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ゼロプロジェクト( Zero Project )に参加して

特定非営利活動法人 支援技術開発機構(ATDO) 丸市 剛

 ゼロプロジェクトは障害者権利条約の原則と目標に基づき、バリアのない世界を目指し活動することを目的としています。2010年にEssl 財団により開始され、2011年よりWorld Future Council、2013年よりEuropean Foundation Centerがパートナーに加わり運営しています。ゼロプロジェクトでは毎年テーマに沿った世界中で取り組んでいる革新的な実践や政策の事例を表彰しています。2013年は雇用、2014年はアクセシビリティ、2015年は自立生活・政治参加、2016年はインクルーシブ教育とICTについて革新的な実践と政策が発表されました。この4つが主要テーマとなっています。
 2016年2月10日~13日にオーストリアのウィーンにてゼロプロジェクトが開催されました。ゼロプロジェクトレポート2016によると、2016年は98カ国から合計337もの事例の推薦がありました。その中から革新的な実践の取り組みとして86の事例が取り上げられ、革新的な政策の取り組みとして12の事例が取り上げられ授賞式で表彰されました。受賞した事例は会議の中で代表者から発表されます。過去の表彰された革新的な実践や政策を見ると日本からは2014年のアクセシビリティがテーマの年に革新的な実践としてEvacuation manual in DAISY Multimedia Format、また革新的な政策としてCheaper mortgages for accessible homesが表彰されています。2015年の自立生活・政治参加がテーマの年には革新的な政策としてEnfranchising people under guardianshipが表彰されています。また、ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業の研修生として以前来日されてたバングラディッシュ出身のVashkarさんが自国でのDAISYを活用した教育の取り組みを発表されました。

オープニングセレモニーの様子

(写真:オープニングセレモニーの様子)

 今年の会議日程は3日間でしたが合計30以上のセッションが開催されました。会議が開催された会場には大きさが異なる会議室がいくつかあり、それらの部屋を同時刻に使用することで異なる内容のセッションを同時進行することを可能にしていました。また、会場内にいくつものテーブルやイスが設置されている場所が数か所あり、いつでも参加者が休憩したり、他の参加者との話し合いができる空間が設けられていました。加えて軽食なども用意されるので、会場の外に出なくても事が済み、ある意味会議に集中できる環境が整っていると言えます。さらに、会議場入口近くには白杖や車イスを使用しアクセシビリティについて体験することができる空間を設けており、セッション意外にも会場内の様々な場所で工夫している点が見られました。
 基本的に参加者はどのセッションでも参加することができ、発表者以外の席は自由で、各セッションに質疑応答の時間が設けられ参加者も意見を述べることができました。発表者も他のセッションでは参加者として参加し、様々な事例を学ぶ姿勢を会議全体から感じました。会議室にはモニターに生字幕をつけたり、手話通訳者を設置することでバリアのない環境づくりを実現していました。また、参加者の会議の理解をより深めてもらうためにセッションの内容をわかりやすくイラストでまとめ、そのセッションの最後に参加者へ発表する取り組みがあり、内容理解を深めることが出来ました。また、参加者は希望すれば会場内に自身のスペースを割り当てられます。そのスペースを利用して製品やポスターなど展示することができ、活動を紹介することができます。
 革新的な実践や政策の発表以外にも団体や企業が既に市場に出ている製品や開発中の製品を参加者の前で実演しながら発表するテクノロジーショーも開催されました。紹介された製品の中には、口だけを使用してドローンを操作することができる製品や、パソコンの画面操作を目の瞬きだけで操作する製品などがありました。パソコンの画面操作を目の瞬きだけで操作する製品を発表したスタッフによると対象としている人数が世界で数十人と話を聞き、印象的でその製品開発に込める強い思いを感じました。

テクノロジーショーの様子 展示スペース

(写真:左:テクノロジーショーの様子 右:展示スペース)

 私が参加したセッションをいくつか紹介したいと思います。
 Non-formal education and sportsと呼ばれるセッションではイスラエルのろう者に関する取り組みの紹介がありました。ろう者の仕事を創り出す市場の形成、偏見がない社会、現在使用しているネガティブに見られる手話をネガティブに見られないように新しい手話を創り出すことなどを目標にした地域レベルでの取り組みが紹介されました。このプロジェクトでは手話を使用したミュージックビデオが製作され地域の人々や中には有名な人も参加したことで、この取り組みが広く認識されているとお話されていました。トルコからはSpecial Olympicsの活動で、知的に障害を持つ子どもと持たない子供が一緒にサッカーをするプロジェクトの紹介がありました。このプロジェクトを通じて地域の人々が知的障害について理解を深めるだけではなく、参加者が自信を身につけることができたり、参加者の親も自分の子どもの新たな面を発見することができたようだとのお話がありました。イタリアからは音楽を通じて自閉症の子どもたちのコミュニケーションスキルを向上させる取り組みが紹介されました。歌うだけではなく比較的容易に演奏できる楽器も使用することでコミュニケーションスキルの向上に繋がり、音楽は言葉を使わなくてもコミュニケーションを可能にすると発表者の方はお話されました。
 Inclusive Universitiesと呼ばれるセッションではエストニアからの事例が紹介されました。このプロジェクトはバリアフリーでない建物、アクセシブルでない教材、障害に関しての教授や職員の理解不足、カウンセラーの不在、奨学金の不足などを改善するために21の団体が2008年から取り組んできたということです。支援が必要な生徒を他の生徒が支援できるようにする教育の取り組みも紹介されました。結果として、省庁による同取り組みの継続、支援が必要な学生数の増加、支援が必要な学生の理解促進、カウンセラーの設置ができ、2016年からは奨学金が省庁の予算から支払われることになるようです。オーストラリアからはシドニー大学の取り組みが紹介されました。大学のキャンパス内で知的な障がいを持つ学生が自信を身につけることや仕事に関する技術の習得などを目標に掲げた取り組みです。プログラムに参加する生徒は、聴講生として授業などに出席し、課題を提出(点数なし)、証書を取得することができます。これからこの取り組みは、インターンシップを含んだプログラムや奨学金プログラムの継続を検討しており今後の動向も気になります。上記以外にも銀行の窓口にモニターを設置して手話通訳者を呼び出せるようにする取り組みや、e-learningシステムを利用する取り組みについてなど様々な事例が紹介されました。

イラストによるセッションのまとめの様子

(写真:イラストによるセッションのまとめの様子)

 私が紹介した事例は一部であり、その他の事例についての情報は下記のURLよりアクセスできます。
http://zeroproject.org/downloads/#toggle-id-10

 短い日程でしたが世界で取り組まれている様々な事例について触れることができた非常に内容の濃い会議だと感じています。会議で発表しなくとも隣の席に座った人と話したりすることで新しいネットワークの構築にも繋げることが可能な会議という印象も受けました。
 来年2017年のゼロプロジェクトのテーマは2013年度と同じく雇用となります。つまり、ゼロプロジェクトで設定された4つのテーマが一回りすることになります。2013年に紹介された事例からさらに発展しどのような新しい革新的な実践や政策の事例が紹介されるのか注目したいと思います。