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日英シンポジウム2000「高齢者と障害者の自立と社会参加の促進:NPOと企業・行政の役割を探る」

プレゼンテーション報告:「ボランタリー団体の力」

フレッド・ヘデル

フレッド・ヘデル

ご紹介ありがとうございます。日本に来られて非常にうれしく思っております。日英双方で、お互いに色々と学びあうことがあるかと思います。社会的に不利な立場にある方たちにどんなサービスをしていくかのかについては、イギリスと日本の間でたくさんの共通点がありますし、また差もあることでしょう。その差についてはここ数週間勉強してまいりましたが、まだ十分把握しきれておりません。

 今日は私の組織、イギリスのメンキャップについてお話しさせていただきたいと思います。時間が少ないものですから、その活動の本当にわずかな部分しかご紹介できませんが。私どもの出版物に関しましては、このホールの後ろのほうに展示してありますので、どうぞお持ち帰り下さい。ひとつはここ一年でやってきた活動の概略をまとめたものです。もうひとつは、メンキャップ(Mencap)の最新情報について語ったもので、表紙にレストランで働いている若者の写真を使っています。これからの3年間に予定している計画について書いてあります。かなりたくさん持ってまいりましたし、私が来る前に日本に送ったものもありますので、残りを持って帰らなくて済むように、ぜひ皆さんどんどんお取りになって、お持ち帰りください。

 昼食のすぐ前のセッションで皆さんの注意を引き付けておくのは、世界共通のことで、どんな場合にも難しいものですが、頑張ってまいりたいと思います。  さて、障害を持った方たちというのは、世界中どこでも、どんな社会にあっても最も不利な立場にあると思います。私は世界各地を旅行し、障害者の方々とお会いして来ましたけれど、共通しているのは障害の無い人たちと同じ機会と生活水準を得るのが難しいことでした。もちろん成功して多くのことを達成している障害者の方もいらっしゃいますけれども、そういった方たちは例外です。ほとんどの障害者は一般の人々よりも制限された生活を送り、財力もあまり無く、また適切な住宅を探すのも難しくなっています。仕事を見つけるとなると更に困難です。他にもたくさんのバリアや問題があるのは、皆さん既にご存知と思いますので、この位でやめておきましょう。

 またそうは言いつつも、全ての文明社会で、そういった問題を何とかしたいとも思っています。障害を持っている方たちが、皆と同じように、充実して生産性の高い生活を送るためのサービスやサポートを得られるようにするのが願いです。  当然、それを最も求めているのは直接関係している方々、つまり障害者自身であり、その両親、そして家族です。  イギリスにおきましては、障害者へのサービス提供の観点から、最も重要な影響力を及ぼしてきたもののひとつがNPOです。いわゆるボランタリー・セクターです。今までのスピーカーの方々は政府の役割、そして専門家の役割についてお話になりましたが、そういった機関や人々に影響を与えてきたのは障害者自身やその家族、また介護者であり、私どものようなNPOが仲介役となりました。

 先程、レイミング卿が、前回の世界大戦の後、政府はNPOの重要性を随分認識するようになって来たと言及されましたが、私は違った見方をしております。そういった変化は確かにありましたが、変化自体を起こしたのは障害者自身だということす。障害者が行動を起こし、政府はそれに対応したのです。

 メンキャップのような組織力、影響力は、今日、サービス提供の場面によく浸透しています。現在、知的障害者の住居のほとんどがボランタリー・セクターによって提供されていますし、また就労斡旋や雇用計画なども殆どがボランタリー組織が提供しているサービスです。また最近では個人的なサポートも似たような形でどんどん提供されるようになっています。

 従ってボランタリー組織の力というのは障害をもった方たちやその家族の情熱とコミットメントによってエネルギーを得ています。コミュニティの完全な一員となることを妨げる社会的バリアに対して働きかけをしています。

 日本にも特別なニーズを持っている方たちに対するサポートの長い歴史があることはわかっておりますし、またインクルージョン・ジャパンの方々とも話をしております。

 イギリスと同じように日本でもまだまだやるべきことはたくさんあると認識しております。私は日本とイギリスの違いはよくわかっているつもりですので、その上で、イギリスでやらなくてはいけないことというのをこれからお話します。違いはあれ、日本にも共通する問題があるのではないかと思っております。

 イギリスはチャリティ、慈善とよばれるものに非常に長い歴史を持っています。これはいわゆる富裕層や国が貧困層に対して行ってきたものです。ただ、このチャリティ、慈善というコンセプトは今考えますと、上から見下しているような感じは否めませんが、そういった基盤があったからこそよい組織が生まれてきたのだと言えます。社会の中で何か特別なニーズを持っている人達をサポートしていく中から組織化が進められて来たのでしょう。

 メンキャップはまさにそういった組織のひとつです。  ボランタリー団体、組織とは何でしょうか。ボランタリー団体は、日本でいうNPOになりますが、イギリスにおいてはだいたい会員組織になっています。その目的や方向性はメンバーによって決められます。そういう組織がメンキャップのように大きくなりますと、高度に専門化した有能なマネージャーによって運営されることになります。あえて言わせていただければ、私のような者にです。認めていただけないかもしれませんが。

 前回の大戦の後、知的障害を持つ人々に対するサービスの提供はまったく見られませんでした。国の再建が先に立ち、知的障害を持つ息子や娘を持つ家庭は自分たちで何とかやっていかなければならなかったのです。

 こういう家族同士が、お互いに力を合わせて、助け合うという雰囲気が自ずと生まれました。特に母親たちが活動的でした。すぐに全国でグループ活動が展開され、子供を遊ばせるような支援サービスあるいは成人用のデイサービスを始めました。また情報やアドバイスを交換したりして、お互いがまとまりを見せながら、現代的なメンキャップが生まれて来ました。

 こういったグループはとてもすばやく自分たちが直面している問題を把握し、解決すべき問題を判断しました。政府や社会に対して何を働きかけていくべきかが分かっていたのです。そういう認識をもって政府に対するキャンペーンを行ってきました。例えば、今振り返りますと、もう随分昔の話になりますが、よい例があります。1944年、知的障害を持つ子供たちは教育できないとみなされていました。そのため教育制度の中に含まれていなかったのです。もちろん、学校には行けません。要するに、学校から排除され、家族と一緒にただ家にいるだけの状況でした。そこでメンキャップはあらゆる手段を使って、政治家がこの不公平に目を向け、理解できるようにしました。それ以来25年間、法を変える働きかけを続けました。1970年には実際に法が改正されています。障害に関わらず、適切な学校教育を受ける権利を全ての子供が獲得したのでした。ですから非常に大きなキャンペーンの実例と言えますね。長い時間を要したキャンペーンではありましたが、大変重要な成果を見ることになりました。

 私どものメンキャップの設立者、ジュディ・フライドさんが数週間前に亡くなくなられたことはとても残念ですが、彼女は50年間、知的障害者にとって世界がよりよくなるよう、仕事をしてきた方です。

 創設の時期から考えますと、メンキャップは今や大きな組織へと発展を遂げています。たくさんのグループを抱え、全国ではその数が千以上にのぼります。また全国組織のメンキャップを見ますと、現在給与を支払っているスタッフは5000人、そして何万人ものボランティアを抱えています。また3200人に住居を提供し、1万人以上の人たちに就労斡旋をしています。一度に200人を教育できるカレッジも持っておりますし、また毎年一万人以上がアクセスする情報サービスも持っております。これはいわゆる地方のグループがやっている仕事に加えてということです。

 最近は会員層も広がっています。単に知的障害者の両親や家族だけでなく、知的障害者自身も会員となっています。現在の会員数の殆ど半分以上が知的障害者自身になってきていますので、我々の仕事については重点のおき方も大きく変わりました。  大戦のすぐ後の時代から随分長くやってきましたけれど、もともとのビジョンは変わっておりませんし、仕事の内容も大差はありません。 我々がやっていることは主に次のような分野になります。

 まずキャンペーンです。これは圧力団体として、全国レベル、地方レベル、そしてヨーロッパレベルで政府に働きかけます。知的障害者のニーズが理解されるように、そして彼らに対するサービスが改善されるようにするためです。

 また私たちは大衆教育が大切な課題だと考えております。やはり一般大衆がもっと考え方を変えていかなくてはなりません。もっと排他的でない考え方をとっていこう、知的障害を持った人たちをもっと暖かく日々の生活に迎え入れようということです。メンキャップのような組織はこの状況下で大きな役割を果たしています。人の考え方、物の見方、これを変える助けもしているわけです。というのは私たちのような組織はある意味で尊敬を受け、そのためその意見は尊重され、影響力を持つことになります。時として政治家や専門家よりもずっと影響力があると思われることがありますので、私たちの双肩にかかる責任は大きいのです。メディアの様々な面を活用して、障害者のイメージが明るいものになるよう働きかけています。ただ、道は遠いと言わざるを得ないのは残念ですが。多くの人が知的障害に対し、依然、排他的であり、人種や宗教による差別よりずっとひどいとも言えるでしょう。知的障害を持っている人たちは往々にしてひどい目に合ったり、またたくさんの不利を被ったりしていますから、これからまだまだ私たちはしなければならないことはたくさんあります。

 以前にBBCとメンキャップがパートナーシップを組んだことがあります。70年代から80年代にかけて70以上のテレビ番組が制作され、コミュニティにおける知的障害者の社会参加とケアと言う私達の方針の推進に一役かってくれました。実はこの時、番組の対象は知的障害者だったのですが、知的障害者を社会の一員として受け入れようとの姿勢ははからずも一般大衆の方にずっと大きな影響を与えることになりました。両者が学べる素晴らしい番組になったわけです。なんといっても信頼されているBBCが作っている番組だから、これは信じるに値すべきだろうという見方が多かったようです。

 それからメンキャップは情報とアドバイスを提供しています。これは誰にかというとそのアドバイスや情報を必要としている全ての人たちにです。もちろん親、介護をしている方たちがそのリストのトップに挙がりますけれども、障害者本人、それからこの分野で専門家として働いている方たちに対しても情報やアドバイスを提供しています。さらにこの分野を勉強している学会の方たち、生徒さんたち、また調査を行っている政府や政治家などにも非常に重要な情報を提供できているとの自負を持っております。21世紀がいよいよ近づいて来ています。今や我々が享受している現代技術をよりよく駆使しなければなりません。ただその技術を駆使する、導入するにあたって、それがもうひとつのバリアになってしまうと、これは問題です。ですからあくまでも技術を導入するにあたってはそれが障害者、あるいは障害者を介護する方にとって門戸を開くようなものでなければなりません。

 私たちのようなボランタリー組織の強みというのはやはり新しいアイデアをどんどん試していけるということです。つまり知的障害者に対しても広範でダイレクトなサービスが提供できることです。例えば住居の設備について例を挙げましょう。

割合に最近まで知的障害者は古い病院に入院をさせられるという例が多くありました。例えば昔の例ですと、ある一つの大きな病院に2千人近くあるいは2千人以上の人が押し込められて、そこでむりやり生活をさせられることが多くあったのです。つまり知的障害者から人間性を奪うような生活を強いていました。

 メンキャップではそれはひどいということで、大きな病院に収容するよりはもっと小さなホーム、あるいは特にコミュニティの中でも特別ホームなどでケアをしていこうと考えました。今では1軒の家の中に4,5人の知的障害者が共同生活を営めるような施設が国中にあります。すでにそのような施設は5百以上を数え、メンキャップはその最大規模のものです。昔の病院の大部分は、今では、閉鎖され、施設で暮らす人々の数もわずかになりました。

 また、我々は就職斡旋のサービスも行っています。知的障害を持っているがために学校を途中で止めなければならなかった、あるいは十分に教育が受けられなかったという人もたくさんいます。彼らにたいして必要な研修あるいはトレーニングを行い、社会に復帰させる、それも大きな役割と考えています。もちろんこうした活動のためには調査・研究も必要です。これは我々にとって得意分野とは言いかねますので、調査・研究の施設と協力をしてプログラムにその結果を反映させています。

 最後に、資金調達という側面があります。これは我々に限ったことでなく、ほかのどんな組織でも同じでしょう。今現在の仕事を行い、さらに新しいアイデアを取り込んでいくためにはやはりお金が必要です。これまで私たちがチャリティ、慈善と言ってきた考え方では、一般からの寄付に頼るところが大でした。しかしながら今ではその考え方も大分洗練されてきています。我々は資金集めの方法として様々な資金源をもっています。つまり独立団体である為にも、どこかひとつの団体、あるいはどこか一つの組織に頼ることはしません。 NGOとしてメンキャップは珍しい存在かもしれません。例えばいわゆるイギリスの中央政府ですとか、地方政府など、行政からかなりの資金を調達しているからです。さらにそれだけではありません。欧州議会ですとか、欧州の公的機関からの資金を調達する努力もしています。これらがいわゆる公的な資金だとすれば、私的な資金の流れというのもあります。多くの人たちがお金あるいは何か別の形で色々と寄付を寄せてくださっています。いわゆる個人の方、あるいは私企業ですね。このような方々からの助けも得て我々は運営をしているわけです。これまでに日本の団体からの寄付もありました。イギリスでは一般の人たちの間に、慈善活動にお金を寄付しましょうという伝統が根づいています。今ではいわゆる個人の寄付だけでなく他にも方法があります。おそらく日本にもあるでしょう。例えば、寄付をした人に対する税金の控除などもこの流れに拍車をかけています。それから全国規模の宝くじがあります。この宝くじがスタートしましてから、この一部をNPOに回すというような策も取られています。さらに個人が亡くなった時に遺産としてお金なり財産なりが残ります。これらの一部がメンキャップに寄付されるというケースも多いです。

 ロビン・ローランドさんが先程おっしゃっていましたが、私たちの場合にも企業が占める役割というのがどんどん大きくなってきています。今や企業も自分たちが社会的に負うべき責任をよく認識しています。大企業や多国籍企業がNGOあるいはNPOに大きな関心を示し、社会福祉へのできる限りの援助を我々NGOを通して提供することもして来ました。実は日本企業の中にもこのような活動をしているところが多いのです。今年、私たちの下にはおよそ300万ポンドのお金が寄せられることになっています。この規模は特別大きいわけではなく、ボランタリー・セクターに寄せられるお金としては、よく耳にする、決して珍しい額ではありません。

 今やイギリスのNGOパワーは情熱、そして障害者やその家族の熱意といったものに支えられています。今やイギリスのNPOは非常にプロフェッショナルに運営されています。とはいえボランタリーである、ボランティア組織であるという意識はそのまま残してのことです。昔と比べて色々な資金源を有効に活用することができるようになっています。さらに政府、一般、そして企業の力が、共通目的のために、効果的に結集されるようになっています。  以上です。ありがとうございました。