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「障害者のための情報保障」セミナー報告書
デジタルテレビ放送の情報アクセス

講演6

岩井 和彦
日本ライトハウス常務理事/全国視覚障害者情報提供施設協会理事長

みなさんこんにちは。岩井と申します。視覚障害者向けに音声解説を是非付けていただきたいというのは、当事者として、本当に常日頃思っていることです。今回、多くの視覚障害者の希望、ニーズの実態を調査し、それを放送事業者に届けていこうという、大規模な調査研究が実施されておりますので、そのことを中心に報告させていただきます。

私、視聴覚障害者という言い方で、後を報告させていただこうと思います。視覚障害者と聴覚障害者、同じ情報障害ということで希望する対象・方向は少し違ったとしても、共に働きかけを行うことの必要性を強く感じているもので、先程来、高岡全難聴理事長からもありましたように、ぜひ視覚障害者も一緒にこの問題に取り組んでいきたいという立場で、報告をさせていただきます。

まず当然のことながら、どこでも誰でも、放送を楽しめることができるようにするのは、放送制作の基本方針の一つであるということは、言うまでもありません。しかし視聴覚障害者も、国民が幅広い視野に立って、その健康で文化的な生活を確保していく上で、欠くことのできない情報発信源としてのテレビを見ているという事実だけは、はっきりお伝えしたいと思います。尚、ここでいう視聴覚障害者とは、「身体障害者福祉法」でいう身体障害者のように、限定的にとらえてはいけないだろうと考えております。視覚または聴覚に障害を有するために、放送を理解し楽しむのに支障があるものとして、とらえていただきたいと思います。

今後進展化する高齢化社会を思います時、この問題は限られた視聴覚障害者の問題だけではなく、社会全体の大きな問題だろうと考えています。平成13年の厚生労働省「障害児・者実態調査」では、視覚障害者の情報入手手段の第1位がテレビでした。30万1千人といわれる視覚障害者の中で、情報入手手段の第一として、22万人がテレビを挙げていました。今回私たちが行いました調査においても、そのことが一層はっきりしてまいりました。

IT社会の進展によって、視覚障害者の情報環境も大きく変化し、情報アクセスが視覚障害者にとっても容易になってきたのは事実です。しかし、本日の総務省の飯島課長様のご報告では、e-Japan構想によりますと、国民全体の9割がIT、インターネット等にアクセスできるということでしたが、私たち視覚障害者の場合は、残念ながら、3~4%ぐらいの人しかインターネットにはアクセスが難しいであろうと考えており、情報格差はますます大きくなってきているのではないかと危惧しています。さらに視覚障害者の半数以上が70歳以上の高齢であり、そしてまた中途で失明される人が非常に増えている、高齢化、重度化の中で、テレビからの情報入手は欠かせないものになってきているのです。放送事業者の皆様に、テレビの前に多くの視覚障害者がいるという、この事実を伝えていくことが、私たちの大きな役割であろうということを、このアンケートから知ったわけです。

さてこうした状況というのは、10年前と比較してどうだろうかということですが、当然のことながら、こうしたニーズは当時から視覚障害者の中でも多くありました。しかし、残念ながら聴覚障害者の皆様の、字幕放送の実現要望に対して、視覚障害者の音声解説への働きかけは充分ではなかったのではないかなと思っています。

1993年7月に発行された、「視覚障害」視覚障害者支援総合センター発行No.126では、その中で今まさしく私たちが要求したい、国に対して、放送事業者にぶつけていきたいというような内容が大きく取り上げられています。

そしてまた当時の郵政省放送行政局の担当官が、こうした事実をしっかり踏まえた行政を進めていく決意も述べておられます。当時平成5年、NHKおよび地上系民間テレビ放送局で、音声多重放送によって視覚障害者向け解説放送は週2番組民放では、日本テレビ系列の1番組のみ、1週間当たりの地上放送での総放送時間は9時間19分でした。私たちが注目しなければならないのは、この約10年前と、現時点での音声解説放送時間はそんなにも変わっていないということです。1週28.5時間程度の放送にまだ甘んじているという事実を、私たちは残念に思っております。それとともに、放送事業者と行政機関へしっかりと意見を伝えていくという必要性を感じている次第です。

ではここで、調査の概要を報告させていただきます。この調査は、社会福祉法人日本盲人会連合が、独立行政法人福祉医療機構の助成をいただいて実施したもので、私ども全国視覚障害者情報提供施設協会も一部協力させていただき、私もその調査委員の末席に入れていただきました。約600名のアンケートを頂戴して、現在最終的な分析を進めております。

視覚障害者の実態を考慮して郵送、対面、電話、メール等、多媒体での実施となりました。そしてまた都市圏に偏ることなく、地方の声も反映する、年齢層もバランスをとる等の配慮をして、行っております。テレビを主な情報源としている方は、92.1%と非常に高い数字です。解説放送を聞いたことがある男性は67.7%、女性は76.2%、解説放送を今後充実してほしいという方が、男性87.3%、女性が87.5%ということです。

こうした数字はある程度予測されたものですが、注目したいのは、解説放送を優先的につけるとすれば、どんな番組に一番先に付けてほしいかという設問に、男女とも一番多かったのは、ニュース・報道番組でした。そして、ニュース速報に音声を付けてほしい、天気予報や台風情報に音声解説を付けてほしい、外国人のインタビューに音声解説を付けてほしい、宛先・申し込み・問い合せ先にこちらをご覧くださいという言い方はしないでほしい、というふうなコメントもたくさん付けられておりました。

ここで、寄せられた自由意見の中から2つだけ紹介させてください。1つ目は、滋賀県在住の79歳の女性のご意見です。「解説放送は本当に便利です。よくわかります。先日もよその家で、朝、『天花』を見たら、黙っている場面が多くて全然わかりませんでした。うちのテレビは副音声が聞けるように常に合わせてあるので、お昼の再放送で副音声付きの『天花』を見たら、なぜ黙っているのかがよくわかって、副音声は本当に便利だと改めて実感しました。でも、『天花』や『火曜サスペンス劇場』のように副音声が付いていることがわかっている番組はいいのですけど、NHKの他の番組にも付いていると言われても、どれに付いているのか私たちにはわかりません。つい、見逃してしまいます。もったいないです。」

2人目は、鹿児島県在住の20歳の女子学生のご意見です。「大河ドラマは必ず副音声を付けてほしいです。せっかく歴史の勉強にもなる番組だというのに、画面上に人物名などが出るだけで、私たち視覚障害者にとってはこれだけで判断しなくてはならず、ストーリーを把握することは容易なことではありません。ですから、たいてい2、3話目で挫折してしまいます。また、健康番組やお料理番組で『このようにしてください』や『ここをこうして』などというように、常に代名詞を使われるとどのような状況になっているのか、さっぱりわかりません。そのような番組には、副音声を必ず付けてほしいのです。歌番組やCM、カウントダウンなどで曲が流れる際、題名が文字だけになっています。音声で紹介していただけると大変助かります。同様に、CMでドラマを紹介する際、放送日や時間を音声にしていただきたいのです。曲名、宛先などの音声は何も全てを副音声に変えるのではなく、キャスターさんの原稿やCM自体にもう少し言葉を添えるように意識していただくことも大切だと思います。それは視覚障害者だけでなく、全ての人に共通する思いやりだと思うのです。」

技術的な進歩が伴わないと、あるいは相当な予算が付かないと難しいという問題も多くあることは承知しておりますけれども、このように、テレビの前に視覚障害者がいるということを意識したアナウンサー、あるいは意識したディレクターがいてくだされば、もう少しそのソフト部分で解決されることが多くあるのではないかということを、感じさせる重要な意見が非常に多くございました。テレビがこの社会の中でどれほど必要かということで、いくつか、視覚障害者の意見から報告したい部分はありましたが、もう一つ緊急を要する部分で、これはすぐにでもできるのではないかということのいくつかの報告をさせていただいて、終わりにします。

一つは、緊急放送の扱いなのですけれども、ニュース速報、あるいは緊急放送があるたびにテレビから、「ピピッ」「ププッ」というふうな音が発信されますが、視覚障害者には何が起きているのかがわからないという、この恐さを何とかしてほしいという声が多くあります。それで、例えばこの緊急時の告知音、この音を、単なるニュース速報の音、あるいは注意を喚起する警報の音、あるいは緊急避難勧告や行動を要請する音というふうな段階に区分できないか、また現在は各放送局ともこの緊急音が違っているわけですけれども、統一することで、もっと単なる音だけでも意味合いを持たせることはできるのではないか、という声がたくさんありました。

「ご覧の通りです」という言い方はやめてほしいという、この改善も、すぐに可能ではないかと思うのです。放送事業者と話し合いを持ちました時には、そうした努力はしているとおっしゃいますが、残念ながらテレビを見ておりますと、まだまだそういう場面に遭遇することが多くあります。また、外国人のコメントなどは、翻訳するだけではなくぜひ副音声を付けてほしい。そしてまた最近多く出てきていますのが、この「ぼかし」と言うのでしょうか、コメントの声を変調させて流している、これがまったく聞き取れません。それがこれまでは少しスピードを変える程度で、内容がわかったのですが、昨今、全くわからないような「ぼかし」になっている。そういうふうなことなども、もう少し工夫をしていただければわかるのではないか。その他、意見がたくさん寄せられておりますので、今後、こうした意見を整理することによって、日本盲人会連合などの当事者団体、そしてまた、私ども視覚障害者情報提供施設協会等が協力して、先程の英国におけるロビー活動などの働きかけと同じようなかたちで、ぜひ動いていきたいと思っておりますことを最後に付け加えまして、報告に代えたいと思います。どうもありがとうございました。