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目に見えない障害のある大学生の就学支援:アメリカモンタナ大学の実例

渡部テイラー美香
モンタナ大学障害学生サービス部コーディネーター

項目 内容
発表年月 2007年9月

はじめに

アメリカ合衆国の高等教育機関(大学、短期大学、高等専門学校)で就学する障害学生の数は、全学生の11.3%を占めという調査結果が出ています(National Center for Education Statistics, 2006)。外見だけでは分かりにくい障害、目に見えない障害を「Hidden Disability」または「Invisible Disability」という言葉で表現することがあります。目に見えない障害とは、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、脳外傷、心理または精神障害、てんかん、アスペルガー障害が例として挙げられます。中でも、学習障害、ADHDを持っていると診断されている学生数は、高等教育機関で就学する障害学生の半数を占めるという報告が出ています。そのような障害は、就学に不可欠な読み書き、情報の理解、集中力、体力の維持などに困難をもたらすことがあります。本稿では、筆者が障害学生サービス部のコーディネーターとして勤務するモンタナ大学の実例を挙げながら、アメリカ国内の高等教育機関で、目に見えない障害のある大学生の就学支援について報告します。

障害の定義と障害者の権利

1.障害者の市民権を保護する法律

アメリカの高等教育機関での障害学生の支援を説明するには、法律で定められた障害の定義、障害者の権利を把握することは不可欠です。障害者の人権は、身体的・精神的な障害を理由とした差別を禁止する連邦公法、または州公法で保護されています。1973年に制定されたリハビリテーション法(Rehabilitation Act), 1990年に制定された障害を持つアメリカ人法(ADA法、Americans with Disabilities Act)で障害の定義は包括的に以下の3項目として表記されています。

「障害」とは、(1)個人の主たる生活活動(major life activity)のひとつあるいは複数について、著しく制限する身体的又は精神的な障害(impairment)がある、(2)そのような障害を持っていたという経歴がある、または(3)そのような障害を持っているとみなされる。

主たる生活活動(major life activity)とは、話す、聞く、見る、歩く、物を持ち上げる、座る、仕事をする、学ぶ、書く、読むことが例として挙げられます。学習障害、ADHD、心理または精神障害のため、生活活動に著しく困難が生じるのであれば、上記の定義に相当します。よって、そのような障害を持ち、合理的配慮の有無にかかわらず、入学条件を満たした大学生(適格障害者、英語ではOtherwise Qualified Individual with Disability)の権利は、リハビリテーション法、ADA法で保護されています。高等教育機関で、連邦政府または州政府から資金を援助されている機関の場合はADA第2章、リハビリテーション法504条が適用し、私立の高等教育機関の場合はADA法第3章が適用します。従って、障害のある学生に対して合理的配慮を高等教育機関が行わないとなると、その対応は同等な教育へのアクセスを提供しない、よって障害を理由として差別をしているということになり、違法になります。訴訟などを通して、教育機関の対応が違法と判断された場合は、その機関は罰則を科されます。

2.合理的配慮(Reasonable Accommodation またはModifications)

Reasonable Accommodationは日本語でいう「サポート」、「支援」と表現するよりも、障害のある市民が、障害のない市民と同等に自立し社会参加する為の、当然の権利という意味がむしろ強いように思います。社会が障害者にとって生活していく上に困難な環境であるから、合理的配慮でバリアを除去し、障害のある市民が対等に社会に参加できるようにするものと言っていいでしょう。

高等教育の場合、合理的配慮とは、大学で提供される履修内容、授業、基準評価、活動などの本質的なものを変えないで、障害学生が、障害を持たない学生と同等に教育に参加できるための配慮、または措置を言います。試験に関する配慮を例に挙げますと、印刷された試験の内容を変えず電子化または音声化することは、他の学生と同じ内容の授業を受け評価されるということで合理的配慮となります。

高等教育機関は障害学生に合理的配慮を行う義務がありますが、配慮が以下の項目に当てはまる場合は「不合理」と見なされます。

  • Fundamental Alternation

履修内容、授業、活動の本質的なものを変えてしまうもの。

  • Undue Hardship

はなただしい困難や出費を必要とするもの。

  • Personal Service

個人的なサービスと考えられるもの。例えば、障害の診断、車椅子、補聴器、食事やトイレの介護、チューターサービス、心理カウンセリング。

質問の数や内容を変更した試験を障害学生に与えるのは、評価の基準を変える、つまり本質的なものを変えることになるので、不合理と判断されます。よって、そのような処置をしてもらいたいと学生が願い出たとしたら、その願いは大学側で却下されます。

逆に、学生本人は合理的だと思う配慮を申し出たのに、大学側が却下したとしましょう。学生が大学側の決定に満足しない、またその決定は差別的だと考える場合、大学内のADAコーディネーター、公民権オフィスと言われる苦情の対応処理、調停を行う部署に、苦情の申し立てが出来ます。大学機関外に苦情を訴えたいのなら、訴訟を起こすか、アメリカ連邦教育省の傘下にあるOffice for Civil Rights (OCR)、または、差別に関する苦情の対処、調停を行う州の市民権局に申し出ることが出来ます。

アメリカの高等教育機関の障害学生支援室またはサービス室の中には、障害の診断、チューターサービス、心理カウンセリング・セラピーを提供するところがありますが、それは合理的配慮以上のサービスまたは支援を学生に提供したいと言う、支援室の考えから提供しているといっていいでしょう。アメリカの大学の中には、チューターサービス、カウンセリングなどを提供する別の部署がキャンパス内に設置されているので、学生はそれらの部署で直接サービスを受けます。もちろん、その部署でのサービスが障害学生にとって、障害を持たない学生と同じように利用できやすいよう、便宜を図ることが法律で義務付けられています。

障害者権利に関して忘れてはならないのは、障害者は合理的配慮を願い出る権利があるのと同時に、その配慮、または支援を断る権利も持っています。例えば、試験時間の延長を大学が障害学生に提案したとします。学生は、その延長という配慮を自分が必要なときにだけ使い、必要でなければ配慮の申し立てをしない。つまり配慮を使用するしないという選択をする権利が守られています。これは、歴史的に見られる、障害者を救済の対象とするパターナリズム(温情主義)を防ぐためです。

モンタナ大学の障害学生サービス部での支援体制

1.障害学生サービス部の概要

目に見えない障害のある学生の就学支援体制をモンタナ大学の実例を取って紹介する前に、まずモンタナ大学の障害学生サービス部の概要を説明します。1893年に設立されたモンタナ大学(The University of Montana)は、8万人の人口をかかえるモンタナ州ミズーラ市に位置する公立の総合大学です。2007年の春学期の学生数は13,309人、そのうち約85%の学生が学士号取得のため在学しています(University of Montana, 2007)。モンタナ大学で就学する障害学生は現在903人、全学生の6.68%を占め、その中でも、学習障害(168人)、ADHD(176人)、精神障害(113人)を持つ学生の割合は、障害学生全体の50.6%を占めます(Disability Services for Students, 2007)。筆者を含む4人のコーディネーターが、障害学生サービス部(Disability Services for Students, 以下「DSS」と略す)で障害学生の合理的配慮の相談、対応、調整を行います。サービスを希望する障害学生は、コーディネーターと面会し、障害がどのように学業、生活上に困難をきたすのかを話し合い、その困難から遭遇するバリアを除く為に合理的配慮を決めていきます。困難の症状は学生によってそれぞれ違うので、その症状、度合いを吟味した上で、コーディネーターは症状を補う適切な配慮の提案をします。よって、障害の種類だけで合理的配慮を決定することはありません。また、障害学生が障害のない学生と同等に就学できる教育環境をさらに整えるよう、DSSは、学部内の教員ミーティングに参加したり、大学教員、事務職員スタッフに対してのセミナー、トレーニング、相談対応を提供しています。また、地方、州、全国レベルで障害者の権利、社会への自立参加に関する活動に活発に参加しています。

2.セルフ・ディターミネーション(Self Determination)の重要さ
リハビリテーション法504条、ADA法、さらにモンタナ州人権法(The Montana Human Rights Act)を基に、障害学生が、他の障害を持たない学生と同様に、教育を受ける機会を持つという権利が保護されています。しかし、その権利を実際に保護する為には、学生が自ら考慮を申し出、自らの責任で配慮、サービスを利用する姿勢が求められます。それを行うのには、自分の障害がどのように勉強、生活に影響を与えるかという自己認識、いつ、どのような手段、方法を利用すると大学生活を送れるかという知識、判断力、実行力が要求されます。そのようなスキルを統括してセルフ・ディターミネーション(Self-determination)と言います。障害学生のセルフ・ディターミネーションを推進するために、モンタナ大学のDSSでは、全ての合理的配慮の提供の仕方が工夫されています。

3.合理的配慮の内容

目に見えない障害のある学生の症状、度合いによって合理的配慮はそれぞれ違います。しかし、配慮のいくつかは多くの学生が共通して利用しています。それらの項目を以下にまとめます。

(1)試験の配慮(Testing Accommodation)

DSSのオフィス内に、学生が利用できる試験用の部屋がいくつか設備されています。教員が教室内で障害学生に配慮を実施することが困難な場合、どのような配慮を使ってDSSの試験室で試験を受けるかを学生と教員が前もって同意をし、それを学生がDSSに連絡をして試験室を利用するという仕組みになっています。例えば、試験時間延長の配慮を多くの学生が利用しています。試験時間の1.5倍延長し、50分の試験時間のところを75分で試験を終わらせます。中には、試験時間延長を使って、短時間の休憩を何度か取るという配慮を利用する学生もいます。DSSの試験室を利用することによって、障害学生は他のクラスメートと同じ時間に試験を受けます。定められた試験時間帯に試験を受けることが困難な場合は、教員と同意した別の時間帯にDSSの試験室を利用して試験を受けます。

また、印刷された文章を読んで理解するのに困難な場合は、文章を読む人(リーダー、Reader)を使う、または印刷物をスキャンして電子化したものをソフトウェアーを利用して読むという選択が出来ます。また、文章を書くことが困難な場合は、コンピューターを使って文章を打つ、音声認識ソフトを利用して文章を打つ、または学生が言うことをそのまま筆記する人(スクライブ、Scribe)を利用する、など選択ができます。周囲にいる学生、または雑音が気になって集中するのが困難、てんかん症状または心理的症状が出る恐れのある場合は個室を利用します。

アメリカの高等教育での障害学生支援室の中には、障害学生が支援室に登録すると、支援室が自動的に教員に連絡を取って試験の配慮のアレンジをするところもあります。学生は試験がある度に教員に連絡を取らなくて済むので、学生にとっては便利なサービスかもしれません。しかしモンタナ大学のDSSでは、障害学生が得ようとする配慮を自らが決意し、責任を持って申し出、効率よく利用するという自立的な考えを養うために、自動的なアレンジはしません。

(2)ノートテイカー

授業中にノートを取ることが困難である場合、ノートテイカーを合理的配慮として、同じクラスを受講している学生からコピーをもらうようにします。障害学生自身がノートテイカーを見つけて採用するというのが基本ですが、それが不可能、困難な場合は教員の助けを学生が求めます。DSSでは、ノートを無料でコピーしたり、カーボンノートを学生に提供します。DSSから、学期末にノートテイカーに報酬が支払われます。ここで大事なのは、障害学生が、ノートを取っているクラスメートに責任をもってコミュニケーションを取り、質の高いノートを確保することです。また中には、ノートテイカーをバックアップとして利用するとともに、講義を録音して、それをコンピューターで文章化し独自のノートを製作する学生もいます。

電子情報技術が発達普及した今日では、授業で使用するパワーポイントを、事前にウェブサイトに掲載する教員が増えてきました。そのため、ノートテイカーが必要な障害学生は授業前にパワーポイントに目を通して、授業の流れを前もって把握でき、また、パワーポイントを自己のノートテイクとして使用する学生も多くなってきました。

(3)優先授業登録(Priority Registration)

学期が始まる3,4ヶ月前に来学期の授業登録が行われます。登録は2週間に渡って行われ、大学院生、大学4年生、3年生、2年生、そして1年生の順番に登録できます。優先事業登録が合理的配慮である障害学生は、大学院生が登録する前日に授業登録することが出来ます。例えば薬物治療を行っている学生の場合、服薬の副作用により、午前中、頭がぼんやりして集中できないということがあるとしましょう。その場合は優先授業登録を利用して出来るだけ午前中に行われる授業を避けるということが可能になります。逆に、午後になると集中力が落ちる学生の場合は、午前中に行われる授業の登録が可能になります。または、障害のため疲れやすく続けて授業を取るのが難しい学生の場合は、出来るだけ授業時間の間隔をあけてスケジュールを組むことも出来ます。優先授業登録を効果的に利用するためには、学生の前持った準備、例えばどの科目を履修しなくてはならないのか前もって理解しておく、所属する学部内のアドバイザーに早期に会ってどの授業を登録するか決定しておくという、学生の責任が不可欠です。

(4)Alternative Format

アメリカの高等教育機関で学ぶには、教科書を読んで理解するのは当然のことであり、それを怠ると授業についていくのに悪戦苦闘すると言っていいでしょう。目に見えない障害、例えば学習障害、ADHD、精神障害のある学生の中には、読んで理解することが難かしい、また、かなりの時間を要するという学習困難を持つ学生は数多いです。そのような学生の場合、プリントされた教科書を読むことのバリアに対面すると言うわけです。ですから合理的配慮を利用し教科書に書かれたことを理解することが大きな役目となります。Alternative Formatとは、教科書、授業に必要な補足資料を、電子化、拡大文字化、または人を利用しての朗読を通じで、書かれた内容または情報を別のフォーマットに換えることを意味します。

対面朗読を希望する学生の場合は、Auxiliary Aid(人的な補助)と呼ばれるアルバイト学生のリストをDSSから得て、障害学生が直接連絡をするか、障害学生が独自で補助をするバイト生を探して雇用のアレンジをします。雇用の費用はDSSが負担します。

A)対面朗読以外でAlternative Formatを利用する場合

学期が始まる前か直後に、学生がDSSコーディネーターにAlternative Formatを使用したいと申し出ます。使用する教科書または資料の種類によっては、アメリカ国内にあるRecording for the Blind and Dyslexic (RFB&D)で音声化されたもの、またはオンラインでデジタル化された書籍がダウンロードできるBookshare.orgで、すでに電子化されたものを利用します。RFB&DやBookshare.orgのサービスを学生がいつでも利用できるため、DSSはその学生の年間会員料を支払います。しかし、使用する教科書がそれらの団体にない場合、DSS内で高速スキャナー、Optical Character Recognition (OCR)ソフトを利用し、教科書を電子化します。これをEテキスト(E-Text)といいます。学生の好みによって、EテキストはPDF、テキストフォーマット、ワードフォーマット化され、CD-ROMとして配布されます。または、持ち運び安いブックポート(BookPort)という機材にダウンロードし、Eテキストを聞くことができます。そのほかの機材として、RFB&Dの録音図書を聞くためのDAISYプレーヤーの無料貸し出しの利用も出来ます。

B)ATソフトの利用

コンピューターのソフトを利用してRFB&D、Bookshare.orgから得た図書、またはEテキストを利用することも出来ます。例えば、Freedom Scientificから販売されているWYNNやJAWS、American Printing House for the Blind(APH)のBook Wizard Readerがあります。それらのソフトをAssistive Technology(AT,支援技術)と言います。ATはモンタナ大学内にある7箇所のコンピューターラボに設備されており、ラボは朝8時から夜10時まで利用することが出来ます。また、朝7時から夜中まで開館している図書館内にあるコンピューターにもATが設備されています。さらに図書館にはアクセスセンター(Access Center)があり、4台のコンピューター全てにATソフト、スキャナーが用意されており、学生が図書館が開館している間いつでも利用できるようになっています。また、このセンターは比較的静かなところにあるので、音声認識ソフトであるDragon Naturally Speakingを利用して文章作成ができます。

モンタナ大学内のコンピューターラボに設備されているWYNN(画面読み上げソフト)とスキャナー
写真:モンタナ大学内のコンピューターラボに設備されているWYNN(画面読み上げソフト)とスキャナー

手のひらサイズのブックポート(BookPort)
写真:手の平サイズのブックポート(BookPort)

C)ATトレーニング

ATは障害学生の就学に大きな貢献をしています。しかしながら、今までATを使った経験が全くないという学生が少なくない為、ATを効果的に使えるように、DSSに所属するATコーディネーターが1対1のトレーニングを学生に提供します。必要なソフト、機材の説明、デモンストレーション、または質問応答がトレーニングの主な内容ですが、学生の中にはATを自己負担で購入したいので、どのような機材を揃えたらよいかという相談にも乗ります。また、ATを使用中に起こるトラブルもATコーディネーターがバックアップとして対応します。

(5)その他の配慮

配慮には、前記した、法律で保護された障害者権利の項目で説明したように、合理的(Reasonable)と判断されればいろいろとあります。一例として必須科目授業をほかの授業で補うというものもあります。英語ではコース・サブスティテューション(Course Substitution)と言います。大学が要求する履修科目のための変更申し出は容易ではありません。時間と労力が必要です。DSSはバックアップ支援として、合理的配慮を申し出る権利を持っている、また特定の履修科目を受ける際の困難さの度合いを記した証明文書を、学生のために作成します。過去の例として、対面恐怖症の障害をもつ学生が、学部履修で必要なスピーチの授業を取っていました。人前で単独でスピーチをするとなると恐怖を感じ吐き気をもようし、授業に参加できないことが続いたため、その学生は、教授に障害を持っていることを話し配慮をしてもらうよう願い出ましたが、それでも参加できない。そこで学生は、在籍する学部に、スピーチの授業の代わりに他の授業を取ることによって履修科目を満たしたいと願い出ました。必要な書類、学生との面談を通じて、学部側は、この申し出が履修全般の本質的なものを変えるものではない、つまり合理的であろうと判断し、別の授業を取ることを許可した例があります。

4.バリアレポート、障害学生の為の障害学生で構成されたグループ

幾ら法律で障害学生の教育を受ける機会均等の権利が守られているからといっても、大学のキャンパスには物理的、心理的、情報的バリアがまだ潜んでいます。それを障害学生自らが発見して、それらのバリアを取り除く過程に参加するよう促進するため、また、障害学生の意見を大いに取り入れようという考えを基に、「バリアレポート」が存在します。バリアレポートとは、大学のキャンパスでのバリアを報告または改善要望を、インターネットを利用して提出できるものです。障害学生だけではなく、大学教員、大学事務員、スタッフ、また大学施設サービスを利用する一般の市民も利用できます。その報告は電子メールとして直接DSSの室長に送られ、その後調査が行われ、解決方法、改善方法を、バリアレポートを提出した本人に返答し、対処すると言うものです。必要に応じて、そのレポートを大学内の委員会に提出して吟味することもあります。

さらに、モンタナ大学にはAlliance of Disability and Students at the University of Montana (ADSUM)という、障害学生の為の、障害学生で構成された学生団体があります。活動のひとつとして、大学内の委員会に参加し、大学の授業、プログラムが障害学生にとって他の学生と同様に参加利用できるよう、障害学生の代表として意見を委員会に述べます。バリアフリー委員会、建物計画審議委員会、安全衛生委員会、メンタルヘルス委員会、学生就学支援に関する大学の予算委員会など幅広い内容で、障害学生の意見、考えを提案しています。そのため、モンタナ大学の障害学生は、ADSUMの活動に積極的に参加し課題の解決に取り組むよう、奨励されています。

まとめ

障害者の機会均等の権利を保障する法令を下に、多くの障害学生がアメリカの高等教育で就学しています。本稿では、アメリカ国内の高等教育機関でよく見られる、目に見えない障害のある大学生の就学支援について、モンタナ大学の実例を挙げながら紹介しました。目に見えない障害のため、読み書き、集中、情報の理解、体力の維持などに困難がある学生が、障害のない学生と同等に大学で学ぶには、アクセスしやすい学びの環境を提供する大学側の努力はもちろん、障害学生の知識、判断力、実行力(セルフ・ディターミネーション)が大事であることを述べました。障害学生の積極的な意見と活動を通じて、本当の意味のアクセスできる教育環境体制が実現できると思います。

文献

National Center for Education Statistics. (2006). Profile of Undergraduates in U.S. Postsecondary Education Institutions: 2003.04. Washington, DC: U.S. Department of Education

University of Montana Disability Services for Students (2007). 2006-2007 Annual Report Missoula, MT: Author.

University of Montana (2007) UM Posts Enrollment, FTE Record For Spring Semester Missoula, MT: Author.

筆者

渡部テイラー美香(わたなべていらー・みか)
愛媛県出身。1995年に渡米。2001年にモンタナ大学大学院カウンセリング学科メンタルヘルス専攻修士課程卒業。現在同大学大学院教育博士課程在籍中。2002年から同大学のDisability Services for Students (DSS、障害学生サービス部)でコーディネーターとして勤務。障害学生の相談対応、合理的配慮、サービスの提供を行う。渡部テイラーを中心に、障害のある高校生,高卒生を対象にした3日間の大学体験セミナー(Transition Seminar)をモンタナ大学で毎年夏に開催。筆者の連絡先、セミナー、またはDSSの活動はウェブサイトに掲載されている。http://www.umt.edu/dss/