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老人ホームにおける回想法を使用した図書館サービス

ジャネット・ラーセン(Jeannette Larsen)
図書館司書
ゲントフテ(Gentofte)公立図書館(デンマーク)

出典:
"Library service in the year 2007 with yesterday’s objects"
Scandinavian Public Library Quarterly Vol.40 No.2 2007
http://www.splq.info/issues/vol40_2/09.htm

2006年、ゲントフテ公立図書館では、市の老人ホームの1つで、図書館サービスの合理化を進め、より適切なサービスを提供するために、サービスの刷新と改革を行った。新たなサービスは成功をおさめ、市内の他機関からの需要が増加することとなった。

老人ホームでの図書館サービスは、今なお適切なサービスとなっているであろうか?そして図書館司書は、老人ホームにおいて今でも最適なファシリテーターだろうか?過去の形態のままでは、これ以上やっていくことはできない。しかし、サービスが改善され、ファシリテーターとしての役割が強化されていけば、おそらくは大丈夫だろう。

入居者の構成に見られる変化

「できるだけ長く自分の家で」という高齢者政策は、ここ数年にわたり、デンマーク国内の老人ホーム入居者の構成に変化をもたらしてきた決定的な要因である。今日は認知症に苦しむ多くの入居者について語るが、日常生活処理能力の減退、記憶力の低下と混乱は、彼らがもはや自宅ではやっていけないことを意味している。そこで図書館も、老人ホームに対するサービスをターゲットグループにとって適切なものとするための改革を余儀なくされている。認知症の入居者に適応していないサービスは、不適切であろう。

認知症は、脳の機能が減退した状態である。最も重要な症状は、記憶力の低下であるが、推論能力や判断能力もまた影響を受け、人格、気性、そして行動に変化が見られることもよくある。一般に認知症の人は短期記憶の低下に苦しみ、数時間前あるいは数分前に起こったことも忘れてしまうが、何年も前の出来事はまったく問題なく覚えていることが多い。このため、最も鮮明に思えるのは、多くの場合子供時代や青年時代の記憶である。

回想法

老人ホームでは、回想法という形で、認知症の人々に社会的な刺激を与えることにますます重点的に取り組んでいる。記憶を呼び起こすことによって、個人のアイデンティティに対する認識が強化され、これによって生活の質を向上させることができる。あるいは、ほんのつかの間ではあるが、何か見覚えがある物を見て、とりあえず心地よい気分になれる場合もある。

認知症は、現実認識に変化をもたらすことがあり、記憶を呼び起こされたために、過去の世界に生きていると感じてしまう場合もある。

図書館司書であり、回想法には熟練していない私は、簡単に誤った行動をとってしまう可能性があった。たとえば、高齢の紳士に第二次世界大戦当時のレジスタンスの活動に関する絵本を勧めてしまった場合、もしその人が認知症を患っていなければ、それは本当にすばらしい提案であっただろう。だが彼が認知症で、第二次世界大戦にまつわるトラウマ的な経験をしていたとすれば、それを思い出すことによって、突然、戦争中の残虐な行為が繰り広げられている真只中に自分がいるものと感じてしまう可能性があった。

第一に、認知症に対する洞察が足りないために、私は自分がどのような危険を冒そうとしているのかを理解することがない。そして第二に、どのようにしたら彼がその後再び戦争から逃れられるように助けることができるのか、私にはわからないのだ!

老人ホームの職員は、認知症に関する専門能力を備えているだけでなく、入居者の過去の生活を理解しており、入居者からの信頼も得ている。これらは、図書館サービスの仲介における重要な要素である。

新たな図書館サービス

これまで私は図書のワゴンを押して6つの棟をめぐっていた。それは午後2時過ぎ頃で、この時間なら入居者が午後の休憩をしていたからだ。私が到着すると、入居者たちはちょうど目を覚まし、トイレに行ったり、コーヒーを一杯飲みにラウンジへと向かったりしているところだった。

概して、入居者たちに話しかけることはきわめて難しく、たとえ話しかけたとしても、ほとんどの人が私を拒んでいるように感じられた。だが、誰も私のことを知らなかったし、本を読む人もいなかったので、それも理解できる。

今では実際の図書館サービスの仲介は、各棟に配置された職員によって行われている。そしてこのような仲介は、入居者に十分時間があるときに、入居者が知っている人々によって実施されている。このため、これまでよりもずっと利用者に優しい図書館サービスとなっている。

今後老人ホームの職員は、図書館が提供する資料やその他のサービスの両方について、入居者が確実に情報を得られるようにしていくであろう。そして職員と協力して活動することによって、またこのような連携を繰り返し行っていくことによって、ターゲットグループと図書館の両方の可能性に関する双方の専門家集団の知識をもとに、同じターゲットグループを対象としたサービスが絶えず評価、開発されるので、常に適切な図書館サービスが継続されることとなるであろう。

新たな図書館サービスを導入したゲントフテ市の老人ホームでは、6つの棟のそれぞれから、図書館との連絡にあたる職員が1人ずつ選ばれ、その棟の図書室の改革を担当し、指示を出した。

各棟の図書室の様子は6つの棟で異なり、職員の関与が大いに反映されている。成功には、ターゲットを絞った積極的な図書館資料の仲介が明らかに関係していることに疑問の余地はない。

「入居者がラウンジでお互いにおしゃべりを始めたのです。」

ある棟では、実に私たちの期待を超える成果があがった。これはモナ・リザ(Mona Lisa)が担当する棟で、彼女が回想法に非常に熱心な、偉大なる情熱家だからできたのである。

モナ・リザが図書室の改革をはかるために初めて私に電話してきたとき、彼女はこう言った。「入居者がラウンジでお互いにおしゃべりを始めたのです。」

以前は、入居者はただそこに座り、空を見つめ、お互いに何のかかわりも持つことはなかった。たいていの場合、入居者は老人ホームに入りたいと頼んだわけではなく、そこに入れられたのであった。お互いを知らないということ、また、すぐには共通点が何もないということもあったとは思われるが、それだけでなく、彼らは会話の始め方を忘れてしまったか、だれかが実際に話している内容について、覚えていられなかったのかもしれない。

それが今、突然話し始めたのである。本のおかげだ。ある高齢の紳士は、1940年代の車の写真が載っている本を見ていたが、そのうちの1台を指差し、隣に座っている人にこう言った。「昔、こんな車を持っていましてね。緑色でしたよ。」すると相手の人がその車を見てこう答えた。「私の父は、赤い車を持っていましたよ。」

モナ・リザは入居者と面談し、入居者自身とその親の過去の仕事や関心のある娯楽などに関する情報に興味を示す。それで私は、その棟の入居者の1人が、古いリルベルト橋(Lillebælt Bridge)の建設を手掛けていたことや、別の1人が木製家具職人であったこと、また3人目はいつもルイジアナ美術館(Louisiana Art Gallery)を訪れるのを楽しんでいたことを知っているのだ。入居者に関する情報は、可能な限り最善の方法で入居者のニーズにこたえられるよう、その棟の図書室用に私が選ぶ資料に、はっきりと反映された。

私が最後にモナ・リザと話したとき、彼女はこう言った。「素晴らしいことではないですか。入居者は、今では歩行器のかごに絵本を入れて持ち歩いているんですよ。どこにでも本を持って行って、とても気に入っています。ある人は、クリスマス休暇に息子さんと読むために、何冊か本を持って行きました。」

図書館と老人ホームの連携

「図書館連絡担当職員」と私は評価会議を開き、このスキームのさまざまな利用から得られた経験について情報交換をし、施設と図書館の両方のニーズを満たすよう、これを調整する。またこのような会議を通じて、図書館の多種多様な資料やその他のサービスについても、職員に紹介する。

各棟の連絡担当職員以外にも、老人ホームでおもな窓口となってくれる人がいる。それは、アクティビティセンターの所長で、この人とともに、私はこのスキームの基礎となる枠組みを承認し、開発してきた。

新しい試みとして、地域の歴史アーカイブを利用し、私は過去の出来事や感情を思い起こさせる当時の品物を入れた2つの思い出袋を製作した。1つは、「学校」というテーマを特に扱ったもので、もう1つは「日曜日の野外活動」をテーマとしたものである。これらの2つの袋は、老人ホームの2つの棟とアクティビティセンターで試してみる予定である。これは、回想法で使用されるこのような図書館資料の貸し出しのニーズを調査する試験的プロジェクトである。

このように、当然のことながら、図書館では過去の品物も貸し出さなければならないのだ!