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アイスランドからインドへと広がる北欧のコラボレーション

文:エーヴァ・パウノネン 写真:iStockphoto、ヴェイッコ・ソメルプロ

出典:
Pointti
Celian tiedotuslehti
2011

北欧諸国間のコラボレーションは、図書館の世界にまで広がっており、フィンランドのセリア視覚障害者図書館の利用者もその恩恵を受けている。セリア図書館は、印刷物を読むことに障害がある人々(Print Disabilities)へのサービスを行っている北欧各国の姉妹図書館と提携している。北欧の各図書館は、意見を交換し合い、コラボレーションは実務レベルにも及ぶ。また定期的に図書館長が集い、コラボレーションの方向性を決定している。


1890年代、フィンランドに盲人図書館が創立されたのと同じ頃、スウェーデンでは、現在スウェーデン国立録音点字図書館TPB(talboks- och punktskriftsbibliotek)として知られている図書館が、その業務を開始した。デンマークではNota図書館、ノルウェーではノルウェー視覚障害者図書館NLB(Norsk lyd- och blindeskriftbibliotek)が運営されており、アイスランドでは、Blindrabókasafn Íslands図書館が同様のサービスを提供している。

北欧諸国の間では、同一の発想や革新は瞬く間に広まることが多い。セリア図書館の利用者に良く知られているDaisy録音図書は、当初スウェーデンで開発されたものであった。デンマークのNota図書館は近年、自分たちのサービスの市場への売り込み、特に印刷物を読むことに障害がある人々へ周知させることに成功している。
同じようにして、現在セリア図書館独自のSenat sakaisinプロジェクトが進行中である。

図書館の国際連携機構であるIFLAの中にある、印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会では、北欧が代表的な立場を果たしており、アイスランドを除く北欧各国が、積極的にその活動に参加している。

北欧の図書館のサービス形態は、それぞれの国で多少の違いはあっても、運営理念は全ての図書館に共通している:それは“印刷物を読むことに障害がある人々へ知識と喜びを届ける!”ということである。

もっと外国語の文学を

2006年、カセットテープによる貸出がDaisy録音図書に移行されると、利用者には様々な利点がもたらされた。たとえばカセットテープ図書ではしばしばあった何ヵ月もの貸出待ちは、自館の図書貸出によって解消された。しかし一方では、利用できる外国語図書の蔵書量が減ってしまうという欠点も生じた。

-アナログのカセットテープで蔵書されていた外国語図書全てには、デジタル化の許可がなく、ただ蔵書から外す以外方法がなかった、と外国語図書担当の図書館員、エヴァ・ヘッレン(Eva Hellën)は言う。

英語の図書を待ち望む利用者にとって、嬉しいことが今年中にもあるであろう。セリア図書館は、北欧の姉妹図書館と連携して、視覚障害者へのサービスを行なっている英国王立盲人協会RNIBから録音図書を購入し、図書館の英語の蔵書を大きく増やしているからである。この数年で計500冊の英語のタイトルが蔵書に収められる予定である。大部分はフィクションで-少なくともイギリスとアメリカの古典、近代文学、推理小説、恋愛小説、その他の人気作品が含まれている。これらの小説以外には、詩や伝記、旅行本も増えるであろう。

イギリスからの図書の購入は、北欧図書館連携グループの主導で行われた。RNIBとの交渉には、デンマークのNota図書館が率先してあたった。このような図書館間のコラボレーションがなければ、セリア図書館が単独でこのような大量の図書を購入することはできなかったであろう。

北欧諸国間の貸出

スウェーデン語文学を読む利用者は、スウェーデン国立録音点字図書館TPBから、すでに長い間、図書貸出の恩恵を受けてきた。TPBの録音図書は、主に国外のセリア図書館の利用者へ貸し出されている。以前、図書はスウェーデンから届き、そしてまたスウェーデンへと返却されていた。近年、貸し出される図書は、TPBの図書データベースから、データとして直接ロードされ、セリア図書館でCD-ROMに焼かれている。焼かれたCDは利用者に郵送され、利用後は、セリア図書館から貸し出されたその他のDaisy図書と同じように、破棄されている。

北欧の印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館の利用者は、スウェーデンを除く北欧諸国から直接図書を借りることができる。図書館間での交渉の結果、協定が結ばれ、セリア図書館の利用者は、デンマーク、ノルウェー、アイスランドの図書館に貸出者として登録ができ、またその逆も可能になったのである。

北欧の図書館では、フィンランドと同じように録音図書の貸出が行われている。この録音図書はすでにおなじみのDaisy図書で、セリア図書館の自主製作図書と同じように聴くことができる。

インドでの図書製作

2010年、北欧の図書館とスウェーデンの教科書出版社SPSMが共同で、デジタル録音図書DTBookファイル製作を競争入札にかけた。これによって、最近はインドでデータが製作されるようになった。デジタル録音図書ファイルは、Daisyコンソーシアムが規定する基準に沿った図書ファイルで、pdf形式ファイルまたは印刷された図書から製作できる。これらのデータから、点字図書、電子書籍、マルチメディアDAISY図書が製作されている。

-デジタル録音図書製作では、グローバル化は当たり前であり、従って、国際競争入札で北欧が協力しあうことは、賢明なことである、とセリア図書館の製作部長、キルシィ・ウランネ(Kirsi Ylänne)は語る。

競争入札に必要な文書の作成は、多くの機関の連携によって迅速に行われている。また図書館がこなす仕事量が膨大なため、より手ごろな発注価格も求められている。

プロジェクトグループは、順番に北欧各国で会議を開いて入札の準備をし、落札決定後には、インドを訪れ落札した会社の業務を見学した。

-今後は、おそらく別の図書製作開発事業で、コラボレーションが行われるだろう、とキルシィ・ウランネは約束する。

さわる絵本がどこでも人気

アイスランドを除く北欧各国の、子供と若者のための印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館長たちは、2007年から年に一度集まっている。会合は持ち回りで北欧諸国で開かれ、2009年はセリア図書館が主催、今年はストックホルムで催されることになっている。この会合では、特にさわる絵本について話し合われる予定である。1、2日の会合では、形にとらわれず、同じ仕事をするもの同士、会って話し合うことに意味がある。

子供図書館長、イルメリ・ホルステイン(Irmeli Holstein)によれば、年に一度の会合では、意見を交換しあい、コラボレーション事業の可能性について話し合うという。館長たちは、各自の仕事の成果と新しい計画についても語り合う。この会合によって得られたアイデアは有効に活用され、またそれぞれの仕事に生かされている。

-皆が集まると、すぐに本についての興味深い話になる。これは図書館で新しい図書を購入する際、とても参考になる、とイルメリ・ホルステインは言う。

実務レベルでは、スウェーデンとノルウェーのコラボレーションによって、マックス・ベルジュイス(Max Velthuijs)のお話に基いた「恋に落ちたかえる」が、厚紙で作られたさわる絵本として誕生した。恋に悩むかえるの冒険を描いた色彩豊かなこの本は、スウェーデンに蔵書されているさわる絵本と同じ理念で、スウェーデンで製作された。この本は、スウェーデン語のさわる絵本コレクションとして、セリア図書館にも収められている。

さわる絵本
写真:「恋に落ちたかえる」は、北欧のコラボレーションによって誕生したさわる絵本である。

2007年夏、イルメリ・ホルステインは、役員交代時、 5週間アイスランドに滞在し、アイスランドの図書館、地域の幼稚園そして学校の職員に、さわる絵本の作り方を教えた。滞在中にホルステインが指導したワークショップでは、布や厚紙からさわる絵本が作られた。それ以前、アイスランドの図書館には、布のさわる絵本は一冊もなかった。イルメリ・ホルステインにとって、このアイスランドでの仕事は、長い間の夢の実現であった。
また北欧で同じ仕事する人々とのコミュニケーションは、彼女にとって実りあるものだった。


イルメリ氏
写真:北欧のコラボレーションは得るものが多いと、セリアの子供図書館長、イルメリ・ホルステインは考えている。

-北欧の図書館の事業形態は、それぞれ異なるかもしれないが、子供や若者はどこでもほとんど同じである。

北欧各国の図書館

スウェーデン
スウェーデン国立録音点字図書館TPB(Talboks- och punktskriftsbibliotek)

  • 利用者 55,000人
  • 録音図書 80,000冊以上
  • 図書館員 80名
  • http://www.tpb.se/

デンマーク
Nota図書館

ノルウェー
ノルウェー視覚障害者図書館NLB(Norsk lyd- och blindeskriftbibliotek)

アイスランド
BBI(Blindrabókasafn Íslands)