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第7回障害者権利条約締約国会議報告

情報センター 野村美佐子

 2014年6月10日から12日にかけてニューヨークの国連本部で締約国会議に参加した。
 146か国から障害者団体の代表を含むおよそ700人が参加した。本締約国会議でのテーマ別ディスカッションは、障害者権利条約を2015年以降の開発目標に組み込むこと、障害を持つ若者、および国内の実施とモニタリングであった。9日に本会議に先立って記者会見があった。そこには、国連経済社会局(DESA)障害者権利条約事務局チーフである伊東亜紀子さんも出席をしており、日本が最近批准したことに関連して、今後の希望やリーダーシップについて意見を聞かれた。伊東さんは、(1)批准を記念して、日本政府、ポーランド政府、DESA、日本障害フォーラム(JDF)が共催で権利条約のモニタリングについて、特に市民社会の役割に焦点を当てるサイドイベントを開催すること、(2)日本政府、RI、DESA、ESCAPなどが共催する災害リスク軽減に関するサイドイベントがあること、(3)国連が日本の市民社会の団体と協力して、昨年の障害者のハイレベル会議での成果文書をアクセシブルなマルチメディアで出すなど、アクセシビリティについてパートナーシップを持って取り組んでいることを話したことが印象的であった。

 ここでは、締約国の会議の内容、JDFおよびDESAフォーラムなどに焦点をあてて報告する。

会議のオープニング

 第7回締約国会議は、ケニヤの国連常駐代表のMachara Kamau大使が司会として、また副議長としてバングラデシュ、ブルガリア、エルサルバドルとイスラエルが担当した。
 会議が始まる前に人が多すぎてオーバーフローしたため、そのための会議室が割り当てられた。オープニングでは、Kamau大使の挨拶に続いて、国連事務総長が潘事務局長のメッセージを読み上げ、障害者権利委員会委員長のマリアソリダ、そして市民社会を代表してインドネシアのRisnawati Utamiからご挨拶があった。

障害者権利委員会の委員の選挙が開催

 障害者権利委員会は18人のそれぞれ独立した18人で構成されている。障害者権利条約34条により、上記18人のうち9人が2014年の12月31日で解任されるので、委員の選挙が6月10日の締約国会議で行われた。9人以上の候補があったが、最終的に選挙により、再選が4人、5人がナイジェリア、コロンビア、韓国、リトアニア、モーリシャス、セルビア、中国から新規に委員として選出された。
 詳細は以下を参照のこと。 http://www.ohchr.org/EN/HRBodies/CRPD/Pages/Elections2014.aspx

日本政府代表部の吉川大使が日本政府代表として発言

 今年の1月に日本は批准したため、締約国として本会議に出席したのは初めてである。吉川大使は、今回政府代表団として出席しているJDFの藤井克徳氏と日本の障害者基本計画の政策や実施状況について政府に提言する障害者政策委員会の前委員長である石川准氏を紹介し、市民社会の役割、国際協力の重要性、障害と災害の3点についてステートメントを出した。最後に「我が国は、この締約国会議を重視しており、他の国連加盟国及び市民社会と協力していくことを誓う。我が国は、国際協力、また障害者権利委員会に将来参加することを通じて、積極的にこの条約に貢献していく考えである。」と述べているように、今後のJDF等の市民社会とのパートナーシップなどが期待される。

障害者権利条約の実施について--ラウンドテーブル1

 障害者権利条約の条項を2015年以降の開発アジェンダに組み込むというテーマについてであった。最初にパネリストとして国連ハンガリー常任代表のZsolt Hetesy大使、UNDESA持続可能な開発のディレクターであるNikhil Seth氏、エチオピアのAddis Ababaにある障害と開発センターの運営責任者であるYetnebersh Nigussie氏(視覚障害者)、そして太平洋障害フォーラムの共同議長であるLatoa Halatau氏(視覚障害者)が参加した。パネリストより、「誰も取り残されない」ことや「インクルーシブな社会」に向けて、2015年以降の開発アジェンダにCRPDを動員力(mobilizing force)とすることの重要性が述べられた。

 パネリストの最初の発言の後に、日本政府代表としてJDFの藤井氏がフロアからの質問を行なった。2011年に起こった東日本大震災の障害者の死亡率が住民全体のそれと比べてはるかに高い死亡率であったことを述べて、障害者の視点から防災政策の見直しを図ること、新たな防災政策の検討、新たな政策に基づく実施や検証等のあらゆるプロセスに障害者が実質的に参画することの重要性を訴えた。そして、「国連のポスト2015年開発目標が障害者権利条約に立脚して策定されることは間違いなかろうが、合わせて大震災の教訓を新たな開発目標の基調に据えてほしい。パネリスト各位の意見を伺いたい」として質問をパネリストに投げかけた。その質問に対し、すべてのパネリストが東日本震災の経験を踏まえた日本の提案に賛成した。

藤井克徳氏

 最後にパネリストからデータ収集の重要性、好事例の収集(たとえばZero project での収集が挙げられている。)とその普及等が述べられ、司会者が障害者は単に受益者だけでなく、原動力となること、また障害者のニーズについてだけでなく、障害者を有用な資源として考え、固定観念を変えることが必要であるとまとめた。

障害者権利条約の実施について-ラウンドテーブル2

 テーマは、国内での実践とモニタリングについてであった。このテーマのパネリストは、ケニヤのMwara Maigua氏、ガテマラのSylvana Lakkis氏(president of the Lebanese Physical Handicap Union)、ガテマラのSilvia Quan氏(Chief Officer of the Disability Rights Defense Unit at the Guatemalan Human Rights Procurator's Office)とインドネシアのRisna Utami氏であった。Quan氏は、権利条約33条に基づき、独立したモニタリングのメカニズムが必要だとしている。
 この討議のなかで日本政府代表として石川准氏が質問をQuan氏に対して行なった。日本政府は障害者の権利条約(CRPD)の実施をモニタリングするという目的で障害者基本法の改正により独立した仕組みとして内閣府障害者政策委員会「Commission on Policy for Persons with Disabilities」(CPPD)を設置した。石川氏は、政策委員会の委員長であり、同委員会は、市民社会の代表によって構成され、その半数は当事者団体から選出された。内閣府が権利条約の33条関連の諸締約国の仕組みや運用を調査したところ、締約国政府による報告とは別に監視機関が権利委員会に報告を提出している場合があった。そこで以下の2点について質問した。

  1. 締約国政府またはその監視機関が望めば、障害者の権利委員会は国内モニタリング機関からの報告を受理し総括所見をまとめる参考となるのか。
  2. 今後障害者の権利委員会は国内モニタリング機関に報告の提出を求めることが多くなると考えてよいか。

石川准氏

 それに対してQuan氏は、報告に関しては国内の監視機関からの報告を含むかどうかはそれぞれの締約国に任せることにしていると答えたが、独立したモニタリング機関からの報告が国の報告に含まれると考えているとした。そうしたことがないかもしれないが、国内の人権機関からの表に出てこない報告(Shadow Report)も歓迎しているとした。そして多くの報告により、33条に順守しているのかの分析の質を高めることになる。またEUのDirectiveの方向性についてのコメントに対応して、33条をどのように実施するかについての研究報告がすでに国連人権高等弁務官事務所のサイトで見ることができ、そこには多くの貴重な勧告があることが述べられた。

サイドイベント

 今回の締約国会議に合わせて約40以上のサイドイベントが行われた。その中で2つのサイドイベントについて報告したい。

(1)サイドイベント:権利条約と実施における市民社会の参画

 上述したようにJDF、国連日本政府代表部、DESA、国連ポーランド政府代表部の共催で6月10日(火)の13:15~14:30に行われた。参加者は締約国代表者と障害者団体を含む市民社会の人たちで車いすの障害者なども多く、140人の参加者があり盛況だった。その趣旨は、以下である。
 「権利条約の発効から6年が経過し、締約国は140カ国を超えている。権利条約の精神である「Nothing about us without us」をふまえて、条約の批准や実施の過程への、障害者団体を含むCSOの参加の重要性について改めて認識する必要がある。本イベントでは、権利条約の批准と実施における民間団体の参画について、日本その他の締約国の好事例・経験を共有し、民間と政府の共同の参画について、日本その他の締約国の好事例・経験を共有し、民間と政府の共同のあり方について話し合う。」
 イベント中、手話通訳と要約筆記の情報保障があった。手話は、健常者がアメリカ手話で通訳を行い、聴覚障害のある通訳がアメリカ手話を国際手話とした。いつもペアで動いていると言っていた。またパネリストが日本語で発言を行う際には、多くの人が同時通訳の声を聞くというより、要約筆記による文字を見ており、とても役に立っていた。
 イベントのプログラムは、日本障害者リハビリテーション協会の副会長で日本RIセクレタリーの松井亮輔氏によって進められ、パネリストはJDF幹事会議長の藤井克徳氏、元障害者政策委員会委員長である石川准氏、アメリカの合衆国国務省民主主義・人権・労働局国際障害者人権特別顧問であるジュディ・ヒューマン氏、ポーランド労働・社会政策省経済分析・予測局大臣参事官であるヨアンナ・マチェイェフスカ氏、そして国連社会経済局の障害者権利条約事務局チーフである伊東亜紀子氏であった。
 藤井氏は、批准に向けての国内法整備、批准後の実施に向けた、障害者団体の取り組みと政府および議連とのパートナーシップについて述べ、石川氏は、障害者政策委員会の取り組みについて話し、ヒューマン氏はオバマ大統領が就任(2009年)してからからアメリカが権利条約の署名をしたこと、さらに批准に向けた取り組みが行われていることを述べた。マチェイェフスカ氏は、批准と権利条約の実施の取り組みとその成果、そして課題を話してくれた。課題の一つとしてポルトガル語への翻訳について語っていた。伊東氏は、障害者権利条約の採択に向けた多年にわたる取り組みを振り返ると、今は、たくさんの市民社会のリーダーが政府の代表となって参加しており、その数は増えているように感じていると述べ、また国連と市民社会、またその他の国境を越えた関係者、つまりマルチステークホルダパートナーシップにより、多くのリーダーが権利条約の同じ目標に向かって取り組んでいくことが期待されると述べた。その1つの事例として昨年行われた障害者のハイレベル会合をあげていた。今後のマルチステークホルダーの様々な取り組みを期待したい。

プログラム(英文):
Civil Society Participation in Ratification and Implementation of the CRPD:Programme

サイドイベント1

(2)サイドイベント:DESAフォーラム‐障害者も参加する防災(インクルーシブな災害リスク軽減)とレジリアンス

 DESAが主催し、国連日本政府代表部、国連国際防災戦略事務局(UNISDR)、国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)、国際リハビリテーション協会(RI)、日本財団、JDF、アクセス可能な技術と環境に関するグローバルアライアンス(GAATES)との共催で6月11日の13:15~15:00にサイドイベントを開催した。

 今年の4月22日から23日にかけて仙台で開催された「障害者も参加する防災アジア太平洋会議(仙台会議):知識を通じて固定観念を変えよう(注1)」に続く障害者も参加する防災をテーマにしたラウンドテーブルディスカッションが行われた。スピーカーとしてUNISDRのエリナ・パーム氏、日本財団の石井靖乃氏、RIのヤン・モンスバッケン氏、UNESCAPの秋山愛子氏、JDFの藤井克徳氏、DAISYコンソーシアムの河村宏氏、そしてGAATESのベッティ・ディオンであった。

 伊東氏の司会でプログラムが進められ、最初に国連日本政府代表部の久島公使のご挨拶があり、次にJDFが作成した「生命のことづけ」の短縮版が上映された。次に石井氏が仙台会議について主催者として報告し、モンスバッケン氏がRIの立場で、また秋山氏は、ESCAP加盟国政府は、2012年に大韓民国・インチョン(仁川)に集まり、2期目となるアジア太平洋障害者の10年(2003-2012)を締めくくるとともに、新たな10年の開始を採択したが、その際のインチョン戦略をベースに災害リスク軽減について述べた。藤井氏は、日本の東日本大震災の経験から、また河村氏は、情報のアクセシビリティに関連してアクセシブルなマルチメディアを紹介しながら、ディオン氏は、障害者の物理的なアクセシビリティへの焦点から障害者も参加する防災とレジリアンスについて発言を行なった。パーム氏は、新たな兵庫行動枠組み(Hyogo Framework for Action-HFA)の観点から現在の状況を述べた。これらの発言は、新たなグローバルな枠組み(HFA2)の開発とすべての人にとって持続可能で、平等で、インクルーシブなポスト2015年開発アジェンダに至る交渉に貢献できる有意義なフォーラムであったと思う。

コンセプトペーパーとプログラム(英文):

関連プレゼンテーション:

  • Asia-Pacific Meeting on Disability-inclusive DRR in Sendai
    Yasunobu Ishii Director, International Program Department The Nippon Foundation
    11 June 2014, UN Headquarters New York
    DESA Forum on Disability and Development:
    Roundtable Discussion on Disability-inclusive Disaster Risk Reduction and Resilience

サイドイベント2

サイドイベント2

サイドイベント2

会議の決議

 6月12日の本会議において以下の3つの決議がなされた。

  1. 来年の第8回締約国会議を2015年6月9日から11日まで、ニューヨークの国際連合本部にて開催する。
  2. 今後3日間の締約国会期中に開催する6回の会合に対し、今回同様の適切な支援の提供を継続して行うよう、事務総長に勧告する。
  3. 同会議の報告書を、すべての締約国並びにオブザーバーに送付するよう、事務総長に要請する。

 今回の1月に批准した日本が、本会議の発言、またサイドイベントの開催など、積極的な参加があったように思う。障害者権利委員会の参加も含めて、今後日本における障害者権利条約の実施に向けて日本政府および障害当事者を中心にした市民社会に積極的な取り組みを期待したい。

注1:仙台会議の成果文書の日本語訳は以下にある。

http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/bf/sendaiprogram140422.html