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「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラム 大阪フォーラム報告書

10月21日【パネルディスカッション】

障害者権利条約制定に向けて
-国際パネルディスカッション概要報告-

アーサー・オライリー
(前RI会長 アイルランド)

 第12回リハビリテーション・インターナショナル(RI)アジア太平洋地域会議が、大阪フォーラムの一環として2002年10月21日~23日に開催された。会議の主たる目的は、そのテーマ「障害者の権利実現へのパートナーシップ」に象徴されるように、すべての主要障害関係団体と緊密に連携して、国連障害者権利条約の制定を確実なものにすることであった。会議初日に行われた中心的な全体会議は、「障害者権利条約制定に向けて」と題したパネルディスカッションであった。私は1996~2000年期RI会長として、光栄にもすばらしい方々とともにパネリストとして招かれた。また、障害者インターナショナル(DPI)日本会議副議長、平野みどり氏とともに、パネルディスカッションの共同座長を務めるよう要請された。
パネリストはこの他、ニコラス・ホーエン(国連人権高等弁務官事務所アジア太平洋地域代表)、撲方(デン・プファン;中国障害者連合会[CDPF]会長)、ジョシュア・マリンガ(前DPI世界議長)、ビクトル・ウーゴ・フローレス・イゲラ(メキシコ障害者促進・社会統合担当室長)、エソップ・G・パハド(南アフリカ大統領府担当大臣)、池原毅和(日本弁護士連合会)、バート・マッシー(イギリス障害者権利委員会委員長; マッシー氏は出席できなかったため、論文がイギリス障害者権利委員、サギル・アラム氏によって読み上げられた)、ヘレン・ミーコシャ(障害をもつ女性オーストラリア会長)。
さらに、リサ・カウピネン(世界ろう連盟[WFD]理事長)がパネリストに加わった。また、ベンクト・リンドクビスト(国連社会開発委員会特別報告者)が、パネル助言者を務めた。

はじめに

 これまでの背景を概観する中で、私は障害者権利条約制定の試みがなされたのは今回が初めてではないと述べた。1980年代後半に、2つの取り組みが行われた。いずれも国連の支援が得られず失敗に終わった。多くの政府代表の見解では、既存の人権文書が非障害者と同じ権利を障害者にも保障していると考えられるというのが、主たる理由であった。既存の人権文書が、障害者を含むすべての人に適用されることは事実である。この点は、1994年に国連経済的・社会的・文化的権利(=社会権)規約委員会によって確認された。ただし、人権文書の遵守状況に関する報告の中で同委員会は、各国政府が障害者に対してほとんど配慮を払っていない点を認めている。国際的な人権文書の中に明確な障害関連条項を盛り込む必要性は、「子どもの権利条約」など、その後の措置の中で認識された。その結果、同委員会は、「障害者の人権は、一般的な法律、政策、および施策だけでなく、特定目的の(specially designed)法律、政策、および施策によっても保護・促進されなければならない。このことは今や広く受け入れられている」との結論に至った。
1999年、RIは「第3千年紀憲章」(a Charter for the Third Millennium)を承認し、これをもって国連障害者権利条約制定キャンペーンを発足させた。国際障害者デーの1999年12月3日、私は国連人権高等弁務官、メアリ・ロビンソン氏および国連人権委員会委員長(当時)、アンダーソン大使にRI憲章を献呈するとともに、国連に条約起草を働きかけるため、両者の支援を要請するという光栄に浴することができた。
2000年3月、RI、DPI、国際育成会連盟、世界盲人連合、および世界ろう連盟のリーダーが、中国障害者連合会の厚意により北京(中国)に招かれ、会合をもった。この会合から生まれた北京宣言は、世界各国の政府に条約を支持するよう訴えた。2000年4月、国連人権委員会は決議を採択、障害者の人権の保護・モニタリングを強化するための方策を検討するよう人権高等弁務官に要請した。
これを受けて人権高等弁務官事務所は、障害者の権利保障に関する既存の条約の有効性を評価する調査を委託した。ジェラルド・クィン氏およびテレジア・デジュネ氏が実施したこの調査の報告書も、国連障害者権利条約を支持している。2001年9月、国連でメキシコ政府がイニシアティブを発揮し、その結果、障害者の権利の保護及び促進に関する包括的な条約についての案を検討するための特別委員会が設置された。特別委員会は第1回会合を終え、最初の報告書を提出している。
座長の私は最初にあいさつをするにあたり、我々は歴史の中でもエキサイティングな瞬間にいるのだと述べた。障害者の権利に関する法的拘束力のある国際条約の制定にまさに立ち会おうとしているのである。新たな条約の誕生を確信できるようになるまでに、すべきことは山積している。過去の試みは各国政府の支援不足が原因で失敗に終わった。今回、歴史は繰り返すことのないよう、我々は肝に銘じなければならない。

冒頭発言

 ベンクト・リンドクビスト氏は、国連でのメキシコのイニシアティブには、誰もが意表を突かれたと述べた。その結果、多くの政府が躊躇や警戒の姿勢を示したが、そのことは、特別委員会の任務は「条約を起草する」ことではなく「条約についての案を検討する」ことであるとする国連決議の表現に反映されている。したがって、第1の問題は、皆さんの政府は条約起草についての案を支持するのかということである。
同氏は、2000年6月にメキシコ政府が国連事務局と共催した会合について言及した。この会合は、障害者に関する法律、政策、および施策の国際的な専門家35名が一堂に会したもので、メキシコが作成した条約草案の検討が主たる目的であった。専門家はまず、条約起草に関する一連の原則ならびに盛り込み得る内容のリストについて、意見の一致をみた。2つの明確なメッセージが明らかになった。

  • 条約は、人権を基本とするべきである
  • 起草プロセスは、障害団体、各国政府、その他関係当事者の参加を可能とするべきである

 同氏は、メキシコ草案は人権アプローチを採用していないように思われると述べた。メキシコ政府は専門家の提案にしたがって多くの修正を加えたものの、草案には「人権の枠組からはずれた、社会開発協定の一般的特徴が残された」。
特別委員会は2002年7~8月に会合を開いた。60カ国以上の政府代表および国際的な障害関係NGOが多数参加した。その報告書の中で特別委員会は、以下の点を総会に勧告した。

  • 特別委員会は2003年5月か6月に第2回会合を開催すること
  • 事務総長は、条約案についての見解を加盟国および他の関係団体に求めるとともに、それらの見解に関する報告書を特別委員会に提出すること
  • 加盟国は、起草プロセスの中に障害関係団体および他の専門家を含むよう奨励されること。

 しかし、リンドクビスト氏は、起草プロセスに関して、財政的に非常に乏しいことを警告した。十分な数の国がリソースの提供をしない限り、特別委員会勧告の多くは実現しないかもしれない。オープンな条約起草プロセスと各国への圧力との妥当なバランスを、できるだけ短期間にいかにして得ることができるかを、同氏は問いかけた。また、条約は人権を超えて、予防や国際協力といった問題も盛り込まれるべきなのだろうか。
ニコラス・ホーエン氏は、女性や移住労働者など、他の運動の経験から学ぶべきであると提案した。基準規則のような推奨基準が法的拘束力のある文書へと発展することは、通常みられることである。これは、子どもの権利、人種差別撤廃などに関する基準について起こったことである。人権高等弁務官事務所は、障害者の権利に関する法的拘束力をもつ文書を求める動きを強く支持している。
ただし、ホーエン氏は私見として、今日の政治的環境は国際条約の起草にとって望ましいものではないと警告した。同氏は、一部の人権基準は認知されるのに18年を要した点を一同に想起させた。条約として合意に至るには何年もかかるであろう。条約発効に先立ち十分な数の加盟国によって批准されるには、さらに長い年月を要するであろう。また、新たな基準が憲法、法律、政策、人々の言動や姿勢の中に組み込まれるためには、一世代かかるであろう。
同氏は、人権条約の5つの特徴に関する考えを概説した。第1に、人権アプローチは、社会の一部の人々が周縁化もしくは差別される理由の根底にあるのものは何かを問うものである。こうした社会集団の大部分と同様、障害者は深く染み込ませた社会的、文化的偏見を受けている。条約は、メディア、政策決定の場、職場、学校、そして社会全体に存在するこうした姿勢を、加盟国が徐々に変えていくための大まかな道筋を提示する必要があるだろう。第2に、人権アプローチが目指すのは、障害者が自信をもって選択し、自らの権利を主張し、さらに人生を自らコントロールするような環境をつくることである。条約は、他の権利の実現に役立つ権利(例えば、アクセスしやすい形で情報を得る権利)を採り上げなければならないだろう。第3に、人権は、実行されない限り、美辞麗句に過ぎない。条約は、国レベル、国際レベルで改善策を提供する必要があるだろう。これは法廷での差別に異議を唱える能力を含まなければならないが、さらに一歩踏み込んで、国内の人権委員会、オンブズマン、議会などの組織を用いた行政面の改善策も含まなければならない。
第4に、条約は市民的、政治的権利と同様、経済的、社会的、文化的権利にも配慮する必要があるだろう。障害者が住宅、健康などの権利にアクセスすること、投票すること、公正な裁判を受けることができるようにするための特別措置を設ける必要があるだろう。最後に、そしておそらくもっとも困難な点であるが、人権アプローチは、差別を受けている人々が、その生活に影響を及ぼす事柄についての決定プロセスにおいて意見を求められ、参画することを重視するものである。
ホーエン氏はさらに、障害者の権利のモニタリングおよび保護を目的として、新たな条約が孤立したシステムを生むことがないよう、我々は注意しなければならないと述べた。新条約は、国レベル、国際レベルで障害者のインテグレーションとメインストリーム化を後押しするべきである。
条約は、さまざまな加盟国の歴史や文化的背景に加えて、さまざまな開発レベルも考慮に入れなければならない。開発途上国における障害者の状況に対しては、特段の注意を払うべきである。世界の障害者全体の80%が途上国に住んでおり、それら途上国においては、障害者サービスのリソースは極めて限られている。我々は障害者の権利に関して、標準的な基準(standard criteria)を設定する必要がある。その一方で、加盟国に対しては、条約の実施にある程度の自由を認めることも必要である。そうすることによって、条約は多くの国に受け入れられるようになる。
同氏は最後に、このような条約を制定するためには、関係当事者すべての連帯が必要であると述べた。とりわけ、すべての国の政府の参加を得ることが必要である。
ジョシュア・マリンガ氏も、障害者の権利侵害が続いていることに触れた。同氏は、新たな条約が必要である点、ならびに条約は人権に基づいたものであるべきだという点で、他のパネリストに同意した。しかし、条約に差別撤廃条項(anti-discrimination measures)を盛り込むべきではないと考えると同氏は述べた。こうした条項は付則(by-laws)によって取り扱うことが可能なのではないかというのが、同氏の考えである。「我々が本当に取り組むべきものは、生存する権利、衣食住の権利-すなわち基本的人権である」。
マリンガ氏は、この問題は特別な権利に関するものではないと強調した。文書はあらゆる経済レベルに適用されるべきであるとの考えに賛意を示した。また、極めて重要なことは、障害者の声に耳を傾けるべきだという点である。
ビクトル・ウーゴ・フローレス氏は、国連総会でフォックス大統領が特別委員会の設置を呼びかけた際の言葉を引用し、次のように述べた。「……我々がもっとも弱い立場にある人々の排除を放置するならば、より公正な世界を実現することはやはり不可能である。したがって、我がメキシコ政府は、障害のある人の権利及び尊厳の保護及び促進に関する包括的かつ総合的な国際条約の起草を担当する特別委員会の設置を提案した。この条約の主たる目的は、世界の何百万人もの男性、女性、および子どもの基本的な権利を保障するため、障害者の利益となるような、強制力と普遍的特徴を備えた法的拘束力のある文書を制定することである。この重要な責務は国連加盟国の支援にかかっているとメキシコは考える」。
フローレス氏は、他のパネリストがすでに述べたとおり、2002年6月にメキシコシティで開催された専門家会合および2002年7月~8月にニューヨークで開催された特別委員会会合に言及した。同氏は最後に、「約6億の障害者が暮らすこの世界に連帯感を吹き込み、障害者の不平等や差別と闘うためのツールとなる新たな国際条約の起草に向けて、引き続き尽力する」よう、一同に強く求めた。
エソップ・パハド氏は、基本的人権に基づきながら、社会開発の問題にもしっかりと焦点を当てた新たな条約を求める動きを、南アフリカは強く支持すると述べた。「我々は一方なしにもう一方を達成することはできない」。アフリカ大陸の状況に関してパハド氏は、条約が制定されれば、障害者の増大につながる紛争や戦争の解決という問題に対して、特別の注意が向けられるようになるだろうと述べた。
「条約は、我々が一定期間に一定の成果を挙げるよう取り組むことを可能にし、報告のメカニズムを提供し、障害者の権利に関する関心を高める啓蒙ツールとしての機能をもち、障害者の政治的、精神的支柱となるとともに遵守に強力なはずみをつけ、さらに障害者が一般の社会の一員となるための国際的なリソース増大の扉を開くことだろう」。パハド氏はさらに、条約起草のプロセス全体と条約そのものが、幅広い貧困撲滅戦略と広範な開発戦略との掛け橋となるべきであると述べた。「我々は、障害者が直面する課題のゲットー化(ghettoising)から抜け出さなければならない」と同氏は付言した。障害者が情報を得た上でプロセス全体に参画することが不可欠である。
パハド氏は最後に、我々が有意義で充実した文書を手にできるまでには、少なくとも4年という長いプロセスになるとの私見を述べた。また、各国政府にキャンペーン参加を説得する取り組みに、南アフリカとして支援を惜しまないことを約した。
ヘレン・ミーコシャ氏は、オーストラリアは主要な国連条約すべてに関係しているものの、このことは同国の国内法にそれほど大きな直接的インパクトは与えていないと述べた。先住民の平等な権利を求める闘いを例にとり、オーストラリアの先住民NGOは、その政策課題を世界レベルで推進することができたと同氏は述べた。オーストラリアでは、1992年の障害者差別禁止法の施行から10年が経過したが、同法の障害者にとっての真価、便益、および費用対便益をめぐって論議が起こっている。同法の中の「合理的配慮(reasonable accommodation)」や「過度の困難(undue hardship)」といった表現は、権利に制限があるという意味合いを含んでいる。
ミーコシャ氏によると、オーストラリアでは、障害者の間で条約案についての認識や議論はほとんど見られず、また、この件について政府がNGOと協議することもまったくないという。
池原毅和氏は、日本の障害者政策は、社会福祉モデルに基づいてきたと述べた。一般の社会システムは、非障害者のニーズにこたえる仕組みになっている。これに対して人権モデルにおいては、障害は、状態そのものと社会環境との相互作用の結果として認識される。
日本の法律では、障害者とは身体的または精神的機能障害によって、日常生活および社会生活が長期的に著しく制限されている人だと定義されている。この定義は社会福祉モデルに基づいている。法律では障害者の権利がうたわれていない。障害者のためのアファーマティブ・アクション(差別是正措置)が必要である。
池原氏は、訴訟手続きは費用がかかり、長期にわたり、日々の問題を扱うには適切でないことから、日本に新たな裁決機関を設立すべきであると論じた。池原氏はまた、日本における障害者差別禁止法の制定を訴えた。
バート・マッシー氏は論文の中で、条約に盛り込まれると思われる多くの権利は、イギリスの法律にすでに定められていると述べた。それではなぜイギリスは条約を支持するのだろうか。第1に、障害者が旅をする際、外国の設備が障害者に適したものである必要がある。権利が確立した国の住民は、世界全体の権利促進に力を貸すべきである。第2に、障害者のための強制力のある市民的権利を整備するためには、イギリスでも多くの課題が残されている。国連条約はこの実現に役立つであろう。条約は国内法の評価基準となるであろう。条約は、何が必要かを示す標識となり、積極的変化をもたらすための触媒として機能するとともに、そのための行動を促進するであろう。「いかなる社会においても、市民的権利への献身がどの程度深く定着するかを判断することは難しい」と同氏は述べた。「特定の意見が優勢であるからといって、すでに熾烈な闘いによって獲得された権利がないがしろにされることを許さないようにするため」、国連条約は、そうした権利にとっての命綱となるであろう。
マッシー氏は最後に、国連条約は、障害者の市民的権利に関する法的枠組がすでに確立されている先進国にとっても、こうした枠組の整備を今もなお模索している国にとっても、同じように重要であると述べた。国連条約は、優れた事例を世界中に広めることに貢献するとともに、市民的権利が存在する国における障害者の権利後退に対してさらなる保護策を講じることになろう。
リサ・カウピネン氏は、多くのろう者が、これまで通学、就労、居住施設の確保が不可能であったために、大阪フォーラムのような会議に参加することができない実態を、条約が必要である理由の例として挙げた。手話通訳者がほとんどいない国が多い。基準規則などの国際文書はあるものの、多くの場合、実施されていない。
同氏はメキシコのイニシアティブを歓迎しつつも、メキシコ草案は経済的、社会的、文化的権利に重点を置いている反面、市民的、政治的権利には十分な配慮をしていないと述べた。起草プロセスへの幅広い参加が、より包括的な条約の誕生に貢献するであろう。このほか、予防やバイオテクノロジーなどの問題も取り扱う必要がある。
新条約の起草プロセスには時間がかかると予想されるため、世界ろう連盟は平行的取り組み(twin-track approach)を支持する。既存の人権文書のモニタリング・システムの中に、障害者が含まれるべきである。基準規則の強化も必要である。すべての関係当事者-各国政府、障害者運動、NGO-は、国レベル、地域レベル、国際レベルで協力しながら、このプロセスに参画していかなければならない。

ディスカッション

 続いて行われたパネルディスカッションでは、多くの問題が取り上げられた。最初の-そしてもっとも基本的な-問題は、条約未支持の政府から支持を得るためにはどうすればよいか、という点であった。エソップ・パハド氏は、障害者と非障害者が強力な運動を展開することにより、頑迷な政府をともかく参加させることが鍵となるとの考えを示した。同氏の簡潔な表現を借りるならば、次のようになる。「私が反アパルトヘイト運動の中で学んだことは、3つの言葉があるということだ。闘え、闘え、闘え(struggle, struggle, struggle)、これが私たちの使命である」。 treaty)をすでに勝ちとっているが、障害者については皆無であることを説明する必要がある。ベンクト・リンドクビスト氏も、各国政府の間で姿勢差異があることに言及した。憲法がこの種の国際協定に加わることを許していないと主張する国もある。あるいは、閣僚間で考え方の違いが広がっている国もある。また、「条約疲れ」の問題がある。
長年の間に、国際機関は多くの条約を採択した。人権分野で尽力する人々は、取り組みが必要であるにもかかわらず、リソースの欠如が原因で放置されている問題が数多くあることを認識している。それで彼らはNOを唱えるのである。我々はすでに過重負担になっているシステムに、これ以上業務を増やすことはできない、と。しかし、もっとも憂慮すべき問題の大半は途上国に見られる。遵守するためのリソースがないことが分かっていながら、強制力のある規則に自らを縛ることはできないというのが、途上国の言い分である。ニコラス・ホーエン氏は、この最後の問題は、住宅や教育など、コストのかかる経済的、社会的、文化的権利をめぐって過去長年にわたって話題に上ったものであることから、解決は可能なのではないかと述べた。加盟国は、いわゆる漸進的実現(progressive realization)を目指すことができる。すなわち、限られたリソースの中で、条約義務の遂行に向けて徐々に前進するのである。通常、いかなる加盟国に対しても遂行が期待される、最小限の基礎的義務がある。関連する問題についてホーエン氏は、「我々は国連改革の波に乗る必要がある」と指摘した。国連の財源不足を鑑み、この新条約のモニタリングを行う別の専門家グループを設置するべきか否かという重大な問題があるからである。同氏は、事務総長が人権高等弁務官に対し、さまざまな条約のモニタリングを行う条約専門機関システムの全面改革について検討し、提言をまとめるよう要請したと述べた。さまざまなアイディアが模索されている。おそらく、専任・有償の専門家からなる条約モニタリング機関を少数設置するのも一方法であろう。このように改革の可能性を検討中であることから、同氏は、「リソースの問題を理由に、長い間忘れられていたグループにとって正しいことを行うことを怠ってはならない」ことを、我々は加盟国に訴えるべきであると指摘した。エソップ・パハド氏はこれに賛意を示し、南アフリカの例を挙げた。「我々は条約支持に消極的な国が、リソースの問題を使って途上国に不支持を説得することを許すべきではない」と同氏は強く訴えた。
条約推進キャンペーン支援の同調者を得るという問題について、ヘレン・ミーコシャ氏は、国レベルおよび国際レベルで協調関係を築くことが重要である点に同意した。ベンクト・リンドクビスト氏は、障害者運動は「方向性の点でやや孤立して」おり、障害問題に対する他の人権団体の関心を喚起するための啓蒙活動には多くの課題が残されているとの考えを示した。
ビクトル・ウーゴ・フローレス氏は、条約の早期制定を目指すメキシコのイニシアティブについて意見を求められた。同氏は、他国政府やNGOの参加なくして、満足のゆく条約の起草は不可能だという点を、メキシコ政府は認めていると述べた。アーサー・オレイリー氏はこの点を強調し、「迅速な条約実現よりも、優れた条約をつくることが重要だ」と述べた。すべての関係当事者の最大限の参加を導くためには、時間と機会を与えなければならない。それによって、我々すべてが誇ることのできる条約が実現するはずである。
条約の中で予防を取り扱うべきか否かという問題については、全般的合意が得られた。すなわち、条約に関連して予防が論議される場合、障害者が生まれることを予防するという意味ではなく、予防接種、清潔な水や安全な環境の供給などによって、予防可能な障害を予防するという意味をこめるべきである。

緊急の行動課題

 我々が条約を実現させるとすれば、今どのような行動を起こすべきか、最重要だと考えられることを2点述べるよう、各パネリストは求められた。
リサ・カウピネン氏は、既存の人権文書の活用方法をすべての障害者に学んで欲しいと述べた。我々はまた、より包括的な草案に取り組む必要がある。池原毅和氏は、日本における障害者運動のさらなる進展を望むと述べた。同氏はまた、社会福祉から人権モデルへのパラダイムの転換を期待したいと述べた。ヘレン・ミーコシャ氏は、グローバル化の重要性を強調した。グローバル化によって、障害者が団結し、地球規模の運動を展開する大きなチャンスがもたらされるからである。エソップ・パハド氏は政府閣僚として、第1に必要なのは、条約に賛意を示した政府が一致協力することだと述べた。障害関係団体も同様である。また、政府とNGOはいずれも、時間がかかろうとも優れた条約の実現を目指して協力するべきである。ビクトル・ウーゴ・フローレス氏は、地域会合の開催や各国の障害関係グループの増加を重視しつつ、世界的な運動の強化に期待したいと述べた。ジョシュア・マリンガ氏は、障害当事者団体の専門知識やユニークな経験が認められるとともに、あらゆるレベルの交渉の場に含まれることを期待したいと述べた。 ベンクト・リンドクビスト氏は、条約の課題を「我々すべてにとってもっとも重要な問題」として果敢に取り組むよう、各国参加者に要請した。条約についてより多くを学び、クィン=デジュネ報告を検討すること。次に、政府に働きかけ、政府が要点を理解した上でこの問題に対する取り組みに責任をもつことを確保すること。同氏は、条約についての見解を求める国連事務総長の要請に、自国政府および団体が応じることを確保するよう、各国参加者に求めた。平野みどり氏は、女性障害者に関する問題には、ほとんど関心が向けられない傾向がある。この問題は、条約の中で明確に取り扱う必要がある。同氏は、それぞれが他のNGOと地域(local)レベル、国レベルで交流し、情報の共有を図るよう求めた。
アーサー・オレイリー氏は、ディスカッションでは、優れたアイディアについて多くの発言がなされたと述べた。我々が政治的プロセスにかかわっているというメッセージがはっきりと伝わってくる。パハド氏の言を借りれば、相当な闘いとなるだろう。関係当事者すべての尽力が必要となるだろう。しかし、我々が協力すれば、優れた条約の達成という成果が得られる。

原題:“Toward the adoption of a UN convention on the rights of persons with disabilities: Summary Report of International Panel Discussion”
(監修訳:日本障害者リハビリテーション協会)
〔「リハビリテーション研究」(日本障害者リハビリテーション協会発行)115号(平成15年6月)より転載〕