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DAISYの活用事例を中心にして(第12回LD学会自主シンポジウム)

DAISY(Digital Accessible Information System)の活用事例を中心にして

河村宏
国立身体障害者リハビリテーションセンター

河村氏が講演を行っている様子
国立身体障害者リハビリテーションセンターの河村です。
インターネットのいくつかのウェブサイトを映しながら話をします。
DAISYの「AMIS」がグローバルにどのように取り組まれているかということについて概略をお話ししまして、その後、国内での取り組みというところにつなげていただきたいと思います。

最初に画面に出していますのは、12 月に開催が予定されています国連のサミットのウェブの画面(http://www.itu.int/wsis/)です。世界情報社会サミットと呼ばれています。このサミット、日本では総務省、経済産業省、そして外務省が担当している、一見障害とは何の関係もないサミットです。ところが、サミットの達成すべき課題をよく見ますと、「デジタル・デバイド」をどう解消するのか、その方法をグローバルに探るというのがテーマです。「デジタル・デバイド」というのは、この情報化社会の中にあって、いわゆるIT、あるいはコミュニケーションを入れたICT を、使える人と使えない人との格差をどのように解決していくかという問題です。従いまして、読みの障害、あるいはコンピューター・リテラシーに障害があるという場合には、明らかにデバイドの取り残される方に位置する、ということになります。情報化社会がきちんと、そのような取り残される恐れのある人たちのニーズを組み込んで、誰もが「デバイド」されない“インクルージョン”あるいは“インクルーシブ”と呼ばれますが、そのような展開を遂げるためにはどうしたらいいのかというのが、実はテーマだったんです。

従いまして、私は経済産業省と総務省だけに任せておけないと考えるのです。やはりそれに関係する全ての人がこのサミットで発言し、今後の正しい情報化社会の展開の仕方を問題提起し、参加していかなければいけないと考えてこのサミットの準備過程からずっと注目し参加してまいりました。このサミット、幸い2~3週間前やっとサミットの基本的なドキュメントの中に「ユニバーサルデザイン」という言葉が入りました。ここに来るまでものすごくたいへんな動きがあったのですけれども。「ユニバーサルデザイン」と「支援技術」という言葉がやっと基本ドキュメントの中に入りました。これによって“今後の情報通信技術はユニバーサルデザインを旨とし、そして必要な部分は支援技術で補って、全ての人のニーズに見合うようにしていく”ということで障害を持つ人々を視野に入れた情報通信技術の発展ということが、やっと宣言の上で基本的に承認されたということになったわけです。そこに来るまで非常に長い道のりがありましたが今はちょっと省略いたします。

このサミットの際に同時に開催する重要なフォーラムがございます。これは、Global Forum On Disability In The Information Society というものです。“情報社会における障害に関するさまざまなフォーラム”という位置づけです。世界の主な障害者団体が参加します。丸一日、このサミットの最終日に、いわゆるセキュリティ・ゾーンという各国元首の参加する大きなホールがあります。そのホールの中に小ホールがいくつかあります。その小ホールの一つで、各国元首もすぐに参加しやすい場所で、400人位の人で世界中から集まってこのフォーラムを行います。朝から晩まで、障害という問題に焦点を当ててサミットの中で議論をするというものです。この開会式はスイスの現職の大統領が開会の宣言をすることになっています。そういう意味では一つの大きなイベントとして取り組まれます。

そのプログラムをご紹介します。今日特に関係ありますのは、そのプログラムの中の一つに、DAISYProducts for Dyslexia というプレゼンテーションが、スウェーデンのディスレクシアの主に当事者の方が組織している“FMLS”という団体によって行われます。

このFMLS の副会長さんが昨年来日しました、ハンス・ハマルンドさんです。ハンスさんの講演を国内で行ったのですが、もしそのハンスさんのことについて御存じない方がいれば、このような日本障害者リハビリテーション協会のウェブサイトで講演の全内容が掲載されています。http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/20021101hans/mokuji.htmそれをご覧ください。そこでハンスさんの講演、東京と神戸、両方で行われた内容を読むことができます。その中でハンスさんたちスウェーデンの人たちがDAISYをどのようにとらえ開発をしようとしているのかという取り組みが出てまいります。その取り組みは、先ほどのサミットの中で、スウェーデンの当事者の方から報告をされる予定になっています。スウェーデン以外にもDAISY に関わる取り組みというのは今、各地で進められていまして一つ大きな動きを見せているのはアメリカです。アメリカでは、昨年、議会に議員立法で、教科書のアクセシビリティに関する電子的なフォーマットを決める法案が提出されています。その法案の、議会の審議の過程で、調査研究をするということが決まりました。調査研究の結果は今年の2月か3月に、CAST(キャスト)という団体から報告が出されています。その報告に基づいて、政府がプロジェクトを、これはアメリカの教育省の資金によるプロジェクトですが、Beyond The Text というプロジェクトがスタートしています。これは2003 年の1月から2006 年の12 月まで、非常に長い規模のものです。このプロジェクトを受託した団体は、なんと放送局です。WGBH というボストンにある、これまで字幕や副音声による視覚障害者向けの解説ということで、放送をどのようにアクセシブルにするかという実践で成果を上げている放送局が受託しました。そしてそこがBeyond The Text というタイトルのプロジェクトで、DAISY やOEBF と言っていますが、電子出版ですね、アメリカではいま電子出版が非常に急速に伸びています。この電子出版とDAISY をベースにして、テキスト、紙に印刷されたテキストですが、それを超えた向こうにある、誰もが使える教科書というのはどういうものかというプロジェクトをスタートさせました。

その時のベースになるのは、次の世代のDAISY と考えていいかと思います。今日この後お見せするのは今の世代のDAISYです。そして次の世代のDAISYというのは一つは動画がサポートされるということです。つまり、手話を常時入れておきたければ入れられる。あるいは教材として動画がとても有効であれば、その動画にキャプション(字幕)がつき、あるいは視覚障害者のために副音声による解説がついているという意味です。そういう誰にもアクセス可能な動画をサポートしたときに、DAISYはどのように展開するか?そういう意味での次の世代のDAISYですが、そういったものの調査研究が、長いレンジで2006年末まで、アメリカでは行われます。そして、このDAISYに関する情報を日本語で読みたいという場合には、日本障害者リハビリテーション協会のウェブサイトにDAISY関連情報というのがありますから、今後ここでぜひ、これは日本障害者リハビリテーション協会に頑張ってどんどん翻訳をしていただかないといけないのですが、紹介をしていく窓口を活用していただきたいし他に関心がある方は、いま申し上げましたいくつかの拠点が海外にはありますので、そういう所と提携してどんどん紹介や交流を図っていただきたいと思います。

そして、本家本元のDAISYの規格を維持、開発しているのはDAISYコンソーシアムというスイスに法人格を持つ団体です。このDAISY コンソーシアムは、今度のサミットの際にちょうどスイスで開催されますので、9千枚のCD-ROM をこれからプリントする予定です。ちょうど今日配りました資料のように、DAISY フォーマットで誰でもアクセスできる国連のサミットの基本文献、それをCD-ROM に入れて各国元首に配って、こういう方法があるんですよということで、各国の代表団に問題解決の手がかりを、実物でもって問題提起しようということを今やっています。ちょうど貸し出しで9千枚焼くと言っていまして、中国語・ロシア語・アラビア語など6か国の国連の公用語で全部作らなきゃいけないので、土日にみんなで総出で作業をやっているところです。

そして最後に「AMIS」。DAISY はコンテンツ、中身に関する国際規格です。“一つのコンテンツを作ってそれを全ての人で活用しよう”というのがDAISY の発想ですが、活用するためにはそれを読むための道具が必要です。その全ての人へのアクセスを可能にするための一つの道具が「AMIS」になります。AMIS というのは、“AMIS”と書きますが、ソフトウェアです。このソフトウェアはオープンソースになっていまして、財団法人日本障害者リハビリテーション協会がオープンソースで開発をしているソフトです。誰もが無料でダウンロードして使うことができる、同時にソースコードを誰もが見ることができる、そして、自分の国の言語のバージョンを作る、自由に作ってください、と。で、作ったものはやはり皆で共有できるように、ここに置いて、パブリック・ドメインと言いますが、皆で使えるようにしましょう、と。そういうような呼びかけでやっています。ここにウェブサイトがございます。“http://www.amisproject.org”ここからダウンロード出来ます。今のところ残念ながら英語が中心ですが、ここはぜひ日本障害者リハビリテーション協会に頑張っていただいて日本語でもアクセスしやすくしていただけたらと思います。

これがDAISY と「AMIS」をめぐる、ざっと駆け足で、世界中でどんなことをやっているかということのあらましです。他に、これから発展途上国にどんどんDAISY を広げていくという活動も、「DAISYFor All」というプロジェクトがありまして、あと5年以内くらいまでに36 か国の発展途上国にDAISYを広げていくというプロジェクトもあります。既にタイとインドではDAISYは立ち上がっております。そのように、いま世界中でDAISY は新しく大きな広がりを見せています。以上で私の、最初の切り口は終わりにしたいと思います。