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事例報告

細川 恵未(奈良県香芝市立関屋小学校 教諭)

スライド1
(スライド1の内容)

こんにちは。奈良県からまいりました細川と申します。

私は通常学級の担任をしています。その通常学級の中にいるLDをお持ちのお子さんとの関わりを、彼が3年生の時から、3年間担任をしていますので、その3年間の中で、DAISYとどう出会って、今どうやって学級で使っているかというお話をさせていただきたいと思います。

この生徒さん(A君)ですが、私と出会う前、2年生の頃、「俺アホやもん、勉強なんかどうせできひんし、死にたい」とよく口にしていたそうです。その彼がこの3年間の中で自尊感情を高め、最近では「俺はアホやないで。勉強の仕方が違うだけやんな、先生」ということを彼自身が口にしました。ここまで高まった陰には、彼の努力もあり、また友達の支えもあり、そしてDAISYのおかげもあったと、私自身はとても感じています。

スライド2
(スライド2の内容)

私が今日来た奈良県なんですが、奈良の大仏さんや鹿や、あと若草山の山焼きがあったりとかで、とても歴史的にも有名なものが多い場所です。

私が勤めている学校は、有名な奈良市とは少し離れていまして、万葉集にも歌われている二上山という山を望んで毎日勉強をしています。全児童は359人と、全学年2クラスで少し規模の小さな学校です。

私が子どもたちとの出会ったのは2年前です。彼らが3年生のときなのですが、新任として関屋小学校に配属された頃でした。皆、素直で明るくて、とても元気いっぱいで、授業にも積極的な子どもがたくさんいる、そんなクラスでした。

その中にA君はいたのです。A君と出会ったときは、コミュニケーションには全く問題はなく、よくお話も自分からしてくれますし、係の仕事や当番の仕事もとても進んで自分からしてくれました。仲のいい友達も多いので、休み時間はみんなで一緒になって外にでて遊んでいるという元気のいいお子さんでした。ただ、授業中になると読み書きに大きな困難があり、3年生の最初に出会った頃には、ひらがなの読みもできないというような状態でした。通級に2年生の途中から通っていたので、通級ではひらがな一文字の読みからこの頃やっていたそうです。

これがA君にとっては大きな問題だったのです。本人はとても自信がない状態で、それが原因で、気に入らないことがあるとすぐにふさぎ込んでしまって授業に参加できなかったり、掃除道具入れの前で体育座りして頑として動かない様子が、とても私はよく覚えています。

スライド3
(スライド3の内容)

スライド4
(スライド4の内容)

3年生のときには教室にA君に対してこのような支援をしていました。イラストがあった方が文字をイメージしやすいということで、こんな「あいうえお」表を使ってもらったり、掛け算も全く入っていなくて、3年生で割り算を習うときに掛け算ができないと割り算なんてとてもできないので、掛け算の九九の表も渡して、いつでも使っていいよというふうにしていました。

そして、僕にもできるという場面が増えるように支援をしながら、1年生で習うような簡単な漢字から私や友だちと一緒に教室の中で勉強するようになりました。みんなはもちろん3年生の漢字の練習を進めているのですが、A君はできるものから、簡単な漢字から一緒にやろうね、ということでやっていました。できるということがA君にはとてもうれしかったようで、「これやったら、簡単や、書けるわ」とか言いながら、進んで勉強するようになりました。

スライド5
(スライド5の内容)

そして11月の漢字テストなのですが、みんなと同じものをやらずに、私が手書きで書いたテストで、90点取れるというくらいまで成長することができました。みんなと同じではないけれども、僕にもこれだけできて、テストで90点を取れたということが彼にとってはとてもうれしかったようで、すごく自信につながったようです。

A君がDAISYと出会ったのはこの頃でした。

スライド6
(スライド6の内容)

スライド7
(スライド7の内容)

通級指導教室の先生がA君にDAISYを紹介してくれました。その頃学校で勉強していた「三年とうげ」を通級の教室で一緒に読んだそうです。そのときには、A君は画面をじっと見て、聞くという形でしたが、一通り聞き終わった後に、「これ、めっちゃいいやん!」ということで、A君にとってはすごく好印象だったようです。

ただ、通級の先生によると、通級の指導で使うにはA君の読みのレベルがまだ追いついていないので、通級の指導には今は使わず、まずは単語の意味とか、書きの方からやっていたようです。

3年生の終わりになって、A君はとても学習に対して意欲的になりましたし、授業中に席を立つことは全くなくなりました。そして、「僕は勉強がんばった」、「漢字が読めたり書けたりできるようになった」という言葉を3年生の終わりに私に対して言ってくれました。そして、「僕、4年生になったら、みんなと一緒の勉強をしてみんなと同じテストを受けたい」というふうに私に言ってくれました。

スライド8
(スライド8の内容)

これが私が学校でDAISYを使ってみようかと考えたきったけになる言葉でした。

通級の先生と学校でDAISYを使うためにはどうしたらいいかと話し合いをしました。A君は読んでもらえば理解できるという場面がとても多かったので、内容が理解できていればより積極的に授業にも参加できるのではないかという話をしました。DAISYを使うことで、通級ではまだまだ使えませんが、学校の中で使うことによって、もしかしたら読みの力がちょっと上がるかもしれないという話もしました。そして何より、お母さんとの関係がとても悪くなっていて、A君は読めないので、お母さんに宿題も読んでもらわないと、国語も算数のプリントもできない。でも自分が宿題をやりたいときにお母さんが都合よく読んでくれるかというとそうではない。タイミングが合わなくて、読んでほしいときに読んでもらえない。自分ではできないということで、お母さんとの関係がとても悪くなっていました。

スライド9
(スライド9の内容)

そのお母さんとの距離を離すためにも、DAISYを使って自分一人で宿題ができる、音読できるという環境にした方がいいんじゃないかという話をしました。

そして、A君がクラスのみんなと勉強したいという気持ちが思いが強かったので、教室で使えたらいいねという話をしました。

スライド10
(スライド10の内容)

教室でDAISYを使おうと考えていたのですが、そのときに一番私が配慮したことは、なぜA君だけパソコン使ってるの?とか、ずるいなあという思いを周りの子どもが持たないかなということでした。それを解消するために、A君に対する支援をみんなにも自然と知ってもらう。またDAISYは特別なものではなくて、使いたい人が誰でも使えるものだということを、周りの子どもたちにも知らせていくことにしました。

まず導入として、学校全体で取り組んでいる朝の読書の時間にDAISYを使って大きな紙芝居のような感じで、みんなでお話を読むことにしました。上の写真は電子黒板を使って、下の写真は教室で大きなスクリーンを持ち出して、そこに映してということで、みんなで一緒のお話を読んでいます。これは他の子どもたちにもすごく印象がよくて、「今日、DAISYで読むよ」って言ったら、「やったー!」という感じで、「先生、今日何読むの?」と子どもたちも楽しみにしていたようです。

スライド11
(スライド11の内容)

授業中はこんな形で使っています。上の写真なんですが、パソコンが2台出ているのがおわかりになっていただけるでしょうか。実はクラスの中で2名、個人的に使っているのです。この2名は自分のパソコン。前には学校の教諭のパソコンを使って、前にスクリーンで映し出して、黒板と併用しながら使っています。これは国語の授業です。

スライド12
(スライド12の内容)

誰でもいつでも使っていいよということを知らせていきたかったので、教室の中にDAISYコーナーというコーナーをつくりました。パソコンを置いてCDを置いて、休み時間にいつでも使っていいよということで子どもたちにお知らせしておくと、パソコンの使い方は最初は教えましたが、1人に教えておけば、みんなどんどん覚えて休み時間に使ってくれました。

スライド13
(スライド13の内容)

テストもリハ協や奈良デイジーの会の方々のご協力をいただいて、DAISY化していただきました。A君は今まで私がすべて問題文を読んでから解いていくということだったんですが、DAISYがあって初めて、テストも自分で取り組むこともできたということもあり、これはすごく自信につながったようです。

初めてテストをDAISYで受けたときには、すごくうれしそうな表情で、「先生、1人でできた!」ということを言ってくれました。

スライド14
(スライド14の内容)

4年生になってから教室でDAISYを使い始めて、4年生の最後、「ごんぎつね」を勉強したときにクラスで音読大会をしました。

A君はこのとき、DAISYを使っておうちで音読の練習をして、本番では紙の教科書だけを持って最後の場面をすべて読み切ることができました。今まで音読をクラスでしていても、グループで発表したり、A君は1行だけとか3行だけだったりしましたが、今回は長い文章を1人の力で読み切ったのです。これも彼の自信につながり、また周りの子どもたちからも、「A君すごいな!」「やったな!」という声が上がりました。

スライド15
(スライド15の内容)

現在は5年生になり、DAISYの輪がクラスの中でも広がっています。B君という生徒が今クラスにいて、B君も学習支援が必要なお子さんです。A君がDAISYを授業で使っている様子を見て、私が「B君も使ってみる?」と声をかけてみたところ「うん、使ってみたい」ということで使い始めました。今では授業中も自分でパソコンを使ったり、テストのときにはDAISYを使って取り組んでいます。

スライド16
(スライド16の内容)

通常学級の教室でDAISYを使って、まずはA君に対する成果ですが、授業に対する意欲がとにかく上がりました。DAISYを使ったことはないのですが算数でも意欲的に取り組むようになりました。

テストに1人で取り組めるのは、とても大きな成果だと私も思っています。読みレベルも通級の先生と話していると、読みのレベルもやっぱり上がったよねというのが私たちの感じていることです。読もうとする姿勢が見られるようになりました。最近の朝の読書の時間では、自分で学級文庫の中から絵本ですが、紙の本を持ってきて、自分でパラパラめくりながら読んでいる姿が見られるようになりました。

スライド17
(スライド17の内容)

5年生になってから、「大造じいさんとガン」で朗読大会をしました。このときも「先生、ふりがな、振ってくれへん?」と私のところへ教科書を持ってきて、「いいよ」と全部ルビを振ってあげました。そうすると、おうちでもDAISYを使わずに「大造じいさんとガン」は紙の教科書だけで朗読の練習をして、本番の朗読大会も見事に読み切ることができました。

A君自身は、とても読むことに対しても意欲的に取り組むことができるようになってきました。

次に周りの子どもたちへの成果です。去年、国語の「ごんぎつね」のとき、DAISYをクラス全体で使用してきました。

「DAISYを使った学習はどうでしたか?」とクラスの子どもたちにアンケートという形で聞いてみました。すると、「読んでいる所が光ってくれるのでわかりやすかった」という答えや、「読んでくれるとお話の内容がとてもわかりやすかった」という意見や、また、「みんなで大きな画面で見て読んで楽しかった」など、とても肯定的な意見がたくさん出てきました。

スライド18
(スライド18の内容)

またA君ではない、他に読みに課題を持つ子どもたちに効果が見られたのではないかと私は感じています。テストの点数にも少しいい結果が出ているのですが、DAISYを使わずに1学期にテストをした「白いぼうし」のテストと、3学期にDAISYを使った「ごんぎつね」では、テストのクラス全体の平均点にも少し差が見られて、DAISYを使った方がよかったという結果が出ました。特にクラスの中で、指をたどって普段から読んでいるような子どもたちのテストの点数には、すごく効果があったような子どもも、中にはいました。

最後は、先ほど紹介した、DAISYを新しく使い始めたB君への効果です。B君もDAISYを使うことによって、やはり意欲の面で私は一番伸びていると感じています。B君も社会の時間などでは、DAISYは使っていませんが、本読みでは「ハイ!ハイ!」と自分から手を挙げて発言してくれたりしています。

スライド19
(スライド19の内容)

教室で使って、教師の私にも、とてもよかったなと思う面がいくつかありました。DAISYをうまく使えば、教師の負担は減ると思います。

A君は宿題で国語の話を読んでくるということでDAISYを使い始めました。DAISYで読んでくることで内容が先にわかっている状態で授業に取り組めるので、授業中にA君につきっきりにならないといけない時間がぐっと減りました。その分、他の子どもたちも、教師自身も目を向けることができたので、私はとてもよかったんじゃないかなと思っています。

A君とB君が国語だけでなくいろいろな教科で取り組む姿勢がとてもよくなっているのはとてもいいことだと思っています。

最後にこれからの課題なのですが、教室で活用するためには環境面での壁が私は大きいと思っています。私が勤めている学校の中でも、パソコンが用意できなかったりします。今はリハ協さんからお借りしてる分をA君、B君で使っていますが、他のクラスで使いたいとなったときに、パソコンの用意が難しいという問題があります。

スライド20
(スライド20の内容)

あと、香芝市ではまだ学校の中でインターネットの環境が整っていません。これからどうやって活用していくかという、環境面での壁はすごく大きいと思っています。また、一斉授業での活用例がないので、手探りで行っています。もっとよくしていきたいと思っていますが、どうやっていけばいいかなと日々考えています。

一斉授業の中で導入するときに、今回は「なぜA君だけ?」、「ずるい」とかならなかったのですけど、やはり教師の側に配慮の必要がとてもあると思っています。

スライド21
(スライド21の内容)

私自身はDAISYを使って勉強するのは通常学級の中でも当たり前にできるようになればいいな、すべきだなと、とても感じています。

これからも実践を続けていきたいと思います。ありがとうございました。