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日英シンポジウム2000「高齢者と障害者の自立と社会参加の促進:NPOと企業・行政の役割を探る」

プレゼンテーション報告:「健康的に老いる、誰がケアするのか?」

ラリット・カルラ

ラリット・カルラ

今回はこちらに参ることができまして、光栄に存じます。たいへん素晴らしい意見の交換ができていると考えます。新しいゴールドプランというのが日本で導入されましたが、これは大変意欲的なプログラムです。特に社会サービスの提供という意味におきまして。そこから我々は多くのことを学ぶことが出来ると思います。一番大きな点は、これがNPOにとって大きなチャンスであることです。特にサービスを提供していく今後のことを考えますと、健康と社会サービスのセクターというのがどう協調していくことができるのかという点で、非常に重要だと考えます。高齢者が非常に増えていくというのは、もう日本だけのことでなく全ての国において言えることです。特に高齢者、そして障害を持つ人たちが増えています。現在のシステムではこの状況を支えていくことがだんだんと難しくなってきております。日本というのは最も寿命が長い国です。そしてこの寿命、65歳以上の人の割合が増える速度も非常に速いわけです。例えば、65歳以上の人口が7%から14%に増えるのに、フランスでいえば115年、スウェーデンでは85年、イギリスでは45年かかったところを、日本の場合は26年です。ただ、こういった高齢者、そして障害者は社会の中で比較的貧しい状況に置かれるという結果を生んでいます。もちろん、退職年齢が引き上げられてきてはいますが、企業としては更に若い人をほしがるという傾向があります。そして年金システムもまたどんどん増えていく高齢者に対応しきれていません。その意味ではサービスをカットするという結果になっています。ただ、高齢者全員が障害を持つようになるということではありません。問題は慢性的な疾患を抱える人たちが非常に高齢であること、そういった人々の絶対数が高いことです。それで医療サービス、また公的なサービスの支援というところにプレッシャーがかかってくることになります。では、非常に重要な医学上の課題とはどんなことでしょうか。もちろん医療的なケアに対する需要が伸びています。しかしこれだけが問題なのではありません。病状の急性期だけのケアでなく包括的なケアを我々が提供していかなければいけないということですね。ですから、ただ単に、症状の緩和というだけでなく、障害を念頭に入れるとなれば、治療が医師だけによって行われるのではないことになります。包括的なケア、つまり看護婦、その他の専門家が包括的にひとつのパッケージとして治療をそしてケアを提供することが大事なところです。セラピストですとかソーシャルワーカーといった人たち、つまりこういった人たちを横断するようにしてケアが提供されることが望ましいわけです。何がその患者さんにとってよいのかを考えていかなければなりません。特に障害者・高齢者にとっての優先事項は何なのかということを、です。患者さんのニーズを基本にケアが提供されなければいけません。そしてさらに慢性的な疾患を持つ患者さんにとっては病院ではなく、コミュニティのケアということも求められます。現在の医療制度を見てみますと、これまでは感染症や外傷といった、特に急性期のケアに焦点が置かれていました。特に高齢者あるいは障害者に対する差別意識がありました。そのニーズは非常に複雑であり、病状が複数にわたっていることが主な理由でした。この治療をベースにした、つまり病院を中心に考えたシステムの中では、障害者あるいは高齢者に対して適切な対応が出来ませんでした。障害者、高齢者の場合は、セラピストがリードして、医師がそれに従うことが求められてきます。病院では一生懸命治療を行いますが、その後家に帰ってからどうするのかというケアはあまりなかったわけですよね。

 実際のところ、医療セクターは包括的ケアに果たすボランティアの役割をどのように考えたらよいのでしょうか。特にこの加齢社会においてはどういう役割を持っているのでしょうか。まず、このポスト・オブ・エイジングです。健全な加齢、つまり病気にならず、障害も予防することを考えなくてはなりません。これは疾患として治癒できるものに対して治療を行っていくことがひとつありますが、もうひとつは病状の一時的な緩和であり、特に障害者・高齢者にとってはいずれ死を受容していかなくてはなりません。とは言え、命を終えることも尊厳を持って扱われなければなりません。そしてポスト・オブ・エイジングという考え方ですけれども、まずこの疾患の予防が非常に重要です。健康的な生活スタイル、脂肪の少ない食事、そして運動をする、タバコをやめる、アルコールを適度に取るというようなことが大事です。これによって高血圧ですとか糖尿病、そして高コレステロール、骨粗鬆症、関節炎などを予防することが大切になってきます。高齢者は大量の薬をもらいがちですが、病状が変われば、薬の効き方も変わることがありますので、慎重さが欠かせません。病院のような治療は一定の期間ごとに見直すことが必要になります。

 では、ボランタリ―・セクターはどんなことができるでしょうか。特に疾病の予防についてはアドバイスを与えられるようなセンターを作り、これによって老いに対する積極的な態度を奨励することができます。つまり情報がこうして適切に与えられるなら、先手を打って病気の予防ができることになります。また、医療上の情報提供についても一対一で地域において提供することが考えられます。世代で見ますと、特に高齢者の方々には、助けを求めて、どこかに何かを頼むことを望まないという姿勢があります。こういうことに対しても公正なアクセスが守られるようにしなくてはなりません。そしてポスト・オブ・エイジングという考え方や適切な仕事の機会を確保することが大切になります。高齢であるからといって差別されてはならないのですから。例えば、高齢者・障害者の元気な方は病気の高齢者あるいは障害者に対してボランティア活動を行うことも可能です。そして若い世代に対しては、例えば、その子供を見ることで、仕事にいけるようにすることもひとつの就労機会の提供になるわけです。そしてこれまでの経験を培って伝統的な文化を伝えることもこういう高齢者は担っています。つまり高齢者というのは自分自身を尊重できるような機会がないといけませんし、また生活の質も確保されなくてはなりません。

 医療における2つ目の重要な点というのは病気による機能不全のマネージメントです。まず急性の疾患を迅速に管理すること、十分なリハビリテーションを提供すること、支援機器・補装具を提供すること、そしてまた高齢者が住んでいる環境における必要な機能的ニーズを満たしていくということです。場合によって何が起きているのか高齢者には分からないことがあります。ただ寝込んでしまったり、歩くのをやめてしまったりという症状があるわけです。それをそのままにして、色々なケアをしたらよくなるだろうと期待するのは甘すぎます。高齢者がすぐに医療的なケアを受けられることが重要です。この医療ケアは高齢者のニーズに合ったものでなくてはなりません。若い人に合う医療ケアは高齢者にとって必ずしもよいものではありません。ですから高齢者あるいは障害者と相談をして決めていくことも大切です。我々の側からこういった治療をしましょうというよりもどんな治療がいいですかと聞いていくことが大切になるでしょう。またこのニューゴールドプランで重要な点というのは医療ニーズはいわゆる社会ケアの枠組みで考えてはならないことです。つまり高齢者や障害者は、喪失した機能を取り戻す可能性が高いのです。ですから一連のケアをそのまま適用する前に、医療上の評価、アセスメントをする必要があります。きちんと訓練された専門家が疾患およびその結果をきちんと評価して、喪失した機能を取り戻せるのか、また回復できるのか、を見ていく必要があります。色々な分野の専門家がここに関わって来ることになりますが、患者にとっては受けている治療が連続性のあるものでなければならないでしょう。また高齢者や障害者は複雑なニーズを持っているかもしれません。したがって標準的な一連の治療では対応できない可能性もあります。そういった場合に施設に収容することが非常に魅力的な選択肢として出てきます。ここで確かに安全性の確保は大切になりますが、施設に入れたからといって適切なケアが提供されるとは限らないことも重要なポイントです。長期のケア計画には必ずたくさんの分野の人、医療関係者、機能評価の出来る人、色々な人を関わらせるべきですけれども、そういった長期的な計画の設定の中心にいるのはあくまでも患者自身であるべきです。ヘルスケアにおけるボランタリーセクターの役割について言わせていただければ、いわゆるホリスティックなケアに大きな役割があると思います。

 日本にここ一週間おりましたけれど、まだ十分その辺が認識されていないような気がします。今、まさにそれが行われつつある段階だと思います。今起きていること、NPOで起きていることが、国の提供による法定サービスとうまく統合されていくことが重要だと思います。いくつかアイデアがあります。例えば、権利擁護、アドボカシーですね、誰かが患者のために声をあげなければならないわけです。全ての機会を捉えて、こういった患者を代表する声をあげていかなくてはなりません。そして誰かがケアを提供しなければならないわけであります。病院であろうとコミュニティであろうと、非専門的な活動もあります。また情報を提供することも重要になります。情報があればあるほど、自分が欲しいものが何かという判断がよく出来るようになります。

 そしてまた重要なのは、ボランタリー団体が参加することによっていわゆる人との接触が出てくることです。患者によっては医者に接する、専門家に接するよりもボランティアと話すほうが心が休まるということがあります。

 新しいこれからの見通しはと言いますと、病院のリハビリにおけるパートナーシップの調整ということがあげられます。セラピー、看護へのサポート、オリエンテーションや生活活動への指導、レジャー、セラピー、教育、訓練、アドバイス、それにカウンセリングということですね。またコミュニティにおきましては体の弱い人たちを見守る、チェックするということですね。これは全員に対してやる必要があるかどうか分かりませんけれども、ちょっと弱い人に対して毎日声をかけるとか、あるいは食事の提供や個人的なケアの提供をすることです。これは社会福祉、ヘルスケアと共に提供していく必要があると思います。

 またここまできますと、本当にNPOの力が十分に発揮されるためにはクリアしていかなければならない問題があります。例えば誰がお金を払うのか、政府が払うのかそしてお金が得られるのであれば、ボランティアに対しての支払いは行われるべきなのかどうか、また誰かがサービスに支払うのであれば、そのボランタリーな組織は報告義務を持つことになるのかどうか。誰かから資金を得ている場合、そのことに左右されずに高齢者や障害者のための声をあげることができるのだろうか、またトレーニングは誰が提供するのか、仕事をしていて例えば問題が起きた場合、訴訟になることがあるが、そうした時、損害賠償は誰が引き受けるのか、法的に誰が責任を取るのか、その機関が取るのか、NPOが取るのか、それとも社会福祉局が取るのか、また多くの人が雇用にありつけず、ボランティアとして働くという選択をした場合、それは搾取ではないのかという話もあります。また、守秘義務という倫理の問題もあります。患者の情報の保護ですね、このボランティアという関係の中でこれをどう実践していくのかということです。これは非常に重要な問題ですから、答えをきちんと見つけなければNPOの力が十分発揮できないと思います。どうもありがとうございました。