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ディスカッション

「障害者の情報保障のために、今何を」

コーディネータ

藤井 克徳(日本障害フォーラム(JDF)幹事会議長/JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部事務総長)

パネラー

岩井 和彦(日本盲人社会福祉施設協議会情報サービス部会運営委員/災害時情報保障委員)

高岡 正(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長/放送・通信バリアフリー副委員長) 

河村 宏(支援技術開発機構副理事長/著作権委員長)

寺島 彰(日本障害者リハビリテーション協会参与/放送・通信バリアフリー委員長)

コメンテータ

矢澤 健司(日本障害者協議会/災害時情報保障委員長)

コーディネータからの発題

●藤井 前半は、5組7人からの報告をいただきましたが、これから障害者の情報保障のために、今何をすべきかということをテーマに、話し合いを進めます。

さて、3月11日、14時46分頃、未曾有の、あるいは空前絶後の壊滅的な震災が起こりました。この日、障害分野からすると、もう1点、非常に大事なことがありました。それは、この日の午前中、菅総理を含めてすべての国務大臣が構成する「障がい者制度改革推進本部」の第3回目が開催されたのですが、この本部で、障害者基本法の改正案が了承されたのです。実はこの基本法改正案は、これから当面の日本の障害分野の方向を規定し、来年10年ぶりに切り替えられる障害者基本計画のベースになり、また、近々進められるであろう障害者権利条約の批准要件を満たすという大きな意味があります。

この推進本部の下に、民間人26人によって構成され、そのうち14人が障害当事者である、「障がい者制度改革推進会議」が置かれています。この後の話に関係しますので、この推進会議に関するイメージを皆さんと共有しようと思います。少し前の状況ですが、推進会議の状況を4分ほどでDVDにまとめましたのでご覧いただきます。

 

【DVD上映】推進会議の設立経緯、構成、活動などについて。推進会議については文末資料参照。

障害者基本法改正案について

この推進会議の初仕事が、障害者基本法の改正でした。震災のため少し進行が遅れましたが、去る4月22日に閣議決定して、6月16日に衆議院の内閣委員会を通過しています。現在、参議院にかけられているところで、多分、早ければ来週、遅くとも再来週には参議院でも審議が始まり、ほぼ原案どおり通っていくであろうと言われています。では、障害分野の憲法とも言えるこの基本法、今回は抜本改正とも言われていますが、どこがどう変わったのか、何点か、簡単に紹介します。

 

(定義)

第二条

一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。

 

この条項は、今回の基本法の改正で、いわゆる「制度の谷間」や、障害種別ごとの格差をできるだけ埋めようと努めた部分です。また、障害者権利条約では、「医学モデル」だけでなく、社会の環境要因との関係により障害が生ずるという「社会モデル」が採用されています。今回の基本法では、完全にはこの社会モデルになりませんでしたが、一歩近づいたと言えます。なおここで言う「社会的障壁」には自然災害も含まれます。

 

2つ目のポイントは、障害に関する基本理念の部分です。

 

(地域社会における共生等)

第三条 

二 全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと。

三 全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。

 

論点となったのは、「可能な限り」という言葉です。「可能な限り」という言葉がここにあるのとないのとでは全く意味が変わってくるのですが、担当行政の意向があって、これは総務省も含めてでしょうが、どうしてもこの表現は残してほしいということになりました。「可能な限り」という表現は、ここを含め5か所あります。とても残念なことでした。

 

(情報の利用におけるバリアフリー化等)

第二十二条 国及び地方公共団体は、障害者が円滑に情報を取得し及び利用し、その意思を表示し、並びに他人との意思疎通を図ることができるようにするため、障害者が利用しやすい電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器の普及、電気通信及び放送の役務の利用に関する障害者の利便の増進、障害者に対して情報を提供する施設の整備、障害者の意思疎通を仲介するも者の養成及び派遣等が図られるよう必要な施策を講じなければならない。

2 国及び地方公共団体は、災害その他非常の事態の場合に障害者に対しその安全を確保するため必要な情報が迅速かつ的確に伝えられるよう必要な施策を講ずるものとするほか、行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の推進に当たっては、障害者の利用の便宜が図られるよう特に配慮しなければならない。

 

この改正案の原案が各政党の合意によって作成されたのは、3月11日より前だったこともあり、「災害」という言葉が入ったのは、当初はこの部分だけでした。その後の修正案により、「防災及び防犯」という条項が追加されています。

 

(障害者政策委員会の設置)

第三十二条

2 

三 障害者基本計画の実施状況を監視し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告すること。

 

この「障害者政策委員会」のポイントは、初めてわが国で、勧告できる権限を持った会議体、審議体が誕生したということです。これは大変大きな出来事だと思います。

 

(障害者政策委員会の設置)

第三十二条

3 内閣総理大臣又は関係各大臣は、前項第三号の規定による勧告に基づき講じた施策について政策委員会に報告しなければならない。

 

ここでのポイントは、政策委員会が「勧告」、つまり、こうすべしと言えるということです。そして、それを受けた総理大臣は、報告する義務、つまり応答義務があるということです。

これからの障害者施策の形成において、今までになかった視点ですので強調しておきます。障害者政策委員会だけをもってしても、この法改正の意味があったと言えるほどのものです。またこの部分は、原案と比べてもほぼ無傷でできあがったことも付け加えておきます。

ここで大切なのは、こうして改正される基本法が、はたして震災という極限状況に通用するか否かということだと思うんです。この基本法が、3月11日以降に通用するのかどうかが、その出来ばえを見る1つのポイントだろうと思います。

今求められる3つの検証

今日、5組の方の話をお聞ききして、日本障害フォーラムで議論していることと重ねると、次の3点についての検証を、国、自治体に迫る必要があると思います。

1点目は、何人の障害者が犠牲になり、行方不明になっているのかということです。全障害者といってもベースがわかりませんから、とりあえず障害者手帳所持者の中で何人が亡くなり、行方不明者が何名かということでも、検証すべきです。今、震災の犠牲者が2万3千数百名と言われていますが、もし障害者白書で言うように人口の6%が障害者とすると、約1,500人という数字になります。内閣府の非公式な見解では、障害をもたない人間よりも、犠牲者の割合が倍ではないかとも言われています。これをどう検証するか。

2つ目は、これまでさまざまな災害対策が言われましたが、一体今回の震災に通用したのかどうかということです。特に障害分野についてどれくらい通用したのでしょうか。通用した部分もたくさんあるにしても、本質面、基本部分では、どうも通用しなかったのではないかという意見が多くあります。これを検証すべきです。

3点目は、障害がゆえに被った不利益はどのようなものであったかということです。障害ゆえに、さまざまな場面で命を落とし、苦労したことがあるはずです。言い換えると、天災の部分と人災の部分を区分けする検証が必要です。特に、犠牲者や行方不明者のことはもちろん、震災後の避難所暮らしや、電源が止まる中での人工呼吸器の問題、水がない中での人工透析の問題など、障害者はさまざまな新しい困難を経験しました。この点をきちんと検証すべきだと、強く要望しようと思っています。

今日のディスカッションのポイント

平時から、障害があってもなくても、情報はとても大事です。テレビもインターネットもラジオも、必要不可欠なものです。

いざ災害が起きると、たとえ障害がなくても、得られる情報は偏ったり、薄くなったり、なくなったりします。

その状況に障害が重なったときは、極端に厳しい状況に陥ります。つまり情報と災害と障害を三段重ねにしたとき、障害をもった人間はどうなるだろうか。ここに今日のディスカッションのポイントがあると思います。

大きくテーマは2つあります。1つは、情報と災害と障害という課題を合わせ見たとき、現在の政策の問題点は一体何なのか、現状の取り組みはどうなのか、という点です。安間課長さんもNHKの森本部長さんも頑張っている印象を受けましたし、その気持ちももちろんわかりますし、やるべきことをやっているのでしょう。しかし本当にそれが通用するのか、今までしていたのか、少し厳しく考えながら現状の政策の問題点を考えていきます。

そしてもう1つは、そのような議論を経て、今後の復興に向けて「こうあるべし」という提言をいただこうと思います。今急がれている「復旧から復興へ」、再生、新生といわれる新しい日本づくり、東北づくりに向かって、当面の復興策に対して何を注文するのか、パネラーから端的にお話しいただきます。このことについては、指定発言者からも意見を伺います。またこれと前後してフロアの方々からも質問を含めて意見を伺い、ディスカッションを終えます。

では早速、1巡目は並んでいる順番で、岩井さん、高岡さん、河村さん、寺島さんの順にご発言いただきます。

パネラーからの発言

●岩井 視覚障害者は残念ながら情報取得に極めて厳しい状況にあったことが、先ほど来のレポートからも明らかになりました。私からは、通信と放送のアクセシビリティについて、述べさせていただきます。

災害時の情報入手方法

レポートの中で、ラジオが頼りだったけれど地元の生活情報がわかりにくかったというお話がありました。

あの大混乱の中で、一体皆さんはどんなふうにして情報を得ていたのか。WEB情報の活用、あるいはツイッター、フェイスブックを活用するなど、健常者はいろんな方法で生活情報を入手されていたと思います。

震災直後、インターネット、携帯電話も全く使えない中で、被災地周辺ではWEB上の掲示板やツイッターが非常に役立ったという話も聞いています。またNHKの今後の取り組みの資料にも書かれていますが、今後、放送だけではなくデータ放送、インターネット、携帯電話などあらゆる伝達手段で情報発信を強化していく方針であり、いつでもどこでもユニバーサルなサービスを目指すという話がありました。

視覚障害者にとっては、ツイッターは一部利用して非常に役立ったという人もいます。食料配布の情報や極めて重要なライフラインの情報がまったく入らない中、日常の情報収集手段も使えない中、自分はどうすればいいか、一体どこへ行けば食料が手に入るかということをつぶやいたときに、極めて詳細な情報が返ってきて本当に助かったという友人の話も聞きました。

インターネットについて

しかし、インターネットについて言えば、パソコンやインターネットが使える視覚障害者であっても、せっかく配信されている情報が、画像データであったりすると、私たちは全く読めません。例えば東電の計画停電の情報はグラフになっていて、私たちは全くアクセスすることができません。

そういう状況があることをぜひ知っていただきたいと思います。WEB情報が誰でもアクセスできるものであってほしいです。W3Cによる基準はできていますが、それがどこまで徹底されているのか、この緊急時に、改めて各企業や社会の理解をアピールしたいと思います。

また、視覚障害者のインターネット利用率は、極めて低いです。平時からのIT技術の支援・指導体制が求められています。

テレビ放送について

誰もが安心して手軽に情報を得る手段としては、ラジオやテレビがあると思います。しかし、災害の発生やその状況がテレビの映像やテロップで流れても、私たちにはわかりません。ピポピポという警告音では何が起こっているのかわかりません。

NHKは、画面の工夫で、映像やテロップの増加で、わかりやすい情報を配信するとのお話しがありました。ますます私たち視覚障害者は、テレビの情報からは疎外されるな、というのがお話しを聞いたときの印象です。

画面の情報の音声化を何とか進めてほしいと思います。「視覚障害者はラジオがあるではないか」とおっしゃるかもしれません。しかし厚生労働省の生活実態調査では、視覚障害者の情報入手手段の第1位はテレビです。ラジオはもちろん重要な情報源ではありますが、誰もが使っているテレビへのアクセシビリティの保障は極めて重要なことだと私たちは考えています。

テレビの完全地デジ化については、視覚障害者の多くの方が不安に思っています。これまでは、FM電波を通じてテレビの音声を何とかラジオで受信できていたのですが、地デジ化後にもそれが可能になる対応を、ぜひしてほしいという声があります。最近、厚生労働省の支援でいくつかの企業がコンソーシアムを組み、地デジが受信できるラジオの開発がされるやの話を聞いて、少しほっとしています。テレビはせっかくデジタルになったのですから、緊急災害情報は何とか音声化してほしいのです。

目が見えない、見えにくいとう人は百数十万人いると言われていますが、いわゆる視覚障害者というくくりだけではなくて、高齢化により文字が見えにくい人たちにも、情報の音声化は必須の対応だと思います。

データ放送の充実が言われています。ライフラインや食料の配給など地域の生活情報を流しているデータ放送。しかし地デジになったとしても、データ放送の音声化は、全くされません。NHKだけではなく民放も含めて、すべてのデータ放送を音声化し、点字化することで、緊急災害時の極めて重要な、そして身近な生活情報が、私たち視覚障害者にも得られるように、ぜひともしていただきたい。

目が見えないだけではなく耳が聞こえないという盲ろう者が、地デジにアクセスすることはできないんでしょうか。先ほど来、日本語字幕を増加するという方向が示されていますが、日本語字幕を点字表示する仕組みはできないものでしょうか。ラジオからの情報にもアクセスできない盲ろう者には、必須のことだと思います。

権利条約が実施される社会を

私たち視覚障害者にとって、テレビへのアクセスは極めて重要であり、インターネット等の通信へのアクセスとあわせて、放送でのアクセスが保障されるような状況をぜひ作り出したいと思います。これらは障害者権利条約でもしっかり謳われています。文化的な情報へのアクセス、テレビへのアクセス、芝居・演劇へのアクセス、また歴史的建造物等へのアクセス、第30条や21条で謳われているそれらのことがきちんと保障される状況をぜひ作り出したい。そして平時からそれがきちんとできる環境を作り出せるよう、私たちは頑張っていく必要があると思います。

 

●藤井 盲ろう者も含めて、テレビへのアクセスができないかという、大変大事なご指摘でした。最後に触れられた権利条約第21条というのは、表現及び意見の自由並びに情報の利用という、非常に大事な条項です。これが日本でも政策化ができないかということだったと思います。では次に高岡さんお願いします。

パネラーからの発言

●高岡 5月に情報とコミュニケーションの法整備を求め、全国集会と国会請願デモを行いました。障害者権利条約に基づく聴覚障害者の権利保障を求める「WeLoveコミュニケーション」パンフレットの普及を昨年から続けており、その中間報告と大震災支援を兼ねて行いました。

署名とパンフレットの普及もまだ目標には達していませんが、8月までにはできるよう運動を強める確認をしました。各障害者団体やJDFで話し合われているように、障害者権利条約に基づく障害者基本法をはじめとする関係法の整備が、大きなヤマ場を迎えています。この障害者基本法の改正、それに続く各種法律の取り組みと、大震災支援、東北復興の理念が同じものであることも確認しました。私たち抜きに計画を決めないことです。

障害者にやさしい社会は災害にも強く、社会全体にバリアフリーであることを運動方針として、6団体がしっかりまとまること、社会に運動を広げることを確認しています。

難聴者について

私たち難聴者は、社会に理解されにくい障害です。難聴者の数は、1,940万人であると、補聴器関係業界では推定しています。そのうち900万人が難聴を自覚していない人たちです。また、最近の国立長寿医療研究センターの調査では、65歳以上で難聴者は1,500万人という推定も報告されています。

これだけ多くの難聴者がいるにもかかわらず、社会も難聴者本人もその障害の重さを感じていないこと自体が大きな問題です。

実際に大震災の中で、難聴者はどのぐらい被害を受けたのか、何人が亡くなったのかいまだにわかりません。インターネットで発表されている警察の行方不明者・死者のリストには補聴器をつけていた方が何人もいらっしゃいます。つまり補聴器を使っていて難聴者で亡くなった人は少なくないと想定されます。

次に聞こえの障害と災害の問題について、考えてみます。

聴覚障害者と災害

聴覚障害者は聞こえない障害と言われますがこれは一面的な見方です。確かに聴覚障害者は聞こえない、聞こえにくいことから、音声や音情報が入らないのが特徴の1つです。聴覚障害者は音・音声をコミュニケーション手段や情報とするには、音声を強調したり、振動、光、文字、手話などにメディアを変換する必要があります。

災害時には、テレビ放送、インターネット、携帯電話などの通信が対象になります。宮城県の亘理郡では、防災無線放送を地域の小学校が防犯メールで発信したので、親の難聴者にも情報が伝わりました。

NHKは災害発生とともにユーチューブ、ユーストリーム、ニコニコ動画、インターネットでも放送しました。しかしこれには字幕がありませんでした。NHKが発信する情報にはすべての障害者がアクセスできる段取りがとられていなかったのです。

災害時に、聞こえる人は電話をしたり、メールや災害伝言板などの代替手段を利用できます。しかし、聴覚障害者が利用できるのは携帯電話のメールとファックスです。これらは電気がなくなったり停電になったりすると、利用も通信もできない大きなネックがあります。

2つ目の特徴は、聴覚障害者は人とつながりにくい、つながりが持てないという関係性の障害でもあります。日頃から近所や社会とのつながりがない、弱いことが、災害時に支援を受けにくくしています。災害発生直後は、当事者組織も支援者組織も対応できません。隣人の助けが必要です。あの津波であとかたもなくなってしまった宮城県亘理郡で、ろう者、難聴者の住民はみな助かっています。ここは地域のコミュニティの結束が非常に強いのです。聞こえる、聞こえないに関わらず皆が地域ぐるみで生活しています。

農業をしている難聴者夫妻も、地域の集まりや営農計画の集まりに要約筆記者と参加していて地域に溶け込んでいたので、津波警報も近所の人が何度も来て教えてくれて助かったということです。

同じことを岩手県でも聞きました。田舎だから近所の人が被害状況を教えてくれたり、隣町から運転して水を持ってきてくれたりということを聞きました。

しかし、逆に首都圏は危ないです。人との関係が薄いからです。不安やニーズの解決ができないからです。

インクルーシブな社会ほど、障害者も安全ということが教訓としてあります。障害者が排除されない、地域で暮らしている当たり前の社会が災害に強いと言えます。

ITの活用と当事者参加

今回の震災と、阪神・淡路大震災の違いは何でしょうか。いろいろありますが、一つにはITが非常に発達していることがあります。このITを使ったコミュニケーションが日常的に利用できるよう、支援を受けられる環境が必要だと思います。

しかし、ITの利活用については、各地の団体や行政でも検討されていますが、私たち聴覚障害者のニーズに基づいて進められているかというと、そうではありません。なぜなら私自身、難聴者団体の責任者ですが、そうしたところから意見を求められたり聞かれたことがないからです。

NHKがさまざまな技術を開発している報告も伺いました。でも私たちは話を聞いていません。NHKは誰と相談して開発しているのでしょうか。

総務省の報告にもいろいろなお話がありましたが、手話放送の「しゅ」の字も出てきませんでした。浅利理事が手話が私たちの言語だと話したばかりなのになぜ手話の話が一言も出ないのか。検討中だとの話すら出ませんでした。

私たち抜きに決めてはならないのです。何かを決めるときは必ず私たちを呼んで、一緒に考える機会がほしいと思います。

 

●藤井 現状、問題点、方向性に関するお話に加えて、今、おっしゃったことは、施策を作るプロセスについてです。施策を作るプロセスに当事者が入っているか否かによって、その出来ばえに決定的に違いが出るというお話でした。

パネラーからの発言

●河村 まず、今回の大震災ならびに原発の災害に際して、時々刻々、正確な情報を自分にわかる形でどうやって手に入れるかが、大変に難しいということがあります。これは障害のある人だけではなく、誰もが感じていることですが、さらにそのうえで、障害による困難が加わります。見えない、聞こえない人たち。あるいは、今日はまだ話されていませんが、日本に大勢いる外国人の方は、日本語ではよくわかりません。また書かれたものが掲示されたり配られても読むことが難しいディスレクシアなどさまざまな障害の人たち。それから、今日、べてるの家の皆さんがおっしゃっていましたが、幻覚や幻聴と現実との区別が難しい混乱しやすい方などがいます。そうしたさまざまな人たちが、その時々に的確な判断をするために、自分なりに一番理解しやすい情報の形を必要としているわけです。それが十分に保障されているかという大変重要な問題が出てきました。

結局、深刻な災害のときは、そのときに自分がどう判断してどう行動するかが生死を分けます。自分がわかる形で情報を手に入れることは、そのための非常に重要な要素になり、不可欠です。

情報をいかに得るか/伝えるか

そう考えると、放送などの情報のタイミングの問題が出てきます。「必要な時に」情報が得られるかということです。

先ほど来言われているように、テレビのローカルニュースなどによって、自分の地域の津波の到達時刻や高さなど、身の安全に一番直接に関係するものについて、必要な時に必要な情報が得られていたのかが、これからも検証される必要があります。停電になる前の情報では、それほど高い津波は来ないだろうと思っているうちに、突然大きな津波に襲われたところが多いと言われています。

このようなときに、視覚障害者の場合は耳から、あるいは点字で、聴覚障害者の場合は手話、あるいは字幕など、普通に流されているのとはちょっと違う形に何らかの加工や変換をしなければなりません。それを最初から考えて、必要な形(フォーマット)で情報が出されていたかという点が、今日の重要なポイントだと思います。

特に、大嶋さんからの発言にもあった「Jアラート」が、今の日本の防災に関する情報を、どのようにマスメディアが伝えるかを決めているわけですが、その中に、障害のある方たちのニーズが全く反映されていないのではないかということが指摘されています。実際に、今後被害の検証を行う中で、そのことをきちんと把握して、どう解決できるかが重要です。復興のプロセスとは、次の防災のスタートですが、そのときに今回の教訓を十分に生かさないと、次代の安全なまちづくりはできません。今回の課題を検証しながら、今までの欠点を改める作業を、障害のある方も参加して、復興のプロセスを進める。それが今、私たちがやらなければいけない一番大事なことだと思います。

著作権による壁

その際に、著作権が、意外と参加の保障の壁になっています。今日、資料として「災害時の著作権制限について」というメモを配布しました。著作権が、人が作った壁になっているということを、改めて問題提起したいと思います。

必要な字幕を付けたり、あるいは手話を付けたり、点字にしたり、DAISYという形にしたり、翻訳をしたりする際に、1つ1つ、著作権が壁になって、許可を受けないとできないという課題があります。

本来は、著作物を円滑に利用できるために著作権が設けられているはずです。人の命に関わる災害時に、円滑に、これまでの人類の知識を蓄えた著作物が使えないこと自体が、制度の矛盾です。そこにもメスを入れて、放送であれ出版物であれ著作権が邪魔することのないような制度の整備が必要です。

復興のプロセスへの参加

障害のある方や、少数派の言語で日本語がよくわからない人たち、そのため災害時に被害にあいやすい、あってしまった方々のニーズも含めて、これからの復興のプロセスに、参加を保障していく。みんなで安全なまちづくりをするための復興のプロセスにみんなが参加するための支援。そのための、著作権を含めた制度の整備が、今すぐ検討すべき課題の1つだと思います。

 

●藤井 今日、前段でも出ていましたが、同じく、人が作った法律で、個人を守るはずだった個人情報保護法・条例が、皮肉にも生命や健康を守るための壁になっていて、まるで怪物のように立ちはだかっているということは、あちこちから聞かれているとおりです。

著作権法に関わる問題も、本来の大目的とは別におかしな解釈がまかり通って情報保障を妨げています。

また、復興に向けての取り組みの中で新しい方法が試されるというお話もありました。Jアラートの話も出ていました。時間があればもう少し話をしてもらえばと思います。

パネラーからの発言

●寺島 私は、これまでの放送・通信バリアフリー委員会の活動が、果たして今回の震災に何らかの貢献をしたのかを考えてみたいと思います。

私は、放送・通信バリアフリー委員会の委員長を2005年度からやっていますが、総務省や放送事業者の皆さまに、視聴覚障害者、情報障害者が困っていることを理解していただきたいと思ってやってきました。

放送・通信バリアフリー委員会の活動

例えば、2005年には総務省の課長さんと情報交換する会議を設けたり、2006年度には視聴覚障害者向け放送に関する研究会に放送協議会から参加させていただいて、今後の指針に意見を反映させていただきました。

2007年度からは、全国文字放送・字幕放送普及推進協議会(全文字協)という、NHK、民間放送局25社、ARIB(アライブ)という放送の規格を決めている団体が加盟しており、また、テレビなどの放送関係の製品を製造する企業もオブザーバーとして参加している協議会と毎年1回か2回意見交換会を行っています。

この意見交換の場では、手話の意義についてほとんど毎回説明したり、地デジ放送に「クローズドサイン」という手話を選択できる形のものを追加できないかとか、視覚障害者の方や盲ろう者の方が利用できるように、デジタルデータを外部に点字として出力できないかとか、5.1サラウンド放送は解説放送に対応してくれるんでしょうねといった要求めいたことも含めて、こちらの要望や困っていることをきちんと理解してもらうために、情報交換をしてきたわけです。例えば、目の不自由な方は、外国人の発言が字幕翻訳のみで表示されても全然わからないこととか、天気図やフリップみたいなものもアナウンサーがきちんと解説していただかないとわからないことも申しあげました。さらに、この問題を解決するためには、お金をかけなくても、例えば、キャスターやアナウンサーの方が、「現在のチャイムは警告音で、地震が発生したことをお知らせしたものです」など、肉声で簡単に説明をすればいいのであるということなど、そのままマニュアルにできるような内容を書いた文書を配布したりもしました。

私は、放送事業者の皆さんも、ご家族や親戚などに障害のある方がおられるでしょうし、その方たちも情報が得られなくて困っているでしょうから、ぜひ家族の立場になってわかってほしいというアプローチしてきました。

依然として変わらない状況

しかし、結果的に、災害後の状況を見ると、やはり全然変わっていない。今までやってきたことは、あまり役に立たなかったのかなということで、ちょっと残念な感じがしています。

一方で、NHKでは即座に字幕を出していただいたとか、ある放送事業者は独自の判断で字幕をたくさん付けているとも聞きましたので、少し影響はあったのかなとも思っています。ですが、原発に関する放送など、聴覚障害者、視覚障害者は依然として理解できないんだと思うんです。そういうことが残念だなと考えています。

◆指定発言

●藤井 ここで大阪会場、東京会場から指定発言者に発言していただき、そのあとコメンテーターの矢澤さんから発言いただきましょう。

 

〈大阪会場〉

新阜 義弘 (千山荘盲老人ホーム指導員)

●新阜 千山荘盲老人ホームで指導員をしている、新阜義弘と申します。

今日は緊急時の情報保障の話かと思っていましたが、加藤さんの話の中で、個人情報保護法が壁になっていることや、「視覚障害者だと周囲に分からせた」との苦情を受けたという話もありました。

法律や制度は、本当の意味で個人や家族、地域の利益になるよう、その整備の仕方をもっと考えなくてはいけないと思います。

情報というのは、特に緊急時には「早く」伝えることが求められますが、今のお話では、確実に伝えることや有効性が問われる部分も多いと思います。

障害者は、1人暮らしの方も多いですね。家族がフォローしている場合も多いし、宮城県の亘理郡では、聴覚障害者の方が地域でしっかり支援されていたそうですから、個人、家族、地域レベルで、情報の質的なものも、災害時はもっと保障してもらえたらありがたいです。

災害が起こったときは、緊急時やから質が悪いのはわかるんですけど、時間が経てば経つほど、障害者にとっては情報の質が後退していくし、早さも確実さも有効性も後退していくような気がしました。

 

●藤井 新阜さん、個人情報保護法が壁になっているという意見については、「いやそうは言っても、プライバシーだって大事だ」という意見も多く聞かれます。新阜さんはどのようにお考えになりますか。

 

●新阜 法律ですから、運用など大事なところは押さえなくてはいけないと思います。緊急時は命が助かるほうがいいのか、そうじゃないほうがいいのか、障害に関することも伝えていいのかどうかを、ご本人が自己決定されるのが大事ですが、本人が拒否している場合でも、そういうことまでお節介をしなくていいのか。その辺が法律の運用の仕方、理解の仕方で、すごく変わると思います。

個人情報だけでなく、阪神・淡路大震災のときもそうだったんですけど、盲学校の寮を貸してくれと言ったら教育委員会がすごく抵抗したことがありました。最終的には許可してくれましたが、緊急時には大事なことを優先してくれると思っていたら違ったんで、えらく運用や理解で違うんだと思いました。

藤井さん、今度作られる障害者基本法に、初めは災害に関することが1項しかなかったと言われました。大きな法律だから仕方がないのかもしれないけれど、もう少し考えていただけたらと思いました。

 

●藤井 災害時要援護者登録の名簿がありますが、今回、障害分野では機能しなかったと言われています。新阜さんの提起は重要です。

障害者基本法は、国会に上がったあと「防災及び防犯」という項目が1つ増えたのですが、まだまだ弱いと思います。次に川越さんお願いします。

 

川越 利信 (JBS日本福祉放送)

●視覚障害者向けの専用ラジオ放送、JBS日本福祉放送の川越利信です。

1つは、コミュニティづくりについて申しあげます。私どもは3月21日に岩手県の宮古市に入って、その後、大船渡市、陸前高田市などを回りました。この地域は過去にも大きな被害を受けた所です。例えば1889年、明治29年には2万2,000人くらいの人が犠牲になっています。昭和8年には1,500人ぐらいの人が、チリ地震でも140数名が亡くなっています。さんざんな被害にあってきているのですが、その後のまちづくり、コミュニティ作りに、本当にその苦労や恐ろしさが反映されていたのでしょうか。

たいへん疑問に思いました。

私たちは、障害を持っているが故にこそ、災害に備える必要があります。その一つがコミュニティづくりでしょう。災害時における安否確認の手掛かりとしても有効です。通信機器が発達していますから、地域のコミュニティで、情報のやり取りがいつでも出来るような、そういう意味も含めたコミュニティづくりをしっかり進め、広域のネットワークとリンクさせることを本気で考える必要があります。今は、まちづくりの決定権は私たちにはもちろんなく、まちづくりの仕組みに参加することすら障害者にとっては難しい状況です。何とか私たち障害者の意見が反映されるような仕組みを作り上げられないものでしょうか。

二つ目は、JBSの支援活動についてです。情報にシフトして、ラジオを配っています。ついこの前、3回目に行って、225台のラジオを配布しました。このラジオは、例えば夜スイッチをオフにしていても、緊急告知を自動的に放送してくれる防災ラジオです。宮古、大船渡、陸前高田あたりで配布しました。大船渡の皆さんからは、さらに45台ほど欲しいと要望を受けています。今、その段取りをしているところです。

ちなみに放送におきましては、現地のコミュニティFMラジオ局の番組をJBSで生中継して全国に配信しています。以上です。

 

●藤井 ありがとうございました。では狩野さん、お願いします。

 

狩野 直禔 (京都府聴覚障害者協会副会長)

●狩野 こんにちは。京都府聴覚障害者協会の副会長をしています狩野直禔と申します。

全ろう連の浅利さんの報告を聞いて僕も同じだと思いました。ろう者の場合は情報がありません。目で見る情報でなければ得ることができません。

ですから、もし地震が起きた場合、ろう者は避難所で何もできない状況になります。死ぬか生きるかの問題です。ですがアイ・ドラゴンがあれば、情報を見ることができます。避難所にアイ・ドラゴンとテレビがあったら、電気さえあれば情報を得られるので、揃えてほしいと思います。それがなければ、情報がどこにあるんだろうということになります。安心して情報が見られるように、整備することを要望したいと思っています。

 

●藤井 その要望というのは日常生活用具として厚労省に要望しているということですか?

 

●狩野 はい、そうです。必ず日本全国にそれを広めてほしいと思います。

 

●藤井 さて次は、東京会場からお二方の指定発言です。

 

〈東京会場〉

新谷 友良 (全日本難聴者・中途失聴者団体連合会常務理事)

●新谷 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会の新谷友良です。ポイントを絞って、災害時のテレビ生字幕について話します。

先ほどNHKの方から説明がありましたが、私たちの実感と随分違います。NHKとしては大変努力をして、今回の3月11日以降の震災報道については2倍以上の字幕を付けたという話でした。多分それは努力されたんだと思いますが、私たちの実感とは随分違う。その実感について考えてみたんです。私たちが求めているのは、災害関係の生放送、テレビの生放送には全部字幕が付いてほしいということです。そこからスタートしております。付いてない番組があれば、「付いてないじゃないか」という実感になります。その情報がなければ、「私たちはどうすればいいのか」という不安につながります。災害で亡くなった障害者は一般の方の2倍との話がありました。私たちは、テレビ番組の生放送の字幕は生命に関わる問題だという意識を持っています。本当に今回の大震災で亡くなった2万数千人の中で、聞こえない方がいったいどのぐらいいたか、調べる方法はないですが、やはり非常に多くの方が情報を得られないことで亡くなったのではないか、そういう意識を持っています。

あくまでテレビに100%字幕を付けるのだという方向で施策を考えないと、私たちの実感、生命の安全からはどんどんずれていく気がします。NHKさんは努力されて、一歩一歩前進するというお話でしたが、災害の問題は、一歩一歩ではありません。情報提供に際して少々不正確さがあっても構わない、とにかく情報を出すんだ、100%字幕を付けて、その情報に間違いがあったとしても、それを流すんだという問題の立て方が必要ではないでしょうか。そういう意味で言えば、自動認識をもっともっと活用すべきです。少々誤りがあったとしても、私たちはその後訂正した情報を得ることで対応できるんです。そういうアプローチで、一歩一歩ではなく、災害字幕に関しては、100%という目的から今どれだけ遅れているんだという問題意識でやっていただけないかと思います。

それからもう1点、総務省から話がありましたが、平成19年度の指針が5年目の24年に見直しされます。ですが災害は待ってくれません。もしかして明日明後日起こるかもしれません。今回の災害の問題を、10年間の見直しの中に含めるのではなくて、災害の生字幕問題は、指針の見直しと切り離して、今、早急な検討をしてほしいと思います。(拍手)

 

●藤井 これまで話をしてきたのは、全部男性でした。ジェンダーバランスが悪すぎますね。最後の指定発言者は女性です。日本点字図書館に籍を置いている梅田ひろみさんです。

 

梅田 ひろみ(全国視覚障害者情報提供施設協会)

●梅田 全国視覚障害者情報提供施設協会の梅田です。私は点字図書館に勤めていますので、視覚障害者等への情報提供という視点からお話をします。

まず日本点字図書館は、全国に1万2千人ほど、視覚障害者の利用登録者がいます。岩手、宮城、福島3県の利用者が400人ほどいますが、震災後の3月15日ぐらいから、職員で安否確認のため全員の方に電話をかけました。最初はつながらない地域が多かったのですが、その後、JDFや日本盲人福祉委員会から現地に派遣されたスタッフの協力も得ながら、ほとんどの方の安否が確認できました。いまだに確認できない方は本当に1人、2人という状況です。確認したあとに、避難所や避難先、自宅にいながら、どういう生活をしていらっしゃるのか、そのあたりのフォローはまだまだ弱いかなと思っています。

大災害の中で、多くの人が情報障害者という状態になっていると思います。特に福島の状況は深刻です。中でも障害者がより大きな被害を受けていきます。平時において、いろんな情報障害をもっている人たちへの配慮がされていれば、災害時にも、情報保障に大きな力が発揮できるのだと思います。

私たちは、改正著作権法が施行された2010年から、視覚障害者だけでなく、「視覚障害者等」ということで、文字情報の苦手なより多くの方に対し、それまでの点字や録音だけでなく、「必要な方式」で情報が提供できるようになりました。点字図書館等でも、インターネットを使って、マルチメディアDAISYやテキストデータなどの形で情報保障・提供をしてきました。

今回、毎日新聞社が阪神・淡路大震災の経験から「被災者に希望を」ということで「希望新聞」を出しています。その中から視覚障害者に特に有効だと思われる記事を集めて点字図書館や盲学校に情報を提供してくださいました。それをテキストデータで合成音声で聞けるように、あるいは避難所でご自身が大きな活字でプリントアウトして読めるように、3つの媒体の形で、私たちが行っている「サピエ」というサービスで提供してきました。

例えば、3月13日の情報では、安否確認、避難所の場所、交通網は「何線が動いてます」といった情報、「どこの病院で患者受け入れしているか」などの情報があります。自動車で避難生活をしている方のエコノミー症候群対策についてなども書かれています。最近では、7月1日から病院の医療は避難証明書がないと受けられなくなるなど、生活に密着した情報があります。岩手県の何町でお風呂が入れるようになりましたなどの情報もあります。そういう情報は、著作権の範囲で、サピエの会員さん向けに出しているものもありますが、そうではなく誰でも見られるトップページにテキストデータで出しているものもあります。それは毎日新聞社が著作権を放棄して自由に使えるようにとご提供いただき実現しました。

それから、日本DAISYコンソーシアムと一緒に、原発関連の情報とか、断水・給水制限、停電時のトイレ使用についてなどの情報を、マルチメディアDAISYの形で提供しました。

ただ、インターネットでの提供なので、どこまで必要としている人たちに届いているかの問題はあります。情報を取ることができた人が、近くの障害者に物理的メディアにして提供することが必要です。情報を発信する側と、地域で人に結びつける側の関係性が大事だと思います。テレビやラジオでそういった地域の情報を提供してもらえるといいなと思いました。

最後にもう1つ。被災地だけでなく、全国の避難所などに避難している人がいます。その人たちをどう支援するかが課題です。その中には情報障害の人たちもいることを忘れてはいけないと思っています。被災した地域だけに放送や情報を流すのではなく、いろいろな所に、例えば大阪にいても福島のことを知りたいと思っている人がいることを知ってほしいと思います。

 

●藤井 ここでフロアから、本当にわずかな方しか指名できませんが、いかがですか。

 

●会場 3月11日に原発事故があって、その情報がすぐあとに流されました。緊急ニュースは民放の場合は字幕付きでした。ところがNHKはアナウンサーがしゃべっているだけで、何を言っているかわからなかった。何が起きたのか、わからなかった。後になって原発が爆発したことがわかったのでは遅い。命が大事なんです。まず、命を大事にする放送をお願いしたいです。それが1つ。

2点目は、NHKはめいっぱい頑張っているから、字幕も手話も出るようになったので、前に比べてすごく楽です。しかし、字幕と手話が一緒だとやりづらいので、どちらかを選べる方法ができるといいです。考えてもらいたいです。

 

●藤井 フロアでは森本さんや安間さんにもお付き合いいただいていますので、最後のほうでできる範囲でお話をお願いしたいと思います。

では、矢澤さんからコメントをお願いします。主催者側の思いもあると思います。

 

●矢澤 皆さんからたくさんのお話をいただきとても参考になりました。障害者放送協議会では、2007年に「障害者と災害」というマニュアルを作りました。昨年の3月12日にはシンポジウムを開いて、皆さんと今後のことを議論し、マニュアルの普及もお願いしたところです。われわれは、それで一安心していたのですが、ちょうど1年たった今年の3月11日、このような大きな災害が起きるとは誰もが考えなかったことです。日本中、世界中の誰もが考えませんでした。

3月末に放送協議会の委員長が3人集まって、今後について話し合いました。当時、藤井さんのおられるJDFの対策本部も立ち上がっていましたし、それぞれの団体で、それぞれの支援をしていただいていたのでしばらく様子を見ていましたが、やはりこれはまとめをしなければいけないし、今後、この震災を決して忘れず、次の備えにしなければということで、今回、このシンポジウムを開かせていただきました。皆さんから多くの意見を聞けてよかったと思います。

1つご紹介します。私の地元でオンブズの会というのがあり、目白大学看護学部の麓 正博さんという方が震災についての講演をしてくださいました。この方が、3月末にNPO法人の支援活動で、被災地に行ったそうです。そのNPO法人は、路上生活者の支援をしているのですが、向こうで話を聞いたら、逆に、路上生活者が炊き出しをして被災者を支援していたということです。つまり立場が逆転したわけです。どんな人でも障害者や被災者になり得るのだということです。

決して障害者だけの問題ではありません。障害者を含めたすべての人を、どんなときにも支援できる制度を作るのが、日本全体、世界全体を支えていくため大事なことだと思います。今日藤井さんに来ていただいたよかったと思います。ぜひ、このことを障がい者制度改革推進会議でも、このことを議論していただき、多くの人に理解していただいて、国会にも訴え、今日の成果を発揮してほしいと思います。皆さん、今日はありがとうございました。

◆まとめ

●藤井 さて、今でも福島は震災中です。岩手、宮城を見ても被災状況の濃淡が非常にはっきりしてきました。今、こういう中で、復旧、復興、再生、新生に向けて、障害分野が情報保障という観点でどう声を上げ、何を求めるか。このことについて、最後にもう一度、各パネラーから、端的なコメントをいただきます。順番を変えて寺島さんからお願いします。

 

●寺島 私は最初に情報入手に関する調査をすべきだと思います。阪神・淡路大震災の後、いろいろな研究や事業が行われ、震災対策のお金を非常に多く使いましたが、今回、それがほとんど役に立たなかったんだと思うんです。次の東海地震はほぼ確実に来ると言われていますので、これからは本当に役立つ、効果のあるシステムを作っていかなければいけないと思うんです。そのためには、調査をして、行政機関をきちんと動かすことが必要です。法律改正の作業や、審議会、研究会に関わるなど、障害当事者の意見を反映していく仕組みが必要です。基本法改正の話の中で藤井さんが言われたように、放送に関する方向性が正しいのかどうか、こう改善すべきではないかという意見を述べられる組織を作ることが必要です。以前、英国に調査に行ったとき、OFCOM(オフコム)という組織を見てきましたが、そういうものが必要だと思います。

 

●河村 日本は、原発にしても防災にしても、産業としては国際的に一流だったんだと思います。ところが、それが本当に人命を守れていたのかが、やはり今問われているんだと思います。経済的な被害というのは、実際に地震や津波が起こればしようがないと思うんですけれども、人命にちゃんと焦点を当てて、普段から命を守ることを防災活動の基本にしていれば、こんなに大勢の犠牲は出なくて済んだのではないかと思います。

そこで、今後の復興に向けては、亡くなった方たちの声にならない声に、どういうふうに耳を傾けるかが非常に重要なポイントだと思います。どういうふうにしてその方たちは亡くなっていったのか、犠牲になったのか。何が足りなかったのか。Jアラートの話が先ほどありましたし、原発報道に字幕がないという話もありました。障害者・高齢者はもちろん、もっと幅広く、小さいお子さん、お腹の大きい方も含め、災害時に弱いと思われている方たちを、一人ひとり普段からどう防災に組み込んでいたのか、その人たちの命を守る取り組みがコミュニティレベルでできていたのかという観点での総括が必要です。

それによって、今後のまちづくりのあり方を全国的に見直し、特に被災地域における復興のあり方を見直すことが必要です。そのときに、災害時要援護者と言われる人が参加して意見を述べなければいけません。そのためには、やはり情報やコミュニケーションの支援が必要です。今あるあらゆる技術や開発の力を結集して、日常的にできる支援を行い、その積み重ねとして、災害時にもできる情報保障の仕組みを作っていく。そういうつながりが必要だろうと思います。

その際に、著作権の壁というのが私は非常に大きなものになると思います。特に放送の内容をわかる形に自由に加工して提供する活動が、今、がんじがらめになっています。災害時の、人の命に関わる情報保障の活動については、著作権の包括的な権利制限が検討されなければ、みんなが蓄積してきた知識や経験を、本当の意味で、今後の防災に活かせないと思います。

そういう点について、今度の災害の中で得た教訓として、国内的にも法改正を求めますし、同時に国際的にも、著作権条約の改正に向けて、国際的な共同行動の中で、知識を自由に使って人命を助ける活動ができるようにという発信を、日本からしていくことが必要だと思います。

 

●藤井 復興構想会議やその部会で、その辺の議論はされているんでしょうか。

 

●河村 知りません。著作権のことなど全然考えていないかと思います。

 

●高岡 私は3点考えました。

1つは、当事者の参画です。地域での復興計画を策定するにしても、聞こえない人など、いろんな障害をもつ人が参加できるような仕組みを作るということです。

2つ目は、共生社会を目指すことを、すべての地域住民、行政、支援活動をしている方々の共通の目標にしたいと思います。

3つ目はITの活用です。例えば、聴覚障害者は電話ができないと思われていますが、今の欧米には電話リレーサービスがあります。日本にはありません。なぜか分からないのですがNTTやドコモなど大手キャリアは絶対やろうとしません。手話通訳の電話サービスにしても非常に小さいです。

われわれはラジオが聞こえません。でもラジオ音声をツイッターで発信すれば誰でも見られます。では誰がツイッターを発信するか。各地の放送をサイマル放送すればつまりインターネットで同時に発信すれば、日本中の人がラジオ放送を聞けます。聞いた人がそれをツイッターすれば、その地域のローカルな放送が日本中の聞こえない人に伝わります。聞こえる人にも伝わる。そうすると聞こえない人にも伝わってきます。

そういう新しい仕組みを考えることが必要です。個人の力、ボランティアの力をすべて組み合わせて、新しい仕組みを作ることが、今ほど求められている時はないと思います。

 

●岩井 大阪からの発言にもあったように、阪神・淡路大震災、そして今回の大震災の教訓は、わが身を守るためには、自助、共助が基本で、公助は当てにならないということだと思います。

今、私たちがやるべきことは、復興計画の中で、障害者がいるまちづくりをしっかり行うことです。これが極めて大事だと思います。教訓として、日頃の近隣との関係構築を行うべきです。安否確認についても、障害関係団体や社会福祉協議会、そしてボランティアの力が極めて大きかったという報告がありました。

実例を紹介します。阪神・淡路大震災の際、家屋が倒壊して埋もれた人の数は16万4千人。自力で脱出した人は70%に当たる12万9千人だったと言われます。3万5,000人が埋もれて出られなかったわけです。このうち77%が、家族や近所の人に救出されました。警察や消防、自衛隊に残りの23%が救出されましたが、生存救出の比率はきわめて低下した実態がありました。視覚障害者である自分をきっちり地域の中で位置づけながら、地域の人に支援が必要だと知っていただく必要があります。そのためには、要援護者名簿への積極的な登録が必要だと考えます。

しかし個人情報の取り扱いの問題があります。1つ、新しい局面が出てきています。自立支援法により、措置制度から契約制度に変わる状況の中で、詳細な個人情報は、市町村より事業者が持つ場面が多くなっています。これについては、昨年3月12日に開かれた障害者放送協議会シンポジウムでも話題になりましたが、名簿の扱いについて情報の一元化ができなくなっている短所はあるかもしれませんが、見方を変えると、情報の分散は、情報源の多重化ということでもあります。1つの情報源が被害を受けてもほかの情報源からは必要な情報を得ることができます。そして支援の可能性を増すことになるのではないでしょうか。そのためには、日頃から障害者関係を含めた多くの組織が地域でネットワークを作り、有機的につながりを持つことが必要ではないかという報告がありました。

災害時要援護者の避難支援ガイドラインでも、障害者の安否確認の必要性と障害者の利益が確実であれば、個人情報の第三者提供を含めた活用は可能だという解釈があります。

行政情報も含めて、地域の中で情報が管理されながらも、必要なときには活用できる仕組み作りが必要です。そうした中で、地域の障害者の位置づけをしっかりさせたいというのが、今回感じたことでした。

 

●藤井 たくさんのことが盛り込まれていました。

大阪会場でフロアからどうしても発言したい方がいらっしゃいますのでお願いします。

 

●会場 2つの提案と、1つの質問をお願いします。

1つめは、個人情報保護法、保護条例についてです。この中の1項目に、命に差し障ることがあったらこの限りではないということがあるのかないのか知らないのですが、もしあるなら、起こってからではどうにもなりません。起こる前の準備が、災害の被害を減らす、あるいはゼロにすることにつながると思います。また、行政の理解がないと、地域コミュニティが頑張ってもダメだと思います。命に差し障るがあるときにはその限りではないということに、至急、対応してほしい。

2つ目は義援金についてです。おそらく2,000億円を突破しているであろう義援金の配分が、2割もいっていないようです。この義援金が停滞しているために、経済活動が停滞しているわけです。お金は「お足」というように、回らなければならないのに、留まっておることがあっていいのでしょうか。総務省の方、何とかしてください。人数が足りないなら、各地の自治体に職員を派遣してでも、即時にやってください。特に障害者の場合、余分な出費がありますので、それに応じた配分がされないといけません。

次に質問ですが、NHKの方がまるで放送は途切れないような言い方をされましたが、例えば極端に言えば、電波塔を破壊されても、放送が続けられるんでしょうか? また、テレビの字幕放送も、電気が切れた状態ではどうにもならなりません。アイ・ドラゴンがあってもどうにもなりません。電気は災害時には切れます。その辺の対策が必要です。

 

●藤井 個人情報保護法の第23条第2項の中に、生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合は、個人情報の提供は制限しないと書いてあります。これをどのぐらい活用できるかということだと思います。しかしながら、精神障害者の団体を中心に、プライバシーはやはり重要だという意見もあります。今後はこのあたりを皆でもう一度議論していく必要があると思っています。

時間が来たのでまとめに入ります。差し支えなければ、最後にNHKの森本部長と、総務省の安間課長から一言ずついかがでしょうか。

 

●森本 本日はいろいろなご意見をいただき、誠にありがとうございます。NHKに対するご意見は、私としても大変重く受け止めました。私どもとしても、100%、24時間、字幕を含めて出していくことが最終的なゴールだと考えており、今回の東日本大震災での取り組みを新たな出発点と考えて、取り組んでまいりたいと思います。ただ、何分現実的に考えると、要員や経費、あるいは技術的な問題などさまざまな課題があります。それらは徐々に解決し、知恵と工夫で乗り切っていかなければいけないことも正直ございます。さまざまな技術やチャンネルを使いながら、総合的に、皆様方に必要な情報を、的確に確実にお伝えしていくことを、実現していきたいと思っています。以上です。

 

●藤井 皆さん、激励の拍手を送りましょう。

(拍手)

 

●安間 今日は、前半の報告のときに申し上げたとおり、皆様方から様々なご発言をいただきながら勉強し、それを今後に生かしていきたいということで参加しました。いくつかご指摘があったことについてお答えします。

高岡さんから、指針について手話の話がなかったじゃないかというご指摘がありました。今回お話をしたのは現状です。現状では指針の中に手話についての記載はございません。これに対して、皆様方からご意見があることも重々承知をしています。説明が足りなかったかもしれません。国会質疑の中でも、実は手話について指針に盛り込むべきという意見があり、大臣からの答弁で、これを盛り込むことについて、皆様の意見を聞きながら対処したいということも申し上げているところです。

一方、新谷さんから、災害時の字幕付与を優先すべきとのお話がありました。指針自体は、そもそも7時から24時までの時間帯において字幕付与が可能な放送番組すべてに字幕が付くこと等を目標としています。災害の有無に関わらずそうなることが一つの理想型です。ですから、全部に字幕が付いていれば、災害時というのは、自ずとその中に含まれるという関係も、おわかりいただけると思います。

他方、だから何もしないというのではなく、今回の震災を受けて大臣から要請があったあと、4月28日に、私からも追加的な形で個別の項目として放送事業者にお願いをしているところです。皆様からの意をまだ十分反映できていないところもあるかもしれませんが、同じ思いでこれからも頑張ります。

最後に、大阪から何点かご指摘がありましたが、義援金の配分の件については、各自治体の方で、職員も犠牲になったり被災されていますこれらの事務処理ができない自治体については全省庁的に、職員がそれぞれ被災地域に行ってお手伝いもしていることをご承知いただきたいと思います。

いずれにしても、まさに命に関わる情報提供です。放送事業者や関係の皆様のご意見もいただきながら取り組みを進めていきたいと思っています。よろしくお願いします。

(拍手)

 

●矢澤 今日は本当に皆さん、ありがとうございました。大阪からも熱いメッセージをいただき、このシンポジウムを盛り上げていただきました。今日の皆さんからの意見をぜひ報告書にまとめるとともに、課題も見つかりましたので、放送協議会としても今日の議論を参考にして活動を続けたいと思います。本当にありがとうございました。

 

●藤井 それでは私も一言感想を述べます。

今度の震災というのは、地震があって、津波、原発、そして風評被害、余震もあります。まさに複合的な要素がいくつも重なって、その中で障害をもった人が、より大きな被害を受けているということだと思います。

今日の議論にあったとおり、一つには、この国の社会の標準値が、どこかおかしくなっていたのではないでしょうか。効率や成長、速度ばかりを追い求めています。まさしく原発はその典型でもあります。なぜあんな三陸のリアス式海岸に原発を作ったのでしょうか。改めて社会の平均値を、人間中心にどう取り戻すのかが問われているのではないでしょうか。

同時に、NHKや、総務省を含む行政の標準値が問われているとも言えます。確かに面白い番組を、一日24時間放送してきましたけれど、改めて、命や健康に関わる問題をどう考えるのか。視聴者の中には障害者が大勢いるんだと考えたとき、恐らくまた新しい方向が出てくるでしょう。もしかしたら災害時と放送、情報ということを超えて、社会や放送事業者の体質も問われてくる。行政のあり方も問われてくる。そんなことを強く感じざるを得ませんでした。

私は復興構想会議の方たちに、できれば指標の1つとして障害者権利条約をぜひベースに置いてほしいと思っています。放送事業者の方々も、総務省の方々もそうです。あの条約には「合理的配慮」「ユニバーサルデザイン」などキラキラ光るワードがいっぱい入っています。

「情報」という言葉のラテン語の語源は、心を形にするという哲学的な意味があったと思います。その心をどの形にするのか。まだまだ形になっていないことも、多くあると感じました。

その1つの解決の手掛かりとして、4人のパネラーや、べてるの家の吉田さん、池松さんがいみじくも共通におしゃっていたのは、平常時のふるまい方、あり方が物を言うということです。

それに加えて、物事を決めるプロセスに障害当事者が入っているかどうかがあります。NHKをはじめとする放送事業者にしても、総務省の施策にしても、基本的には障害者が直接参加する、どうしてもかなわなければ、ヒアリング等を含めて意思を疎通し合うことが必要です。このことだけに取り組んでも、意思決定の出来ばえは変わってくるでしょう。

このことを、森本部長も安間課長もお持ち帰りいただきたいと思っています。

時間をオーバーしましたが、以上をもって、前段の5組のレポートと、後半のディスカッションを終わります。パネラーの皆さん、大阪会場の皆さん、東京会場の皆さん、お疲れさまでした。

パネルディスカッションの様子