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講演1 「社会的企業の発展に向けた戦略」

ゲーロルド・シュワルツ
MDG・F(国連ミレニアム開発目標達成のための基金)と セルビア政府による共同プログラムコーディネータ

講演要旨

ソーシャル・ファームは、重度障害者のための有意義な雇用創出モデルとして、ドイツで大 きな成功を収めてきた。現在ではおよそ700 社のソーシャル・ファームが存在し、約20,000 人を雇用しているが、その半数は障害者である。本講演では、ソーシャル・ファームの可能性を 実現する総合的かつ全国的な枠組みの重要性と、この枠組みの鍵となる要素は何か、またこの 枠組みがどのようにソーシャル・ファームの成長と発展を支援してきたかを明らかにする。ま ず、ドイツのソーシャル・ファームの現状を簡単に説明し、その後、ソーシャル・ファームに関 する国内法や非営利企業のための法的枠組み、地域支援プログラムおよび最近実施された公 共調達法の改正など、ドイツ国内での全国的な支援の枠組みの拡大に関するもっとも重要な 要素を解説する。そして、ドイツでソーシャル・ファーム運動が展開されていく中で、ドイツ政 府やその他の重要な関係者との緊密な協力により、どのようにしてそのような枠組みが確立 されてきたのかを検討する。最後に、ドイツにおけるソーシャル・ファームの開発から得られ た教訓と、最近の進展および動向に関する簡単な考察を行い、締めくくりとする。


講演

スライド1
(スライド1の内容)

はじめに、主催者の方々に感謝をしたいと思います。このセミナーに呼んでくださりありが とうございました。このようにまた東京に来ることができて嬉しく思っています。そしてソー シャル・ファームの日本での進展について学ぶことができることを嬉しく思います。

スライド2
(スライド2の内容)

炭谷先生の講演を非常に興味深く聞きました。多くの活動が昨年行われたということです。 また、ソーシャル・ファームのヨーロッパの経験を分かち合うことができ、特にドイツの経験 を分かち合えることを嬉しく思っております。 私のプレゼンテーションの焦点は、より幅広い戦略的なパートナーシップをドイツのソー シャル・ファームでは打ち立てておりますが、どのようにしてソーシャル・ファーム実現のた めの環境作りが整ったのかということについてお話ししたいと思います。ドイツにおいてど のようにソーシャル・ファームが発展し、どのようにしてこのシステムが確立され、どのよう な教訓がこのプロセスから学べるのかについてお話ししたいと思います。

ソーシャル・ファームとは何か?

昨年と一昨年にもお話ししましたが、まず最初にソーシャル・ファームがどのようなものか というのをお話ししたいと思います。昨年はソーシャル・ファームが培ってきたパートナーシ ップについてお話ししました。そしてこのネットワークがどのように個々のソーシャル・ファ ームを助けてきたかについてお話ししましたが、今年はもう少しそれを広げていきたいと思 います。

スライド3
(スライド3の内容)

中身に入る前にまず少し、炭谷先生もお話になりましたけれども、ソーシャル・ファームと は何かについて見ていきたいと思います。それは障害者や労働市場において不利な立場にあ る人を雇用するためのビジネスであり、市場志向のビジネスであるということです。つまり商 品やビジネスの内容は人々の気に入るものでなければならない。消費者がそれにお金を払っ てもいいと思えるものでなくてはなりません。 また、ソーシャル・ファームの相当数の従業員が障害者、あるいはその他の労働市場におい て不利な立場にある人々であって、ドイツの場合はこの割合が50%となっています。また他 のモデルと違う点は、ソーシャル・ファームでは従業員の地位が障害者もそうでない人も平等 であるということです。不利な立場にある人とそうでない人との立場は同じで、やはり労働協 約や給与の点についても平等となっています。

ソーシャル・ファームの背景

ソーシャル・ファームがどのような位置づけにあるのかということです。

スライド4
(スライド4の内容)

まずこちらに福祉作業所という円があります。ドイツでも10 万人の人がこの福祉作業所 で働いています。福祉作業所では、働いている人たちの99%が障害者で、また法的な給与は、 やはり民間とはかなり違って低くなっていますし、作業の中身は民間とは違います。 一方で一般労働市場があり、ソーシャル・ファームは福祉作業所と一般労働市場の中間の位 置にあります。

ソーシャル・ファームに関する最新データ

スライド5
(スライド5の内容)

スライドは最新のデータを示しています。ドイツの全国ソーシャル・ファーム協会(BAG Integrationsfirmen)のデータによりますと、大体ドイツ国内に700 のソーシャル・ファーム があって、昨年とあまり変わりません。そして大体2万人が雇用されています。つまり2万人 の人たちが正規の労働協約を結んでいて、そのソーシャル・ファームの従業員の50%が障害 者です。そして従業員数は1社当たり平均28 人となっています。また年間の総売上高は1社 平均100 万ユーロで、年間で7 億5,000 万ユーロの売上となっています。これはドイツのソ ーシャル・ファーム全部合わせての額です。

スライド6
(スライド6の内容)

こちらは業種別にソーシャル・ファームを見たグラフとなっています。特徴を見てみます と、まず一つは、ほとんどのソーシャル・ファームがサービスといったタイプの活動をしてい るということで、多くの設備投資を必要としないものです。左側には工業系事業に携わるソー シャル・ファームの数が書いてあります。つまり大企業の下請けとしてソーシャル・ファーム が活動しています。例えばシーメンスであるとか、ボッシュといった大企業の下請けとなって います。もちろん市場相場に合っていますので、大企業から契約を勝ち取ることをしていま す。また、食品業界、カフェ・レストラン・ホテルなどの業種にも多くあります。ソーシャル・フ ァームの多くがこの分野で始まりました。また小規模製造業もあります。例えば工芸や小規模 な食品製造といったものがこの小規模製造業に含まれます。それから興味深いのが右から3 番目で、オフィス、つまりIT サービスであるとか事務・経理で100 近くのソーシャル・ファー ムがこの分野で活動しています。 ベルリンでは、経理をやっているソーシャル・ファームがありまして、大企業向けに給与に 関するサービスを行っています。この中には非営利団体も含まれていまして、かなり大きな分 野となっています。ベルリンには大企業の国際的なNGO の本社がたくさんありますので、そ ういったところから契約を受けて、経理や給与関係のサービスをソーシャル・ファームがやっ ています。それから造園・園芸のサービスなどもあります。ホームケア、家庭向けのサービスも あります。

スライド7
(スライド7の内容)

こちらも非常に興味深いグラフです。ソーシャル・ファームはドイツで1978 年に設立さ れて以来、成長し続けています。2000 年が非常に興味深いと思います。2000 年までは比 較的徐々に増えており、それほど急速には増えていませんでした。安定した伸び率でしたが、 2000 年を境に急速に増加しました。これはより幅広い支援の枠組みがこの年までにできた からです。

スライド8
(スライド8の内容)

これはドイツにおけるソーシャル・ファームが成長していく上で有効な枠組みです。2000 年にはこの枠組みが整っていましたので、このことがきっかけとなって、ソーシャル・ファー ムが急速に成長したと言えます。一つひとつ見ていきますけれどもこれに加えまして、内部的 なサポートというものがあります。例えば全国ソーシャル・ファーム協会によるロビー活動が あったり、コンサルティングサービスがあったり、ソーシャル・ファームを新たに立ち上げた いという人たちに対する多様なサービスが与えられるようになりました。それは昨年もお話 ししましたことなので、今年は繰り返すことはいたしません。

ソーシャル・ファームは真ん中に位置しています。オレンジのところは政府による支援です が、これは直接的な支援です。2000 年に法的な形態ができて、直接ソーシャル・ファームに 対して支援を与えています。これに関してはもう少し深く後でご説明いたします。 また間接的な支援もソーシャル・ファームに対して与えられています。非営利団体に与えら れるシステムで、税制上の優遇措置がソーシャル・ファームには与えられています。 そして公共調達。これもドイツでは非常に役割が重要になってきています。これについても う少し後で詳しくお話をしたいと思います。そして、法律があります。いわゆる公共調達にお ける社会的な条項を取り入れるというのが2006 年に政府によって決定されました。  緑色の部分は、民間財団による支援です。これもとても重要な役割を演じています。つま り新しいアイデアを導入して、それをテストする。革新的なやり方でソーシャル・ファームを 作っていくという役割を果たしています。ドイツにおきましては、ボッシュ財団のようなとこ ろが随分活躍してきております。ソーシャル・ファームの運動が始まった頃は、非常に活躍し てくれましたし、またそれが確立された後も、例えば全国ソーシャル・ファーム協会を作ると いうような展開になったわけなんですけれども、最初はフロイバック財団辺りから随分支援 を受けました。またその後、ビジネスコンサルタントとしての機能も、ソーシャル・ファームの ためにしてくださいました。でも最初の資金というのは民間財団から来ました。ですからソー シャル・ファーム・ジャパンが日本にできたということですので、大変興味深いことだと思い ます。このような支援というのはドイツにおきまして非常に貴重なものであることが証明さ れていますので。

それから水色のところは、EU からの支援です。EU も非常に重要な役割を果たしてくれ ていると思います。EU や欧州委員会のような組織がソーシャル・ファームに対する資金を提 供しています。ソーシャル・ファームというのはモデルとしてあまり認識されていなかったん ですけれども、そのような段階におきましてはEU はソーシャル・ファームが最初に立ち上が るときに非常に役割を演じたと思います。つまり、一つの国から他の国に広がっていく、つま り地域のネットワークからヨーロッパ全土にわたってのネットワークに広がるという意味で EU の役割というのは無視できないと思います。また、いわゆる公共調達におきます社会的条 項という点でもEU の役割があるかと思います。これにつきましてはもう少し詳しく、これか らお話をしていきたいと思います。

スライド9
(スライド9の内容)

政府による支援

政府による支援の重要な展開の一つは、法律ができたということです。ソーシャル・ファー ム法ができたということです。法律の名称としてそういうものが確立されたということが大 きかったと思います。15 年もかかりました。ソーシャル・ファームが政府に対して法律を作 って欲しいと説得できるのに15 年かかったわけです。その段階でもいろいろな議論があって よかったのですが、しかしながらこの法律が、例えばマイナスの影響を与えるということもあ ります。ソーシャル・ファーム法によって、ソーシャル・ファームの活動が制限されるというよ うなことも随分、議論されました。しかし、結果的には非常によかったと思います。2000 年 に議会を通過しました。そしてその過程におきましては、全国ソーシャル・ファーム協会との 緊密な話し合いがありました。ですから私たちソーシャル・ファームそのものが、この法律の 構築に対しましては随分意見を述べたということであります。例えば障害であるとか資格で あるとか、ソーシャル・ファームの定義というものがあります。つまりこういうような人たち を法律に則って雇わなければいけないということが定められているわけです。

それから目的も定義されています。この定義は、これまで示しましたソーシャル・ファーム のコンセプトに合ったものであります。そして我々が考えている最も重要なことは、財政支援 が定義されたということです。政府はこういう額のものをソーシャル・ファームに対して提供 できるということが明示されました。まさにそれがスタートだったと思います。財政支援の哲 学というものが確立されたということです。個人や組織に対して、ソーシャル・ファームを立 ち上げる過程を助けるということになったわけです。資金を見つけ、会社をスタートするとい うのが一番難しいですよね。いったん立ち上がってしまえば、その後の運営というのはそれほ ど大変ではないかもしれません。つまり第一フェーズにおきまして資金が必要であるという ことです。法律で定められておりますので、それぞれの職場に対し資金が提供され、例えば職 場1件に関しては2 万5,000 ユーロまで提供されることになりました。日本円にすると300 万円くらいになりますか?また、これはグラントとしても提供されますし、貸付金の場合には 優遇ローンということになるわけであります。 そして障害者の給料に対する財政支援ですけれども、最初の3年間までではありますけれ ども、80%だったと思います。80%まで支援されることになりました。その後だんだんと減 っていきます。

スライド10
(スライド10の内容)

そして、政府がコンサルタントを受けるための支援もします。つまり、ソーシャル・ファーム を作ろうかなと思っている人の場合には、何かビジネス上のアドバイスを得ることができる ということです。申請をしてサービスを受けることができます。新規のソーシャル・ファーム の場合には4,500 ユーロまで。既存の場合には2,000 ユーロまでです。それほど大きな額で はないと思うかもしれませんけれども、非常に重要であることがわかっています。全国ソーシ ャル・ファーム協会によって活用されています。そしてこれらのグラントからもいろいろな効 果が上がっているわけであります。これは地域のものと組み合わされまして、グラントを1社 ずつに提供するんじゃなくて、それを一括にして、ソーシャル・ファームのコンサルタント業 務の専門家機関のところにプールいたしまして、そこから配分するということが行われるよ うになっているわけであります。つまり資格のあるコンサルタントを受ける個人に対して請 求できるようなシステムができました。これが非常に追加的な効果を生んだわけであります。 つまり、インパクトを最大限にするのに非常に効果があったと思います。

それに加えまして、これは長期的なメカニズムになるかと思いますけれども、障害者は他の 健常者よりも生産性は低いというふうに思われております。実際にはそうでないこともあり ますが、ソーシャル・ファームが活動するに当たって、生産性がどうしても低い人たちを雇っ たり、あるいは多数の重複障害を持っている人たちも雇用していくということが行われるよ うになりました。つまり政府は、そういう生産性の低さに関して補償する必要があるのではな いかという哲学が生まれてきたわけであります。2008 年の財政支援総額は、全部の施策を 合わせまして4,600 万ユーロとなっています。

スライド11
(スライド11の内容)

これがその内訳です。1年間にどれぐらいのものが何に使われたのかというのがわかって います。例えば、新規事業設備投資は800 万ユーロ。これは長期的な投資になるかと思います けれども、非常に活用されているのがわかります。2万人ぐらい雇われていますので、1人当 たりにするとそんなに多くないかもしれませんけれども、しかながら、いわゆる生産性の低さ を補償するというのが1,700 万ユーロ使われております。長期的に雇用を確保するというこ とがとても重要であります。また、民間企業においてはこれはとても難しいことでもありま す。
この4,600 万ユーロでありますが、これは3 億4,200 万ユーロの中から1年ごとに統合 局の方で集められまして、それでいわゆる雇用割当に使われるようになっています。ドイツに おきましては、サイズによって違いますけれども、企業の障害者の雇用クォータが大体3 ~ 5 %ぐらいとなっています。もし民間企業が雇用クォータを満たせない場合にはお金を提供し なければなりません。1年間の総額が3 億4,200 万ユーロということになりますが、非常に 大きな額になるかと思います。そしてそのうちの最も大きい部分が福祉作業所の方にいきま す。ソーシャル・ファームはそのうちの1,000 万ユーロぐらいを使うということになるかと 思います。

非営利企業を対象とする規制

スライド12
(スライド12の内容)

それから間接的なサポートというのもあります。ドイツにおきますソーシャル・ファーム は、二つの分野が非常に重要です。 一つは非営利団体に関しての規制ということであります。ソーシャル・ファームはいわゆる 有限責任会社として登録されています。ほとんどがNPO によって所有されています。ですか ら100%シェアを持っている有限責任会社ということになるわけであります。ドイツにおき ましては大体、中小企業の有限責任会社で、非営利のステータスです。毎年これを証明してい かなければなりません。その証明ができれば、優遇税制を受けることができます。これがソー シャル・ファームにとってとても重要な点だと思います。収益は非課税です。そして収益はそ のビジネスの社会的な目的のための活動にあてられます。
またこれらの企業は、非営利のステータスを得ますと、消費税が19%ではなく7%に減額 されます。これは非常に大きな違いです。特に契約をめぐって競争するときに大きな違いをも たらします。民間企業からはこれはアンフェアであると、ソーシャル・ファームを不当に優遇 しているというような声も出ていますが、しかしこのステータスを利用するにはすべての収 益を社会的な目的に使うという制限がつきます。そしてソーシャル・ファームはそのことを毎 年証明しなければなりません。この法律全体を見ますと非常に複雑でありますけれども、結局 のところ非常に有益であると言えます。

その他にも間接的な支援として、公共調達に関するものがあります。ドイツではソーシャ ル・ファームはあまり公共調達では使われていませんが、政府が何か調達をするときに、ソー シャル・ファームに対する認識が高まっています。20 年前と比べてかなり認識が高まってい ますので、政府もソーシャル・ファームに対しての関心を持つようになり、特に全国レベルと 言うよりは地方自治体レベルでかなり関心を持つようになり、地方自治体がソーシャル・ファ ームと契約をするということがあります。ドイツの公共調達に関する法律は非常に複雑でし て、すべての要求条件を満たすことはなかなか難しいと言えます。ソーシャル・ファームによ りよいチャンスを与えるために、つまりソーシャル・エンタープライズがこのような契約を得 るために、例えば公共ビルの清掃、公共の建物のガーデニング、病院のケータリングサービス など多様なサービスがあります。
ソーシャル・ファームによりよいチャンスを与えるためにEU では、2000 年にEU 指令 というのを出しまして、加盟国が国内の公共調達法に社会条項を組み入れることを可能にし ました。これに対しては社会協同組合からのロビー活動がかなり熱心に行われた結果、このよ うなことになりました。このようなEU 指令がドイツの議会で2006 年に採択されまして、そ して公共調達法が修正されまして、2006 年に、もし公共事業体が調達する場合には、例えば 二つの会社が同じ質の仕事を同じ価格で提供する場合、一方の会社が社会的な目的をよりよ く果たしている場合、そちらの方がより高い評価を得て調達を得るチャンスが高まるという ことになりました。しかし実際、非常に難しく、競争力を持たなければなりません。しかし民間 と競合していく上でソーシャル・ファームには社会的な目的を果たしているのであれば、より 大きなチャンスが公共調達に関して与えられるということです。イギリスでもかなり議論さ れたと思います。
このような公共調達は大きな問題に対する解決策であると言えます。非常に大きな意味合 いを持っていると言えます。ドイツだけでなく、より大きな視点で見てみますと、イギリスで も地方自治体がコミュニティの中で不利な立場にある人たちを優遇しようという傾向があり ます。このような傾向は非常に価値あるものであると考えています。

試験的プログラム

スライド13
(スライド13の内容)

試験的プログラムは1985 年から2000 年までの間、行われました。主にEU が財政支援 をし、ドイツにとって非常に重要なものでした。他の国でもそうでしょうが、この試験的プロ グラムはドイツにおいては非常に大きな役割を果たしました。炭谷先生が先ほどなさったプ レゼンテーションでも、さまざまなすばらしいアイデアが示されました。ドイツでも同じよう な議論が行われました。こんなことができるんじゃないか、あんなことができるんじゃないか と、いろいろなアイデアを出し合いましたけれども、やはり資金源を見つけるのが非常に難し かった。しかし、EU が障害者の雇用を拡大しようという姿勢を見せてくれたことは非常に幸 運でした。非常に革新的なアイデアが出て、その新しいアイデアに財政支援がついて実現し、 そして、ネットワークができたということが重要でした。

例えば、地域ソーシャル・ファーム開発ネットワークということで、1,600 万マルクです。 これは800 万ユーロに当たります。そのようなネットワークができまして、例えば有機食品 を扱うサービス、有機食品を幼稚園に配達するというようなこと。当時は珍しいサービスでし た。少し値段は高かったんですが、幼稚園児の親たちはやはり少しお金を高く払っても子ども たちに健康な食べ物を与えたいということで、1994 年にそのような試験的なプログラムが 行われました。ドイツではまだ初期段階のことでした。その他にも例を挙げますと、魚の養殖 などもソーシャル・ファームによって行われました。また、EU がこのような試験的なプログ ラムに資金を出して、お互いが学び合う、ネットワークのメンバー同士が学び合うということ が行われました。この資金の多くが地域ネットワークに支出されました。お互いに訪問し合っ たり共同セミナーをしたりして、16 の組織が一つのプログラムに参加したり、定期的に会合 を持ったり、ソーシャル・ファームの進展について話し合ったりしました。共同セミナーを行 ったりトレーニングをしたり、マーケティングを行ったりして、そのようなことにも資金がつ きました。地域レベルでのネットワーキングは非常に貴重な経験だったと思います。これによ ってソーシャル・ファームが立ち上がるきっかけとなりましたし、また国を超えての協力も行 われました。EU はその意味で、当時非常に中心的な役割を果たし、様々な加盟国のメンバー がお互いから学び合う環境を整えてくれました。そのような成功例についてはまた後ほど詳 しく述べたいと思います。

スライド14
(スライド14の内容)

こちらのスライドをご覧ください。ソーシャル・ファームの枠組みの開発のプロセスの中で どのような要素があったのかということを示しています。このような枠組みが整ってソーシ ャル・ファームが急成長しました。どのようにこの一つひとつができたのかということを見て いきたいと思います。
炭谷先生もおっしゃっていたように、障害者のNGO とのパートナーシップを持ちました。 障害者団体との連携です。1994 年に大きなソーシャル・ファームができまして、調査が行わ れました。その調査というのは、NGO のセクターを幅広く見て、ソーシャル・ファームにつ いて知っているのか、ソーシャル・ファームに関してどのような考えを持っているのかという 意識調査をしました。ドイツ最大の障害者団体との連携を初めて結ぶようになり、その団体と の交流が行われてきました。例えば福祉作業所の改善などに取り組みました。福祉作業所には 不満も多かったわけですけれども、福祉作業所を改善していこうという取り組みも行われま した。また、民間部門に対してもっと多くの障害者を雇用するように説得する取り組みをした りしました。障害者雇用は限られていましたので、このように障害者団体と連携をしまして、 共同で様々なことを行って、確固たるパートナーシップを確立していきました。主な意思決定 者、政府の意思決定者の関心を引きました。100 人くらいの小さな企業であれば大したこと はないかもしれませんけれども、力を合わせて全国レベルのNGO と連携したことで大きな 力を得ました。ということでこのプロセスの中において、障害者団体との連携は非常に大きな 要素となりました。

パイロットプログラムのお話をいたしました。パイロットプログラムというのは、先ほど言 った研究・調査に基づきまして始めたことですが、その頃、100 社くらいあったと思います。 同じような状況は日本にもあったのではないかと思います。既に全国ソーシャル・ファーム協 会もありましたし、またソーシャル・ファーム専用のコンサルタントサービス組織というもの もありました。そして非常に早い時期にデータも集めました。何社くらいあるのか、何をして いるのか、何人ぐらい雇っているのかという基本的なデータを集めたわけです。そしてきちん と数量的な目的というものを明らかにしていきました。そして政府はこれらの研究に関心を 示してくれました。

これは我々の方から提供したのですが、実はいろいろな議論もあったんですが、政府の政策 決定者に対してアピールをするために使ったわけです。ですからその頃、100 企業くらいあ ったのですが、いろいろな調査を始めまして、具体的なデータも提供していきました。何人く らい雇っているのか、どれぐらいの売り上げになっているのか、どのような産業に関わってい るのかというようなデータを集めたわけです。もちろんそれだけではありません。政府にとっ てソーシャル・ファームに対して投資をするというのはどういう意味かということも明らか にしていきました。他のオプションももちろんあるわけですよね。例えば福祉作業所、あるい は支援付き雇用もできるわけでありますし、また障害者に対しまして就職活動を支援すると いうこともできます。ソーシャル・ファームに対して財政支援することは大変効果があるとい うことが証明されました。我々のデータを提供することによって、投資の効率がいいというこ とが明らかになっていったわけであります。もちろん我々のアプローチは、最初からうまくい ったわけではありません。投資されたお金が国にとってどういう価値を生んだのかというこ とが明らかになれば、私たちは強く主張でき、政府に対して、ぜひソーシャル・ファーム設立の 支援をしてくださいと働きかけることができます。そうすればより簡単にソーシャル・ファー ムを立ち上げることができるようになるでしょう。例えばソーシャル・ファームに対する投資 ですけれども、障害者が投資をするのはなかなか難しいことだと思います。でも、政府には税 金制度がありますので、そういう形で障害者がソーシャル・ファームで雇われて給料が入るよ うになれば当然、税金を払います。ですからただ単に障害者に対して支援をするということで あれば、お金はただ使われるだけですが、ソーシャル・ファームは彼らが働いて税金を払って くれるということになるので、結局政府の投資というのは返ってくるということです。良い投 資であると言えるのではないでしょうか。

ソーシャル・ファームに対して投資をするのは、これだけの意味があるんですよ、社会福祉 事業所に支援するのもいいけれども、その支援したお金は返ってこないんだということを言 ったわけです。ということで、私たちは調査をしながらパイロットプログラムも実施しまし た。そして政府に対する働きかけもやっていきました。そして他の国からも学びました。さっ きも少し言いましたけれども、またこれまでのプレゼンテーションでもイタリア、イギリスな どの例もお話ししてきましたけれども、他の国の事例から学ぶということも重要だと思いま す。ドイツの場合は、イタリアのソーシャル・コーポラティブ(社会的協同組合)、これは我々が スタートする数年前にもうスタートしていたんですけれども、ソーシャル・コーポラティブに 非常に大きく影響を受けました。そんなに遠くありませんので、我々は視察することができま した。それから小さなNGO が障害者の支援をしていましたが、彼らは何ができるんだろうか と考えていたわけです。どうやったら雇用を見つけられるように支援できるのか、どういうオ プションがあるのかということを検討していたわけです。それでイタリアのソーシャル・コー ポラティブがスタートした頃に、実際にこの目で見て、何をやっているのか、何を生産してい るのか、それを見ることができたということは本当に役に立ちました。ですからこういう他の 国からの学びというのは決して軽視してはいけないと思います。

スライド15
(スライド15の内容)

重要な出来事を押さえておきましょう。1978 年に最初のソーシャル・ファームができま した。そして1985 年に全国ソーシャル・ファーム協会と支援機構が設立しました。 そしてその後、私たちの最初の調査を行いました。全国ソーシャル・ファーム協会とコンサ ルタント会社が行ったわけなんですけれども、これによってソーシャル・ファームの価値が証 明されたと思います。つまり、公共投資をする値打ちがあるということが証明されました。そ して全国的な試験プログラムも実施されていったわけです。

スライド16
(スライド16の内容)

1990 年代になりますとEU のパイロットプログラムが始まったわけなんですけれども、 その頃は既に100 ぐらいソーシャル・ファームがありました。そして、少し新しいモデルをテ ストしたり、いろいろなネットワークを作って評価をした後で再調査をして、実際にソーシャ ル・ファームが役に立つということを証明しました。その中からワーキングモデルなどもでき ました。非常に主要な障害者団体、NGO からの支援も得ることができました。  1990 年代の後半以降、前はばらばらだったものがだんだん統合されていったということ が言えるのではないでしょうか。それが一つの大きな規模になり、政府も関心を示してくれる ようになり、2000 年のソーシャル・ファーム法の設立につながっていったと思います。そし て、非常に成長の弾みがつきました。最初は徐々に始まり、活動が統合されることによって、非 常に大きな躍進を見ることができたわけであります。

国際協力

スライド17
(スライド17の内容)

国際的な協力も行われています。ヨーロッパにおける法的なシステムというのが徐々にで きました。いろいろな国との交流が功を奏したのだと思います。

教訓

スライド18
(スライド18の内容)

このようなことを振り返ると、学ぶべき教訓があると思います。ドイツの例からどういう教 訓を学んで、他の国に何を応用できるかということなんですけれども、まず設立と監督の基準 を作るということですよね。これはソーシャル・ファームの定義と関係がありますし、また評 価の基準とも関係があるかと思います。きちんとしたスタンダードを作るということです。こ れは別に法律でなくてもいいし、また必ずしも品質の標準でなくてもいいんですけれども、一 体何がソーシャル・ファームなのかということを明らかにしていかなければいけない、他の企 業体と一体どこが違うのかということです。これを明らかにしなければいけないと思います。 これがとても重要です。
そして初期の頃は様々な混乱もあるものです。NGO の人たちや政府の人たちに話をして も、よくわかっていないということはあります。だからはっきりとミニマムスタンダードが守 られるということが重要です。

それからクリティカルマス、これは国内外で達成することが重要であります。これはソーシ ャル・ファームの数とも言えますけれども、それだけじゃなく他の利害関係者とのパートナー シップの形成もこの中に入ってくるかと思います。パートナーシップについては随分話をし ましたけれども、これは組織間、そして地域間の連携が大事であると思います。
それからまた、調査と評価というのも非常に重要な意味があると思います。ドイツでは特に そうです。研究の数がどれぐらいあるかということが特にドイツでは評価されました。そのこ とによって、どれぐらいソーシャル・ファームに対して投資利益があるのかということを証明 することができたからです。
また、他の成功例や失敗例から学習をするとういことです。私たちはそれができたという点 でとてもよかったと思います。こういう学習の機会とか情報交換の機会というのは、大変有用 であると思います。

最近の進展と展望

スライド19
(スライド19の内容)

結論ですが、ドイツの私の同僚と、今何が起こっているのか、どういうことが問題なのか話 し合いましたけれども、それほど大きな問題はないということであります。財政危機というの はドイツだけでなく全世界に打撃を与えたわけですけれども、ソーシャル・ファームにはあま り影響はありませんでした。1社だけ去年閉鎖されてしまったところがありますけれども、財 政危機の影響があったのかもしれません。でもそれ以外は閉鎖されたところはありません。こ れはいいニュースだと思います。
去年も話しましたけれども、やはりクリティカルマスに達したということが重要だと思い ますし、また多様化していたということがあったのではないかと思います。つまり一つに特化 するのでなくて、多様な取り組みができるのであれば、一つが不況になっても別のところに道 を見いだせるということがあったのだと思います。そして政府がソーシャル・ファームの成長 に合わせて関心を持ってくれたということもあります。つまり、政府がどういう手段でソーシ ャル・ファームを立ち上げられるのかということについて知識がありますので、また別のコン テクストで恵まれない人たちのためのソーシャル・ファーム立ち上げにも応用できるのでは ないかと思います。若い人のため、あるいは失業者のためのソーシャル・ファームを立ち上げ るというような展開ができるのではないかと思います。

今、ドイツで新たに語られていることは、長期的な資金調達メカニズムを作るべきではない かということです。これがその先どういう結果につながっていくのかわかりませんけれども、 例えば支援付き雇用とか、そういうものが生まれるのかもしれませんよね。また、雇用の機会 を見つけるのが非常に難しいグループの人たちに対しては、長期的な支援をするということ。 民間企業に対して、そういう人たちを雇うのであればこういう支援するという形で資金を提 供する。そのようなものが生まれてくるのかもしれません。
また、ソーシャル・ファームに関して、真剣に哲学的な検討が行われるべきだと思います。 EU の新加盟国のソーシャル・エンタープライズに対する支援を将来的に考えるべきではない かと思います。EU におきましてはかなりの歴史がありますので、ソーシャル・エンタープラ イズ財政支援を、スロバキアやチェコなど新しい加盟国に対しての支援の主流に据えるとい うことが考えられると思います。他の加盟国からの資金をそのような目的のために貯めると いうことは、一つの意義があると思います。スロバキアは、数週間前のことですが、EU のプロ グラムがスタートしました。それはソーシャル・エンタープライズに関しての非常に大規模な 資金プログラムです。これまで本当に誰も夢見たことのないような規模のものであります。大 変興味深いと思っております。現実にそれがうまくいくかどうかというのは、まだ様子を見な いとわからないのですが、しかしやはりまず納得してもらうという段階を経なければいけな いと思います。そして一つのモデルが確立されることによって、それが拡大していくというこ とも期待できるのではないかと思います。
今日は本当にありがとうございました。皆さんのご質問を受けたいと思います。午後に皆さ んとの議論を楽しみにしております。

スライド20
(スライド20の内容)