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研修修了者の活動に期待する

アジア・ディスアビリティ・インスティテート 代表 中西由起子

 国際協力の中心課題となっている人間の安全保障においては、能力構築(Capacity Building)が重要戦略の一つとなっている。特に若者のリーダーシップをそだてるプログラムは、国連で障害者の権利条約が制定され、今までの要求型の障害者運動から、権利に基づく政治活動としての障害者運動を発展されていくために重視されている。さまざまな団体が研修プログラムを組む中、ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業は発足から9年を迎え、成果を誇れる優秀なプログラムとなっている。

 その理由に挙げられるのが、研修修了生が若いリーダーであるにもかかわらず、帰国後、国の障害者運動を担うまでになっていることである。アジアの国ではヒアラルキーの元、裕福な層からでてきた学歴のあるリーダーが障害当事者組織に君臨していた時代が長いこと続いた。彼らは組織の長として政府に顔を利かせ、支援を取り付けることはできても、それは中・軽度のメンバーの経済的自立を助けるのみで、家から出る手段もないような重度障害者にまでは恩恵が届かなかった。研修生は日本での民主的に運営され、権利に基づいた施策を追及する障害者運動に触れ、皆元気になっていった。特に、自立生活運動の哲学こそ、重度障害者を持つ仲間に福音をあたえるものであることを認識した研修生たちは、帰国後精力的に働いた。それがパキスタンのシャフィクであり、ネパールのクリシュナである。

 シャフィクにはリハセンターに通っていた時の同級生と作った当事者組織、マイルストーン障害者協会があったので、そのメンバーを引き込んであっという間にラホーレにライフILセンターを、その後は2005年の大地震の被害を受けたカシミール地方の田舎にまで自立生活センターを設立してしまった。その資金は、昨年世界銀行の日本社会開発基金に応募して獲得したものであり、彼らの活動が評価された結果である。

 クリシュナは帰国後、故郷のネパールガンジに戻らず、新しい概念である自立生活を実践する場として首都のカトマンズを選んだ。周囲からは新たに仲間作りからはじめねばいけない地でのスタートを無謀と見るむきもあったが、彼の選択は正しかった。カトマンズには小規模の障害当事者団体が乱立していたが、その中から自立生活運動の哲学に共鳴する個人が彼の元に集まり、カトマンズILセンターとして活動が続いている。デモも辞さず果敢に主張していく運動形式は仲間を増やし、パキスタンのようにサービス提供をはじめられるのももう直ぐであろう。

 最後に育成事業の成功の要因をもう一つ挙げるなら、それは日本の仲間の継続的な支援である。来日後、日本語を身につけて各地で日本の障害者と語り合い、熱心に研修する彼らの姿は好印象を残している。その結果、ダスキン側がファローアップ研修などの研修修了者の活動を支援するのと平行して、日本から現地に人を送りセミナーを開催するなど、日本のILセンターも独自にフォローアップを実施している。  今回のセミナーでは、2人の成功例が語られたにすぎない。他にもILセンターを設立した者もいるし、他の分野でも研修成果を活かしているものがいるはずである。次回は、是非その人たちの報告を聞きたい。