音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

EPUB3とDAISYの連携による可能性

河村 宏(特定非営利活動法人支援技術開発機構 副理事長)

スライド1
(スライド1の内容)

ご紹介ありがとうございます。皆さん、こんにちは。今日はこれまで大変充実した報告を伺うことができて大変うれしい気持ちで聞いておりました。私もできるだけうれしい報告をしたいんですがそうなりますかどうか。お楽しみに。

私のテーマは、今までDAISYと言ってきて、今度、EPUBと一緒になるということです。EPUBの開発をDAISYコンソーシアムは全力を挙げてやりました。その結果はどうなったんだろうということです。

まず最初に国際情勢から。DAISYは国際規格なので、国際情勢から確認したいと思います。国連の障害者権利条約の第2条には、はっきりと「アクセシブルなマルチメディア」という言葉が出てきます。英語でも「accessible multimedia」で日本語では「アクセシブルなマルチメディア」といっています。この条約が採択されたとき、このように表現されたものの内容を知っていた人はほとんどいいないです。中身は、その当時具体的に存在していたのはDAISYのことです。それは間違いありません。ずっと交渉に携わってきた一人が、モンティエン・ブンタンというタイの全盲の上院議員で、彼はタイ政府代表として交渉に入っていて、この文言をきちんと入れるということを大変熱心にやってくれました。

スライド2
(スライド2の内容)

スライド3
(スライド3の内容)

まず、国連の障害者権利条約というレベルで、「アクセシブルなマルチメディア」というのは、手話や点字や字幕と同じように必要なものなんだということがきちんとうたわれているというのが国際的なまずバックグラウンドです。

スライド4

それを前提にして、これまでUNESCOや国連の本体、あるいはITUなどと、DAISYコンソーシアムは各地で共同のイベントを国際的に展開してまいりました。その中で強調してきたのは、知識を共有するための基盤、「知識基盤」と言いますが、それをユニバーサルデザインで変えていくんだということです。

スライド5
(スライド5の内容)

ここで言っているユニバーサルデザインというのは、ユニバーサルデザインが一つあれば何でもかんでもできるということではありません。必ずそこには点字ディスプレイとかDAISYプレーヤーとか、あるいは車いすとか、それぞれの障害のニーズに合った支援するための道具、それときちんとつながって動作する、そういうデザインがユニバーサルデザインなんだという考え方です。

ですからDAISYの場合には、出版のユニバーサルデザイン、図書館のユニバーサルデザイン、教育のユニバーサルデザイン、あるいは職場の情報とコミュニケーションのユニバーサルデザインという中に、きちんとアクセシブルなマルチメディアが入っていかなければならない。そういう意味でのユニバーサルデザインの根幹にすわる技術としてDAISYを開発してきたわけです。

日本でこれまでは、災害弱者と呼ばれる人たちが災害のたびに命を失ってまいりました。今回の東北の大災害においても、65歳以上の方が亡くなった方の中の55%。いくつかの都市、特に石巻などは、非常に高い率で障害のある人、手帳を持っている人が亡くなっています。平均して一般住民の2倍と言われています。そういう災害弱者が事前の防災知識やどこに避難したらいいのかということとか、あるいは当日どこにどういうふうに逃げれば助かったはずだということが、障害があるが故にわからなかったケース、あるいはわかっても逃げようがなかったというケースが多々あったというふうに考えられます。そういう意味で、災害の時というのは実は知識のアクセスがものすごく大事だということです。

スライド6
(スライド6の内容)

今、スライドに出している写真は、オレンジ色のライフジャケットを着ている人たち、これは皆、DAISYの開発者たちです。2005年に北海道の浦河町にみんな集まって、ここで災害が起こったときに、どういう情報のアクセスが必要になるのかというユニバーサルデザインの勉強会をやりました。災害をモデルにして、これまでDAISYは情報のアクセスにおいて、どういうニーズがあるかということをずっと積み重ねてきているわけです。

スライド7
(スライド7の内容)

その具体例として、北海道浦河町では2005年のちょっと前から、浦河べてるの家という精神障害や知的障害、発達障害を中心にする人たちの互助組織で、DAISYを使った防災マニュアルを使ってずっと避難訓練を積み重ねてきました。

スライド8
(スライド8の内容)

スライド9
(スライド9の内容)

スライド10
(スライド10の内容)

スライド11
(スライド11の内容)

その結果、冬の真夜中にも凍てついた夜の北海道で避難訓練をやるという実践を重ねた結果、今回の東北震災のときには3月11日には2.8メートルの津波が来て、車も大分流されて経済被害が3億円でしたけれども、特にべてるの人たちは模範的な避難を実行して人命損失は町全体でゼロでした。そういう意味で浦河での防災の取り組みは非常に効果があったというふうに私たちは評価していますし、浦河町の防災担当の方たちも、べてるの人たちが訓練どおりきちんと率先して避難したので町民もそれに続くことができたという評価をしています。

スライド12
(スライド12の内容)

ではもう一つ、人が自立する上で重要な特別支援教育においては、DAISYはどのような役割を果たしてきたのか、果たそうとしているかということです。

スライド13
(スライド13の内容)

世界で一番早くDAISYを録音図書で導入した国は日本です。前世紀末ですから間違いなく一番早いです。今あるDAISYのボランティアグループの皆さんの一番早い時期の製作も、まさに前世紀末です。それからずっとやっている。なんとSigtunaソフトはその頃からずっと使っているわけです。非常に長命なソフトであるわけです。

スライド14
(スライド14の内容)

ところが、平成12年のDAISYの録音図書目録に書かれていることですが、皆さんご存じのように、その時点で日本障害者リハビリテーション協会は目録の序文に、「学習障害や知的障害の人々にもDAISY図書は有効だ」ということを主張して、何とかそれを使えるようにするための著作権改正の取り組みを訴えているわけです。

法改正については、平成21年1月に文化審議会の著作権分科会の報告書ではっきりと「DAISY図書」あるいは「発達障害・知的障害」という言葉を用いて著作権法の改正が必要であるということを10年後にやっと認めた。これは10年間の皆さんの運動の積み重ねがあったということであります。

その積み重ねの中の一つに、教科書を非常に先駆的に、苦労しながらマルチメディアで作って、実際にそれを使って、成果を上げた子どもたちという存在があったということであります。その後、著作権法の33条、37条が相次いで改正されて、一昨年、2010年1月以後は、著作権法上は、DAISYを非常に作りやすい状況ができてきたということであります。

スライド15
(スライド15の内容)

文科省もITの導入ということで、先ほど、お二人の先生が教室での様子、特に普通教室でどういうふうにDAISYを使うかという話をされましたが、それを絵にしたようなものを文科省自身もウェブサイトに掲げて、こういうふうなことが望ましい、ICTの活用だということで言っています。しかし、なかなか特別支援教育でというところに子どもたちのニーズに合わせて活用していくということは、文科省全体としての取り組みはまだまだ弱いし、それに必要なコンテンツ、教科書をDAISYにするということについても、文科省は経済的な負担をしていないわけです。全くのボランティア頼りになっている。こういうところにちぐはぐさはあります。しかしながらその有効性についてというのは、どういうふうに切り口を持っていっても、文科省は有効性は否定していないということであります。

スライド16
(スライド16の内容)

スライド17
(スライド17の内容)

平成21年、22年度、先ほどの野村さんからの報告にありました、文科省の委託研究の成果報告書の中にも出てくるんですが、その委託研究のときに、リハ協から文科省に出された報告書には次のような一節がありました。「今後、EPUB3とDAISYの連携により図書製作プロセスが大幅に自動化される、コストダウンできる可能性がある」ということを、報告はしたんですけれども、ちゃんと受け止められたかどうかはちょっとわからないところなんです。

スライド18
(スライド18の内容)

今年度末にいくつかまた文科省の委託研究の報告が上がりますので、そこでこの可能性に何とか気づいてくれることを期待したいと考えています。

DAISYのアプローチですけれども、ずっと国際標準を作るということで、出版から変えていこうというアプローチをしてまいりました。

スライド19
(スライド19の内容)

機能的にはナビゲーションとかテキストを読み上げるとか、読み上げている部分が大きくなったりハイライト表示したり。それから数式まで読み上げられるようにするとか、いろんな非常に最先端の技術を持っていますが、それを単なるアプリケーションではなくて標準規格として、いわゆる出版や図書館といったところ全体を底上げする規格を作るという戦略をもってやってまいりました。

EPUBとは、EPUBを開発している団体の設立以来、DAISYコンソーシアムはその中心メンバーとして参加しておりまして、最近は会長団体として、EPUBの開発を先導する役割を果たしてまいりました。結果として、DAISYの方からはアクセシビリティをはじめとする機能を提供する、そして日本語などの世界的な言語への対応はDAISYだけではできないので、それはEPUBと協力して、EPUBの活動にDAISYが参加してやるということで、EPUBの開発に合流をしました。

スライド20
(スライド20の内容)

そして実際にいろんな技術面で非常に共通するところがあります。それをいくつか証拠をお見せします。特にこれまで待望の日本語の縦書きとルビ、禁則処理、こういったことはDAISYだけではとても実現できそうもありませんでした。でも今度EPUBと一緒にやって、日本語対応をきちんとできたので、その共通の成果物であるEPUBだったらできるんじゃないかということを、何とか早く確認したいというふうに考えているわけです。

スライド21
(スライド21の内容)

スライド22
(スライド22の内容)

スライド23
(スライド23の内容)

スライド24
(スライド24の内容)

スライド25
(スライド25の内容)

新しいEPUBの規格というのはDAISYで言いますと第4世代の規格に相当するもので、音声、テキスト、動画、これらをいろんな形で組み合わせることができるというものであります。手っ取り早く申し上げますと、今、画面に出していますのは一太郎の、あと数日後に発売されるものを先日β版をいただいてきたものです。これは一太郎の画面です。

スライド26

縦書きでルビがあって、非常に複雑な割り付けをしています。ここに「EPUB保存」というオプションがあります。セーブするときにEPUBでセーブできます。

スライド27

EPUBでセーブしたものを「ドルフィン・パブリッシャー」という市販のソフトですが、それが直接読み込めます。さっきご覧いただいた一太郎からEPUBをセーブしたものを直接読み込ませたのがこれです。縦書きだったものですから、縦書きが横になっています。横になってハイライトしているんですね。これでそのまま音声が入れられます。あるいはTTSを使って音声をシンクロさせるというプロジェクトが作れます。

スライド28
(スライド28の内容)

私が実際にやってみてちょっと足りないのは、メタデータが少し足りないので、ソースを開かないでもこのツールだと追加できるので、それを追加します。

そのまま無修正で最後、できあがったプロジェクトをEasy Readerで読ませるとこんなふうになります。さっき見たとおり横書きです。

スライド29
(スライド29の内容)

AMISでやると、そのままだとこんなふうになります。字は立つのですけど、完全に横書きの文字になり、ルビはここにちゃんとついてます。それから見出しのところが活字の横に寝ています。ちょっと違うんですね。

スライド30
(スライド30の内容)

スライド31
(スライド31の内容)

それを、ATDOの濱田さんに修正をしてもらいました。表示するとこんなふうになりました。これはちゃんと縦書きになっています。ルビもついています。それでそのまま普通に再生できます。ソースは全く開いていないんです。同じようにAMISでも修正するとこのようになりました。

スライド32
(スライド32の内容)

スライド33
(スライド33の内容)

日本で作っているiPad用のプレーヤー2つ試しました。1つは皆さん、日本語唯一のiPad用プレーヤーとしてご存じのVOD(Voice Of DAISY)。これは先ほども確認したんですが、まだもう少し開発中ということで、縦書きは難しいということです。もう一つ、シナノケンシという会社、日本ではほとんど知られていないのですが、「Read2Go(リード・トゥ・ゴー)」というアメリカのBookshare用のプレーヤーを開発しています。それで表示してみたら、一応、縦でルビも表示されます。ところがまだ再生できません。だからもうちょっとなんだと思います。ですから「VOD」も「Read2Go」もたぶん、再生できるというアナウンスをいただけるのではないかと期待をしています。

スライド34
(スライド34の内容)

結論ですが、DAISYのEPUBとの連携で普通の出版社がEPUB出版するようになる、あるいは、出版社から図書館が買ってきた電子書籍が、そのままアクセシブルになる、それを目指してきました。私たちはそれをメインストリーム化と呼んでいました。

メインストリーム化がEPUBとの連携なんだとやってきて、実はジャストシステムの開発に当たった人たちとは、東京の会社で話したのですが、DAISYや読みに障害がある人のことはほとんど知らない方なんです。けれども、EPUBのことは知ってたんです。EPUBの規格どおりに作ってみたわけです。それがDAISYでずっとやってきたものと、非常に親和性が高いという結論がここで見られました。

そこからいくつかこれから期待できることというのが結論として挙げられますが、正確な読みによる音声読み上げができるDAISY、あるいはEPUBという名前でもいいですが、比較的に容易に作れるようになることが期待できる。これが第1点です。

2番目に、一般の電子出版物、それがEPUB規格でさえあれば、TTSを使って、正確性はイマイチかもしれないけれど、それなりに読める。大学生なんかになると、そこにあるものをどんどん読んでいかなければならないので、EPUBで出版してくれればそれなりに読めるという期待が持てます。

第3に、教科書が電子出版化される。これはデジタル教科書というものなのか、あるいは今ある紙の教科書の電子版になるか、そこはどっちでもいいのですけれども、電子出版化されるときにアクセシビリティを保障する標準規格として日本においてもEPUBあるいはDAISYが推奨されます。

第4に、それから数式や図版などの理解や読み上げを保障するために、国際的に今、分業しながら開発を進めています。EPUBとDAISYの規格を守っていく限り、そういう新しく開発された技術はそこにどんどん取り込んでいけますので、そういう意味で、さらに今はまだできていない図版などをきちんとわかりやすく、アクセシブルに読み上げてくれる。そういったことも、これであれば期待できます。

そして最後に、PDFデータが今、配布されているわけですけれども、それをEPUBに切り替えるのは、比較的容易ではないだろうかと考えています。今日は実験結果が示せませんでしたが、「InDesign」という、今、プロの出版社が普通に使っている版下のソフトがあります。「InDesign」は実は先ほどのジャストシステム一太郎のメニューと同じように、メニューの上ではEPUB保存を持っているんです。それがきちんと機能すればEPUBで出てくるはずなんです。ほとんどの教科書出版社は新しい教科書を作るときは「InDesign」で作ってる。古いものは昔のやり方で作っていて、「QuarkXPress」とかそういうものを使っているみたいですが、今新しく作るものは、ほとんど「InDesign」で作っている。ただ「InDesign」と言ってもいろんなバージョンがあって、古いバージョンでそのまま作っている会社も結構あるんだそうです。新しいバージョンのものはEPUBセーブがついています。年間400億円で、小・中の教科書は文科省が買い上げています。この400億円を有効に活用して、きちんとアクセシブルなものを作りやすい、あるいはアクセシブルなものを教科書会社が自ら出していく。そのためのガイドラインとしてEPUBでのデータ出力を求めるというのはそんなに無理なことではありません。これは教育のインフラづくりとして最低限のことではないかというふうに考える次第です。

以上がEPUBと連携することによってDAISYがどんな可能性を今持てるようになったのかという簡単なご報告です。ご清聴ありがとうございました。