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Session1

セッション1

(3)WBU読む権利グローバルキャンペーンについて

クリストファー・フレンド
(WBU(世界盲人連合)読む権利グローバルキャンペーン代表)

皆さま、おはようございます。ここにいらっしゃる皆さまとともに、スー・スウェンソンさんの話を先ほど聞くことによって、彼女が3人の息子さんのうちのお一人、障害を持つ息子さんの母親として、そしてさまざまな活動に参加されたということを聞いたわけですが、最後のところでスウェンソンさんが言われたのは、私たちみんな障害を持つ人たちを支援する中で、ひょっとしたら自分も、我々が支援をする対象がすぐ近くにいることになるのかもしれないということを言われました。

テキスト1

テキスト 1

45年前、ある若い男性が朝起きて身支度を整え出勤しました。五体満足、目も開いていたわけですが、朝ご飯を食べる前に、その若い男性は病院のベッドに横たわり、そして完全に視力をその後失いました。その朝早い時間に労災に遭いました。その若い男性というのは私のことです。45年たった今、私は45回の目の手術をして視力の回復を試み、うまくいきませんでしたが、その中で私には大きな責任が与えられました。世界盲人連合の中で仕事ができた、これは私にとって非常に大きな光栄でした。その中で読む権利グローバルキャンペーンの代表を務めることができたわけです。

日本は知識集約型の社会です。昨日、国会図書館の司書の方、日本ライトハウスの司書の方々にもお目にかかりました。今日もここに来ていらっしゃると伺っております。日本は各市町に公立図書館があると聞きました。すべての村にも図書館があると伺いました。

私のスクリーンの後ろにスライドを出しております。視覚障害の方には見えませんが、本がどんどん積み上げられており、そして鎖がかかっていて、錠がかかっていて、誰もそこにアクセスが持てないというものです。そういうスライドを後ろに出しているのですが、そしてその鎖を断ち切るための大きなカッターの写真が載っています。

スライドを見られない方のために今スライドを説明しました。皆さまに申し上げたいのは、頭の中でちょっと想像していただきたいということです。例えば公立図書館に定期的に行くことを考えてください。図書館に行って正面の扉を開けて、そのときに、もし次のように言われたらどんな気持ちをしますか。10万冊の蔵書があるその図書館の中で、そのうちの9万5,000冊はあなたは選べませんよ、と言われたらどうでしょう。たった蔵書の5%しかあなたには選択できませんよと言われたら、どんな思いをするでしょうか。視覚障害者や印刷物を読むことに対して障害を持つ人たちというのは、まさにそういう状況にあるわけです。先ほどジュリーさんも言った通りです。

私は大きなフラストレーションを抱えてここに立っているわけです。皆さんも普通、図書館に行ってそういうことを言われたら同じ思いになるでしょう。私はただ単に、公立図書館であれ、書店であれ、そのベストセラーを借りたり読んだりしたいわけです。みんなが読んでいるものを読みたいのです。私の友達も家族もみんなその本の話をしている。私も仲間に入りたいんです。
しかし視覚障害を持つ人たちは特別なアクセシビリティの図書が必要です。点字であるとか、あるいは視力の悪い人にとっては大活字であるとか、DAISYとかオーディオブック、これも視覚障害者やその他印刷物を読むことに関する障害を持つ人たち、ディスレクシアの人たちにとっては役に立ちます。しかしごくごく少数しか手に入らないのです。ジュリーさんは先ほど5%と言いました。これは先進国の平均値です。昨年インドの人と話をしたんですが、インドでは昨年新しく出版された10万冊の本の中で、わずかアクセシビリティがあるのは500冊だと言われました。
0.5%です。

すべての出版物の中で、視覚障害者そして印刷物を読むことに対する障害を持つ人が読めるのが、あるいはアクセシビリティがあるのがわずか0.5%です。世界盲人連合も私も大きなフラストレーションを抱えています。

私たちは出版社が私たちのことを誤ったステレオ・タイプ化してしまったのではないかと思います。すなわちサービスを提供するのが難しい、そしてお金のかかる顧客層として見てしまっているのではないかと思うわけです。

クリストファー・フレンド

アクセシビリティのある図書というのは、後で出版するという形で、それは少数作るということでお金もかかります。

しかしながらWIPOであるとか、あるいは先ほど言ったジュリーさんの話のイネーブリング・テクノロジー、そしてグローバルキャンペーンの成果として、次世代の出版ソフトウェアにアクセシビリティの特徴を入れることが可能になり、後で出版するということが不要になったわけです。自動的に出版社がアクセシブルなコピーを元々の出版と並行して含めることができるようになるわけです。これは視覚障害者でオーディオブックや大活字がいるという人だけではありません。出版社に対しても市場リサーチ結果としては出ています。こうしたもの、例えば大きな市場があるんです。例えば高齢者。ますます高齢者は増えています。障害がなくても高齢者は大活字の本がいいと言いますし、オーディオブックがいいとも言っています。それによって読書を継続して楽しめるということ、そして目に負担がかからないというわけです。

出版社はそうすることによって、このような本を出すことによって、先ほどジュリーさんが言いました、視覚障害者、印刷物を読むことに障害を持つ人たちというのは何十億単位でいるということですから、こうしたものを出版すれば、出版社にとってかなりの市場となるわけです。世界盲人連合(WBU)としましては、やはり出版社がもっとこうした本を出版してほしいと思っています。

もう一つデータを申し上げます。先ほどアクセシビリティのある本5%と申し上げましたが、その中の95%は出版社が製作しているのではなく、視覚障害者に対するボランティアで私費でまかなわれています。我々は慈善の対象になりたくありません。私たちは普通に町に行って、そして本を買って、そしてその本を生み出した人たちの経済的な成果を称える一員となりたいのです。
私たちは本流に入りたいわけで、そしてこれは可能なわけです。しかし出版社がその製作をやらない限りにおいて、私たちに残された選択肢というのは、視覚障害者そして印刷物を読むことに対する障害者に対しての著作権法の例外規定というのが必要になってくるのです。

私たちは出版社とも協力をしています。その一つがイネーブリング技術です。TIGARプロジェクトも一つの協力のプロジェクトです。しかしTIGARプロジェクトは現状維持を目標にしているものです。もちろんその結果としてより多くの本のアクセシビリティが出てくる、しかしながらそれはあくまでも自主的慈善団体の好意によるものです。

私たちとしては、例えば電子ブックの新しい世代に期待がありますが、やはりまだ問題もあります。Kindleとかソニーブックリーダー、よくはなっています。しかし独立したアクセシビリティを例えば私のような者に提供してくれているわけではありません。例えばKindleの最新世代のメニュー、私にはアクセシビリティがありません。そしてテキスト読み上げ機能と切り離されていないわけです。メニューに入っているわけです。そしてAmazonの本の50%だけがTTSの対象となっています。これはデジタル権利の管理に基づいてです。そうなるとKindleにおけるTTS、読み上げ機能へのアクセスが視覚障害者に対して限定されているということになるわけです。

先ほどスー・スウェンソンさんが言われました。米国政府は条約とともに解決策を提供すると、そのほうが容易で早いということでしたが、しかし国境間の制限があります。我々としてはぜひ国境を越えた共通化が必要、シェアリングが必要です。しかしアメリカにおいてこれは非拘束の条約、拘束力がありません。TIがすべてのやりとりに参加するということに委ねられているわけで、ジュリーさんが言いましたように世界の3分の1の国においてしか例外規定がないわけですから、その中でアメリカの非拘束的なやりとりというのが出てくるのです。世界の人口の、あるいは世界の国の3分の2、多くの途上国、そして多くの視覚障害者がそこに入っていないわけです。著作権法の例外規定がないということによって、アメリカのソリューションを自由に使えない人がこれほど多くいるわけです。

先ほどスー・スウェンソンさんも言われましたけれども、障害を持つ団体が参加し、そして選択肢を与えられることが必要で、そして世界盲人連合におきましては「本の飢餓」という言い方もしています。私たちはいろいろな選択肢を考えてきました。法的拘束力のある条約がやはり必要だと考えました。これがあって初めて速やかに本の飢餓への解決策がもたらされると考えます。

政府の中でも、これは出版社の権利、あるいは権利保有者の持っている権限を妨げるものだと言う人もいます。しかしそうではないと思っています。自主的に経済的な利益、収益の機会は、視覚障害者あるいは印刷物を読むことに対する障害を持つ人たちにサービスを提供することによっても与えられるわけです。したがって国境を越えたシェアリング、あるいはやりとりというのが重要です。

何百万冊という本を、私たちが国境を越えてお互いにシェアすることができれば、製作費の不要な重複を回避することができます。でもそれを行うことによって、どんな出版社の経済的な利益を損なうものでは決してありません。彼らが自主的に本を我々のために提供してくれることによって、それを我々は得ることができるわけで、そしてアクセシビリティな形で本が提供できれば、もはやその段階になれば私たちが彼らの商業化している本に対抗した形で条約を施行する必要はないわけです。私たちはチャリティは要らないわけです。自由に本屋に行って本を買いたい、図書館で本を借りたいということです。

もちろん技術的なところもあります。出版社がマスターファイルからアクセシビリティな図書を準備するというに当たって、グラフィック、図、すべてを描写することが必要です。電子的なソフトウェアをアクセシビリティなものに変換したとしても、自動的に我々が必要な、例えば科学の本であるとか、また教科書の詳細な図、あるいはそうした表をなかなか変換することができないものがあります。出版社がアクセシビリティな図書を作るには、コピーに対するオーバーレイが必要です。そしてこれが著作権法の例外規定を必要とするわけです。著作権法の例外が必要なのは、出版社の対応がないときに必要なわけです。多くの場合、視覚障害者の団体が本を準備するに当たって、自主的にライセンスを下さいとか、こうした製作をアクセシビリティになるものに対して許可してくださいということを求めますが、だいたい90%の場合には答えが返ってきません。出版社にとって返答しても何も儲からない、だから何の返事も返ってこないんです。したがって例外規定というのがあれば、許可をいちいちもらわなくても準備をして製作できます。
しかし出版社に対して経済的にマイナスになることはそれでもありません。したがって根拠、正当な理由があると思います。

そして私たちはツイントラックと言って、二つの同時並行的な仕組みをとろうとしています。
マーガレットさんが先ほど言いましたように、出版社とできるだけ協力をしながら何らかの形でお互いに歩み寄っていきたいと考えています。そして可能なところではいろいろなやりとりをしたいと思っているのです。しかしそれと並行して、補完的な形で、もう一つ私たちにとって必要なのは法的拘束力のある条約です。そしてすべての国がそれに参加をしてほしいわけです。そして障害を持つ人々に対する国連条約におきましても、世界の3分の2の国がもうそれに参加をして、世界の半分の国がもうそれを批准しています。したがって視覚障害者、印刷物を読むことに対する障害者に対する著作権法の規定が出れば、我々にとってこれは大いに支援となります。

一つ申し上げたいのは出版社側の言い分として、出版社は海賊行為を恐れていると言われています。マスターファイルを、例えば視覚障害者が簡単にアクセシビリティを持ってしまえば海賊行為が怖いと言われています。私たちは出版社にとって海賊行為がいかに大きな問題かということを認識しております。しかしこれは視覚障害者がもたらした問題ではなく、出版社の問題です。

セキュリティであるとか透かしであるとか、あるいは指紋認証とか、いろいろなことをやってきております。DAISYの中でも、市販されている書店のオーディオブックよりもさらに高い基準のセキュリティが入っております。ですから海賊行為の重要性は十分に認識しております。出版社側は、著作権法を改定し例外を与えることによって海賊行為が増えるという証拠は一つも出してきていません。

著作権の侵害は視覚障害者のために例外を求めることによって増えるのでしょうか。視覚障害者のこうした条約を待って海賊行為をしようとしている人がいるでしょうか。

これは出版社にとっての問題であり、私たちももちろん、マスターファイルに携わる私たちは、日夜それを守っていこうと大きな努力をすることについてはきっぱりと申し上げたいと思います。
コピーも作らないようにしたいと考えています。

私たちとしては、できればアクセシブルなコピーを出版社のほうに用意してもらいたいと考えています。しかし私たちには並行で両方の努力が必要です。出版社と協力しながらも法的拘束力のある条約、この二股が必要です。アメリカとヨーロッパにおきまして出ているのは拘束力のない解決策であり、これは本の飢餓問題の解決には至りません。ただし条約を結んだからと言って、出版社の経済的な収益性を損なうものではありませんし、それによって彼らが出版を自らやるならば、我々はこの拘束力のある条約を展開する必要はないわけです。

日本の図書館協会においても、ぜひ国に対して働きかけていただきたいと。6月にWIPOで、他の解決策とともにこれについて議論されることになっております。ぜひ政府に働きかけをしていただきたいと思っております。またマスコミの方にもこれを記事にしていただきたいと思います。日本の政府が日本の視覚障害者に対して、昨年改正された著作権法によって、大きな力を与えてくれました。ですからこそ、G8の国際協力で大いに活躍している日本としては、やはり例えば国連条約の32条を見ていきますと、署名・批准をした国々は、お互いに協力しなければいけないというふうに言っています。日本がこの条約を支援することによって、世界の国々に対してアクセシビリティの権利を世界中の人に与えることになるわけです。

日本の政府が日本の国民の視覚障害者に対して必要だと言って提供したものを、やはり世界中にお手本となっていることで示していただきたいと思います。図書館協会、そしてマスコミ、また政府への働きかけも通して、このメッセージをぜひ伝えてください。政治のリーダーシップに働きかけていただきたいと思います。皆さんがそれぞれ国会議員に対して働きかけてほしいわけです。文化庁への政府からの働きかけそしてWIPOの会議に6月に参加する人たちに対して、この条約を支援してもらうように働きかけてほしいわけです。

現在まだ何もコメントが出ていません。反対意見の票を投じるということの意思表示はありませんが、我々視覚障害者に対してのアクセシビリティということで、日本だけではなく世界中の人が求めているんだという働きかけを日本の皆さんからもしていただきたい。これによって二つの並行の道が進んでいるわけでTIGARにもプラスになります。そして今ある100万冊の本が国境を越えてやりとりできるようになるわけです。お金を無駄にしてやり直すことも不要です。

オーストラリアとニュージーランド、英語の国々が図書を共有する。そしてスペインにおいては、スペイン国内の盲人協会で10万冊がアクセシビリティのある図書となっています。ラテンアメリカ諸国では19ヶ国がスペイン語圏です。アルゼンチンの一部には、アクセシビリティのある図書数が非常に少ないと言われています。しかしスペイン語のものであれば、視覚障害者そして印刷物を読むことに障害のある人たちに、ラテンアメリカの19ヶ国で使われることができるわけです。
そしてアフリカでもアクセシビリティのある図書というのが大きく不足しています。日本の国会図書館は、さまざまなアジアの蔵書、そしてアジアの研究関連の文献もあるわけです。しかしながら世界中で不足しているわけですから、例えばアジアからトロントに移動した視覚障害者がヒンズー語の本が欲しいと言っても、なかなか少数ですからありません。しかしニューデリーに電話をかけて、うちにいるこういう移住の人たちに対して本が欲しいんですよ、と言えば簡単に手に入れることができるといったものが必要です。そのためには、こうした条約であるとか、また例外規定がなければ、これをシェアすることができないわけです。

先ほど登壇されたジュリーさんやマーガレットさん、この二人は活発に活動をしてくれている人たちです。本を普及させるほうに力を入れていらっしゃいます。そして私は政治的にもいろいろな活動をしております。私たち3人の話を聞いていただいた上で、皆さまが日本で達成されたこの成果を世界中にぜひ広めていただきたいということをお願いしたいと思います。WIPOの条約において、日本政府への働きかけもお願いいたします。ありがとうございました。