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国連ESCAPアジア太平洋障害者の十年(1993-2002)関連資料

アジア太平洋地域内の障害者の状況
アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP) 報告

高嶺豊
ESCAP社会開発局 障害専門官

目次

・アジア太平洋地域内の障害者の状況
アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)報告
 序論
 I.障害者総数
   A.大きさと分布
   B.障害の原因:予防との密接な関係
 II.アジア太平洋障害者の十年1993-2002
   A.法律と政策
   B.障害に関する国内調整委員会(NCCD)
   C.リハビリテーションサービスを利用すること
   D.移動からの自由:建物、公共交通機関および補助具
   E.教育、訓練と雇用
   F.障害者の自助組織とNGO支援
 III.今後の方向
   A.アジア太平洋障害者の十年1993-2002の終結
   B.アジア太平洋障害者の十年後の政策の枠組み
 IV.引用

序論

アジア太平洋地域には全世界の障害者の3分の2に当たる2億4千万人から3億人の障害者がいると推計されている。アジア太平洋地域では、障害者は最も弱い立場に置かれたグループを成している。障害のある女性や少女達は社会から最も疎外視され、また主流の男女平等プログラムからも外されている。障害のある子ども、少年少女は教育や技能開発計画への参加に非常に大きな障壁に直面している。殆どの障害者は貧しいが、貧困緩和プログラムに障害者の参加が含まれていることはほとんどない。

障害者の多くは社会、経済、文化そして身体的な状態により重複した不利な状態を負わされている。こうした状態が複合して障害者の移動の自由や社会への完全参加への障壁となっている。こうした障壁の中には、障害のあることのスティグマ、 障害者の能力や願望についての理解不足、リハビリテーションや支援サービスの不足、障害者の権利の否定も含んでいる。物理的な環境は障害のない人にのみ適するようになっているし、多くの障害者にとって情報の入手は困難である。

過去20年間にわたり障害問題について世界的な関心が増して来ているにもかかわらず総体的に、この状態は、当地域の大部分に広まっている。本稿は、障害者の状況と、「アジア太平洋障害者の十年、1993-2002」において達成されたことに焦点をあてる。障害のある人々の機会均等化促進という目標についてはアジア太平洋地域に住む多くの障害者の生活に影響を与える貧困状況の蔓延や社会からの疎外と関係付けて論じることとする。将来の政策の方向付けについての提案をするが、それには、現「十年」の終了後も障害者の完全参加と平等を促進するための継続的な行動の為の戦略的な枠組みの策定を含むものである。

I. 障害者総数

I-A.大きさと分布
I-A-1.障害に関する統計

(a) 統一定義の欠如:推計の多様性の根本原因

先進国および開発途上国により出される障害者率の推定には大幅な差異がある。その差異は障害の定義が様々なため調査の対象となる障害者グループは拡大されたり制限されたりする。例えば、オーストラリアの1993年調査は障害のある人は同国人口の18%を構成すると示している。ニュージーランドの第一回全国世帯調査(1996年)は障害者の割合は19.1%となっている。

一方、中国(1987年)とパキスタン(1984-85年)のサンプル調査では双方とも4.9%の障害者率を示している。インドの障害者率はその1981年の全国サンプル調査からは1.8%となっている。1991年のインド全国サンプル調査では、4つの障害分野(視覚、聴覚、言語、肢体)を対象とし障害者の割合は1.9%であった。別の1991年のインドでの精神発達遅滞のある人を対象とした全国サンプル調査では、0歳から14歳の人口の推定3%となっている。調査結果の差異は共通の問題を浮き彫りにしている。運営上用いられた定義はデータが収集される目的に関係する。すなわち、回答は何故質問が出されたかによって変わる(1)

障害についての共通の定義や分類が国々によって統一的に適用されていない以上、障害に関するデータの国際比較は無意味である。この事が国際的に合意された構想、定義、範囲、分類及び事によると調査方法、技術、調査表も含めて取り入れるべく各国間の一層の努力を必要としている。

現行の政策やプログラムは障害に関するデータの欠乏と現存するデータの不備のため展開が難しい。ESCAP域内の過半数の国と地域では、人口の見積もりデータは入手可能であるとしても、21世紀当初でも障害の傾向だけの推定はおろか、障害者数の確認さえ困難である。

I-A-2.障害者の場所的分布

現在、域内の障害者の過半数は農村部に住んでいる。しかしながら、地域の都市化傾向に沿って、2020年迄には、都市化の水準が55%となり、障害者の都市部と農村部との空間的な分布がより均衡することが期待される。これはとりわけバングラデッシュ、中国、インド、 インドネシア、そしてパキスタンにおいて見られる。日本を含むこれらの国々では2020年にはアジア太平洋地域の全人口のおよそ80%が、そして、都市には人口の3分の2が住むという状態が続くのである(2)。従って、障害に関する社会開発においては対応が農村部、都市部双方での取り込みが重要である。

I-B.障害の原因:予防との密接な関係

21世紀の初めの10年間の障害者数は、大部分が経済的、環境的、物理的かつ社会的条件の連鎖によって決められる。富者と貧者間の隔たりに影響するマクロ・レベルでの政策的な決定は同様に障害のパターンと普遍度を形成する。こうした条件や決定は人が作るものである以上、多種の障害は防ぎ得るものである。その意味で、障害の発生ならびに障害者を取り巻く環境について世界的規模での社会的責任がある。

I-B-1.マクロ経済的な条件(3)

障害者総数の表れ方は、個人の健康状態、それを持続する社会的(家族や共同社会)物理的環境に影響される。同様に、個人、家族、環境が健康であることは、貧困や不平等の統計も含む経済的傾向に強く影響される。将来を展望するに当たり、既存の主な傾向に着目するのは役立つ。不平等な経済社会政策は障害のパターンや普遍度に寄与しているし、予測出来る限りの将来においてもしかりであろう。

過去20年間、地方レベルにおける人々の福利はますますマクロ段階での決定に左右されるようになって来ている。貧富の差は急速に拡大しつつある。1950代、1960年代の初期に保健や生活の質の面での達成が減速や逆転し、犠牲となっている。1950年代、1960年代の開発における基本的な必要性への取り組み方が、経済的効率指向のグローバリゼイションを基盤とする開発パラダイムに移り変わった。それは、人類の発展を主として経済発展の立場から測定し、人間かつ環境に掛かる代価を軽視するものである。最大限の利益を得るために、最低賃金での環境安全対策が最も弱く勤労者がより健全な作業環境やより公平な賃金を求めて組織化する可能性が最も少ないような状況下で生産が行われている。こうした要素は、事故のより高い発生率、毒物中毒、視聴覚機能の喪失、健康の劣化を招く。

国際金融機関の構想による機構調整計画(SAPs)は、障害者を含む社会の最貧で最も弱い立場に置かれた人々の健康、栄養そして生活の質にマイナスの影響を与えてきた。経済的な回復を成し遂げるには一時の困難さが必然という主張がなされている。しかし、そうした苦境が社会の最も貧しい人々にもたらす影響は裕福な人達に対するのとは遥か掛け離れたものである。こうした教訓は経済の回復のための戦略を決める必要に迫られている多くの域内各国にも関連して言える。

I-B-2.栄養の欠乏

20世紀には、より多くの人々のために、より多くの食糧を生産することにはかなりの進歩が見られた(4)。これはかつてない程の人口増加や大災害が4倍に増えたにも拘わらず達成されたのである。理論上は、世界は全人口に充分行きわたるだけの食糧を生産している。しかし、食糧を必要とする人々への公平な分配については依然問題がある。

域内の発展途上国の約半数では、食糧不足に関連する障害発生の危険にさらされている(知的、身体的発育障害)。一般的な微量養素の欠乏で引き続き障害に影響するものは下記を含む:

・ビタミンA欠乏 失明
・ビタミンB複合欠乏 脚気(神経・消化系統・心臓各々の炎症と変性)
ペラグラ(中枢神経系統と胃腸障害、皮膚紅斑)
貧血症
・ビタミンD欠乏 くる病(骨軟化変形症)
・ヨード欠乏 発育遅滞、学習困難、知的障害、甲状腺腫
・鉄分欠乏 学習と活動を阻害したり、妊婦死亡の原因となる貧血症
・カルシウム欠乏 骨粗鬆症(骨が折れやすい)

慢性的に栄養不足の人々の内、圧倒的多数である5億1200万人が南アジア、南東アジアに見られる(1966年世界全数では8億人)。世界の食糧生産の伸び率は30年間鈍化しており、引き続き減速するものと予想されている。現在の率では、2010年までには依然として慢性的に栄養不良の人の数が約6億8000万もあり得る(5)。その人達の障害は微量養素の欠乏に根源を発する可能性が高い。

今後の食糧供給保障は耕地面積の拡大よりもむしろ主として農業の生産性向上に依存している(6)。確固たる貧困緩和プログラムがあれば、この種の障害の低減は期待出来ようが、栄養の欠乏の影響を受ける人数は依然圧倒的に多い。不十分な日常の食事に最も弱いのは少女、女性、老人である。不充分な食事の結果として、感染症に対する総体的な抵抗力が低下する。女性の場合、生殖器官や胎児の健康も危険にさらされることとなる。

I-B-3.武器と暴力

(a)地雷(7)

地雷の大量生産、販売と使用は近年急騰した障害の原因である。婉曲に「対人地雷」と称されているものの、域内における圧倒的大多数の地雷犠牲者は戦闘兵員では無く、市民それも殆どが貧困の子どもと女性である。多くの地雷は殺すより障害を負うように作られている。中には玩具や色付きのペンや女性用の化粧道具といった一目を引く様な品物に似せて作られているのもある。激戦度の低い戦闘の戦略的な展開においては、多数の人々に恒久的な障害を負わせる地雷は、即時に殺す武器が果たすより、社会と政府に対し、物理的、経済的、環境的そして社会的により大きな精神的重圧をもたらすものである。地雷は人々が農地、潅漑水路、道路、運行水路、公共施設の利用を阻止するのに用いられている。それにより、食糧供給の安定が脅かされ社会活動が中断させられる(8)。埋没地雷は50年以上も効力を持ち続ける(9)。もうこれ以上仕掛けられないとしても、域内でそれが埋められているところ(例えば、アフガニスタンやカンボジア)では、21世紀に入った後も引き続き人々を犠牲にし続けるのである。

70ケ国に1億1000万の効力のある地雷が埋められており、同数が今でも貯蔵されていると推計されている(10)。1個の地雷が処理される間に20個が埋められる。1994年には、約10万個が除去された一方、200万個が埋められた。1個の地雷を除去するのに、それの生産費用のおよそ100倍も掛かる。仮にこれ以上敷設しないとしても、現状では、世界中に既存の地雷を処理するのに1,100年以上もかかる(11)

これ以上の地雷の生産と販売を抑止しようとする世界全般にわたる運動が育ちつつあることに一握りの希望が見出される。1997年12月4日に、19のESCAP加盟国ならびに準加盟国が「対人地雷全面禁止条約」に署名した。しかしながら、兵器産業は強力なロビー活動を以て、政治的な決定に影響を与えている。兵器取引投資の規模に比べれば地雷の雷管抜きに費やされるのは、微々たる金額でしかない。これが意味することは、21世紀に入っても引き続き地雷が埋められている国々においては生存者が切断者であることはごく普通のことである。

(b)銃

あらゆる形での暴力は世界中でここ数十年間にすさまじく増加してきた(12)

あらゆるタイプの銃がより入手し易くなった事が闘争と犯罪の様相を抜本的に変えてしまった。域内の国々が武器入手を制限するための具体的な措置を講じようという様子は見られない。この意味において、21世紀は脊髄損傷や銃の使用を伴う殺人行為の増加からのその他の形態の外傷が劇的に増加するかも知れない。暴力による死亡のデータからは、15才から34才の若い男性が最も犠牲になりやすいことが想像される。

I-B-4.その他のいくつかの原因

(a)急速な近代化

アジア太平洋地域内諸国の近代化に伴い、同域内で起こっている急速で深刻な変化は障害の様相の変化を意味している。鬱病、アルコール依存症、精神分裂症といった精神障害は、死亡のみを考慮し障害を考慮しない従来的対処の仕方のためにほとんど省みられなかった(13)。WHO(世界保健機関)の予測では2020年までに精神医学的かつ神経医学的異常状態が心臓血管疾患の増加よりもより大きい比率で増加すると見ている(14)。当地域内の発展途上国における疫学的な推移は既に起こりつつあるので、心臓病、ガン、精神障害といったより「新しい」疾患が住民に障害をもたらす原因としてより一層広まるであろう(15)

喫煙と環境汚染の増加に伴い慢性的非特定肺疾患(例えば、気管支炎、肺気腫、喘息)に伴う障害が著しく増えることが予期される(16)。同様に騒音公害の増加、規制の欠如に伴い、人々が誕生以来さらされる騒音公害の総体的な水準も又、上昇することであろう。これは強度難聴や聴覚障害になる度合いが増加することを意味している。

(b)道路上の事故

発展途上国での道路上での交通事故についてはほとんど公衆保健専門家の注目を得なかった。しかし、2020年までには道路上での交通事故は障害を持って生きる人生年数に計測された疾患による負担の第3番目の主要原因となっている(17)。四肢麻痺、対麻痺、脳外傷、行動障害は、このような事故からの生存者の間によく見られる障害である。こうした事故に遭遇する危険が最も高いのは15歳から44歳の男性である。

交通事故は、年々域内の発展途上国の経済に損失をもたらしているが、その額は年間約200億USドルに当たると推計されている。現行の車両全数の増加(国によっては年率15-18%;1982年と1992年との間に、タイでは268%、韓国では700%)と、域内の道路接続の向上と人口増加とが相俟って、その増加を抑制する抜本的な措置が講じられない限り、道路上の事故数は引き続き上昇するであろう(18)

もし、車両数の増加、道路接続の向上という現在の傾向がこのまま続けば、10年間で交通事故死の件数は年間45万になり、更に数百万人が毎年傷害により障害者となる。車両設計や医療施設の改善、それと共に、シートベルト(自動車用)やヘルメット(オートバイ用)の着用義務化に関する規則のより厳格な施行や、運転中のアルコール飲用やその他の物質の乱用の制限は、道路上の事故からの生存率がかなり増えることを意味し、従って、これらのことは促進されるべきである。

(c)人口の高齢化

人口の高齢化という単純な事実により、寿命の延びに関連しての障害が増えることとなる。域内の社会の中には障害を持って生まれてきた人々が今世紀の同様の人々より遥かに長く存命するであろう。高齢化に関連する障害は視覚障害、聴覚障害、筋骨格疾患ならびに精神障害を含む。慢性かつ退化性の非伝染性の疾患は、人生の後半に罹る疾患である(19)。アルツハイマー病は高齢者がしばしば罹る痴呆である。65歳以上の人口のおよそ5~10%にはアルツハイマー病の兆候が現jれている(20)。この病に罹っている人達の約10%は50才代から症状が表れている可能性があり、85歳以上の高齢者で痴呆を患っているのはその50%に達している。そのうち、約60から70%の人はアルツハイマー病を抱えている(21)。この病気は混乱や物忘れが早期の兆候として表れ、進行性の知能退化と特徴づけられている。この病気は高齢化が進むアジア太平洋地域内の社会、特に、夫婦生活の崩壊、核家族化、少子化の比率が高い社会にとっては深刻な介護上の問題を示している。

筋骨格疾患(しばしば慢性リュウマチと云われている)に起因する障害は関節、骨、柔組織と筋肉に影響するおよそ200種の症状を総括して云うものであるが、その中で普遍的なのは慢性関節リュウマチと骨粗鬆症である。平均余命の長い人口にあっては、障害をもたらす他の疾患よりガンが遥かにより重要視される。多くの開発途上国でのタバコの消費が増加しているので、ガンの中で最も通例的な肺ガンが、流行病が蔓延するかのごとき比率で増え続けることは確実と思われる(22)

II. アジア太平洋障害者の十年1993-2002

国連・障害者の十年の終わりにアジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)は1992年第48総会における48/3決議により、アジア太平洋障害者の十年1993-2002を宣言した。1992年以降ESCAP域内で世界行動計画実施のための新しいはずみとするという考えがある。

世界行動計画、特に完全参加と平等の目標達成の課題解決のために地域内協力を強めることも目指した。

アジア太平洋地域の障害者の完全参加と平等に関する宣言は、1992年北京でのアジア太平洋障害者の十年を開始する会議で決議された。2001年9月には、域内の41の政府がこの宣言に署名し、完全参加と平等の推進と域内の障害をもつ人の生活の改善への断固とした取り組みを表明した。

アジア太平洋障害者の十年の目標達成のため、国連・障害者の十年のアジア太平洋地域での進捗を評価することにこたえて、世界行動計画をアジア太平地域での課題に合うように解釈された行動課題が必要であった。

アジア太平洋障害者の十年行動課題は12の主な政策領域から構成され、1993年第49回ESCAP総会にて承認された。12の領域は、国内調整、法律、情報、国民の認識、アクセシビリティとコミュニケーション、教育、訓練と雇用、障害原因の予防、リハビリテーションサービス、福祉機器、自助団体、地域協力である。

それぞれの政策領域にはアジア太平洋地域の障害者の完全参加と平等を支援するため関連する政策の発展に直接かかわることに関することが含まれる。行動課題は障害者の完全参加と平等を実現する地域のイニチアチブの基礎を提供する。それには行動課題の目標を含む。さらに行動課題は世界行動計画の内容や、他の関連する国連文書、命令や勧告などに沿って考えられている。

アジア太平洋障害者の十年開始以来、ESCAPは進捗の評価を行ってきた。特に行動課題の実施において。行動課題実施のための73の目標は1995年7月にバンコクで開かれた十年進捗の評価のための地域会議で採択された。1997年9月にはソウルで上級職会議が開かれた。1999年11月には目標の見直しと強化のための地域フォーラムが開かれ、行動課題実施のための107の強化された目標が採択された。

行動課題と行動課題実施のための目標は、域内政府にとって、政策や障害者計画の実施への指針となる有効な政策手段となってきた。行動課題の12の領域にかかわる多分野アプローチは域内加盟国、準加盟国で十分に受け入れられてきた。

行動課題の目標の達成の評価については、別表のとおり。国と地域は小地域に分けられる。このデータは1997年と1999年における評価会議に提出されたレポートおよび最近実施した行動課題の地域内調査結果に基づいている。データは包括的ではないが、何らかの施策が政府によって行われ、国内調整、法律と施策、訓練と雇用、障害原因の予防、自助団体などの分野での進捗があったことを示している。データでは行動課題の実施において小地域間の格差を示している。北および中央アジア小地域の途上国では行動課題の実施が遅い。このことは、十年の計画に携わる国の時間的長さによって説明される。宣言に署名した41の加盟国および準加盟国のうち、10は1997年以降にされている。それらのうち8は太平洋小地域で、2は北および中央アジアである。まだ署名していない国と地域のうち7は太平洋地域の国々で、さらに7は北および中央アジアである。

それでは、行動課題の主な領域の進捗状況を見てみよう。

II-A.法律と政策

2001年11月時点で、域内41の政府が宣言に署名した。域内のいくつかの国では障害に関する法律は宣言への署名と直接つながっている。

十年開始以来、域内の9の政府は障害者の権利を護る包括的な法律を制定し、他の7の国では同様の法律の採択、起草(formation)、企画の段階にある。8の政府は、バングラデシュ、フィジー、香港・中国、インド、インドネシア、モンゴル、ニュージーランド、スリランカそしてベトナムである。同時期にそのような法律はすでに制定されている国では、別の法律や条例の制定や障害者の権利をより保護し、機会均等のために重要な課題において既存の法律の改正が行われてきた。それらの中には、聴覚障害者サービス管理法Hearing Services Administration Act 、オーストラリア(1997年)、関税法改正(1998年、中国)、精神保健条例(1997年、香港・中国)、精神保健福祉法改正(1995年、日本)、身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律(1993年、日本)、災害基本法(1995年、日本)、交通アクセス法(2000年、日本)、特殊教育推進法(1994年、韓国)、障害者雇用促進法(1995年、韓国)、障害者・高齢者・妊婦のための利便促進法(1997年、韓国)などがある。これらの中には、特定の施策の実施を義務的に要求する数多くの規則改正を含む。それらは、雇用、電子コミュニケーション、建築・交通へのアクセス、マスコミによる障害者の積極的描写、聴覚障害者のため字幕、公共の場での販売、自営の障害者の製品やサービスを特定の割合で購入する義務などである。

法律に関する努力と一致して、十年の間には完全参加と平等を確実にする政策や計画が盛んに作られるようになった。様々な国で、教育、福祉計画、リハビリテーションや他の障害に関するサービス、差別禁止などにおける努力が見られる。

十年の所有権(オーナーシップ)は明らかに域内の政府と国民にある。特に社会で最も弱い立場に置かれた人々に関心をもつ者、とりわけ障害をもつ人自身が、十年によってもたらせられた機会をとらえて、新しい法律や政策の導入、さらに、既存のものの改正により、障害者の権利を護るための法律や政策の枠組みを強化した。

II-B.障害に関する国内調整委員会(NCCD)

国内調整機関は国際障害者年(1981年)記念の準備段階から存在してきた。十年の要請に応え、多くの政府では既存の国内調整機関を再編するか行動課題実施のため障害に関する国内調整委員会として新しく設立した。名称は様々であるが、それぞれの優先順位も持ち、NCCDは、様々な政府機関、省庁、準自治機構、民間、NGO、専門家、障害をもつ当事者を巻き込んで対話や協力する機構を提供する。NCCDは、障害者の十分な参加を得て、政策や計画の開発および確実に実施することに重要役割を担っている。

2001年11月現在アジア太平洋地域の24の政府が障害に関する国内調整機関を形成している。そのうち19では十年の間に設立したか再活性化された。その中には域内で最も人口の多い国や後発開発途上国、発展途上の島国が含まれている。NCCDの設立に関して6の国では法律を含む努力がすすめられている。障害に関する調整機能は既存の国の社会サービス機構のもとに含まれている国もある。NCCDが弱い立場の福祉省に置かれることも見られるが、NCCDが法的に調整力をもって設置されない限りはそのような省庁間の調整をはかるのは極めて難しい。

多くのNCCDには政府機関やNGOの参加が幅広いが不均衡が見られる。特に障害者団体の参加に関して言える。ほとんどすべての場合、NCCDのメンバーには障害者が含まれている。しかし男女差では男性が圧倒的多数を占める。またNCCDでは様々な障害グループの幅広い参加が必要である。

政策面で包括的にカバーしようとする官僚的アプローチでは多くのNCCDの機構では委員会や小委員会が増える結果を招いてきた。しかし多くのそうした委員会では顔を合わせたことが一度もなかったり、それぞれの担当分野の責任のみ果たすだけであったりする。関連する問題点はNCCDの会合への出席の低さである。出席率が高い場合でも多くの参加者が臨時的に指名されていたり、所属機関や団体を代表して決定できる権限が与えられていなかったりするので、意味のある決定には簡単には到達できない。

障害者の完全参加と平等への見通しは、NCCD(または同等の機関)が有効に働いているかどうかに大いにかかっている。もし楽観的に見れば積極的変革が起こるにはNCCDがそれぞれの部門そして社会のそれぞれのレベルにおける態度の障壁をうち破る必要がある。

II-C.リハビリテーションサービスを利用すること

最近の法律・政策と家族やコミュニティレベルでの障害者の実際の生活との間には隔たりがある。今日の共通課題はリハビリテーション従事者があまりに少ないことである。中でも資金が限られたコミュニティでのサービスに喜んで従事する人はさらに少ない。問題の多くはリハビリテーションサービスが依然として障害者の視点において、参加型でない方法で行われがちということである。障害者へのサービスはすべての市民に提供されるサービスとは別に実施されがちである。このことは障害者のためのサービスは多くの場合、一般市民に与えられるサービスとしてより慈善としてとらえられているからである。ニーズに答えるために活動する多くのNGOは慈善事業として登録しており、伝統的に温情主義で、障害者をサービスに感謝すべき受益者として扱い、障害者自身の力をそぐ傾向にある。このような状況において障害をもつ当事者とその家族は問題解決のためにリハビリテーションにアクセスする平等なパートナーとして見られることはめったにない。

通常のパターンでのリハビリテーションサービスは均等には提供されていない。リハビリテーションサービスのほとんどは依然として都市に集中し施設で行われる。しかしながら、地域で家族にはっきり焦点をあてた農村でのサービス利用へのめざましい努力は始められている。多くの国では政府の政策に反して、実際には障害をもつ男や少年にサービスを利用しやすくしている、という性差別が存在する。

過去20年間に途上国では障害者に関する資源の制約、はなはだしい無視、恐れ、迷信の中で全く不可能に思えるリハビリテーションサービスへの取り組みに関して豊かな経験を積んできた。この間、CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)の名のもとに多くが討論され試行された。

成功例と多くの失敗例は貴重な教訓をもたらした。地域社会開発において障害者が直面する課題を統合する地域社会開発戦略としてCBRを再概念化する努力が始められた。障害者運動の中で再概念化は、障害とは医療ではなく、開発の課題であるという理解が増えてきた。リハビリテーションサービスへの今後の利用は、サービスの要求と地元で調達できる資源と実際的条件によってすすめられる複数の方法がますます増えてくる。障害をもつ人が、意志決定者、リーダーとして、様々な役割を果たせる者として、社会に包含されることが益々強調されよう。

アジア太平洋障害者の十年の開始以来、CBRによるアプローチは域内の途上国において主要なリハビリテーション手段となってきた。少なくとも域内15の国ではCBRはリハビリテーションサービスに含まれていると示されている。それらは、バングラデシュ、中国、カンボジア、香港・中国、インド、インドネシア、イラン、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、ネパール、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナムである。

II-D.移動からの自由:建物、公共交通機関および補助具

建物が使い易いことと適切な補助具は障害のある人が家から外へ出るのか可能にする賞賛すべき2つの物理的手段である。この2つは、障害者のコミュニティ生活への参加を歓迎する社会環境とともに、障害者の移動を自由にするか妨げるかの重要な要因になる。

II-D-1. 物と交通のつながり

物理的障壁は建物のデザインや管理面での無知と無理解あるいはその両方を示す。無知はアクセシビリティのもたらす普遍の恩恵を知らないことである。無理解は障害者や高齢者などのグループのニーズを取り上げることへの深刻な心理的なバリアである。しかしながら高齢化が他よりすすむ社会では、建物のバリアフリーを含む知恵を実現しはじめている。

都市環境では道路の横断や公共交通機関の乗り降りの際危ないと感じるのは普通である。乗り物から降りて建物の入り口にたどりつくまでの疲労はもうひとつの隠れた利用者が使いにくい環境である。建物の環境について何とか交渉する多くのグループが存在するが、困難とフラストレーションを同時に抱える。高齢者、障害者の他のアクセス弱者グループには、よちよち歩きの幼児・ベビーカーを抱えた親、通勤者、買い物客、大きな荷物を抱えた旅行者、また一時的に障害をもち建物の中を歩き回らなくてはならない人が含まれる。ユニバーサル(万人の)アクセシビリティまたは包含的デザインはそのような利用者の機能面の要求に対応されている。この様なデザインが適応されれば、障害者にとって安全で、便利な環境であり、その結果、社会のすべての人に有益になる。

バリアフリー環境においては、オーストラリア、香港・中国、日本、ニュージーランド、シンガポールは新しい公共の建物はアクセスの基準や要求に従う法律や規則を制定した。法律や規則の強制機構は十分に置かれている。中国、インド、マレーシア、フィリピン、韓国、タイではアクセス法を制定したか完全し、それらの法律や規則は強制力を備える準備は整っている。バングラデシュ、マカオ・中国、パプアニューギニア、ベトナムではアスクス基準や条項を設立が、しかし、まだ実効はされていなかったり、導入されたばかりであったり、強制力がつくのを待っていたりする。

地域の途上国において新しく開発された鉄道大量輸送機関には、アクセス改善が取り入れられはじめた。中国、マレーシア、フィリピン、タイでは軽便鉄道や地下鉄では十分または部分的にアクセス改善が盛り込まれている。

II-D-2. 福祉機器

福祉機器は、日常生活活動に障害のある人が参加することに直接結びつく。障害のある人の尊厳と、社会での平等な一員として障害のある人の力が強まることにより、参加と生活の質を高める自由と自立を手にする(23)

アジア太平洋地域における福祉機器へのニーズはほとんど充たされていない。このギャップは特に農村で大きい。制作と支給は大都市に集中しがちである。

今後何十年かで改善が期待されようが、格差も出るだろう。

この地域の障害のある多くは、簡単な解決方法を求め続けている。

移動に障害のある人や弱視の人の機器は、小さなコミュニティワークショップで多くが作られていくだろう。そしてそれらは、文化的に適合した、質の良い、コストの低いものであろう。

機器に関する助成や無料支給は限られている国が途上国にはある。域内の途上国では多くのNGOが福祉機器の生産・支給に携わっている。域内には、政府かNGOによって組織的に生産し支給する仕組みを確立した国もある(カンボジア、中国、インド、マレーシア、スリランカ、タイ)。

II-E.教育、訓練と雇用
II-E-1.教育

多くの国際的宣言(例えばサラマンカ声明―「すべての人に教育を」)では障害をもつ子ども・青年・成人に対して、どこであれ主流の教育の場面での平等な教育への機会が認識されてきた。ところが、途上国では、何らかの教育を受けられる障害をもつ子どもと青年は2~5%に過ぎない。

特殊学校は域内の多くの国では長い間存在し、それらは都市にあるが、すべての都市にあるわけではない。域内の多くの途上国では、障害をもつすべての子どもと青年の教育と職業訓練のニーズを目的とする重要な政策というのはまだ目新しい。「すべての人に教育を」(1990年)や子どもの権利条約(1990年)の名のもとに取られた行動(障害をもつこどもと青年に対する)には影響力があったのかどうかという疑問を「十年」のイニシアチブは投げかけた。

統合教育は、このことを訴える方法として起こった。国際的には今ではインクルーシブ教育という言葉が、より広い統合の努力を示すのに多く用いられる。インクルーシブ教育の目標は、障害をもつ子どもを含むすべての児童のニーズを満たすことを主流の学校が受け入れることで、包含的社会を長期的に目指すこととして定義される(24)

障害をもつ児童を主流の学校が受け入れる政策の初期段階では、家で教育を受けている重度の障害をもつ子どもが移動サービスを得ることは、重要な初めのステップである。教育政策立案者の位置付けを明確にすることは、学校当局や教師の意識向上に役立つ。それにより変化に開かれ、実験を喜んで受け入れることを推進する(25)。これらは障害のある学生が今までとは違う有効手段で問題解決手法を学び、試験に生かすために必要な重要な要素である。インクルーシブ教育の導入は、教育環境全体の改善と教師が学習ニーズを学ぶ内容の質を高める機会となる。

域内の途上国の中には、特にまだ、何もないところで、入学登録を拡大する計画が多くある国がある。ひとつは、コミュニティの資源利用をサポートするための資金援助、物理的障壁の除去、現職の教師対象の訓練、リソース援助などにより、農村の中軽度の障害をもつ子どもを含めることを強調した計画である。また他の国では、特に農村の障害をもつ女性と少女の教育に特別な注意を払うことを計画している。

障害をもつ人の教育の機会を広げることに強い関心を示す多くの国を見ると、文化的資源を引き出し、インクルーシブ教育の経験や能力を身につけることは緊急課題である。

文化的に合った解決方法を求めることは多くの問題に直面し、変化が起きるまでに長い過程が伴う。インクルージョンは、障害をもつ子どもを含むすべての子どものための教育に関係するすべての人が強く関わるなら、成功するだろう(26)。インクルーシブ教育は社会の確固たるかかわり、すなわちコミュニィのサポート、政治的意志、指導技術(一般および特殊教育における)向上のための資源、カリキュラム、教材と施設のアクセシビリティを必要とする。

II-E-2.訓練と雇用

障害をもつ人の機会均等化に関する他のすべての領域と同様、雇用の促進おいてもそのタイプや変化の速度は実に多様である。グローバリゼイションの広がりは、急速な労働市場の変化に即した技術を認識することが急務であるととらえられている。多くの職業訓練センターが、プログラムの適当性をモニターする責任はないと考える一方で、職業技術訓練カリキュラムの見直し、仕事の保障・保持に重要な関連技術の開発向上(個人のスキル、求人、自主的組織結成力および情報収集力)に取り組み始めたところもある。

(a)訓練

域内の国の中には、特別な訓練施設建設を含む、障害のある人の職業訓練機会の大規模な拡大を図るところもある。職業リハビリテーションや職業斡旋人材の訓練においては障害をもつ人への彼らの態度のバリアを指摘することに、より重要な注意が払われる。責任ある立場の人の質や取られた行動の有効性を吟味することに直ちに焦点が移らない限り、従来型のアプローチによる社会基盤整備の拡大は失敗を広げるだけである。

いくつかの国では、アクセスを改善した上で、一般の職業訓練施設での障害をもつ人の登録の推進が図られている。一般の訓練施設での訓練の質は障害者のための特別なセンターの訓練よりまさっており、これが実現されれば重要な発展となる。またいくつかの国では、移動に障害のある女性・少女のための機会の改善に特別な強調がおかれている。

(b)雇用

途上国のデータはほとんどないが、限られた情報によると障害のある人は障害のない人より経済活動に従事することがはるかに少ないとされる(27)

雇用率制度は域内で障害のある人の雇用の促進として広まっている(インド、日本、韓国、スリランカ、タイ)。しかし雇用率制度のある多くの国では、有効な拘束力を持たない。雇用率の実行と障害をもつ人の雇用主が広く認識するための計画推進キャンペーンは、訓練と職業斡旋における基本的行動を支持することでうまくいく。しかしながら、障害をもつ人の技術習得、仕事の継続に対し現在行われている支援、労働者としての積極的な資質(例えば、集中力を増すこと、忠誠心、よく働くこと、忍耐力など)を確実にするための努力はまだかなり必要である(28)

従来型のリハビリテーションシステムと関連するのは授産施設である(sheltered workshop)。多くの場合従来型の授産施設は、障害をもつ人が意志決定や自己決定の権利をもつ市民であることを認めない、慈善に基づく砦である。障害をもつ人は、ひとたびその施設に入るとずっと滞在しがちで、市場に合った新しい技術を学ぶとか、労働上の適切な保護を受けるなどへの期待からはほど遠くなることがしばしばである。このようなワークショップは変わるべきで、もっと保護的な形式でない仕事に移行するような機会を障害のある労働者に提供すべきである、という圧力は増えている。新しいモデルは、若い、特殊学校・教室を卒業した、重度の障害があり、一般労働市場では雇用されない人の社会経済的ニーズを満たすコミュニティワークショップである。それらは自治体の協力を得て、親やボランティアによってコミュニティレベルで設立されている。

隔離された訓練や授産施設に代わって現れたのは保護雇用である。これは特別な訓練センターから派遣されるジョブコーチによる人的サポートか、雇用主による職場訓練を含む。専門的スタッフによる別のタイプのサポートには、様々な問題の解決のために、リソースパーソンが定期的に職場を訪問することがある。保護雇用では雇用主が障害のある労働者に賃金を支払う。障害のある労働者の生産性が障害のない労働者より低い場合、補助という形で差額を公的機関が支払っている国もある。

II-F.障害者の自助組織とNGO支援

障害とは開発の問題である。というのは一般的な社会の態度が障害のある人の人間性を奪っているためである(29)。生まれた時から障害があれば、障害のある人が自己の価値を見いだすことはなく、中途で障害になった場合自尊心は直ちに壊れる。一方、障害者であることを他と共有することの強さはある。この強さは、人間性を奪われたり弱い立場に置かれたりする共通の状況を変えようと言う自信を、障害のある人に与える。障害者当事者の団体は、自分の人生を変えようとする障害のある仲間を支援しよう、という動機づけのある障害のある人々で運営される。障害のない人によって運営されるリハビリテーションサービスを提供するNGOとは違う。障害者の団体には2つのタイプがある。あらゆる障害種別と単一障害者の場合である。

単一障害者団体は彼ら自身のニーズを満たすことに通常は焦点をあてている。例えば視覚障害団体では雇用促進が主要課題であり、ろう者の団体の主要課題は手話通訳サービスの拡大である。単一障害者団体は、特定障害者の考えを表すのに有効である。一般的に単一障害組織は国、郡、州レベルで運営されがちで、農村では非常に少ない。

様々な障害がいっしょになった団体は誕生が新しいが、非常に多くの会員を持つのもあり、常勤と非常勤スタッフがいる。多くは単一障害と障害種別を越えた団体の国レベルの連合体として運営されている。地方レベルでは障害種別を越えたグループは途上国、先進国両方にある。

障害種別を越えた団体はそれぞれの国では多くの場合連合団体である。その機能は、権利擁護、情報提供、多くが単一障害団体からなる会員団体の国内の調整である。

次に示すのは自助団体の主な国際組織である。それらはDPI(障害者インターナショナル、世界盲人連合、世界ろう連盟である。アジア太平洋地域の16ヶ国は、これら3つの国際組織の国内加盟団体を擁する。3つのうち1つか2つの国内組織がある国は14である。これらの数字はアジア太平洋地域には障害者の自助組織の強い存在があることを示している。

III. 今後の方向

III-A.アジア太平洋障害者の十年1993-2002の終結

「アジア太平洋障害者の十年」は2002年12月に終結する。「十年」の終わりに当たって2001年5月にバンコクで開かれたテーマ別障害委員会第二回会合で、「十年」の成果を地域で評価するが提案された。「十年」の目標達成の最終評価としてESCAPは、2002年10月25日から28日まで滋賀県大津市で「アジア太平洋障害者の十年」終結のハイレベル政府間会議を開催する。日本政府はこの会議のホスト役を務め、同年10月15日から23日まで札幌と大阪で開かれる最終年記念フォーラムとともに開催される。

同政府間会議では、次のことが検討される予定である。

「アジア太平洋障害者の十年」の目標達成の評価、特に「十年」行動課題の107の目標達成について。

「十年」後の枠組み。

III-B.アジア太平洋障害者の十年後の政策の枠組み

NGOの中からは「アジア太平洋障害者の十年」の延長を訴える声も聞こえる。「十年」の間には意義深い達成が見られたものの、アジアの経済危機が後半5年間に行動課題の実行に深刻に影響を与えたと思われている。域内の国と地域には「十年」の宣言にまだ署名していない政府も存在する。最近署名した多くの国では、12の行動課題の領域によって示される開発計画において障害のある人の権利やニーズを表す初期段階にある。行動課題とその目標をアジア太平洋地域の障害政策の枠組みを示すものとして残すべきという点で、域内の政府やNGOの間で合意がある。

「十年」後の行動の枠組みは2002年の政府間上級職会議で検討される。同会議ではいくつかの主要項目が検討課題として確認される。

III-B-1.行動課題実行のためのより集中的なアプローチ

上記に示したように、行動課題の12の政策領域の実行には格差があるようだ。強化された目標をバランスのとれた方法で達成し、域内の障害のある人の生活に本質的な影響を与えるため、12の領域の中に優先順位を設ける必要がある。以下の政策領域が選択されよう。

建築物および情報通信技術(ICT)へのアクセス

教育、訓練と雇用

収入創出と社会保障

公共交通機関を含む建築物のアクセシビリティは、依然として障害者の域内での社会経済活動への参加を妨げている。建築家や都市設計者、政策立案者の注目を集めるユニバーサルデザインの最近の導入は、アクセスの悪い物理的環境の解決ばかりでなく、社会包含の課題解決への包含的な、コスト効果の高い方法の推進にはずみがつく。障害のある人のアクセス、特に感覚障害、知的障害のある人のICT、特にインターネットをとおしての情報へのアクセスは重要な課題である。ICT、特にインターネットの役割は21世紀にますます増大するため物理的環境へのアクセスより更に重要になるであろう。障害をもつ人の情報格差が広がることを防ぐため、主流のICT政策やプログラムに障害をもつ人の要求や訓練のニーズを含める政策行動を取らなくてはならない。

同時に教育、訓練と雇用へのアクセスは、21世紀の社会経済活動に完全に参加する障害をもつ子どもと成人にとって重要である。障害のある子どもの教育へのアクセスは重要なことのひとつである。というのもいくつかの指標によると、2~5%の障害をもつ子どもと青年しか教育を受けられないのが現状だからである。職業訓練、雇用と従来型でない収入創出のへのアクセスの不足は極めて深刻で、多くの障害のある人が貧困にあえぐ結果をもたらしている。収入創出と社会保障の方策には、社会における障害のある人の社会的経済的権利を護るために、障害のある人を含めるべきである。社会的経済的主流に障害のある人が参加するための政策や戦略は、障害のある人が経済的にますます貢献する力を持ち、支援やケアの代わりとしてコストを押さえられる、経済的観点からもすぐれた力となる。

III-B-2.地域間協力の強化

先に述べたように、行動課題の実施においては域内の小地域間でかなりの格差がある。同じ小地域内では政府が共通の課題をかかえている。例えば太平洋小地域では、障害をもつ人の多くが小さな離れた島に済み、サービス提供においては共通した問題を抱えている。この関連では小地域内で知識、経験の共有、行動課題の実施のための相互協力促進のための小地域間協力への努力が必要であろう。

III-B-3.障害をもつ人の完全参加と平等に応える

基本的人権に基づいたアプローチ

障害問題は福祉へのアプローチから徐々に広く人権へのアプローチに移りつつある。域内の政府、例えば中国、インド、フィリピンは障害者の権利に基づいた法律を制定した。人権に基づく広いアプローチは域内の政府間に共通する政策の方向となるであろう。国際的障害者の権利条約制定への議論は、地域内や国内の多くの会議、会合、ワークショップにおいて議題となることが予想される。同時に女性や子どもなどのグループの権利推進の努力の中で、広く障害問題を取り上げることが新しい焦点である。強調されることは、障害者や他のグループの権利の発展は、すべての人の権利の推進が前提として含まれることが重要である。障害問題の発展には、主流政策と特別な政策の2つのアプローチがあり、権利に基づいた2つの重要な要素がある(30)。障害問題を主流の開発政策に含めなくてはならないという考えは増えており、この考えがますます重要視されてくる。この考えは世界銀行とアジア開発銀行の最近の声明の中で表されている。アジア開発銀行は、どのようにしたら最もよく達成されるかについて調査するプロジェクトを始めた。これは、貧困削減を達成するためには、障害のある人の状況に関心を示さなければならないという認識に基づく。

引用

(1) Kaye, H.S.監修、「障害統計の将来」 第一回全米障害統計と政策フォーラム報告書、カリフォルニア大学、 サンフランシスコ、1997年8月9日

(2) ESCAP、「アジア太平洋地域における都市化の現状-1993」 (ST/ESCAP/1300) 第2章6頁

(3) マクロ経済状況についての当項は、David Werner 「今後数十年間のアジア太平洋地域における障害関係ニーズに関する計画:遠大な分析の必要性」 本章の準備の為にESCAPが委託した論文から引用したものである。

(4) FAO(食糧農業機構)、「飢餓と栄養失調との闘い」 (ローマ、1996年)、 3頁

(5) 同書、15頁

(6) 同書、13頁

(7) 他に記述がない限り地雷に関する情報は前掲のDavid Wernerの論文から引用されている。

(8) 「地雷の事実」ホームページ (http://www.un.org/Dept/Landmine/factsh.html)

(9) 前掲の「地雷の事実」

(10) 「地雷問題」 (http://www.waf.org/library/index.html)

(11) 前掲の「地雷の事実」

(12) WHO(世界保健機関) 「世界保健報告書-1997」 要約 (ジュネーブ、 1997年)

(13) Christopher J.L. MurrayとAlan D. Lopez 「疾病の世界的な負担」- 疾病と障害の世界的負担シリーズ(WHO-世界保健機関、ハーバード大学公衆衛生学部ならびに世界銀行)

(14) 前掲のChristopher J.L…

(15) Ilona BlueならびにTrudy Harpham、「精神保健問題」、世界の保健、第49年、第1巻、1996年1月-2月

(16) 前掲の「世界の保健-1997」…

(17) Christopher J.L. Murray…同書

(18) 「アジア太平洋地域の道路交通安全についての論評」 (ST/ESCAP/1633)、1997年

(19) Nikolai P. Napalkov、「より良い生活-より長い人生」 (世界の保健) 第48年、第2巻、1995年3月-4月

(20) 「アルツハイマー病とは何か」 (http://dsmallpc2.path.unimelb.ed.au/addef.html)

(21) 「老齢人口の急増によりアルツハイマー病解明に急速な発見進歩の必要が強まる」(http://www.alz.org/assoc/media/demograp.html)

(22) 前掲の「世界の保健-1997」.

(23) 障害者のための福祉機器の生産と支給 - 第一部:地域でのレビュー(1997年12月)(国連出版物, Sales No. E.98.ll.7)頁6

(24) 統合教育、SEAPRO 資料シリーズ、ディスカッションペーパー No.1(セイブ・ザ・チルドレン、イギリス、東南アジア地域事務局)

同(25) 書、統合教育

同(26) 書、統合教育

(27) Elwan, Ann、「貧困と障害」:文献調査:世界銀行、1993年12月、13頁

(28) ESCAP、「障害者の将来展望」 21世紀に入るアジア太平洋地域:社会開発の展望、1998年、ニューヨーク、236頁

(29) B. Venkatesh、Peter Coleridgeの「障害、開放そして開発」 Oxfam(イギリスおよびアイルランド)、20-22頁

(30) 国連「プログラムの監視および評価:開発における障害の観点、国連(http://www.un.org/esa/socdev/enable/monitor/)