も大切です。各団体のイベントや会議の際に、それらの利用方法の説明会・利用体験会なども計画しましょう。

また、緊急メールを送るだけでなく返信メールをチェックする機能を備えた携帯電話メール発信システムも実用化されています。このシステムでは、会員から返信されてきたメールを自動的に処理して、返信者の一覧を画面上に表示したり、逆に返信のない会員情報を表示することが可能です。これを活用すれば、たくさんの会員の中から返信メールがない会員だけを瞬時に取り出し、支援者の訪問による安否確認などを集中しておこなうことができます。

会員、上部団体、関係団体への情報発信

会員や上部団体、関係団体などへ、被害状況や障害者の避難先についての情報、支援活動の情報などを、決められた方法で速やかに、確実に発信できるように、日頃から訓練しましょう。

連絡網などでのリレー式の伝達では、何らかの事情でいったんとぎれてしまうこともあります。情報の伝達は、複数の方法で行えるように計画することが大切です。

また、連絡先一覧を張り出すなど、とっさの時にも確実に対応できるように、よく準備しておきましょう。

③避難所での情報保障の課題

「一次避難所」での情報保障

災害時にまず避難する近所の学校や公民館などのすべての一次避難所において、障害者に情報を保障する最小限の機器の配置や専門スタッフの派遣、運営上の配慮を求めていきましょう。

聴覚障害者用には字幕放送受信機能付きのテレビやFAX、インターネットに接続したパソコンなどが、視覚障害者用にはテレビ、ラジオなど、健常者にとっても利用価値が高い情報機器を、すべての避難所に配置するように働きかけましょう。停電時にも情報機器が使えるように、予備の電池やポータブル発電機の配置も求めましょう。

また、障害者が避難した避難所には、必要に応じて手話通訳者や要約筆記者、ガイドヘルパーなどの専門スタッフをすみやかに配置できるようにしなければなりません。障害者が大勢の人の中から専門スタッフをすぐに見つけることができるような、決められたゼッケンやスカーフなどを決めておくことも大切です。

連絡事項も、文書にして張り出す、また声を出して読み上げるなどの運営上の配慮を求めましょう。

福祉避難所での情報保障

避難が長引く場合には、障害の状況に応じた生活の場としての福祉避難所、または一般の避難所の中に設置した福祉避難室などが必要です。

どこにどのような福祉避難所の設置が必要か、どのような機能が必要かについて、市町村と前もって協議し、地域防災計画に反映させていきましょう。

福祉避難所では、聴覚障害者、視覚障害者などの情報を充分に保障する機器と専門スタッフの配置を求めましょう。

④放送や携帯電話、インターネットなどの活用と課題

放送による簡単で幅広い情報保障

スイッチを入れさえすれば、だれでもすぐに簡単に情報をとることができる――こうしたテレビの役割は大きく、障害者も同様です。視覚障害者のアンケート調査でも、「おもな情報源」としてはラジオ(83.4%)よりもテレビ(92.1%)があげられています(2004年、日本盲人会連合調査、複数回答)。災害時の情報保障を考えれば、字幕放送、手話放送、解説放送を普段から拡充することが必要です。特に、緊急時の災害情報番組はほとんどが生放送であり、普段から生放送への字幕、手話、音声解説を付与する取り組みが重要になります。

地上デジタル放送の普及が進み、地上デジタルテレビ(チューナー)に字幕機能が標準装備される、音声チャンネルの増加によりステレオ放送番組にも解説放送を付与することが可能になるなど、デジタル化のメリットを生かせば技術的な条件は広がります。

問題は、明確な数値目標を定めること、方針作成と点検の場に障害当事者を参画させること、障害者にとって使いやすい機器の開発を進めることなどが、大きな課題でしょう。

当面、①視覚障害者のために、ニュース速報のシグナル音を各放送局で統一し、音の違いで緊急の程度がわかるようにすること、文字情報を音声で読み上げる仕組みをつくること、②ワンセグ放送受信端末(携帯電話など)に字幕放送受信機能を標準装備すること、③字幕放送、手話放送、解説放送に関する著作権法上の問題を障害者の立場で解決すること、④全国に約190局(2005年)ある地域ミニFM放送の活用をはじめ、災害時に障害当事者側からの情報、草の根からの情報を、放送を使って発信できるよう、放送事業者と障害者関係団体の連携を強めることなどが重要です。

インターネット、その他の情報手段

携帯電話やEメール、インターネットについても、さらに多くの障害者が利用できるよう、使いやすい機器やソフトの開発、サービスの拡充が必要です。

市町村の緊急情報が受信できる防災行政無線の受信機を障害者の各家庭に設置することも有効です。聴覚障害者用に文字表示式の受信機もあります。

視覚・聴覚障害者に携帯電話メールで緊急災害情報を発信──静岡県

静岡県では2003年3月に災害弱者(災害時要援護者)支援をおこなう市町村職員向けにガイドラインを作成。要援護者の台帳整備とともに、さまざまなチャンネルを用いた情報提供に努めてきました。2004年6月から、聴覚障害者向けに携帯電話を活用した災害情報提供システムの運用を開始し、日常的には気象情報などを配信し、災害時には、県からは東海地震関連の情報や警戒宣言など、市町村からは災害時の避難勧告や避難地情報などを配信しています。

また、2005年12月からは、携帯電話の音声読み上げ機能を使い、視覚障害者にも同様の情報を発信しています。

さらに、災害時に要援護者を支援する手話通訳者や要約筆記者などの専門スタッフや自治体関係者にも登録を広げるとともに、同システムを効果的に活用できるよう、市町村の理解の促進、障害者の登録者の拡大などに力を入れています。

(NPO法人CS障害者放送統一機構、2005年度聴覚障害者緊急災害情報保障調査・訓練事業報告書より)

携帯電話メールの災害用伝言板サービス

災害時には、音声通話用に安否情報をやりとりできるNTTの災害用伝言ダイヤル「171」が開設されるほか、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯電話各社がメールの伝言板サービスを提供します。

このサービスは、「震度6弱」以上の地震などの大規模な災害が発生した場合に開設されます。

被災者から自分の携帯電話メールで10件のメッセージを登録することができます。被災状況として、「無事です」「被害があります」「自宅にいます」「避難所にいます」などのなかから選択できるほか、100文字(全角)以内でコメントを書き込むことができ、それを全国の携帯電話やパソコンで見ることができます。

また、安否情報が登録されると、あらかじめ設定したメールアドレス(3件から5件)に登録を知らせるメールを送るサービスもあります。

各社では、毎月1日や国の「防災週間」「防災とボランティア週間」に体験サービスをおこなっています。詳しくは各社のホームページをごらんください。

NTTドコモ
http://www.nttdocomo.co.jp/info/disaster/

KDDI
http://www.au.kddi.com/notice/saigai_dengon/index.html

ソフトバンク
http://mb.softbank.jp/scripts/japanese/information/dengon/index.jsp

手話と字幕の番組「目で聴くテレビ」の災害時放送

「目で聴くテレビ」は、阪神淡路大震災を教訓に、全日本ろうあ連盟や全日本難聴者・中途失聴者団体連合会などが立ち上げたNPO(特定非営利活動法人)CS障害者放送統一機構が、通信衛星を使って全国に配信。専用受信機「アイ・ドラゴン」は全国の聴覚障害者9000世帯に広がっています。日常の番組配信ととともに、地震や台風、水害、重大事故など、大きな災害が発生した場合には緊急の災害情報番組を配信しています。

緊急放送開始時には、CS通信で送られる緊急信号を「アイ・ドラゴン」が受信し、接続した光警報器が点滅して番組の開始を通知します。

まず、一般のテレビへの情報保障として、臨時ニュースなどの生番組注1)に対応するリアルタイム字幕と手話通訳をCS通信で緊急配信。さらに障害者の被災状況や避難情報、支援活動などを取材し、独自の災害情報番組として配信しています。

この「アイ・ドラゴンⅡ」では、一般のテレビ番組の字幕・文字放送も見ることができます。

「アイ・ドラゴンⅡ」は、聴覚障害者情報受信装置として、身体障害者の日常生活用具に指定されており、聴覚障害で身体障害者手帳をお持ちの方は市町村から給付を受けることができます。

また、災害時の聴覚障害者の情報機器として、各避難所に設置するよう、市町村などにも働きかけが行われています。

アイ・ドラゴンⅡ

アイ・ドラゴンⅡ

 

字幕、手話放送

字幕、手話放送

 

注1)2011年7月24日で現在のアナログ方式のテレビ放送が終了します。アナログ放送の終了にともない、アイ・ドラゴンのリアルタイム字幕手話機能も地上デジタル放送に対応させなければなりません。アイ・ドラゴンⅡ(SC1.2a)は、地上デジタルチューナーを接続いただくことで、地上デジタル放送でもご利用いただくことができます。アイ・ドラゴンⅠとアイ・ドラゴンⅡは、地上デジタル放送対応のアイ・ドラゴン3に切り替える必要があります。

 

手話のイラスト