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ハーレム市立図書館(オランダ)の Easy Reading Plaza

項目 内容
翻訳 佐藤 尚子(国立国会図書館)
転載元 BalansBelang(オランダのディスレクシア関係者の雑誌) 2003年3月3日号

目次

◆EASY READING PLAZAで見る、聞く、読む

ハーレム市立図書館の児童図書館は読むことが困難な子ども向けに"EASY READING PLAZA"(以下"ERP"という)という特設エリアをオープンした。

ここには視聴覚資料が多数揃っていて、授業の発表や本のレビューのために、または単に楽しむために利用することができる。

本は人目をひきつけるような形に置かれていて、明るくて素敵な表紙は見るだけでも楽しませてくれるし、読みたいという気持ちをおこさせてくれる。

子ども向け

所蔵資料:

  • 映像にした子ども用の本
  • 手話付きの子ども用の本
  • 録音図書
  • 二通りのフォーマット;本とカセットテープ
  • ワードゲーム、数学ゲーム付きCD-ROM
  • 知識DVD・ビデオ
  • Mini-Locoの教材パック、スペリングセット ※Mini-Locoはオランダで定評ある児童向け教材シリーズ
  • 情報誌および娯楽誌
  • 録音雑誌
  • 読みやすい図書
  • 知識図書

ERPでは子どもがインフォメーション・デスクでディスクマンまたはウォークマンを借りて本を聞くことができる。また、DVDやビデオを見たり、コンピューターでCD-ROMを試してみたりすることができる。

親と教師向け

所蔵資料:

  • 読書障害、学習障害に関する図書
  • 関連団体の雑誌
  • 親を対象とした専門誌
  • 読書障害、学習障害に関する切り抜き、パンフレット
  • 読み書きを手助けするための製品の情報
  • 朗読できる読み物

専門家による相談

親を対象としたEASY READING (読みやすい図書)アドバイザーのカウンセリング。アドバイザーはディスレクシアや他の読書障害および関連した事柄に関する情報を探す手助けをしてくれる。カウンセリング日は木曜日夜、5:30~8:30。予約も可能。連絡先:023-5157600。担当者:Nanda Geuzebroek。E-メールによる問い合わせも可。n.geuzebroek@haarlem.nl

資金

ERPの資金のために寄附を申し出てくれた組織は下記のとおりである。

  • J.C.Ruigrok Stichting
  • National Revalidatie Fonds
  • Stichting Dyslixie Fonds
  • Stichiting Katholieke Openbare Bibliotheken
  • Stichting Kinderpostzegels Nederland
  • VSB fonds

◆ハーレム市立図書館のERP

2002年9月6日

はじめに

オランダでは全学童の10%に読書障害がみられる。これらの子どもたちにとって読書はなんら面白味のないことで、図書館に行くということは思いもよらないし、ましてや自発的に図書館に足を運ぶということは考えられないのである。しかし、このような子どもにとってこそ、読書の習慣をつけることは大切なことで、他の子どものようにプロジェクトやお話のために情報を得ることができなければならない。

また、この子どもたちは本の感想文も書かなくてはならない。

読むことが困難な子ども用に多種多様な資料が開発されている。さらにICT情報通信技術は次々と新たなチャンスを与えてくれる。ハーレム市立図書館はこの子どもたちにとって公共図書館が大いに役に立つ存在であると確信している。それは子どもたちと彼らが必要としている資料の橋渡し役であるからである。

この役目をこなすために、児童図書館に特設コーナーを設置した。それがERPである。このコーナーには子ども用のあらゆる情報資源が揃えてある。展示の方法も一種独特で人目を引くものである。欲しい資料をみつけるために専門スタッフが常時待機している。CD-ROM、DVDやビデオ、図書など…を。

魅力ある環境作りやスタッフのトレーニングなど、このサービスを軌道にのせるために多くの時間と経費が費やされた。 ハーレム市立図書館は単独では資金調達ができなかったため、寄付を募ったところ、2001年12月までに8つの団体から資金提供の申し出があり、EU126,831の資金が約束された。2002年9月25日に正式な開会式が行われた。

この企画は二段階にわけて行うことにした。第一段階ではERPの初期セットアップに必要な活動を行い、これはすでに2002年4月から開始された。ERPのオープニングには多くの子どもたちが参加し、ストーリーテラーも出席した。オープン以降は子ども用の資料の利用、貸し出し、および専門家のアドバイスなどのサービスを提供している。第二段階ではサービスの拡大を目指し、親、保育者、教師などを対象とした情報の提供を行った。さらに、ハーレムの他の分館やその他の地域においても同様のサービス提供の可能性を調べてみた。企画全体としては3年間を予定している。この企画が予想どおりの成功をおさめた場合、本事業に組み込まれる。

ERPとは何か

ERPでは読むことが困難な子ども用のあらゆるメディアが集結され、独特で人目をひく方法で利用できるようになっている。学校用または娯楽用の資料を探し出すため、子どもとその親、教員と関係者などに対して専門的支援を行う。これらの子どもたちにとって本は利用しづらいため、視聴覚資料やマルチメディア資料(ビデオ、CD、DVD、CD-ROM、カセットテープ、録音図書、教材パック)を揃えてある。すべての資料はマルチメディア・プレヤーおよびインターネットPCを使って館内で試してみることができる。

ERPは親や教員、またはコーディネーター向けの資源を提供している。これらには図書の他に教育の分野の雑誌やいろいろなフォーマットの資料がある(図書、CD-ROM、およびインターネット)。印刷物の利用はスキャナーを常設しておくことでさらに便利になる。

Plazaでは椅子が多く用意されていて、そこで本を読んだり音楽を聴いたり、友達とおしゃべりを楽しむこともできる。Plazaは児童図書館の中央にあり、とても便利である。

対象とする利用者

ERPは読むことが困難な子どもとその親、そして教師を対象としている。これにはディスレクシアの子ども、視覚障害、聴覚障害、精神的障害のある児童、または読み書き能力が低い児童が含まれる。ハーレムとその地域に住んでいる子どもにサービスを提供することを目指している。

協力体制

このPlazaはハーレム市立図書館の中央図書館内にある。他の分館にも同様のPlazaを設置することを検討している。読むことが困難な子どもたちが友達と一緒に地元の図書館に通うことができるのは大切なことである。この考え方は地域の他の図書館にも普及させるべきであり、ハーレム市立図書館はそれらの図書館に助言を与え支援を行うことができる。この他にも、読むことが困難な子どもたちと関わっている団体、学校、地域教育支援組織、市の教育課などと協力体制をとるべきである。今後は劇場、美術館、音楽学校などと共同活動を行う可能性について調査する。

参加

私たちの大きな目標を達成するために、早い時点から、親、教師、および専門家たちにも参加を呼びかけた。その結果、熱心なグループが形成され、多くの便利なアイディアが出された。今後はPlazaをさらに発展させていくために、子どもたちの参加も呼びかける予定である。

子どもたちの参加についてはハーレム市立図書館はこれまでの経験を生かすことができる。例としては、分館での子ども向け情報センター、KICの設立や、児童図書館のウェブサイト、de Leesmug(読書するこびと)などである。

担当者名

プロジェクト・コーディネーター:Erna Houwer, 児童図書館員
Easy Readingアドバイザー:Nanda Geuzebroek
グラフィックデザイナー:Ellen van de Veen, Grafisch Bureau Sinas
スタイリング:Aat Vos, 建築家

スポンサー:Stichting Dyslexie Fonds、Stichting Hulpactie Haarlem、Stichting Katholieke Openbare Bibiliodheek (SKOB)、J.C.Ruigrok Stichting, Stichting Kinderpostzegels Nederland, Nationaal Revalidatiefonds, VSB Fonds.

予算

支出(2001~2004): EU 165,800,-
資金提供:EU126,831,-
ハーレム市立図書館からの寄付金:EU 38,969、-

◆ハーレム市立図書館のEasy Reading Plaza

蔵書について

はじめに

6歳になる私の息子は小学校の入学式の前の晩にこう言った。「僕はこれから一生懸命勉強するよ。頭がよくなりたいんだ。」この言葉を思い返すと心が痛む。それは、息子の希望は全くかなわなかったからだ。入学して数週間もたたないうちに先生が息子の様子を知らせてくれたところによると、努力は見られるものの息子は全く向上していなかった。読もうとする単語全てが初めて見るもののように思ええているようだった。もちろん何度も見ている単語だったにもかかわらずだ。綴りにも苦労していた。文字を認識できていなかったのだ。つまり息子はディスレクシアだった。15年たっても彼は本を避け、図書館には全く足が向かなかった。

幸いディスレクシアの子どもたちにとって状況はかなり改善している。ディスレクシアに関する認識も深まったし、ディスレクシア自体についてもだいぶ解明が進んでいる。しかしまだわかっていない部分も多い。

確実に変わったことといえば、ディスレクシアの子どものための図書館が、欠陥をもった子どものための施設としては見られなくなったことだ。最近になって、読むことが困難な子どものための本がたくさん書かれるようになったし、メディア事情も改善され子どもたちがこれらの本にアクセスしやすくなっている。以下は、このような変化についてとハーレム市立図書館のEasy Reading Plazaの施設に関する説明である。

簡単な歴史

ディスレクシアの子どもを持つ母親であるMrs.Heleen Kernkamp-Biegelは1962年に子どものための物語をディスレクシアの子ども用に書き直す作業を始め、それらの作品はWolters-Noodhoff社から出版された。

EASY READINGのコンセプトは1980年代にさかのぼる。当時、特別支援学校はとにかく読むのに簡単な本を求めていたが、ここでのコンセプトは、文章は普通の子ども用の本よりも簡単なもので、内容はもっと高度なものであった。

1977年にNBLCオランダ公共図書館協会は精神的な障害のある人のための本を関係者たちと制作しはじめた。1982年になるとこの運動は他の関係者にも広がり始めた。これがEASY READINGワーキングパーティとなった。その使命は出版社、作家、イラストレーター、写真家に、低い読書能力でも簡単に読むことができるが、面白い内容である作品を作り出すように要請するというものであった。そのような基準が設けられて、その基準に合致した作品にはEASY READINGのラベルが貼られてすぐに見分けがつくようになっていた。そんなラベルをつけると人々はかえってそんな本を利用しなくなるのではないかという懸念は杞憂に終わった。むしろその反対であった。EASY READING本はすぐに探し出すことができたし、実際多く貸し出されていた。

読むことが困難な人々に対して必要な配慮のめやす

レイアウト

  • 大きすぎず、しかし、現実的な本であること。
  • ページ配分
    • 1ページあたりの行数が多すぎないこと。
    • パラグラフ間のスペース
    • 文字は大きく、はっきりとしていて余計な装飾がないこと

イラスト

  • イラストと文章が補完関係にあること。
  • イラストがその文章の直前か直後にあること。
  • イラストが主人公の視点で描かれていること。

読みやすさ

語法

  • 文章が明瞭、単純、直接的、実際的であること。
  • できるだけ現在形で書かれていること。
  • 話法がはっきりとしていること。つまり誰の言葉かはっきりとわかること。
  • 比喩的な話法は避けるか、文脈の中でその意味を解説すること。

センテンス

  • 文章構造が単純であること。
  • 複文が最小限であること。

語彙

  • できれば難しい単語がないか、理解が難しかったり知られていない単語を使わないこと。
  • 二音節の単語をあまり使わないこと。
  • 活用形をあまり使わないこと。

内容

  • テーマは読者の関心事であること。
  • 内容は情感に訴えるもので、勇気付けられるようなもの。
  • テーマは、認識が可能な状況や環境を扱うこと。
  • 多少高度なテーマも取り入れること。

登場人物

  • 読者が登場人物に同調でき、物語の最初の部分から認識できること。
  • 主な登場人物は2,3人以内で、それ以外の登場人物もあまり多くないこと。
  • 同調しうる登場人物であること。ステレオタイプ化されていないこと。
  • 物よりも人物について語られていること。
  • 一人称単数を多用しないこと。

動き

  • 構造
    • わかりやすいストーリーであること。
    • 時代順に展開し、原因と結果がはっきりとしていること。章が短いこと。
    • 一人の視点で語られること。
    • 一つの章では、場所、時間、内容が広がらないこと。
  • テンポ
    • 充分なテンポを持っていること。
    • 各章がサスペンス的に終わること。
    • アクションがたっぷりと入っていること。
    • 描写は避けるか、入れても短くしておくこと。

これまで20年間のEASY READINGの発展には常にデジタル技術やAVメディアの発展が伴っていた。このため、幸いなことに、もう子どもたちは本だけに頼らなくてよくなっている。

まずカセットテープが出現した。はじめ目の不自由な子どもたちのために本が完全な形で録音されたが、やがてこれらが読むことが困難な子どもたちにも用いられるようになった。今は商業的出版社がこれらを扱っている。(ハリーポッターのCDが店頭で売られている。)

視覚的メディアもある。オランダスクールテレビは放送された番組のビデオを刊行している。

利用者

ERPが対象としているのは読むことが困難な8歳から13歳の子供達である。これには、ディスレクシアの子ども、ADHD、オランダ語が母語でない子ども、あるいは身体的・感覚的障害や学習障害を持つ子供たちが含まれる。8歳以上とした理由は、4年次にならないと特別な資料が求められないからであり、また4年次になると、子どもの知的レベルにはあっているがしかし低い読書能力でしか読めない本が必要となるからである。

ERPの基本方針

ERPの基本方針策定にあたっては、あらゆる利用者層の代表者がブレインストーミングを行った。参加したのは、小学校教員、SEN(特別支援教育)学校教員、SEN教員、支援教育サービススタッフ、読むことが困難な子どもの親などである。方針策定中にERPの利用者層を定義することもできた。

ERPでの蔵書を選定するにあたって一つ目の方針は、ディスレクシアの子どもたちにできるだけ多く言葉に触れる機会を増やすことだった。ディスレクシアの子どもの読書量は他の子どもたちに比べて少ないので、彼らの言語の発達にとって重要なのは、彼らのふれる言葉が適切な構造を持っていることである」。

二つ目の方針として、読むことが困難な子どもは文章情報にのみ問題を持つのであって、情報を理解したり処理したりする知的能力が劣っているというわけではないことも重要だ。読書に対してだけ障害を持つのであるからその障害が取り除かれるべきである。この目的のために視覚資料を拡充している。このため、子どもたちは学校の課題や発表をすることができるようになる。そしてそこでは読書することよりも、内容に集中することができる。

三つ目の方針として、子どもたちが魅力的に思う形態をなるべく多く使うことである。形態とは例えばコンピューターである。読書の練習にPCは適している。この他に、PCを利用することによりディスレクシアに有効な音声認識が可能である。

また、ディスレクシアの子どもが図書館に来るのは自らの意志ではなく、しかし、親もどのようにして子どもを図書館に行かせるようにできるかわからないことも問題となっている。むしろ親にとって問題は深刻である。このことのため読書障害に関する親コーナーが設けられている。これは教員にとっても有用である。

これらの方針は日常の運営にどのように反映されているのだろうか。

児童図書館のパンフレットのキャッチフレーズは「読むこと、見ること、聞くこと」である。しかしERPではこれは「見ること、聞くこと、読むこと」としている。

ディスレクシアの子どもにとって読むことは最も重要である。繰り返し練習することによってのみ向上する。教員や親は毎日苦労しながらディスレクシアの子どもたちに対して本を読む。これは子どもたちにとって最大の努力が求められるにもかかわらず得られるものはあまりにも少ない。ERPでは、彼らに最も適した情報を、そんなに苦労せずに得られるようにしたいと考えている。だから、「読むこと」が最後に来ているのである。以下の説明は、私たちの使命「見ること」「聞くこと」「読むこと」の順になっている。

DVDとビデオ

DVDとビデオの良いところは映像と音声の両方を持っているところだ。セリフは映像を伴っているので、子どもたちが集中できるのだ。DVDとビデオは情報源として最適だ。同じテーマであっても子どもたちは動かない本よりも動きのあるものを好む。ディスレクシアの子どもたちにとって、DVDとビデオはプロジェクト作業や発表準備に理想的である。

ディスレクシアの子どもたちにとって小説の映画は効果的だ。もちろん映画はオリジナルの小説とは異なる。映画監督には制約があったり時間的制限があったりで省略されたり付け加えたりされている。

それであってもディスレクシアの子どもたちにとっては読書に際して映画の利用を勧めたい。よい小説の映画であるならば、ディスレクシアの子どもたちは読むことのバリアから開放される分、得るものは多いはずだからである。

子どもたちは映画を通しよく構成された言葉に接して、語彙力は向上する。想像力は高まり、理路整然とした思考の訓練にもなり、あらすじ、人物構造、テーマ、主張などの映画の文学的要素に触れることにつながる。これらすべて子どもの知的言語的発展にたいへん重要なものである。当然のことだが、これはオランダの映画や吹き替え版に言えることである。しかし親の力を借りてロアルド・ダールの作品など英語の作品を見ることもできるだろう。これはやがて英語を学ぶ頃になって役立つはずだ。

CD-ROM

ディスレクシアの子どもたちはコンピューターでよくゲームをする。これを利用して読書や綴りの練習をさせることができる。ERPでは言語的技術を養うCD-ROMに力を入れている。例えば、Lingoであったり、音声認識を訓練するプログラムであったり、読書の初歩や綴り練習カードなどである。音声説明がついている情報ビデオもある。耳が不自由な子どものための手話練習CDもある。資料の選定にあたってはなるべく小学校の声を聞くようにしている。学校で使われているプログラムの家庭版を購入するようにしている。

地形(地理)や九九の練習ができるプログラムもそろえている。ディスレクシアなど読むことが困難な子どもには九九を覚えて自分のものとすることが苦手なものが多い。自分の身の回りにない国や年や水路の名前を覚えるのはディスレクシアの子どもには困難なことだ。この学習にはコンピューターの利用がたいへん有用である。

リスニング

前述の通り、言葉に頻繁に触れる必要性は大きい。このための重要な資料は子どもの本である。ディスレクシアの子どもは読もうとしないので、別の方法で言葉に触れるようにしなければならない。リスニング資料はその目的に適している。資料にはいくつか異なった種類のものがある。

一番重要なものが録音図書である。オランダの図書館供給出版社であるNBDの全出版物が保管されている。これらはすべて完全録音版である。

Dedicon(盲人図書館のひとつ)が録音図書の出版に責任を持っている。我々はあらゆる場でDediconを宣伝している。というのは、Dediconの活動がディスレクシア者や読むことが困難な人たちに印刷出版物の世界を開放することになるからである。Dediconのウェブサイトwww.anderslezen.nlを利用してディスレクシア者は録音図書や、定期刊行物、専門書などを購読することができるようになっている。地理や生物などのカリキュラム教材もあり、また、小説を購読することも可能である。

録音図書とは別に、ERPでは複合版資料も用意している。これらはオレンジ色のラベルが貼ってあり、練習教材と呼ばれている。複合版資料とはカセット付のやさしく読める図書のことである。音声はゆっくりと文章を読んでいくので子どもは聞きながら読んでいくことができる。この資料は、適切な指導がある場合にのみ利用すべきである。さもないと逆効果になる。子どもたちはこれが自由に使えるとなると読むことをやめ聞くことだけをするようになってしまう。複合版資料はしたがって治療教員の指導がある場合にのみ利用されるべきである。

3番目のリスニング本は普通の子どもの本を親や教員が読んで聞かせるものである。我々は年長の子どもたちが好んで読む本をそろえている。"Brothers Lionheart"(はるかな国の兄弟)、 "Minoes (Minnie)"(ネコのミヌーヌ)," Matilda", "De brief voor de koning"(王への手紙)," Harry Potter and the Philosopher's Stone"(ハリーポッターと賢者の石)、などである。

読み聞かせ本は、だいたいいつも大人の膝の上に子どもが乗っているようなラベルが張ってあるが、私は、これを変更してもっと年長の子どもと読む人がいるような形のものにした。

物語の本

読むことが困難な子どもたち向けのものが数シリーズ出ている。これまで出版社が数社これらの本を発刊した。その後中には中止する会社もあったが、Zwijsen社はかなりの数を出版している。Zoeklicht(サーチライト)や、年長向けのZoeklicht Plusなどである。ほとんどの本はAVIレベルの特定な読書レベルに対応している。AVIレベルというのは年齢ごとに子どもが到達すべき言葉群を定めたものである。最近の出版物は、読書経験によって定められてるLeeslatという新しいシステムに対応している。

ERPでの本の数をあまり多くならないように配慮している。読みたがらない人々に圧迫を与えたくないからである。フィクションのテーマは、次の8つだけである。魔法使い、ホラー、探偵、動物、ロマンス、学校、スポーツ、馬。EASY READING図書でこれらのテーマに属さないものは通常のジュニア向けフィクション部門の書架に配置してある。

TIP

子どもたちに読ませるためには、子どもがどんな本を読むかを心配するより、読むという行動につかせることの方が大切である。親や教員は時に本の質に対する期待感を一掃する必要がある。子どもの関心や情熱を知ることが大切だ。馬が好きな少女は、やはり"Penny"を読みたがる。サッカーファンはやはりお気に入りの雑誌を読みたがるだろう。シリーズ物を読むことも効果的である。シリーズ物の一冊を呼んだ子どもはきっとすぐにその続編を読みたくなるものだ。(ハリーポッターのおかげでなんと多くの子供が読むことを覚えたことか。)

ERPは"Donald Duck", "Tina", "Penny"などの子供向け雑誌をとっているし、コミックもそろえている。

ディスレクシアである私の娘の場合は次のようだった。娘は"Penny"を定期購読したかったのだが、私はその雑誌にはあまり感心しなかった。しかし、娘は馬が大好きだったので申し込むことにした。ところがPennyを読み始めると、娘は馬と少女の本を次々とさぼるように求めた。そしてやがてオランダの子供小説作家であるCarry Sleeの作品を読むように薦められると、すぐに大人のテーマを扱ったティーンエージャー向けの小説である"Lemniscaat"を読むようになった。期末試験における娘の読書リストはクラスで一番だったようだ。

教材パック

学習増進のための教材パックがある。Mini-Locoなど、大半は移民の子供や若年児向けである。九九を暗記するためのカードのような算数用の教材もある。

ERPには学習障害に関する親向けの図書が少数だが揃っている。ほとんどは閲覧用である。というのも、これらは親が基礎資料を捜し求める際に参照すべきものだからである。したがってERPの書架においてないと意味がない。図書館の中央部で借りるかコピーを頼むことになる。

切り抜き

学習障害、方法、資料に関する切り抜き記事はフォルダーに保管してある。また地区の治療教員、スピーチセラピスト、専門家団体、宿題援助教師などの連絡先もある。

パンフレット

ERPコレクションの中でも、集積されたパンフレットには価値がある。また、ディスレクシア、トゥーレット病、ADHD、目の不自由な人のための図書館、読書支援などに関する無料のパンフレットもあり、たいへん人気がある。Reading Pen, 音声認識プログラムであるIris Penや Dragon Naturally Speakingなどである。パンフレットラックには、ディスレクシアを子どもたちに説明するためのTom Braamsの記事などがある定期刊行物の関連記事も置いてある。

定期刊行物

"J/M"や"Balans Belang"や"Woord en Gebaar"などの専門誌は、最新号は閲覧のみだがバックナンバーは貸し出している。

親は児童図書館のインフォメーションデスクを利用できる。込み入った相談がある場合は、ERアドバイザーとの面会を申し込むこともできる。アドバイザーは毎週木曜の午後5時半から8時半まで受け付けている。同じ時間に音声認識プログラムのデモも行なっている。音声認識はディスレクシア者に理想的なものである。コンピューターに音声入力することができ、それがいつも正しい綴りで印刷できるのだ。この方法のすぐれたところは、子どもたちはつづりとか文法とかに神経を使うことなく、やろうとしていることに集中できることだ。理想的な方法といえる。音声認識によりディスレクシアの子供が努力をしなくなるのではないかという心配は無用である。むしろ、自分の手では書かないにもかかわらず綴り能力は向上する。やがて時間がたつと子どもたちは自分で書くようになる。機械では時間がかかりすぎるからである。

デザインとレイアウト

ERPは2002年9月25日に開館した。このために特別にデザインされた家具も入った。

読書障害者のためには特殊な棚が必要だった。普通の書架では本は縦に隣同士に並んでいて、本の背だけがこちらを向いている。従って、本の背を読むには小さい文字を、頭を傾けなければならない。これは読むことが困難な子どもには適していない。
(※書架の写真あり)

読むことが困難な子どもは、本のカバーのイラストから本のイメージを見て取れるように本の顔を見ることができるようにしておくことが絶対的に必要である。レコード店でCDを探すときの要領で本を探すのだ。また書架は好奇心を掻き立てるようでなければならない。棚の扉に色のついた透明ドアがついているのはそのためだ。これらの扉の後ろに玩具などが入っているのだ。壁にはすべて棚が設置されている。上段の棚は子供たちがとどかないので、親向けの本や、親がよく使う練習教材を置くようにしている。
(※ソファーの写真あり)

大きなソファーは、そこで資料を探してもよいし、雑誌を読んでもよいし、ただリラックスするためのものでもある。現実的には、予想もしなかったことに使われることが多いのである。小さい子どもたちが好んで使っているようだ!

資料の展示方法

資料展示の基本的方針は、読むことが困難な子どもたちが簡単にわかるようにする、ということだ。このためにサインや指示板には最小限の文字しか使っていない。代わりにピクトグラムや色分けを使っている。

ワークショップや講座

ERPの宣伝活動としてワークショップや利用者のための講座を開講している。特に対象は親と教員である。たとえば、ディスレクシア者とその保護者の組織するBalanとの夕べ、Reading Panなどの別の製品の説明や、特定のメソッドに関する方法の講座などである。

結論

ERPはまだ発展途上である。したがって学校、特殊学校、SEN教員、親、子どもたちなどの関係者と常に接している必要がある。彼らの声を聞くことによってのみ、彼らの要求にこたえることができるのだ。

(Nanda Geuzebroek ERアドバイザー ハーレム市立図書館 2003年3月)

◆Martha Vlastuin 「本を経験するところ」

読むことが困難な子どものためのプロジェクト

2002年9月25日にハーレム市立図書館はERPを開設した。ここには読むことが困難な子どもたちのための最新の資料がそろっている。これはユニークな取組みであり研究に値するものである。

ERPのアドバイザーであるNanda GeuzebroekにBalansと連絡をとった。Nandaは、ディスレクシアのPimの父親の意見を求めた。

数年前の「ディスレクシア年」の年にオランダディスレクシア協会は新しい取組みに対する資金を募集しHaarlemでプロジェクトが開始した。蔵書計画、インテリアデザイン、特別アドバイザーの役割などを含む計画が立てられた。図書館は資金の一部負担を約束し図書館の通常業務を維持した上でのサービス提供を確保した。これによりディスレクシア基金の資金を保つことができたが、それでも不十分であった。その他7箇所からの資金援助があり計13万8千ユーロが調達されたことにより、プロジェクトは3年以上継続が見込まれた。

デザインとレイアウト

ワーキンググループが設置された。このグループには、図書館のスタッフや取組みをスタートさせた子ども図書館のErna Houwersの他、可能な限り関係者が多く集められた。グループに入ったのは、小学校教員、特殊教育が必要な学校の管理者や教員、難聴者学校、生徒の親、地域教育支援部署のスタッフなどで、誰もが多少なりともディスレクシアに関連していた。Nandaは、後になって思うと大人数のグループで大変よかった、と言っている。ほかにはないようなアイディアがいくつも提案された。たとえば、インテリアデザインに関してなどである。まず、ERPは絶対に図書館のようであってはならない。なぜならば、利用者である子どもたちにとって本を読むことは楽しみであろうはずがないからだ。本の置き方も異なっていなければならない。本の背が外を向いていては興味が起こらない。テープやCDやDVD・ビデオや本は背から見るとタイトル文字も小さいしあまり見てくれがよいとはいえない。子どもたちは本のカバーの絵をみて本を選ばなくてはならない。

普通の書架の図書館が、本を経験できるところに変身するのを想像してみてほしい。子どもたちは三日月の形をした長いすにカラフルなクッションを置いて座っている。パソコンに向かっている子もいればヘッドホンでテープやCDを聞いている子もいる。書架にはいろいろな色の箱が置いてあり、かわいいおもちゃもある。棚の本や資料はみな表紙がこちらを向いている。箱はレコード店のようなデザインで指で探すことができる。

子どもが子どもたちだけでやってくることはあまりない。一緒に来る親のためのコーナーが設けられており、そこには親向けの資料が置いてある。

蔵書

意図的に蔵書数は抑えている、とNandaは言っている。すぐに見つけることが大切だから。ディスレクシアの子どもたちは綴りと読みがかなり遅れているが、その診断がつくのは3年生の終わりになる頃である。ここでの対象年齢が8歳から中学1年である13歳になっているのは、このためでもある。子どもたちに読ませるには子どもたちの興味に合わせてやる必要がある。なので、ここでは蔵書をテーマ別にアレンジしている。馬、ロマンス、SF,探偵もの、動物、学校という具合である。学校での発表などに使える音声資料もある。本がもとになったDVDやビデオも置いている。これはディスレクシアの子どもたちが書評を行うのに便利な資料である。「一緒に読む本」の棚には親のための場所である。ここには、Astrid Lindgren(アストリッド・リンドグレン)の古典、"Brothers Lionheart"(はるかな国の兄弟)などが置いてある。これらの本には、子どもの隣に大人がたっているようなマークの特別なラベルが貼ってあり、つまり、これはお母さんのひざに座って親指を口にくわえて話を聞くような時代を卒業した年長の子ども向きであることを表している。

カセット付の本はなるべく置かないようにしている、と彼女は言う。そういう本は、特定の訓練のために使うのでない限りあまり効果的とはいえない。たいていの場合子どもたちはヘッドホンをつけて、本に向かう。しかしすぐに苦手な読むのをやめてテープを聴くだけになってしまう。やがてそれもつまらなくなり、飽きてしまうのだ。

特別資料

図書でない資料で子どもたちに学校の勉強に役立つ形で情報を与えるようにしている、とNandaは続けた。視聴覚資料の役割は大きい。DVD・ビデオから情報を得ようとする子どもたちは多い。そこで学校用テレビ放送を使う。できれば、オランダの子ども向け人気テレビ番組であるKlokhuis放送局のものを使いたいのだが、著作権問題でこれは不可能に近い。今一番問題なのは利用できる録音情報CD-ROMが不足していることである。特殊な読み方で使える資料の作成に興味を示す出版社もあるが、どれも費用がかかりすぎる。いい面としては、ディスレクシアの子ども用の資料は聴覚障害、視覚障害や精神的障害のある子どもたちにも使うことができる。読みやすい図書は物語があまり長くないので、その利用の対象はADHDの子どもまで広げることもでき、オランダ語が第二母国語である子どもたちにも利用可能である。このように利用者の枠を広げていくと、商業面でも見込みがある。

新しい資料を作って売り出す際に問題になるのは、これらが適切でない人々に評されることである。新しい読みやすい図書は10歳児用に特別に作られているのだということを必ずしも理解してもらえず、悪い評価を下すことが多く販売数にも悪影響がでてしまう。

宣伝活動

Nandaは宣伝が自分の重要な仕事だと考えている。学校訪問をして特別支援(スペシャルニーズ)のコーディネーターと話をする。支援型ソフトウェアについて話したり、オランダ国立盲人図書館であるDedicon/AnderslezenのCD-ROMについて話したりする。この話題は特別支援コーディネーターから親に伝わる。彼女はよく授業でも話をする。目的はただひとつ。子どもたちを図書館に来させるためである。小学校は8歳から12歳の子供を図書館につれてくる。子どもたちは、オーディオブックを聞いたり、その後で、その本の表紙をもっと素敵にデザインする仕事をする。

開発

Nandaは自分の仕事が大変特殊であることを知っている。オランダはおろか欧州全体をみても彼女と同じ仕事をしているものはいない。したがって、読むことが困難な子供たちにとってどんな視聴覚資料が適しているのかなどを判断できる制度はない。しかし、読みやすい図書の場合は、本に対象者の年齢や読書経験の量が示されているので判断が可能である。視聴覚資料の中でどれがERのラベルに相応しいかを彼女は自分ひとりで決めなければならない。これは実に時間がかかる作業である。そこで、「子ども参加」という形を始めている。子どもたちをつれてきて資料を見て聞いてもらいERPに適したものを探し出そうとしている。

他の図書館へのアドバイス

ERセクションを作るだけの資材がない図書館が多い、しかしそれは、だから何もしないという理由にはならない、と彼女は言う。ある資料を一箇所にまとめて読むことが困難な子供が見つけやすいようにすることは正しい第一歩である。幸いこのように始めている図書館がいくつか出てきている。

図書館がインターネットで新しい展開について調べておくのもよい方法だ。オーディオブックの新版について公共図書館は注視していなければならない。盲人図書館であるDediconやNLBBに相談するのもよい方法である。

展望

Nandaははっきりとした将来展望をもっている。そして彼女はたとえ一歩一歩であってもこの夢を実現したいと考えている。8歳から10歳だけでなく、ティーンエージャーや大人の読書障害者を救済したいと思っている。彼女は、ディスレクシア専門家であり、ERPのオープニング時でスピーチを行ったAnneke Smitsの言葉を引用する。「現代の技術をもってしてディスレクシア者の読み書き能力が獲得できないわけがない。」

Monique NieuwmansによるPimの父親のインタビュー

Pimのお父さんはよくPimを図書館につれていく。私が小さいころ図書館の中に入ったことはなかった。私自身がディスレクシアがあったので、図書館に来る理由がなかった。最近ではディスレクシアに対する関心が大変高まっているのをうれしく思う。親はもっと子どもたちを図書館に連れてくるべきだと思う。

私の家族には子どもが8人いた。そのうち下の5人は皆ディスレクシアだった。もしだれかが私たちのことを馬鹿などといったら、他の4人が助けにやってきたものだ。だから、だれもそんなことは言わなかった。しかし、問題は他にあった。授業で読む番がまわってきそうになると私は机の下に隠れたくなったもんだ。最終的に私は学習障害をもつ子どもたちのための特殊学校に転校して、自分自身を取り戻すことができた。これは大変重要なことだった。Pimにも同じことがいえると思う。私たちはかなり早い段階でPimがディスレクシアだとわかった。4年生のとき、妻はPimと一緒に学校に行き、そして子どもたちにディスレクシアについて話した。今年になってPimが学校から帰ってきて、先生にもっと早く作業をするようにいわれたと聞いたとき、私たちは直ちに先生に連絡をとった。ディスレクシアであることが彼の自信をなくして悪い面がでてこないようにすることは重要である。

彼に、簡単なことなんだと思わせることはない。もし発表をしなければならなくなったら、私たちは2ヶ月前から図書館に行く。彼は自分で本を選び、それからすべてを書かせる。もちろん私が代わりに書いたほうが早くて簡単だ。しかし彼が自分で自分の方法をあみださなければならない。これが私自身が学んだことだ。これによって私は他の方法を探すのがうまくなった。たとえば、コンピューターがその点大変便利である。この他にも時間がたつにつれ自分の力を見出すのだ。製図技術者として私はよく視覚化が求められる仕事が入ってきた。これが私の力なのだ。人は、自分の力で生きてゆく。

職場の同僚に私は自分がディスレクシアであると話してある。ディスレクシアは社会でも認められるべきものだ。朝食を食べるときの牛乳のように。

CD-ROM(Daisy)のノンフィクション

盲人図書館の団体であるDedicon にはwww.anderslezen.nlから入ることができる。読書障害をもつ人は利用者として登録ができる。視覚障害がない場合は、ディスレクシア証明が必要である。

Dedicon
PO Box 24
5360AA Grave
Traverse 175, Grave
Tel; 0486 486486
Fax 0486 476535
eメール info@fnb.nl

録音図書

国立盲人図書館NLBBはカセットの録音図書を供給している。読書障害をもつ人や、身体障害により本が持てない人ならば誰でも登録できる。

PO Box 84101, 2508AA, Den Haag
Badhuisweg 177, 2597JP, Den Haag
Tel; 070 3381555
Fax;: 070 3381557
利用者デスク:klanten@nlbb.nl
問い合わせ:voorlichting@nlbb.nl

協力体制 FNBと公共図書館

Dedicon とオランダ公共図書館協会であるNBLCは、読むことが困難な人のための公共図書館のインターネットというプロジェクトを協力して行っている。このプロジェクトの目的は少しでも多くの利用者がインターネットを使えるようになるようにすることである。実験的に一部の図書館では特別な仕様のコンピューターが導入された。家にコンピューターがない人が図書館のコンピューターを使うことができる。この実験が成功すれば他の図書館でも導入される。