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日英NPOフォーラム-共生のコミュニティにおける民間非営利組織の役割と経営-

英国のNPO

スチュアート・エサリントン氏

スチュアート・エサリントン氏(Stuart Etherington)(英国ボランティア団体全国協議会会長)

 皆様、おはようございます。まず、今回、このフォーラムにお呼びいただきましたことを、大変ありがたいと思っております。御礼申し上げます。私と私の友人をイギリスからお呼びいただきました。
 きょうは、2つお話ししたいと思います。1つ目は、イギリスにおけるNPO分野、NPOセクターの背景をまず理解していただくことによって、どういった規模や状況にあるのかということを理解していただいて、それからNPOがどのようにしてマネージされ、また発展してきたのかという全体像をお話ししたいと思います。あとはミラーさんのほうからもう少し具体的な詳細について、お話があると思います。ここでは、NPOという言葉を使わせていただきますけれども、イギリスではボランティア団体、あるいはCSOという言葉のほうが今はより一般的になっていると言えるでしょう。しかし、CSOという言葉も余りまだ一般的には認知されていませんので、ボランティア団体と言っております。ですから、万が一私がボランティア団体と言ったとしても、これはNPOとお考え下さい。
 まず、背景からお話しします。NPOというのは、イギリスにおいては1601年の時代から法制化の対象とされております。ですから、非常に長い歴史を持っていると言えるでしょう。現在、こういったイギリスの慈善団体に入ってくる収益というのは、142億ポンドと言われております。そして、トータルでのいわゆる資産と言われる部分については、650億と言われています。従って、経済においても非常に大きな要素を占めているということです。ただ問題は、大きなNPOにそのお金が集中しているということです。全慈善団体に入る収入の90%が、NGOの中で一番大きなトップ10によって占められているということが言えます。従いまして、非常に大きなNPOが資金を独占していると言えると思います。市民活動組織には非常に小さいところがたくさんあるんですけれども、そういうところにはお金は全然入ってこない。ほとんどボランティアだけで運営されているのが現実です。
 また、財源としては、一般市民からの寄付が最大の財源となっております。大体35%ほどでしょうか。NPOが得る財源の大体35%は、一般からの寄付によって賄われております。大体35%ということなのですが、同じ35%が企業からの寄付、また政府からの助成金、または補助金などによって賄われています。従って、この35%分というのは企業、それから政府なのですが、ただ、その多くが政府ですので、全体を見渡しますと一般からの寄付、政府からの寄付というのが非常に大きいです。また、その他につきましてはNPO自身が運営しているさまざまな事業からの資金ということになりまして、サービス、商品などの売り上げということです。従って、そういう意味では相対的に独立性を保っていると言えるかと思います。
 今回は社会福祉の話ですので、全体のNPOの中では大体60%ぐらいが社会福祉分野のNPOと言われています。高齢者、障害者ということで、政府からの委託事業としてやっている場合がほとんどです。  また、このNPOのセクターの一般的な傾向としては、一般からの寄付というのが割と一定の基準、一定の金額にとまっているということです。80年代はこの寄付額が非常に増加したんですけれども、それ以降はずっと一定額にとどまております。そして、少しずつ下がっていると言っている人たちもいます。  また、このセクターですけれども、NPO全セクターでいわゆる有給スタッフが48万5,000人おります。そして、ボランティアの数が300万人と言われています。従って、かなり大きいわけです。例えばイギリスにおいては農業よりもNPOセクターの方が、セクターとしては大きいわけです。それだけ大きくなってきますと、団体もかなりさまざまです。通常は評議委員あるいは評議会というのがありまして、その評議会というのが一番上にあるんですけれども、それは全員ボランティアになっています。そして、その下に有給スタッフがいるという仕組みになっているんですけれども、評議会は全員無給です。ですから、公的セクターあるいは民間セクターと比べて、これが大きな違いだと思います。つまり、公的セクターや民間セクターにおいては、この評議会そのものが有給の職員によって占められることのほうが多いからです。従って、イギリスにおいては非常に歴史が長い。また、アメリカのNPOよりもさらに長い古い歴史を持っております。サービスの提供、そして市民の活動、今もお話がありましたけれどもそういったサービス提供、市民活動と、いろいろなところに枝を伸ばしています。  それでは、これからこのNPOの運営について、少しお話をさせていただければと思います。これはあくまでもイギリスの事例ですので、イギリスの状況について少しご理解いただければと思います。  では、まず最初に、どのような経緯をたどって発展し、変化しつつあるのかをお話ししたいと思います。前のスピーカーの方からもNPOの戦略というお話がありましたけれども、本当にその通りなんですね。つまり、6つの要素があると言っていいと思います。戦略的な計画づくりということですけれども、イギリスにおけるNPOにおきましては、まずそのビジョンということですね。つまり、我々が何を達成したいのかということ、そして使命。何を達成しようと、そしてどうやってそれを達成しようと思っているのか、そしてその目的というのは、例えばどういったものを達成する必要があるのかという目的ですね。そしてその目的を達成するためにどういった資源を使うことができるのかということ。そして、その目的を効果的に達成するためにどう実施をしていったいいのか。そして、これを達成したかどうかということをどう評価していったらいいのか。その6つの要素なわけですね。
 そして、自分たちのやりたいことはあるんだけれども、やはりその資源が枯渇しているのでできない、十分ないのでできない。ですからこのままにとどまるか、あるいは発展していくか、どちらかを選ばなければならないと。特に小さなNPOの場合にはそういったことが言えると思います。特に、ボランティアによって運営されているような場合、変更していかなければいけない、達成していくためにはスタッフも揃えなければいけないと、まずその計画づくりと発展のためですけれども、とにかく変更することがなぜ必要なのかということを明確に理解することが必要です。そして、我々が変化をしたいと思っているのかどうかということ、ここにもしっかりと境界線を引く必要があると思います。そして、そのビジョンをしっかりと確率したら、その目的に向かって進んでいくということですね。
 皆さんはよくご存じかもしれませんけれども、その経営の主体とか経営陣などにおいては、そのミッションというものを意識するということなんですけれども、つまりお金を追求するということではないわけわけですね。補助金とか、その寄付金ということが収入になっているわけですね。そうすると、だんだんとその自分たちがそもそもやろうと思っていたところからずれてしまうという危険性もあるわけです。  そして、たくさん障害もあると思います。NPOをイギリスにおいて発展させていこうとした場合の障害ですけれども、最初に考えられるものは、まずその時間の欠如ということですね。政策環境というのが常に変わっています。そうしますと、時間がないわけですね。この変更を行った場合にどれぐらいの影響があるのかということを正確に把握するための時間もないわけです。ほかのエージェンシーとのパートナーシップというのもあります。その辺が非常に重要なファクターになってくるわけです。それから、変更するということは多くのスタッフにとって、あるいはボランティアの皆様にとって、非常に表面的にとどまってしまう場合があるわけです。これが本当に変更をしたのかどうか、変化を経験したのかどうかということ、それからまた同時にスタッフ側では不安もあるわけですね。典型的な例としては、こういった組織の上のほうが変更の必要性をわかっていないというような場合もあるわけです。そして、余り変更したくないと、前に進むのを嫌がるといったようなこともよく見受けられる問題点であります。
 イギリスのメインキャップという組織があるわけですが、これは学習欲障害を持った人たちの組織なのですが、これは自助団体としてそういった学習障害を持つ子供たちの親のためにつくられた組織です。ただ、だんだん時間がたっていく、子供たちが大きくなる、そうするとニーズがどんどん変わってくるわけですね。でも、その組織を運営している人たちというのは、いずれにしても親たちなわけです。そしてその親たちが昔のニーズがもういらなくなったということに気がつかないわけです。子供たちが大きくなってきた場合に、ニーズが変わってくるわけです。そういったようなことがよく見受けられる問題点です。  それからもう1つ考えられるのは、こういったボランティアの団体というのが、例えばいろいろな利害関係者との調整を図っていかなければいけない。トップダウン形式でその変化がもたらされるのか、ほかのスタッフあるいはマネジャーレベルの人たちに相談なく押しつけられる場合には、これは抵抗にあうわけです。ですから、どういったような変更を行う必要があるのかということ、そして自発的にその変更を行っていってもらうことがあるということ、各利害関係者との協力を取りつける、理解を取りつけるということが大事です。そういった意味でも、こういった変更を行っていこうとすると、時間がかかるわけですね。
 それからまた、その「明確にする」ということを少しお話ししたいんですけれども、そのNPOを発展させていくための計画づくりで明確にしておかなければいけないこと、まず、なぜ変化が必要なのかということ、これを明確にするという点ですね。組織を発展させていく、変更させていくというときに、その障害者側もなぜその変更をする必要があるのかというニーズがわからなければいけないということ、それからまたその限界、あるいはどこの境界線で変化が起きるのかということをわからなければいけません。そして、どういった変更を行うかということをきちんと伝えるということ、そして効果的な計画づくりということが求められます。そして、どんな障害があるのかということ、例えば時間がないとか、そういうようなことも先ほど少し触れましたけれども、不安があるということですね。それから変化に対する抵抗、それからトップダウンで行おうとすると余り十分な結果が得られないということ。経営面から見ると、そういったようなことが考えられるわけです。
 それからまた、そのgovernanceということについて、私、少しお話ししたいと思います。このgovernanceという言葉は統治という意味なんですけれども、これがまさにNPOの背骨に当たる部分、本当に骨になる部分です。さて、governance(統治)という言葉なんですが、実際に何を意味しているのでしょうか。もともとは、これは古いギリシャ語からできあがった言葉で、舟のかじをとるという意味です。また、例えばほかの辞書などには何かを統治する、支配する、あるいは統制管理するその行動あるいはその様式という意味を持っています。ですから、一般大衆の信頼を勝ち得て、そしてそれでもって活動あるいはNPOを引っ張っていく、かじとりをしていくというものですね。この統治というのは、いわゆる企業の管理運営とは少し若干変わってきます。NPOの場合は、やはり何といっても企業と違ってパブリック・トラスト、一般大衆からの信頼をきちんと勝ち得て、そして運営をしていかなければいけないわけです。つまり、その透明性があって、そして正直にいろいろな情報の開示をしていくという必要があります。
 またさらにこのgovernance(統治)という言葉に関して、NPOがいろいろな活動をする上で法的にはいわゆるこのgovernする(統治する)人たちが法的ないろいろな責任を負うということになります。その統治をする人たちと、いわゆる管理をする人たちとの間に、ここに差があるわけです。また、その統治をする人たちというのは、NPOからお金をもらっているわけではないんですけれども、しかしながらステータスというかランクとしてはむしろ管理をする人たちの上で、さらに大きな目で監視をするという形になります。  また、私たち、いろいろと研究調査をしているんですけれども、この行動規範も非常に重視しています。つまり、そのNPOがどういった規範・ルールにのっとって行動すべきかということなんですね。これは特にイギリスのいわゆるNPOに大きな影響を及ぼしています。オープンであるということ、そして透明性をもって情報を開示するということ、そして正直、誠実であるということ、こういったものは行動規範の中でもよく言われていることで、またイギリスのNPOの中では、これは本当に高らかにうたっている。また評議会がこれを使っております。  ほんの2年前なんですけれども、イギリスの政府とNPO組織との間で法的な拘束力はないんですけれども、協定を結びまして、そしてこの中で、例えばでは政府としてはこういう方法でこういうことをすべきだとか、あるいはいろいろな政府の行動の規範とか、そういったことについても両者が同意をしています。  幾つか例を皆さんにご紹介したいと思います。政府側、こちらはNPOとコンサルト、つまりNPOとの相談にのる、またお互いに相談をし合わなければいけないということを認めています。そして、政府側もきちんと時間をとって、何を相談するのか、何をどのように相談するべきか、コンサルタント的にどのような内容を話し合うべきかということをきちんと行動規範の中で認め、それを受け入れております。
 さて、政府がNPOのキャンペーンを認めるですとか、それからいろいろな資金源の調達の関係という意味でも、きちんと両者が合意をしているわけです。こういった合意をしているけれども、また政府から何か補助金をそのまま支払われてはいても、その一方で例えばNPOたちが何かのキャンペーンをするとか、そういったことは認めているわけです。以前は、ひもつきではないですけれども、政府がこういう補助金を出しているんだから、NPO、君たちはこういうことはしてはいけないというような制限もしていたわけですけれども、今ではそれが違っているわけです。これがその政府、それからNPOとの間の協定できちんとうたわれています。私の組織、NCVOについても同様のことが言えます。私どもの組織の監視をするオンブズマンがいるわけなんですけれども、あくまでも活動の監視というか、活動の監督はオンブズマンがするわけで、政府は我々の活動に何ら介入してくることはございません。その一方でNPO側も、やはり自分たちは最高レベルのgovernance、自らの統治をするということをきちんと認識しています。また、この協定によってNPOは自分たちの関係者、あるいは利害関係者、こういった人たちにきちんと情報を開示し、そしてその話を聞く義務を持っています。こういったことも政府との協定できちんとうたわれています。  またさらに、そのほかのサンバージョンの行動規範を、今、設計中なんですけれども、いずれにしてもこれはイギリスにおいては政府とNPOが非常に健全な関係を持っているということのあらわれになります。  さて、この行動規範だけではなく、governance、よりよい統治をするためのそのほかの方策もとっております。例えば、グッド・プラクティス、つまり良好な慣行ですとか良好な行動、こういったもののいろいろな情報をまとめたドキュメント(文書)などをまとめています。実は私どもは「グッド・トラスティガイド」という本というか出版物をつくりまして、これは優良な優れた評議委員のためのガイドというものなんですが、これはイギリスでは近年ベストセラーになっているぐらいです。ほかのいろいろなNPOの組織も、例えば新しいメンバーが入るというと、この「グッド・トラスティガイド」が最初の教科書のようなものとして使われています。さらに、私どものいろいろなサービスや活動の品質基準についても、厳しいものを設けています。やはり、そのサービスを提供するのであれば、それこそ政府にはできないようなサービスを私たちは提供しているわけです。先ほどのスピーカーの方もおっしゃっていました。ですから、せっかくするのであれば、やはり質のいいものにしなければいけません。質の悪いサービスを行うということになれば、やはりこれは非難の的になるのはもう明らかであります。例えば、遺伝子組み替えをしている食品をつくっている会社が非難を受ける、あるいはシアトルでのWTOの会議でいろいろな抗議行動も起きたということを、皆さんも覚えていらっしゃるかと思います。いずれにしても、その製品についてもサービスについても、質の悪いものについては今や大きな批判の的になるということは、十分に自明の理であると思います。ですから、我々のサービスの質を落とさないためにも、クオリティー・スタンダード・タスクグループというグループを我々のその組織内につくって、常に良好な質のサービスを提供できるようにしています。  さて、もう1点なのですが、やはりこのNPO組織にもいろいろな種類、またいろいろな規模のものがあります。ですから、その小さな組織なりの問題、あるいは大きな組織なりの問題というのがどうしてもでてくると思います。小さい組織の場合、例えば障害のある人に自助サービスを提供しましょうという場合には、余り規制を設けたくはない。あまりいろいろなきまりで縛りつけたくはないというふうに考えるかもしれません。一方で、大きな組織の場合、ある程度の決まり事というのをつけていかなければいけないという差はあると思うのです。そういった柔軟な対応をしていかないと、なかなかいろいろな法律ですとか、特に小さな組織などにとってはすべての基準あるいはきまりを遵守するのは非常に難しくなってくるし、無理矢理にそれを守ろうとすれば、今度はコストがかかってくるという問題があるので、やはりこれはその組織によって柔軟な対応が必要になると思います。  それでは次に運営の側面なのですが、NPOが発展するにつれて、いろいろな問題が出てきます。まず、人間の問題です。つまり、NPOの活動と言いますと、いろいろな人たちがかかわってくるわけです。そうしますと、その範囲の広さというのをこのスライドに書いてありますけれども、これだけの人たちがNPOの発展あるいは変革においてかかわらなければならない。今、お話ししましたトップにくる評議会、それからNPOの職員、ほとんど50万人ぐらいの有給スタッフがいるわけです。ですから、非常に大きな労働セクターですね。それからボランティアの人たち。ボランティアというのは非常に特殊なリソースだと思います。NPOしか通常はボランティアという人たちには頼れません。通常は、営利企業でボランティアをしているという人は、私は少なくとも聞いたことがありません。つまり、自分の時間を無償で提供する、それはそれなりの目的があるわけですけれども、例えば自分と同じ障害をかかえた人のためにとか、あるいは自分も障害者だけれども、少し何かしたいとか、そういった人たちですよね。ボランティアだけではないかもしれません。例えばそこでの大義名分といいますか、そこでのミッション、例えば持続可能な開発というものを信じて、その信念なり理念なりを信じてやっている場合もあるかもしれません。ですから、通常は言われて来たのではなくて、自分で好きできている人たちなわけです。つまり、そういう人たちをどのようにして関与させるか、その人たちをかかわらせていくかが大切です。いつでも離れていくからです。つまり、強制的に何かをさせることはできません。従って、どのようにしてかかわりを持ってもらうのかということが、大変重要になってきます。  それから、アカウンタビリティー(責任)ということも考えなければなりません。つまり、例えばボランティア組織が提供しているそのサービスの受益者というのが、だんだんその団体が大きくなってくるに連れて当初の目的からそれていってしまう、対象者が変わってきてしまうということもあります。通常は地域ベースの小さいところから始まって、だんだん全国的に展開されていくというのがNPOの場合は普通だと思います。そうすると、対象者が変わってくるということも考えなければならない。つまり、利害関係者というプロフィルも変わってくるわけです。また、いろいろ新しい責任が出てきます。運営の仕方も変わってきます。例えば、財務管理、財務運営というのが大きくなるに連れて、より重要性を増してきます。例えば、せいぜい1年あたりの年間収入が500ポンド(8万円)ぐらいしかない、そしてボランティアだけ、そして、その地域でしか活動していないということであれば、財務とは言ってもほとんどまず、例えばそれでスキャンダルを巻き起こすとか、そういうことは考えられないと思います。大きいところに比べたら、全然違うと思います。大きいところというのは、そこで使うお金についても公共に対する責任があります。ですから、イギリスではこの法規制というのにしても、1万ポンド以下の年間収入しかない小さいところに対しては、ずっと緩やかなものになっています。つまり、小さいところに対してはそれだけ法規制も緩く、しかし大きいところになりますと公共に対する責任が大きくなってくるわけですから、財務運営並びに法規制も、より厳しくなります。例えば、建屋も必要かもしれません。施設も必要かもしれません。そういうことを今まで考えたことはないかもしれません。そういった入れ物ですとか設備ということも考えていかなければなりません。 また、そのスタッフの生計あるいは暮らしということも考えていかなければならないと思います。ここで出てくるのが、雇用法です。雇用に関するいろいろな法規制です。最初はせいぜい2人か3人しかスタッフがいないでしょう。2人か3人、常勤の職員がいる。ですから、例えば労務部とか人務部というのは存在しないと思います。しかし、大きくなってくるに連れてそういった人事部、人的資源の管理ということにも目を向けていかなければなりません。こういった新しい責任というのが、またその人たちの福利厚生ということを考えていくというのが、新しい責任の一つだと思います。
 また、ボランティア団体が大きくなってくる、そこで生じるいろいろな問題や間違いをどうやって避けていくかということで、さっきのスライドとも関係するのですが、財務計画が一層大切になってきます。業務計画ですね。きちんとしたビジネスプラン、きちんとしたファイナンシャルプランを詳細なものがつくれる能力が大切になってきます。といいますのも、この財源というのも多岐に渡る可能性が多いからです。年間収入がせいぜい500ポンドということであれば、そのお金がくるのも、その資金源というのも、簡単に管理できると思います。資金源もせいぜい1つとか、そんなものでしょう。そうすると、かかわってくる人というのも少ないと思いますし、せいぜい行政ですとか、あるいはほかの官庁からくるお金だけに頼っているということだと思いますけれども、大きくなるに連れて財源も多様になってきます。例えば、このプログラムについては政府からの助成に頼る、あるいはこれについては一般からの寄付、これについては財団、これについては企業というように、財源が多様化してきます。実際、イギリスではこういったボランティア団体が持続可能な成長を遂げていくためには、多様な資金源が必要であると言われているぐらいです。なぜかと言いますと、多様な資金源があればそれだけリスクを減らせるからです。いろいろな資金源があったほうが、ボランティア団体として生き延びることができます。つまり、冬には冬のものを着て夏には夏の洋服を着るといったような目的に合わせた資金計画も可能になってくるからです。従って、この財務計画はとても重要です。
 そして、その健全性、安定性ということなのですが、これも大切ですね。ですから、財源の多様化が大切だと言うんですけれども、例えばイギリスの場合ですと政府からの資金ということになりますと、通常はいついつまでという時間的なリミットが定められています。ですから、それが終わってしまったら、もうそのボランティア団体自体が続かなくなってしまうということでは困りますから、やはり多様な資金源が必要であるということですね。NCVOについても、5つのほどの財源を、大きくその財源の分野を分けてありますけれども、それをさらに細かく見ていきますと40とか50とかのさらに細かい資金源に分かれています。ですから、例えば1つがうまくいかなくなっても、もう1つでカバーができるような仕組みになっていると言えます。
 また、長期的な計画を立てることです。第3セクター・フォアサイト(第3セクター予測)というのが、イギリスにはあります。つまり、将来的なNPOにとってのいろいろな環境的な問題、例えば公共あるいは世論の支援というのが引き続き受けられるのか、あるいは財源というのは将来どうなっていくのか。つまり、NPO団体を取り巻く環境についての将来的な予測というのを立てています。これは、NCVOで提供しているサービスの一つなのですが、イギリスのNPOには大変好意を持って受け入れられています。それは戦略的な計画を可能にするからです。つまり、きょうこの日限りを見るのではなくて、将来を見るということですね。通常、NPOというのは個人の情熱ですとかやる気で生まれたところがほとんどです。こういった社会問題がある、自分は何かしたい、それを自分の力でくい止めたい、戦いたいという人たちが多いわけです。そういったその情熱で始まったといっても、大きくなるに連れて情熱だけでは片づけられない問題がたくさんあります。そして、そこでまた情熱自体を継続していくためにも、そして同時に戦略的・長期的に考えていくと、その2つの能力を持たせるというのは、NPOを運営していく上において最も難しい2つの課題といえるかと思います。  ということで、イギリスの経緯をお話ししました。もし何かお話、コメント、ご質問があるようでしたらお受けしたいと思いますが、いかがでしょうか。