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災害時のメンタルヘルス

災害時における小児メンタルヘルスの対応マニュアル

編集
日本小児精神医学研究会

項目 内容
発行年月 1999年9月9日
備考 英語版:原文

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専門家用 - 精神療法を中心としたPTSDの治療について -

井上洋一

目次

  1. はじめに
  2. 精神的な外傷体験・対象喪失体験への援助のイメージ
  3. 精神的外傷をどのようにとらえるか
  4. 面接の具体的方法
  5. さいごに

1.はじめに

災害地に復興が必要であるように、災害にあった心にも復興が必要である。災害の復興が被害 状況を正確に把握することから始まるように、心の復興も心の災害の状況を把握することから始 まる。災害を受けた人は、まだ自分の心がどれほど災害を受けたかを知らない。当面の問題に精 一杯の時、心の災害は一時棚上げされてしまう。それは時間が経つにつれて次第に姿を現してく る。受けた災害の大きさの予感が不安となり、心の災害の状況を把握することを尻込みさせてし まうこともある。しかし、災害地を整地せずにそのままにしておくと、心の中にいつまでも不安 定な地盤が残り、災害の傷が癒えない。その後長い間、心身に現れる症状に苦しむことになる。 災害地の復興が多くの人手を必要とするように、心の災害の復興にも手助けが必要である。家 族や知人に恵まれてその人間関係に守られている人は、心の災害の復旧に多くの支援を得ること が出来る。しかし、家族を失った人や、知人の少ない人、自己表現が苦手な人、上手に言語化で きない幼児・児童・老人などには、心の復旧のための人間関係が提供される必要がある。

2.精神的な外傷体験・対象喪失体験への援助のイメージ

安心できる相談相手となり二自由に感情を表現できる雰囲気をその場で作り、被災者の様々な 感情の受け皿となる。聞き手に守られていると感じることができれば、外傷的な体験をその場で 再現し、それを昇華することが可能になる。
それは、凍りついた感情が暖かさによって次第に融かされることでもあるし、口に押し込まれ たが飲み込めない感情を飲み込めるように噛み砕き、お腹に入れて、最後に吸収できるようにな ることでもある。

3.精神的外傷をどのようにとらえるか

感情を整理していくためには、感情を思い出さねばならない。まずその体験を意識に上がらせ て、その上でその体験の意味を知り、意味を納得して受け入れることが必要である。しかし、体 験を受け入れる作業は苦痛・恐怖を再体験することでもある。
喪失や災害の体験は、個人にとって非常に重大な体験であり、常に心の中の大きな場所を占め ている。個人は、その人の意志とは無関係に、常に体験の大きさを意識し続けている。しかし一 方では、それに触れることを躊躇する気持ちも強い。それは、その外傷的体験に触れても、それ を整理することが出来るかどうか分からないという理由にも拠る。不安や恐怖などの体験を思い 出すことによって、自分が苦しんだり、傷つくことを恐れる気持ちも働くだろう。闇雲に、外傷 的体験を反復して思い出すだけでは、確かに外傷の程度をより深くする恐れがある。このように、 外傷的体験に触れまいとする気持ちの動きには、本能的な自衛のメカニズムが働いているからで ある。
感情を凍結し、当面はあまり触れないようにする。この防衛の仕組みは一時的には有効に機能 して、個人を守ってくれるだろう。しかし、体験を自己から引き離して自分を守る心の働きは、 精神の緊張によって維持されるものであり、それが長期に及ぶと色々な弊害が生じてくる。
自分の中にある強い感情を抱えながら、それを無視し続けることは出来ない。自分の心の中の 主要な感情を切り離すことは、自分の一部を失うことをも意味するのであり、自分が統一して機 能する力が失われてしまう。その結果、無気力・無感動を生じることになる。また、切り離され たつらい感情は、それ自体が消滅したわけではないので、身体や精神に様々な悪影響を及ぼして くる。突然襲う不安、身体的不調などである。
従って、統合から一時的に切り離された感情はやがて整理され、自己に統合されなければなら ないし、誰もがその作業に取りかかる必要がある。

4.面接の具体的方法

(1)感情の表出・言語化

感情を表出し、言語化することによって、つらい体験が次第に整理され、自分で受け入れられ る体験へと変えられていく。
感情を表現するためには、聞いてくれる相手が必要である。感情の表出は人間関係の中で行な われる。自分がどのような感情を表現しても非難されない、という保障があるときにはじめて、 自由な感情の表出が可能となる。
相談者がその場で精神的に傷つかない、守られていると感じることが出来るような対応をする ことが必要である。相談者が感情の表出を強いられたり、また聞き手から何らかの意見を押しっ けられたりしないようにしなければならない。すなわち、安心感のある雰囲気に促されて感情が 自然にあふれ出るときに初めて治療的な意義がある。

(2)具体的な面接の進め方の一例

  • 導入は、日常的、具体的な話から始める。睡眠、食事など誰にでも共通し、重要であり、しか も問題の核心から遠いところから話を始める。
  • 日常生活の話が一段落したら、次に、災害の体験の具体的な話に入る。本人の話を時間軸に沿 って、具体的に聞いていく。場所、時間、行動の焦点を合わせながら話を進める。無理に誘導 するのではなく、本人の気持ちの流れに沿っていく。話が途切れたら「それからどうしまし た」などの、先を促す質問をする。
  • 最初から同情的なコメントをはさみ過ぎるのは逆効果になる。本人の体験の個別性を無視する ことになるからであり、本人は十分に理解されたと感じることが出来ない。また、同情の言葉 で話の流れが終結してしまう事がある。本人が十分に語り終わるまでは、むしろ中立的な態度 を保っ必要がある。「そうですか」「たいへんでしたね」など相槌を淡々と述べるほうが良い。
  • ポイントは同情心を表明することではなく、本人の体験の真の姿をその場で再現することであ る。従って、本人が何をどのように感じたのかという点に焦点を当て、それを聞き手の心の中 で再現することに集中する。本人の体験の姿が明らかになれば、それは聞き手側にも必ず手応 えがある。
  • 本人の体験が理解できたときに、聞き手の心の中に伝わったものを、本人に返してあげること が大切である。体験の真相が他者と共有されることによって、体験が対象化され、本人は体験 を整理可能な距離に置くことができる。
  • 話が核心に迫ったと聞き手が感じたら、「そのときどう思いましたか」「大変だったでしょ う」「今どんな気持ちですか」など、本人の感情の表出を誘う言葉をかけてみる。そこで抵抗 が強い場合には、無理に先へ進まないで、再び具体的な話に戻る。
  • 一度で精神的な外傷の問題が解決することはなく、何度も繰り返して接触していくうちに、次 第に心の整理が行なわれる。本人の気持ちの動きに添って話を進める、決して急がせてはなら ない。

(3)対象喪失への対応

家族や、その他自分にとって重要な人物を亡くすことは、最も大きな精神的外傷となる。それ は自分の一部が失われた感覚をもたらす。相談したり、頼ったり、一緒に物事を体験する相手を 失ったことから孤独感に襲われる。
このような状況で、自分から新しい人間関係を獲得していく事は出来ない。従って、情緒的な 交流を持つことから出来る人間関係の欠乏が生じている。この当面の問題に対処が必要である。 周囲から日常的な接触や励ましが提供されることが望ましい。周囲の援助が乏しい、あるいは得 られない状況にいる人にはカウンセリングが必要である。
対象喪失も大きくは外傷体験に含まれ、外傷体験の問題と重なるが、さらに特有の困難な課題 が含まれている。すなわち、親しかった人を失ったことから生じる固有の問題である。
喪失体験は失った相手に対する様々な感情を呼び起こすため、それらの感情をいかにして整理 するかという問題に直面する。それは生き残った自分と、亡くなった相手との問題である。亡く なった相手との間での信頼関係や、楽しい思い出などのポジティブなイメージがあれば、喪失を 受け入れる支えになる。主要な感情である悲しみに加えて、後ろめたさ、相手に対する罪悪感、 あるいは見捨てられた怒りなど、複雑な感情が生じてくる。過去に相手との間にあった葛藤を解 決する機会が失われたという事実も、残されたものには大きな負担となるだろう。こうした葛藤 の解決も必要である。
対象喪失にまつわる様々な感情も、やはり聞き手との間で共有され、対象化されることによっ て、次第に処理される。聞き手は、安心感のある受容的雰囲気を維持しながら、感情の表出の受 け皿となる関係を形成することに努める。亡くなった家族との問題はデリケートな問題であり、 相手の感情の動きに注意し、細かい配慮をしながら、必要なときには問題の核心に踏み込んでい く率直さも要求される。

5.さいごに

我々が行なう援助は、相手に必要な人間関係の場を提供することである。精神的外傷や対象喪 失の問題は個別的であり、そのダメージの程度、回復力は人さまざまである。従って援助の過程 ならびに結果に対して一定の目標を定めて、そこへ到達することを急ぐことは良くない。十分な 結果が得られなくても、援助者が心のゆとりを失わないことが最も重要である。我々がすべきこ と、また我々にできることは、自然の回復力を援助することにある。

医療・保健関係者・臨床心理士の皆様へ

奥山眞紀子

はじめに

災害にあって、恐怖の体験をしたとき、肉親や親しい人(子どもにとってはペットや人形も含まれる)あるいは住み慣れた家などを失ったとき、非難生活などのストレスの多い状態におかれたとき、人々には多くの精神的困難が生じます。子どもたちにも様々な心の問題が生じることが知られています。その精神的困難は個人差の大きいものですが、ある共通の傾向も、認められます。以下に述べるのは急性期(災害体験から1~2ヶ月)の子どもの精神的症状、面接の際の注意点、評価、対応の仕方などを述べたものです。皆様のご参考になれば幸いです。

目次

  1. 子どもにはよく見られるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状
  2. 子どもの喪失体験(家族・知人の元や、家や大切なものを失う)による症状―PTSDと重なる症状も多い。
  3. 長期の異常な生活環境によるストレスからくる症状
  4. 災害時の子どもへの面接や援助の注意点
  5. 評価
  6. 援助
  • 小児の場合は、精神機能(自我機能)が未発達なため、基本的な信頼関係に支えられた環境にないと、大人以上に問題を持ちやすいことに注意して下さい。(子どもはいっでも適応しやすいというのは神話です。)
  • 以下の症状や問題は、正常の子どもでも起こります。一般的な反応なのですが、その 程度がひどく、現実適応ができないときや、長期化し過ぎるようなときが問題です。
  • 子どもの発達段階によっても症状に差があります。その点で疑問があるときには小児 精神や発達心理の専門家に相談して下さい。
  • ここでは初期の問題を取り上げましたが、初期には比較的適応が良いように見られて も、長期的に(遅発型として)問題となることがあります。
  • 災害のつらい体験をみんなで乗り越えることで、子どもの人間的な成長が促進される ということもあります。必要以上に悲観的になるのではなく、ポジティブな視点を持 つことが大切です。

A.子どもによく見られるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)とは、非常に強い恐怖を伴う体験をした後に起こる特徴的な障害です。

  • 1.恐い体験を思い起こして再体験する。時には精神的状態が、現在の自分から解離(はなれ て)して、恐怖体験時に、もどってしまう(フラッシュバック)。恐怖体験を思い起こさせ る刺激(余震があったとき、火を見たとき、サイレンの音を聞いたとき、ガスの匂いを嗅い だときなど)が引き金になることが多い。
(1) 突然興奮したり、過度の不安状態(パニック)になる。
(2) 突然人が変わったようになる。
(3) 突然現実にないことを言い出す。
(4) 恐い体験の夢を繰り返し見る。
(5) その体験を思わせる遊びや話を繰り返して(そのこと自体は特に異常ではない)、そのことに異常に没頭したり、興奮したりする。
  • 2.外界に対する反応性の低下一感情の麻痺、精神活動全体の麻痺
(1) 表情が少なくなり、ぼーっとしている。
(2) 話をしなくなったり、引っ込み思案になる。
(3) 全体の活動性の低下。顕著だと食事などの基本的な日常行動も取れなくなる。
(4) 記憶の低下、集中力の低下。学業への集中困難。
  • 3.緊張状態の持続
(1) 不眠
(2) 必要以上に常におびえている。
(3) 少しの刺激でも、過敏に激しく反応する。
(4) そわそわして落ちつきがなくなる。
  • 4.その他
(1) 過度の罪悪感や無力感を持ち、気持ちが落ち込んでしまう。自分の体を叩く、手に傷を 付けるなどの自傷行為がでるとともある。
(2) 著しい退行(幼児語を使う、年齢不相応な甘え方をするなどの赤ちゃん返り)をする。
(3) 身体症状
手や足が動かなくなる、意識を失って倒れる、頭痛・腹痛など体の各部の痛み。その他、吐 き気、めまい、過呼吸、頻尿、夜尿、吃音など。

B.子どもの喪失体験(家族・知人の死、家など大切なものを失う)による症状

-PTSDと重なる症状も多い

  • 1.精神的混乱 - 行動や思考にまとまりがなくなり、現実の出来事とそうでない事との区別がつきにくくなる。
  • 2.喪失の否定
(1) 家族が死ななかったかのように行動し、現実への適応を拒否する(避難への激しい拒否や、死者のいないところでの食事の拒否など)。
(2) 亡くなった人の声を聞く。著しいときには聞いた声の命令に従う。
  • 3.感情の切り離し (これが最もよく見られる)
(1) 無表情になる。口数がへる。
(2) 泣くことができない。
(3) 喪失体験を思い起こさせるようなことを、避けようとする。
(4) 生き生きとした現実感が無くなる。意欲を失っている。
  • 4.過度の無力感
    (1)活動性が著しく低下する - 6ヶ月以上の乳児や幼児の場合、著明なときには生命維持のために必要な行動(食事をするなど)も取らなくなる。
    (2)何をするにも自信を無くす。
  • 5.強い罪悪感
(1) 喪失体験を目分のせいだと思い込んでしまう-例えば、前日に喧嘩したから兄が死んでしまったのだと思い込んでしまう、母親に、注意されるようなことがあったから、お母さんが死んでしまったと思う。
(2) ひどい場合には自傷行為も出現する。
  • 6.激しい怒り
(1) 激しく苛立つ
(2) 暴力をふるう
注: 表面上、抑制が強く、何事もなかったかの様に見えることもある。
命日やその日が近づいて来ると、症状が、ぶり返してくることもある。

C.長期の異常な生活理境によるストレスからくる症状

  • 1.緊張状態の持続
(1) いつもキョロキョロしている。
(2) 不眠。
(3) 気を抜くことができない。
(4) ささいなことで激しく驚く。
(5) いらだちが激しい。
(6) 集中力がない。
  • 2.周囲からの引きこもり
  • 3.拘禁性のパニック
フラッシュバックによるものとは異なり、恐怖体験時の自分へ戻ってしまうことではなく、 緊張が途切れることによる。しかし、子どもの場合にはこの違いがわかりにくいことも多い。
  • 4.身体症状
症状はPTSDの身体症状と同じであるが、恐怖体験の再体験とは無関係であり、ストレスの中で適応しようとして、自己の欲求を抑え込むことによる。しかし、この場合でも、子どもでは区別が困難なことも多い。

D.災害時の子どもへの面接や援助の注意点

  1. 通常以上に不安を与えない配慮が必要です。面接の場所や設定から、例えば、不安が強い 場合には親と子供を離さずに面接する、白衣をさけるなど
  2. 親と子供から災害時のストーリーを含めて十分に話を聞く。幼児や低学年の学童の場合は、 絵を描かせたり、簡単なごっこ遊びが表現になることが多い。
  3. 子どもの精神的な問題を把握すると同時にその子どものサポートシステムと生活環境を把 握して総合的に今後の援助のあり方を検討する。
  4. 親の精神状態にも十分な配慮をする。
  5. 親を責めない(特に子どもの前で) - 不安な子供にとって親は唯一の頼みです。
  6. 親かそのかわりの者に子どもの精神状態と子どもにとって必要なことを十分に説明する。
  7. 現在の生活の中で具体的にできることをともに考える - 具体性を持つことが大切です。 大人との共同作業など、連帯感、一体感、達成感などを持てるようにする。
  8. 多機関(医療、保健、福祉、教育)での連携を強化して、できるだけ多角的に援助ができ るように努める。
  9. 中・長期的問題を抱える可能性もあるので、一時的に適応が良くなっても、問題を持った ときには再び相談できるような状況をつくる。

E.評価

〈子供の精神的問題の評価〉

(1) 症状 - 主訴のみでなく、上記のような症状の有無と程度を把握する。
(2) 精神機能 - 現実検討議(現実と非現実を分ける力)がどの程度であるか、感情の障害(感情の麻痺)はどの程度であるかなど考えながら、現実への適応能力を評価する(簡単には現在の状態に耐えられるかどうかを評価する)。
(3) 基礎にある精神機能の推定 - 元々精神機能に問題を持つ子供ほど災害や喪失による障 害を受けやすい。
(4) 症状や問題が、恐怖体験による不安症状が強いのか、喪失体験による抑うつ感情が強いのか、現在の環境からのストレスによるものが強いのか、大まかに把握する。

〈環境とサポートシステムの評価>

(1) 家族機能 - 親やそれに替わる保護者がしっかりとしているか。親が子供に目を向けているか、家族の喧嘩が激しくないか。家族の精神的機能はどのような状態か。
(2) 子どもの喪失体験の把握 - 家族や知っている人の死や不明、住み慣れた家の消失、ペットの死や喪失、大切なものの喪失。
(3) 家族の喪失体験の把握 - 子どもが直接知らなくても家族に影響している可能性
(4) 現在の生活状況の把握 - 家族生活、集団生活、音、周囲の喧嘩、友達の有無
(5) 家族をとりまく環境の把握 - 地域集団、避難所の状況など
(6) 専門的なサポートシステムの把握 - 学校でどのような援助が必要か、保健や福祉での援助の可能性

F.援助

〈治療やアドバイスの基本的な目標>

  1. まず、子どもたちが安心して信頼できる人間関係を作り出す。
  2. そのなかで、子どもの精神的機能(自我機能)が耐えられる形で、心的外傷や喪失体験やそれらに伴う感情を表現させ、それを過去の記憶として整理して、現在および未来に向けて現実適応を促進する。

<親や周囲の大人への全般的なアドバイス>

4大原則

  1. しっかり子どもと向き合い、接触を多くして子どもの表現を促す。
  2. 安心させる - 過去の体験と現在の違いを強調。見捨てられない安心感。罪悪感を理解して、本人のせいではないことを納得させる。
  3. できるだけ子どもの活動を確保する - 遊びや手伝いなど。ほめる。
  4. 子どもが耐えられる環境を確保する - 子どもの立場から考える。

具体的には

  • 1.
(1) スキンシップをよくとり、話をよくする - 乳幼児には話しかけを多くする。
(2) 子どもを理解しようとする。子どもの話をむやみに遮らない。
(3) できるだけ子どもに感情を表現させる(こわかった、悲しい、頭にきたなど)。
(年長児では手紙や日記が役立つこともある。)
(4) 年齢に応じた説明をし、取り残されている感覚を与えない。
(5) 子どもに言語表現以外の表現方法(描画や遊びなど)を与える。
  • 2.
(1) できるだけ子どもを一人にしない。
(2) 家族内の苛立ちの解消を工夫し、協力して子どもを守る姿勢を示す。
(3) 安心させる言動をする。愛情をできるだけ言葉にして表す。
(4) 現状の症状は誰にでも起きるもので、その子のせいや、恥ずかしいこと(例えば、退行し、自立機能が低下しても)ではないこといことを説明する。
(5) 子どもが不安になったとき、災害時と現在を区別するように援助する。
  • 3.
(1) 悪戯書きをする空間や少しは遊べる空間を作る。
(2) 大人と一緒に手伝いをさせて達成感を築く。
(3) ほめる。
  • 4.
(1) 音を小さくする。静かな、落ち着いた環境。
(2) 昼間は子ども同士で遊べる環境をつくるなどの工夫をする。

〈個別の症状に対する周囲へのアドバイス〉

  • 1.
(1) 慌てない。
(2) なにか刺激になったものがあれば(恐怖の体験時に見たものや聞いたものが多い)それを突き止め、一時的にでも除去する。
(3) 怒らない。
(4) 必要なら抱きしめるなどして安心感を与える。
(5) 少し良くなれば過去と現在の違いを認識させるような声がけをする。
(6) よくあることで、本人がおかしくなったわけではないことを話す。
  • 2.
(1) 否定しない、無理強いをしない、苦痛を認める。
(2) おなかをさするなどのスキンシップを与える。
(3) 重症で悪くなるものではないことを、伝えて安心させる。
(4) できるだけ感情を表現させる方法を考える。
(5) 引き続いてストレスになっていることを探し、対応策をともに考える。
  • 3.
(1) 喪失体験時には死を確認する行動や儀式には参加を制止しない方がよい。ただし、本人の恐怖が強く、嫌がる場合、無理強いする必要はない。十分な心理的援助のもとに可能な限り参加させる - 死者との対面、葬儀や火葬の参加など。落ち着いたら、安らぎのある儀式がよい。
(2) 大人の方が死に関する会話を避けることをしない。
(3) 年齢に応じた死の説明をする - 幼児の場合は死をうまく認識できないので工夫が必要。
(4) 子どものせいではないことを十分説明する。
(5) 残された家族や周囲の大人たちの精神的立ち直りを早める努力をする。

〈子ども本人への簡単な援助〉

  1. 子どもの気持ちを理解して受けとめる。
  2. 安心させる一本人のせいではない。恥ずかしいことではなく当然のこと。
    援助を受けることは恥ずかしくはなく大切なこと。
    その状態が身体的に重症化しない。いつまでも続く心配はない。
  3. できるだけ感情を表現させる。
  4. 本人にできることを一緒に考え、無力感からの脱出をはかる。

〈専門的な援助>

形態

  1. 遊戯療法 - 言語表現が苦手な子どもに必要である。
  2. 集団遊戯療法(4~6人程度) - 保育園や小学校低学年で有効。
  3. 小グループ(4~8人程度)集団療法 - 学校保健などで行いやすい。
  4. 中グループ(10~20人程度)集団療法 - 学校のクラスなどで行える。
  5. 家族療法 - 家族全体の喪失体験への援助など。
  6. 教育や福祉などとの連携を十分に持つ。

目的

  1. まず、子どもたちが安心して信頼できる人間関係を作り出す。
  2. そのなかで、子どもの精神的機能(自我機能)が耐えられる形で心的外傷や喪失体験やそれらに伴う感情を表現させ、それを過去の記憶として整理して、現在および未来に向けて現実適応を促進する。

方法

  1. 子どもたちが安心して表現できる環境をつくる。
  2. 言語や遊戯を通じて、恐怖の体験やその後の自分の感情を十分に表現させる。
  3. 集団療法では、感情を分かち合うことと、同じ感情を体験した子ども同士が話し合うことによって、孤立感や自責の念を減少させる。
  4. 現在の自分たちがそのままに受け入れられていることを体験させ自信をつける。
  5. 体験やその時の感情を表現させ、それを受けとめながら、過去のものであることを認識していくことを援助する。

<薬物療法ついて>

できるだけ、心理療法を主体にすることが望ましいが、症状が著明で、そのために本人の不安がより強くなるようなときには、急性期の一時的投薬も有効である。しかし、薬物療法にだけ頼ることは避けるべきである。たとえば、強い無力感や罪悪感を背景とした抑うつ状態に対して認識を変えずに気分だけ変えてしまうことは、かえって不安を促進することがある。


「災害時のメンタルヘルス」
日本小児精神医学研究会編

1999年9月9日
編集
日本小児精神医学研究会