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文化審議会著作権分科会

「法制問題小委員会平成20年度・中間まとめ」に関する意見

障害者放送協議会

はじめに(総論)(1ページ)

障害者福祉関係の課題については、すでに「平成19年度・中間まとめ」で一定の結論が示されたものの、「最終まとめ」にまで至らず、具体的な法改正についても大部分が先送りとなってしまった。まことに残念で遺憾なことと言わざるをえない。

「平成19年度・中間まとめ」で示された検討結果については、一日も早い法改正の実現を要請するものである。

第1節「デジタルコンテンツ流通促進法制」について(10ページ他)

障害者等への緊急災害時の情報保障はいまだに不十分である。対応策として放送事業者以外の第三者が緊急災害発生時等に、放映中や放映済みのテレビ番組について、視覚障害者等向けの音声解説や聴覚障害者等向けの字幕や手話を付与して送信することなど、最新のデジタルネットワーク技術を使うことで十分可能となってきている。すでに聴覚障害者向けのリアルタイム字幕や、視覚障害向けの点字データ、録音図書の音声データの公衆送信については、著作権法上も著作権者の許諾なしでも可能とされているが、その利用対象者の範囲等については著作権法上の制約として限定的なものとされている。緊急災害時の情報保障は生命・財産の保護に関わる喫緊の課題であり、著作権法上の対応が早急にされるべきである。

そして、この件については必ずしも個別の限定列挙的な権利制限規定によらずとも、緊急時の人命保護等に関わるという場面を考慮するならば、知的財産戦略本部等で検討されている「包括的な権利制限規定(日本版フェアユース規定)」により対処することが可能であるし、「フェアユース」の理念そのものにも合致するものと考える。

第3節リバース・エンジニアリングに係る法的課題について(26ページ脚注)

「形式変換の必要性の有無という観点から論じられている議論としては、障害者のアクセス確保のための権利制限に関する議論(19年度中間まとめ)については、障害者が理解できる形式に変換することに社会的な必要性が認められるとの観点から、権利制限が検討されている。」との記述に関して。

 

障害者にとってそのままではアクセスできない形式でしか提供されていない著作物を、第三者の手を借りてアクセスできる形式に変換することは、形式的には著作権法上の「複製」とされている。しかしこれは、言うなれば「読めない」「見えない」「聞けない」形式のものから、「読める」「見える」「聞ける」形式への「メディア」や「フォーマット」の変換と言うべきであり、複製権の侵害とはならないということを著作権法上明確に位置づけるべきである。

第4節研究開発における情報利用の円滑化について(45〜47ページ)

第5節機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱いについて(54ページ、62ページ)

障害者等への情報保障技術の研究開発や、情報保障支援者(手話通訳者、要約筆記者等、録音図書・デジタル図書製作者等)の養成・訓練等の場面での著作物利用に関し、著作権法上の課題が生じていることを指摘しておく。

例えば、DAISY(Digital Accessible Information System)準拠のマルチメディア対応のデジタル図書の製作講習の場面で、教材として使用する著作物や、講習での成果物等の著作権処理に多くの労力を費やさざるを得ない。もちろん、保護期間の切れたものや、あらかじめ著作権処理された教材を使用すればこのような問題は生じないが、情報保障支援が必要とされる著作物のジャンルはきわめて多岐にわたっており、十分対応しきれないというのが現状である。

また、音声認識による字幕製作の自動化について、その認識精度向上のための研究開発を促進する必要があるが、著作権法がこのような研究開発の妨げとなることのないよう対応すべきである。

これらの課題については、知的財産戦略本部等で検討されている「包括的な権利制限規定(日本版フェアユース規定)」により対処することが可能であるし、「フェアユース」の理念そのものにも合致するものと考える。

第6節その他の検討事項(63ページ)

「知的財産推進計画2008」において今年度中に結論を得るべきこととされている、権利制限の一般条項(いわゆる日本版フェアユース)については、もっぱら「商用利用」の観点のみからの検討が先行しているように見受けられるが、教育や障害者等の情報保障などといった公益性の高い事項についても、十分な検討がされるべきである。