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地域移行後の障害者地域自立生活を支えるスタッフ教育のあり方に関する基盤的研究

竹端 寛
立教大学社会福祉研究所

Ⅰ.はじめに

 筆者は、平成15年度から厚生労働科学研究補助金障害保健福祉総合研究事業「障害者本人支援の在り方と地域生活支援システムに関する研究」班(主任研究者:河東田博立教大学教授)の一員として、地域移行を実践している障害者入所施設における聞き取り調査を数回行ってきた。また平成15年度厚生労働科学研究障害保健福祉総合研究推進事業の日本人研究者派遣事業に採択され、5ヶ月間、スウェーデンのイエテボリ市で調査を行ってきた。その中で、地域で暮らす知的障害者の本人支援(Self Advocacy)のあり方と、イエテボリ市での地域生活支援の実状と課題について調べてきた。

 この二つの調査を通じ、上述の日本とスウェーデンの地域移行後の地域生活支援の実状を比較した時、その違いの根底には「法的・制度的基盤の違い」と「現場レベルの支援者の接し方の違い」の二つが大きく関わっていることが分かってきた。そして、日本でも地域移行にまつわる法的・制度的研究に関しては、既にスウェーデンのLSS法や日本の障害者福祉関連法・制度に関する様々な調査研究があるが、地域移行後の地域生活支援を「スタッフ教育」の面から論じた研究が管見の限りほとんどないことも明らかになってきた。また、日本の入所施設における実態調査からは、当事者の地域移行支援に従事する職員には、施設ケアと地域ケアの違いや新しい「接し方」に関して職員を教育するプログラムは存在せず、実際に地域支援を行う元施設職員の多くが、自身のこれまでのやり方と全く違う支援の仕方に「とまどい」を感じ、支援の方向性が見えずに「不安」を感じながら働いていることも明らかになってきた。

 一方、スウェーデンでは施設解体が始まった1990年代から、施設的ケアをしていた職員が地域移行した際にどのような接し方をすれば良いのか、に関する「接し方」に関する教育が現場レベル・教育機関レベルなどでなされてきた。そして、大規模入所施設の解体の際には、3年にわたった「解体のための職員教育プログラム」が実施され、地域で障害者が主人公となるケアをするにはどうすればいいのか、を現場職員が実践的に叩き込まれてきたことが明らかになってきた。

 この二国の現状比較から、今後の日本における入所施設からの地域移行に向けて、地域移行を支援する職員が「とまどい」や「不安」を感じずに本人主体の地域生活支援を展開するためにはどのような再教育プログラムが求められているのか、を明らかにし、スウェーデンで既に行われているような、現場で実際に使える教育プログラム案の構築することが、大変重要であることが分かってきた。

 そこで、今回筆者はこのプログラムの開発に向けた基盤調査を行うことになった。具体的には、もともと入所施設を持たずに重度障害者の本人支援や地域生活支援を長年にわたり充実させてきた先進的施設において、職員教育で実際にどのような課題や問題点を抱えているか、その解決のためにはどのようなことが求められているか、を分析する研究を行うことにした。本人主体の地域移行支援を実際に行っている施設における職員教育や組織的課題を分析することによって、今後日本の福祉施設全体における職員再教育の課題を明確にするのが本研究の主たる目的である。