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第22回総合リハビリテーション研究大会
「地域におけるリハビリテーションの実践」-総合リハビリテーションを問い直す-報告書

【 分科会 2 】 生活の定着と求められる支援:精神科医療と地域生活支援の接点を考える

東京都立精神保健福祉センタ-
川関 和俊

1.はじめに

精神障害の特徴として、病気がいったん安定した後も、薬を飲まなかったり、日常生活で過剰なストレスをこうむることで、病状の不安定化や再発が起こりやすく、長期間にわたって病気と障害が並行するという点がある。これは精神障害者の援助には医療と福祉の双方が必要である根拠となり、昭和63年の精神保健福祉法で社会復帰施設が盛り込まれ、平成7年の精神保健福祉法で福祉が盛り込まれることになった。
精神科医療はこれまでの歴史から特殊な閉鎖的なものと見なされがちで、事実まだまだ変わっていない面も多く、「いつでも」「どこでも」「だれでも」かかりやすい精神科医療への転換が切に求められている。気軽にかかりにくいのは精神科医療の大きな問題である。医療機関が住んでいる身近な所に少なくて偏在しているという物理的なアクセスの問題とともに、病院の環境を整備し、インフォームド・コンセントや開放的な処遇に力を入れて、心理的にももっと気軽にアクセスできるようになることが重要である。
また、医療の重要性ばかりをあまりに強調しすぎると、医療が抱え込んで保護的・指示的になりすぎ、本来個人が獲得し保持すべき自己管理や意志決定の能力を弱めたり、社会参加の幅を狭めてしまうなどの問題が生じやすい。この点では、精神障害者の援助者が本研究会等で他障害の歴史と現状から学ぶことが多くあると思う。

2.地域生活支援を志向する精神科医療

精神科医療の過去及び現在の問題点を語ればきりがない。しかし、最近の精神科医療では地域生活支援の一翼を担っていこうとする積極面も増えている。最近の変化のよい面を紹介する。

(1) 精神科診療所(クリニック)の増加

精神科を標傍している診療所は全国で約3200か所あり、特に都市部で増えている。身近にあり、かかりやすい長所がある。地域サポートに力を入れている所、神経症やうつ病を主としている所など、内容はさまざまであるが、地域で作業所やグループホーム等の設立に積極的に関与し、精神障害者を支える地域ネットワークの中で役割を果たしている所も増えている。東京都における精神科クリニックの活動を表1に示す。

(2) 病院・診療所の訪問看護

精神障害者に対する訪問看護は昭和61年から医療機関で診療報酬の対象として認められるようになった。また、平成6年には訪問看護ステーションからも精神障害者の訪問看護が認められるようになった。訪問看護は地域で暮らす当事者の不安を和らげ、再発を防止する上で大きな役割を果たしている。またこのような地域支援は、病院自身にとっては、病棟、外来、ワーカー室等の連携によリ、地域に開かれたハビリテーション活動を活性化させることにつながりうる。また、同様に訪問活動を行う保健所、福祉事務所、さらに今後はホームヘルパー等と連携した地域サポートとして、病院のみで自己完結させない援助が重要である。

(3) 休息入院

軽い病状のうちに1、2か月ほどの任意入院を行い、また地域生活に復帰する。何が何でも入院は絶対避けるという援助では、支える周囲の家族や職員は疲れ切ってしまうし、入院治療は場合により必要である。また、早目に短期の入院治療を受け、地域生活に戻るようになれば、本人にとっても入院治療のイメージがよくなり、治療方法としてもっと気軽に選択しやすくなる。

(4) ショートステイ

国の要綱に定められたショートステイは、現在は生活訓練施設(援護寮)のみで行われており、60か所で実施されているのみだが、今年の精神保健福祉法の改正で平成14年度からは市町村事業としても実施できることになった。
家族の病気や冠婚葬祭などの理由のみならず、家族としばらく距離を置いたほうがよい場合、単身者の疲労回復、公営住宅の補修期間やアパート退去後の再確保までの期間など、利用価値は大きい。

(5) 精神科救急医療システムの整備

一般科医療並みの、近くてかかりやすいシステムが求められる。ショートステイ--休息入院(任意入院)--ソフト救急(医療保護入院中心)--ハード救急(措置入院中心)の一連のものとして整備すべきだが、現在はまだ夜間休日のハード救急のシステム(一般科医療では三次救急に相当)を国の補助金により各県で整備つつある段階である。

3.まとめ

とかく医療の専門性としては病気を生物学的な視点から見ることが中心となり、患者の生活に着目することがおろそかになりやすい。医療従事者も、地域生活を援助する者に求められる共通の視点として、もっと患者を取り巻く社会的環境的な因子に着目できるようでありたい。  また、最初にも述べたように、医療が手を延ばしすぎると自立と社会参加を阻害しやすい面がある。現状では、社会復帰施設を作るには法人格、土地等の資産、スタッフの確保が必要なことから、医療機関が法人として社会復帰施設を作るケースが多い。これは援助資源を拡げていく歴史の一過程であるかもしれないが、多機関・団体及び多職種が役割分担する中で各々の特徴と専門性を生かして援助の幅を拡げ、その中でユーザーの主体性もより発揮できる方向に進んで行くべきである。精神障害者への援助に携わる者としては、三障害の統合化の大きな動きの中で他障害の援助の歴史と現状に触れながら、特にこのことを強く感じる。

表1
精神科クリニックの活動
東京都の場合  総数 約450か所
デイケアを実施 9%
夜間休日診療(夜間は19時以降) 18%
訪問看護を実施 14%
往診する所 26%

日本障害者リハビリテーション協会
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