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障害のある人への災害支援

災害時の障害者援護に関する検討委員会
報告書

社会福祉法人 全国社会福祉協議会

項目 内容
発行年月 1996年03月

もくじ

は じ め に

 阪神・淡路大震災は、大都市が直撃されるという戦後最大の被害をもたらした。多くの死傷者と被災者、そして長期にわたり不自由な生活を強いられている人々のなかに、多数の障害のある人や高齢者などの住民がいたことも、初めての経験であった。我々の国土は、このような災害が発生する危険が随所にあることを全国民に再認識させたが、今回の犠牲と過酷な震災体験を風化
させることなく今後に活かすことが重要である。
 特に、今回の災害では、これまで障害のある人々に対する配慮が不十分であったこと、また多くの人々が新たな障害を有することになったことを大きな教訓として、防災の準備や計画が再検討されなければならない。

 本委員会は、今回の大災害における障害のある人々の状況を検証するとともに、今後の災害に備えることと災害時における障害のある人々に対する支援のあり方を調査検討した。障害のある当事者や団体、保健福祉の関係者、地域行政担当者、国の防災・福祉行政担当者による委員により、被災地での事情を聞くことを中心に調査検討を行ったものをここに報告としてまとめた。

 報告は、3つの部門に分かれている。すなわち、
 第1章では大震災に何を学ぶかであり、今回の災害による障害のある人の被災状況と支援の課題をまとめ、第2章では第1章で調査検討した結果をふまえたうえで、災害時における障害のある人に対する支援とマニュアルづくりのための留意点をとりまとめ、提言としている。
 また、資料編として本委員会で聴取・収集した資料のうち、特に参考とするものをあげた。

 地域に生活する障害のある人々の観点から本調査検討をとおして明らかとなったことの第1は、さまざまな障害のある人々に焦点を当てることは、すべての人々に対する防災対策をより具体的にするためのものであるということである。第2に、障害のある人々が生活し参加できる地域づくりを進めることは、見方をかえれば防災にも強い地域づくりとなることを強調しておきたい。

 本委員会の提言が、国、地方公共団体をはじめ各方面で検討がなされている防災対策や地域防災計画、またそのマニュアルづくりへの参考となれば幸いである。

 本委員会に助成いただいた社会福祉・医療事業団に対して深甚なる謝意を表するものである。

平成8年3月
災害時の障害者援護に関する検討委員会

第1章 大震災に学ぶ

-被災状況と対応・支援の課題-

 今回の災害で被災した障害のある人々の状況は、どのようなものであったのか。
 さまざまな資料やヒアリングから、障害のある人自身の状況や救援団体や行政の支援の状況(何が起こり、どのような対応がなされたか)を調査した。
 そして何が問題であったかを、地震発生時・緊急、救援期、復興期と時系列で分け、検討し、そこから障害のある人々への援護の課題を導き出し、以下の点について整理した。
 1.自分の身を守る
 2.地域住民との関係づくり
 3.身近な行政の対応と課題
 4.障害関係団体や社会福祉協議会の果たした役割
 5.社会福祉施設の機能を活かす
 6.避難所について
 7.専門職の派遣とボランティア
 8.「福祉のまちづくり」について
 9.復興期の生活支援について
 以上の分析、整理をもとに、この体験から学ぶことは何なのかを本章で明らかにし、第2章では具体的な防災のポイントとして提示する。

 今回の災害を振り返り、それぞれの課題を整理してみると,最大の防災対策は平常時のあり方にあるということが明確にされた。
 一方,今後災害が起きたときに再び多くの犠牲を出すことを繰り返してはならないことは当然のことであるが、今回の災害を体験した障害のある人の事例から、「私たちは日常が被災しているようなものなので、この震災でそれほどパニックにはならなかった」という声を多く聞くことができた。これは,現在の障害のある人を取り巻く日常の環境に対する問いかけとして示唆に富むものであった。
 また、災害への備えとして今回、誰もが身体的にも精神的にも障害をもつ状態になる可能性の高いことがわかったが、このことは障害のある人の日常生活に学ぶところが多いということである。つまり、障害のある人の日常生活を知り、障害のある人の暮らしやすい環境を整備することが,すべての人にとっての防災にもつながるのである。
 障害のある人にとっての防災対策という視点は、誰もが暮らしやすい地域やまちづくりをする
大きな動機づけとなるものである。

1.自分の身を守る

 今回の災害の発生は早朝だったこともあり、ほとんどの人が自宅で就寝中に被災した。障害のある人の多くも、何が起こったのかわからず、ふとんのなかで揺れがおさまるのを待ったという状況であった。また、このとき、倒壊した家具の下敷きになり身動きできなくなった人々も多くいた。なかにはこれが死につながった人もいる。
 防災の第一歩は、自助である。平常時から「自分の身は自分で守る」という心構えを身につけることが必要である。まず、安全な身のまわりの環境をつくること、そしていざというときのための持ち出し品を備えておくことである。本委員会でのヒアリング調査でも「日頃からいざというときのためのさまざまな工夫をしていたため、それほど混乱なく地震直後を乗り切った」という全盲の夫婦の事例があるので紹介したい。

 「ドーンと持ち上げられ、布団をかぶって構えているとしばらくして揺れがおさまった。それからあらゆる衣類を身につけ、目が見えないため日頃から用意してあるリュックを手にした。リュックのなかには、薬、針道具、ティッシュ、ビスケット、予備の白杖などが入っている。自宅は半壊したが、今の自宅に引越してくるときに大きな家具は全部捨てて段ボールに収納し押入にいれておいたので、家具の倒壊による被害はなかった。冷蔵庫はキャスターがついていたので移動しただけで、家のなかでは花瓶が割れただけだった。視覚障害にとっての情報源であるラジオはどの部屋にも置いてあり、夫婦で違う局の放送を聞いて何が起こったのか知ろうとした。電池もいつも予備を置いてある。電気が止まったが、いつも見えないのでそう心配はなかった。外出は道が壊れているため不安だったが、罹災証明も自治会長に付き添ってもらい取ってきた」
 この人は日頃から、近隣の人に「私たち夫婦は目が見えないのでなにかあったときには助けてほしいとお願いしていた」という。そのため、災害発生10分後には町内会の人が安否確認に駆けつけている。また、その後の被災生活でも近隣からの援助を得て、孤立することなく過ごしている。

 また、日頃から備えのあった50歳代のひとり暮らしの盲聾重複の女性は、揺れがおさまった後、冷静に行動をしている。
 「普段から、自分のことは自分でしなければならないと思っているから、揺れには驚いたが、その瞬間にはいつも靴がおいてある場所へ行って、靴を履いた。次に台所へ行って手探りしてみると、薄いガラスも分厚い瀬戸物も割れている。これは大変なことになったと思い、補聴器と必要な薬類を集めて持ち、窓を開けて、声を張りあげた。声にならない奇声だったろうが、やっと声をかけてくれる人がいて避難所へ行くことができた」

 このような事例から学ぶことは、日頃から災害時に配慮した暮らしをどのように各自が工夫するかである。

(1)安全な空間をつくる

 災害が起きたとき、冷静に行動し無事に避難するためには日常から家のなかの安全な環境づくりに心がけることである。
1.災害に備えた「安全な身のまわりの空間」とは具体的に何かを明らかにする
2.障害別で特に配慮しなければならないことは何かを明らかにする

(2)災害に備えて最小限の備蓄に心がける

 災害が起きた直後の当面の生活に困らないよう、3日分くらいの食料、水などの生活物資や、必要な補装具(たとえば10日分くらいのストマ用具など)を備蓄しておく必要がある。

(3)非常時用持ち出し品の用意

 「いざ避難」というときのために、最低限必要な非常時用の持ち出し品をひとまとめにしておき、リュックなどの持ち運びのしやすいものに詰めて手の届くところに置いておくことが必要である。

非常時用の持ち出し品として必要な物は何かを明らかにする
・誰にとっても共通な物
・障害のある人に固有の必要な物

(4)避難所の確認

今回の災害では、避難場所や避難所を知らなかったという人が多かった。避難場所や避難所は平常時から確認しておく必要がある。また、障害のある人などのため、福祉サービスの対応可能な福祉避難所(仮称)などの設置も検討されるのでその確認も必要である。
1.避難場所や避難所の確認

(5)情報の確保

 今回指摘された大きな問題のひとつとして「情報」が不足したことがある。
 災害が起きたとき、まず、何が起こったのか、そして自分のまわりがどんな状況なのかを的確に判断しなければならない。そして、自分が何をすべきなのか、安全を確保するために何をしたらよいのか、どのように避難行動こ移ったらよいのかなどを迅速に判断しなければならない。今回の災害では災害発生直後、停電に電話の不通が重なった。このような状況下では、誰しも「情報不足」という意味では同じであった。しかし、停電を免れた地域、あるいは電力が回復してくるにしたがって、テレビやラジオによる公共的な情報は豊富になっていったが、障害のある人にとっては必ずしもそれは十分ではなかった。特に聴覚障害のある人にとっては、テレビ映像が頼りであったが、そのテレビも情報の多くは音声が主であり、明確な状況を知る手段とはなり得なかったのである。
 災害などの緊急時に障害のある人が情報から遮断されないような配慮が求められる。また、緊急時にとりあえずどこへ連絡して情報を得るのかなど、被災後に起こるさまざまな問題への連絡先を日頃から確認しておくことなどの課題も出された。

1.通信手段が遮断したときの、援助の求めかたを検討する
2.どこに連絡すればどのような情報が得られるのか確認する
3.障害関係団体への加入により、必要な情報を得やすくする

[震災直後の状況から]

・寝室にあった車いすは家具の下敷きになっていた。常備してある懐中電灯も室内が散乱してどこにあるのか探せなかった。(車いす使用者)

・義足が定位置に見当たらず、手探りで探した。(肢体不自由)

・倒れてきたタンスにはさまれて、身動きできなかった。(視覚障害)

・家屋がどの程度破損したのか、避難しなければいけない状況なのか、避難するとすれば外はどんな状況なのかまったくわからなかった。ずっと家のなかですごし、買い置きの菓子類などでしのいだ。(視覚障害)

・情報源が点字とラジオだけでは、自分のまわりがどうなっているのかわからない。(視覚障害)

・地震発生時が早朝だったため、多くの人が補聴器をはずしており、紛失した。(聴覚障害)

・停電でファックスが使えなかったが、同じマンションに住む人にラジオのニュースを通訳してもらった。(聴覚障害)

・窓をあけて、外のにおいをかぎ火災の有無を確かめた。(聴覚障害)

・震災で困ったこと。・洗腸ができなかった・ストマ装具の張り替え場所がなかった・ストマ装具の入手・仮設、公共トイレの数が少ない(混雑、人目、時間がかかるなど)・環境の著しい変化でストレスや体調をくずして下痢や便秘が続いた。(内部障害)

・タンスの下敷きになったときは笑っていたが、数日たつと1日中泣きどおしだった。(知的障害)

・地震後、家に入るのを怖がり、家族が片付けをしている間にいなくなってしまった。その後、夜8時頃になりやっと戻ってきた。(知的障害)

・知的障害のある長女は興奮ぎみだったが、うろたえる親よりも落ち着いており、彼女の指示で家中からラジオに必要な電池を集めることができた。(知的障害)

・早朝だったので、普段服用している薬も持たず避難した人が多かった。自分の飲んでいる薬がわからず、処方するのに困った。(精神科の医療機関)

・何が起こったのか状況が把握できず、自ら判断できなかった。(精神障害)

2.地域住民との関係づくり

 日頃から障害のある人々と近隣や地域社会にコミュニケーションがあることは、災害時こも大きな役割を果たすことになる。今回の災害から、日頃の近隣との関係の差異が障害のある人の初期救援の明暗を分けた大きな要因であることがわかった。近隣とのつきあいの深かった障害のある人には、救援の手が迅速にさしのべられており、逆にあまりつきあいのなかった人の場合、まったく気づかれず、なかなか助けてもらえなかったという事例が多かった。

 被災直後、外部からの救援が来るまでは、隣近所や自主防災組織といった地域での協力体制がものをいう。まず、隣近所で声をかけあうなどの行為が、人的被害を少なくする第一歩であり、防災の重要なポイントにもなる。
 芦屋市で震災を体験した視覚障害のある女性は「今回のような大災害にどう対処すべきか」という質問に対し「障害があっても孤立せず、地域のなかでしっかり根をはって生活すること。困ったときに助けてもらったり、自分のことをわかってもらえる近所づきあいをしていることが大切だと思う。あの人は、白杖をもっていないが弱視だとか、耳が聞えないということを知っていてくれる人が多いと心強い。何かのときには、安否を気遣って訪問してくれる人がいるというような、頼もしい関係の知り合いをつくらないといけないと思う。絶対家のなかにばかり閉じこもってしまわないこと」と答えている。
 この人は障害のない夫と小学生の2人の子どもの4人家族で10階建てのマンションに暮らしていたが、14年間も住んでいるのに近所の人と会って話すこともなく、エレベーターであいさつする程度であったという。しかし、この震災をきっかけに、近所で話し合うことも多くなり、マンションの管理組織もしっかりしてきているという。
 ほかにも、震災を通じて日頃交流のなかった近隣の人と親しくなれたという声がいくつもあった。

 震災の体験が、障害のある人と地域社会のつきあいを変えてきている状況も見逃してはならない。

(1)障害のある人から近隣へのはたらきかけ

 障害のあるなしにかかわらず、都市部では隣の部屋に住む人の顔も知らないということもめずらしいことではない。
 地方では当たり前のような近所づきあいがない都会に暮らす障害のある人にとっては、近隣の人と交流する機会をもつ必要性はより重要になってくる。特に、高層住宅に住んでいる場合など、いざというときに、身動きできなくなる可能性の高い環境にある人にとって、災害時にまず頼りにしなければならないのは近隣の住民である。そのためには障害のある人の側からも「ここに生活しています」と存在をアピールし、進んで近隣に「よき理解者」をつくる努力が求められる。
 また、福祉サービスや社会資源を積極的に活用することで、地域社会との関係をつくっておくことも重要である。

1.自分の存在を近隣の人にアピールする方法は何か。その際、近隣の人に最低限知っておいてほしいこととは何か
2.近隣や地域の活動への参加をどう促進するか
3.地域住民と共に社会資源をどう活用するか

(2)住民の側から障害のある人とどのようにつきあうか

 地域に暮らす住民の約20%は、障害者や高齢者など災害に際して必要な情報を得ることや迅速かつ適切な避難行動などをとることが困難であり、災害の犠牲になりやすい人々であるといわれている。この事実を地域住民はどのように理解しているのであろうか。
 このような障害のある人などをとりまく環境を住民の側はどのように受け止め、そして改善するためには何をすればよいのであろうか。
 まずは、近隣に生活する障害のある人などの生活を知ることが重要である。障害のある人の日常を知ることで、その援助方法を知ることができる。
 自ら「障害体験」をする機会をつくることも必要である。体験をとおして実感をもつことは、障害のある人の生活を理解すると同時に、災害時などに自分が障害をもつ状態になったときにパニックに陥らないための有効な手段でもある。

1.近隣や地域に障害のある人などがいることを知る
2.障害のある人の援助の方法を知る
3.障害体験の機会をもつ
4.地域や自主防災組織において、災害時の障害のある人への対応について話し合う

[地震発生時から救援までの障害のある人の事例]

・日本盲人会連合の調査では、一人暮らしの視覚障害のある人のうち、約50%が近所の人の案内で避難した。また、避難所で配慮を受けた人で最も多かったのも近所の人で、これも50%を占めた。

・日頃から近隣に自分たちは目がみえないので、何かあったときは助けてほしいとお願いし、町内会の行事などにも積極的に参加していたことが幸いし、すぐに近所の人が安否確認にきてくれた。(視覚障害のある夫婦)

・車いすが家具の下敷きになり動けなくなった。窓に鍵をかけずにいたら「大丈夫ですか」と近所の人に声をかけられた。格子を破り3人と車いすを救出してくれた。日頃、積極的に社会活動をしており、近所の人が車いすの私を認識してくれていた。(心臓病の72歳の母と視覚・知的障害の47歳の兄と3人暮らしの車いす使用の男性)

・平素、健常者と同じ生活をしていると思っていたが、震災を経験して、人の助けを必要とすることをつくづく感じた。(内部障害)

・北淡町では家屋倒壊のわりには死者が少なかった。普段から隣近所のつきあいが深くて、寝ている場所まで知っていたので、倒壊した家屋の下からすぐに救出することができた。

・20分叫び続けたがだれも助けてくれなかった。介護ボランティアが助けに来てくれた。(肢体不自由)

・高層住宅でエレベータが止まり、5日間部屋から出られず、高齢の母親とガス、電気、水道の止まった部屋で冷蔵庫のなかのもので食いつないだ。(肢体不自由)

・倒壊した家屋に3日間生き埋めになり、物を叩いて救援を求めた。(聴覚障害)

・外で行政の広報やその他のアナウンスがあっても聞こえないので、近所の人に何かあれば知らせてほしいと頼んだ。(聴覚障害)

・「津波があぶない、学校へ逃げろ」という隣人の叫びにも、倒壊した家屋に道がふさがれ逃げられず、覚悟した。津波がこなくて助かった。(肢体不自由)

・妻が家屋の下敷きになったが、私には何もできなかった。ただ、物を叩いて叫ぶだけだった。2時間後に隣人の協力で助かった。(体幹障害)

3.身近は行政の対応と課題

 身近な行政関係者も被災するという今回の震災では、相談窓口の担当者の不在や安否確認の遅れなど、さまざまな問題が指摘された。
 今回のような大規模な災害時に行政が十分に機能できなかった原因は何であるのか、また、障害のある人への援護体制の課題は何であるのかを明確にし、災害時の体制のあり方を考える必要がある。

(1)福祉事務所、保健所職員の役割について

 被災市では、要援護者支援の窓口となる福祉事務所の職員が、震災直後、遺体の収容等の業務や救援物資の配付などに追われ、住民の間に急増した保健・福祉ニーズに応えることが困難であった。
 地域防災計画における救援業務の分担は今後重要な課題であり、特に、福祉事務所、保健所の担当職員は、災害時においては、災害の発生によって生ずる業務によって、障害のある人など要援護者に対する支援業務に支障がないような工夫と体制の整備が求められる。

1.保健・福祉担当業務については、災害時でも平常時と同様、要援護者に対して支援できるような体制をつくる
2.新たに生ずる保健・福祉ニーズに的確に対応できる体制をつくる

(2)安否確認について

 被災地では、避難所で生活する障害のある人などについて、震災直後より、避難所緊急パトロール隊による安否の確認とニーズの把握に努めたが、在宅の障害のある人に対する組織的な安否の確認とニーズの把握には、かなりの時間を要した。このため、障害のある人の安否確認には、障害関係団体や社会福祉協議会、ボランティアの力によるところが極めて大きかった。
 在宅の障害のある人に対する安否確認にあたっては、障害者名簿が必要であるが、神戸市では、1月下旬に特定の障害関係団体に対して名簿の一部開示に踏み切った。
 障害のある人のプライバシーを確保しつつも、迅速に安否確認とニーズの把握を行う必要があることから、名簿の開示方法を検討しておくとともに、日頃から障害関係団体や社会福祉協議会との連携をとっておく必要がある。

1.障害関係団体等との連携体制
2.名簿公開が必要になった場合の行政の障害のある人の名簿公開のあり方
・名簿公開についての障害のある人からの事前了解の取り方
・公開する名簿内容
・公開の時期と公開し得る団体

(3)障害のある人に対する福祉用具

 障害のある人のなかには、固有の福祉・医療用具等が必要な人が多数いるが、今回の震災では、使用していたものを紛失、破損した人も多く、また、避難所での生活にあたり緊急に必要となった用具等もあった。避難所や仮設診療所では一部の用具等が配付されたが、供給品の種類や数量は充足するには時間を要した。
 障害のある人など要援護者の窓口である福祉事務所、保健所では、日頃から障害のある人に必要となる用具等について一定の備蓄をしておくことが望ましい。また、福祉・医療用具等については、緊急時に調達が円滑に行えるよう、取り扱い業者等との連絡体制を確立しておく必要がある。

1.必要な備蓄品目
2.調達体制の整備

(4)情報発信と相談体制の徹底

 障害のある人をはじめ被災者が必要とする情報は、避難所生活に必要な生活必需物資、罹災証明、応急仮設住宅の申し込み、保健・医療・福祉サービス、生活支援のための各種の融資等、種々である。今回の災害では、障害のある人はコミュニケーションにハンディのあることから、情報がうまく入手できなかったり、入手したとしても一般の人々よりもかなり遅れたケースも多かった。なかには、生活福祉資金などの借入の申込期限に間に合わなかった視覚に障害のある人もいた。
 被災地方公共団体では、避難所に文字放送専用テレビを設置し、公共放送や新聞紙面による情報を提供し、また、「心のケア通信」等のパンフレットを配布するなど情報提供への努力が払われた。また、障害者専用電話やファックスを設置し福祉に関するあらゆる相談に応じた。しかしながら、福祉事務所などの窓口では、住民の間に急増した保健・福祉ニーズに応えるには、かなりの時間を要した。
 災害による生活上の不安を取りのぞき復興のための生活設計をするうえで、行政機関による情報の提供は最も重要なもののひとつであり、特にコミュニケーションにハンディのある障害のある人に対してはきめ細やかな情報を伝達する必要がある。また、障害のある人からの情報(相談)を受け止める相談窓口の設置にも十分配慮する必要がある。

1.防災に関する広報の徹底
2.避難所の情報の障害のある人への配慮
3.災害時および復興期における福祉・生活情報の徹底
4.福祉事務所、保健所等における相談窓口の確保
5.電話やファックスによる障害のある人のための専用相談窓口の確保
6.避難所における相談体制の確保

 行政の福祉サービスは、行政自体、また携わる職員も大きな被害を受けたため、災害発生直後はほとんど機能停止といってよい状況であり、障害のある人からの行政対応の不満を訴える声は多かった。そのなかでも、最も顕著だったのは、窓口が応対できなかったというものである。
 また、立ち上がりの早かった福祉団体などからボランティアの要請や名簿の公開などを求める声があったときも、支援体制やプライバシーの問題などにより対応に時間を要した。

【被災福祉事務所の例】

 障害福祉課職員を総動員して情報収集にあたった。プライバシーの問題から身障手帳や療育手帳の所持者についての情報は、日頃から民生委員にも提供しておらず、安否確認にはいろいろな困難があった。市内の障害児者の施設、小中高の障害児学級、精神薄弱・身体障害の養護学校、障害者団体(身体障害者連合会、手をつなぐ親の会、肢体不自由児者父母の会、難聴児をもつ親の会、自立生活グループなど)、無認可施設、ホームヘルパーやガイドヘルパーの派遣世帯などにあたり、安否を確認したが職員の手も足りず、1月31日の時点で全体の4割くらいしか把握できなかった。
 その理由としては、次のものがあげられる

・障害福祉課の現業員体制が生活保護法の地区現業員体制のようなシステムになっていない。
・日頃から手帳保持者の動向を把握していない。
・精神障害者については、保健所が窓口となっており福祉事務所では把握できていない。

【被災市の例】

 在宅障害者について、震災直後より、施設やサービス提供機関を通じて利用者の安否確認を行うとともに、福祉事務所の相談活動のなかで状況把握に努めたが、市内在住約5万5千人(身体障害+知的障害)の障害者の状況把握を行うのは困難な状況にあった。
 一方、すでにボランティアグループが安否確認、支援活動を行っていたが、1月25日に市としてはこれらのボランティアグループの協力を得ることを決定し、1月下旬より名簿の公開にふみきった。公開にあたっては、最低限の情報とするため、台帳書き写しの作業を行った。
 その後、2月中旬から、福祉事務所、保健所職員等による要援護者実態調査(高齢者、児童含む)を行った。調査の結果、介助の必要が認められた障害者は避難所で426名、在宅で628名であり、新たに把握したニーズに対し、そのつど必要な援助を行った。

【近隣行政が民間団体を支援した例】

 HABIEの活動が新聞に掲載されたのをきっかけに、大阪府守口市の市長が福祉課の主幹を2週間にわたって派遣。視覚障害被災者からの相談内容は、施設への一時入居、医療、住宅の修理・入居のほか生活用具の提供、ヘルパーの派遣など、本来行政が即対応すべき役割であったが,被災市の行政自身もパニック状態であり、HABIEのボランティアたちに行政マンとしての幅広い措置・処遇判断に関する豊富な知識と経験を有する障害福祉の専門家の指導で、視覚障害被災者からのニーズに的確に対応できた。また、罹災証明発行にかかる手続きに配慮願えるよう、被災市・区の福祉課に要請をした。
 結果、民間ボランティア団体と協力することによって的確で幅広い救援が行われた。

4.障害関係団体や社会福祉協議会の果たした役割

 障害のある人へのさまざまな支援活動に、障害関係団体、社会福祉協議会の果たした役割は大きい。災害直後からこれらの団体は活動を開始したが、5日後には平常時のネットワークを活用し、障害者支援センターが兵庫県社会福祉協議会内に開設された。他団体も速やかに現地入りし、独自の支援活動を展開した。これらの団体に所属していた障害のある人々の安否確認は早い時期に行われ、支援策も講じられている。
 障害種別を越えた横断的な支援活動を災害時に行うためには、平常時から各団体間のネットワーク体制を充実させ、社会福祉協議会、行政との連携体制を確立することが必要である。

(1)障害関係団体の迅速な安否確認

 障害のある人の安否確認では、障害関係団体の力が大であった。しかし、各団体の会員こついては比較的すばやく安否確認の作業が進んだが、どの団体にも属さずに地域生活を営んでいた障害のある人については、それを行う前にプライバシー問題の解決や関係団体との調整のための時間が必要であった。その結果、神戸市が特定の団体(障害者支援センター、全日本ろうあ連盟、HABIE)に限り、身体障害者手帳1,2級の全員の名簿を公開したのは、1月下旬であった。
 名簿を民間団体に渡すにあたっては、プライバシー保護の観点から、氏名、住所、電話番号のみとされ、また、提供された名簿は、原則としてコピーを禁止し、使用後は返却する条件とした。
 しかし、知的障害のある人の名簿は公開されず、また、精神障害のある人の安否確認については、日頃からネットワークの確立した民間団体がないため困難であった。

 団体に所属していた障害のある人は、安否確認も比較的早く行われただけではなく、さまざまなサービスの情報や提供も行われ、精神的にもサポートされることも多く、心強かったという。改めて、障害関係団体の存在意義が強調されたわけだが、緊急時に備え、今後、次の点に重点をおいた取り組みや検討が必要である。

1.会員名簿の整備と他の障害関係団体との協力のあり方
2.安否確認方法の確立
3.行政との連携による会員以外への支援
4.その他の障害関係団体とのネットワーク体制の確立

【安否確認作業の事例】

★障害関係団体

【全日本ろうあ連盟】

 避難所にいる聴覚障害のある人の把握のため、電話連絡をしたが混乱していてはっきりした答えは得られず、直接出かけて調査を進めることにした。全国からの多くのろうあ者や手話通訳で支援部隊をつくり1100ヵ所すべての避難所をまわった。そのうち56ヵ所に聴覚障害のある人がいることがわかった。1月23日からはじめて3月18日までかかったが、あらかじめどこの避難所に聴覚障害のある人がいるかわかっていれば、もっと迅速に救援もできたのではないか。
 また、すべての聴覚障害のある人ということで取り組んだが、会員以外の名簿を手に入れようと県、市等に依頼したが、初期の段階ではプライバシーの問題があると断られた。

【HABIE】

 独自のデータベースを作成し、ローラー作戦を展開。その時点では人手が足りず、神戸市対策本部にボランティアの要請をしたが、ローラー作戦のためのボランティアは責任があるから回せないと言われ、その交渉に2日間かかった。
 安否確認の作業は、・避難所・緊急入所・帰郷・施設等への一時避難・在宅の5つに分類して行った。一番作業が困難だったのは、在宅の人たち。
 行政から、名簿公開すると言われた時点では、結果的に受け取る必要がなかった。すでに独自のデータで約2000人のリストをもっており、その時点で約1700人の安否が確認できていた。しかし、名簿の公開がもっと早い時点であれば、大変有効であったと思われる。

【兵庫県精神薄弱者育成会】

 電話が通じないため、安否確認は困難を極めた。電話が通じたのは3日目から。会員の安否確認は比較的早くできたが、非会員の情報はほとんど把握できなかった。育成会は会員といっても親たちなので、いざというとき動きがとれないという面もあった。

【神戸市身体障害者福祉団体連合会】

 須磨区、東灘区、兵庫区の肢体障害者協会は直ちに往復ハガキを会員に送り安否確認を行った。また、震災後2週間くらいたってから、状況把握のため各避難所をまわった。

★障害のある人や関係者からの声

・オストミー協会に入会していて、心の支えとなり、震災をとおして特にそのことを感じた。(内部障害)

・市全体として2月13日から3月10日までに、高齢者、障害者の安否確認をすることになったが、「いまごろ安否確認してどないするんや」と言われた。(被災市福祉事務所のワーカー)

・2月の上旬には、市内にあるほとんどの家屋の損壊状況が行政に把握され、義援金が交付された。家屋の損壊を調べるために1軒1軒歩いて調べたのだろうが、私のもとに行政から安否確認にきたのは3月中旬であった。

・安否確認のため行政の情報、名簿等を提供したことで当事者からクレームがきた。(被災市)

・通園施設からは、地震の翌日に電話で安否確認があったきりで、再開までなんの連絡もなく不安だった。

・精神簿弱者相談員は地域の精神簿弱のある人を把握しろといわれるが、相談員に名簿は公開されていない。

(2)「被災地障害者支援センター」の設置-障害種別を越えた支援体制-

 今回の災害では、全国授産施設協議会(現在、全国社会就労センター協議会)、全国身体障害者施設協議会(いずれも全国社会福祉協議会に加盟する障害種別協議会)、共同作業所全国連絡会により、震災直後から兵庫県社会福祉協議会内(神戸市中央区)に「障害者支援センター」を設置し、障害分野を越えて、被災地の障害のある人や家族の安否確認や個々のニーズに対応した。
 さまざまな障害関係団体による個別の支援は、障害状況による個々のニーズに対応するうえで重要な活動ではあったが、障害者支援センターは、行政との連携体制の窓口として、また、さまざまな障害関係団体による支援体制の連絡調整などを行う機関としても機能した。

 この経験は、障害関係団体間において、被災地の障害のある人に対する支援体制の全般を掌握する「被災地障害者支援センター」(仮称)の設置の必要性を示している。
 特に、特定の障害団体に属さず地域生活を営んでいる障害のある人や家族、また、ネットワーク化の遅れている精神障害関係、難病関係者などに対して、災害時において有効な支援機関となる。

 平常時から、障害関係団体間において、災害時の障害のある人の支援のための連絡体制を確立し、災害時のネットワークづくりを図る必要がある。

1.大災害を前提とした障害関係団体のネットワーク体制の確立
2.「被災地障害者支援センター」の設置の準備
3.「被災地障害者支援センター」設置に際しての、社会福祉協議会等の役割

【障害者支援センター】(1月23日 兵庫県社会福祉協議会内に設置)

 支援センターでは、最初に被災地の障害者施設の被災状況の調査を行った。電話回線や交通手段が寸断されているなか、各施設から派遣されてきた職員とボランティア数十名により、自転車やオートバイなどを使い、ひとつひとつの施設を直接訪問する方法で調査は行われた。
 また、施設の被災状況調査に加え、神戸市内の避難所を訪問し、そこで生活する障害のある人々のニーズ調査を行った。
 避難所には、多くの障害のある人やその家族が生活していたが避難所の構造が障害のある人に配慮されていない(段差やトイレ、周囲からの排除など)ため、倒壊している自宅へと戻らざるを得ない人が少なくなかった。そのため、地域で生活をはじめた障害のある人の実態とニーズを把握するため、地域ローラー活動を展開し、集めたニーズに対して個別援助を実施した。

(3)社会福祉協議会の役割

 社会福祉協議会(社協)においても、震災直後から、全国のネットワークを活かした救援活動を組織的に行っている。
 被災規模の比較的小さな大阪府社協内に「社会福祉関係者・合同対策本部」(合同対策本部)を設置し、また、被災地における前線基地として、西宮市現地事務所をはじめとして、被災地東部に芦屋現地事務所、西部に加古川・須磨区現地事務所、淡路島に淡路島・一宮町現地事務所、そして神戸市内に神戸市兵庫区現地事務所と、計5カ所の現地事務所を開設した。
 合同対策本部では、現地事務所の後方支援として、社協職員の派遣やボランティア希望者の受け入れ、全国からの救援物資の受け入れ、現地事務所への物資配送等の調整を行った。
 現地事務所では、社協職員が中心となり、合同対策本部から派遣されたボランティアの協力を得ながら、被災者に対して1救援物資の仕分け、配付2避難所の手伝い3罹災証明の誘導・案内4運転(移送)ボランティア5入浴サービス6炊きだし7買い物・洗濯・理容など、個別ニーズに対応した支援活動を展開した。
 特に障害のある人への働きかけとしては、次のような活動があった。兵庫区現地事務所では、社協と行政が協力して、福祉事務所が把握しているひとり暮らし老人3300世帯、福祉事務所来所相談者約9000ケース、重複があるとして約4000世帯を調査対象とした。まず、ホームヘルパーによるプレ調査を実施し、その後、応援に駆けつけた社協職員と区役所のホームヘルパーがペアを組み、機動力のある調査を行った。訪問調査が進むにしたがって、当然のことながら、個別ケアのニーズが明らかになってきた。878ケースについて直接面談ができたが、そのうち、130ケースが、入浴のニーズや食料や飲み水の確保、病院へのつきそいなど、即座に対応しなければならないケースもあった。在宅プロジェクト部門では、2月13日~18日までの6日間で、81件のケースに即座に対応し、巡回入浴サービス、浴場までの入浴バスツアー、お湯の配達など、ボランティア部門と一体となった取り組みが実施された。
 このような今回の体験を踏まえ、今後の社協活動、特に障害のある人に向けて取り組むべき課題として次の点があげられる。

1.小地域ネットワーク活動や在宅サービスの提供を通じて、地域内の障害のある人を把握し、緊急時の安否確認等ができる体制の確立
2.手話や点字等の知識をもち、障害のある人に素早く役に立つボランティアの養成
3.障害関係団体や障害者施設とのネットワーク体制の確立

5.社会福祉施設の機能を活かす

 大都市・直下型の今回の災害では、障害者福祉施設は堅固な建物として造られているうえに、幸いにも人口密集地になかったため、大きな被害を被ることなく、地域の救援活動の拠点として有効に機能したところが多い。
 すなわち、避難所等で自力で避難生活が困難な障害のある人や高齢者などの緊急受け入れ施設としての機能であり、これらの人に対して、高度、良質な援助サービスの提供をした。
 このように、社会福祉施設が避難場所として有効に機能した例から、社会福祉施設が地域に向けて、次のような防災対策のポイントがあげられる。

1.避難所等で自力で避難生活が困難な障害のある人などに対する緊急受け入れ施設としての役割
・地域住民との相互協力体制
・地域の施設間の協力体制
・社会福祉協議会との相互支援体制
2.施設設備の提供(浴室や地域交流スペースの開放など)
3.障害のある人に必要となる用具・薬品等の備蓄

【障害者福祉施設から介護職員派遣の事例】

 全国身体障害者施設協議会では、全国の各施設から2週間交替で神戸市が設置した二次避難所に介護職員を派遣した。

【福祉施設が障害のある人を援助した例】

・家族が直接施設へ連れて行き、ショートステイを受け入れてもらった。

・内部障害をもつ父親とリウマチの母親がいて仕事に行けないと相談したところ、施設間の連携で、施設の個室にベッドを2台入れてもらい解決した。

・道路事情が悪くいつもの更生施設へ通えなくなったが、施設間の連携で自宅近くの授産施設へ道路事情が改善するまで1ヵ月ほど通うことができた。(知的障害)

・障害者施設が、地域の知的障害者のために浴場を開放してくれた。(知的障害)

・避難所で生活できなくて困っていたら、近隣の重症児施設が緊急に受け入れ体制を整えてくれ、移ることができた。(知的障害)

・子どもを家に置いて出かけるのも、連れて出るのも困難であったが、施設職員が毎日水や食料を運んでくれてずいぶん助かった。(知的障害)

◆重度障害児者通園施設「青葉園」の事例◆

[発生直後]

 建物が無事だった青葉園に職員が集まり、バイクや自転車で通所者の家をまわり昼すぎには全員の状況が把握できた。けが人はいたものの全員が無事であることがわかった。園からワゴン車を出し、家屋が倒壊した人など通所者と家族を中心に昼頃までに、30名くらいの避難所となった。

[避難生活]

 園内はひどいありさまで、倒れたロッカーなどを片付け、とりあえず必要な毛布や食料品をかき集めた。電気のみが非常時の自家発電で機能していたが、水や食料のめどはなく、余震の続くなか1日目は不安な夜を過ごした。
 しかし、翌日から日頃から交流のある関係施設や団体が支援にかけつけてくれ、当初はおにぎりなどの食料を、続いては紙おむつや使い捨ての食器、カセットコンロなどが次々に届いた。その後も継続的に食料などは補給してもらい、このような救援物資は市内の他団体や地域にもまわすことができた。また、在宅で生活する通所者には、必要な物資や常備薬を届けるなどの訪問活動を開始した。
 医療面では、毎日飲まなくてはならない薬がもう少しでなくなるという状況もあったが、園で把握していた個人の医療データをもとに通所者どうしで薬を分けあったりした。まもなく園の向かいにありいつも診察をしてもらっている診療所が再開し、24時間体制で診察、治療、薬の処方をしてもらい、さらに園に日頃から関わっている医師が泊まり込みで衛生管理や健康管理について細かい指示を出してくれたので、1人の重体者も出すことなく避難生活を乗り切った。
 入浴については、当初救援物資の清拭剤で体を拭いていたが、市内のボランティア宅で風呂が使える所を近所の通所者が定期的に使わせてもらったり、大阪の施設が入浴を組み込んだバスツアーを企画してくれたりした。2月末には、ボイラーを貸してもらい園でも入浴できるようになった。

[震災で感じたこと]

 日頃から家に閉じこもるのではなく地域の人と関わりをもち続けようとしたさまざまな活動や宿泊体験をしてきたナイトプログラムが災害時に非常に役立った。重い障害のある人の災害時の緊急対策は、地域での平常時のあり方抜きには考えられない。災害時には、日常の地域生活支援のシステムがその本来の機能を拡大させることで、非常事態に対応できるのだと思う。小地域のなかで、重い障害のある人たちの具体的・実効的な地域生活支援が、障害をもつ本人と地域住民の主体的な関わりによって日常的に展開できれていれば、それがそのまま、地域住民全員の救援システムともなり得る。

6.避難所について

 避難所に避難した障害のある人や家族のなかには、一般避難者との共同生活に馴染むことができず、倒壊のおそれがある危険な自宅へと戻った事例や、別の避難所に移らざるを得なかった事例もある。
 また、避難所が障害のある人に対応した構造になっていなかったため、避難生活上さまざまな問題点が発生した。
 さらには、多数の被災者が避難する避難所では、障害のある人などの要援護者は、生活スペースの確保や救援物資の受け取りなどにおいても困難な状況におかれやすく、避難所の管理・運営面での問題点も指摘された。

(1)避難所の構造と情報の問題

 避難所の多くは、車いす用のトイレがなく、段差も多い構造になっていた。また、障害のある人にとって避難所における情報伝達手段の多くは構内放送などの音声であったため、救援物資などの配給を受けるのに困難をきたした。また、行政ニュースなどは掲示板によることも多く、視覚に障害のある人にとっても情報入手の遅れが問題となった。
 このようなことから、避難所においては聴覚に障害のある人に対しては、民間団体の支援を受け、文字放送専用のテレビを設置し、視覚に障害のある人に対しては、各都道府県等に手話通訳者の派遣要請を行い、避難所や病院等において情報の提供を行ったほか、避難所におけるファックスの設置も行われたが、障害のある人は情報収集・コミュニケーションにおいてもハンディを負ったことは否めない。
 さらに、避難所生活の開始時に、障害のある人に必要な物資がなく、不自由な生活を強いられることになった。
 災害時に一般避難者と共存できる避難所には、次の視点があげられた。

1.避難所のバリアフリー化
2.避難所における障害のある人に対する情報伝達のあり方
3.障害のある人に必要となる用具・薬品等の確保

(2)不足したマンパワー

 震災直後は、障害のある人もない人も一緒になった避難所生活はやむを得ないものであった。避難所では多数のボランティアによる避難者の生活支援が行われたが、福祉的、医療的なニーズを把握するマンパワーが圧倒的に不足していたため、障害のある人などの要援護者のなかには、障害や疾病が重度化した人が少なくなかった。
 また、障害のない人においても、長引く避難所生活から、精神面でのケアが必要となった人もいた。今回の震災で、心的外傷後ストレス障害(PTSD:大災害や戦争などの強い恐怖をともなう体験をした後に起こる精神的な混乱状態)と診断され、特別な手当てを必要とした人も多い。

1.障害のある人に配慮できる人的体制
2.メンタルヘルスケアの必要性

(3)障害のある人や家族に配慮した運営について

 今回の災害においては、避難所の設置場所が多種多様かつ広域であり、なかには管理責任者が不在であったことや、混乱のなかで被災者台帳の整備が追いつかなかったことから、避難所の被災世帯構成、ニーズの状況が長期間把握できず、避難所の管理体制の確保にも苦慮した。
 このような状況のなかで、障害のある人やその家族に配慮することも十分とはいえなかった。
 今後、避難所の管理運営のためのマニュアルが必要であり、特に、障害のある人やその家族への配慮を盛り込んだものが求められる。

1.管理責任者の役割と運営マニュアルの作成
2.避難所における障害のある人に対する配慮
・障害のある人のためのスペースの確保
・障害のある人に配慮した連絡や情報提供
・身体的、知的、精神的な障害のある人に対する配慮とニーズの把握

(4)福祉避難所(仮称)の設置の必要性

 多数の被災者が避難する避難所では、要援護者は、生活スペースの確保や救援物資の受け取りなどにおいても困難な状況におかれやすい。また、避難所に避難した障害のある人や家族のなかには、一般避難者との共同生活に馴染むことができず、危険な自宅へ戻った事例や、一般避難者のなかにあって孤立するといった事例が見られるなど、避難所の管理・運営面での問題点も指摘された。
 このため震災直後は一般の避難所に避難することはやむを得ないとしても災害時の要援護者を支援するためには、福祉サービスが提供できる「福祉避難所」(仮称)を設置し、生活の場を一時的に確保することが必要である。

1.福祉避難所として社会福祉施設、福祉センター、コミュニティセンター等をあらかじめ位置づけ、協力体制をとっておく
2.避難所から福祉避難所への円滑な移動方法を検討しておく

[避難所での事例]

・消灯後、真っ暗になるのでローソクをつける人がいたが、もし火事が発生しても聞こえないので、不安で眠れなかった。(聴覚障害)

・避難所はトイレ、食事、移動の面で不都合で生活できる状況でなく、知人宅を転々として体調をくずした。(肢体不自由)

・奇声を発するため、避難所生活をあきらめ半壊の家に戻った。寒さで母親が倒れ、2人とも老人ホームヘ緊急入所した。(知的障害)

・当日と翌日は車のなかで過ごした。寒さと本人の用便に困った。避難所へ救援物資をもらいに行ったが、登録者のみと断られた。その後、親戚宅へ避難。(知的障害)

・兄はおむつが臭うと言われ、弟はあたりかまわずタバコを捨てることで非難され、集団生活に馴染まず避難所を出た。老人憩の家に移り、1階部分を家族専用に配慮してもらいなんとか生活できた。(高齢の母親と50代の知的障害と精神障害のある兄弟)

・盲導犬が避難所で拒否された。(視覚障害)

・避難所では元気のいい人が先に良い場所をとり、障害のある人や高齢者は玄関先や廊下などに寝かされていた。

・情報はたいていアナウンスで流れるため、食事の配給などまわりの人の様子から判断するしかなかった。また、まわりの人に手話や筆談は期待できず、なかなかコミュニケーションがとれなかった。(聴覚障害)

・精神障害のある人の避難生活にはさまざまな問題がある。本人は慣れない集団生活で症状を悪化させる場合がある。対人関係で気をつかい、まわりとコミュニケーションがとれず、避難所の隅で毛布をかぶってうずくまっていたという報告もあった。また、服用している薬のために行動が鈍くなり、一見立派な体格なのに物資の配付等の作業を手伝わないと周囲から白い目で見られるのではないかとジレンマに陥ったりした。

・避難所でも、日頃身近に接している人や家族が一緒の場合は、何とか生活できた例が多い。また、興奮して暴れているときなどでも空いている部屋に移ってもらうなどの配慮があった場合、落ち着いた(精神障害)

・「刃物を持っている人がいる」、「奇声を発している人がいる」ということで通報があり、実際に医師や相談員が行くとまったく問題のないケースが多かった。(障害者支援センター)

・市民全体に理解がないので、「この避難所に精神障害のある人はいませんか」と聞いてまわるわけにいかず、安否確認には苦労した。(保健所)

・大量飲酒者が大声を出し暴れるなどのトラブルで多くのケースが報告された。(精神科救護所)

・避難所の障害者の実態調査を試みたが、ほとんどの避難所責任者が障害のある人がいるかどうかわからないという答えだった。そこで急遽、「障害をもってお困りの方はご連絡ください」といつポスターをつくり、各避難所に掲示した。(障害者支援センター/全日本ろうあ連盟)

・ストマに関する知識のある人がいなくて相談できず、頼んだことも理解してもらえなかった。(内部障害)

[ストマのケアが必要な人の避難所での(排便)処理について]

・処理のときは半壊の家に戻った
・親戚や知人宅に行った
・夜中まわりが寝静まってからトイレに行った
・洗腸ができないのでやむなく自然排便した

7.専門職の派遣とボランティア

 被災地に多くの福祉関係者やボランティアが全国から駆けつけたが、これらのマンパワーははたして十分であったであろうか。また、マンパワーに関して、行政、障害関係団体、社協、施設の連携は十分であったのだろうか。

 在宅では、ホームヘルパーなどのケアサービスはヘルパー自身が被災したため機能できなくなり、家族や近隣の協力を得てサービスの再開まで対応したという事例があった。日常からさまざまなサービスを受けて生活している障害のある人の場合、サービスの機能停止は死活問題になる。
 大規模な災害では、介護職をはじめ福祉専門職もまた被災者になり得ることを想定し、被災地外からのマンパワーを速やかに導入して、サービスが継続できる体制が必要であった。
 災害直後の安否確認や救援には、多くのボランティアの力によるところが大きい。しかし、医師や看護婦、介護職員などの専門知識をもった者は即戦力となったが、ボランティアを適切にコーディネートできる者が少なかったこともあり、ボランティアが何をしてよいのかわからず混乱したケースも少なくなかった。
 また、障害のある人とのコミュニケーションやケアの方法がわからず、適切な援助ができない場合も多いので、専門職とチームを組んで避難所をまわるなどの救援活動が行われた。

 災害時には、専門的知識をもったマンパワーが求められ、平常時から災害時を想定し、被災現場ですぐに活動できる訓練を受けた専門職による「被災地救援チーム」の組織化も求められる。
 また、生活支援ということでは、緊急時だけでなく復旧期までの長期にわたるケアが必要で、継続的なマンパワーの供給体制の確立が望まれる。

1.被災地外から派遣されるマンパワー体制の確立
2.専門職による「被災地救援チーム」の組織化
3.継続的なマンパワーの供給体制の確立

[専門職による活動事例]

【医療チーム】

 医師、理学療法士、作業療法士で編成されたボランティアチーム(巡回リハビリテーションチーム)が避難所を巡回し、障害のある人や高齢者の医療的個別ニーズに対応した。

【メンタルヘルスケア】

 1月21日には、神戸市長田区保健所で地元精神科医師が診療を開始。その後1週間の間に被災地の10保健所で精神科救護所が開設される。2月のはじめには一般医療チームのいる避難所救護所に精神科チームが加わった。

【手話通訳】

・職を失ったが、職安に行っても手話通訳がいなくて困った。
・罹災証明をとるため区役所に行ったが、手話通訳が常時待機していて助かった。

【介護職】

・仮設住宅でのケアサービスを実施した。
・仮設住宅の障害のある人へのケアのため、全国身体障害者施設協議会から療護施設の介護職員を1施設1名、2週間単位で派遣した。

【カウンセラー】

・自宅で不自由な生活が続き、ストレスが生じた。避難所を巡回している日赤救護班に相談して健康チェックや話し相手になってもらった。

★その他、歩行訓練士、義肢装具士、福祉機器の専門家などの専門職の活動があった。

8.「福祉のまちづくり」について

 現在、地方公共団体においては「福祉のまちづくり条例」が制定され、あるいは検討が進められているが、今後、「福祉のまちづくり」にあたっては、防災対策の視点は不可欠である。また、「福祉のまちづくり」にあたっては、単に、大規模な施設等のハード環境面だけではなく、日常生活レベルにおいて、障害のある人に対する理解や障害のある人々とのコミュニケーション方法など、ソフト環境面にも配慮したまちづくりが重要である。
 また、「福祉のまちづくり」には、企画段階から障害のある人に参画を求め、必要な時期に障害関係団体等の意見を聴取することはもちろんのこと、実施状況を点検することが求められる。

 今後の「福祉のまちづくり」には、特に次の点において、障害のある人に配慮した対策が必要である。

1.避難場所および避難所(学校、公共施設、公園)におけるバリアフリー化の推進
2.生活情報の伝達方法の確立
3.「福祉のまちづくり」への障害のある人々の参画と点検

[震災により明らかになった問題点]

・停電によりエレベータが動かないなどで脱出できなかったケースがある。

・介助がないため、また補装具、日常生活用具等の破損により、避難所まで移動できなかったケースがある。

・道路事情、あるいは避難所案内の不備(特に知的、視覚障害)で避難所へ移動できなかったケースがある。

・医療、心のケア、生活援助、ガイドヘルプ、食事など生活支援について、障害のある人が避難所で暮らすことを想定していない。

・緊急時に障害のある人が主体的に生活を確保する、あるいはホームヘルパーの対応で共同生活ができるグループホーム型の小規模避難所が必要。

・道路やまちの整備について、わかりやすい表示案内や情報案内(知的、視覚、聴覚障害含む)が不十分。

「すべての人にやさしいまちづくりを目指して~福祉のまちづくり計画策定の手引~」

(建設省・厚生省 平成8年3月)では、防災関連事項として以下の点が指摘されている。

【計画づくりに取り組むにあたってのキーポイント】

・安全・安心の視点=災害弱者への配慮
福祉のまちづくりにおいては、日常の安全・安心を確保できる生活空間整備の視点のみならず、阪神・淡路大震災等の教訓を踏まえ、高齢者、障害者等の災害弱者が安心して生活できるように、災害の発生を防ぐための施設の整備や災害危険性の高い密集市街地の解消等を進めるとともに、避難地、避難路や医療・福祉等の機能を集中整備した防災拠点の整備、災害時の情報提供、支援体制等を整備するなど、災害時の安全性確保や不安の軽減についても配慮する必要がある。

【計画づくりの実際】

・災害に備えるための基盤
子どもや高齢者、障害者等の災害弱者にとって、日常生活の安全性確保や利便性向上に向けた生活空間整備のみならず、災害時の安全性の確保が必要不可欠であることから、災害に備えるための基盤の整備方策について示す。

【計画にあたっての視点】

・防災性に配慮した市街地・住環境の整備
道路、公園等の基盤整備水準が低い老朽木造密集地域等の既成市街地や、自然災害のおそれのある地域など、防災上課題の多い地域に、高齢者等が比較的多く居住している場合が少なくないことから、高齢者、障害者等の災害弱者に配慮した、防災性に優れた市街地・住環境整備の推進に配慮する必要がある。

[想定される具体策例]
防災性に配慮した市街地・住環境整備

  • ・防災上危険な市街地の解消、住環境整備の推進
    • 事業手法:土地区画整理事業、市街地再開発事業、住宅地区改良事業、密集住宅市街地整備促進事業等
  • ・避難地、避難路や医療・福祉等の機能を集中整備した防災拠点の整備
    • 事業手法:土地区画整理事業、市街地再開発事業、住宅地区改良事業、密集住宅市街地整備促進事業等
  • ・避難地、避難路等の整備及び安全性の確保
    • 事業手法:街路事業、都市公園事業、土地区画整理事業、市街地再開発事業、都市防災不燃化促進事業、住宅市街地総合整備事業等
  • ・床上浸水対策、災害弱者関連施設を保全する土砂災害対策等
    • 事業手法:河川事業、床上浸水対策特別緊急事業、ダム事業、砂防事業、地すべり対策事業、急斜面地崩壊対策事業、海岸事業
  • ・災害発生時の安全確保のための情報基盤整備
    • 事業手法:河川等情報基盤緊急整備事業

9.復興期の生活支援について

 今回のような大災害の場合、復興も長期にわたる。被災地は、震災後1年以上を経過してもなお、たくさんの課題を抱えている。そのなかで障害のある人をめぐる問題は、どのようなものであるのだろうか。
 この間題を仮設住宅と生活支援の視点から整理してみたい。

(1)仮設住宅における課題

 神戸市の行った障害のある人に対する仮設住宅の対応の詳細は、下記に示してあるが、優先入居についても、最初の優先枠には精神障害のある人は対象となっていなかったなどの問題があった。また、仮設住宅には障害のある人のための配慮がなく、せっかく抽選に当たってもここでは生活できないという声もあったことから、後日要望を聞いて使いやすいように改修した。
 仮設住宅については、次の課題があげられる。

1.仮設住宅への入居者募集広報の徹底
2.仮設住宅に必要な障害のある人のための整備
3.福祉サービスの提供の準備
4.バリアフリーな仮設住宅の標準化

【仮設住宅についての障害のある人からの声】

★仮設住宅への入居について

・精神障害は障害者に入らないので優先入居の枠からもれた(*後に年金1級を対象)
・4回落選し、5回目にやっと当選したが、毎日不安で眠れなかった。軽度の知的障害では優先入居の対象にならない。

★仮設住宅の環境について

・玄関、便所、浴室など、段差があって使えない。
・県費による改造は、スロープ、玄関のひさし、街路の砕石敷、街路灯、エアコンに限られているので苦慮している。
・いままで住んでいたところから離れているので、外出が困難。
・聴覚障害のある人の多くは針灸で生計をたてている人が多く、仮設住宅では営業行為ができない。(*後に開放営業の許可が出た)
・多くの視覚障害者が抱えている悩みは、自立の場でもある治療院をどう再建するかである。仮設住宅内では、鍼灸の営業ができない。兵庫県鍼灸マッサージ師会の調べでは、約1000人の会員のうち最も多いのは50代、次いで60代、40代の順。条件の緩やかな融資が提示されているが、50代で融資を受けても完済は70代になる。さらに新たな土地での開業は、すぐに生計に結びつかない。(*後に開放営業の許可がでた)

【仮設住宅に関する神戸市の動き】

1.入居方法等の推移

・優先順位 第1位-高齢者(65歳以上)のみの世帯・障害者(障害者手帳1、2級・療育手帳A)
・優先順位の第1位に精神障害者(障害年金1級受給者ならびに「障害の状況に関する証明書」の特別障害者)を追加(第2次募集時/2月28日~3月7日)
・優先順位の第1位に特定疾患患者等で障害年金1級受給者を追加(第3次募集時/4月7日~4月11日)

2.高齢者・障害者向け地域型仮設住宅

・避難所生活が困難な高齢者・障害者向けに、従前の居住地から近い地域にバリアフリー仕様の仮設住宅を建設した。(4月)
・部屋のタイプは6畳と4畳半の2つ。・出入口の段差なし・通路簡易舗装・廊下、階段、浴室、トイレ手すりつき・1階トイレ、流し台、洗面台車いす対応・1階低浴槽・緊急呼出しブザー設置・自動火災報知器設置
・生活支援サービスとして、・生活支援員による各種相談、安否確認、緊急時対応・警備会社による24時間緊急時対応(緊急呼出しブザー、火災報知器)および夜間巡回・ホームヘルプサービス、入浴サービス等の在宅福祉サービス、の実施。この仮設住宅への入居決定にあたっては、福祉事務所等と十分に連携をとって行うこと。

3.一般仮設住宅の環境改善

・災害弱者(65歳以上の高齢者、障害者手帳1級~4級所持者)のうち、冷暖房設備を必要とする者について設置。
・その他、外灯、ひさし、道路簡易舗装を実施するとともに、その世帯についても6月から全戸にエアコンを設置。

4.住宅改修

・入居予定者に車いす利用者がいる場合は、入居時期にあわせて玄関にスロープを設置した。その他、玄関・風呂場などの手すり、踏み台、段差解消などについても8月から希望者の申し込みを受け付け、順次改修工事を実施した。

(2)生活支援の課題

 生活支援の課題として、まずあげられるのは就労先の確保とさまざまな日常生活への援助である。自主的こ運営してきたグループホームや小規模作業所の多くが、この災害で損壊したが、利用者や家族からの再建や再開への要望は、切実、切迫したものであった。このような地域密着型施設の再建が、障害のある人々への生活を支えることになるのではないか。
 さらに、今回の災害では、損壊が軽微であったり、免れた小規模作業所が障害のある人のための避難所として、大きな役割を果たしたことも見逃せない。

1.障害のある人への就職情報のあり方
2.日常生活を支える援助のあり方
・長期化する避難生活への福祉サービスの強化など

・小規模作業所などは木造の老朽化した建物が多かったことが、震災での被害を大きくした。

・多くの職を失った障害のある人の就労先の確保、仮設住宅から恒久的な住宅への円滑な移転などさまざまな問題がある。

・道路が渋滞し時間がかかりすぎるため、更生施設へ通えなくなった。(知的障害)

・通所の経路が変わり、迷子にならないかと不安だったので、市役所に相談に行ったが窓口に留守番の人しかおらず、相談できなかった。(知的障害のある子の親)

・町なかで危険なところもあるため、1ヵ月通勤指導もかねて送迎したが、JRが開通するまで大渋滞のなかの送迎には疲れきった。(知的障害のある子の親)

・子どもを家に置いて出かけることも、連れて出るのも困難であった。通園施設の職員が巡回してくれて、子どもを見てくれている間に買物に出かけることができ気分転換にもなった。(知的障害のある子の親)

・母親の近くを2ヵ月以上離れなかった。本人の世話は母親がしている場合が多く、負担が多い。(知的障害のある子の親)

・救援物資などでパンが配給されるので、作業所で焼くパンが20キロから10キロに減った。それにともない、給料も減った。(知的障害のある人の作業所)

第2章 震災体験を活かす

-障害のある人への災害支援とマニュアルづくりのポイント-

 第1章では、今回の震災における障害のある人の被災状況を具体的事例を紹介しながら問題点を課題ごとに整理した。その結果、災害発生直後の救出・避難、避難所等での避難生活、復興期における生活の確保といった各段階に応じ、種々の問題点が明らかにされた。また、課題を検討する過程で、障害のある人々の災害時における支援策の根底をなすのは、平常時の障害のある人を取り巻く地域のあり方であり、障害のある人の地域生活の確立、すなわち、まちづくりの推進が最大の防災につながるということが明らかになった。
 これらの検討結果を踏まえ、第2章では、障害のある人々自身を含め、行政機関、障害福祉団体、社会福祉施設、社会福祉協議会等が、今後このような災害が起きたときにどのように取り組んだらよいのかの提言とそれぞれの立場で取り組むべき具体的な防災のポイントを示した。
 副題を「障害のある人への災害支援とマニュアルづくりのポイント」としたとおり、それぞれの立場でのマニュアルづくりの参考にしていただきたい。

 本章を構成する具体的な防災のポイントは次のとおりである。

1 障害のある人自身の防災への心構えと地域との関係づくり
2 地方公共団体の防災対策に関する8つのポイント
3 社会福祉施設の役割
4 障害関係団体と社会福祉協議会の役割

 1の「障害のある人自身の防災への心構えと地域との関係づくり」に関しては、障害別に配慮すべきことなどを具体的に記述し、防災の心構えとしてただちに役立つものとした。

 2の「地方公共団体の防災対策に関する8つのポイント」については、身近な行政である都道府県および市町村の障害のある人への防災対策のため、次の8項目を示し、援護体制を明確にした。各地方公共団体で作成される防災マニュアルに取り入れていただきたい。

(1)防災知識の普及と啓発
(2)防災訓練の実施と備蓄
(3)避難所の整備
(4)情報の提供と相談体制
(5)救援のためのネットワークづくり
(6)安否の確認とニーズの把握
(7)復興期の生活支援
(8)「福祉のまちづくり」の推進

 4の「障害関係団体と社会福祉協議会の役割」については、災害時に迅速かつ適切な支援ができるよう平常時から役割分担を明確にし、相互協力を推進していただきたい。

 なお、国の防災対策については、「防災基本計画」(国土庁)や「厚生省防災業務計画」(厚生省)が見直されており、障害のある人などに対する防災対策についても盛り込まれているところである。巻末の資料編に掲載したので参考にしていただきたい。

1.障害のある人自身の防災への心構えと地域との関係づくり

 今回の災害を振り返り、それぞれの課題を整理してみると、最大の防災対策は平常時のあり方にあるということが明確にされた。災害時には、障害のある人のみならず誰もが身体的にも精神的にも障害をもつ状態になる可能性がある。障害のある人の日常生活を理解することは、すべての人々の災害への備えともなるものである。また、障害のある人が暮らしやすい環境を整備し、障害のある人にとっての防災対策を考えることは、すべての人々にとっての防災につながるとともに、誰もが暮らしやすい地域やまちづくりともなるものである。

(1)安全な空間の確保

防災の第一歩は、平常時から「自分の身は自分で守る」という心構えを身につけて
おくことである。今回の震災のように大規模の災害が起こった場合には、まず、
自ら状況を判断して避難しなければならない。また、安全に避難するためには、
身のまわりの環境を整えておかなければならない。けがをしないために家具の転
倒防止、物の落下防止、ガラスの飛散防止等に心がけておく必要がある。

1.家具が倒れないように固定する。

2.重いものは、押入やタンスの下に入れる。

3.置物などは高いところには置かない。

4.ガラスが割れて床に散らばったときのためにスリッパなどを身近に置く。

5.避難しやすいように、寝室から玄関までの間には物をできるだけ置かないようにし、脱出ルートを確保しておく。

6.壁に筋交いを入れ倒壊しないよう補強する。

[障害別のポイント]

○視覚障害

・ガラスなどが飛散して、床が危険になるので室内にスリッパなどを用意する。
・ラジオがすぐに利用できるよう身近に置いておく。(または携帯ラジオを身につける。)
・仕事用の施術ベッドを固定しておく。

○聴覚障害

・補聴器を枕元に置く。小さいので紛失しないように工夫する。
・テレビ等のスイッチがすぐ入れられるようにしておく。
・ファックスを設置しておく。

○肢体不自由

・居住スペースは、できれば堅牢な建物の1階を選ぶ。
・車いすが通れる幅を常に確保しておく。
・車いすが倒壊した家具の下敷きにならないように安全な場所に置く。
・車いすが使用不能になったときのため、それに代わる杖などを用意しておく。

(2)備蓄と非常時用持ち出し品

災害が発生して応急救助活動が行われるまでには、一定の時間を要する。この
ため、「自分の身は自分で守る」という心構えが必要である。平常時から3日分
程度の食料、水、生活必需品、常備薬等の備蓄が望ましい。また、「いざ避難」
というときのために、持ち出すものを整理し、ひとまとめにしておく必要がある。
すぐに持ち出せるように、タンスなどにしまい込んでおかず、常時手の届くとこ
ろにおいておく。

[共通の非常時用持ち出し品]

・乾パンなどの食料、飲料水

・懐中電灯

・携帯ラジオまたはテレビ

・乾電池(定期的に取り替えたもの)

・身のまわり品(下着などの衣類、タオル、必要に応じおむつ、生理用品など)

・救急セット

・常備薬

・現金

・雨具

・「緊急連絡カード」(住所、氏名、緊急時の連絡先、かかりつけの医療機関、常備薬の種類などを記載したもの)

・非常ベル(緊急通報装置)

[非常時用持ち出し品として障害別に特に配慮ずる必要があるもの]

○視覚障害(弱視を含む)

・白杖、点字板
・糖尿病、緑内障のある人は、常備薬を忘れずに。

○聴覚障害(難聴を含む)

・補聴器と専用電池
・携帯ラジオは、文字放送つきが望ましい

○脊髄損傷

・携帯用トイレ

○脳性マヒ

・携帯用トイレ
・食事セット

○内部障害

・ストマ装具(備蓄は、最低10日~30日分が望ましい。)
・洗腸セット(水、ぬれティッシュペーパー、輪ゴム、ビニール袋、はさみ)

○知的障害

・常備薬と処方箋
・身の回り品や食べ物にこだわりをもっている場合は、それを考慮する。

○精神障害

・緊急連絡カードに、かかりつけの医療機関名、薬の種類を忘れずに記載しておく。

(3)避難場所の確認

 今回の災害では、避難場所を知らなかったという人が多かった。いざというと
きにあわてなくてすむように、避難場所を知っておく必要がある。また、避難所
や福祉避難所(仮称)の確認もしておく必要がある。

1.平常時に自分の住む地域の指定された避難場所を確認しておく。

2.平常時に避難所および福祉避難所(仮称)を確認し、実際に歩いて行ってみる。

※「福祉避難所」について(「大規模災害における応急救助のあり方」抜粋)

災害救助研究会 厚生省社会・援護局保護課

(福祉避難所(仮称)の設置)

・多数の被災者が避難する避難所では、要援護者は、生活スペースの確保や救援物資の受け取り等においても困難な状況におかれやすい。また、避難所に避難した要援護者や家族の中には、他の避難者との共同生活に馴染むことができず、危険な自宅へ戻った事例や、他の避難者の中にあって孤立するといった事例がみられた。
・災害発生直後、要援護者が通常の避難所に緊急的に避難することはやむを得ないとしても、すみやかに福祉サービスが受けられる施設へ移ってもらい、一時的にせよ安心して生活できる場を提供することが必要である。また、社会福祉施設に緊急入所してもらう上からも、要援護者はできる限り社会福祉施設へ避難してもらうことが必要である。このため、地方公共団体は、地域の社会福祉施設のうちから「福祉避難所」(仮称)としてあらかじめ指定し、その旨を要援護者をはじめ地域住民に周知しておくことが必要である。
・また、その前提として、地域防災計画においても対応可能な社会福祉施設を要援護者の避難拠点として位置づけ、平常時から利用可能なスペース、備蓄物資の把握等に努めておくことが必要である。この場合、地方公共団体においては社会福祉施設を災害救助基金による備蓄物資の備蓄場所とするなどの対応を図ることも必要である。
・なお、災害の規模によっては、あらかじめ指定された「福祉避難所」(仮称)のみでは量的に不足する場合も想定されることから、1福祉センター、2コミュニティーセンター、3公的宿泊施設等も同様に「福祉避難所」(仮称)として位置付け、これらの施設に対し、介護者を配置するとともに在宅福祉サービスを提供していくことも必要である。

(4)情報の確保

 今回の災害では、障害のある人には情報がなかなか伝達されにくいことが明らか
となった。地方公共団体や公共放送機関など情報を提供する者は、この経験を踏ま
え、障害のある人に対する情報提供のあり方の見直しが求められる一方、障害のあ
る人自身も日頃から情報を得る手段を確保しておく必要がある。また、救援を求め
なければならないときなどに自分自身の存在をどのようにアピールするかという、
障害のある人自身からの情報の発信も重要である。
 今回の災害では、障害団体等の活動が迅速であったこともあり、会員への情報提
供や安否の確認がスムーズに行われた。日頃からこのような団体へ加入しておくこ
とも、さまざまな情報の収集や援助を受ける際に役に立つと考えられる。

★日頃から入手しておく情報

1.地方公共団体の広報や福祉団体からの機関誌等によって、どこに連絡すればどのような情報が得られるか確認しておく。(地方公共団体の広報について、点字、録音などのものが必要な場合は、市町村に連絡すること)
2.必要な連絡先は、災害時に紛失しないように壁に貼ったり、ノートに整理しておく。
3.障害団体に加入するなど障害のある人どうしのコミュニケーションネットワークをつくっておく。

★障害のある人自身からのアピールのために

1.緊急時に、知らせてもらえる人(安否を確認してくれる人)を確保しておく。
2.市町村の福祉関係、かかりつけの医療機関、保健所等の相談窓口への連絡方法を承知しておく。
3.障害関係団体との連絡体制を確保しておく。
4.助けを求める方法を承知しておく。

【障害別のポイント】

○視覚障害

・携帯ラジオを常に携帯しておく。
・まわりの状況を知らせてくれる人を確保しておく。

○聴覚障害

・警察、消防、病院、行政、障害団体等との連絡に必要なファックス番号を確認しておく。
・救援のサインを練習しておく。
・手話通訳のできる人を確保しておく。

○肢体不自由

・緊急時の介護者を確保しておく。

○内部障害

・かかりつけの医療機関、常用している薬品名を確認しておく。
・人工透析を行っている場合、かかりつけ以外の医療機関への連絡方法を確保しておく。
・ストマ装置のメーカー、販売店の連絡先を承知しておく。家族にも同様の連絡先を知らせておく。また、処理方法を家族にも教えておく。

○知的障害

・パニックになって飛び出し、迷子になった場合に連絡してもらえるよう、名札をもっておく。

○精神障害

・かかりつけの医療機関、常用している薬品名を確認しておく。
・保健所や作業所等の連絡先を承知しておく。

(5)近隣・地域社会とのつながりを強める

 今回の災害の経験を振り返ってみると、日頃から障害のある人と近隣や地域社
会とのコミュニケーションがあることは、災害時の障害のある人々の救護や救援
に重要な役割を果たすことが明らかとなった。近隣とのつきあいのあった障害の
ある人には、迅速に救援の手がさしのべられたという事例が少なくない。また、
今回の災害をきっかけに、日頃交流のなかった近隣の人と親しくなれたという事
例もある。
 障害のある人が支障なく参加して生活できるような地域社会をつくることは、
誰にとっても災害に強いまちづくりとなる。このため、障害のある人は、すすん
で近隣や地域社会に「社会の一員」として参加することが必要であり、地域社会
は障害のある人を社会の一員として理解し受け入れる必要がある。

1.近隣の人々に「障害のある人」であることを理解してもらい、社会の一員として受け入れてもらう。

2.災害時には、情報に不自由することを理解してもらう。

[障害別ポイント]

○視覚障害

・情報に不自由し、行動にも不自由すること。
・周囲の環境が変化すると、一人では行動できなくなること。

○聴覚障害

・口話、手話、筆談でコミュニケーションができること。

O重症心身障害

・できれば、本人と関係をもっている医療機関、福祉機関を知ってもらうこと。

○知的障害

・精神的に不安になる場合があること。
・他人への配慮が得意ではないこと。
・特定のものにこだわりをもつ場合があること。

○精神障害

・必要な場合には、保健所、福祉事務所、医療機関などの、通常本人と接触しているスタッフに連絡をとってもらうことも必要なこと。

3.地域活動へ積極的に参加する

・町内会の行事に参加する。
・自主防災組織が行う防災訓練に積極的に参加する。
・地域の社会福祉協議会やボランティア団体と交流し、顔見知りとなっておく。
・地域の障害のある人を担当する相談員を知っておく。

(6)地域組織の役割

 地域に暮らす住民の約20%は障害のある人や高齢者などの災割こ際して必要な
情報を得ることや迅速、かつ、適切な避難行動などをとることが困難であり、災害
の犠牲になりやすい人である。このため、障害のある人を取り巻く近隣の人々は、
まず、障害のある人の生活を知ることが必要である。また、自らが「障害体験」
をすることも障害のある人を理解するうえで有効である。これらのことを通じて、
障害のある人への援助方法を知ることができる。

1.町内会(自治会)は、日頃から町内に住む障害のある人々との交流を図り、災害時には安否の確認が容易にできるようにする。

2.民生委員・児童委員、身体障害者相談員、精神薄弱者相談員および精神保健福祉相談員は、担当地域に住む障害のある人と接し、そのニーズの把握に努める。

3.自主防災組織は、障害のある人の救出のための機材(担架やおぶいひもなど)の用意をしておく。

4.防災訓練に障害のある人の参加を呼びかけるとともに、障害のある人を講師として救護方法の訓練をする。

・障害の特性に応じた救出方法を習得する。
・仮想災害(火災、家屋倒壊、福祉用具の欠損状態など)のもとでの救出訓練をする。

5.防災訓練には、障害のある人などを講師として障害体験のプログラムを取り入れる。

・目隠しをして町内を歩いてみる。
・聴覚障害のある人のコミュニケーション(初歩の手話、筆談)を体験してみる。
・車いすで町内、駅、市町村庁舎などを移動してみる。
・補助具などの重い負荷をつけて歩いてみる。

主題:
障害のある人への災害支援
災害時の障害者援護に関する検討委員会 報告書

発行者:
社会福祉法人 全国社会福祉協議会

発行年月:
1996年03月

文献に関する問い合わせ先:
社会福祉法人 全国社会福祉協議会
〒100東京都千代田区霞が関3-3-2
新霞が関ビル