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【視覚障害関係、及び図書館関係】

「35〜37ページ」

(2)検討結果②視覚障害者関係についての対応方策」について、

 

a 障害者の私的複製を代わって行うための措置について((1)①ア関係)

第37条第3項に基づき録音図書の作成を行う目的について、貸出し、自動公衆送信のみに限定せず、障害者等が所有等をする著作物から録音図書を作成・譲渡することが可能となることは是非認めるべきである。

これは障害者の現実的な切実なニーズに沿うもので、これによって障害者も自分に必要な自分用の本を手元に置き、また持ち歩き、必要な時に人の手や目をわずらわせずに自分で読むことができるようになり、読むこと学ぶことの障害が軽減される。33ページから34ページに紹介されている国のほか韓国の第30条、台湾の第53条等の海外での例を見ても、「貸出し」など、その利用方法を限定しているケースは日本以外には見当たらない。

b 第37条第3項の複製方法の拡大について((1)①イ(鄯)関係)

複製方法を録音に限定しないことについては、知的障害者、発達障害者等の問題とともに検討されており、障害をその身体機能の障害別にとらえないという視点は大いに歓迎される。

視覚障害者も全盲ばかりではなく、見え方見えにくさは様々である。わずかであっても視力のある者は活字で読むことを切望する。そのために拡大写本や、音声と活字が同期し、読み上げ箇所の文字がハイライトされるマルチメディア・デイジー図書は、教育現場のみならず、就労の場や生涯学習において有用なものとして求められている。

全盲の視覚障害者であっても日本語を用いるものとして漢字の存在は大きく、どのような漢字が使われているかを知ることは、著作者の意図を正しく理解するうえに必要で、テキストデータでの提供が強く望まれている。読み上げソフトの辞書機能により使われている漢字を知り、そこから意味を正確に理解できるからである。

デイジーのほか、専用の読みとり装置で音声や点字など必要な形で出力できるSPコードなど、技術の進歩により障害者のための著作物へのアクセス手段は様々なものが生まれている。

34ページに掲載されている海外の例に見られるように、手段を限定せず「障害者が必要とする形態」で複製できるようにすることが望ましい。障害者が著作物を享受しにくい状態を放置せず、著作物へのアクセスを保障するために必要とされる方法で複製できるように著作権を制限することは優先的課題である。

c 第37条第3項の複製を行う主体の拡大について((1)①イ(鄱)関係)

図書館は「図書館法」において、「社会教育法の精神に基き、図書館の設置及び運営に関して必要な事項を定め、その健全な発達を図り、もつて国民の教育と文化の発展に寄与することを目的と」して設置され、「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保有して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設」である。

しかし、資料を音声化しなければ利用できない視覚障害者は、著作権者からの許諾を逐一得なければ利用できない状態にある。

これは「図書館法」で定められた図書館利用にあたり、本人と図書館の関係意外に、著作権者という第三者からの許可をも要求されていることになり、障害者にとっては大きな不利益となっている。福祉の施策によって視覚障害者情報提供施設があったとしても、公的な社会教育施設である図書館を使えない、あるいは使いにくくしていることに変わりはない。

このことは「著作権法」がこの不利益の原因を、まさに作っているのであり、障壁になっているともいえる。公立図書館、国立国会図書館においては、これまでも許諾条件に沿った利用の実績があり、法律に規定されれば公務員という立場で確実に遵守されるため、是非とも複製の主体に含めるべきである。

また、大学図書館や学校図書館においても障害を持つ学生、生徒、あるいは教職員の学習、研究を保障するために、読める形態への複製を認めることが必要である。

一方福祉施設としての点字図書館とその周辺においては、現実のサービス量の不足によりボランティア活動が生まれている。それらがNPO法人格を得るなどして全国視覚障害者情報提供施設協会に加入している。

録音できる施設として著作権法施行令第二条2項で規定する視聴覚障害者情報提供施設には、点字図書を7000冊以上備えこと等の条件がある。つまり録音図書を視覚障害者に提供するためのサービスを実施していても点字図書7000冊をそろえなければ視聴覚障害者情報提供施設としては認められない。

厚生省令にそって視聴覚障害者情報提供施設として認可された施設は73施設であるが、全国視覚障害者情報提供施設協会には、著作権法施行令第二条6項で規定された大学と92の団体が加入し共通の製作基準、サービス基準に沿って視覚障害者への情報を提供している。これら19の団体を含め、一定の条件の下で責任を持った製作と障害者への情報提供が行なわれることが認められる施設も複製できる施設として認めるべきである。

d 対象者の範囲について((1)①イ(鄴)関係)

公立図書館においては、視覚障害に限定しない活字を読むことが困難な人々の利用を目的に権利者の許諾を得、また日本文藝家協会の一括許諾システムを活用し、録音図書を必要としている人のために製作し貸出している。しかしこのような形で許諾を得て製作された録音資料は、点字図書館が37条によって無許諾で製作したものよりもはるかに少ない。 視覚障害者は、全国各地の点字図書館が製作所蔵している録音図書を館間協力により居住する地域の公立図書館から借りることができるが、視覚障害以外の活字を読むことが困難な人は、たとえ録音図書が点字図書館で製作されていてもそれを利用することはできないのが現状である。

機能の障害は異なっていても、読書に困難を持つ人々に等しく適切な配慮がなされ、著作物へのアクセスを妨げないようにすることは当然のことである。

障害を負ってからの日が浅く障害受容が困難な時期や、個々人の内的な理由により敢えて障害者手帳を取得しないケースがみられる。また高齢者の場合、制度そのものを知らなかったり面倒がって取得しない例も多い。海外には存在しない手帳制度であり、福祉サービスの経費負担と関わる手帳と著作物利用とは区別されるもので、手帳の有無を対象者の範囲として著作権法に盛り込むことは避けるべきである。

現行の37条においても「視覚障害者」と記すだけで、特に「視覚障害者」を規定する記述はない。同様に「障害等により著作物の利用が困難な者」と定めれば、複製物を製作、提供する施設は、個人の利用登録を行う際に法に則って障害の有無を確認し、流用は禁じられるのである。

e その他の条件について

障害者も利用できる形の著作物が市場に出て、障害者も借りるだけでなく自ら購入できる選択肢が増えることは重要である。しかし「録音物等の形態の著作物が市販されている場合については、権利制限を適用しない」とすることに関しては、慎重な対応が求められる。

視覚障害者のための録音図書は、活字で出されたものをそのまま音声化し、晴眼者が読むものと同じ内容を享受できるように製作されている。デイジー録音図書の出現により、活字のページ番号も知り、それによって読みたい箇所から読めるという活字に近い読書が可能になった。

このような形で製作されたものが、活字と同価格で同時期に出版される場合においてのみ、権利制限を適用しないとすることが適当であろう。

今日活字と同時期に同価格で発行されるデイジー録音図書は数えるほどである。多くのCDブックといわれるものは底本から一部の作品だけを朗読したものであり、活字書に比べれば非常に高価なものとなっている。中には作品自体が抜粋になっているものさえある。著者自らが朗読することもあるが、活字で出版した時にはなかった言葉が加えられるなど、異なる版の著作物となっている。

活字で出されたそのものを読むことが必要なこともあり、このような場合は同一著者物の録音物が市販されたとは言えない。

個々の著作物単位ではなく刊行物単位で、障害者が利用できる形態で市販されているかどうかを見る必要がある。

また、録音物等の出版予定や出版の事実が広く知らされなければならない。インターネット上で販売されているものも若干あるが、そこで提供されている事実を知ることは難しい。点字図書館では、活字が出版されるとすぐに製作に着手することも多く、録音物等出版の事実を知らずに製作し、権利侵害行為とされてしまうことは避けたい。