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第22回総合リハビリテーション研究大会
「地域におけるリハビリテーションの実践」-総合リハビリテーションを問い直す-報告書

【 分科会 3 】自立生活に向けたピアサポートの実践:自立生活へ向けたピアサポートの実践~メインストリーム協会~

メインストリーム協会
佐藤 聡 

 メインストリーム協会とは

 メインストリーム協会の目的は、障害者の自立生活を支援することです。障害が重くても、自らの意志で、自由に自立した生活を送る権利を持っています。現在12名のスタッフがおりますが、このうち10名は障害を持つ当事者です。障害者が中心となって運営しております。
 1989年に設立したのですが、当時は自立している障害者はほんの2~3人でした。しかし、94年から介助料制度も整い始め、自立生活をする障害者も徐々に増え、今では15名になりました。初期に自立した人は、自立への意欲が非常に強い人達です。新聞を見たり、人づてに聞いたりして向こうからこちらにやってきてくれます。比較的スムーズに自立できますが、すべての人がこのように、積極的なわけではありません。施設での生活が長く続き、経験が不足し、自分への自信を失い、自立への意欲をすぐには持てない人達が沢山おります。これからは、いかにして施設・在宅の人達に自立への意欲を持ってもらうようできるかというのが大きな課題です。

 施設・親元から自立生活へ

 待っていても、向こうからはなかなか来てくれません。そこで、こちらから施設に出向いて誘うということを始めました。訪ねていって、仲良くなりどんどん「盛り上げ」ます。そこで、「今度外出の練習をするプログラムをやるんだけどこない?」と誘います。参加してくれたら、そのプログラムを通して、少し自信をつけてもらい、今度は本格的に自立を目指す自立生活プログラムに誘います。プログラムで様々なことを学び、自信をつけ、自立への意欲を持つようにどんどん、盛り上げていくのです。本人が自立への意志を固めれば、事務所の2階にある自立生活ルームで練習し、自立となります。もちろん、みんながみんなすべてスムーズに行くとは限りません。自立生活を始めたけど、問題が多くて上手くいかないという人もいます。たとえば、お金を計画的に使うことができず、月初めに沢山お金を使ってしまい、月末には介助者に払うお金が無くなってしまったという人や、介助者との関係を上手く作れず、介助者が定着せずにどんどんやめてしまうという人もいます。どういうことが問題になっているかを本人と話し合い、必要であれば個別にプログラムを行います。毎週1回事務所に来てもらい、先週はどうだったかということを話したりします。こういったことを確実に行っていくと、必ず上手くいくようになります。本人もいろいろと大変ですが、施設へ戻りたいといった人は一人もいません。

 障害者甲子園

 自立を促すために、障害者甲子園という大会もやっています。これは、高校生の障害者を全国から50名西宮に呼んで、地元の高校生50名と一緒に3泊4日で合宿するものです。自立や人権ということを話し合い、交流をします。介助もすべて地元の高校生が行います。この大会に参加するには1つ課題があるのですが、どんなに障害が重くても一人で西宮まで来ることです。移動時間が長く、途中でどうしても介助が必要な人は介助者を認めますが、親や学校の先生以外の人にして下さいといっています。これは、一人で公共交通機関を利用するという経験を積んでもらいたいためです。障害があると周りが心配して一人で移動するという経験を積むことが非常に少ないのです。本人に力がないからできないわけではありません。経験が無く、自信を持てないだけです。そこで、この機会に自分の力でやるという経験を持ってもらい、自信をつけて欲しいのです。毎年、大会が近づくと電話がかかってきます。ほとんどが親からです。「うちの子は障害が重くてとても一人で電車になんて乗れませんから、私が一緒に付いていきます」というものです。何が心配なのかということをよく聞きます。そして、駅が階段だけで上がれないというのであれば、駅員に話したらちゃんと手伝ってくれますとか、一つ一つ方法を伝え、励ますのです。そうやって、一人で来てもらいます。来るときは緊張した感じだったのが、帰るときには自信満々の顔に変わっています。経験というのはとても大切で、一度できれば、自信がついて次からは何度でもできるのです。
 この大会の中で、みんなに自立を勧めます。重度の障害者は自立なんてできると思ってもいない人が沢山います。制度はこういうのがあって、意欲さえあれば自立できるんだということを説明し、その気になったらまた連絡をくれるようにいいます。この大会のあと、西宮に出てきて自立した人もいますし、それぞれの地元で自立していった人も沢山います。

 前日の質問に関連して

 昨日チャンピオンレポートの時に会場からの質問で、「楽をする権利、からだを気持ちよくする権利、今までは疲れることやしんどいことでも、がんばらなくてはと、やってしまう。」という話があったが、これは、大人には当てはまっても、子どもには当てはめられないのではないか。子どもは可能性があるから、最大限の機能を身につけるためにリハビリをやらなければいけない。やめて、介助者に頼ってしまったらそこでストップしてしまう、というご意見がありました。この質問に関連して、少し違う角度からお話ししたいと思います。
 障害者は社会性がない人が多いとよく言われます。僕はこの意見は現実だと思います。なぜ、障害者は社会性や生活力がないのでしょうか。
 例えばここに、障害があって不安定だけどどうにか自力で歩ける人がいます。この人は、自分で歩くことに非常に強いこだわりがあります。でも、障害があるから、歩くのはとても大変です。多くのエネルギーが必要で、しかも長い距離は歩けません。暑い時期でもないのに汗だくになって、ふらふらになって歩いています。なぜそんなにがんばるのでしょうか。そんなに歩くのが大変ならば、もっと楽な車椅子に乗ればいいと思うのです。車いすを使えば、もっと楽に自由に移動できます。歩くのが大変であれば外出はなかなかできません。外出しないことによって、経験が不足し、本来身につくべき経験や力が身につかなくなっていくのではないでしょうか。歩けるという能力にこだわるのではなく、社会の中で生きるということを中心に考えれば、その為に一番良い方法をとったらいいと思うのです。
 自分でやると10しかできなくても、それを車椅子や介助者を使うことによって、100くらいできるようになる。100できることで、より多くの経験ができ、社会性が身についてくると思うのです。それを僕は重視したいと思うのです。それは、大人も子どもも同じです。

 人権意識の重要性

 リハビリの専門家と自立生活センターの違いは何かという話が出ました。堤さんは「障害を否定的にとらえるか、肯定的にとらえるかの違い」と言われました。僕はもう一つ付け加えたいと思います。それは、人権意識が高いかどうかということです。自立生活センターの職員は、この人は人権を保障された生活が送れているかどうかということを常に考えています。
 福祉事務所に行って、制度を使いたいのに断れたという話をよく聞きます。その人にとって必要不可欠のものであっても、対象外であれば使えない。あるいは、どんなに必要であってもそのよう制度がなければそれ以上はできないと言います。そして、そこですべて終わってしまいます。でも、自立生活センターはそこでは終わりません。制度がなければ要望し、創っていこうと行動します。制度がないのがおかしいのです。誰でも人権を保障された生活を送る権利があります。だから必要なものは創って行くべきなのです。このサービスや制度で障害者の人権が保障されているのかどうかということを、常に考えることが非常に重要なのです。ですから、障害者に関わる仕事をする人は、人権意識を高めることが必要不可欠だと思います。


日本障害者リハビリテーション協会
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