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文化審議会著作権分科会法制問題小委員会平成19年度中間まとめ

「障害者福祉関係」(31〜41ページ)部分に関する意見

障害者放送協議会

 

総論

①今回の中間まとめでは、障害者の情報格差是正を巡る国際情勢の動向が、部分的にではあるが反映されているように見受けられた。

②しかしながら中間まとめでは、2007年9月28日に日本政府が署名した、国連障害者権利条約(以下権利条約と略記)に関する直接的言及がまったくない。このことは署名が時期的に中間まとめ公表の直前であったという事情を差し引くとしても、まことに残念なことである。最終まとめでは、権利条約ついて是非とも言及すべきである。

③権利条約第三十条第三項には、「締約国は、国際法に従い、知的財産を保護する法律が、障害者が文化的な作品を享受する機会を妨げる不当な又は差別的な障壁とならないことを確保するためのすべての適当な措置をとる。(外務省・仮訳文より)」とあり、批准に向けての国内法の整備、調整の作業が行われていると聞いている。

④現行著作権法が「障害者が文化的な作品を享受する機会を妨げる不当な又は差別的な障壁」となっている現状については、これまで当障害者放送協議会著作権委員会からの要望書、意見書、意見発表等を通じ、具体的な場面や事例等をあげて指摘してきたところである。最終まとめにおいては、再度検討されることを強く要望する。

⑤現在政府部内で進んでいる権利条約批准のための国内法整備、調整等の作業の経過や成果が公表され、これに対する意見の集約結果が充分検討され、最終まとめに反映されることが必要なことと考える。

⑥中間まとめでは諸外国の立法例が参考としてあげられ、また「諸外国との例等を参考にそれと同程度の立法措置を講ずべきとの意見があった(中間まとめ35ページ)」とのことである。最終まとめにおいては、単に「立法例」のみにとどまらずに、具体的な法の運用例や運用実態、法令の実効性を担保するための諸制度、諸施策等についても踏み込んで調査検討されるべきである。

⑦今まで著作権法では配慮されていなかった、上肢障害、学習障害、発達障害等について検討がなされ、対応に向けての一定の方向性が示されたことは歓迎すべきことと考える。最終まとめの検討に当たっては、いわゆる限定列挙的な障害観ではなく、障害のある人の個別的、具体的ニーズに応えるという観点からなされるべきである。したがって、各々の障害の定義や範囲については、旧来の障害概念にとらわれることなく、最新の国際的動向や知見を取り入れたものとすべきである。

⑧世界保健機関(WHO)は、2001年5月に「ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)」を採択した。我が国でも厚生労働省が、この考え方の普及や多方面での活用を目的として、日本語訳である「国際生活機能分類−国際障害分類改訂版−」を作成し公表している。

⑨従来の身体機能の障害による生活機能の障害(社会的不利)を分類するという考え方に対し、ICFでは新たに「環境因子」という観点から、「参加」や「活動」についての評価をしている。様々な身体機能等の障害が原因で、情報や著作物へのアクセスが困難となり社会参加や活動に支障が生ずるが、録音図書、手話・字幕の挿入、マルチメディアDAISY等といった支援技術の活用でアクセスが可能となる。

⑩しかしながら、支援技術がいかに進歩したとしても、肝心の録音図書、手話・字幕の挿入、マルチメディアDAISY等の製作に要する人的・財源的な裏付けや、著作権法上での合理的配慮等がなければ実効性あるものとはならない。このように著作権法等が障壁になっている現状は、参加や活動を妨げ社会的不利を生じさせている「環境因子」の一つであるとの見方もできる。

⑪著作権者側からみれば確かに権利の一部制限にはなるが、これは障害のある人の情報格差解消のための合理的配慮 (reasonable accommodation) であり、このことではじめて障害のある人が健常な人と同等に文化や情報を享受することが可能になるのである。こういった基本的観点から最終まとめの検討がされるべきである。

⑫最新の通信・放送技術、情報コミュニケーション技術、支援技術等の進展が、障害のある人の情報格差解消に生かせるよう、調査や検討を深めていくべきである。

総論の補足

○一人の人が重なり合う障害を有することが多いため、単一の障害に人々を分類してしまう響きをさけるために、「○○障害者」を「○○障害」という表記、表現に極力書き改めることを提案する。