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「障害者のための情報保障」セミナー報告書
デジタルテレビ放送の情報アクセス

講演7

金子 健
全日本手をつなぐ育成会理事、明治学院大学心理学部教授

皆さんこんにちは。ご紹介頂きました金子と申します。私は、知的障害のある人とその保護者を中心とした「社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会」の理事をしております。会員は30万人おります。それと、知的障害にかかわる4つの団体で構成されている「社団法人日本知的障害福祉連盟」の常務理事をしております。本職は大学の教員で、障害児教育を専攻しています。

今日はこのようなセミナーに参加する機会を与えて下さいまして、本当にありがとうございます。それから、先程のDr.マーク・ダウンズ、それからMr.ホダのすばらしいレクチャーに感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

さて、知的障害のある人々の情報アクセスということについて、社会全体としてまだ充分なご理解を頂いてないと思いますので、この機会に少しお話をさせて頂きたいと思います。

知的障害、いわゆる知的な発達と社会的な適応能力に障害のある人たち、全国で約48万人いると言われております。それから、昨年12月に発達障害者支援法というのが成立しました。そして、この4月1日からそれが施行されます。これは、2年程前に文部科学省が、軽度の発達障害のある子どもたち、つまり学校の中で特別な支援を必要とする子どもたちがどのくらいいるか、ということを調べたんです。そうしましたら、知的障害は持たないけれども、学習や行動に様々な問題を示している子どもたちが6.3%いるという結果が出ました。ですから、30人、40人の小学校・中学校の普通の学級の中に、2人程度いるわけですね。これが大人になるとどういう割合になるかというのは、まだよく分かりません。しかし、6%というふうに考えますと、700万人くらいの方がそれにあたるわけです。これまで学校教育でも、福祉でも法律がなくて十分な対応がされていなかった軽度の発達障害の方々に法的な対応をしっかりできるようにしましょうというのが、この発達障害者支援法です。

これらの方々、つまり知的障害および軽度発達障害のある人たちは、認知発達に障害をもっています。この認知の障害を持っているということは、情報の理解に障害を持つということでもあります。コミュニケーションですとか、あるいは情報を理解する、情報を発信するという面に困難を持った人たちです。そういう人たちがテレビですとかインターネットをどういうふうに利用していくのか、どうアクセスしていくかということを考える時に、その認知の障害ということがあるが故に、そのアクセスというものが非常に制約をされている。その結果、先程の総務省の課長さんのお話にもありましたけれども、多くの家庭や職場にインターネットが普及しているというような時に、まさに世の中の人たちがそういうものを利用して、健康で文化的な生活を送っていこうというような時に、そこから取り残される人たちがいるということです。これは聴覚障害や視覚障害、あるいは身体障害をお持ちの方々と同じ問題を持っているということになると思います。

それでは、その知的障害、あるいはそういった発達障害のある人たちが、情報へアクセスするということ、その時の困難さについて少しお話をしたいと思います。

まず、その情報を受け取る、理解するという時に、これは例えばテレビを見てということを考えてみたいと思いますけれども、文字情報だけでは分かりにくい、或いは言葉の情報だけでは分かりにくい人たちです。映像ですとか或いはマークですとか、そういったものを上手く取り入れた情報提供、というものが必要なわけです。先程の岩井さんのお話でも、或いは高岡さんのお話でも、非常時の情報の理解ということが問題になりましたけれども、これは知的障害の人たちにとっても同じことですね。地震の情報が流れ、そして津波が来るのか来ないのか、アナウンサーはかなり早口で「津波の心配があるから海の近くへは行かないように」というようなことを何度も繰り返して言っていますね。そういう時に、その情報が理解できない人たちがいるということを、知って頂きたいというふうに思うわけです。或いは、もちろん緊急放送というだけではなくて、日常のニュースですとか生活情報で充分な理解が出来ないということで、様々な文化的な機会への参加というものが制約をされているわけです。簡潔な文章で分かりやすく伝えて頂きたいと思います。

今、知的障害の人たちが、例えばニュースを理解するときに一番分かりやすいのが「手話ニュース」だというふうに言われています。ゆっくりとしゃべってくれる、或いは文字が出る、そしてふりがながついているということで、手話のニュースを知的障害の人たちも共に楽しんでいる、そこから情報を得ているという状況があります。或いはNHKの“週間子供ニュース”などですね、分かりやすく説明をしてくれるということで、その人たちはそれを利用しているということです。或いは、スポーツ中継などももちろん楽しんでいる人はたくさんいますけれども、ルールがよく分からないということで、充分に楽しめないという状況もあります。メインのアナウンサーが、ルールを詳しく説明するということはできないかもしれませんけれども、例えば副音声で、或いは字幕の解説で、ルールについての説明などが加われば、知的障害の人たちも、そしてもちろん高齢の方々も、スポーツを楽しむことができるわけです。

それから、もう一つは機械の扱いについてです。先程のイギリスでのお話にもありましたけれども、例えばテレビにそういう付加機能がどんどん付けられるにつれて、操作が複雑になるのでは困るわけです。簡単な操作で情報が利用できるように、是非して頂きたいと思います。

この機械の操作ということについては、これは情報を受けるだけではありません。例えば、インターネットに知的障害の人たちもアクセスをして、そこで自ら情報を発信していくということも、これからのノーマライゼーションの社会の中では必要なことだろうと思います。情報発信に際しても、操作性の向上は不可欠です。

もう一つだけ申し上げたいと思います。今、学校教育で、インターネットや情報機器というものが、ものすごい勢いで取り入れられています。小学校どこへ行ってもインターネットを使っていろいろ調べ学習をしたり、テレビの番組を利用したりしています。子どもたちは、まさに今の情報社会の中で、様々なことを学んでいくわけですけども、障害のある子どもたちがそこから取り残されるということは、これは非常に大きな問題だろうと思います。もちろん、私たち大人が、障害のある人も無い人も、様々なそういった情報に触れていく、それを利用できる、アクセスできるということは大事ですけれども、発達途上、成長途上にある子どもたちの中で、障害があるが故にそういった情報を利用できない子どもたちにおけるデジタルデバイドというものの影響というものは、ものすごく大きなものがあるだろうと思います。是非、関係団体の方々は、学校教育における、障害のある子どもたちの情報の活用ということについても、関心を向けて頂きたいと思います。

最後にもう一つだけ、障害者放送協議会、私もそのメンバーに入れて頂いておりますけれども、放送されたものの中で、障害者がどういうふうに扱われているか、例えばテレビドラマの中で、障害のある方が登場するという場面はずいぶん多くなってきました。そういう中で障害のある人たち、或いは障害を持った子どもたちが、どういうふうに扱われているかということも、これは社会の障害への理解、認識という意味で、非常に大切な問題だろうと思います。今日はあまりそこの問題は触れられておりませんけれども、是非これから関係の団体の皆さんと一緒に、そういった問題も、また考えていきたいというふうに思っております。

それでは、時間になりましたので失礼致します。ありがとうございました。