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平成17年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した
障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

より良いITサポートを目指して

畠山 卓朗
星城大学リハビリテーション学部教授

1.はじめに

IT(Information Technology,情報技術)サポータに適している人とはどの様な人を指すのでしょうか.ITに関する知識なら誰にも負けない、コンピュータ言語を駆使してプログラムを作成することができる、電子回路の設計が得意、などなど様々なことが思い浮かびます.では、それらの知識や技術を持ち合わせていない人はITサポータとしては不向きなのでしょうか.確かに、ITに関する基礎的な知識が必要であることには間違いはありませんが、実は上述したことがら以前に、サポータを目指す人には必要不可欠な条件があるのです.以下では、ITサポータを目指す人にぜひ育んでほしいと思われる条件をいくつか述べたいと思います。

それらの条件を兼備えた上でさらに上述したような知識や技術を有するのであれば、より大きな可能性が生まれることと思います。

2.サポータに求められる条件

a.旺盛な好奇心

読者の中には「テクノロジーは苦手」と考えている人がおられるかも知れません。多くの場合それが「ITも苦手」につながります。もし救いがあるとしたら、何事にも好奇心が持てるかどうかということだと思います。自分のまわりにいる人に関心がある、身の回りにあるモノや道具の形や仕組みに面白さを感じる、どんなことでも構いません。好奇心なら誰にも負けないという人ならサポータとしての大切な条件の一部を備えています。たとえ「テクノロジーは苦手」と考えている人でも、目の前の支援を求めている人に関心が持てるのであれば、テクノロジーの壁は必ずや乗り越えることができます。

b.多様な価値観

重い障がいのある人にとって何か一つでも自分でデキルことは、生きていることを実感し、生きる意味を見いだし、時には他者に対する役割があることを見いだす手がかりを生み出します。「できて当たり前」の世界にいる人は、障がいのある人の喜びの瞬間を見落としてしまいがちです。なぜ見落としてしまうのでしょうか。それは、ITに関心が強い人の中にはしばしばテクノロジー、例えばパソコンの画面に目を向けてはいても、それを使っている人の表情を見ていないことがあります。顔の表情がうまくできない人でも、目の表情がそれを物語っている場合があります。モノではなくその先にいる「人を見る」ことから始めてみてください。

c.複数の提案ができる

障がいのある人から提案を求められた時、読者はどんな提案の仕方をされるでしょうか。

ITに詳しい人であれば、テクノロジーを十分に駆使した提案をされるでしょう。ようやく一つ覚えた知識をこの際なんとかうまく使ってみようと考える人がいるかも知れません。一方で、人の手でサポートすることが大切と感じる人がおられるかも知れません。どれも間違いではないのですが、つぎのように考えてみてはどうでしょう。与えられた課題に対して、すべてテクノロジーを駆使した場合にはどういう解決方法があるのだろう、そこにはどんな利点と欠点があるのだろう。反対に、すべてのことを人手で解決するとしたら、そこにはどんな利点や欠点があるのだろう。さらに、ある部分はテクノロジーを用い、残りは人手で行うことも考えます。つまり一人のサポータの中に様々な提案者がおり、それぞれが提案し議論を行うのです。そして、相談者に提示した提案の利点・欠点を説明しながら提示します。これにより、相談者は唯一の解決方法ではなく、自己選択・自己決定の場を与えられます。

d.生活次元で考える

例えば、「口にくわえたスティックでキーボードを操作したい」という相談があったとします。通常思い浮かぶ具体的なサポート内容の一例は、口にくわえるスティックと標準キーボードに代わる入力装置の選択です。

しかしここで、パソコンを操作するとはどんなことなのか、改めて考えてみてください。そこには上述した検討項目以外の様々な検討課題が埋もれています。例えば、スティックは四六時中、口にくわえたままにしておくのでしょうか。疲れた時や、誰か人が尋ねてきた時、スティックを自分で一端収納し、作業開始と同時にスティックを自分で口にくわえられるようにする必要があります。一方、作業中に書類や解説書の頁をめくって欲しいときに、誰かを呼ぶ手段(例えば、呼びリン)が必要にならないでしょうか。夕暮れ時になり部屋が薄暗くなったら自分で照明を点灯するといった手段(例えば、環境制御装置[1])が必要になります。

以上のように、生活の流れの中でITサポートを捉えることで解決すべき課題が明確に見えてくるようになります。

3.おわりに

以上、より良いITサポートについて考察してみました。ここで述べたことがそのまますぐに実行できると考えないでください。行動し、気付き、そして考察してみる、その繰り返しの中で自分に合った方法を見つけていってください。なお、ITサポートはサポータだけが行うのではなく、利用者自身、その家族、周辺にいる人々をも含めたチームで育んでいくものです。

参考文献

畠山卓朗:自立支援のためのテクノロジー活用と今後の課題、QualityNursing,Vol.9,No.9,pp.10-15,2003