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日英シンポジウム2000「高齢者と障害者の自立と社会参加の促進:NPOと企業・行政の役割を探る」

プレゼンテーション報告:「行政の視点から」

レイミング卿

レイミング卿

”皆様すいません。”これが私が話せる日本語の全てなんですけれども。私どもイギリス側といたしましてはこの素晴らしい重要なセミナーにお招きいただきましてまことに感謝しております。我々両国の福祉にとってそしてその家族にとってコミュニティにとって大きな影響を与えるトピックについて私どもの経験をお話できることは大変うれしいことです。

 日本とイギリスは地理的には離れておりまして、また異なった歴史を持っております。文化も伝統も違います。ただここ長年のお付き合いの中で分かってきていることは共通の課題もあるだろうということです。特に人口動態の変化が顕著であるということです。そしてまた特別なニーズを持った人たちに対してどんな援助を提供出来るのかというあたりが共通の課題であろうということです。この人口動態の変化によりまして、人口全体の年齢構成が変わってまいります。ですから我々としても全員の課題として、これからの寿命というのは延びていく、それを一年一年の質の向上で支えていかなければならないということであります。

 今回、イギリスから参っております訪問団はそれぞれの分野の専門家から構成されております。ですので、私の方からはほんとうに背景説明ということでやっていきたいと思います。私どもイギリスの経験をお話します。NGOの発展、特に個人、ボランティアとしての、個人の参加というあたりに焦点を当てていきたいと思っています。

 まず政府の役割ですけれどもちょっと振り返ってみまして1946~48年あたりを見てみたいと思います。イギリス政府は多くの法律を制度化しまして新しい社会を作ろうと意気込んだわけです。誰にとってもいい社会を作ろうと思ったわけです。これによって国民保健サービスもできましたし、また国の年金手当制度も新しくなりました、義務教育制度も新しくなりました。公共住宅のシステムも新しくなりました。雇用について、それから社会的ケアについても新しいシステムが採用されたわけであります。つまりイギリス流の福祉国家を作ろうとしたわけです。こういった様々な制度によりまして「権利」という概念が初めて導入されました。その権利というのは中央あるいは地方の政府が実現すべきものだという見方になったわけです。つまり市民はいわゆる慈善活動に依存する必要がなくなった、あるいは自分ひとりで何とかしなければならないという概念から解放されたといえると思います。その結果、これは当然のことだと思いますけれども、こういった法律の施行によりまして、多くの人たちは将来は国に任せておけば大丈夫だと思ったわけです。したがってNGOの役割はもうない、あるいは個人のボランティアの役割、そういった人たちが果たす役割はもうないと考えてしまったわけです。その結果、当時存在していたNGOは衰退していきました。ですので、そのあとはNGOにとって厳しい時代になりましたし、また非常に善意の人たちの寄付、慈善活動もかなり衰退しました。それから、10年、15年後経ってイギリスのリーダーの多くの人たちが本当にこのやり方でいいのだろうかと、特別なニーズを持つ個人や家族に対する支援は本当にこのやり方でいいのだろうかという疑問を持ちはじめました。そこでこの制度を見直したわけです。その見直しの中でいくつかの重要な要素が出てきました。いわゆる国家が提供するサービス、国の福祉は非常に重要な安心感を人々に与えたということはいえるわけです。これは非常に国民に高く評価されていました。個人からそして家族から高く評価されていたわけですけれども、その安心感を提供したにも関わらず、まだ重要な要素が欠落していたということが分かったのです。 この状況の分析によりまして、次のような点が出ました。国が提供するサービスというのは非常に重要で安心感を国民に与えるものではありましたけれども、いくつかの特徴があり、例えば、サービスが均一になってしまったというようなことがありました。どこに住んでいても受けるサービスは同じ、またニーズがどんなニーズであってもそれに対応するサービスが一般的なものであったということです。 個々の状況やニーズを考えたサービスでなくなってしまったということです。フリーサイズのサービスになってしまった、だれでも同じサイズでやってしまおうということになってしまったということです。

 それが一点目。そして二点目といたしまして選択肢が減ったという感覚がありました。また、三点目、サービスのユーザーは非常に官僚主義的な制度なのではないかという感触を受けていました。そのことによりまして、四点目として冷たいサービスを受けているという感触を受けていたわけです。つまり個人の顔が見えなくなってしまうシステムであるという印象が出てきていました。それからまた、さらに深刻なことといたしまして革新性や新しい試みが抑えられてしまったということがあります。ニーズが変わっても、革新性、また開拓精神というものがないということで大きな壁になるわけです。そして、また最後に言えることはサービスが一元的になってしまったということで、コミュニティサービスを通して仲間を支えたいと思う人たちの気持ちを満たせなくなったということです。ここ25年間、その後のイギリスの政府は政党に関わらずいわゆるNGOを奨励する政策を取ってきました。また個人のボランティアを奨励する政策も取ってきました。こういった人たち、または組織に特別なニーズを持つ人に対するサポートに重要な役割を担ってもらおうというわけです。その点の話は後でロビン・ローランド氏から詳しく、特に企業セクターで行われている内容について説明がある思います。

 NGOはここのところ様々な役割を担うようになってきています。例えば、権利の擁護です。例えば特別な状況の中で特別なニーズを持つ人になり代わって権利を主張していくということです。それから二点目としてサービスの利用者に対して情報を提供するということです。その情報を提供することによって利用者がサービスに対して影響力を行使していくことができるようになります。情報というのは力ですから情報がない場合、力がないと人々が感じてしまいますので、それを避けるために情報提供をしていくということです。それから三点目といたしまして変化を起こそうとしているグループへのサポートをすることです。それから四点目として似たような状況に直面している人たちの間の相互サポートグループを作るということですね。お互いをサポートしあっていくというような環境の調整をする。また、五点目としてアドバイスを提供する。そして六点目として実際にサービスを提供するというようなことです。

 今回の訪問団、それぞれのスピーカーがそれぞれの経験からこういった分野についてのNGOにおける経験を話してくれると思います。現在、イギリスでもしNGOや個人のボランティアの貢献がなくなったとしたら国が提供するサービスは非常に弱体してしまいます。NGOやボランティアは非常に特定的な地域でサービスを提供しているものから全国組織のものまであります。NGOの中にはサービス提供者として非常に大きな、大規模なものもあります。組織によっては資金を政府から受けているところもありますし、また他のNGOは独自に資金調達することに非常に成功して独立性の高い組織があります。ですからそういった意味で国からの資金を提供されているもの、そして独立して資金調達しているもの、色々な形のNGOがあります。こういった組織というのは国の福祉の補完的な役割を果たすと見られております。国の福祉に代わるというものではなく補完的な役割です。そういった組織というのは私どもの社会の中で、もっとも革新性のある組織であってそのサービスの標準も非常に高いです。そしてその活動を通して人々の態度や考え方に影響を与えています。コミュニティ全体としての福祉を向上するということに貢献しているわけです。そしてそういった組織の裏には個人のボランティアの力があります。ローカルのコミュニティレベルで自分たちの活動をし、その中で自分の専門性や経験を発揮する人たちです。色々な分野の人たちが参加していますので、NGOの開拓精神にも貢献できます。我々の社会のいろんな重要な変化の前線にNGOがいるといえます。どうして人はボランティア活動をするのだろうか、どうしてそのように自分の時間を人に与えられるのだろうかというふうに考えてみました。

 イギリスでは主に三つの理由があるようです。まず、成功した人たちの多く、例えば、弁護士、会計士、教師などは、どういった人生を送ってきたにせよ、何か他の人たちのよりよい生活に貢献したいと思っているわけです。ですから、週の何時間、一部分をボランティア活動に費やすあるいはNGO活動に費やすということを自主的にやっているわけです。また二点目として自分たちの人生の中で意味あることをしたいといっているわけです。自分たちの仕事がそれほど満足感を得られない、あるいはそれほど有用ではないと思う場合、それをボランティア活動でやろうというわけです。それから三点目としてボランティアをするということで非常に個人的な満足感を得ているということです。与えるだけでなく得るものがたくさんあるということです。ということでわが政府はNGOの発展、そしてまた個人のボランティアの発展を大変奨励しております。イギリスは社会的な疎外というものを何とか解決していきたいと思うわけであります。そして、どんどんコミュニティの生活の中にみんなを巻き込んでいきたいわけです。自分たちが社会の周辺にいるという感覚を払拭したいわけです。社会がみんなのために機能するようにしたい、数人の、一部の人だけのための社会ではなくしたいと思っていて、さらに地域に根付いた支援的なコミュニティを作りたいと思うわけなのです。そして特別なニーズを持った人たちが、そういったコミュニティレベル、ローカルなレベルでいろんな活動に参加できるように、そしてその人たちの望みや

ニーズ、希望を、我々と同じように表現できるようにしていきたいと思うのです。というわけで、我々政府はこういうことを考えています。私たちは誰でも人生のどこかで誰かの助けを必要とするだろう、そしてNGOやボランティアたちはそういった側面を我々の人生に付け加えてくれるということです。違った種類の社会、つまり包括的でみんなを巻き込んでいく社会、そして一人一人の価値や貢献を同じように評価する社会にしていきたいと思うわけです。どうもありがとうございました。