音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

国際セミナー「地域福祉のとりくみ」

障害者のための地域に根ざしたサービス-オーストラリアの経験-

オーストラリア視覚障害者団体Blind Citizens Australia役員
ウイリアム・ジョリー

要約

 本論文は、オーストラリアでの地域に根ざしたサービスと援助について全国的な状況を説明するもので、そのサービスとは障害者が地域社会生活に充分に参加できるようにすることを目指すものです。
障害者プログラムの焦点は主として65歳未満の人々に当てられています。
本論文の各章において連邦政府による補完的な率先策や、障害が広範囲にわたりサービスを必要としていること、提供されているサービスの状況、障害者にとっての成果、 そして、 地域社会の考え方を取り上げ論じています。

 情報源資料について 本論文に入っている情報の多くはAustralia Institute of Health and Welfare(豪州保健福祉研究所)がまとめた「オーストラリアの福祉-1997年」の第9章から採りました。 「オーストラリアの福祉-1999年」 は本年(編集注:1999年)末に出版されます。

前置き
連邦政府の積極策
 1.サービスに基づく取り組み方
 2.権利に基づく取り組み方
有障害率と必要度
 1.有障害率
 2.サービスの必要と需要
障害者のためのサービスと補助
 1.収入支援
 2.障害者サービス
 2-1.一般労働市場での雇用サービス
 2-2.非公式な介護
成果
 1.障害者サービスの基準
 2.質
 3.利用の可能性
 4.一般雇用成果
 5.参加の成果
 6.住居および生活の手配
 7.収入と支出
 8.時間の利用
 9.雇用
 10.教育
 11.身だしなみ、可動性、意志疎通
地域社会の展望
 1.サービスの提供
 2.消費者の見解

1.前置き

 オーストラリアは人口が1800万人の先進国です。人口分布については、高齢化、ベビー・ブーマー、いわゆる団塊の世代が中年を過ぎ、出生率低下、高齢化と障害との相関関係などという先進国通例の特質を示しています。 オーストラリアは議会制民主主義の国であり、行政は国家/州・準州/地方の3 段階の政府機構からなっています。6 つの州と、2 つの準州と数百の地方行政区域があります。政府は三権分立になっており,立法府、司法府、行政府と明確に分立しながら相互補完関係にあります。米国、欧州、日本を吹き抜けた全世界的な経済的な動きが、オーストラリアにも衝撃を与えました。すなわち、政府の小規模化、経済合理主義、競争原理の導入、関税の引き下げ、地域社会による積極策、更に、総体的に政府が「提供者」というより「促進者」であることを指向しているのです。
1998年のオーストラリア統計局(ABS)の推計によれば、オーストラリアの人口の19%以上の人が障害者であると自認しています。 かつ、人口の15%以上は、 障害によりhandicap(社会的不利)を負っているとしており、すなわち、移動、意志疎通、個人的な身回りの世話などという作業のうち、 少なくともその一つ、 或いはそれ以上の作業において補助を必要としていることを意味しています。 障害と社会的不利は年齢と強い関連があり、両者とも年齢とともに、特に75歳を過ぎれば、発生件数が増加しています。若年層では、障害を持つ男性のほうが女性より多い反面、高齢社では、障害を持つ女性のほうが男性より多いのです。
1986年に連邦政府はDisability Services Act(障害者サービス法。以下DSA)を導入しました。それにより非営利団体が提供するサービスに資金を提供する権限を連邦政府が持つこととなりました。 その分野には、住居/収容施設についての支援、レスパイトケア、雇用関連で援助を伴うものや競合的なもの双方、自立生活に関する相談および訓練が含まれています。同法は、Handicapped Persons Assistance Act(障害者援護法)に代わるもので、旧法は、障害者に対する資金交付や給料補助を通じてではなく、サービスを提供する団体を支援するものででした。1991年に連邦政府と州政府は、Commonwealth State Disability Agreement(連邦・州政府間の障害に関する協定)を締結し、それにより、重複を減らし、隙間を埋め、統合性を指向し、更に、連邦・州政府間の財政上の取り決めをより透明度の高いものにすることを目途としたのです。
サービスの提供は政府による対処手段の一つです。他の一つは障害者の民権の保護と促進に関わるものであります。 1992年に政府はDisability Discrimination Act(障害者差別禁止法。以下DDA)を成立させ障害に基づく差別を違法としました。1994年には、障害者に関して連邦政府省庁による最善のやり方を目指すための10年間の業務枠組みとして連邦障害問題戦略が発表されました。それは、政府当局がDDAとの関連において政府機構内部の整備をまず行い、国連のthe United Nations Standard Rules on the Equalisation of Opportunities of Persons with Disabilities(機会均等化に関する規準規則)のオーストラリアにおける実施の出発点にするのが政府の狙いでした。
本論文の第2章では、簡潔に前述の障害者へのサービス提供、 また、 その権利の向上を図り連邦政府の各関係部門が分離的ながら補完的に実践している積極策にも言及します。 第3章では、関連性のある人口データを取りまとめ、サービスに対する需要について幾分かの推計を呈します。 第4章では、サービスについての情報を提供します。すなわち、収入補助、障害支援、一般的なサービスおよび非公式なサービスについてです。  第5章は、サービスの結果の測定の進捗状況について述べ、障害者の為の成果についての状況を提供し、特に、障害者サービスの目標は地域社会における生活様式と活動全面での人々の参加をより豊かにするということであるという考え方を述べます。第6章では、簡潔に地域社会の見解に触れ、特に、障害者の見地からと、Blind Citizens Australia(オーストラリア視聴覚障害者団体。以下BCA)の経験や見地について重点的に述べます。

2.連邦政府の積極策

 障害者の状況改善の為の連邦政府の二つの取り組み方は, 別々でありながら相互補完してきました。伝統的な取り組み方は減税処置や補助金提供のいずれかの方法で、障害者にサービスを提供する地域団体を支援する事でした。第二の取り組み方は、1980年代に溯るのみで、それ以前ではなかったことですが、権利に基づく取り組みで、差別を認識し、権利を尊重し参加の障害を取り除く努力をすることにあります。第三の取り組み方は、詳細に論じられてはいませんが、年金や給付による収入補助の安全網の中で働けない障害者を対照に含めるということであります。

 2.1 サービスに基づく取り組み方

 1986年に成立したDisability Services Act(DSA)は、連邦政府が障害者に様々なサービス、特に、主要項目として雇用と住居/収容施設提供サービスを提供する非営利団体に対し資金を提供する権限が認められました。DSAが重要なのは資金供与の焦点が、サービス供給者による投入からサービスの消費者(享受者)のための出力に移行する道を拓いたからであります。拡大し続ける障害者にサービスを提供する地域団体のネットワークをDSAが支えることになったのです。1981年の国際障害者年には、オーストラリア社会で障害者は従前に増して注目されることとなりましたが、それ以来、サービス提供についての考え方は、児童の統合教育や、就労年齢層のための地域団体により提供される地域社会に根差したサービスや、高齢者を養護ホームやホステルでなく、可能な限り、彼らの地域社会内に留めて置くように強く動いて来ています。DSAは、小規模で個々に分離したサービスの到来を告げるものであり、集合モデルや多角サービス提供の時代は終わったのです。政府当局が望んでいるのは、 旧来の授産施設システムを改革し、大型の集合工場の環境を小さい作業集団や作業チームに置き換えることであります。改革の中にはよいものもあるし、改革は確かに必要ではあるが、美辞麗句は現実より遥に先行しており、現在知られている形でのビジネス・サービスは殆ど変わってはいません。
障害者サービス法は、7つの原則により導かれており、それから14の目標が生まれました。それは13年前に策定され、日時の移り変わりにもよく耐えて現存しています。

原則1
障害者は、その人間としての価値と威厳を尊重されるべき生来の権利を持つ個人であること。

原則2
障害者は、障害の起源、性質、種類、程度が如何なるものであれ、オーストラリア社会のすべての人々と同じ基本的権利を持っていること。

原則3
いずれの障害者も、その身体面、社会面、感情面、知能面において開発して行く個々の能力を実現することについて、オーストラリア社会の他の人々と同じ権利を持っていること。

原則4
障害者は、彼らが容認出来るに足る質の生活に到達するのを支援するサービスを受けることについて、オーストラリア社会の他の人々と同じ権利を持っていること。

原則5
障害者は、彼らの暮らしに影響を与える決定に参加することについて、オーストラリア社会の他の人々と同じ権利を持っていること。

原則6
障害者は、彼らが受けるサービスについて、最も拘束のない選択の採択に関し、オーストラリア社会の他の人々と同じ権利を持っていること。

原則7
障害者は、彼らが受けるサービスについての苦情の追求について、オーストラリア社会の他の人々と同じ権利を持っていること。


目標1
障害者に対するサービスの提供の焦点は、前向きの成果の達成にある。

目標2
障害者に対するサービスは、障害者の日常生活の状況が、その水準や様式において地域社会一般と同じか、出来るだけ、それに近いものであることを確実にするべきである。

目標3
障害者に対するサービスは、等位に調整された地方サービスの一部として提供し、可能な限り包括的なサービスに統合されるべきである。

目標4
障害者は、彼らの個々の必要と目標に合わせたサービスを受けるべきである。

目標5
プログラムとサービスは、性による違い、民族による違い、先住民であることの結果、二重の不利を経験する障害者の必要を反映するべきである。

目標6
プログラムとサービスは、障害者について有能かつ前向きなイメージを向上すべきである。

目標7
プログラムとサービスは、最大の物理的・社会的統合を通じて障害者が地域共同社会生活へ参加することを促進するべきである。

目標8
サービスを提供する団体はいずれも単独で個々の障害者の生活の総てもしくは大部分の面を支配するべきでない。

目標9
障害者に補助を提供するサービスは、それが特定的なものであれ、一般的なものであれ、 消費者、その代表者、資金提供機関と公共一般に対し責任を持つべきである。

目標10
プログラムとサービスは、障害者が目標を達成したり、 地域社会全般により尊重され、 その暦年齢に相応しい生活様式を享受する機会を提供すべきである。

目標11
障害者は彼らが受けるサービスについての意志決定に充分参加出来るように必要に応じ相談支持を受けられるようにするべきである。

目標12
障害者が受けるサービスは、それについての苦情を表明し、解決する為に適切な道を提供すべきである。

目標13
障害者は、個々のサービスの企画・運営に参加する道を開き、主要な政策展開やプログラム変更に関して相談する機会を提供されるべきである。

目標14
障害者に対するサービスにおいては、個人のプライバシーや機密を守る権利を尊重するべきである。

 障害者サービス法のもとでは、連邦政府は適切な大臣もしくはその被任命者を通じて、明確に9つに区分された類型の障害者サービスを提供する非営利団体に補助金を交付することが許されています。雇用助成、競合的雇用に備えての訓練と就職斡旋、住居/収容施設提供補助、レスパイト・ケア、自立生活訓練、情報、相談指導、読字障害ならびに研究開発が対象になっています。
より密接に調べたところ、何らかの補完的な取り決めをするのは可能なことながら、連邦政府と州政府との間に重複と間隙があることが明らかになりました。これは1990年代の初期、連邦政府がその責任の多くを州政府に委譲しようとしていた頃で、障害者サービスは最優先目標であったのです。
これが連邦・州政府間の障害に関する協定(CSDA)が出来るきっかけとなり、 同協定のもと連邦政府は雇用に関する責任を保留し、 他の事項の殆ど総てを州に委譲したのです。 なかんずく、 住居提供、レスパイト・ケア、自立生活訓練は州に委ねられました。 相談指導、読字障害ならびに研究開発は引き続き共同責任となりました。 1991年以来、主要優先サービスである競合的雇用、住居提供と恐らく幾分かの自立生活訓練向け以外には補助金の伸びはありませんでした。

 2.2 権利に基づく取り組み方

 障害者差別禁止法(DDA)は1992年に連邦政府議会を通過しました。障害者は、差別根絶への進捗が予想より緩慢であることに引き続き挫折感を抱いてはいるものの、多くの面で同法はよく機能して来ました。遺憾ながら、障害者差別はオーストラリアでは引き続き風土病的な広がりを見せています。
DDAを執行しているのは、the Human Rights and Equal Opportunity Commission (人権機会均等委員会。以下HREOC)であり、同委員会が差別との闘い手として同法の促進と運営について責任を負っているのです。
DDAは障害者の基本的な人権の尊重を求めています。同法は、何らかの差異的な取り扱いが不可避であり、総ての差別的な慣習が、正当化し難い困難を伴うことなしに是正され得るものでないことは認めています。それは、権利と義務とを平衡させるために公平性と合理性の原理を用いています。DDAの対象から除外されている事項の内、 重要なものに、障害者を不利にしている「移民」、他に彼らが恩恵を受ける「年金と手当」の問題があります。オーストラリアの移民・社会保障法は明確にDDAから除外されているのです。
DDAでは「障害」について幅広い定義を用いており、他国の関心を呼んでいます。 障害基準の進捗の遅さや、苦情処理の複雑さにも拘わらず、意識の高揚や幾つかの有益な事例法を通じてかなり良い進歩が見られたのです。
DDAでは「障害」を幅広く定義付けしています。伝統的な身体、感覚、知的、精神障害を対象とすることに加え、ここでの定義は、陽性HIVを持つ人を含み、かつ、自らの責任に帰すべき障害(imputed disabilities)を含んでいます。 例えば、同性愛者であるとか、麻薬常用者と分かっている人を、当人が陽性HIVを持っているとの推定に基づいて差別したのであれば、不利に取り扱うこととなり、 それは非合法となります。 同法は、また、容貌損傷や、 誰かが以前、 障害を持っていたこと、 あるいは将来に障害を持つに至るような事態をも対象に含んでいるのです。
もし、 個人もしくは組織が、 ある人あるいはその仲間を、 同人が実際に障害を抱えているかもしくは障害を抱えているとの推定に関連して、何かの理由で不利に取り扱えばそれはDDAのもと非合法となります。これは一般に直接差別として知られていますが、間接の差別も対象となる訳です。
障害者が、その障害による困難を克服する助けとなる通訳者、朗読者、介助者、盲導犬、聴覚障害者用の誘導犬、その他、 訓練された動物を随伴している時、そうした障害者を不利に取り扱うことをDDAは非合法としているのです。
本質的には、オーストラリアのDDAは苦情申し立てに基づく法律です。意識向上とそれに関連する積極策、それに、障害基準を設定することにより障害者の状況改善を図る規定も設けられています。 米国のADAと異なり、オーストラリアのDDAには準拠や監視記録の仕組みが組み込まれていません。DDAの下には、差別を減少し、救済するために大きく分けて苦情、意識、基準といった三つの戦略があります。
最初の戦略は苦情手続きを経るものです。権利を侵された人は、HREOCに苦情の申し立てをしなければならず、そこで同委員会が苦情の調停を図ります。もし、それが成功しなければ、苦情は連邦裁判所に回付され、審問と裁決をうけることが出来ます。
第二の戦略は、意識の向上です。ここで一つ重要な規定は、「行動計画」(Action Plan)です。 企業、 政府機関は、 その大小を問わず、 HREOCに「行動計画」を提出することが出来ます。これらは法的な資格を持つものではありません。計画を構築した事自体により創出された意識が有益になり得るのです。万一、苦情の申し立てがあったとき、「行動計画」の存在が、被告にとり有利に考慮されるのです。
第三の戦略は、障害基準です。連邦法務長官は、公共交通機関、雇用、教育、宿泊設備、アクセス可能な場所、連邦政府の法規と事業の分野に関して基準を作り、議会の承認を求める事が出来ます。基準とは、DDAを受け詳述されているものであり、障害者の権利と、仕事、物品あるいはサービスの提供者である雇用者や組織の責任もしくは義務を提示する文献です。
連邦政府は、専門家による障害者の権利擁護法律サービスに、少額ながら、年間約5千万円程の補助金を出しています。これらの団体が提供するサービスとは:障害者に権利擁護に関して支援を与え、苦情の申し立て、調停の席上で助言し、地域社会教育を通じて意識の向上を図り、DDA基準の作成やDDAの改正の提案や申し入れについての地域社会での論議に参加する事です。例えば、Blind Citizens Australiaのような団体もDDAのもとで救済を求める会員に権利擁護に関する相談を提供しています。
州や準州における一連の機会均等法、差別禁止法が連邦DDAを補完しています。これらの法律は、何処に適用するかについては類似していますが、そこには微妙な差異があり、そのために苦情を申し立てようとする人は、当該問題について、連邦DDAまたは州法のいずれの法律が最善なのかを注意深く考えなければなりません。
連邦政府は、その家族・地域社会サービス部の中に”Office of Disability”(「障害対策室」)という重要な組織を持っています。「障害対策室」の一つの活動は、連邦の障害対策に関する戦略の展開でした。同戦略の目的は、なかんずく、「行動計画」に関するDDAの目標の促進と国連の標準規則を国レベルで実施することです。
当戦略は、10年間という時間の域内で、連邦政府の各省庁が、サービス、事業、施設に障害者がアクセスできるような変革を実践する枠組みを設けています。これは、障害者と相談しながら策定され、それに織り込まれた優先順は障害者の主要関心事を反映するものであります。当戦略は政府当局が障害者の必要と願望の実現に向け踏み出す重要な一歩であり、DDAの意識向上の要素は不可欠な構成部分です。
当戦略は、下記事項の重要性を確認しています。

  • 各部局がプログラムの設計、実施と機会均等施策の効果につき障害者の意見を求めること。
  • 各部局が政府の諮問や再検討の過程に障害者団体の代表者が公平に参加出来得るように努めること。

2年毎に、連邦政府の部局や庁に至るすべての部門が、当戦略に織り込まれた行動目標達成の進捗について報告することになっています。当戦略は最近、評価を受け、詳細な報告書が公表されたばかりです。
当戦略の重要な要素として、連邦政府省庁のすべてに対しDDA行動計画を策定しHREOCへの提出が要請されて来ました。全部ではありませんが、多くの省庁は優れたDDA行動計画を作成し、自らの意識を高め、内部手続きを改善してきました。行動計画のお蔭で連邦政府は障害者のための政府による主流のサービス、事業、施設を身近で利用し易くすることができたのです。

3.有障害率と必要度

 本章ではオーストラリア人口中の障害に関し入手可能な主要データの概略を述べます。すなわち、総体的な有障害率、特定の障害別ならびに多重障害の発生率、近年における有障害率の変化を論じます。先住民の間の障害のデータの欠如については、その理由を認識しながら論じます。本章は、サービスの必要についての幾分かの示唆を込めて終わっています。
最も新しいオーストラリアの障害に関する人口調査は、1998年にthe Australian Bureau of Statistics(ABSオーストラリア統計局)が実施した障害者、高齢者、介護者調査でした。しかし、筆者は1993年の調査に基づいて報告します。筆者が1998年調査結果について知るところによれば、幾分かの増加があり、私見では、それは、人口の高齢化と自立の傾向の伸びによるものであると思えます。1993年調査の結果は一連の資料として公表されており、本章では同調査結果の主要な特徴を集中的に取り上げることと致します。 

 3.1 有障害率

 1993年のABS調査では、「障害」を、15の「制約、制限、機能障害」のうち一つ以上の存在を調査回答者が確認したものと定義づけています。この定義によれば、1993年、オーストラリアでは、3,176,700人の人達が障害を持つと申し出でており、そのうち、2,031,900人が65歳未満、男女内訳は、女性が925,700人(45.6% )、男性が1,106,200(54.4%)でした。
調査の計画に当たり、ABSは可能な限り1980年のInternational Classification of Impairment, Disability and Handicap(「国際障害分類」。以下ICIDH)を用い、かつ、「障害」同様「handicap」についてのデータの収集に努めました。「handicap」は、自分が持つ障害のために身の回りの世話、移動、言葉による意志疎通、就学、就職に関連して一定の動きをするのに制限や制約を持っていることと識別されました。1993年には、65歳未満の人のうち9.7%がhandicapがあると申し出で、このうち2.4%が「重大なhandicap」すなわち、常時もしくは時々、日常生活動作(身の回りの世話、移動、言語による意志疎通)において人の介助もしくは監督を必要としていると申し出ています。 

 1993年のABS調査では、「障害」を、15の「制約、制限、機能障害」のうち一つ以上の存在を調査回答者が確認したものと定義づけています。この定義によれば、1993年、オーストラリアでは、3,176,700人の人達が障害を持つと申し出でており、そのうち、2,031,900人が65歳未満、男女内訳は、女性が925,700人(45.6% )、男性が1,106,200(54.4%)でした。

 オーストラリアでの一般的な専門用語での「障害のグループ分け」では、「知的な機能に関する障害」に関連した障害を意味するときは「知的障害」といいます。この一般的な用語は、明確な定義付けはなく、一元分類法に基づくものではありませんが、オーストラリアでは総体的に理解され、主要障害関係団体により受け入れられています。
障害の大半はたいていが肢体に関連して障害がもたらされることに起因しています。65歳未満の人々の9.0%がそのような第一次的な状況を申し出ています。この年齢層で次に頻度が多いのは感覚能力(2.2%)と知的能力(1.6%)に影響を与える障害状況です。このデータはこれらの状況に関して総体的な有障害率を表示するものではありません。というのは、各人は主たる障害の状態に従い一度だけ数えられているからです。障害をもたらす状況は、勿論、個人の経験の一局面のみに過ぎず、「重大なhandicap(ABS用語にある)」の存在は別の次元の問題であることを示しています。障害をもたらす主因として精神あるいは神経系統の状態、頭部あるいは脳に損傷をおった人は、それに関連した重大なhandicapを訴え勝ちであり、耳や循環、呼吸器官に問題のある人は、重大なhandicapを訴えることが最も少なかったのです。
肢体に障害のある人は、他の障害を持った人より身の回りの世話にhandicapがあると申し立て勝ちで、意志の疎通については少なかったのです。移動や就職のhandicapの申し立ては全ての障害グループを通して極めて頻繁に出ています。
ABS障害調査に報告された障害を及ぼしている状態はすべて、65歳未満の人々に見られる主要な障害の状況よりも高率で示されました。脳損傷(例えば、卒中とか頭部損傷からの)が他の状態との組み合わせで報告されることはしばしばありますが、通常、精神的な状態の場合はそれほど頻繁ではありません。
多重障害または状態がある可能性は、国レベルでの有障害率の推計を複雑にしています。より重要なのは、多重障害や状態があるということは、当人にとって障害をより厳しく経験する、ということにも関連してくることが多いということです。ABS調査で重大なhandicapを申し立てていた人の半数以上の人が数種組み合わされた機能障害の持ち主であった一方、軽度のhandicapがある人々の74%は、一種類の機能障害を持っているだけでした。重大なhandicapがある人が申し出たhandicapの分野別の数は平均2.1で、それに比べて、障害者全体の場合、 総体的な平均は1.61でした。 先住のオーストラリア人(オーストラリア先住民およびトレス海峡島民)間での有障害率推定についての良いデータを収集するのは今まで難しかったのです。問題は定義付けと理念化それに調査標本抽出方法にありました。オーストラリア先住民およびトレス海峡島民の全国調査結果によると1994年には25-44歳の年齢層の2.8%,15-24歳の年齢層の1%が重大なhandicapがあると報告しています。これらの結果は、障害、高齢化、介護者調査で報告されている全人口の統計と類似しているように見えますが、2つの調査は厳密な比較は可能ではありません。むしろ、先住民の間での障害率は、障害となる状態の発生率がより高いので、全人口での率よりも遥かに(少なくとも2倍)高いことが考えられます。例えば、先住民は、負傷や循環・呼吸器官疾患を体験する率は高く、それらは総てしばしば障害に関わりあいがあるのです。

 3.2 サービスの必要と需要

 統計データはサービスや補助に対する必要と需要を、 いくつかの異なった形で表示することがあります。 オーストラリアにおける障害者補助サービスの需要は、1995-96年のAIHWによる検討課題でした。それは連邦/州間の障害にかんする協約の国家的な評価を報告するよう任命された6つの機関の1つであります。同AIHWによる検討の重要さはThe Commonwealth/State Disability Agreement(連邦・州政府間の障害に関する協定。以下 CSDA)を評価している主席コンサルタントが認めるところです。充たされなかった需要は、国民が表明する未充足の需要として理念化され、彼等がそれを得ようとしたが不成功に終わった証拠を付して、未充足の需要を表示するのに用いられました。
検討の主要な結論は、5-64歳の年齢層の推定13,500人の重大なhandicapのある人々は、より正式なサービスを必要なことを表明している、ということです。そのサービスとは、CSDAの下、住居提供、住居提供補助、レスパイト・ケアといった種類のもので、その人達は、そうしたサービスはないか、手配出来ないかの理由で受けなかったのでした。13,500人という数字は、当時,サービスを受ける人の推定人数の約64%に当たります。この満たされない必要性の問題はオーストラリアで話題として残り、今年早くこの問題と取り組む旨の政府の発表は広く受け入れられました。
障害者の高齢化と介護者の高齢化両方から起こる重複影響があります。45-64歳の年齢層で重大なhandicapを抱えている人口は、 1995年と2001年の間に18.9%増加するものと予想されていて、 これは、最も急速に拡大している年齢層にあたります。従って、就労年齢層に集中している障害者向けサービスから、障害者に適した高齢者向けサービスに移行する老人の数が増えそうなのです。
Disability Support Pension(障害援助年金)の受給者の中で40歳以上の年齢層が持つ意義からして、この年齢層が高度に伸びるとの予想は、社会保障補助への需要に影響を与えています。
介護者の高齢化はサービスに更なる圧力を掛けています。身の回り、移動もしくは言語による意志疎通に常時介護を必要とする人々の間には、その主たる介護者が65歳以上の親である人が7,700人もいました。

4.障害者のためのサービスと補助

 障害者に関連のある正式のサービスは、 大きく以下のように分類することが出来ます。

  • 障害特定収入補助
  • 障害者支援サービス
  • 一般的なサービスの内、 特定的に障害者に目標を当てた要素を含んでいる可能性のあるもの

 本章は、これらの3つのサービスの大まかな分類のそれぞれについて情報を提供します。 介護や補助はしばしば正式な介護制度の枠外で提供されます。
従って、 非公式な介護や補助に関する情報も含んでいます。
地域社会に根差したサービスの傾向は続いています。 それは、 オーストラリア政府機関の大部分が直接的なサービス供給をする役割を減らし、サービスの資金提供者もしくは購入者となって基準設定、品質保証、企画制作展開の面に関与するというものです。こうした方向付けは、他の地域社会サービスと同様障害者サービスの面でも顕著です。 新規に連邦のサービス実施機関が創立されたことは、政府のサービスの実施方法が大きく変わった事を表し、福祉サービスの実施における購入者の立場と供給者の立場の分割へむけての大きな一歩です。障害者の為の雇用補助サービスの新たなる資金提供のモデルは、利用者の必要度とサービスの成果に基づいて連邦政府が立案中です。
連邦政府は、障害者に対する家族やボランティアによる介護の重要性を認識しています。1996-7年度の連邦予算の中で、国による介護者の為のレスパイト事業の開設が公表されました。それにより、介護者供給源センターや緊急レスパイトサービスといった新しい積極策が可能となったのです。1997-8年度の予算の中では、介護者包括計画により介護者に対する支払いが16歳未満で重度の障害を持つ児童を常時介護している人達にも延長して適用されることとなりました。
前述したサービス機構の中で起こりつつある重要な変革は、データの収集や分析に責任のある機関に対して新しいチャレンジを呈しています。国の統計機関、新政策および監視部門、それにサービス部門間での協力が引き続き行われることにより、障害者サービスの利用・成果についての有意義な情報が引き続き展開されることを確実にする筈です。より幅広い面で、AIHWも全国地域社会サービス・データ便覧の作成に取り掛かっているのです。

 4.1 収入支援

 連邦政府は、社会保障制度に責任があり、オーストラリアの政府諸機関により提供される収入支援サービスの主要な根源です。 連邦政府による主な障害関連の支払いは、1995-96年の期間に人口の平均4.35%を対象とし、支出額は4,000億円、すなわち、社会保障支出全額の14%に相当したのです。
障害者に対する最も一般的な給付はDisability Support Pension(障害補助年金。以下DSP)で、受給者は1995-96年には50万人近くいました。DSPの人数は、政府当局を驚かせるほどの割合で増加しており、来年には60万人を超え、2、3年内には、登録済みの失業者の数を凌ごうとしています。同年金の有資格条件は、最小限程度の機能障害と向こう2年間以内に通常の給料をフルにもらって一般労働市場で常勤の仕事が出来ないか、就職のための再訓練を受けることが出来ないことを基準としています。65歳未満の男性、および62.5歳未満の女性に適用出来ます。女性に対しての上限は現在60歳から65歳に変更されつつあります。家賃補助はDSP受給者の25%に支払われています。病気手当は就労年層の人達で医学上の理由で一時的に就労不能な者に支払われます。
DSP受給者の大部分は40歳以上です(1995-96年間では、男性の77%、女性の70%)。障害関連での収入保証給付の受給者は、女性よりも男性であることが遥かに多いのです。性別分布は、前述の人口推計と非常に異なっています。DSPの統計における男性の圧倒性は、夫婦の収入を合算しての審査の効果、高年齢者の高い失業率、労働災害の理由によるものとされます。社会保障のデータは、地域レベルで入手可能な数少ない国のデータ源であるので、企画部門がそのデータを企画過程で入力に用いたがりますが、もし、DSPデータを地域での企画に用いるのであれば、こうした性別の差異に留意しなければなりません。
DSP導入以来のDSP受給者の増加は、人口分布の変動、例えば、就労人口の高齢化、それに関連して有障害率の上昇と、また、高い失業率が続いているなどの理由によるものとさて来ました。団塊の世代(50歳代以上)の膨らみが高い発生率に入ってくるのことが、2006年までに新規給付認可が年間80、000口になるという見込みにかなりの寄与するものと予測されます。

労働および幾分かの交通災害の障害については、かなりの収入補填プログラムが州や準州の補償計画により提供されています。 これらの計画は管轄区域によりそれぞれ異なっています。それら計画では、保険への拠出は雇用者や車の所有者に依存して、通常以前の所得に関連して支払いを行い、かつ、防止と復帰を強調しています。 新しい形の保険、すなわち、 'pre-funding'(予め資金繰りをしておくこと)が、 高齢者あるいはより若い障害者の長期介護のために提案され、 コスト算定がされてきました。 人口の高齢化が進み、長期的な「無料」介護の利用が制限されるにつれ、 こうした仕組みが、 全体の制度の中に占めるより重要な部分として必要とされる可能性があります。
州や準州は、障害者に対して一連の特典を与えています。例えば、 交通機関での特典、タクシー利用計画、料金、家賃割引、技術的な補助具や住宅改造のための助成金等です。これらの特典を得るための門戸を開くのは、社会保障省発行の年金生活者特典カードを所持していることです。

 4.2 障害者サービス

 1991年のThe Commonwealth/State Disability Agreement(連邦・州政府間の障害に関する協定。以下CSDA)は、オーストラリア政府の各機関による障害者支援サービスの供給に関する責任を設定しています。 おおまかに言って、連邦政府は雇用サービスについて責任を持ち、州・準州政府は住居提供とかその他の支援サービスの責任を引き受けています。
両レベルの政府は、権利擁護と調査について幾分かの責任を保留しています。CSDAサービスの資金提供および企画については各政府間で責任を分かち合い、サービスに関する情報を共有する旨合意しています。資格について年齢制限は設けられていませんが、サービスは総体的に65歳未満の人達を対象にしています。
CSDAの下、オーストラリアの各政府全体を通じての資金供与額は、年間合計1,000億円となります。住居提供サービスは政府資金供与のなかで最大額を受けており、CSDAの資金供与額の約60%を占めています。地域社会支援、アクセス支援、レスパイトサービスは26%を、雇用支援サービスは14%を受けています。
1996年のCSDAの Minimal Data Set(最小限データ・セット。以下MDS)収集で報告されているサービスは5,160件であり、その過半数(67%)は、非政府機関により提供されました。サービスの33%は、各政府が住居提供サービスという従来の領域に多大に集中して提供しています。

 1996年には、CSDAサービスの利用者の72%が、ABS用語でいうところの重大なhandicapがあり、日常生活動作(身の回りの世話、移動、意志疎通)において継続的にか、頻繁にか、あるいは、時折の支援を必要としていると報告されています。精神障害を持つ利用者は、そのような集中的なサービスを求める蓋然性が最も低いとされていており、その36%は補助を必要としていません。障害者支援サービスというものが、身の回りの世話、移動、意志疎通よりも、遥かに広範囲の活動における補助を提供することを目的として計画されたことを認識し、CSDA, MDSによるデータ収集は1996年にはその範疇を広げ、家庭生活、社会的スキル、自己方向付け、感情の制御、学習、仕事、その他の日常活動を含むこととなりました。

  4.2.1 一般労働市場での雇用サービス

 当サービスは、障害者が自由に解放された労働市場で働けるように準備し、支援します。1995年以来、これらのサービスに関するデータは、経営情報を改善、共有し、データを全国的に校合することを望んでいるサービス提供者の為に、及びその人たちと共に開発されたシステムを通じ、収集されています。
1996年には、22,170人の利用者が同年中に何らかの支援を受けたと記録されています。これらの利用者のうち、64%は男性で、過半数(59%)は、30歳未満でした。最も通常的な障害として報告されていたの知的/学習障害(50%)でした。
支援時間総数の約3分の1(65%)は、知的/学習障害を持つ人達の為に割かれています。これは、障害グループ別では最大のグループで、1996年では一人当たりの平均支援は74時間で、これも最高でした。
この年、仕事を持っていた人達(就労者)は、他の利用者より多くの支援(週2.00時間 対0.90時間)を受けています。仕事を得た時期が支援のピークをなしています。1996年に唯一つの仕事を持ち続け、年末時点でその仕事を保持した就労者は、その仕事に長く就労すればするほど、支援を受ける度合いが減少する傾向があります。
労働市場補助は障害者が、主流の雇用プログラムを通じて、また同様に、特定支援サービスを通じて利用出来ます。1998年3月より、Centrelinkという福祉を受けている人達のために政府が新設した国のサービス機関が、求職中の人々の為の労働市場補助を管理してきました。 雇用者に対する奨励、就労のための訓練、求職者のための準備・支援などを含む一連の補助が提供されています。
求職中のCentrelink利用者総ての為に、 評価および紹介の為の新しいシステムが開発されています。 各人毎にJob Seeker Classification Instrument(求職者分類手法。以下JSCI)を用いて評価を受けるのです。JSCIには多くの障害者が必要とするような特別目的支援のきっかけとなることも含まれており、その時にはWork Ability Table(作業能力表。以下WAT)が用いられます。。

 JSCIは、求職者が直面する障壁(技能程度、年齢、障害、訓練、住宅、家庭事情)を識別するものであるに対し、WATは、障害者を雇用サービスのうち、一般的な方か特定的な方かに分けるのに使われます。

  4.2.2 非公式な介護

 障害者は家族・友人からかなりの援助を受けるものです。1993年に、家庭で暮らしていて、handicapがあり、援助を受けている、と申し出た人達のうち、91.1%は家族・友人から何らかの援助を受け、39.8%%が公式のサービスを受け、31.7%が非公式、公式サービスの両方を受けていました。重大なhandicapを持っていても家庭で暮らしている人達は、援助の大部分を家族・友人に頼って受けています。重大なhandicapを持ち助力が必要であると申し出ている人の81.9%にとっては、身の回りの世話をするのは非公式の介助者、通常、同じ家庭で暮らしている人です。
介助の役割は、それを果たす人達の生活に影響を与えます。1993年のABS調査で面接を受けた介助者は頻繁な睡眠中断や、友人との連絡が絶えるとか、家族関係の緊張化とか、外出がし難くなるとかといった社会的な影響を経験していることを報告しています。総体的に、この影響は30歳以上の女性に降りかかっているのですが、要介助者の年齢を問わず、この年齢層の人が主たる介助者として圧倒的に多いことに一致しています。1993年現在の推計では:

  • 主として30歳以上の33,000人が介助の役割を果たすために仕事を断念。
  • 110、800人は、介助の役割のお蔭で被介助者により近くなれたと報告している一方、それに比し、88,200人は関係が緊張化したと報告。
  • 61,700人が収入減を、80、000人が支出増、100、000人以上が生計を立てるのが難しいと報告。

 障害者の介助者と他の多くの場合の介護者の違いは、それが、乳幼児もしくは高齢者の場合のようにライフ・サイクルのある一定の期間の限られた責任というより、むしろ終身の責任となることがしばしばである、という点です。1993年、重大なhandicapがある人を介助して来た親は、平均して、配偶者を含む家族内の誰よりも長期間介助してきたという結果が出ています。介助した期間が5年に満たなかったのは、介助する親のうち、僅か20%のみであったのに比べ、配偶者が介助者の場合は43%、他の家族の場合は53%でした。
推計によれば、 65歳以上で主たる介助者である7,700人のうち、殆ど半数の人が、重大なhandicapのある人の介助を30年以上もしてきているのです。

5.成果

 過去5年間に、障害者サービスについての全国的な成果向上対策の開発に進展が見られました。本章では、 先ず「障害基準」の開発について記述し、幾分質の面について言及します。その後で、地域社会の中での種々の局面で参加という点から、障害者のため成果の度合いを示すデータを提示します。

 5.1 障害者サービスの基準

 1993年3月に、一般的な障害者サービスの一般的な基準8項目と雇用に特定した基準3項目が組み合わされて全国的に導入されました。 一般的な基準に関する8項目には、サービスの利用可能性、 個人的な必要性、意志決定と選択、プライバシーと尊厳および秘密保持、参加と統合、身分尊重、苦情と係争、サービス管理があります。雇用に特定した基準に関する3項目には、雇用条件、雇用支援、雇用能力開発があります。州の中には、州法の目的や主義を反映して追加の基準(例えば、家族関係や人権擁護の為の基準)を付け加えている州もあります。 総ての管轄区域は、 各々の障害者サービス法と全国基準に基づいて、サービスとそのための資金を提供しています。殆どの管轄区域において、資金のついているサービスはサービス協定の条件に照合して定期的に評価を受けるのですが、その評価では基準も構成要素となっています。連邦政府などのように管轄区域によっては、消費者に正式な機会を与えて、基準に対するサービスの成果について彼等の意見を表明させている所もあります。

 5.2 質

 介助の質は、政府による調査から批判が出ていますが、同様に、例えば1991年にあった知的障害者の施設の火災で9名の人が亡くなったといった特定の事件の後にも世間の関心事となっています。地域社会に幅広く関心が広がったことから調査の実施が促されて、その調査の結果が人々の関心を高め、広範囲に渡る改善を求めることとなりました。
入所施設での知的障害を持つ成人に対する虐待についての全国的な調査は、職員、入居者や家族からの情報に基づいて結果が出されました。 「行動管理」を装っての虐待を含め、言葉、性的、身体的な虐待の証拠がかなりあったのです。 勧告は、研修、適正な方針や手続きの確立や必要な資源の提供に及びました。
質は、また、教育のような「主流」のサービスにおける問題でもあります。 広告や勧誘に応じた784人(有作為抽出標本)の見解に基づいた報告で、入学の困難さ、規律方針の差異のある適用、いじめや嫌がらせの放置といった多くの差別の事例が見つかりました。態度は過去10年間に進歩をしてはきましたが、障害をもつ学童の状況を引き続き改善して行くためには、教育を平等に受けることができるように改めて強調される必要があります。多くの回答者は、職員と生徒双方の否定的な態度が未だに主要な問題であると報告しています。
同様に、New South Wales州法制改革委員会は、 刑事訴訟や警察での手続きを変えることを進言しています。 それは、 「知的障害を持った人は、 被害者や加害者の両方の立場で刑事訴訟に掛かり合いを持たされ過ぎている」と判断しています。同委員会は、州刑務所の収容人口のうち、少なくとも12-13%は知的障害者が占めているという証拠をその報告書で挙げています。
これらの報告を集合すると、法律や「最善のやり方」に関する文献によって設定された基準、 サービスの受け手の経験、オーストラリアで社会が設定基準に従ってサービスを提供する目的でどれだけの資源を見つけてくる意欲があるかということの間に間隙があることを表しています。

 5.3 利用の可能性

 障害者でサービスを必要とする人達にとってサービスの利用可能度を示す包括的なデータは入手できません。 当課題についての数少ない全国的研究の一つが、 CSDAのもと資金が出されたり、 提供されたりする障害者支援サービスに対する需要に対して未充当のレベルを検討した所、 以下の事が分かったのです。

  • 1993年、 推定13,500人の人達が、 継続的に日常生活動作で支援を必要としながら、住居提供支援もしくはレスパイトサービスの需要が充たされていないと申し出ています。 こうしたサービスがないか、 手配できないとの理由で利用出来ないのです。
  • 近い将来には、 高齢化する介助者および障害者に対するサービスの利用可能度が重複した影響を受けることになりそうです(1995年と2001年の間に、 45-64歳で重度の障害を持つ人が19%増加すると予測されています。)

 障害の分野で、サービスに特定した成果の指標も開発中です。 障害者に対する一般雇用サービスは、4.2.1章で詳述されて、利用者のデータがいくらか提供されています。成果についてのデータも多少集計されています。

 5.4 一般雇用成果

 1996年における22,170人の利用者のうち、11、284人が年内のある時期に職を持っていました(就労者)。重要なのは、同年中に就労者の数が2,083人、すなわち31%増加したことです。このサービス分野にとって確実な成果測定です。全就労者中、48%が1996年の年頭ならびに年末現在職を持っていたし(「職の保持」と称す)、 29%が1996年中に職を得、年末現在雇用が続いていました(「就職し職を保持」)。更に、11%は、 年頭には職を持っていたが、年末、職はなかった(「失業」)、残りの12%は、1996年内、ある時期には仕事があったが、失業で同年が始まり、失業で終わったのです。(「就職と失業」)
成果をより詳しく分析するために、 AIHWによって、 4組の成果測定法が開発されました。 すなわち、 就労時間、 平均賃金、 就労者当たり職の数、 就職までに要した週の数であります。
障害を持つ就労者の間では:

  • 就職するのに平均27.4週掛かった。 (前職なしの求職者)
  • 平均33.2週就労した。 (1年の、もしくは1年未満なら支援期間の72.3%)
  • 1週間の平均就労時間は、25.3時間。
  • 平均時間給は豪$9.22、平均週給は就労した一週当たり豪$227で、年間通算平均では豪$167。

 就労経験や、機関とその利用者について表示している他の要素の測定の相関関係を検討するために、多変量回帰法が用いられました。一つ以上の測定に関係があると思われる利用者の要素に含まれるのは、性別、年齢、先住民の身分、主要な障害の類型、他の障害の有無、生活環境、日常生活動作に継続的な補助の必要性などです。これらの相関関係は複雑で、就労の成功に結び付くような単純な予測モデルとしてまとめることは出来ませんでした。 これで分かるのは、 結果をある特定の介入に帰するようにすることが如何に制約されているかという事でもあります。

 5.5 参加の成果

 全国的な効果測定法を案出するのを妨げることの一つは、障害者サービス分野に一般に合意された測定可能な目標が欠如していたことでした。従って、1996年に、総ての管轄区域の障害担当者が、障害サービスに関する全国的な目標を以下のように設け合意したことは有意義な里程標でした。

 「生活の質」の測定は、多くの調査や議論の主題であり、障害者についての測定は際立って複雑です。障害者に関する討議は、幾つかの主要問題を具体化します。すなわち、測定の目的は何か、生活のどの様相を調べるのか、 生活の質について誰が判断を下すのか:当事者なのか、 あるいは幾つかある学界分野のいずれかからの「専門家」なのか、並びに、どのような方法あるいは尺度を用いて測定が行われるかということです。生活の質の面で得られたものが、 サービスの利用可能度を決めるために用いられれば、専門家の見解は個人の見解と異なるかも知れないという事実は、 学問的な関心を上回るものです。 行政者の声明は、その概念を 「地域社会において尊重され参加するメンバーとしての」 生活を意味するものと理論付けることにより、この問題を簡略化しています。

 5.6 住居および生活の手配

 地域社会の環境に住むことが 障害者の重要な目標であり、施設から退所してもらうことが 障害者の住居提供に責任を持つ殆どの政府の目標でもありました。入手可能なデータによれば、施設からの退去が起こりつつあるという証しが出ています。1981年、1988年、1993年のABS障害調査によると、 「重大なhandicap」を持った人、もしくは、何らかの障害を持っている人で、家庭生活をしている人のパーセンテージは上昇しています。 この傾向は、「施設」 にいる人と、「家庭」にいる人との比率を計算するとより明らかになります。1981年には、65歳未満で重大なhandicap」を持った人で、家庭生活をしている人100名に対し、施設に住んでいる人は平均して10.9名でした。1993年までには、この比率は半減し、100名に対し、5.1名の割合となりました。
1993年、65歳未満で重大なhandicapを持つ人の大部分は親族と一緒に住んでいました。 1981年来の変化の多くは、親族と住んでいる割合の増加で、 かつて施設で生活をしていた人達は、 他の手配をするよりも、 親族と一緒に住む傾向があります。 この二つの調査結果は、介助人の支援、生活安定、介助の手配の重要性を明確に示しているものです。

 5.7 収入と支出

 収入と支出の比較がABS 世帯支出調査からのデータを用いてある程度可能となりました。 調査では、障害者のいる世帯を識別しています。世帯はまた、reference person (照合の基準となる人)の年齢毎に類別されていますが、reference personとは、その特性が世帯支出の変動に最も関わり合を持ちそうな世帯構成員のことです。
reference personが65歳未満で、 障害もしくはhandicapを持つ人が居る世帯では:

  • 1993-1994年の週平均収入は豪$656で、それに比べ、そうした人の居ない世帯では豪$82でした。
  • 政府管掌の現金給付から受ける収入は、handicapを持つ人が居る世帯(豪$151)が、障害者の居る世帯(豪$119)、もしくは、障害者の居ない世帯(豪$58)より相対的に高額であり、この事は、収入補助サービスが何らかの効果的な目標を示唆しています。
  • 燃料と電気料金支出は他の世帯と同じでした。
  • その他の支出は、医療・保健費用とタバコ以外は他の世帯より低額でした。

 これらの指標は、障害者に掛かる非任意可処分費用に関する最近の研究と一致しています。これは、1、000名の障害者支援年金の受給者との面接によるもので、 そのうち100名が2週間にわたり支出日誌を付けたのです。こうした追加支出の約80%は、交通、処方薬品、身だしなみ品、保健施療者に関わるものと推計されています。

 5.8 時間の利用

 1992年の全国規模の時間利用調査で、障害者は、人口中その他の人達に比べ相対的に幾分異なった行動パターンを報告しています。15-64歳で重大なhandicapを抱えた人は、同じ年齢層で障害のない人に比べて、より多くの時間を身の回りを整える事(睡眠を含む)や活動の少ないレジャーに相対的に費やし、より少ない時間を就労や教育活動に費やしています。重大なhandicapを抱えた男性は、また、他の男性に比べて、相対的により少ない時間を社会活動に、より多くの時間を家事に費やしていました。
重大なhandicapの存在は、 ある局面(教育・社会活動)においては、男女差がより大きく関わっており、 他の局面(家事)では、より少なく関わっているようです。 例えば、 障害のない女性が一日の7.7%を社会活動に費やしたのに比べ、男性は6.6%でした。重大なhandicapがある場合、女性は、依然として一日の7.3%を社会活動に費やしたのに比べ比べ、男性は僅か4.1%でした。対照的に、重大なhandicapを抱えている男性も女性も、障害のない人達よりも一日のうちでより多くの部分を家事に割いており、男女差は障害がない人達の間ではより大きかったのです。

 5.9 雇用

 総体的にみて、障害もつ就労年齢層の人達の失業率は1988年来かなり悪化しました。ABS障害者調査から算出された全人口の失業率は1988年の8.2%から1993年の12.7%に上昇しましたが、同期間、handicapを持つ人達の失業率は12.0%から19.2%に上昇しました。この変動は、「軽度の」handicap或いは「就労上の制約のみ」を抱えている人々の参加率が上がりつつあることと一部関連しているのかも知れません。handicapを持つ人々の労働市場への参加率は1981年の40.2%から1993年の47.6%に上昇しました。この変動は、これらの人々が求職する傾向が拡大し、また、困難があることを申告して「handicap」の範疇に含まれる傾向が増えていることを示しているのかも知れません。
重大なhandicapのある人達にとっては、 状況は更に悪いのです。同じ期間のこれらの人達の労働市場への参加率は上昇しませんでした。 3回の調査にわたり、30%をやや超えた所で留まっています。 一方、 ( 1988年の8.2%から1993年の12.7%に上昇した全失業率に対して)その失業率は1988年の11.3%から1993年の18.7%に上昇しています。
重大なhandicap、もしくは何らかのhandicapのある人達の間での男性・女性の比率はより近くなりましたが、これは、女性の率に改善があったというより、むしろ、男性の比率が上がったか、もしくは女性の率を超えたからに過ぎません。

 5.10 教育

 今では、障害をもつ学生生徒を教育の主流に含むことは、殆どの州や準州で受け入れられている方針です。学校教育における展望はABS障害者調査で自己申告された就学データから分かります。総体的にみると、handicapを持つ5-20歳の人達の1993年の就学率は1981年より高くなっています。 状況の厳しさの軽重を問わずhandicapを持つ学生生徒すべてを見ると、 1993年では1981年に比べて普通校の特殊学級に入る傾向が強くなっています。擁護学校へ、あるいは普通学校内の普通教室への総体的な就学の証拠は、どちらともいえないもので、1988年には増加し、1993年には減少しています。 重大なhandicapを持った学生生徒は1993年では1981年に比べて普通学校に就学する傾向が強く、 その増加は普通(主流の)学級よりも特殊学級に多く見られます。
就学(そして不就学)やhandicapがあることを申し出る人の比率が増加しているのは、全人口の中でhandicapがあることを報告する割合が総体的に増加していることを反映しています。 1993年、不就学者の大部分(91.2%)は、 実のところ15-20歳の年齢層で、 そのうちほぼ3分の1は20歳でした。
より幅広いデータ源を用いたより長期的な分析によると、 擁護学校離れの傾向を確認出来ます。 すなわち、 全オーストラリアで擁護学校就学者数は1976年の25,200人から1993年には18,000人以下に減少したことが記録されています。擁護学校への就学傾向は男女差がないように見えますが、 女性より男性の方が普通学校内の特殊学級(支援学級)へ就学する傾向があります。1993年では、 普通学級に就学させるのは、 単一の障害を持つ人達によりよく見られる傾向で、単一の障害を持つ学生生徒の90.5%、二つ以上の障害を持つ学生生徒の70.85%が普通学級で学びました。

 5.11 身だしなみ、可動性、意志疎通

 身だしなみ、可動性、言語による意志疎通の分野での参加の制約は、 補助の必要性という見地からすると、3回のABS障害者調査があった期間を通じ、 かなり安定していることが一般的に確認されています。推定13、500人の重大で深刻なhandicapを持つ人達(すなわち、 常時もしくは時折、 身だしなみ、 可動性、 言語による意志疎通に補助が必要)が、 1993年には、サービスが提供されていないか、 手配出来なかったという理由でそのような補助を得ることが出来ませんでした。 これより多くの人は他の理由で必要な補助を受けませんでした。総ての理由をまとめると、必要と称したサービスを受けなかった人は、総計約7万人にのぼりました。

6.地域社会の展望

本章はオーストラリアの状況についての地域社会の考え方をまとめています。提供者と利用者の見方を別々に論じています。

 6.1 サービスの提供

 オーストラリアで障害者にサービスを提供している地域社会組織には、 あらゆる形式や規模があります。大半は非営利組織で、会社あるいは協会として法人化されています。中には独自の州議会法さえ持っている組織さえあります。大抵の場合、これらの組織は、健常者が運営・管理し、職員として勤めています。 オーストラリアでの、 「障害者による」と「障害者のための」との間の区別には根深いものが存在し続けています。障害者の中には、支配、管理もしくはサービス提供に関わる人もいくらかいますが、 相対的に少数です。 障害者自身のグループ内で、 障害者およびその仲間達と強力な相互連絡網(ネットワーク)持つ人となると、その数は更に少ないのです。
障害に特定関連、 あるいは、 サービスに特定関連するものにならび種々の産業団体が組織されています。サービスの提供者を代表する2つの重要な産業団体があり、ACRODとACEとして知られています。
ACRODは障害機関の主要な全国連合です。ACRODは、その会員のためにロビー(院外団)活動をするグループとして行動し、情報を広め、会員間で情報を共有するための討議の場を提供します。ACRODは、現在、一連の税金を廃止し10%のGoods and Services(GST:物品・サービス税)を取り入れようとする新税制の影響について、注目している所です。
ACEは、 Association of Competitive Employment Agencies(競合的雇用機関協会)のことで、創立後10年未満の比較的新しい団体です。 ACEは数百の、殆ど創立間もない小規模な団体を代表しています。 これらの団体は、 Disability Services Act(障害者サービス法)の下、競合的雇用訓練と職業紹介サービスを提供している団体です。 ACEは、会員間の情報交換のため討議の場を提供し、会員団体と連邦政府の間における資金の手配やサービスの責任義務の改善を図るためにロビー(院外団)グループとして活動するという重要な役割を果たしています。

 6.2 消費者の見解

 オーストラリアには、障害者の団体として認められたのが10団体あります計画中のIndigenous Disability Network(原住障害者のネットワーク)が結成されれば、2000年には11団体となります。10団体が対象としているのは、後天的脳障害、視覚障害、介助者、聴覚障害、人種的背景、HIV/AIDS(ヒト免疫不全ウイルス/後天性免疫不全症候群)、知的障害、肢体不自由、精神障害および女性問題です。これらの団体は共同でNational Caucus of Disability Consumer Organisations(全国障害消費者団体幹部会。以下「幹部会」)を結成しています。これらの団体は、 創立から10年未満の若い組織です。その中で、Blind Citizens Australia(豪州視覚障害者団体)は、二番目に古く、大きな組織の一つです。
「幹部会」は、構成する会員団体による、拘束を伴わない緩やかな連合体で、法人化されておらず、加盟団体別々に各自の主体性と自治性を保持しています。「幹部会」の主たる目的は、全国的に最高位にある団体(「幹部会」の会員)を統合して、情報交換をしたり、連邦政府の要請により地域社会にて協議会の準備をしたり、重要問題に関してすべての障害分野での消費者の見解を表明したりすることにあります。「幹部会」は、豪州DPIの破産とそれに伴う解散という不幸事の余波として結成されたのです。
オーストラリアは現在DPIに参加しておりません。豪州DPIは、1982年、障害を持つ個人の全国的な協会として結成されました。団体会員に関する規定はあったのですが、長年にわたり、会員になっていたのは視/聴覚障害者団体のみでした。その成立後10年経過するまでに、DPIの中では、 障害者の草の根団体のモデルは役に立たず、オーストラリアの障害者が欲するものでない、との認識に達しました。豪州DPIは、草の根からの支持がなく、ただ単に政府からの資金で支えられていただけだったのです。障害者は、彼らの障害を特定的に対象とする全国組織か又は、全障害分野にわたる州単位の組織に参加する方がより好ましいと感じたのでした。障害者による全国レベルでの豪州DPIへの参加は低調でした。1993年、豪州DPIは各種団体の中の一団体となり、それが後になって「幹部会」が踏襲した形です。
1994年、 豪州DPIはDPI総会を主催しました。それは、多くの国々から障害者がオーストラリアにやって来るという心躍る行事でした。しかし、財政的には惨事だったのです。 豪州DPIは、 1995年、 3,000万円の負債を抱え破産し、1996年に解散してしまいました。
多くの国において、すべての障害分野を対象とする団体と特定の障害を対象とする団体との間に絶え間のない緊張があります。それは、サービスの提供と自助の見地双方から出て来るもので、オーストラリアも例外ではありません。私の考える所、両種の組織が存在する余地はあるのですが、この関係を正しいものにし、それぞれの形の推進者の出自を知るのは重要なことであると思います。
視覚障害に関しては私が権威と信念をもってお話し出来る分野でもありますが、 我々にとって 視覚障害専門の代表機関と視覚障害者のための自助団体が必要であるのは、全く疑いなく確かなことです。 視覚障害は発生率の低い障害で、 容易に識別可能な特異な必要性を生じます。 我々は、 視覚障害の技能を伝えることが出来る専門家のサービスが欲しいのです。 他の視覚障害者からの仲間同士の支援と行動の見本を得たいのです。 我々には、 他の障害を持った人達とは異なった特異な必要性を抱えています。 視覚障害を持つ仲間から、 兄弟姉妹として力を得たいのです。
オーストラリアでは「幹部会」が、個々の障害者団体の立場で発言することは決してありません。 事実、「幹部会」は、その会員である個々の会員団体がそれぞれの立場で発言する権威と自治制を尊重しており、 公に発言することについては極めて慎重です。
Blind Citizens Australiaは、盲・視覚障害を持つオーストラリア人が結束した声です。我々の使命は、公正と平等を成就することで、 そのために我々のもつエンパワメントで、前向きな地域社会の態度を推進したり、我々の必要を充たしてくれる良質かつ入手し易いサービスを目指したり努力をしています。我々の活動の核心は、個別的、系統的な権利擁護の相談に乗ること、 情報を広めること、 仲間同士助け合うこと、政府、企業、地域社会団体へ助言したり相談にのったりすることです。
Blind Citizens Australiaは、 他の障害者団体や視覚障害関連機関と協力してはしますが、オーストラリアでの盲・視覚障害を持つ人達を代表して発言する全国的に最高位の団体としての優位性を保っています。我々の協会には8名の常勤職員がおり、更に5名のプロジェクト担当職員がおり、そのうちの1人はベトナムに駐在しています。当協会の活動の要はNational Advocacy Service(全国権利擁護サービス)で、その為に我々は、 Disability Services Act(障害者サービス法)のもと連邦政府から資金として年間1,200万円を受け取っています。
National Advocacy Serviceは、オーストラリア全土の盲・視覚障害を持つ人達に相談指導を提供し、彼らの利益を代表しています。 障害者差別, 社会保障、 その他の法律のもとで彼らの権利を主張することを可能とするのです。その目的は盲もしくは他の読字障害を持つ人の為の機会均等を更に充実させることにあり、そうしたグループの人達が利用するに当たり障壁を除いたり、個々の権利擁護支援を通じてそれを達成しようとしているのです。
National Advocacy Serviceの一般的な戦略は、連邦障害戦略や障害者差別禁止法を含む手段を利用し推進することによって、意識の向上、変化の監視、 特定の問題に関する政策の進展、促進させることです。
Blind Citizens Australiaは現在幾つかの興味深い事業に取り組んでいます。

  • 当協会はDDA基準プロジェクトを立ち上げ主催しています。 これは、 障害の全分野にわたるプロジェクトで、 障害者の相談に応じ、 DDA基準開発の作業グループに反映させるべくその人達の主張の調整を図るものです。
  • 当協会は遠距離通信および障害消費者代表プロジェクトを立ち上げ主催しています。 それは、 障害の全分野にわたるプロジェクトで、 遠距離通信利用者で障害を持つ人達に対し、 情報を提供し、 相談に応じ、 その利益を業界の協議会や遠距離通信企業とサービス提供者との両者協議の場で代表して意見陳述するものです。
  • 当協会は障害者、 特に、盲ないし視覚障害を持つ人達を考慮して、 電子取引の影響の研究を行い、 電子商取引の利用を可能にすることを目指しています。
  • 当協会での「デジタル・テレビを通じて高度化されたオーディオ(音声再生機構)がもたらす機会の研究プロジェクト」を終結しようとしています。 同研究では、 テレビを見るとき、 盲人ないし視覚障害を持つ人達が失うものを見直し、 追加的なオーディオでプログラムの範囲を拡げ、 より充実させる方法を示しました。 これはデジタルの環境では技術的には容易に出来ることです。
  • 当協会では、 シグツナ・レコーダーを試験中です。 これによってデジタル方式の録音図書を製作する新しい方法についてより多くを学び、 知識を備え、より権威を持って盲人もしくは他の視覚障害を持つ人達のためにデジタル方式の録音図書の導入を推進出来るようにしているのです。
  • 当協会は、 2000年11月にメルボルンで開催予定の世界盲人連合の第5 回総会ならびに第2 回世界視覚障害女性フォーラムの主催者となります。 日本語の翻訳サービスのスポンサーを見つけたいものと思っております。 そうすれば、日本から多くの人達がメルボルンに来ることを望むでしょうし、 総会の議事の様子が日本に伝わり放送され、また、 インターネットを通じて「リアル・オーディオ」を受信出来るようにしたいのです。
  • 当協会は、フィジーのUnited Blind Persons(視覚障害者連合)を支援する3 年間にわたる組織開発プロジェクトを終結しようとしています。
  • 当協会は、ベトナムでの3 年間にわたる点字識字能力指導教師の訓練計画を終結しようとしています。 我々は125人の教師の訓練を支援し、その教師たちは1、000人の視覚障害者に点字を教えました。 我々はこの重要な事業の継続を来年も確実にするためにスポンサーを捜しているところです。

 Blind Citizens Australiaは、世界盲人連合の構成員として活躍しています。我々は、東アジア太平洋地域の近隣諸国に手を差し伸べることの大切さを信じています。例えば、 我々は、東チモールで全国的な視覚障害者の自助組織を始めるのを支持する機会を捜し求めることにしています。 当協会は、 視覚障害者の立場で発言する国際的な組織としてのWorld Blind Unionに強く共鳴し、共に「視覚障害を持つということは何を意味するのか」の答えの内容を変えて行こうとしているのです。

 Blind Citizens Australiaの事業についてのより詳細な事柄は、Blind Citizens Australiaのホーム・ページ www.bca.org.auで分かります。 ホーム・ページには、年次報告書や他の出版物、「リアル・オーディオ」を通じての当協会のラジオ番組、他の団体や関連製品・サービスへのリンクが含まれています。