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講演会
「DAISYの新時代―EPUB3とDAISYの連携によるインパクト」

「DAISYの新時代―EPUB3を使って自分らしい知識のスタイルを選ぶ」

河村 宏 DAISYコンソーシアム 会長

  1. なぜDAISYを開発したか?
  2. システムと規格の違い
  3. 録音図書とテキスト
  4. マルチメディアの良さ
  5. 「オープンで無償の規格」の意義と苦労
  6. 開発と持続
  7. メンテナンスのコスト
  8. アクセシビリティの再定義
  9. DAISY利用の開拓=浦河プロジェクト
  10. 第二次アジア太平洋障害者の10年
  11. DAISY For Allプロジェクト
  12. 国連世界情報社会サミット
  13. 国連障害者権利条約
  14. DAISYと防災
  15. 著作権問題
  16. DAISY4の開発
  17. EPUBとDAISY
  18. 新しい知識基盤―今後の展望―

こんにちは。ご紹介いただいた河村です。間もなくEPUBが完全にリリースされるという時期にきております。そして9月末までDAISY4についてはパブリックコメントを国際的にやっています。いわば新時代の前夜ちょっと前というところです。その時期に当たりまして、新しい時代を展望しながら、もともとDAISYがどう進んできたのかを振り返りつつ、これからの自分らしい知識のスタイルとはどうあるべきなのか、その中でDAISYとEPUBはどういう役割を果たそうとしているのかを、私なりにまとめて皆さんと一緒に、今日だけでなく今後、議論をさせていただきたいと思います。
これから申し上げることは、国際DAISYコンソーシアムの法律上の代表者という立場ではありますけれども、今後の展望に関しては主観的なものも交えて、こうあってほしいというものも含めて、皆さんと一緒に考える時間とさせていただきたいと思います。

現在、EPUB3という名称が電子書籍あるいはeBookという形で国際的に議論されているところです。
どのくらいの人がEPUBというものを意識しているのだろうかということですが、今日おいでの方々はEPUBと言っても、そう違和感はないと思います。実際にEPUB3というものについて今日、この会場にいらっしゃる方の中で初めて聞くという方はどのくらいいらっしゃいますか? EPUB3についてほとんど予備知識がないという方はお手をお挙げください。…ありがとうございました。半分ぐらいの方はある程度予備知識を持ってらして、半分ぐらいの方は新しい知識として今日おいでになったということだと思います。それを念頭に置きまして、私の話はわかりにくいとよくお叱りを受けますが、何とか努力したいと思います。
DAISYはいつも、メインストリーミング、メインストリーム化をずっと意識してきました。メインストリーム化するということで、EPUBと一緒になりますと、実は配布するコンテンツには「DAISY」という名前はつかなくなります。「EPUB」という名前しかなくなるわけです。普通、ブランドを大事にする人たちは、とんでもない、今までせっかくつちかってきたDAISYがなくなっちゃう、何でそんなことするんだというお叱りを受けることもあります。
DAISYとEPUBというと、私はDAISYの方がずっとかっこいいと思ってるんです。EPUBでは何のことかわからない。DAISYだったら中身は知らなくても、あ、DAISYねとみんな何となくわかってくれる。
ブランドから言ったらダウングレード、格落ちするようなEPUBという名前になぜ甘んずるのか。これが今日お話ししたいところです。実はそれはメインストリーミング、世の中の誰もが使うものにしていくということと深く関係しています。 なぜかと言うと、出版と同時に、障害があったりなかったり、あるいは高齢だったり子どもだったり、どんな言語を使っているか、どんな文化的背景があるかなどを問わずに誰でも世界中のどこでも、多様な科学あるいは文化の記録された知識にアクセスできるようにしていく、それが実はDAISYコンソーシアムが公式ウェブサイトに掲げている目標です。
そのときに余分な時間を待たされたり、あるいは余分な努力を払わされたり、あるいは余分なお金をかけさせられたりしない、出版と同時に誰もがアクセスできる、そのような理想を掲げ、私たちはDAISYコンソーシアムという団体を立ち上げ、そしてその目的に賛同してくださった皆さん方とともに15年歩んできたというふうに考えています。
そのような立場から考えますと、メインストリーミングというのは目的です。つまり、普通に出版されるものが誰もがアクセスできるようになったら、こんないいことはない。改めてDAISYを作らなくて済むようになればそれが一番いいというのが、私たちの戦略目標でした。その夢に向かって、いよいよ大きな一歩を踏み出そうとしている、その夜明け前であるというのが私の認識です。

1. なぜDAISYを開発したか?

ひるがえりまして、なぜDAISYを開発したのだろうかということになります。
DAISYが開発される前は、録音図書がカセットテープの時代です。いまだにカセットテープを使っている方もいらっしゃいますし、カセットテープが自分に合っている方も当然いらっしゃると思います。
ところが、カセットテープで録音図書を作っていた時代に、主な困ることが3つありました。
第1は、かさばるということです。普通の本で1冊6~8時間ぐらい。専門書になるとすぐ10時間を超えます。カセットテープは普通に録音すると、あとでヨレヨレにならないためには、片面45分がいいところです。そうすると1巻裏表で90分、もし8時間だとすると、それだけで5~6巻になってしまうんですね。しかも片面ずつ読みたいところを探さねばならないということになります。
これで一番困るのは、推理小説などは頭から最後まで読みますからいいのですが、教科書をこれで作ってしまうと大変です。先生は学校の授業で「さあ35ページを開きましょう」とか言うわけです。さらに、ポンと飛んで、「150ページを見てみましょう」となる。こうなると、カセットテープではどうしようもないです。それから、自宅学習でもそうです。さらに長じて高校生、大学生、あるいは仕事をしている方ですと、いろんな参考文献が出てきてしまいます。参考文献が10あったとして、全部のカセットテープが揃うのは難しいんですけれども、揃えたとします。それでもそれぞれのカセットの何ページと出てくるんですよね。とてもやっていられない。やはり学ぶための読書を必要とする人たちの困っていることでした。それを何とかしなきゃというのが第1番目。

第2番目は、カセットテープは置いておくと何年くらいで聞けなくなりますか?地球は巨大な磁石です。磁石の上に磁力で記録しているテープを置いておけば、何年かたつと完全に劣化して読めなくなります。どんどん雑音が入るところから始まって、劣化して読めなくなる。さらに、誰かに分けてあげるためにコピーをします。するととたんに劣化します。これを何とかしなければいけない。
つまり、カセットテープの録音図書館は、何年かすると消えてなくなる蔵書を一生懸命こつこつ作ることを強いられています。どう防御しても、どう金庫に入れて保管していても、地球という巨大な磁石の上に置いてある磁気テープは、最後には磁力を失ってしまいます。つまり、紙の図書が何百年、時には数千年もつのとは違って、たかだか数十年しかもたない蔵書を営々として築き上げている。それを強いられているのがカセットテープです。作ったものは永続的に使いたい。次の世代に紙の図書と同じように伝えたい。これが2番目の大きな理由でした。

3番目の理由は、国際交換をしたいということでした。特に日本語だとあまりわからないですが、だんだん英語の文献も読まなければいけない。外国と行ったり来たりする時代で、情報についてできるだけ国際的に交換しよう、1ヶ所で作った録音資料は、世界中で共有できるようにしないと大変だという発想から、国際的な交換をきちんとやりたい。しかし、当時のカセットは、北米、ロシア、南アフリカ、オーストラリアの一部では4トラックの隣り合っているトラックは反対方向に録音されるという特別なフォーマットでした。だから、借りてきても日本では聞けないんです。プレーヤーも輸入しないと借りたものが聞けない状態でした。
イギリスはイギリスで、イギリスとフィンランドを中心にして特別なカセットを作りました。6トラックで、特別な再生機を作りました。それは著作権をクリアするためにそういう特別なものを作ったのです。そして、最後にどうなったかと言うと、イギリスの場合、1つのメーカーしかそのプレーヤーを作っていませんでした。もうやっていけないから生産をやめると言い始めたんです。どうなってしまいますか? プレーヤーは消耗品です。ヘッドをこするのですから。これの提供が終わったら、今までのコレクションは全部パーになってしまうという事態に直面しました。これはとんでもない。そうではなくて、やはり世界中のコンテンツを共通に使えて、供給もずっと持続できる、そういった安定したものにしたい。世界的なマーケットになれば供給も安定するだろう。だから国際標準が欲しい。そういう、国際交換・保存・使い勝手、この3つの理由でDAISYを開発することにしました。

2. システムと規格の違い

よくDAISYはシステムとかソフトとか言われます。ここで「規格」という考え方を整理したいと思います。
DAISYは規格なんです。世の中で規格に相当するものはどんなものがあるかというと、多分MP3というものが一番DAISYを説明するのにわかりやすいと思います。いろんなMP3プレーヤーがあります。MP3に対応してない機器を今買う人はいないと思います。MP3に対応していれば、ほぼどんなものでもかけられる。自分の聞きたいものがかけられるということが保証される規格です。
MP3プレーヤーという名前の商品というのはあまりなくて、いろんなメーカーがそれぞれ名前のあるプレーヤーとして普通に売っていますが、「MP3に対応していますよ」と仕様書には書いてあります。つまり何々に対応していますというときに出てくるもの、それが規格です。
DAISYもそういう規格であるという作戦をとりました。それはどうしてか。世界中で同じ規格を採用して、世界中のメーカーがその規格に対応して、コンテンツを作る方も世界中でその規格に対応すればどこに行ってもどんなプレーヤーも、その規格のものを再生することが保証されます。
ただ、規格はよく縄張り争いになります。規格と規格の対立が起きます。昔、ビデオテープでベータとVHS。これは悩まされましたね。どっちが勝つのか最初わからない。ハズレを選ぶと後でひどいことになる。最後、量的にはVHSが勝ったんですね。私は最初ベータを買ってしまったのですが。やはり規格は一つで、何とか世界中で同じ規格を導入してほしい。それがDAISYを開発したときの方針でした。

3. 録音図書とテキスト

もう一つ、技術的な要素として、もともと録音図書をDAISYにした流れと、パソコンユーザーがテキストファイルを通じて情報にアクセスするという流れの大きく2つの流れがありました。特に地理的に言うと北米ではテキストファイルが比較的早かった。視覚障害者の間で、これはいいというふうに使われて、英語の音声合成装置が比較的早く開発されました。テキストファイルを音声合成装置やピンディスプレイを使って指で読むという動きがずっとパソコンを使った読書の流れの中にありました。
ヨーロッパや日本では、そういうのもありましたけれども、やはり大多数は録音図書。それをできるだけ精緻なものにして、機能を高めて、普通の本と同じように使えるように何とか作れないかという流れ。この二つがありました。
ところが現実の利用者の中には、録音で聞いてるときに、つづりがどうなっているか、どういう字なのか、それを知らないと実用上の知識としては不十分であるということがたくさんあるわけです。ましてや仕事や学習のための読書となると、どうしてもつづり、字との対応関係を知りたい。しかし、例えば中途失明の方が点字を覚えてずっとやっていっても、確かにアルファベットのつづりは点字でわかりますし数字なんかも確認できるんですけれども、例えば元の漢字はどうなっているか、あるいは耳で聞いているときに英語の固有名詞のときにはどうやってつづるのか。そういうことを見聞きして知る、そういう読書というのが必要だということがだんだん明らかになってきました。
そして、これを両方の長所をどう生かしていくのかということが、機能の上で問題とされました。

4. マルチメディアの良さ

そこで出てきたのが、マルチメディアにすればいいじゃないかということでした。音声もテキストも。弱視の方の場合は画像も見られるし、ディスレクシアやその他の視覚はあるけど読んでわかりにくい方たちは、できるだけ理解を助けるための画像が必要。それら全部を組み込めるマルチメディアのよさというのを生かしていけばいいのではないか。そういうことで、技術改良を重ねまして最終的にマルチメディアでいこうとDAISYは決めたわけです。
そのときマルチメディアの社会は実は大変恐ろしい世界で、いろんなところに特許権が張りめぐらされています。特許をとるのは大変です。そこを何とかかいくぐって特許料を払わないようにする。特許料を払ったり特許契約をしたりしているとなかなか思うような開発ができません。

5. 「オープンで無償の規格」の意義と苦労

したがって、オープンスタンダード=開かれたスタンダードで無償でいこう、使いたい人は誰でも使える。お金を払わなきゃならないのは嫌だから別なものを開発しようということではなくて、これはただで使う。その代わり規格をみんなで守って育てましょうと。そういうふうにやっていけば産業界も応えてくれるのではないかという結論に至りました。 それで今、DAISYの規格はものすごい開発費を使っていますけれども、無償で完全にオープンで公開した規格になっています。

もう一つは、線香花火であってはいけないということなんです。
あるものがとてもいいものができた、でもそれで終わってしまったということでは、それに乗っかった人は途中で放り出されてしまう。知識や情報というものは生涯、継続して必要なものです。つまり一度獲得したノウハウ、仕組みは生涯発展しこそすれ後退しないで持続してほしいわけです。
そのためには一過性ではない。持続して前へ進んでいける。世の中の技術が進化することを、どんどん新しく取り入れて、その新しい水準の中できちんと規格が生き続ける。そして最善のアクセスの機会を提供していく。そういう持続性のある開発、持続性のある仕組み、支援、それが必要になります。それをどう実現していくかということがもう一つの重要な課題です。
そのときに一番重要なのは、最初に何かを開発するというのは全体のコストのたった20%でしかないということが、アメリカの友人たちから伝えられました。それはアメリカでのこれまでのITの開発の経験から出てきた教訓です。初期の開発コストは、熟してみんなに普及して本当に使われるようになるまでの全体のコストの20%でしかない。

6. 開発と持続

では残りの80%は何だろう。英語で言うと「メンテナンス」。つまり最初に、これはいいねとでき上がったものは、さらにニーズをいただいて、それに応えるべく努力してよりよいものにしていく。その残り80%の努力があって本当に使えるものになる。これは大変重要な教訓でした。
ですから、私たちは、オープンで無償の国際標準規格を開発するに当たって、メンテナンスのコストをどうやって引き下げるのかがカギであると考えました。そのために採用した戦略は、既にみんなが認めている、そして産業界も使っている標準、その既に認められている標準だけを使ってこの規格を作るということです。

7.メンテナンスのコスト

どういうことかと言うと、自動車を作ることを例にします。自動車のパーツがあります。タイヤ、いろいろなところをとめるネジ、それからエンジン。いろいろなパーツがあります。ガラスもあります。それを全部自分の会社だけの規格で作ったとします。それでどこかに輸出したとします。故障したとき、ネジを輸入しないと外れたネジが補修できないとなったら、輸出できません。今、世界中でネジの規格は2~3種類に限定されています。ガラス、その他、タイヤなどいろいろな規格というものがあって、その規格をうまく使って、その上に組み立てているから自動車は輸出もできるし、外国で修理もできます。また、そうしなければ、コストもすごく高くなる。
ところが、ある部分行き過ぎて、例えば今度の東北の大震災のとき、あるパーツメーカーの工場が被災したら、世界中の自動車の生産が大打撃を受けたという話なんです。つまり、そのくらいまで部品の標準化がどんどん進められているんです。その上に立って競争が行われているわけです。それは、メンテナンス、製造コスト、開発コストをどう安くしていくかを突き詰めていった結果なのです。
先ほどの読書するための仕組み、誰もがニーズを満たされて、情報にアクセスできる仕組みを作るとき、それに必要なパーツというものがあります。それをすべて既によく使われているパーツからだけ選んで組み立てることができれば、何かあるパーツが更新されてよくなったとき、それは自分たちでよくしなくても、そのパーツの新しい機能を取り入れることができるわけです。つまり、みんなで、そのコストを負担できる。そういう既に存在している規格、その上に新しい自分たちのニーズに合った規格を構築する。そういう方法をとりました。

8. アクセシビリティの再定義

私たちが一番参考にしたのは、ウェブのアクセシビリティのガイドラインです。ウェブのアクセシビリティのガイドラインは、まず、皆さんが閲覧するためのブラウザ=ユーザーエージェントがあります。Internet ExplorerとかChromとか、いろんな固有名詞がありますけれども、それは見るときに使うブラウザとかユーザーエージェントというものです。それがまずアクセシブルでないとアクセスのしようがないわけです。
次にコンテンツ。ブラウザーで見る中身のガイドラインを作りました。それがコンテンツ・アクセシビリティのガイドラインです。そしてさらに最後にコンテンを作るツールがアクセシブルなコンテンツを作るためのガイドラインを作った。 この3段構えでアクセシビリティを確保して、一定の成功を収めています。
ところが、今、ウェブサイトでこういういい情報があったと入ってみると、最後に出てくるのがPDFファイルなんです。このPDFが曲者なんです。PDFを読み上げられる部分も当然あります。だけど多くのPDFファイルは、肝心なところが読めない。例えば、数式が一ヶ所入っていたとします。PDFファイルでその数式が読めるでしょうか? 読めません。PDFファイルはそういう場合にはほとんど読めません。PDFも作り方によってはアクセシブルになるということなんですけれども、なかなか難しい。ほとんどないのじゃないでしょうか。これは専門的な複雑な文書だけどアクセシブルに作ってあります、というものには、なかなかお目にかかれない。
今のウェブサイトは、肝心のコンテンツになると、あちこちで本で出版したもののPDFファイルがあって、そこにいくと、地団太を踏む思いがして、「これが読めたら」と思っている読みに障害のある方がたくさんいるという現状があります。 ですからウェブをアクセシブルにして、いよいよコンテンツにさしかかったときの、いわゆる出版物へのアクセス、ここのところがまだ解決できていない。DAISYはそこをアクセシブルにするための努力をずっと払ってきたという関係にあります。
ですから、ウェブのアクセシビリティのガイドラインをきちんと踏襲し、さらに、その延長上に、今までアクセシブルにできなかった出版物のアクセシビリティを確立する。そういうことによって、ウェブと連動して、世界中にネットワークを通じて必要な情報をアクセシブルにして提供する道が開ける。そのようなつながりを考慮して技術開発をしてもらいました。

もう一つ、ウェブのアクセシビリティの優れた点があります。
ウェブの知的財産権、いわゆるパテント。ウェブそのものはパテントをとらない。これは人類共通の財産であるという思想で貫かれて発展しています。そこをきちんと学ぼうということで、DAISYの技術仕様も完全に無償でオープン。その改訂作業をするときも、パブリックコメントを行い、誰からも新しいニーズがあればそこに寄せられるようにして、透明性のある改訂プロセスを世界中に対して行う。ウェブのよさをとことん真似ています。
さらに、メンテナンスコストも、ウェブアクセシビリティのガイドラインのパーツは、非常に優れたアクセシビリティの要素を持っていますので、それを最大限に使う。そのことによってメンテナンスコストを下げるということをしてきました。
ここで、アクセシビリティとは何だろうということをもう一度定義することを迫られました。
パソコン通信や初期のインターネットというのは文字情報だけでしたので、視覚障害者にとってアクセシビリティが非常に高く、今まで情報を手にできなかった人たちにとって夢のような世界でした。
それがいわゆるグラフィカルユーザーインターフェイス、画面全体を二次元に配列した情報を使って複数の画面を重ねたりして操作性を高める、でも一方で視覚障害者のアクセシビリティを犠牲にするというユーザーインターフェイスが入ったときに、今までアクセスできていた人たちが締め出されたわけです。そういうインターネットの先進的なユーザーだった視覚障害者の人たちが猛然とそれに対して批判を行い、自分たちの権利を主張してアクセシビリティを確立しました。 そういう流れの中で、視覚障害の方たちのウェブアクセシビリティというのは一歩先を行っています。

ところが、DAISY形式のマルチメディアを私たちは最初に視覚障害者のニーズに基づいてスタートさせました。でも、このマルチメディアをもう一回見てみると、今まで情報にアクセスできなかった多くの人たちがアクセスできるようになる、もっと広がりを持って、これまで情報から排除されてきた人たちに同じ情報アクセスのチャンスを保障できるということに気がつきました。また、そういうユーザーグループの人たちからも次々と自分たちのニーズをきちんとくみ入れるべきだという要求も出てきました。
そこで、マルチメディアを使ったときに、アクセシビリティをもう一回定義してみる必要があります。視覚障害者のアクセスは当然ですが、さらにその上にもっと広いユーザーの、今まで使いたくても使えなかった人たちのアクセスをどう確保できるか、そこを開拓しようという流れになってきました。

9. DAISY利用の開拓=浦河プロジェクト

その流れはいろんな形であちこちで行われていたんですが、その中の一つが、DAISYコンソーシアムの「浦河プロジェクト」です。この「浦河」というのは英文のDAISYコンソーシアムのウェブサイトにはローマ字で「URAKAWA」と検索すると出てまいりますが、北海道の浦河町のことです。
2005年5月、東京で新しいDAISY4の開発のために集まった開発者のグループは、全員で浦河に行きました。そして浦河町の障害者団体、特に中心は精神障害の人たちの互助組織である浦河べてるの家の人たちがどういう困難を抱え、どういう工夫をして社会の中でともに生きる努力をしているのか、そして浦河町が日本で最も地震が多発する地帯に位置していて、震度5~6の地震が10年に1回来るわけですが、浦河町の多くの障害のある方と高齢の方が住んでいる地域は、高台からすとんと下におりた標高4~5mの土地。そこに人口が密集している地帯です。浦河べてるのメンバーも大半がそこに住んでいるという状態でした。

普通のアクセシビリティの開発や技術開発というのは、比較的、外界の状態に影響を受けない実験室や部屋の中を想定して技術開発を行います。でも、実際には非常に過酷な状況にみんなが置かれたときにも必要な情報というのがあり、またそれに備える必要もあります。
例えば、地震があって気が動転しているときに津波の危険地帯の人はすぐに逃げないと、地震でやられただけでなく、津波にのまれたらそれこそ命に関わります。それが今回、実際に起こったわけですが。浦河プロジェクトを企画したときの想定は、大体10年に1回くらい、震度5~6の地震に見舞われる浦河町内で、地震でびっくりしていろいろなものが倒れてくるものがある中、まずちゃんと生き延びなければならない。その後、浦河町で調べますと、地震の後、一番短い時間で津波が来た記録は4分なんです。つまり大きな地震のショックから立ち直る暇もない4分で、最悪の場合津波がくる。どのくらいの高さの津波がきたのか調べますと、いろんな想定の中で一番高い予想は10メートルを超える津波もあり得ることがわかりました。500年に1回ぐらいの地震の場合には、10メートルを超える津波もあり得るというのが、政府の報告書の一つに書いてあります。
私たちは、今まで一番早く来たことのある4分の津波の時間と高さでいうと10メートルを参考に、一応4分以内に10メートル以上のところに逃げられれば、何とか安全を保てるのではないかという想定をして、津波の避難訓練をしました。そういう知識をみんなが持って、4分以内の避難では誰も救援に駆けつけられませんから、本人が自らそれを頭に置いて、普段から練習をして自ら周りの人と一緒に逃げるという訓練をやる以外、助からないという想定をしました。そのために、DAISYは何ができるのか、今足りないものは何なのかということを考え、ユースケースと呼んでいますがそれを満たすために、新しいDAISY4はどうあるべきなのかということで研究開発を始めたのが2005年です。
今、EPUB3の開発に従事している中心になっているDAISYコンソーシアムの開発者たちは本当に全員、浦河に行って、べてるの家の皆さんとの交流会に参加し、船に乗って沖に出て、沖から見たときにどれだけ低いところに集落があるのか、それを頭にたたき込んで、その後、どういうケースでどういうニーズの人がどういうふうなアクセスが必要になるのかということを共通の理解のベースにして、今のDAISY4の開発に着手しました。それが2005年5月です。

そのように浦河に張り付く一方で、DAISYコンソーシアムが「世界中の」ということを最初からうたっているのには理由があります。
それは前のカセットテープの時代に互換性がなくて苦労をしたからです。新しい技術が導入されるときに途上国に古い要らなくなったものをあげるということがあります。私たちが議論したのは、それが本当にいいのだろうかということなんです。確かに何もないよりはいいという議論があります。でも長い目で見たときに本当にそれがいいのだろうか。つまり、ほんの一時しのぎで本当にいい新しいDAISYが続くならいいのですけれども、新しいものの導入は無理だから古いものでよければあげるといって、古いものの導入にありとあらゆる資源を使ってしまったらどうなっちゃうのか。でき上がった頃にもう部品の供給はないことになる。でき上がった頃にもっといいものがあるということにならないか。 途上国に新しい技術を持ち込むには、それが受け入れられて熟して新しいコンテンツが作成され、みんなの手に渡るまでに何年もかかります。その何年ものプロセスを考えるなら、最初からパソコンで製作できて、いろんな形で再生できることを最初から計画しているDAISY、しかもオンラインでのネットワーク配信を展望できるDAISYを、初期の段階から途上国でも一緒に使うんだという構想を立てて、グローバルな情報供給システムとして追求していく。そういう目標を立てたほうがいいという議論をして、ゴミ捨て場にするのはやめようという議論も行いました。 もちろん、一時しのぎでもいいからとにかく欲しいものに対しては提供するのは、ないよりましです。でも本来のDAISYでグローバルライブラリーの一員として、どの途上国にいる障害のある人も一緒に資源を共有できるようにする、そういう夢を持続することを、譲ってはいけないんではないかと。

10.第二次アジア太平洋障害者の10年

そこでまず、アジア太平洋障害者の十年が、2001年に第一次が終わり2002年から第二次が始まりましたが、その議論の中で、これからはITを活用し、障害のある人の情報のアクセスを均等にしていくんだという目標を、第二次アジア太平洋障害者の十年に盛り込むことに成功しました。
これは、DAISYのグループが中心に行い、「びわこミレニアム・フレームワーク」という10年の計画の文書の中に、ICTのアクセシビリティの項目として含まれています。

11.DAISY For Allプロジェクト

その上で今日、会場を借用しています日本財団から支援をいただきまして、DAISY For Allというプロジェクトで、アジアを中心とした途上国にDAISYの技術移転をするプロジェクトに着手しました。
最も顕著に成功したのはタイとインドです。それにバングラデシュ、スリランカ、中国、その他の国々が続いています。DAISY For Allプロジェクトの成功の中で、アジア地域でDAISYが視覚障害者の団体を中心に広く定着するに至りました。

12. 国連世界情報社会サミット

そして次のステップが国連の世界情報社会サミットでした。沖縄で行われた先進8カ国のサミットを日本が主催し、そのときデジタル・ディバイドの解決というのが大きな課題として提唱されました。具体的に国連の場でサミットにこの問題を出したのが、2003年と2005年、ジュネーブとアフリカのチュニジアで行われた世界情報社会サミットです。この両方のサミットにDAISYコンソーシアムは、障害者団体のすべてをコーディネートしてデジタル・ディバイド解消策の要求をまとめていくコーディネーターの役割を果たしました。その詳しい内容は、日本障害者リハビリテーション協会のウェブサイトに「世界情報社会サミット」で引いていただくと、どういう活動をしたか詳しく出ていますので、ぜひお読みいただきたいと思います。

13. 国連障害者権利条約

こういう活動をする中で、幅広い様々な障害のある人たちがDAISYを使うとどんなことができそうか、幅広く意見をいただき、支援をいただいて、その次に、国連の障害者権利条約の議論に臨むことになりました。
先ほどの、世界情報社会サミットの中で活躍した障害を持つ当事者のメンバーの方たちが、この障害者権利条約で大変活躍され、特に今、タイで上院議員をしているモンティエン・ブンタンさんという方は、DAISY For AllプロジェクトのアシスタントマネージャーとしてタイにDAISYを確立した立役者です。彼は、障害者団体の会長だったので民間人でしたが、タイ国政府の代表団の団長として権利条約の国連での議論に出席しました。そして大変見事な活躍をし、そのせいもあって、権利条約の情報のアクセスの部分は非常に充実しています。ぜひ皆さん、お読みいただきたいと思います。
そのような基盤を広げていくことにも、間接的にDAISYは貢献しています。

14. DAISYと防災

そして、先ほど申し上げましたように、DAISYはもともと生きるか死ぬかの情報が関わる防災は、一番基本な情報ニーズで、それを満たさなければいけないという取り組みを行うために、プーケットで世界情報社会サミットと国連の障害者権利条約を実施するためと銘打ちまして2回の国際会議を行っています。DAISYコンソーシアムも主催者として参加しています。

15. 著作権問題

これらの課題を着実に進めてまいりますと、どうしても出てくるのは、著作権問題です。
著作権問題については、今日本ではやっと10年越しの交渉が実って、昨年1月1日施行で新しい著作権法ができ、今では33条、37条を使うと、かなり幅広い障害のある方の情報アクセスが認められるようになりました。
このプロセスには、実際に著作権審議会の議論に奈良DAISYの方が、学習障害の子どもたちの学習をDAISYがどう支えているか具体的に発表され、それらも十分に考慮され、著作権法が改正されるべきだという結論になり、DAISYを強く意識した形で現在の著作権法の改正がなされています。
そういう意味では、2010年1月1日というのは、DAISYによる障害のある方すべての情報アクセスの日本における元年と言ってもいいかと思います。

国際的には今、世界知的所有権機構(WIPO)が、著作権条約を新しく制定し、DAISYのグローバルライブラリー、世界中でDAISY資源を共有する、それをいよいよ最後に障害者の権利条約を著作権において実現するという取り組みとして、ラテンアメリカ諸国の政府の提案により、新しい著作権条約の審議が今行われているところです。
日本政府はちょっとグラグラしています。積極的に支援するというようにはまだなっていません。ただ反対する理由もないんです。アメリカもEUも法律で縛らない形の合意にしようとしています。日本政府もそれにちょっと引きずられています。それに対して、単なる合意ではなくていよいよ必要なときには法律がアクセスを保障する、つまり著作権者が嫌だと言っても、それより他にアクセスする手段がないときは法律で強制してアクセスできる形に変換する、DAISYを製作するということですが、そしてアクセスを保障できる、そういう権利を実現するんだということで今、国際的な取り組みにDAISYコンソーシアムも参加しているところです。

16. DAISY4の開発

そこで、先ほどDAISY4の開発を2005年から始めたと申し上げましたが、2005年から2008年までかけてSMILというウェブの動画をストリーミングするときの規格、これの改訂に全力をあげました。そしてSMIL3.0に4年間かけました。これにはDAISYコンソーシアムが開発者を投入し、私も参加してSMILを開発しました。
SMIL規格の中に「DAISYプロファイル」という章があります。SMILというのはとても大きな規格なので、そのうちDAISYに必要なものはここですというのを1ヶ所にまとめてあります。その「DAISYプロファイル」を使って、いよいよDAISY4を開発することが始まりました。それが2009年からです。

17. EPUBとDAISY

DAISY4とEPUB3と各種のDAISY図書および普通の図書、拡大図書、点字図書の関係

(図のテキスト)

現在、EPUBとDAISYはどういう関係にあるかということですが、EPUBの開発を進めてきた団体はIDPFと言いまして、もともと電子書籍を出版している出版社が集まって国際団体を作り、そこで共通フォーマットを作ろうということで十数年前から開発を始めています。初めからDAISYコンソーシアムは、そのメンバーです。そしてその中でアクセシビリティを確保するという活動をずっと行ってきました。その実績が認められて、EPUB2でDAISYの技術がEPUBに取り込まれました。
ただしEPUBはまだ小説ぐらいしか表現できない。数式も表現できないし、複雑なものも表現できないものでした。IDPFも、これではしょうがないから科学的な文献やもっと複雑なものも表現できるようにEPUBをアップグレードしたい、改訂したいとなりました。DAISYも、ニーズを満たすのに動画を入れないと足りない、日本語もルビや縦書きもサポートしないとダメだということで、それでDAISY4の開発を始めました。
DAISYコンソーシアムとすると、二つワーキンググループを作って両方で別々にやるのは大変なんです。EPUBの開発に人を割き、DAISYの開発に人を割くのは。でもEPUBの中のアクセシビリティのコンテンツはDAISYなんです。これは一緒にやったらどうかと提案しました。幸いIDPFも合意をしてくれまして、ワーキンググループは一緒になりました。
どういうふうにしたかと言うと、DAISYを配布するとき、エンドユーザーの手に届けるときは次のEPUBの形式にしましょうと。それとは別のものをDAISYで開発するのはやめましょうと。ユーザーにはEPUBを届けるということをDAISYコンソーシアムの方針として採用しました。ただし、そのEPUBは、EPUB3ですが、DAISYが必要な条件は全部盛り込もうということです。
次のDAISY4は、皆さんが手にするときの形はEPUB3という名前になりますが、次のような4つの種類になります。

まず録音図書。音声とDAISYのナビゲーションができる目次だけの録音図書。これもEPUB3になります。
それからテキストと目次。音声の入っていない。静止画像を入れてもいい。音声の入っていないテキストDAISYと言ってもいいです。その代わり、読ませるときは音声合成エンジンTTSが必要。それが第2のEPUBです。
第3のEPUBは、テキストと録音図書を合体したもの。今で言うマルチメディアDAISYです。
そして第4が登場します。第4はそこにビデオが入るということです。手話を見たい人は手話の画面を入れる。あるいは動作を説明するときに言葉で説明されてもなかなかわかりませんから、言葉で説明すると同時に動画を使いたいという場合、動画も使えるというものです。
これで万々歳かと言うと、まだ足りないことが二つあります。
一つはEPUB3は、HTML5を使います。そこにはCANVASという画像を動かせるものが入ります。お絵描きツールと言ってもいい。このDCANVASで描かれたもののアクセシビリティをどう確保するかのガイドライン。そこをきちんとアクセシブルにするための解決法を示さなければなりません。
それと動画像についてはあまり詳しく決めていません。それは動画の圧縮方式について合意が得られていないためです。動画の中の例えばキャプション(字幕)についてどういうふうに確保していくか。盲ろう者がインターネットテレビのような動画の情報にどうアクセスするかという課題の解決も必要です。
そういった技術的なガイドラインづくり、アクセシビリティを確保するためのEPUB3の製作のためのガイドラインづくりがこれから必要で、DAISYコンソーシアムがそれをやろうとしています。

もう一つ、DRM (Digital Rights Management)というもの。DRMは一般的には著作権の保護のためのシステムと言われています。これがえてして暗号化を行ってしまってアクセシビリティを妨げる危険があります。
これをどのように解決していくのか。新しい人為的な壁を作ってはいけない。そのことをみんなでどう合意していくか。その課題がまだ残されています。
その課題がクリアされると、コンテンツを作るときにDAISY4で作ると万能になります。
国立国会図書館が全文テキストデータベースの実証実験を行いました。そこで採用したファイルフォーマットにDAISYを採用したと報告書に書かれています。
ただし、DAISYのどのバージョンかは定かではありません。私はDAISY4であってくれればいいなと思っています。DAISY4であれば、ほぼ今考えられる国立国会図書館が全文のテキストデータベースを様々なところにアクセシブルな形で配信するニーズに応えられると考えています。
このことは国立国会図書館ともっと話し合ってよい方向に進めていかないといけないし、恐らく世界中のどの国立図書館でデジタル図書館の考え方にも、同じことがあり、DAISYが活躍すると確信を持っています。

18. 新しい知識基盤―今後の展望―

今後の展望ということで、まとめさせていただきます。
DAISY4では、パイプラインという仕組みを今DAISYコンソーシアムでは開発しています。DAISY4で1回データベースを作っておくと、そこからEPUB3にはどのタイプでも自動的に出力できる。そして、DAISY3でもDAISY2.02でも出力ができるということを考えています。つまり、このDAISY4と、今あるDAISYのコンテンツ、DAISYプレーヤー、それを行ったり来たりつなぐためにパイプライン、パイプで通すという暗示的な名前ですが、資産をムダにしないためのパイプラインを今、作っています。今、パイプライン2というベータバージョンができているので、技術的に好きな方はおっしゃってください。ベータバージョンの情報を差し上げます。
今、日本国内で作られているのがほとんどDAISY2.02ですが、このパイプラインを通すことで、これが一挙にDAISY4にコンバートできます。DAISY4の方が情報が豊富なのでちょっと手を入れないといけないんですが、ムダにならない。そういうことが可能になるような構想にしています。それからプレーヤーですが、そのまま使い続けたい方は使い続けられるようにしていきたいと考えているところです。

新しく出てくる動画が入ったDAISYというものは、動画を見たくない人はスイッチオフにすればいい。例えば音だけ聞いていても意味がわかる。それからテキストで流れているものだけを聞いていても意味がわかるというように作ることが可能です。いろいろ工夫は必要ですが、そうしないと、シンクロナイズさせた、同期させた動画とテキストの良さが十分に引き出せません。つまり、テキストだけしかアクセスできない、あるいは音声だけしかアクセスできない環境にあっても、動画を見て理解できるのと同じ内容が理解できなければ、本当にアクセシブルとは言えないということになります。
例えば今度の大震災のときに、釜石などで車で逃げている方たちが後ろから津波が襲ってきて、命からがら逃げられた方と津波に飲まれた方とがいます。先日、障害者団体が開いた集会でも、ナビの情報を頼りにやっと生き延びた方の事例も報告されていましたが、恐らくこれからは、そういう危機的な状況のときにあらゆる情報源を使って自分の安全を確保することが必要になると思います。
運転している時に、皆さんはナビの画面を見られますか? 見られません。耳でしか聞けません。つまり、普通なら動画で見るコンテンツを音だけでもわかるようにするというのは、誰にとってもメリットがあるんです。
それからテキストファイル、テキストメッセージだけ受け取れる環境は、実は送り出すのが軽いので、いろいろな所に輻輳(ふくそう)なく送れます。そういう環境だけが頼りで、生き延びるための情報が必要で、テキスト情報というのは非常に重要です。つまり、誰にとってもテキストだけでも、今の一番重要な情報がわかる。あるいは音声だけでも分かる。もっとよりよい環境があるときには、マルチメディアでも動画でも見られるときにはそれを見る。そうしたマルチモーダルな情報環境を保障する。アクセシビリティだけではなく、誰にとってもそのときの状況に応じた新しい知識のアクセスという環境を保障していく基盤、技術としてDAISYが今後、発展していくことを、私としては今後のDAISYのあり方としてぜひ追求したいと思っています。その点について、今後も皆様と手を携えながら、意見交換しながら進めさせていただきたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。