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【基調講演】

河村 宏

DAISYコンソーシアム会長、国立障害者リハビリテーションセンター研究所 特別研究員

これから20分ほどいただきまして、今日の会議の全体の流れについて申し上げたいと思います。私のレジュメ、題しまして「DAISYとEPUB」ということで、お話をさせていただきます。ねらいとしては、すべての人、文字通りすべての人が社会参加をしていくために必要な知識、その形式についてということでございます。

資料1

資料1のテキスト

図書館の国際的な団体でございますが、IFLA(イフラ)という団体がございます。このIFLAに、日本の障害のある人たちにサービスをする図書館員たちが初めて参加したのが1981年です。今日、会場に来ている中では、この後パネリストで登壇されます石川 准先生と、私、あと他にもう一人、二人、いらっしゃるかもしれませんが、初めてライプチヒで行われたIFLA の大会に参加しました。

資料2

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そのとき、世界中から日本に求められたのは「立体複写機」というものです。手で触ると絵が指で読める、そういう複写機を日本で開発しました。ミノルタ株式会社と松本興産という会社でした。この両社にお願いしまして、はるばるライプチヒまで機械を運んでいただきました。そして世界中の人に見せてもらいました。おかげさまでその後、このシステムは世界中に行き渡り、指で触って図が読める、それをコピー機でできるという新しい時代を築くことができました。

そして1986年、東京でIFLAの大会が行われ、そのときに私たちは、カセットテープがなくなった後どうなるんだ、デジタル技術で世界中で共有できる録音図書をどうやって作るんだ、という議論をしました。電子技術工業会からいらした代表者は「10 年間は大丈夫、でもその先は分からない」とおっしゃいました。そしてそのとき明確に示唆されましたのは、テープレコーダーのようにヘッドを擦るもの、何か触るもので回転するもの、これは長持ちしないから避けたほうがいいということでした。大変重要なサジェスチョンでした。

実は、私たち、DAT =デジタル・オーディオ・テープを考えていたんですね。でもそれはちょっと違うんじゃないか、いずれパソコンがいろんなことができるようになったときに、光ディスク(当時「光ディスク」と呼ばれていました)が大きな役割を果たすんではないかという産業界の見通しを聞いて、それを参考に、メディアを変えるということは考え直そうということになりました。

その10年後、イスタンブールで開催されました。そこでIFLAの大会があったときに、当時私が、いわゆる視覚障害者のためのサービスの専門委員会の委員長をさせていただいておりまして、世界中の録音図書を使う図書館は、これから2年かけて国際標準を作ろうという呼びかけをさせていただきました。そしてその後、大急ぎでDAISYコンソーシアムを立ち上げ、1997年、ちょうど2年後のコペンハーゲンの大会でDAISYを国際標準とするという宣言をすることができました。この2年間というのは大変短い期間でしたけれども、世界中30カ国でテクノエイド協会の資金によって国際標準の評価試験を行いました。そのとき貢献されましたシナノケンシ株式会社と、それから全視情協(全国視覚障害者情報提供施設協会)、この二つの団体によって、この評価試験がイニシアティブが発揮され、そして世界中の点字図書館および視覚障害者の方たちの協力でもって、世界30か国1,000人の方たちが評価をして、これでいこうということが決まりました。

その後、今年2010 年には、同じ北欧ですけれども、スウェーデンのイエテボリという所でIFLAの大会が行われます。これまた新しい著作権、今、国際著作権条約に新しい提案がなされておりまして、この5月に早ければ投票が行われて、国際的な、障害のある人たちのための情報流通について、新しい動きが出ようとしております。いろんな意味で今年は大きな画期になると思われます。

資料3

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このような過去の歴史を振り返りまして、今、大変重要な三つのポイントを指摘しておくことが必要だと思います。一つは、1997年、コペンハーゲンでIFLA大会があったときと比べると、Webによるアクセシブルな情報提供に、アクセシビリティのガイドラインが必要だ、そして国としてその基準を決める、これはもう当たり前になっています。97年には、そのようなガイドラインはまだまだ当たり前ではありませんでした。またそういったコンセプトもあまりなかったです。

そして国連の障害者権利条約。これが発効している。法律的な権利というものが障害者の情報アクセスに保障されているということも大きな違いです。

そして3番目に、DAISYが国際標準として確立され、さらにDAISYと技術的には姉妹関係にありますEPUB(イーパブ)が国際的な、商業的な電子出版の団体を通じまして、国際標準として確立をされている。そして今朝、この建物の中で、日本の電子出版協会の方々も、このEPUBを日本語化するということを急いでやりたいという大きな動きを知ることができました。そしてDAISYと日本の電子出版協会、そしてEPUBのコミュニティとが一緒になって、アクセシビリティを確立するべく、今後、手を取り合ってやっていきましょうという話が、今朝、この会場のすぐ側ですることができました。

このような三つの大きな変化というものが、1997年、DAISYの国際規格が決まったときから今日までの間で達成されております。

そして実は日本がこれまでDAISYの発展において国際的に様々な役割を果たしてきておりました。あまりにもたくさんあるのですべては申し上げませんが、それでありながら、日本語というものがDAISYの標準の中で完全にはサポートされていなかったという残念な事実があります。それは縦書き、あるいはルビ、そして禁則、そういったものが日本語を知らない人たちにとっては大変難しい条件でありまして、やはり日本人が、あるいは日本語を熟知する者が、一生懸命そういう標準を決める場に参加をして、そして貢献をしていかなければ、そこは解決できないということが分かってきたわけです。

資料4

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そしてこの、今求められている日本からの、さらに日本でDAISYを普及するために必要なことというのは、DAISYおよびEPUBの次の標準を決めるにあたって、みんなで汗を流して、そういう技術を確立することです。どういうふうにルビを振ったら、簡単に間違いなくできるようになるのか、あるいはEPUBを出版社が採用しようとするときに、縦書きやルビを容易にするにはどうしたらいいかといった様々な技術的課題を、みんなで知恵も汗も持ち寄って、さらに合意をし、そして国内の標準にするという作業が不可欠であります。そのときに当然、様々な障害のある人たちが、自分のニーズ、自分に必要な、こういうときにこういうことが必要なんだというものを持ち寄れる、そういう公開の透明度の高いプロセスが必要になってまいります。

資料5

資料5のテキスト

今日は、日本におけるこれからのDAISYということで、前半は主に技術的な面あるいは制度的な面で、アメリカで、あるいは世界様々な国で、どういうふうな試みをしているのかについて、そしてDAISYの規格そのものを開発する場では、何を今、課題として進めているのかについての報告があります。それからその後、日本ではどうするんだというテーマについて、パネリストの方々によるご意見をいただきます。

そして前半の講演者、あるいは会場の皆様も一緒になって、これから日本におけるDAISYおよび、日本における誰もが参加できる知識社会の前提としての出版物、そして図書館のアクセシビリティについて議論を深めたいというふうに考えております。

資料6

資料6のテキスト

そして具体的な提案といたしましては、先に結論を申し上げます。これは提案です。今日これからスピーカーがプレゼンテーションを行いますけれども、みんなで話し合った一つの提案というものがございます。これからはDAISY XML、今開発中のDAISY 4、もうほぼ骨格ができあがっております。それをコンテンツ、本の中身そのものですね。それの標準として採用していこう。

そしてそれと、今度は、様々な人が自分のニーズに応じて、蓄積された知識を受け取る方法に応じた多様な提供フォーマットというものを、このDAISY 4によって保障しようという提案です。

今までの私たちの考え方は、ある文献の集積を作るというときには、それをそのまま貸し出すというふうに考えてきたかと思います。あるいはそれをそのまま買う。自分のプレイヤーにかける。ところが技術の進化というものは、もっといい方法を思い付いてくれています。その蓄積する方法と流通するフォーマットを分けることが可能です。その間に、自動的に形式を換える、この後の議論では「Pipeline(パイプライン)」というふうに呼んでおりますが、そういうシステムを介することによって、最終的に利用するときには自分の求めるフォーマットを選べる。点字であれ、大活字であれ、普通の墨字であれ、あるいはDAISYのマルチメディアであれ、自由に選べる。そのための共通となる、「ワンソース」と私たちは呼んでおりますが、それを今開発しているDAISY XML、これはこれまでのDAISYの成果の上に開発しているものですので、アクセシビリティその他は完備しております。そういう二つ、考え方を分けて、それで進めてみるという提案をしようということを話し合いました。そのことによって、コンテンツは、現在DAISY 4ですが、今朝の話ではDAISYの16(シックスティーン)になっても大丈夫だというふうな考え方でございます。

資料7

資料7のテキスト

少し図示いたしますと、最初はワープロで作ったり、あるいは出版社が出版をしたり、あるいは今日のこういう会議みたいに言葉が先にある、そういったものから、すべてDAISY XMLのソースファイルというものを作る。画面の図の上では、一番左がワードプロセッサー、それから出版、それから話し言葉。そして真ん中にDAISY XMLソースファイルというふうにあります。1回XMLソースファイルにすると、Pipelineという仕組みを通して、DAISYのマルチメディアであるとか、録音図書であるとか、あるいはテキストだけのDAISY、点字、そして大活字、そしてさらにはオンデマンドで出版する普通の墨字の本も出せるというふうな考え方でございます。これを出版社も、あるいは国のアーカイブ、あるいはデジタルライブラリーも採用していくという将来を提案したいということでございます。

現在、様々なDAISYのプレイヤーというものが出ております。本日も後方に三つの展示ブースがあります。そして展示ブースは作れませんでしたが、カナダのヒューマンウェアという会社も遠隔参加で参加したいということで、石川先生と、それからエクストラという会社の皆さんにお手を煩わせまして、写真の上の右から2番目に「Classmate」というものがございますが、これについてもお見せできるのですが、ブースがありませんので、石川さん、それから濱田さんが手に持っているものが見せられますので、ご覧になりたい方は直接コンタクトしてください。

資料8

資料8のテキスト

そして、具体的にどうなるんだということですが、私たちが今、日本で、ここのところからぜひスタートしてほしいなというのが、義務教育の教科書が、まずはアクセシブルなものになるということです。最低限、まずここから始めてもらいたいということでございます。

今、絵をスクリーンに映させていただいております。これは文部科学省の昨年3月に発行いたしました最新版の「教育の情報化に関する手引き」というものの中に出てくる絵です。

第9章「特別支援教育における教育の情報化」です。この絵の中では、最前列にコンピュータを持って他のクラスメートと一緒に教室に座っている生徒の絵があります。

資料9

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そこに吹き出しがあって説明があります。「読むことや書くことの困難さを支援するためのコンピュータ」と書いてあります。コンピュータはもちろん、先ほどお示ししましたようなたくさんのディバイス、支援機器がもう既にDAISYについては手に入ります。本当に日進月歩と言いますが、1週間の間に一つ、二つと増えています。こういったものが、最も適切なものを選んで、個々の読むこと、書くことに困難がある生徒の支援に使われる教室というものが、近い将来に、このコンテンツが充実することによって実現できるということを、ぜひ第一歩として実現したいというふうに思います。

この読字の支援に関しては、非常に具体的に、文科省の手引きでは触れておりまして、次のような文言がございます。

資料10

資料10のテキスト

「読字の支援としては、コンピュータでの使用を想定して、製作された教科書の録音教材がある。機能としては文章を音声朗読しているところが自動的に反転表示される。そのため読み手は視覚的に分かりやすい。反転表示は1文ごとや文節ごとなどの設定ができる。また、朗読箇所に対応して挿絵や写真を表示することができるため言葉のイメージをつかみやすいという特徴がある。」大変整理した記述をしています。これはまさにDAISYのモデルそのものでございます。

資料11

資料11のテキスト

DAISYコンソーシアムは既にグローバルにDAISYのネットワークを展開しております。このグローバルなネットワークの中で、日本が積極的な役割を果たす一員として、また同時に日本の国内で、充実した、読みに障害のある人々の社会参加を出版物について保障していくガイドラインの具体的な中身になっていくということを切に希望いたしまして、私の基調報告とさせていただきます。どうもご静聴ありがとうございました。