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国際セミナー報告書「ヨーロッパとアジアのソーシャル・ファームの動向と取り組み-ソーシャル・インクルージョンを目指して-」

講演3:「韓国におけるソーシャル・エンタープライズの現状と最近の発展」

チョン・ムソン(鄭 茂晟)博士
韓国 崇実(スンシル)大学・社会福祉大学院 院長

チョン・ムソン氏の写真

講演要旨

韓国社会にとって、ソーシャル・エンタープライズの概念は極めて新しい。10年前には、「ソーシャル(社会)」と「エンタープライズ(企業)」という2つの言葉が同時に使われるのを目にすることは、韓国では考えられなかった。しかしそれは、無料の食事や無料の医療サービスを、ニーズがある人々が利用できるようにするというような、商業的には採算がとれないが、社会的には必要なサービスを提供することによって、失業に対処し、社会福祉を強化する効果的な手段として関心を集めつつある。

ソーシャル・エンタープライズの必要性は、1997年と1998年に韓国経済が金融危機に襲われたのち、脚光を浴びるようになった。企業が破たん回避のために膨大な数の従業員を切り捨てたのに、職を失った人々の面倒を見るために、政府にどれだけのことができるかは限られていた。海外の成功例からヒントを得て、韓国政府は革新的な概念の導入を決定した。2006年12月に国会で社会的企業育成法案が可決されたのち、昨年度、韓国労働省(労働部)は約75のソーシャル・エンタープライズの育成を計画した。政府はソーシャル・エンタープライズに、免税、財政支援および経営コンサルティングサービスなど、さまざまな恩恵を与えることを認めた。

もし、長期的で、安定した、給料も悪くない仕事を提供するソーシャル・エンタープライズが多数設立されれば、韓国の職場環境全般が改善され、経済も上向きに成長する可能性がある。しかし、国が資金を出す仕事は、大部分が非専門的で短期間の仕事なので、経済成長にも個人の福祉にも貢献しないのである。

崇実(スンシル)大学社会福祉大学院が初めて社会起業家専門学校を開設して以来、韓国の学生たちは、ビジネスを通じて社会問題やコミュニティの問題に取り組むソーシャル・エンタープライズの豊かな可能性を、ますます認識するようになった。最近大学生の間で見られるイニシアティブは、韓国のビジネススクールがソーシャル・エンタープライズの分野をプログラムに盛り込むようになるのも遠い将来ではないことを示している。これはソーシャル・エンタープライズにとって喜ばしい展開であり、極めて明るい兆しである。

講演

皆さん、こんにちは。チョン・ムソンと申します。韓国のソンシル大学から参りました。本日はこの席で、韓国のソーシャル・エンタープライズについてお話しできることを大変光栄に存じております。また、国際的な視点からソーシャル・ファームを語れるということは、またとない機会であると思います。私たちはともに、国際的な支援システムを作って、ソーシャル・ファームを育て、もっと多くの障害者のために雇用を生み出すことができると考えております。

もともと韓国におけるソーシャル・ファームについて話をするようにと頼まれたのですけれども、しかしながら「ソーシャル・ファーム」という言葉にあまりなじみがありません。というのは私たちはいつも「ソーシャル・エンタープライズ」という言葉を使っているからです。「障害者の雇用」という話の中で出てくるのは「ソーシャル・エンタープライズ」という言葉です。ですから「ソーシャル・ファーム」という言葉は使っていないわけです。さらにこの「エンタープライズ」も「ファーム」も韓国語に訳してしまいますと同じ意味になってしまいますので、今日は、タイトルに「ソーシャル・ファーム」ではなく「ソーシャル・エンタープライズ」という言葉を使わせていただきました。ソーシャル・エンタープライズを韓国語に訳して使っておりますので、英語を使ってないわけです。ですから「ファーム」ではなく「ソーシャル・エンタープライズ」という言い方をしております。

さて、私のレクチャーですけれども、5つの部分からなっております。まず最初は韓国においてソーシャル・エンタープライズというコンセプトが導入されました社会的背景、それから第2番目ソーシャル・エンタープライズというものがどのように概念化されてきたのかということ。そして3番目は、最近できました「ソーシャル・エンタープライズ法」というものです。そして第4番目に現在のソーシャル・エンタープライズをとりまく現状がどうなっているのか。そして最後に、政府が計画しましたソーシャル・エンタープライズへの支援システムについて触れます。

社会的背景

それではまず最初に、新しい社会的なリスクについてお話しをしたいと思います。スライドをご覧いただきますとお分かりのように、幾つか、新たな社会危機というものを韓国は経験するようになってきております。国内におきましても、また海外におきましても、こういう危機が生まれてきているわけです。国内的には、まず成長率が低下しております。そして社会的な二極分化が起こっておりますし、出生率の低下と高齢化が進んでいます。また家族構成が変化をし、国民の健康状態が悪化し、将来への不安が生まれてきております。また海外の状況ということになりますと、韓国はFTAを通じまして国際社会に市場を公開しました。韓国・アメリカの間の自由貿易協定が背景にあります。また知識ベースの経済というものができ、また情報社会化というものが進んでおります。

そしてソーシャル・エンタープライズですけれども、韓国の経済が金融危機を1997年および1998年に経験したことにより、注目を浴びるようになりました。グラフをご覧いただけると、おわかりになるかと思います。企業は、これらの金融危機に際しまして、生き残りのために多くの従業員を解雇しました。そして政府のほうは、これらの失業者の支援という意味で、非常に限られた能力しか持っていなかったわけであります。そして失業率が高まっていったわけです。

成長率のほうですけれども。潜在成長率のほうですが、これも低下し、そして最近では不平等が進んできました。これが韓国において大きな問題になってきています。

そして出生率の低下という問題があります。2005年には1.08でありました。これは世界最低のレベルです。その当時、日本は1.29。アメリカは2.04でした。そしてOECDの平均が1.6でした。ですから韓国の出生率は世界最低となりました。

一方で高齢化も進んでいます。非常に急速に進んでおりまして、2000年には7.1%が65歳以上の高齢者でありました。「高齢化社会」というレベルです。しかしながら2018年には、これが14%に上昇し、「高齢社会」が出現します。さらに2026年には20%になると「超高齢社会」が出現します。そして2050年には世界で最も高齢化が進んだ国になると予想されています。このように高齢化のスピードは非常に速く、韓国においては大きな問題になってきています。

次に家族構成ですが、どんどん家族は小さくなってきています。従って核家族化が進むということで、家庭で障害者を介護する能力が限られるようになりました。女性も外で働くようになりましたし、また離婚率も急速に増えてきております。

また慢性疾患も増えてきております。非常に生活が西洋化したということもありまして、慢性疾患が増えてきています。OECD諸国の平均と比べますと、肥満の人口は非常に高い比率になっておりますし、また慢性疾患を持っている人たちの比率も高くなっています。

また韓国の人たちは将来に対する不安も持っています。特に階級意識、そういう意識が非常に強くなってきております。2003年に比べると、2006年には最低クラスが増え、そして中流階級という意識を持つ人たちが減ってきております。

そして市場が開放されてきております。情報社会、あるいは知識ベースの経済というようなものが推進されて、格差がかなり深刻なレベルまで拡大してきております。こういう新しい社会的な危機に直面いたしまして、イギリスあるいはドイツのような先進国におきましては新しい社会政策を導入いたしました。経済政策と社会政策を連携させようと。そして福祉と仕事、雇用をリンクさせるという新しい政策を導入いたしました。「ラーンフェア(Learnfare)」という新しい言葉も作られました。つまり学習と福祉というもの一つになった言葉です。ラーニングとウェルフェアですね。ここに挙げましたような改革が、先進、いわゆる福祉国といわれる国々で実施されるようになりました。

韓国におきましては、こういうことが海外で成功したということを見まして、韓国の政府も革新的な概念を導入することにいたしました。新しい社会福祉パラダイム、これはSocialInvestment(社会的投資)というパラダイムで、これを導入して将来をよりよいものにしていこうという努力しているところであります。社会投資を通じてよい未来をということです。

ソーシャル・エンタープライズの概念

さて、この「ソーシャル」と「エンタープライズ」。「社会」と「企業」という言葉が一緒に使われるというようなことがあるとは、10年前には考えらないことでありました。しかしながら今では、この二極両端にあるような言葉が共存するようになりました。一つは経済価値、もう一つは社会的価値という形で表されるわけですが、この二つの概念が一つにまとめられるようになりました。「社会的な企業」と言いますか、「ソーシャル・エンタープライズ」というのが、ちょうど真ん中に位置するようになったわけです。

ソーシャル・エンタープライズというのは二つの目標を同時に掲げています。まず製品やサービスを販売して利益を上げる。これはエンタープライズであるわけですね。社会サービス組織ではないということになります。しかしながら上げた収益、利益を使って社会のためにならなければならない。株主に利益を再分配するのではなく、社会のために使うということが求められる、この二つの目標をともに挙げています。ソーシャル・エンタープライズというのは、二つの目標を通常持っています。一つは持続可能な、そしてかなりの雇用を創出するということ。もう一つは、競争と収益を上げるという活動を通じて質の高いソーシャル・サービスを提供しようというものです。

ソーシャル・エンタープライズというのは、効率的なビジネスの慣行を実施し、それと同時に地域社会に好ましい影響をもたらすということを狙っています。ですから、従来の企業と従来のNPOの目標を二つ合わせたような組織であるわけです。

企業とNPOの協働によって、昼食を提供するようなプロジェクトが行われています。これは韓国のテレコム企業が行っておりますが、民間の非営利の失業克服団体というのがありますけれども、その団体とともに行っています。企業の効率性をもって社会の恵まれない人たちに便益をもたらそうというものです。ランチセンターで働いてもらっています。それからまた、やはり恵まれない家庭の子どもたちにランチを提供する、独り住まいの老人にランチを提供するというようなことをやっております。SKテレコムにおきましては、これに対して財政支援をするだけでありません。ノウハウを提供して、どのようにこの組織を効率的に効果的に運営していくかという支援をしております。この労働コストに対しては中央政府がお金を払っています。最初のランチセンターがソウルに2006年2月に作られました。このプロジェクトはさらに拡大されて、全国的に40のセンターが作られました。そして500人以上の雇用を創出し、6000人以上の子どもや老人に食べ物を毎日提供しています。これは成功例になっております。これらのプロジェクトが、ソーシャル・エンタープライズ活動になるために、収益を上げるということが必要とされているわけですが、そしてまた、政府の支援からは離れなければならないということが要求されています。SKテレコムは、例えばお弁当を売るというような事業を考えております。そしてそのような事業を行うためには、ソーシャル・エンタープライズあるいは新しい起業家精神が必要になります。これまで多くのビジネスが、企業が、さまざまな活動に資金を提供してまいりました。しかし、それがどのような形で使われるのかということは分からなかったわけでありまして、しばしば社会福祉の改善という名のもとにお金が無駄遣いされることがありました。このようなことは改善されなければなりません。ソーシャル・エンタープライズに資金を提供するための質の高いソーシャル・サービスが必要です。

韓国政府は支援のために、ソーシャル・エンタープライズが提供する社会的な雇用を三つの分野に分けています。問題は、政府からの財政支援はわずか3年しか続かないということです。ですから登録されたソーシャル・エンタープライズは、限定的な財政支援しか得ることはできないわけです。その支援の目的のために政府はソーシャル・エンタープライズを三つに分けています。

これが、ソーシャル・エンタープライズの発展のプロセスであります。おそらく韓国独特のものがあると思います。小規模なNGOの事業から広域事業へと発展し、その後プロジェクトになるわけですけれども、そういう過程を経て、政府のほうでソーシャル・エンタープライズの認証を行うということになっています。

また、ソーシャル・エンタープライズ、NGO、そして地方自治体、そして企業がそれぞれ役割を果たしています。それぞれに強みがあり、また可能性も持っているからです。例えばNGOであれば、非常に豊かな経験を有しています。恵まれない人たちのために行ってきたサービスの経験がありますし、また企業であれば資金力があります。地方自治体においては行政の能力を持っておりますので、したがってサービスあるいは貢献というものが大いに期待されるわけです。

韓国におけるソーシャル・エンタープライズに関する法律

2007年9月に韓国の労働省は、ソーシャル・エンタープライズの認証申請を受け付けました。このスライドにも書いてありますように、政府は2007年1月3日にソーシャル・エンタープライズ法を制定し、7月1日から施行したからです。この法律に基づきまして、韓国政府は、認証を受け付けましたところ、多くの機関が申請をしたわけです。

それでは、どのような内容になっているのか、この法律についてお話しをしたいと思います。

まず、組織ですけれども、ソーシャル・エンタープライズの認証を受けるためには、組織あるいは法的な形態を採らなければなりません。それは公共の財団、協会、企業、非営利団体という組織形態を採らなければなりません。

そして有償の労働者を雇わなければなりません。そしてその活動の目的は社会的な目的でなければなりません。

そして第4番目には、そこに意思決定機関がなければなりません。つまりこの意思決定の過程には、利害関係者が参加できなければいけないという規定があります。そしてビジネスによる収益がなければなりません。つまり労務費の30%以上は、ビジネスによる利益によってまかなわなければなりません。6か月間の全人件費の30%以上が事業による収益でなければならないということ、そして定款及び規約などが整備されているということ、企業であれば利益の3分の2以上は社会的な目的のために使用しなければなりません。そして認証手続きが行われるわけです。

まず労働省のほうでスクリーニング委員会、審査委員会を設け、そこでスクリーニングが行われます。そして労働大臣が認証を行います。そして、政府が認めた認証証が発行されるということになります。

韓国におけるソーシャル・エンタープライズの現状

それでは現在、韓国におけるソーシャル・エンタープライズがどうなっているのか、現状をお話ししたいと思います。2007年9月に労働省では、ソーシャル・エンタープライズの認証申請を113の組織から受けました。そのうちの59、ソウルの39と、ソウル及びインチョンの20、それが首都圏の組織でした。

組織形態はこのようになっています。民間企業、これは27企業でした。非営利民間団体、それから民法に基づいて設立された財団、そして協同組合、この四つの組織形態があります。それぞれ社会的な目的を持っています。

どのような社会サービスが提供されようとしているかが、スライドに示されていますが、例えば環境分野のサービスが最も多くなっています。それから家屋の修繕などの活動、それから三つめが社会福祉関連の活動です。環境問題というのは、韓国では今、大きなソーシャル・エンタープライズ分野の活動になっています。

韓国の国会におきまして、ソーシャル・エンタープライズ法が2006年12月に成立し、2007年に発効いたしました。これを受けまして労働省におきましては75から100のソーシャル・エンタープライズを今年2008年に設立させようと考えています。労働省では、113の機関のうちの36の機関に認証を出しました。そのうちの8社は障害をもっている人たちによって運営されています。3分の1以上のソーシャル・エンタープライズが障害者にサービスを提供することを予定しています。加えて19の機関が、さらに新たに認可を受けました。現在55のソーシャル・エンタープライズが登録されています。

政府においては、ソーシャル・エンタープライズを認証し、その認証を受けると様々な便益を受けることができます。税控除とか金融支援、経営、コンサルティングサービスなどの支援を受けることができます。特に、働く人に適切な賃金を支払うために、労働省においては財政的な支援を、これらのソーシャル・エンタープライズに行おうとしています。

従業員一人あたり1か月に850米ドルです。専門職の場合には、この金融支援は一人あたり1か月、1,400ドルに上ります。

韓国におけるソーシャル・エンタープライズ支援システム

韓国政府におきましては、ビジネス・コンサルティングサービスを登録されたソーシャル・エンタープライズに提供するということにしておりました。そして二つのコンサルティング企業がソーシャル・エンタープライズを立ち上げる際のコンサルテーションをするということで指定されました。専門的なコンサルテーションを、ソーシャル・エンタープライズの活動が市場において持続的に行うことができるようにということで支援をすることになっています。また政府はさらにさまざまな組織に対してソーシャル・エンタープライズの認可を受けるように奨励しています。昨年は認可申請を1回しか受けませんでしたが、今年は四半期に1回ずつ認可の申請を受けることにしております。先ほどもお話ししましたように、さまざまな金融支援も行うことになっております。例えば障害をもった人、不利な人を雇った場合には、賃金あるいはまた社会保険料などの補助金が出ることになっています。また政府は新しいソーシャル・エンタープライズの、特に立ち上げのときに、運営費あるいは設備費などを支援することにしています。この予算として、政府におきましては、2008年に1000万ドルの予算を付けております。

先ほど申し上げましたとおり、政府は、最初の2つに加えて3つが追加されましたので、5つのコンサルティング会社が契約をしております。ソーシャル・エンタープライズというのは、税控除のステータスを与えられています。収益の5%を運営費として使うことができるようになっています。また5年間にわたりましてソーシャル・エンタープライズを登録いたしますと、法人税が50%減税となります。韓国政府におきましてはソーシャル・アントレプレナー(社会企業家)の育成を進めようとしています。また、サポートネットワークシステムを作る予定です。ソーシャル・エンタープライズの成功のためには、革新的な企業家が必要ですし、社会的なミッションを持って、そして管理能力を持った人が必要です。イギリスでも、さまざまなトレーニングが行われていますが、アメリカでは60の大学でリーダシッププログラムなどを実施しています。韓国の学生たちは、ソーシャル・エンタープライズのさまざまな潜在性について注目をしています。社会問題をビジネスを通じて解決することができる、その可能性を見ているわけであります。私の大学の大学院におきましては、ソーシャル・エンタープライズに関することを教えたいと考えております。これによりまして、ソーシャル・エンタープライズによって提供される製品やサービスの質が高まることが期待されています。これは大変歓迎されていることでありまして、韓国のソーシャル・エンタープライズあるいはソーシャル・ファームにとっては、国際的なネットワークに参加をする上で非常に役に立つというふうに考えられています。

最後になりますけれども、ソーシャル・エンタープライズが市場において持続可能なものになるためには、政府の支援よりも、収益を上げるということが重要であります。先ほど申し上げました通り、政府の支援というのは3年間に限られているわけです。したがって持続可能な、あるいは安定的なマーケットというものが必要になります。そのためには、保護された市場というものが提供されることになっています。政府においては、省庁がソーシャル・エンタープライズに対して、まず発注をするというようなことを考えます。一般の市民もソーシャル・エンタープライズについて、よく認識する必要があると思います。そのためにソーシャル・エンタープライズ展示会とか、国際的なセミナー、このようなセミナーですね、も計画されています。

韓国では新しい大統領が決まりました。次期大統領は、皆さまご存じかと思いますが、ビジネスマンであります。ビジネス指向の方です。したがって新しい政府ができますと、今後とも、雇用と直結した福祉というものを考えていくと思います。伝統的な福祉ではなく雇用を重視した、ビジネスを重視した福祉ということを考えていくでしょう。私はこのソーシャル・エンタープライズに対する、特にソーシャル・ファームに、つまり、障害をもった人たちを雇用するソーシャル・ファームに対する政府の支援が続くことを期待しています。ソーシャル・ファームが、イギリス、ドイツ、日本で成功していらっしゃると思いますけれども、そのような成功が韓国においても間もなく見られることを期待しております。

ご清聴ありがとうございました。

質疑応答

会場:お話ありがとうございました。チョン・ムソン教授へ質問をいたします。先ほど、ソーシャル・エンタープライズの成功例として、SKテレコムの事例を発表されたのですけれども、SKテレコムと失業克服団体の共同でやっている社会的企業の事例をお話しされたのですが、ランチの事業をなさっているということだったのですけれども、サービスを提供している相手というのが家庭の恵まれない青少年ですとか、高齢者を相手にしているということでしたので、収益という面では、実際は、その消費者に販売をして収益を上げるというよりも、どこかからの支援金、おそらく政府じゃないかと思うのですが、から収益を上げていると思うんですね。そうすると実際、一般の市場で競争して事業を成功させていると言うよりも、政府の支援という部分が大きいのではないかというような気がしたんですけれども、そのあたりをどのようにお考えになられるのか伺いたいです。

チョン:とてもよいご質問だと思います。SKテレコムというのは、確かに赤字をとても心配しております。というのは、この財政的支援というのが5年でなくなってしまいますので。彼らは子どもたちを助けようと考えたわけです。十分昼食を取れないような子どもたちがいます。日中、親が家庭にいないというような子どもたちがいる。それからまた独り暮らしの老人もいました。ですから、こういう人たちに対して質の良い昼食を提供しようと最初考えたわけです。しかしながらそれには大変な資金が必要でした。ですから最近では、企業はある程度、そのプログラムの支援を限定するようになりました。そしてその一方で企業は、ランチ提供センターに対して、一般の人たち向けのランチ、お弁当を作って売るようにというような要請を行いました。これはとても人気を博しました。非常に質の良い食品が使われていて、低料金で提供されるからです。ですからそれは収益を上げられると思います。ただまた、予想もしないような問題が持ち上がりました。それは地域の小さなレストランの経営者が、問題視するようになったのです。つまりかつてはこの小さなレストランを利用してくれた人たちが、今はこのお弁当を買うようになったと。このランチ提供センターのおかげで商売がうまくいかなくなったという不満が起こったわけです。ですからこのケースにはジレンマが伴いました。ここまでは成功したんですけれども、しかしながら、これを維持していくためには、こういう大きな問題を克服しなければなりません。つまり、このようなプログラムを支援するために、どういうふうに財政的支援を確保していけばいいのかという問題があります。

パービス:ありがとうございます。大変興味深く聞かせていただきました。韓国についてですけれども、草の根運動のロビー活動は行われているのでしょうか? 政府に対してソーシャル・エンタープライズ法を作るということを働きかけた活動はあったのでしょうか。それとも政府の高官がこれを考えたのでしょうか。と言いますのも、イギリスにおいてはソーシャル・エンタープライズの開発というのは、地域社会から草の根運動で始まったからなんです。韓国の場合はどうだったのでしょうか。

チョン:私も、日本の方々が、ソーシャル・ファーム法、例えば、韓国のソーシャル・エンタープライズ法を知っていらっしゃるということが分かって驚きました。この10年ぐらい韓国のNGOは、非常に積極的に自らを組織してまいりました。ソーシャル・エンタープライズ法というのは、このようなNGOの指導者の中から生まれてきたものです。NGOでは、まず野党に働きかけました。なぜかというと、野党のほうが、ビジネス志向であったからです。今回は与党になることになりましたけれども、議員たちは報告を読んで、従来の伝統的な福祉制度よりもソーシャル・エンタープライズのほうがいい、コストもかからないし、仕事と福祉を合体させることはとてもいいアイディアだというふうに考えるようになりました。そこで、まず野党が最初に法案を提出いたしました。この法案の成立には、何ら問題はありませんで、国会を通過いたしました。