音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「障害者のための情報保障」セミナー報告書
デジタルテレビ放送の情報アクセス

講演2 障害者のための放送関連法

マーク・ダウンズ
王立全国聴覚障害者協会(RNID)技術部長
(監訳 寺島 彰)

おはようございます。会場、ならびにご来場の皆様、本日はこの様な重要な機会にお招き頂きお話しさせて頂きますことを、大変光栄に存じます。

まず最初に、本日私たちがこちらへ伺うことを可能として下さいました仲裁者及びスポンサーの方々に、お礼申し上げたいと存じます。また、現在の私の職務を通じて、日本の皆様との関係が本日でも続いていることは、私自身にとりましても大変喜ばしいことでもあります。私は、以前、英国大使館に赴任し、5年間日本で過ごすという幸運に恵まれました。その頃は、主に日英間及び他国間の貿易政策を担当しておりました。その中でたくさんの日本の友人を得ることができ、日本の生活様式や日本の文化について大変興味を抱くようになりました。その頃は日本語で日常スピーチを行わなくてはならないことが時々ありました。その時でさえ、私は日本語を流暢に話せるわけではありませんでした。しかし英国へ戻ってから、私の日本語の能力はさらに低下してしまいました。ですので、皆様には私がこれから犯す日本語の間違いを許して下さいますようお願いします。また、実際に前置きを終えてからは英語に切り替えさせて頂かなければなりません。

本日の本題である放送に関するお話をする前に、RNIDの背景や活動について簡単に説明したいと思います(スライド2)。RNIDはろう者および難聴者、また耳鳴りで苦しんでいる人たちを代表し、そのニーズをくみ上げ、様々な活動を行っている団体としては、英国最大の組織です。もしかしたら、世界規模で見ても最大の規模かもしれません。現在、約1,200名のスタッフから成り、年間収益は7億8千万円前後となっております。慈善事業団体にしては珍しいかもしれませんが、私たちは35,000名前後といった莫大な数のメンバーを持しています。

RNIDでは、大規模な慈善団体が通常行っていると皆様が思われているような活動を、たくさん行っております(スライド3)。それには、何か改善を図るためのキャンペーン活動や、英国政府へのロビー活動から特殊な電話サービスや教育・トレーニングの提供、また、20を超えるケアホームの提供など、多岐にわたります。

しかし資金集めを目的とした活動や、慈善による多額の寄付を受けることによる収益に依存しているとはいえますけれども、収益の3分の2以上はサービス提供による収益であることをご理解いただくことは重要な点です。

例えば、私たちが所有し運営するケアホームは、地域自治体がケアサービスを提供するための施設として利用されています。地方自治体は、サービスの提供を行う上でRNIDに委託費用を払います。ケアサービスを提供する業者は、多くの様々な業者の中から地方自治体が自由に選べるようになっております。この仕組みにより、私たちは、良質で最善のサービスが利用者に提供されるよう、持続的に協力をしています。そして、このことにより、ろう者や難聴者の方々に、ケアサービスといった形の最大限の利益を提供することが可能となります。

私たちが行っている文字の音声化、音声の文字化サービスは、年間約2百万件以上行っており、それは聴覚の障害者と聴覚に問題の無い人たちのコミュニケーションを図るものです。そのサービスは英国最大の電話通信企業であるBritishTelecommunicationsの代行事業として、エンドユーザーの利用料金は電話による通常の電話料金と同じになっております。

私たちの活動の焦点は、難聴者や聴力を失った人たちへのサポートですが、聴力以外の身体障害関連の慈善団体とも緊密に連携しながら、活動を行っておりますので、これらについては、本日これから、私と、こちらにおります私の同僚が詳しくお話させて頂きます。

最後に、私共の団体は、大変活発な研究活動を統括していますし、また、一般的なものから特殊な機器までを生産コストのみで販売を行う補助用具・機器の販売事業も行っております。

ここまでの説明でRNIDの概要についてご理解頂きましたら幸いです。この後に続く具体的な技術的説明については申し訳ございませんが、英語でお話させて頂きます。ちょっと時差ボケもありまして、そんな頭で漢字も読まなければならないのは大変でした。

(以下、英語からの翻訳)

さて、放送についてお話しをする前に、最初にRNIDは他にも色々なことしているということをお話ししたいと思います。例えば、失聴、難聴、あるいは、耳鳴りなどの原因に関するバイオメディカル生化学調査を世界中でサポートもしています。

スライドは、耳の神経の非常に小さな指のような突起が、どのようして蝸牛に伸びるかを示しています(スライド4)。これによって、音によるコミュニケーション能力が向上します。これは、RNIDが長年にわたって支援してきた研究です。

また、私たちは、失聴の原因についての遺伝的な研究もサポートしています。また、アプリケーションソフトの開発もすすめています。

皆様が興味をもたれると思われるものをお示しします。スライドの上側の絵は、通常の耳を示しています(スライド5)。耳の中の有毛細胞により、正しく音が聞こえます。ご存知の方がおられるかも知れませんが、有毛細胞が動くことで聞くことができます。

下の絵は、毛の先端が失われています。これは、この細胞が死んでいることを示します。多くの人々は、老化や騒音被爆などによって聴力を失ってしまいます。興味深いのは、人間の有毛細胞の毛は再生しないということです。しかし、もし、あなたが、ワニの耳をもっていれば、事情が違ってきます。

ロック音楽の好きな方もおられると思いますが、もし、あなたが、ペットのワニのクロコダイルと一緒にロックコンサートに行き、スピーカーの真前で聞いていると、あなたもペットも聴力を失ってしまうでしょう。しかし、6週間後、人は、依然としてろう者ですが、クロコダイルは、聴力を回復しています。その理由は、有毛細胞の毛が生えてくるからです。これが、私たちが行っている失聴に関するいくつかの生化学調査によりこのようなことがわかりました。

最初に申し上げましたとおり、私が責任者をしておりましたもう一つの分野は、失聴と耳鳴りに悩む人々に対する製品の販売です。企業としてやっているのではなく、慈善事業の一つとしてやっています。勿論コストの部分はカバーしなければなりません。基本的な考え方は、できる限りたくさんの方々に、できる限り機器を提供することによって、彼らの生活を向上させてもらおうということです。しかし、コストは最小限に抑えたい。利益を追及するというよりはコスト部分をカバーできればいいわけです。私共のこの製品のカタログには、160ほどの製品がございます。このカタログから買って頂けます。その売り上げは、大体4百万ポンドくらいになります。

このような非常に広範な製品を販売しています。ドアのアラームとか、ラジオみたいなものとか、ビデオレコーダーなどもあります。我々がデザインしある企業に頼んで煙検知器も作ってもらいました。我々は、非常に広範囲にわたる仕事をしています。

さて、次にいきましょう。これからは、特に放送と障害者の問題に関して話を進めます。

コミュニティ機器community equipmentというものが非常に重要です(スライド6)。イギリスにおきましては、日本においてももちろんそうだと思いますけれども、たくさんの方が特別な装置を必要としています。ところが所得が低いために、そういったものを充分買いそろえることはできないという場合、無料でこういった装置をNHS国民健康保険からもらうことができます。

例えば、小さい子どもやその他の人が、聴覚障害と診断されたとします。あるいは視覚障害者と診断されたとします。あるいは身体障害者と診断された場合には、毎回毎回お医者さんに行く必要はなく、包括的にこのサービスを受けることができます。そして、色々なタイプの障害にこれを適用させることができます。例えば、補聴器ですとか、あるいは、視覚をサポートする機器ですとか、車いす、あるいはその他の身体障害者が必要な支援機器がパッケージで提供されます。

テレビ放送は、本当に我々の世界の中心となったと言っていいと思います(スライド7)。日本もそうだと思いますけれども、イギリスにおいても、大体1日3時間から3時間38分、イギリス人はテレビを見るというデータが出ております。特に高齢者で、家にいる時間が長い場合には、もっとそれが長くなります。ですので、この音声解説あるいは字幕へのアクセスというのは、そういった方々の場合は、特に重要になってくるわけです。そこで、欧州委員会では、もっとこのアクセスを確保していかなければならないと認識するようになりました。また、イギリスもそれに従って法規を導入して、字幕放送、音声解説、あるいは、手話放送をより提供しようということになりました。

ここで問題となるのは、障害者がテレビを通して何を必要としているのか、何を求めているのかということであると思います(スライド8)。まず、第一には、テレビ番組にアクセスしたいということです。つまり、どんな番組をいつ見られるのかということがわかることです。そういうものは、電子的にプログラム番組ガイドとして見るというのができれば良いと思います。これは、テレビを観ることだけではなく、放送メディアという環境にもいえると思います。

次に、テレビ番組において、積極的な障害者像を作っていくことが必要だと思います。毎週末に、手話付の失聴者向けのテレビ番組があります。最近、初めてメロドラマ提供しました。そこには、毎週、失聴者が登場します。テレビの中での障害者像について、我々は、非常に関心をもっており、テレビをもっと積極的に活用するということができると思います。

また、教育的な番組も重要です。障害関連問題をより多くの人に分かってもらおうというのがその目的です。障害者関連法規については、後でお話させていただきますが、最も努力しているのは、中小企業・大企業も含めましてそういった企業に、障害者に対するアクセスの保証について理解してもらうということです。法律に規定された合理的調整reasonable adjustmentのことです。

例えば、皆さんが小企業を営んでいるとすると、5千万円くらいの売り上げしかないのに、1億円ものお金を障害者のアクセス改善のために使ってくれというのは合理的ではありません。適切な割合があります。ただ、できる限り多くの企業の皆さんにこの必要性を分かってもらうように彼らをサポートしたいと思っております。

テレビ放送には、EUによる規制がかけられております(スライド9)。また、各国における規制もあります。ヨーロッパ全体の法規と各国の法規全体を説明することはできませんが、ご質問がありましたら、最後にお答えしたいとも思っております。

RNIDが主眼としておりますのは、字幕であります。なぜかといいますと5百万ほどのイギリス人が、通常字幕に頼っているためです。数が非常に多いのです。イギリスの人口は日本の半分くらいということですから、どれぐらいかということがお分かり頂けるかと思います。また、テレビ上の手話通訳を増やしたり、視覚障害者のための音声解説放送を増やすためのロビー活動を展開しております。

最近、映画を観に行きまして意識的に映画の音声解説を聞いてみたんですけれども、本当にびっくりしました。映画を見ているんですけれども、さらにもうひとつ次元が広がったような気が致しまして、これは視覚障害者の方だけではなくて、それ以外の人々に対するメッセージでもあると思いました。また、自分は今言葉を勉強したいとか、そういった人たちにとっても、字幕は役に立つと思います。

我々が行おうとしていることには、2つの軸があります(スライド10)。その一つは、サービスの質を高めるということです。手話通訳の質を確保することもそうですし、放送自体の質もそうです。

二番目の軸は、技術的規格作りです。例えば、ある機械で字幕や音声解説を記録する、また、別の機械で記録する、そして、また、別の機械で再生できるようにするためには、技術的規格の統一が必要です。

イギリスの放送環境は、他のヨーロッパの国と比べて、非常に規制がかかっている、または、規制が厳しいといわれます(スライド11)。字幕は、かなり前、1980年代初めから行われております。放送そのものに関する規制は、ここ15年ぐらい規制がかなり厳しくなってきました。議会において、たくさんの法律条件が出されてきました。放送局は、字幕付きの番組、あるいは音声解説付きの番組を、提供をしなければならないように法律でだんだんと決められてきているわけです。

イギリスの法律のシステムは、非常に複雑なので、すべてを詳細に説明しませんが、基礎的な知識を提供したいと思います(スライド12)。というのは、法律に影響を与え、それを変えていくことは、そのプロセスと強く関係しているからです。そのプロセスのいくつかについては、日本の国内の法規に対して政治的に取り組む際に役立つかもしれません。

法律制定に向けた一つの取り組みの方法は、利益団体と討議することです。つまり、相談するということです。例えば、上院議員のパトナム議員は、2002年にこのような活動を始めましたが、英国議会の委員会に、証人を呼んで、放送関係法規にどういったものを盛り込めばよいのかについて証言をしてもらいました。それでどういった種類の法律を作るべきなのかに影響を与えることができたわけです。政府は、その証言を考慮して法律を作り、それを日本と同じように、下院で議論し、最終的には、上院で承認して法律が通過しました。議会に対して我々が努力したことは、望むものを法律に盛り込んで欲しい、望まないものを変更・削除してほしいということを明確にしたことです。

最も最近の法規により、コミュニケーション事務所Office of Communicationができました(スライド13)。これは、短く、オフコムと呼ばれております。オフコムは、英国通信法により設立された独立した団体です。面白いことに、法律によってこのオフコムは設立されましたが、非常に強い権限をもっていて、いったん設立されてしまえば、英国議会でも、このオフコムをコントロールすることはできません。

例えば、字幕を例にとってみますと、我々は、これまで、通信法関連法に影響を与える機会はありましたが、オフコムが設立したことで、オフコムが放送事業者に対して勧告することを法律が保証していることから、我々は、放送事業者に対して、非常に詳細な要求をすることができるようになりました。例えば、字幕付きの番組や音声解説放送をどのくらいにするかなどを法律で義務付けることができるようになりました。そのために、我々は、この新しい機関にロビー活動を行っております。その結果について我々は、非常に満足しております。その意味では、英国の法律は、かなり変化があったと言えると思います。

もう一つ変わったことと言いますと、生放送に字幕を付けることが法律で義務付けられました。例えば、スポーツ放送です。録画放送だけではなく生放送も対象になりました。この独立した機関であるオフコムが、放送業界にこれを働きかけることを決めたとき、オフコムは、最初、我々に、生放送は費用がかかりすぎると言いました。

そこで、我々は、それに対して側面的な働きかけをして、生字幕はそれほどお金がかからないということを述べました。実際にそれほど費用はかからないのです。そして、それをオフコムが受け入れることになって、結果的に、法律に盛り込まれることになったわけです。もし、この法規に興味がおありであれば、現在のスライドをごらんください。

英国には、現在、約70の地上波放送局があり、それ以外に多くのケーブルテレビや衛星放送があります(スライド14)。それぞれの放送局は、今後10年間に、どれくらいの割合を字幕放送にするのか、あるいは手話通訳を付けるのか、音声解説を付けるのかということにつきまして、目標を立てています。

その目標は、各社ばらばらです。字幕をどの程度の番組につけるかは、その放送局の放送の規模によります。その放送局の放送時間が、何千時間、あるいは何万時間にも及ぶ場合には、当然字幕を付ける対象が、小さな規模の放送局よりも多くなります。

皆さんもご存知と思いますが、BBCというテレビ局、これは日本でいうとNHKのような局ですが、このBBCは、やはり視聴者の受信料で運営されています。BBCは、字幕の提供に関しては非常によくやっていると思います。その他のテレビ局、例えばチャンネル4とかITVとか、それからスカイという最近できた衛星チャンネルなども、多くの字幕を提供しております。

BBCは、2008年までに番組の100%を字幕付きにしようとしています。現在、生放送を含め、すでに80%の番組に字幕が付いています。あと3年でこれを100%にまでと言っております。

他の放送局は、今後10年間で80%の番組に字幕を付けなければなりません。また、規模にかかわらず、ほとんどすべての放送局が達成しなければならない共通の目標があります。それは、5%の手話番組と10%の音声解説番組を10年間で達成しなければなりません。

最近まで、音声解説放送を付けることは、必要な技術が開発されていないために、お金を出しても導入できないという理由で、不可能であると言われていました。しかし、ごく最近、音声解説をつける技術を購入することができるようになり、状況が変わりました。

先程申しましたように、衛星チャンネルにスカイという局があります。このスカイというテレビ局は、視聴者に受信機のようなものを提供し、それで音声解説放送を録画したり生放送を聴けるサービスを提供しております。この受信機は、すべての利用者が必要としているもので、30,000円くらいで販売されています。

しかし、もし、より安価なものが欲しい場合は、デジタルテレビ用のデジタル受信機を購入します。これは価格でいうと6,000~7,000円くらいのものです。これで、30から40のデジタル放送を無料で見られます。もちろん、これらの放送では、今後、10年間で、多くの番組に字幕や解説放送が付くと思われます。

手話付き番組の問題は、非常に興味深い問題です。現在、テレビ局の数は、70くらいありますが、これに、この70局が毎日放送している放送時間数をかけてみて下さい。そしてその5%がどのくらいになるのかを計算してください。非常に大きな数字になります。これを行うのに、どのくらいの手話通訳者の数が必要かを考えれば、手話通訳の数が足りないということが明白です。

そこで、RNIDでは何か他の解決策がないのだろうかということを真剣に検討しております。一つの方法は、CGによる手話通訳者を使うことです。アンプターと呼ばれる、コミュニケーション用ソフトウェアがありますので、後でお見せします。それは、実際の人間の手話通訳者のように手話をします。このソフトウェアは、十分な数の手話通訳者が確保できないという単純な理由から作成されました。

もちろん、RNIDは、別の重要な仕事として、さらに多くの手話通訳者を養成しようとしています。しかし、後に分かるように、通訳者の数を増やすには、かなりの時間がかかります。

このような変化に関して、我々がどのように行ってきたのか、また、どのようにイギリスの法制を変えてきたのかということについて、もう少し述べたいと思います。最初に、RNIDの会員数は、およそ35,000人であると申しました。我々は、各地域出身の議員に対して会員がそれぞれロビー活動を行いました。具体的には何をしたかと言うと、一人ひとりの議員に、なぜ法律を変えて欲しいのか、どれだけ音声解説が必要なのか、どれだけ字幕が重要なのか、どれだけ手話通訳を放送にのせるのが重要なのか、ということを訴えて、はがきを送りました(スライド15)。また、議員全員にもはがきを送りました。もし、あなたが議員なら、毎朝、郵便配達人が、郵便物の束を配達してくるわけです。本当に何千枚もの同じ内容のはがきが送られてくるわけです。このような活動が、法律が議会を通過することに役立ちました。

また、直接的なロビー活動も行いました。直接、議員一人一人に話したり、大臣になぜ、この問題が重要かを話すわけです。私たちとしては、彼らがそうすべきだと言ったのではなく、良い考えだし、障害者に役に立つということを説明したのです。例えば、障害者だけでなく、学習障害者、騒音のある環境の人々など、さまざまな人々も恩恵を受けられるのだということを強調しました。

また、我々は、経済効果の議論をするようにしました。先程もご説明したオフコムという組織は、コスト分析を行います。そこで、法律の制定に対して全面的に支援する意味で、コスト分析を支援するようにしました。このスライドにも書いてあるのですけれども、オフコムは、字幕は、少なくとも2億6千万ポンドの経済効果があると結論づけました。17億ポンドの経済効果がある可能性があるともしています。単純に、1時間番組に字幕を付けた場合の費用を考えてみましょう。その費用×放送時間が全体のコストです。非常に大きな経済効果があることがわかります。

次に、EUの状況についてみてみましょう。これらの問題は、英国や日本だけでなく、EUにおいても、強い関心が持たれています。

2005年において、欧州では8千万人の人たちが失聴しているといわれています(スライド16)。これは、少なくとも1耳が35デシベル以上の音でないと聞こえないという人たちの数です。これは、非常に重要な数字です。ヨーロッパには、174,000人の重度の聴覚障害児がおり、軽度の聴覚障害児は60万人おります。もちろん、高齢者の中には、日本も同じだと思いますが、非常に多くの聴覚障害者がいます。実際、65歳以上の場合、半分以上の人たちに聴覚障害があるという報告もあります。

先程少し説明しましたように、有毛細胞が騒音にさらされることにより、あるいは、病気により、または、遺伝子的な要因によって死んでしまうために、全体として7人に1人に聴覚障害があります。そして、今や5人に1人以上が60歳以上です。

すでに述べたように、字幕は、聴覚障害者にとって非常に利益があると我々は、主張しています。特に子供は重要です。住んでいる場所の騒音がひどくて、耳が良いにも関わらず、字幕を利用している人も知っています。周囲の騒音のなかで落ち着いてテレビを見たいためです。

また、学習障害者もテレビを十分活用できていません。我々は、常々、字幕は、聴覚障害者だけでなく、他の人たちにも役立つと述べております。これも、その例です。学習障害を持つ人たちに対しても字幕は有効であると私たちは考えております。つまり、字幕サービスは、聴覚障害だけでなく、すべての人たちにプラスになるということが言えるわけなのです(スライド17)。

EUには、多くの好事例があります(スライド18)。例えば、オランダは、過去十年に大きな前進を遂げています。すべてのテレビ番組に字幕を付けることが求められているようです。

アイルランドでは、すべての政党が協力して、字幕や解説放送や支援技術の活用についてEU指令に従う規定作りをしています。

次に、ヨーロッパレベルの法令についてみてみたいと思います。今後、障害者に対する情報アクセスや公平性などが重要になってくるでしょう。ご存知のように、EU欧州連合は、現在、25の国から成っています(スライド19)。欧州憲法のための新しい計画について議論されていますことは、どこかでお読みになったかもしれません。

各国は、ある程度、EU機構PanEuropeanBodyに統治権を譲ります。つまり、一定の状況では、各国は、決定権を失い、EU機構にゆだねるということです。

つぎに、障害者問題と放送問題に関するEUの関連法についてさらに見ていきたいと思います(スライド20)。これらの一連の関係法は、EU指令に基づいており、テレビジョン・ウィズアウト・フロンティアバリアのないテレビという名称がつけられています。これらの関係法は、EU加盟各国が自国の法律を制定する際に準拠すべき枠組みについて規定しています。英国が放送関係法を定めたのはそれが根拠になっています。

しかし、英国には、これらのEUの関係法により求められた以上のことを定めた法律があります。その理由は、我々が、アクセシビリティの改善を求めたからです。しかし、おどろくべきことに、EUレベルでは、障害者やアクセシビリティについて規定した法律は全くありません。なぜ、そうなったのかというと、これらの法律は、10年前から15年ほど前に作られたものですが、当時は、ヨーロッパ議会に対するロビー活動がありませんでした。これは、我々障害者のための慈善団体に対する大きな教訓です。すなわち、国内の議会だけでなく、国を超えたヨーロッパの議会との対話が非常に重要であることを示しています。それらの法律にも、消費者保護ということはうたわれているので、放送はよりアクセシブルにすべきであると主張するためにそれを利用しようと考えております(スライド21)。

このように、現在、テレビジョン・ウィズアウト・フロンティアというEU指令があるわけですが、我々は、より広範な内容を含むようにこれを改定したいと考えています。欧州議会も、最近、そのように言っていると思います。最近、その担当理事は、実際に、ヨーロッパレベルで障害者のための法令をつくることがあるかもしれないと述べました。我々は、新しい法律ができることを本当に期待しております。理事会も、既存の法規を見直して、障害者のために総合化すると言っています。

情報社会の問題とメディアは、統合して、EUの一人のコミッショナーの責任にもとづき、一つの部局で取り扱われております。これらの問題を一つとして取り扱うことは、我々との対話を確実にするために役立つと思いますし、さらに、対話を進めることができると思います(スライド22)。

ヨーロッパレベルでは、イーアクセスも公表されています(スライド23)。これも、この分野の発展のために非常に役に立つステップであります。

また、ヨーロッパ・オーディオ・ビジュアル・オブザバトリィEuropeAudioVisualObsevatryというのもあります。ちょっと変な名前ですが、これは、独立したシンクタンクです。このヨーロッパレベルの独立したシンクタンクは、放送関係のオーディオ・ビジュアル問題に関するさまざまな情報やデータを集めます。非常に信頼性の高い情報や統計データが集めれば、将来、これらを使って、独自の問題を話し合うことで状況を改善したり、法律を改良したりすることができるでしょう。しかし、そのためには、各加盟国がEUに圧力をかけてそれを推進させるようにそれらの国々を支援していなければなりません。

EUの法規を作っていく過程についての細かい話はこのくらいにしますが、実際に公僕として、法律の改良を行う権利をもっているのは、欧州委員会だということです。加盟国が新しいEUの法律を制定するということはできませんので、各加盟国は、EU法制定のためには、まず、これらの公僕を説得するということになります。

他の国の活動も紹介しておきます(スライド24)。スウェーデンでは、ポスターキャンペーンというのを行っているのが印象的です。これによって、字幕の有用性に対する認知度を高めようというわけです。

スイスにおきましては、一万人の請願署名により、政府に対して、もっと字幕・音声解説・手話通訳付きのテレビ番組を増やしてくれるように嘆願いたしました。

イギリスの例に戻りますと、障害者差別禁止法があります(スライド25)。この法律は、比較的新しい法律ですが、昨年10月に新たに発効した部分がありました。それは、中小企業も含めて、すべての企業が、合理的な手段reasonablemeasureにより、彼らのビジネスサービスをアクセスなものにすることが、義務づけられました。そのアクセシビリティには、二つあります。それは、その企業で働くスタッフのためのアクセシビリティと、その会社を訪ねる人のためのアクセシビリティです。二つとも同じく重要です。

アクセシビリティを高めるということは、非常にコストがかかるのではないかという中小企業からの懸念がありました。我々は、そんなことはないと説明しました。大きなことをやらなくても、すこしずつ小さな改良を行うだけで、アクセシビリティが大きく改善されることを説明したのです。

例えば、ビルディングについていえば、単独でアクセスできない場合には、インターコムのシステムが使えるかもしれません。あるいは、入り口にビデオフォンをつければよいかもしれません。あるいは、各会社のスタッフが、視覚障害者や聴覚障害者の顧客に対する支援方法についての訓練を受けることが必要かもしれません。そのような訓練は、高価なものである必要はありません。RNIDやその他の団体は、そのような訓練コースをもっています。たくさんのスタッフを、半日あるいは1日で訓練することができます。

例えば、聴覚障害者の顧客に対応する職員は、下を向いたり、口を手で覆ったりしないで、大きな声で話すことなどの指導がされます。それだけで、かなり違います。車いすのアクセスやエレベーターの設置などのこれまで行われてきた方法とともに、このような単純なことも大切です。

ですから、最も合理的になることを基本にする必要があります。すべての新しい電車やバスを車いすに対してアクセシブルにするよう求めることが合理的でしょうか。アクセシブルでないすべての駅を、すぐに車いすでアクセスできるように求めて何十億円も費用をかけることは、たぶん、合理的ではないでしょう。

もし、障害者とメディアに関してさらに情報を得たい方は、この二つのウェブサイトがあります。役に立つと思います。

欧州議会の「メディアと障害者アクセシビリティ」というサイトが2003年にできました。たくさんの役に立つ情報があるので、ご覧になるとよいでしょう(スライド26)。

また、スカイというものもあります。これは衛星放送局ですが、ここでも障害者のためのアクセスや仕事へアクセスを提供しています。ここからもいろいろ有益な情報を得ることができるのではないかと思います。

最後になりますが、ちょっと将来のことを考えてみたいと思います(スライド27)。この後、同僚のマーク・ホダから、今後のことについていくつか面白い話を詳しくさせて頂きますが、私の発表の最後に、将来の新技術について話したいと思います。

テレビでの手話通訳を、もっと増やしたいというお話しをしました。法律によってそれは放送局に義務づけられております。しかし、手話通訳者の数が充分でありません。そこで、その解決方法として、コンピューターがつくる手話通訳者が有効かもしれません。これは、ヨーロッパプロジェクトの一つになっています。たくさんの仲間が参加しております。RNIDも参加団体の一つになっています。我々は、ユーザインターフェースに関する多くの部分を開発しました。

これが、CGの手話通訳者です(スライド28)。例えば、彼がウェブサイトの中身を手話通訳してくれます。あるいは、ビルディングの情報キオスクとして情報を提供してくれます。ボタンを押したり、ボタンにタッチすることで、知りたい情報を手話で見ることができます。そのようなことを考えています。実をいえば、まだ、長い道のりが必要で、確実にあと5、6年はかかると思います。限られた環境で機能させることはできますが、あらゆる状況において、あらゆる種類の手話に対応することは、実際、大きな挑戦です。しかし、開発し続けたいと思います。

そしてここで興味深いのは、このCGの手話通訳者の動きは、バレエに似ているということです。バレエがお好きな方いると思いますけれども、バレエの動きを記録しようとすると、特殊なタイプの表記法を使います。それは、3次元の動きを表記できるものです。手話は、3次元の動作なので、この概念を使ったソフトウエアが、ハンブルク大学によって開発されました。

どのように動くかをみせてくれると思います。このマシン上での動きは非常にゆっくりしていますが、もっと早い処理ができるコンピューターであれば、もっと早い動きになります。このラップトップ上では少し遅いですが、ちょっとお見せしましょう。

人が出てきました。日本の手話通訳者の方がここにいらっしゃいますけれども、彼は英語の手話通訳なのでちょっと違うかもしれません。一応この人は仮想手話通訳者として手話をやってくれます。

(スクリーン上でCGの手話通訳者がいろいろ手を動かして通訳をしている様子が出ている)

このコンピューターでは、動きが非常にゆっくりしていて申し訳ないのですが、どういうふうに動くのかというのが、お分かり頂けたかと思います。実際には、我々は、それぞれの手話をプログラミングで書いていって、辞書のような形で作っていかなければなりませんので、非常に時間がかかります。そして、別のアプリケーションソフトを使って、これらを滑らかにつなげて手話の会話形式にしていきます。

それから、もうひとつ私共がやっておりますのは、アイゲイズという研究です(スライド29)。これはBBCとやりました。BBCは、イギリスのNHKのようなものです。なかなか面白い研究ですが、なぜ、我々がこれを行っているかというと、テレビを見る時に、人々が、テレビのスクリーンのどこを見ているかということを決定するためです。この後ビデオをお見せしますけれども、画面が出ていまして、十字の小さい印が動きます。そこがテレビを見るときにその人が注視している点です。

まず、それをお見せします。これは子供用の番組なのですけれども、人形が出てくるんですね。この十字の印が、ちょうど今見ている中心です(スライド30)。

ご覧のように、人は、かなり長い時間を同じところを見ているということが分かります。なぜこれが重要かというと、例えば、もし、人々が、スクリーンのある部分しか見ていないとすると、手話通訳者を別のところに移動したほうが良いかもしれません。また、画像の品質を、そこだけよくするということもできるわけです。もし、表示能力が限られている場合、スクリーン全体で画質を上げずに、そこだけを高画質にすればよいわけです。

おもしろいことに、英国では、手話通訳者は、大体スクリーンの右下側に出ていることが多いですが、でも、そこがベストな場所なのかどうかというのは、全く調査が行われていないのです。また、どれくらいの大きさの人物として手話通訳者が登場すればいいのかというリサーチも行われておりません。この場所が動いた方かいいかどうかも分かりません。会場で手話通訳を利用されている多くの方は、常に手話通訳の部分を見てきたということから、通常の人よりも周辺視野が広いといえるかもしれません。

以上が、現在、私共の取り組みの一つであるアイゲイズの説明です。

次にお話ししたいのはシンフェイスというものです。これは、シンセティック・トーキング・フェイスSyntheticTalkingFaceを短くしたものです。先ほど申し上げましたように、多くの人々は、高齢になるにつれて、だんだんと聴力が弱くなっていきます。携帯電話を使っている方が、今はたくさんいらっしゃるかと思います。ただテキストホンはなかなか使いづらいと思われる方が多いと思います。もし人と話をするときに、人の姿を見て話ができないと、理解しづらいということを経験された方がここにも多くおられると思います。聴覚にいくらか障害がある場合、唇を読みながら聞くという組み合わせを用います。もし、唇を読まないでただ音を聞いているだけでは、理解はより、難しくなるでしょう。しかし、私がしゃべる時に、私の唇の動きを見れば、多少理解しやすくなるでしょう。これも、RNIDがメンバーになっているヨーロッパプロジェクトです。これは、トーキングフェイスを開発しようとするものです。

実際に、どのようにこれが機能するのか、皆さんにビデオでご紹介したいと思います。2分ほどのビデオで、字幕が付いていますので、通訳の方も簡単に訳すことができると思います。

どのような仕組みかと言いますと、原理は簡単です。皆さんの電話が鳴ったとします。電話を取ります。そうすると、同時にCGで合成した人の顔がコンピューターやテレビ電話のスクリーンに現れます。そして、その顔があなたに話しかけます。同時に聞き見ることでよく理解できるようになります。このシステムは、まだ、開発中で完成はしていないので誤解のないようにお願いします。

これが、シンフェイスのビデオです。このビデオには、同僚の二人の女性が登場しておりますが、私がこのビデオを見せるたびに嫌がります。

ビデオが始まりました。ある女性が携帯電話をかけています。この女性は健聴者、耳は特に不自由ない人のようです。さて画面変わりました。今度は聴覚障害の男性が受話器を取りました。女性と男性が話を始めます。「こんにちは」ということで聴覚障害の男性は、受話器をもちろんも持ってはいるんですけれども、そこから出てくる音声とともに、すぐ横にあるシンフェースこのCGで作られた顔の方も見ています。相手の女性とは、何の問題もなく会話をしています。今日の夕方にあそこに新しいパブができたから、そこに行ってみようという約束をしている会話です。女性の話ている言葉は全て、このシンフェイスがリアルタイムで認識して、そして、画像として合成して男性側に送っています。男性は今、シンフェイスに映っている顔を見て、さらに自分の聞こえる限りの音をデータとして集めて、今会話を終えました。

もちろん、これはいつも申し上げていることですが、実際にこの男女がパブに行って一杯やって、その後どうなったかということについては、私は知る由もありません。

さて、これが、シンフェイスの仕組みでありました。そしてもう一つ、将来的に非常に面白いであろうと思いますのは、リアルタイムテキストホンです(スライド31)。これは、現在、皆様がお使いになっているテキストメッセージとはとはかなり違います*注1。これは、会話をするように、リアルタイムでテキストを送れる機能です。つまり、こちらで、キー入力をするとそのまま、それが、相手の携帯電話に出力されるものです。そのために、文字数に制限はありません。まるで話をしているときのように、相手がテキストを入力しているときにこちらから割り込んでテキストを表示することもできます。

このソフトウエアは、私共RNIDの技術チームが開発をしました。もともとこれは、2つか3つの種類の携帯電話を対象に開発されました。しかし、今では、新しいソフトウェアを開発して、インターネットシステムを活用して、どんなタイプの携帯電話でも使えるようなものに改善されています。この製品は、主要な携帯電話事業者に提供しており、それらの事業者により今年から新しいサービスが始まります。

私の話もいよいよまとめの部分となりました。今日はいろいろなトピックについてお話させて頂きました。興味を持っていただけたでしょうか。いずれにしましても、テレビは、エンターテインメントの中心をなしていますし、また、放送とインターネットの融合によりますます重要な情報源となっていくことは明らかです。それは、誰にとっても完全なアクセシビリティを持つべきです。すなわち、解説放送、字幕にせよアクセスしやすいものでなければなりません。

例えば、解説放送を聴くために、テレビのリモコンを5回も6回も色々なボタンを押したくないと思います。簡単にすばやく聞きたいと思うでしょう。同じように、手の巧緻性に問題のある身体障害者の場合、使いやすく、適当な大きさのボタンで、押す操作を簡単にできる携帯電話が欲しいでしょう。これらのすべての問題が同時に解決されなければなりません。

また、ヨーロッパの国の中には、関連法が全くない国もいくつかあります。また、ヨーロッパ全体をカバーする法律もありません。イギリスには、たくさんの法律があり、その中でも進んではいるのですけれども、その他のヨーロッパ諸国にも、障害者を代表する障害者団体がありますので、この法規制のレベルがだんだんと同じくらいになってくればいいなというふうに考えております。

また、英国を含めヨーロッパの国々の多くは、障害者にかかわる基本法をすでに持っています。これは良いことです。ヨーロッパでも法律の制定や改良を活発にして欲しいと期待しております。

さて、私の話の後では、私の同僚でありますマーク・ホダが、さらにデジタル放送について話しますが、私のお話した背景がその理解に役立つことを期待しております。ありがとうございました。

*訳注1ヨーロッパには、Eメールではなく、携帯電話同士でメッセージを送れるテキストメッセージという機能がありますが、日本の携帯電話は、その機能はありません。

スライド1
画像 スライド1

スライド2
画像 スライド2

スライド3
画像 スライド3

スライド4
画像 スライド4

スライド5
画像 スライド5

スライド6
画像 スライド6

スライド7
画像 スライド7

スライド8
画像 スライド8

スライド9
画像 スライド9

スライド10
画像 スライド10

スライド11
画像 スライド11

スライド12
画像 スライド12

スライド13
画像 スライド13

スライド14
画像 スライド14

スライド15
画像 スライド15

スライド16
画像 スライド16

スライド17
画像 スライド17

スライド18
画像 スライド18

スライド19
画像 スライド19

スライド20
画像 スライド20

スライド21
画像 スライド21

スライド22
画像 スライド22

スライド23
画像 スライド23

スライド24
画像 スライド24

スライド25
画像 スライド25

スライド26
画像 スライド26

スライド27
画像 スライド27

スライド28
画像 スライド28

スライド29
画像 スライド29

スライド30
画像 スライド30

スライド31
画像 スライド31

スライド32
画像 スライド32