音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

意見発表(石川准)

井上●
最初に、石川准様にお願いしたいと思います。

石川●
こんにちは。静岡県立大学の石川です。私は全盲です。特に視覚障害を中心にした話をさせていただこうと思います。
障害のある人もない人も、誰もが自由に見たい本を見たい時に読める社会を実現したいという、強い希望、目標を私たちは皆共有しているわけですけれども、そのための努力をそれぞれの立場で、できることをしていると思います。
実は今年はルイ・ブライユというフランスの盲人、この人は点字を考案した人ですが、その人の生誕200年に当たります。また、石川倉次という日本点字を考案した人が生まれて150年という、図らずもそういう年に当たっています。また、日本点字図書館が誕生して来年で70年になります。それから著作権法における著作権の制限という手法によって本を読む自由、権利を拡大していくということが行われてきたわけですけれども、その最初が、今から40年前、点字による複製を制限とするということをやったわけです。その後、点字に続き、情報提供施設の音訳については複製することが認められました。

さらに今から10年前、公衆送信、ネットワークを通じての提供が、著作権法上でも明示的に認められるようになりました。そして今回の改正により、ようやく電子データがその対象となりました。長年求めてきたことがついに実現したと感じています。
また、今回初めて「視覚障害等」という形で、いわゆる視覚障害のみならず視覚的な情報の認知に困難のある人に対してもサービスを提供する道筋が開けたということ、これは非常に大きなことだと思います。

社会的な条件や技術的条件、この二つの組み合わせによって、その時々でできること、しなければならないことが大体決まってくるように思います。私たちはコンピュータとネットワークの時代に生きている以上、その時代的な条件のもとで何ができて、何をしなければいけないかを問われている、その責任を私たちは担っていると思います。
これまでの著作権法改正は大変長い道筋で、関係各位の調整・ご努力によって実現したことに対して敬意を表したいと思います。とは言いましても、残っている問題はまだたくさんありまして、いまはまた、新たなスターティングポイントだと思います。

現状で電子データからDAISY図書を作るための工程は、本を電動カッターで背表紙を裁断しまして、スキャナにのせて画像をファイルにして、OCRソフトで認識します。これは認識系の技術ですからどうしても間違いが大分出ます。それを人が原本と付き合わせて校正してテキストデータを作ります。さらにそれをDAISYオーサリングにかけるという一連の作業になります。単純な、図表などを含まない本でも2~3週間程度の工数を要します。
これを何とかしていきたいわけですが、そのためには出版社が持っている印刷用のDTPデータからテキストファイルやXMLファイルにエクスポートして、情報提供施設等に提供していただく何らかの方法、道筋をつけていくのが次の課題だと考えています。

バリアフリー、アクセシビリティというのは、ユニバーサルデザインと支援技術あるいは福祉支援サービスの組み合わせ、協働作業によってよりよく実現できるものです。社会実装性という点で、最も有効な方法だと言って間違いないと思います。そのためには、いかにして出版社が持っているデータを、妥当な方法によって利用者まで転送して活用できるようにするか。できるだけ上流で問題を解決することが肝要です。情報処理の流れの下流、一番下まで来てから、OCRで認識しているというのは極めて効率が悪いし、全体として見て合理的とは言えないということです。
そのために、どういう方法が一番よいのかについては今後関係者が調整して協議し、合意形成していくということが必要です。有償による調達なのか、読書バリアフリー法なのか、あるいは国会図書館による関与などを検討する必要があると思います。

それから、ユニバーサル電子出版への期待ということについても触れたいと思います。例えばすでに、米国等ではAmazonのKindle(キンドル)といった電子ブックリーダーであるとか、ソニーの電子ブックリーダーなどが市販されています。間もなくBarnes & Noble(バーンズ&ノーブル)というアメリカの一番大きな書店チェーンもNook(ヌック)という電子ブックリーダーを発売します。これは超薄型で折り曲げもできるような電子ペーパーを用いているようですけれども、こういったものを使った電子ブックリーダーの市場化が進んでいます。そのためのコンテンツとして、多くの書籍、新聞、雑誌等が電子化されています。なおKindleは、音声での読み上げ機能を標準で搭載しています。一定程度、ユニバーサルデザイン化が進んでいます。

こうしたユニバーサルデザインと、新聞、雑誌、書籍の電子書籍の市場化によって、これまでよりもさらに多くの人たちが読みたい本を読みたいときに自由に読める社会の実現ができるのではないかと考えます。
電子ブックリーダーは無線あるいは携帯の3G網にアクセス機能を搭載し、いつでもどこでも新聞とか雑誌、書籍をダウンロードして読書することができるので、障害のある人にもない人にも、自由に本屋雑誌や新聞を読む機会を提供できるサービスだと思います。
ということで私の報告は、今回の著作権法の改正を踏まえ、さらにその先どのように進めていけばいいのかということについて、新しく再スタートを切るための今後の道筋、目標ということを中心にお話をしました。
私たちは、既に多くのものを確かに得ています。見える人も見えない人も、聞こえる人も聞こえない人も、これまでの先人たちの努力によって社会の中で多くのものを得ています。だからこそ次の時代に対して責任を負っていると考えます。そういう意味で、誰もが、障害のある人もない人も、自由に本を読める社会を作っていく役割や責任を、これからさらに一層、担っていきたいと考えています。以上です。

井上●
どうもありがとうございました。