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第4分科会

組織連携とコーディネート
元広島大学地域連携センター教授/広島県総務局国際課長 橋本康男

 

まず最初に私の経歴ですが、昭和51年に広島県庁に入り、その後3分の1ぐらいは県庁の外で過ごしています。伊藤忠商事に出向したり、広島事務所の立ち上げのためにシンガポールに3年間駐在したり、民間企業6社と行政からの出向者で構成する財団事務局で総務課長を務めたりしました。また広島大学では、全国で初めての社会と大学との連携を進める組織の立ち上げを頼まれて、4年3か月ほどやっていました。

組織連携とコーディネート

こういった産官学の多様な分野での経験をして、異なる分野の組織連携の大切さ、可能性を感じました。個人単独の、一つひとつの分野・組織の努力だけでは限界があります。それぞれの人は一生懸命仕事をしているのに、個々の努力がうまくかみ合っていないことがあります。あるいは、それが組織的に広がっていないと感じることがありました。専門家や組織をつなぐ役割をする人がいないために、せっかくの可能性が実現されないことを、何とかしていきたいと考えています。

リハビリテーションの分野でもそういった動きがあるようで、大分県地域リハビリテーション研究会会長の武居先生が、「個々では困難であったことが、組織として活動することにより、何倍もの大きな力となって患者さんに還元されていく。」と書かれているのを見て、心強く思いました。

現場で頑張っている人への活動支援の環境づくり、あるいは個人の力を生かしそれぞれの可能性を表に出していくための組織の連携、社会の多様な分野との組織的な連携の推進などを考えていきたいと思っています。

保健・医療・福祉の連携

最近の流れでは、社会サービスとして、他の分野の社会資源との連携がますます重要になってきています。

医療制度改革により、病院から地域へという流れが生まれ、生活の場へ広がっています。それが施設と地域(在宅)、医療と福祉の連続化を生み出し、地域医療や福祉に関わる組織・職種が広がっています。そういった動きの中では、それぞれの専門分野での患者さんへの直接サービスだけではなく、異なる分野の社会資源との連携が必要になってきていると感じます。

それを「組織連携とコーディネート」という側面から考えてみたいというのが、この第4分科会のテーマです。個人や単独の組織だけではできないことについて、組織を結びつけて活動を支援していく仕組みづくりを考えていこうということです。

ここで、「『組織社会』化」の話をさせていただきたいと思います。昭和25年には、働いているすべての人のうち、雇われて働く人は4割以下でしたが、最近では9割近くになっています。これを「『組織社会』化」と呼ぶ人もいます。

アメリカの経営学者のドラッカーは、「社会的機能が大組織によって果たされるようになり、教育、医療、生産、流通などの社会的課題が、専門家によりマネジメントされる組織に委ねられるようになった。今日では、そのような組織が共存し、協力し合わなければならない。互いに依存し合っている。」と言っています。

こういった組織社会における組織連携によって、安定的・継続的な取り組みを生み出し、個人の取り組みを組織の取り組みにしていくこと、あるいは社会の現場の課題を組織の課題にしていくことが求められているのではないでしょうか。その結果、より安定的・継続的な幅広いサービス提供が生み出されると思います。 

リハビリテーションについて私自身はあまり詳しくないのですが、これも社会の仕組みづくりに密接に関係していると感じています。

求められる多様なサービスを医療施設の中ですべてカバーすることは難しいので、それを地域社会、生活の場へ広げていく、そして安定的・継続的に提供していくために社会の多様な分野の組織が連携する社会システムづくり、地域づくり、生活の視点が大切であるがゆえに、当分科会が設置されたと思います。

多様な職種、団体との連携

地域での医療保健福祉の連携

病院、医療施設には、急性期、回復期、療養期のものがあります。医療保険の分野と介護保険の分野では、病院から地域への流れ、病院から福祉関係施設への流れがあり、そのすべてにリハビリテーションが関わってきています。その背景にある職種、団体には、かなりの多様さがあります。

それに加えて、企業や大学などのボランティア団体、社会福祉協議会、町内会、自治体など、いろいろな地域団体での議論がますます必要になってきます。

多様な職種、団体間の連携、サービス提供は、組織の連携が背景にあってこそ、個人の動きが個人プレーに終わるのではなく、広がりをもって安定的に継続していけるものです。そういった環境づくりをどのようにしていけばいいかを考えていく必要があると思います。

平成14年に国の社会保障審議会福祉部会が出した「市町村地域福祉計画等策定指針の在り方」の中で、「地域福祉を幅広くとらえて他の分野との連携を重視すべき、地域の福祉課題が複雑多様化してきている、保健・医療だけではなく就労・住宅・交通・環境・まちづくりといった生活関連分野との連携を重視すべき」と明記されていたのは、印象的でした。

また、住民の参加重視については、利用者主体のサービス、サービスの総合化、地域住民の参加と行動で支える社会福祉、ボランティア、・NPOなど新たなコミュニティ形成の動きが指摘されたうえで、「福祉活動を通じた地域の活性化、自分たちの地域をいきいきとした地域にしていくための取り組みが必要」との指摘もありました。

円卓会議 地域のネットワークづくり

地域にはいろいろな課題があります。保健・医療・福祉分野だけでも、身体の健康、心の健康、障害のある方への支援、高齢者への支援などがあり、このほか、防犯・防災、子育て、教育、環境、景観、交通、住宅、産業振興、就労などいろいろなテーマがある中で、地域をどうつくっていくかが課題になっています。

町内会や自治会のような、地域に暮らしていくことを基盤とした組織と、ボランティア団体のように、ある目的を達成するために皆が集まってくる目的共有型の組織とは、存立基盤が違うために一緒のテーブルについて議論していくことは難しい面をもっています。明日の分科会に参加いただく藤井昭二さんの広島県廿日市市では、「円卓会議」という形で、一般の方も入れるようにして、いろいろな団体が関わった取り組みをして、基盤づくりをしています。そういったところの紹介もしていただきながら進めていきたいと考えています。

今、申し上げました、地域基盤型組織と目的共有型組織の連携や、あるいは組織連携も、大きな組織の話だけではなく地域のボランティア活動や町内会や行政などの連携でも同じような点があると思います。行政が地域へ出ていく取り組みもありますし、そのための中間支援組織の必要性も議論されています。

人の生活とライフステージ

広島県人づくりビジョン

広島県では総合計画の一環として「広島県人づくりビジョン」をこの3月にまとめました。私は政策企画課長としてこれに2年間関わりましたので、少し触れさせていただきます。

このビジョンでは、人づくりを議論する時に、「学ぶ」「働く」「暮らす」という3つの活動を通して、乳幼児期から学校教育、成人期、老年期に至るまで、人の活動、人のあり方を考えていこうとしています。

リハビリテーションにおいても、医療・福祉・就労・教育が総体的に議論されていく必要があると思います。地域の人々とともに安心していきいきとした生活が送れるための支援システムとして、社会全体で見ていく必要があると感じています。

また、この「人づくりビジョン」は、「人づくり」だけではなくて「人を生かす社会づくり」が大切だと掲げています。障害のある方、外国人、女性など、さまざまの人のそれぞれの可能性が生かせる社会、多様性を尊重して生かす社会づくりが、まず1番目に挙げられています。2番目に、誰もが未来への希望をもてる社会づくり、3番目に、挑戦し変革する人を応援するという柱をもち、これからの行政を進めていくとしています。人づくりだけではなく、人を生かす社会的な視点が大きく求められています。

コーディネーターの必要性

もう一つの柱として「コーディネート」の話をします。

組織経営と組織連携という点で、たとえば一つの会社であれば、組織運営・組織経営の点で、基本的な指揮命令系統で上意下達のやり方が基本にあるでしょう。しかし、組織と組織の連携の場合には、そういった命令系統の話は通用しません。

そのために必要となるのが、目指すものを共有していく、あるいは何が問題なのかを共有していくという問題意識の共有と、行動のためのコンセンサス、一緒にやってみようという合意です。

安定して機能する連携のシステムづくりのために、こういった問題意識の共有と行動のコンセンサスがないと、特定の人が鶴の一声で「これをやるんだ」と号令をかけても、実際に現場で行う人たちが共有できません。そしてその特定の人がいなくなったら、そこで終わってしまいます。そうならないようにしていくために、目指すことを明確にして、組織が力をつけていくためのつなぎ役としてのコーディネーターが必要です。

それでは、人と組織をつなぐコーディネート役には何が必要なのか考えていきます。一つは、解決すべき課題を理解していくことです。それぞれ関係の組織を結びつけることによって何が生まれてくるのかが見えてきます。それぞれの組織、あるいは職種の方々ができることとできないことがわかっていないと、それぞれの力を組み合わせることができません。それを組み合わせていくのが、組織や人の力を結びつけていく役割の基本だと感じています。

組織も人も生き物ですから、どんどん変化して発展していく動画として考えていきます。きれいに緻密な絵を描くことが目的ではなくて、環境の変化のなかで、継続的に発展していくためには、常に見直しが必要です。そういった建設的な議論の場づくりが大きいと考えています。

専門的分野の課題

私は、医療関係のことを行政の仕事として少しかじっただけですが、専門性が重要な分野であると考えています。そのなかでいくつか考えておかなければいけない課題があります。

それは、専門家はいてもつなぎ役が少ない点です。それから、専門家は、一対一は得意でも、組織的活動経験が少ないことです。たとえば先生と患者という形の、専門家と客体という一方向の関係性に慣れていて、専門分野以外の人との対話や協働経験が少ない点は課題です。

このため、専門家を生かす専門職としての、社会システムづくりを担うコーディネーターが必要であるというのが最近の私自身の問題意識です。

それでは、コーディネーターとはどういう人かを考えた時に、多様な組織や人の力を結びつけることによって、自分の能力以上の仕事を生み出す、あるいは自分がやったわけではないけれども、この人とこの人の可能性をうまくつないでいった結果、それぞれの力が大きく生かせたという仕事ができる人であると思っています。

社会の課題、あるいは不条理に対しての良質な怒りを原動力にして、広い視野と現場の行動力で、問題意識の共有と行動のコンセンサスづくりをすること、あるいはそれによって組織や人々の力を合わせて成果を生み出すこと、誰かが一方的に仕切るのではなくて、組織や人々を意識的に結びつけて、安定的で継続した仕組みづくりをしていくことを、今から考えていく必要があると思います。

社会システムづくりの3要素

対話力の必要性

そういったコーディネーターには「対話力」が大切です。それは人の話を聴く力であったり、引き出す力のことです。地域で議論をしていてよく感じるのは、自分の思いをうまく伝える、論理的に伝えるという経験・訓練が少ないと、いいことを言っていても伝わりにくいということです。コーディネーターは「今の○○さんのお話はこういった趣旨だったと思いますが、これは大切なことですね。」と翻訳して伝えていく力を持つことも、必要だと思います。

私が考えた「社会システムづくりの3要素」は、「お金」と「仕組み」と「真心」から成ります。経済合理性の資金面の話と、制度的な保証と、真心・理念のバランスを常に考えて、これを誰かが見ていないと、思いやお金だけで先走ってしまいます。そういうことを見ていく訓練が必要だと思っています。

パネラーの紹介

第4分科会では、大阪で精神科のクリニックをされている田川精二先生、県立広島大学保健福祉学部教授の村上須賀子先生、庄原市社会福祉協議会総合センター長の上田正之さん、廿日市市自治振興部地域協働課長の藤井昭二さんにご参加いただきます。

田川先生は、精神科医7人と「大阪精神障害者就労支援ネットワーク」というNPO法人を立ち上げています。診療所の医師という枠を超えて、いろいろな企業など幅広い方々とのネットワークをつくることによって、NPOを実現されていますので、そういった点をお話していただきたいと思います。

村上先生は、長年にわたって医療ソーシャルワーカーとして、現場で患者さんの立場に立っていろいろな取り組みをしておられます。豊富な経験をふまえて、医療機関の組織連携、医療・福祉の背景についてお話しいただけると期待しています。

上田さんは、地域に密着したいろいろなアイデアあふれる活動をしていらっしゃいます。地域福祉の視点から、地域での医療と福祉との連携、障害があっても普通の生活を楽しめる、そこで暮らしたくなるような地域づくりという話をしていただけると思います。

藤井さんは、地域でのいろいろな団体が、これからの社会のインフラとして大切にするという考えをもって、新しい動きをされています。行政と地域を結ぶ地域支援組織についての問題意識をお持ちになっているので、そういった部分をお聞かせいただけると思います。

分科会では、まず村上先生から、医療施設から福祉施設・福祉への流れと課題、上田さんから、地域の医療・福祉の連携、受入れの地域づくり、藤井さんから、住民主体の組織・団体相互の連携や行政との連携などについてお話をいただいたうえで、田川先生から精神科医グループ中心に広がった就労支援NPOの事例をお話しいただくことを通して、リハビリテーションの安定的・継続的推進のための組織づくりの必要性、可能性と、その仕組みづくり、コーディネーターの役割、その担い手といった話に展開していければと思います。

リハビリテーションに関わる分野は、医療施設から福祉施設や地域へ、現実の生活の場へ、就労の場へ、また保健・医療・福祉分野相互と他分野との連携へと広がっています。そこでは個人の努力を支える組織連携と、安定的・継続的に社会システムづくり、あるいは問題意識の共有と行動のコンセンサスを生み出す協議の場づくり、そのお世話役としてコーディネーターの役割について、第4分科会では議論していきたいと思っています。