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アジア太平洋障害者の十年(1993年~2002年)資料集

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
発行 1994年3月発行
備考 助成:(財)中央競馬社会福祉財団


もくじ


刊行にあたって

 「アジア太平洋障害者の十年」(1993年~2002年)のスタートした昨年は、障害をもつ人の 社会参加をめざす運動の推進にあたり誠に画期的な年となりました。
 「完全参加と平等」の達成を引き続き追求する、この新たな「十年」の効果的な推進を目的 として開催された「NGO沖縄会議」は、アジア太平洋地域から多数の関係者が参集し、今後 協力して「十年」を推進するネットワークを創設するなど、多くの成果をもたらせ終了しまし た。
 そしてこの直後、わが国において、「心身障害者対策基本法」が23年ぶりに大幅に改正さ れ、名称も新たに「障害者基本法」として成立しました。また、国際舞台では国連総会におい て「障害者の機会均等化に関する基準規則」が採択されました。
 このように、障害をもつ人の社会参加を促進する環境は徐々に整備されつつあります。時は まさに「啓発」することから、積極的に「行動」することを要求しています。  これは障害分野における国際的な協力活動においても同じことであり、地域内の各国と歩み をともにした運動が強く求められています。
 さまざまな国の多様な現実をしっかりと理解したうえで、域内各国の状況に即応して障害を もつ人の福祉と生活が少しでも進展することをめざした協力活動が必要となります。
 今回、「アジア太平洋障害者の十年」に関する決議集を中心とした「アジア太平洋障害者の 十年資料集」を作成いたしました。この資料集が、この「十年」の間にめざすものを正しく理 解し、適正な地域協力をすすめる良き指標となることを心から望んでおります。
 本資料集の作成にあたりまして、貴重な写真の借用を快く引き受けてくださった社会福祉法 人東京ヘレンケラー協会、アジア・ディサビリティー・インスティテュートに深く御礼申し上 げます。
 さいごに、本資料集の刊行に特段のご理解とご助成を頂いた財団法人中央競馬社会福祉財団 に心より感謝申し上げます。

1994年3月
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
会長 山下眞臣


世界人権宣言

(国際連合第3回総会決議217(III)-A、1948年12月10日採択)

前文

 人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認 することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、
 人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらし、言論及び 信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望 として宣言されたので、
 人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにする ためには、法の支配によって人権を保護することが肝要であるので、
 諸国間の友好関係の発展を促進することが、肝要であるので、
 国際連合の諸国民は、国連憲章において、基本的人権、人間の尊厳及び価値並びに 男女の同権についての信念を再確認し、かつ、一層大きな自由のうちで社会的進歩と 生活水準の向上とを促進することを決意したので、
 加盟国は、国際連合と協力して、人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の促 進を達成することを誓約したので、
 これらの権利及び自由に対する共通の理解は、この誓約を完全にするためにもっと も重要であるので、
 よって、ここに国際連合総会は、
 社会の各個人及び各機関が、この世界人権宣言を常に念頭に置きながら、加盟国自 身の人民の間にも、また、加盟国の管轄下にある地域の人民の間にも、これらの権利 と自由との尊重を指導及び教育によって促進すること並びにそれらの普遍的かつ効果 的な承認と遵守とを国内的及び国際的な漸進的措置によって確保することに努力する ように、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この世界人権 宣言を公布する。

第1条(自由平等)

 すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて 平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって 行動しなければならない。

第2条(権利と自由の享有に関する無差別待遇)

1. すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的 もしくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由に よる差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有す ることができる。

2. さらに、個人の属する国又は地域が独立国であると、信託統治地域であると、 非自治地域であると、又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず、その 国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基づくいかなる差別もしてはな らない。

第3条(生存、自由、身体の安全)

 すべての人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。

第4条(奴隷の禁止)

 何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、 いかなる形においても禁止する。

第5条(非人道的な待遇又は刑罰の禁止)

 何人も、拷問又は残虐な、非人道的なもしくは屈辱的な取扱もしくは刑罰を受け ることはない。

第6条(法の下に人としての承認)

 すべて人は、いかなる場所においても、法の下において、人として認められる権 利を有する。

第7条(法の下における平等)

 すべての人は、法の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平 等な保護を受ける権利を有する。すべての人は、この宣言に違反するいかなる差別 に対しても、また、そのような差別をそそのかすいかなる行為に対しても、平等な 保護を受ける権利を有する。

第8条(基本的権利の侵害に対する救済)

 すべて人は、憲法又は法律によって与えられた基本的権利を侵害する行為に対し、 権限を有する国内裁判所による効果的な救済を受ける権利を有する。

第9条(逮捕、拘禁又は追放の制限)

 何人も、ほしいままに逮捕、拘禁、又は追放されることはない。

第10条(裁判所の公正な審理)

 すべて人は、自己の権利及び義務並びに自己に対する刑事責任が決定されるに当 たって、独立の公平な裁判所による公正な公開の審理を受けることについて完全に 平等の権利を有する。

第11条(無罪の推定、罪刑法定主義)

1. 犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えら れた公開の裁判において法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪と推定され る権利を有する。

2. 何人も、実行の時に国内法又は国際法により犯罪を構成しなかったり作為又は 不作為のために有罪とされることはない。また、犯罪が行われた時に適用される 刑罰より重い刑罰は課せられない。

第12条(私生活、名誉、信用の保護)

 何人も、自己の私事、家族、家庭もしくは通信に対して、ほしいままに干渉され、 又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉 又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。

第13条(移転と居住)

1. すべて人は、各国の境界内において自由に移転及び居住する権利を有する。

2. すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有す る。

第14条(迫害)

1. すべて人は、迫害を免れるため、他国に避難することを求め、かつ、避難する 権利を有する。

2. この権利は、もっぱら非政治犯罪又は国際連合の目的及び原則に反する行為を 原因とする訴追の場合には、援用することはできない。

第15条(国籍)

1. すべて人は、国籍をもつ権利を有する。

2. 何人も、ほしいままにその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認 されることはない。

第16条(婚姻と家庭)

1. 成年の男女は、人種、国籍又は宗教によるいかなる制限をも受けることなく、 婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。成年の男女は、婚姻中及びその解消に 際し、婚姻に関し平等の権利を有する。

2. 婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する。

3. 家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受け る権利を有する。

第17条(財産)

1. すべて人は、単独で又は他の者と共同して財産を所有する権利を有する。

2. 何人も、ほしいままに自己の財産を奪われることはない。

第18条(思想、良心、宗教)

 すべて人は、思想、良心及び宗教の自由を享有する権利を有する。この権利は、 宗教又は信念を変更する自由並びに単独で又は他の者と共同して、公的に又は私 的に、布教、行事、礼拝及び儀式によって宗教又は信念を表明する自由を含む。

第19条(意見、発表)

 すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受 けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国籍を越え ると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。

第20条(集会、結社)

1. すべて人は、平和的な集会及び結社の自由に対する権利を有する。

2. 何人も、結社に属することを強制されない。

第21条(参政権)

1. すべて人は、直接に又は自由に選出された代表者を通じて、自国の政治に参与 する権利を有する。

2. すべて人は、自国においてひとしく公務につく権利を有する。

3. 人民の意思は、統治の権力の基礎とならなければならない。この意思は、定期 のかつ真正な選挙によって表明されなければならない。この選挙は、平等の普通 選挙によるものでなければならず、また、秘密投票又はこれと同等の自由が保障 される投票手続によって行われなければならない。

第22条(社会保障)

 すべて人は、社会の一員として、社会保障を受ける権利を有し、かつ、国家的努 力及び国際的協力により、また、各国の組織及び資源に応じて、自己の尊厳と自己 の人格の自由な発展とに欠くことのできない経済的、社会的及び文化的権利を実現 する権利を有する。

第23条(勤労の権利)

1. すべて人は、勤労し、職業を自由に選択し、公正かつ有利な勤労条件を確保し、 及び失業に対する保護を受ける権利を有する。

2. すべて人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の勤労に対し、同等の報 酬を受ける権利を有する。

3. 勤労する者は、すべて、自己及び家族に対して人間の尊厳にふさわしい生活を 保障する公正かつ有利な報酬を受け、かつ、必要な場合には、他の社会的保護手 段によって補充を受けることができる。

4. すべて人は、自己の利益を保護するために労働組合を組織し、及びこれに参加 する権利を有する。

第24条(休息、余暇)

 すべて人は、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇を含む休息及び余暇 をもつ権利を有する。

第25条(生活の保障)

1. すべて人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健 康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶 者の死亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有 する。

2. 母と子とは、特別の保護及び援助を受ける権利を有する。すべての児童は、嫡 出であると否とを問わず、同じ社会的保護を受ける。

第26条(教育)

1. すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎 的の段階においては、無償でなければならない。初等教育は、義務的でなければ ならない。技術教育及び職業教育は、一般に利用できるものでなければならず、 また、高等教育は、能力に応じ、すべての者にひとしく開放されていなければな らない。

2. 教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を目的とし なければならない。教育は、すべての国又は人種的もしくは宗教的集団の相互間 の理解、寛容及び友好関係を増進し、かつ、平和の維持のため、国際連合の活動 を促進するものでなければならない。

3. 親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。

第27条(文化)

1. すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩 とその恩恵とにあずかる権利を有する。

2. すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及 び物質的利益を保護される権利を有する。

第28条(社会的国際的秩序)

 すべて人は、この宣言に掲げる権利及び自由が完全に実現される社会的及び国際 的秩序に対する権利を有する。

第29条(社会に対する義務)

1. すべて人は、その人格の自由かつ完全な発展がその中にあってのみ可能である 社会に対して義務を負う。

2. すべて人は、自己の権利及び自由を行使するに当たっては、他人の権利及び自 由の正当な承認及び尊重を保障すること並びに民主的社会における道徳、公の秩 序及び一般の福祉の正当な要求を満たすことをもっぱら目的として法律によって 定められた制限にのみ服する。

3. これらの権利及び自由は、いかなる場合にも、国際連合の目的及び原則に反し て行使してはならない。

第30条(権利と自由に対する破壊的活動)

 この宣言のいかなる規定も、いずれかの国、集団又は個人に対して、この宣言に 掲げる権利及び自由の破壊を目的とする活動に従事し、又はそのような目的を有す る行為を行う権利を認めるものと解釈してはならない。


国連
総会決議2856(第26回会期)
1971年12月20日採択

精神薄弱者の権利宣言

総会は、
● 国際連合憲章のもとにおいて,一層高い生活水準,完全雇用及び経済的,社会的進歩及び発 展の条件を促進するためこの機構と協力して共同及び個別の行動をとるとの加盟国の誓約に留 意し,

● 国際連合憲章で宣言された人権と基本的自由並びに平和,人間の尊厳と価値及び社会的正義 の諸原則に対する信念を再確認し,

● 世界人権宣言,国際人権規約,児童の権利に関する宣言の諸原則並びに国際労働機関,国連 教育科学文化機関,世界保健機関,国連児童基金及びその他の関係機関の規約,条約,勧告及 び決議においてすでに設定された社会の進歩のための基準を想起し,社会の進歩と発展に関す る宣言が心身障害者の権利を保護し,かつそれらの福祉及びリハビリテーションを確保する必 要性を宣言したことを強調し,

● 精神薄弱者が多くの活動分野においてその能力を発揮し得るよう援助し,かつ可能な限り通 常の生活にかれらを受け入れることを促進する必要性に留意し,

● 若干の国は,その現在の発展段階においては,この目的のために限られた努力しか払い得な いことを認識し,

● この精神薄弱者の権利宣言を宣言し,かつこれらの権利の保護のための共通の基礎及び指針 として使用されることを確実にするための国内的及び国際的行動を要請する。

1. 精神薄弱者は,実際上可能な限りにおいて,他の人間と同等の権利を有する。

2. 精神薄弱者は,適当な医学的管理及び物理療法並びにその能力と最大限の可能性を発揮せし めるような教育,訓練,リハビリテーション及び指導を受ける権利を有する。

3. 精神薄弱者は権済的保障及び相当な生活水準を享有する権利を有する。また,生産的仕事を 遂行し,又は自己の能力が許す最大限の範囲においてその他の有意義な職業に就く権利を有す る。

4. 可能な場合はいつでも,精神薄弱者はその家族又は里親と同居し,各種の社会生活に参加す べきである。精神薄弱者が同居する家族は扶助を受けるべきである。施設における処遇が必要 とされる場合はできるだけ通常の生活に近い環境においてこれを行うべきである。

5. 自己の個人的福祉及び利益を保護するために必要とされる場合は,精神薄弱者は資格を有す る後見人を与えられる権利を有する。

6. 精神薄弱者は,搾取,乱用及び虐待から保護される権利を有する。犯罪行為のため訴追され る場合は,精神薄弱者は正当な司法手続に対する権利を有する。ただし,その精神上の責任能 力は十分認識されなければならない。

7. 重度障害のため,精神薄弱者がそのすべての権利を有意義に行使し得ない場合,又はこれら の権利の若干又は全部を制限又は排除することが必要とされる場合は,その権利の制限又は排 除のために援用された手続はあらゆる形態の乱用防止のための適当な法的保障措置を含まなけ ればならない。この手続は資格を有する専門家による精神薄弱者の社会的能力についての評価 に基づくものであり,かつ,定期的な再検討及び上級機関に対する不服申立の権利に従うべき ものでなければならない。


国連
総会決議3447(第30回会期)
1975年12月9日採択

障害者の権利宣言

総会は,
● 国際連合憲章のもとにおいて,国連と協力しつつ,生活水準の向上,完全雇用,経済・社会 の進歩・発展の条件を促進するため,この機構と協力して共同及び個別の行動をとるとの加盟 諸国の誓約に留意し,

● 国際連合憲章において宣言された人権及び基本的自由並びに平和,人間の尊厳と価値及び社 会正義に関する諸原則に対する信念を再確認し,

● 世界人権宣言,国際人権規約,児童権利宣言,及び精神薄弱者の権利宣言の諸原則並びに国 際労働機関,国連教育科学文化機関,世界保健機関,国連児童基金及び他の関係諸機関の規約, 条約,勧告及び決議において社会発展を目的として既に定められた基準を想定し,

● 障害防止及び障害者のリハビリテーションに関する1975年5月6日の経済社会理事会決議 1921(第58回会期)をも,また想起し,

● 社会の進歩及び発展に関する宣言が心身障害者の権利を保護し,またそれらの福祉及びリハ ビリテーションを確保する必要性を宣言したことを強調し,

● 身体的・精神的障害を防止し,障害者が最大限に多様な活動分野においてその能力を発揮し 得るよう援助し,また可能な限り通常の生活への統合を促進する必要性に留意し,

● 若干の国においては,その現在の発展段階においては,この目的のために限られた努力しか 払い得ないことを確認し,

● この障害者の権利に関する宣言を宣言し,かつこれらの権利の保護のための共通の基礎及び 指針として使用されることを確実にするための国内的及び国際的行動を要請する。

1. 「障害者」という言葉は,先天的か否かにかかわらず,身体的又は精神的能力の不全のため に,通常の個人又は社会生活に必要なことを確保することが,自分自身では完全に又は部分的 にできない人のことを意味する。

2. 障害者は,この宣言において掲げられるすべての権利を享受する。これらの権利は,いかな る例外もなく,かつ,人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治上若しくはその他の意見,国若 しくは社会的身分,貧富,出生又は障害者自身若しくはその家族の置かれている状況に基づく 区別又は差別もなく,すべての障害者に認められる。

3. 障害者は,その人間としての尊厳が尊重される生まれながらの権利を有している。障害者は, その障害の原因,特質及び程度にかかわらず,同年齢の市民と同等の基本的権利を有する。こ のことは,まず第一に,可能な限り通常のかつ十分満たされた相当の生活を送ることができる 権利を意味する。

4. 障害者は,他の人々と同等の市民権及び政治的権利を有する。「精神薄弱者の権利宣言」の 第7条は,精神障害者のこのような諸権利のいかなる制限又は排除にも適用される。

5. 障害者は,可能な限り自立させるよう構成された施策を受ける資格がある。

6. 障害者は,補装具を含む医学的,心理学的及び機能的治療,並びに医学的・社会的リハビリ テーション,教育,職業教育,訓練リハビリテーション,介助,カウンセリング,職業あっ旋 及びその他の障害者の能力と技能を最大限に開発でき,社会統合又は再統合する過程を促進す るようなサービスを受ける権利を有する。

7. 障害者は,経済的社会的保障を受け,相当の生活水準を保つ権利を有する。障害者は,その 能力に従い,保障を受け,雇用され,または有益で生産的かつ報酬を受ける職業に従事し,労 働組合に参加する権利を有する。

8. 障害者は,経済社会計画のすべての段階において,その特別のニーズが考慮される資格を有 する。

9. 障害者は,その家族又は養親とともに生活し,すべての社会的活動,創造的活動又はレクリ エーション活動に参加する権利を有する。障害者は,その居住に関する限り,その状態のため 必要であるか又はその状態に由来して改善するため必要である場合以外,差別的な扱いをまぬ がれる。もし,障害者が専門施設に入所することが絶対に必要であっても,そこでの環境及び 生活条件は,同年齢の人の通常の生活に可能な限り似通ったものであるべきである。

10. 障害者は,差別的,侮辱的又は下劣な性質をもつ,あらゆる搾取,あらゆる規則そしてあら ゆる取り扱いから保護されるものとする。

11. 障害者は,その人格及び財産の保護のために適格なる法的援助が必要な場合には,それらを 受け得るようにされなければならない。もし,障害者に対して訴訟が起こされた場合には,そ の適用される法的手続きは,彼らの身体的精神的状態が十分に考慮されるべきである。

12. 障害者団体は,障害者の権利に関するすべての事項について有効に協議を受けるものとする。

13. 障害者,その家族及び地域社会は,この宣言に含まれる権利について,あらゆる適切な手段 により十分に知らされるべきである。


国連
総会決議34/158
1980年1月30日採択

国際障害者年行動計画

注・ 国連国際障害者年諮問委員会が,総会決議32/133の第5項に則り,国連事務 総長あて提出した勧告は,総会決議34/154の第2項により,1980年~81年にお ける「国際障害者年行動計画」として採択された。 本文は,国連総会に対する事務総長報告A/34/154(1979年6月13日)の第57~76項 である。

A 序・国際障害者年行動計画の概念構成と主な原則

57・ 国際障害者年の目的は,障害者がそれぞれの住んでいる社会において社会生活と社会の発 展における「完全参加」並びに彼らの社会の他の市民と同じ生活条件及び社会的・経済的発 展によって生み出された生活条件の改善における平等な配分を意味する「平等」という目標 の実現を推進することにある。こうした考え方は,すべての国においてその発展の水準いか んにかかわらず,同様に,等しい緊急性をもってとり入れられるべきである。

58・ 障害者の抱える問題は全体としてとらえるとともに,発展のあらゆる側面を考慮に入れな ければならない。しかしながら,発展途上国は,優先的に取り組むべき問題が多く,手段と 社会資源が不十分であるがゆえに,障害者の問題を解決するために必要な社会資源を振りむ けることができずにきてしまったという事実は留意されなければならない。

59・ 障害者の問題の解決は,その国の総合的発展の水準と密接な関係があるため,発展途上国 におけるこれらの問題の解決も,これらの国のより速やかな社会経済的発展のための適切な 国際的条件をつくり出し得るか否かに大きくかかっている。それ故,新国際経済体制の確立 は,国際障害者年の目標達成のためにまさに適切なものである。今日,世界にはおよそ4億 5千万人の障害者がいると推定されているが,その大半は発展途上国において生活している。 それ故,国際障害者年関連活動の大部分は,これらの国々における障害者のための環境条件 の改善に向けられるべきことは不可欠である。二国間及び多国間の開発計画という枠組みの 中で,この分野におけるプロジェクトが国内レベル,地域レベル,国際レベルで,より多く の機会を与えられてしかるべきである。このようなプロジェクトは国家開発戦略の必須の部 分たるべきである。そのためには,この障害者年のプログラムの採択と実行においては,加 盟諸国の参加とともに,政府系及び民間の障害者の国際組織の参加を確保する必要がある。

60・ 障害者のうち多数の者は,戦争及び他の形態の暴力の犠牲者であるという事実に想いを至 すなら,国際障害者年は,世界平和のための諸国民間の継続的で強い協力の必要性を強調す る一つの機会として,最適に利用され得るものである。

61・ 国際障害者年の重要目的の一つは,障害とは何か,それはどのような問題をもたらすかに ついての公衆の理解を促進することでなければならない。今日,多くの人々は,障害とは 「人体の物理的動作の支障」と等しいと考えている。しかし,障害者といっても等質の集団 をなすものではない。例えば耳が全く聴こえない者及び聴覚機能に障害のある者と,視覚障 害者,精神薄弱者及び精神病者,身体の動きに障害のある者,そして様々な医学的支障を有 している者は,それぞれ異なった解決法を有する異なった問題を有しているのである。

62・ 国際障害者年は,個人の特質である「身体的・精神的不全(impairment)」と,それに よって引き起こされる機能的な支障である「障害(能力不全)(disability)」そして能力 不全の社会的結果である「不利(handicap)」の間には区別があるという事実について認識 を促進すべきである。

63・ 障害という問題をある個人とその環境との関計としてとらえることがずっとより建設的な 解決の方法であるということは,最近ますます明確になりつつある。過去の経験は,多くの 場合社会環境が一人の人間の日常生活に与える身体・精神の不全の影響を決定することを示 している。社会は,今なお身体的・精神的能力を完全に備えた人々のみの要求を満たすこと を概して行っている。社会は,全ての人々のニーズに適切に,最善に対応するためには今な お学ばねばならないのである。社会は,一般的な物理的環境,社会保健事業,教育,労働の 機会,それからまたスポーツを含む文化的・社会的生活全体が障害者にとって利用しやすい ように整える義務を負っているのである。これは単に障害者のみならず,社会全体にとって も利益となるものである。ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合, それは弱くもろい社会なのである。障害者は,その社会の他の異なったニーズを持つ特別な 集団と考えられるべきではなく,その通常の人間的なニーズを満たすのに特別の困難を持つ 普通の市民と考えられるべきなのである。障害者のための条件を,改善する行動は,社会の すべての部門の一般的な政策及び計画の不可欠な部分を形成すべきであり,また,それは, 国の改革プログラム及び国際協力のための常例的プログラムの一環でなければならない。

64・ 国際障害者年の間に行われる活動は,実質的なものを指向すべきであり,従って活動の焦 点はプライマリー・ヘルス・ケア(基礎的保健事業),リハビリテーションそして疾病予防 事業に当てられるべきである。それは,このような活動が社会的・人道的観点から重要だか らであり,特に,社会が障害者の数とその障害程度をかなり減じ得るような方法や手段が存 在するようになって以来はなおのことである。

65・ 「障害者の権利宣言」を含む総会決議3447(第30回総会)の第12項に基づき,障害者の組 織は,彼らの権利に関するあらゆる事項において有効な協議が受けられてしかるべきである。 国際障害者年の重要目的のひとつは,障害者が彼らの考えを効果的に表明し,また政策形成 機関の仕事や社会一般の管理運営に活発に参加する権利を確保しうるように,彼らが自らを 組織することを支援することである。

66・ 国際障害者年は,地方,国,地域及び国際レベルにおいて行動をめざしたプログラムを通 じて上記の諸原則の実現に貢献すべきである。

67・ 国際障害者年の進行を通じて得られた経験は,長期行動プログラムの採択ということをも たらすものでなければならない。


国際連合総会
ジュネーブ,1983年

障害者に関する世界行動計画

(連合第37回総会決議32/57、1982年12月3日採択)

I 目的・背景及び概念

 A.目的

1. 「障害者に関する世界行動計画」の目的は,障害の予防,リハビリテーションならびに,障 害者の社会生活と社会の発展への「完全参加」と「平等」という目標実現のための効果的な対策 を推進することにある。つまりすべての人々が平等の機会を与えられるか,また社会的・経済的 発展の成果としての生活の向上に等しくあずかることが出来るようになることを目的とする。こ れらの考え方は,その発展の如何を問わずすべての国に同様に,また等しい緊急性をもって適用 される。

 B.背景

2. 精神,身体,または感覚の損傷の結果として障害を負っている人は,世界中で5億人以上い る。彼らは他のすべての人々と同一の権利を有しており,平等の機会を保障されなければなら い。
 しかしこれらの人たちの生活は,完全参加を妨げる社会の物理的及び社会的障壁の故に不利を 被っている場合があまりにも多い。このため,世界中いたる所で,何百万人という子供やおとな が,終始隔離と屈辱の生活に直面しているのである。

3. 障害者のおかれた状況についての分析は,経済や社会の発展の違い,文化の違いをふまえて 行う必要がある。しかしながら,どこにおいても,損傷をもたらすような条件を取り除き,障害 の結果に対処する最終的責任は,各国政府にある。このことは,社会一般,個人,或いは各団体 にかかる責任を軽くするものではない。
 社会,経済,政治など生活のあらゆる側面に障害者を組み入れていくことが,個人にとっても 社会にとっても利益であるという点の国民の意識を目覚めさせるには,政府がイニシアティブを とらねばならない。重い障害により依存を強いられている人々が,仲間である他の市民と等しい 生活水準を達成する機会がもてるよう保障することも政府の任務である。非政府団体はニーズを 明らかにし,適切な解決策を提案し,政府の行う事業を補うようなサービスを提供するなど,い ろいろな形で政府を援助することができる。財源や物的資源を開発途上国の農村地区を含めてす べての部分の人々が分かち合うことは,それがコミュニティ・サービスの拡大と経済的機会の改 善をもたらすことから障害者にとって重要な意味を持つ。

4. 多くの障害は,栄養失調,環境汚染,不衛生,不適切な産前・産後の処置,水が媒介となる いろいろな病気,そしてあらゆる種類の事故への対策を講ずることによって予防することができ る筈である。国際社会は,予防接種のプログラムを世界的に広めることにより,ポリオ,はしか, 破傷風,百日咳,ジフテリア,そしてややむずかしくはあるが結核による障害をも大きくくい止 めることができるであろう。

5. 多くの国では,本計画の目的達成のために経済と社会の発展,人道的領域における国民全体 への包括的サービス,資源と所得の再分配,国民生活水準の向上が必要条件となっている。荒廃 と破局,貧困,飢え,苦難,病気,そして障害者の大量発生をもたらす戦争を防止すること,し たがってこのために国際平和を強化し,国際間のすべての紛争を平和的に解決し,人種主義や人 種差別が今なお存在する国では,いかなる形のものでもこれを除去するために,すべてのレベル で方策を講ずるべくあらゆる努力を傾けることが必要である。全国連加盟国に対して,それぞれ の資源を障害の予防と障害者のニーズを含めた平和目的のために最大限に活用するよう勧告する ことも望ましいと思われる。発展途上国がこれらの目標に向かって進むのを助けるような技術援 助は,いかなる形のものであれ,本計画遂行の支えとなることができる。これらの目標の実現に は長期にわたる努力が必要であり,その間にも障害者の数は増大すると思われる。その救済のた めの有効な行動を起こさなければ,障害のもたらす結果は,発展に対する新たな障壁となってい くであろう。したがって,すべての国家がその開発計画の中に,損傷の予防,障害者のリハビリ テーションならびに機会の平等のための直接的な方策を含むことが本質的に重要である。

 C.定議

6. WHOは,保健分野の関連において,損傷,能力不全,不利を次のように区別した。 損傷(Impairment):心理的,生理学的,もしくは解剖学的構造ないしは機能の喪失または異常。 能力不全(Disability):人間として普通とみなされている方法ないし範囲内で活動を遂行する能 力が損傷の結果として)制約され,または欠けること。 不利(Handicap):損傷または能力不全によってもたらされる特定の個人にとっての不利益で, その個人の年齢,性別,社会的ならびに文化的要素に従って普通とされる役割の充足を限定 または妨げられること。

7. 従ってハンディキャップ(不利)とは障害者と彼らをとりまく環境の関係のあり方から生ま れるものである。それは他の市民が利用できる社会の種々のシステムについて障害者の利用を妨 げる文化的,物理的あるいは社会的障壁に障害者自身が実際にぶつかった時に生じる。このよう に,ハンディキャップとは,他の人々と平等に社会生活に参加する機会を喪失,または制約され ることである。

8. 障害者は同質のグループではない。例えば,精神病者と精神薄弱者,視力,聴力,言語障害 者,移動の不自由な人々やいわゆる医学的障害(Medical Disabilities)をもつ人たちはみな異な る性質の異なる壁にぶつかり,各々異なる方法でそれらを克服しなくてはならないのである。

9. 次の定義は以上の観点からつくられたものである。世界行動計画で提案されている行動に関 連した用語は予防,リハビリテーションならびに機会の均等化と規定された。

10. 予防とは,精神,身体ならびに感覚の損傷の発生を防ぎ(1次予防),あるいは損傷がいっ たん起こってしまった場合には,それが身体的,心理的そして社会的に不利な結果をひき起こす のを防ぐことを目的とした対策を意味する。

11. リハビリテーションとは,損傷を負った人に対して身体的,精神的,かつまた社会的に最 も適した機能水準の達成を可能にすることにより,各個人が自らの人生を変革していくための手 段を提供していくことをめざし,かつ時間を限定したプロセスを意味する。これは,社会的適応 あるいは再適応を容易にするための方策はもとより,機能の喪失や制約を補う(たとえば自助具 などの技術的手段により)ことを目的とする方策を含めることができる。

12. 機会の均等化とは,物理的環境,住宅と交通,社会サービスと保健サービス,教育や労働 の機会,スポーツやレクリエーションの施設を含めた文化・社会生活といった社会の全体的な機 構を,すべての人が利用できるようにしていくプロセスを意味する。

 D.予防

13. 予防の計画は,損傷や,能力不全の発生を減らす上で本質的に重要である。予防計画の中 で何が中心的要素になるかは,それぞれの国の発展の状況によって変わってくる。

  1.  損傷の予防のための最も重要な方策としては,次のようなものがあげられる:戦争の回避, 最も恵まれない人々の教育的,経済的および社会的地位の向上;特定地域内での損傷のタイプ とその原因の解明;栄養改善対策など特定の介入対策を講ずること;保健サービスの向上,早 期発見と診断;産前産後のケア;患者と医師の教育,家族計画を含む正しい保健知識の普及; 法律と規則;生活様式の変更;選択的な就労援助;環境破壊の危険に関する教育;家庭とコミ ュニティにより充分な情報を提供し,その機能の強化をはかること。
  2.  予防の普及にともない従前からの危険は減少する一方,新しい危険が生じてくる。環境の  変化に応じて対策を切り替えることが必要である。例えばビタミンA欠乏のために最も危険 にさらされている特定グループを対象とした栄養改善対策プログラム;高齢者のための医療ケ アの向上;工業,農業,道路ならびに家庭での事故を少なくするための訓練や規則;環境汚染 や薬とアルコールの利用と濫用についての規制;プライマリー・ヘルスケア(基礎的保健事業) を通して2000年までにすべての人々に健康をもたらすためのWHOの戦略に適切な関心を向 けるべきである。

14. 障害を予防し,あるいは少なくとも障害の程度をかなり軽減したり,時には障害が永久的 なものとなることを避けられるように,損傷の兆候をできる限り早期に発見する対策をとり,直 ちにその回復・治療に必要な処置を行うべきである。早期発見のためには,医療ならびに社会サ ービスにより,各家庭に対する適切な教育と指導,技術援助を確実に行うことが肝要である。

 E.リハビリテーション

15. リハビリテーションのプロセスには,通常相互に関連しあう次のような形のサービスが含 まれる。

  1.  早期発見と診断。
  2.  医療ケア及び治療。
  3.  社会的,心理的およびその他のタイプのカウンセリングならびに援助。
  4.  身辺処理活動における訓練。これには移動,コミュニケーション,日常生活の能力などが 含まれる。聴力障害者,視力障害者,および精神薄弱者に対しては,特別な方策が必要である。
  5.  補装具,移動のための自助具ならびにその他の器具の提供。
  6.  専門化された教育サービス。
  7.  職業リハビリテーションサービス(職業指導を含む),職業訓練,一般または保護雇用へ の就職あっせん。
  8.  フォローアップ。

16. リハビリテーションのあらゆる活動では,障害を負っている個々人の持つ能力を重視しな ければならない。
 障害児も普通の発達と成長のプロセスを遂げるということに最大の関心をはらうべきである。 成人障害者の場合には,労働やその他の活動能力を活用すべきである。

17. リハビリテーションのための重要な資源は障害者の家族およびコミュニティにある。障害者 が家族と共に生きることを助け,それぞれのコミュニティの中での生活を可能にし,この目標達 成に取り組む家族やコミュニティ集団を支えるために,あらゆる努力がなされなければならない。 リハビリテーションならびに支援のプログラムを立案するにあたっては,家族およびコミュニティ における慣習や構造を考慮にいれるとともに,障害者のニーズに対応する能力を高めることが肝 要である。

18. 障害者に対するサービスは可能な限り社会サービス,保健,教育,労働などの現存の社会 機構の枠の中で行うべきである。これらの社会機構とは,あらゆるレベルのヘルスケア,初等・ 中等・高等教育・職業訓練や就職斡旋の一般的プログラム,社会保障と社会サービスのための方 策を含む。リハビリテーション・サービスは,通常のコミュニティ・サービスや諸活動への障害 者の参加を容易にすることをめざすものである。リハビリテーションは,自然な環境において, コミュニティに基盤をおいたサービスと専門施設に支えられて行われるべきである。大きな施設 はさけなくてはならない。専門的な施設が必要な場合には,障害者の社会への早急かつ永続的統 合を保障するような体制が整備されなければならない。

19. リハビリテーションのプログラムは,障害者とその家族が必要と考えるサービスの企画と 編成に,障害者自身ができるだけ参加しうるようになっていなければならない。リハビリテーシ ョンに関する決定に障害者が参加できる過程が,プログラムの体系の中に,きちんと組み込まれ なければならない。重度精神障害者などで,自己の生活に影響をおよぼす決定について十分意見 を表明できない場合には,その家族,または法に基づいて選定された代理人が,企画と決定に関 与すべきである。

20. リハビリテーション・サービスを他のサービスと統合した形で発展させ,もっと容易に利 用できるようにするために,更に大きな努力を払わなければならない。これらは、高価な輸入の 機器や技術にたよるべきではない。国家間の技術の提供は促進されなければならないがその場合, 実用的でそれぞれの条件に適応した方法を選ぶべきである。

 F.機会の均等化

21. 「完全参加と平等」という最終目標を達成するためには,障害者個人に向けられたリハビ リテーションの方策だけでは十分ではない。経験の示すところによれば,損傷や能力不全が日々 の生活におよぼす影響の度合を決定するのは,主として環境である。一般の人々がコミュニティ において得ている生活の基本的諸要素を得る機会が否定されたとき,その人は不利を負うことに なるのである。その基本的諸要素とは,家庭生活,教育,就労,住宅,経済保障ならびに身の安 全,社交や政治のグループへの参加,宗教活動,親しい性的関係,公共施設への出入り,移動及 び全体的な生活様式の自由などを含むものである。

22. 社会は概して,すべての身体的,精神的機能を完全に備えた者のみの要求を満たすようつ くられている。予防への努力にもかかわらず,損傷や能力不全を負った人は常に相当数いるという事 実と,社会はそういう人々の完全参加を阻むものを見きわめ,除去すべきであるということを,認 識しなければならない。したがって,可能な限り教育は一般の学校のシステムの中で,雇用は一 般労働市場において行われ,住宅も一般住宅が利用できるようにすべきである。開発プログラム による成果が障害のある市民にまで及ぶようにすることは,各国政府の責務である。この目的の ための諸方策をそれぞれの社会の総合的立案過程と行政機構の中に組み入れていくべきである。 障害者が必要とするような特別なサービスは,可能な限り,一国の全体的なサービスの一部とさ れるべきである。

23. 以上の点は,政府だけにあてはまるのではない。いかなる企画でも責任者となっている者 は,障害を持つ人たちにもそれが利用できるようにしなければならない。これは,いろいろなレ ベルの公的機関,非政府団体,会社並びに個人にも適用される。国際間レベルにおいても同じこ とが言える。

24. 家庭とコミュニティのいずれにおいてもできるだけ普通の生活が営みうるようになるため に,コミュニティ支援サービス,自助具ならびに機器を必要とする。永続する障害をもつ人々が こうしたサービスを利用できるようにしなければならない。このような障害者とともに生活し, その日々の行動を援助している人々についても,十分な休息と息ぬきができ,自分自身のニーズ を満たす機会がもてるよう支援をうけることができなければならない。

25. 障害者ならびに非障害者の権利の平等の原則は,各々のそしてすべての人のニーズは等し く重要であること,これらのニーズが社会計画の基礎となされなければならないこと,そして全 ての人に参加への機会を平等に保証できるようあらゆる資源を動員しなければならない,という ことを意味している。障害者政策は,障害者がすべてのコミュニティサービスを利用できるよう にすることを確認すべきである。

26. 障害者は平等の権利を有すると同時に,等しく義務を負っている。社会建設に参加するこ とは彼らの義務である。社会は障害者に対する期待のレベルを高め,そうすることで社会変革に 向けて彼らの全資源を動員しなければならない。このことは,とりわけ若い障害者に繰り上げ定 年年金や公的扶助によるよりはむしろ職業と教育の機会を提供すべきであることを意味している。

27. 障害を持つ人々が社会の中でそれぞれの役割を遂行し,大人としての義務を果たすことを 大いに期待すべきである。
 障害者のイメージは種々の要素に基づく社会の態度―それがおそらく参加と平等を阻む最も 大きな障壁になっているといえるのであるが―によって決まる。我々はえてして障害にばかり 目を向け,白い杖,松葉杖,補聴器や車いすに注目するが,人間を見ようとしない。今求められ ているのは,障害者の障害ではなく,能力に目を向けることである。

28. 世界中いたるところで障害者が,政府や社会のあらゆる分野における決定に影響を与える 自らの権利擁護に向けて組織をつくり,団結しつつある。これらの障害者組織の果たす役割の中 には,自らの声をあげる,障害者のニーズが何かを明らかにする,優先順位について意見を表明 する,サービスの良し悪しの評価,変革を促進し,公衆の意識を高めることなどがある。これら の組織はその組織づくりの手段として交渉過程上の技術,組織能力,相互援助,情報交換および しばしば職業技能と機会を開発するための機会を提供している。参加の過程におけるその決定的 重要性を考えるならば,これらの組織づくりを奨励することは急務である。

29. 精神障害者は,現在自ら発言することを要求し,決定と議論に参加する権利を主張してい る。コミュニケーションの手段が限られた人々でさえも自分の考えを表現できることを証明して いる。この点で,精神障害者は他の障害をもつ人々の自己擁護運動(self‐advocacy movement) から学ぶことが多くある。こうした進展は奨励されるべきである。

30. 障害者のおかれた状況を改善するために,情報を準備し,広めることが必要である。一般 の人々と障害をもつ人々自身に対し,障害者の権利についての理解を増進し,なおかつ従来の固 定観念や偏見を強めるのを避けるような情報を提供してゆくには,すべての公共メディアの協力 を求めなくてはならない。

 G.国連組織で採用された概念

31. 国連憲章の中で,平和の原則の再確認,人権と基本的自由の尊重,人間の尊厳と価値なら びに社会正義の推進が最重要事項とされた。

32. 世界人権宣言(the Universal Declaration of Human Rights)は,いかなる種類の差別 なく,すべての結婚,財産の所有;公のサービスへの平等の権利;社会保障;ならびに経済的, 社会的,文化的権利の実現への権利を確認している。国際人権規約(the International Cove‐ nants on Human Rights),精神薄弱者の権利宣言(the Declaration on the Rights of Mentally Retarded Persons)そして障害者の権利宣言(the Declaration on the Rights of Disablid Per‐ sons)はその中でこの世界人権宣言にもりこまれている原則を明確に唱っている。

33. 社会の発展と開発に関する宣言(the Declaration on Social Progress and Development) は心身障害者の権利を保護し,彼らの福祉とリハビリテーションを確実にすることの必要性を宣 言している。すべての人々に有意義で生産的な労働の機会の権利を保証している。

34. 国連事務局の中で,数多くの部署が上記の概念ならびに世界行動計画に関連した活動を行 っている;つまり人権部,国際経済社会問題局,開発技術協力局,広報局,麻薬部および国連貿 易開発会議など。地域委員会も重要な役割を果たしている;アジスアベバ(エチオピア)のアフ リカ経済委員会,ジュネーブ(スイス)のヨーロッパ経済委員会,サンチャゴ(チリ)のラテンア メリカ経済委員会,バンコク(タイ)のアジア太平洋地域経済社会委員会,ベイルート(レバノン) の西アジア経済委員会である。

35. 国連組織の他の諸機関並びに諸プログラムは,「障害者に関する世界行動計画」を実施す るに当たって重要となる開発に関連する方策をすでに採用している。下記に列挙する。

  1.  国連開発計画(UNDP)の指針となる「技術協力の新局面」に関する国連総会決議事項3405 の中で,開発途上国間の技術協力の考え方を含むこと,および国連開発計画に対し,各国政府 からの緊急重大なニーズに対する援助要請に応じる時は,社会の最も貧しくかつ弱い層に到 達することの重要性を考慮するようにすることが義務づけられている。
  2.  ユニセフ(UNICEF)はすべての子供に基本的サービスを与えようという考えにたっており, 1980年にとくに家族およびコミュニティの資源を強化して障害児をその自然な環境の中で援助し ていく方針を採択している。
  3.  国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は障害をもつ難民のためのプログラムを行っている。
  4.  近東における国連パレスチナ難民救済事業機関は,他にもあるが,その中でもとくにパレス チナ難民の損傷の予防と,難民の障害者に対する社会的および物理的障壁を少なくすること にたずさわっている。
  5.  すでに障害をもつ人々のための災害に対する備えと予防,ならびに災害時に受けた傷害や処 理が永久的な障害となることの予防のために特定の対策をとるとの考え方が国連災害救助協 力機構(UNDRO)によって提唱された。
  6.  国連人間居住センター(UNCHS)は物理的障壁の問題および物理的環境へのアクセスにつ いて関心をもっている。
  7.  国連産業開発機関(UNIDO)の活動には,障害の予防に必要な医薬と障害者のための補装 具の生産も含まれている。

36. 現業活動の推進,支援および実施に参画している国連の専門機関は,障害者に関連した仕事 では長い経験をもっている。障害の予防,栄養,衛生,障害児,障害者の教育職業訓練,職業あ っせんその他のプログラムは,経験とノウハウの蓄積を示している。それにより,今後さらに実 績をあげる機会を提供すると同時に,障害者問題に関係している各国政府および私設機関と経験を 分かち合うことも可能にする。それには次のものが含まれている。

  1.  国際労働機関(ILO)の基本的ニーズへの戦略ならびに原則は,1955年の障害者の職業リハビ リテーションに関するILOの第99号勧告に表わされている。
  2.  国連農業食料機関(FAO)は栄養と障害の関連を強調している。
  3.  ユネスコの障害児教育専門化グループが勧告した適切な教育についての概念は,サンバー グ宣言(Sunberg Declaration)の2つの指導原則により強化されている。
    ―障害者は,彼らの特定なニーズに適したサービスをコミュニティから受けること。
    ―サービスの地方分散化と地域化(sectorization)の中で,障害者のニーズは彼らが属す るコミュニティの枠の中で考慮され,充足されること;(d)世界保健機関のプログラム「2000年 までにすべての人に健康を」と関連のプライマリー・ヘルス・ケアの方策。これを通して世 界保健機関加盟各国はすでに能力不全をもたらす病気や損傷の予防に着手している。
  4.  1978年のアルマタにおける「プライマリー・ヘルス・ケアに関する国際会議」において練 りあげられた,プライマリー・ヘルス・ケアの概念とその障害の保健面への応用については, 1978年世界保健会議で承認されたこの問題に関する世界保健機関の方針の中に示されている。
  5.  国際民間航空機関(ICAP)は契約を結んでいる国に対し,障害者の乗客のための移動の設 備と設備の規定に関する勧告を採択した。
  6.  万国郵便連合(UPU)の理事会はすべての国の郵政行政機関に対し,障害者のために郵便施 設を使いやすく改善するようにとの勧告を採択した。

II現状

 A.全般的状況

37. 今日の世界には,障害を持った人が数多くおり,しかもその数は増えつつある。5億人と いう推計数は,住民抽出調査の結果によって確認された数字であり,経験ある研究者の所見によ っても裏付けられている。大部分の国で少なくとも10人に1人は身体,精神または感覚の損傷 による障害を負っており,障害の存在によって,人口の少なくとも25%が不利益を被っている。

38. 損傷の原因は,国や地域によってさまざまである。障害の広がりや結果についても同様で ある。こうした多様性は,社会経済の状況の相違や,それぞれの社会がその構成員の福祉のため に行う対策の違いの結果である。

39. 専門家の調査により少なくとも3億5千万人の障害者が,その制約の克服を援助するため に必要なサービスが得られないような地域で生活しているという推計が,出されている。たとえ リハビリテーションの援助があっても大部分の障害者は彼らの生活を不利にする物理的社会的障 壁に阻まれている。

40. 数多くの要因が障害者の数を増加させ,障害者を社会の片すみに追いやっている。それら の要因の中には,次のようなものが挙げられる。

  1.  戦争と戦争の結果;その他の形の暴力,破壊,貧困,飢餓,流行病,人口の大きな移動。
  2.  過重な負担にあえぐ貧困化した家庭の占める比率が高い;過密し,不健康な住居と生活状態。
  3.  文盲率が高く,基礎的な社会サービス,保健教育の施策に対する知識が乏しい。
  4.  障害とその原因,予防や治療についての正確な知識の欠如;これは障害についての焔印差 別,誤った考えを伴う。
  5.  プライマリー・ヘルス・ケア及びサービスのプログラムが不十分。
  6.  資源の欠如,地理的な遠さ,社会的障壁など,利用できるはずのサービスを多くの人が活 用することを不可能にするような抑圧。
  7.  援助を必要とする人々の大多数のニーズに適さないような,高度に専門化したサービスへ の資源の流れ。
  8.  保健,教育,福祉,職業訓練や就職あっせんなどに対する関連サービスの下部構造の欠如 または弱さ。
  9.  統合,障害の予防,リハビリテーションに関連した活動の,社会経済の発展の中での優先 順位の低さ。
  10.  工業,農業,交通に関連した事故。
  11.  自然災害と地震。
  12.  物理的環境の汚染。
  13.  伝統的社会から現代社会への移行に伴うストレスとその他の心理的社会的問題。
  14.  医薬の無謀な使用,治療物質の誤用や麻薬,覚醒剤の違法な使用。
  15.  災害時の負傷者に対する誤った処置により,避けられるはずの障害がもたらされる。
  16.  組織と人口の増加およびその他の間接的要因。

41. 障害と貧困の関係はすでに明らかに確証されている。損傷となる危険は,貧困にあえぐ人 人に大変大きく,また逆も真である。損傷を持つ子供が生まれたり,家族の中に障害者がでると, 家族の限られた資源に過重の負担となり,家族の意欲をくじき,ますます貧困へと追いやられる。 このような要因の組み合わせは,社会の最貧困層に障害者の比率が高くなるという結果をもたら す。こうした理由で,貧困レベルに生活する関係家族の絶対数が着実に増える。こうした傾向が 開発に与えるマイナスの影響は深刻である。

42. 多くの損傷や能力不全の発生を防止したり障害者が障害を克服,または軽減するのを助け たり,また障害者を日々の生活からしめ出している障壁を国家が取り除くようにさせることは, 既存の知識と技術で可能である。

  1. 発展途上国における障害

43. 発展途上国における障害者問題には,とくに光をあてる必要がある。全障害者の80%が発展 途上国の辺境農村地帯に住んでいるのである。その中のある国では,障害者の数は人口の20%に のぼると推定され,家族や親類を含めると,人口の50%が障害による影響をうけている。この 問題は,殆どの場合,障害者の多くが極端に貧しい人々であるという事実により,さらに複雑に なっている。このような人々は,医療その他の関連サービスの少ない,あるいは全く存在しない 地域に住んでいることが多く,障害は未然に発見されないし,また発見することは不可能である。 医療的処置を受けても,あるいはたとえ万が一それを受けるにしても,その損傷は元へは戻らな いものとなるかも知れない。多くの国々で,障害を見つけて予防したり,障害者のリハビリテー ションと支援サービスのニーズに応えるための資源が不足している。つまり,訓練を受けた職員, 最新かつ,より効果的なリハビリテーションの戦略とアプローチの研究,そして障害者のための 補助具と機器の製造と供給が全く不十分である。

44. このような国々においては,障害者の問題は,人口の爆発的増加によってさらに複雑なも のとなり,障害者の数は容赦なく,相対的にも絶対的にも増加している。したがって,これらの 国々に対する援助は緊急を要しており,まず第一に現在いる障害者をさらに増やさないための人 口政策を講じ,それを並行して今いる障害者のリハビリテーションを行い,サービスを提供する ことが必要である。

  2. 特別のグループ

45. 損傷や能力不全はとくに女性に深刻な結果をもたらす。女性が,例えば,ヘルス・ケア,教育, 職業訓練,雇用の機会が与えられないために,社会的,文化的,経済的に不利な立場におかれて いる国がたくさんある。加うるに,彼女らが身体的もしくは精神的に障害者であった場合には, 能力不全を克服するチャンスはさらに少なくなり,社会生活に参加することはなおさら困難にな る。家族の中では,障害者になった親の世話をする責任は多くの場合女性にあり,そのことが彼 女らの自由と他の活動に参加する可能性をかなり制限することになっている。

46. 多くの子供にとって損傷の存在は,正常な発達からの排除または隔離につながる。このよ うな状況は,子供のパーソナリティおよび自己像の発達する大事な時期に,家族や地域社会の誤っ た態度や行為に接することによりさらに悪化する。

47. 大半の国々で,高齢者の数が増加しておりすでに国によっては,障害者の3分の2が高齢 者でもある。高齢者の障害の原因となっている身体の状況(例えば,神経痛,脳卒中,心臓病, 聴力や視力の減退)は,若い障害者にはあまり見られないもので,異なった形の予防,治療,リ ハビリテーションおよび支援サービスが必要であろう。

48. 犯罪学の一分野としての「被害者学」の出現に伴い,被害者に永続的もしくは一時的障害 をもたらす真の損傷の程度が,ようやく一般に知られるようになってきたところである。

49. 出産時や通常の活動の事故ではなく,意図的に傷害を加えられて,身体的または精神的に 障害者にされた拷問の犠牲者も,障害者グループの一つである。

50. 今日,世界には人災の結果1千万人を超える難民,流民が存在する。脱出の際に受けた迫 害,暴力および危険のために身体的および心理的障害を持つ人々が多い。ほとんどがサービスも施設 も極めて限られている第三世界にいる。難民であること自体一つの不利であり,その中の障害者 は二重に不利を負っている。

51. 外国で働く人々は,環境の違い,移住した国の言語・知識が欠如または不十分であること, 偏見と差別,職業訓練を受けていなかったり不足していること,不適切な生活状態からくる一連 の障害に付随した困難な状況に置かれることが少なくない。雇用されている国では,移民労働者 という特殊な立場であるが故に当人も家族たちもしばしば損傷や能力不全にみまわれる健康上の 危険や労働災害の危険の増大にさらされる。障害者となった移民労働者の状況は,多くの場合, 障害者のための特別なサービスや施設が非常に限られている自分のもとの国へ帰らなくてはなら ないということでさらに一層悪化する。

 B.予防

52. 損傷予防のための活動,たとえば,栄養,教育,食事およびビタミン添加といった活動, 遺伝および産前管理についての親へのカウンセリング活動,免疫および疾病,感染の撲滅のため の活動,事故の予防のための活動,環境の質的改善のための活動等は着実に前進しつつある。世 界のある地域においては,このような活動が身体的,精神的損傷の発生に大きな効果を及ぼして いる。

53. 世界の人口の大多数にとって,とくに経済的・社会的発展が初期段階の国々に住む者たち にとって,これらの予防のための施策が効果的に行き届くのは,ニードを持つ人々のほんの一部 でしかない。ほとんどの発展途上国では,とくに妊産婦,乳児および幼児の定期健康診断による損傷 の早期発見と予防のシステムもまだ確立されていない。

54. 1981年11月12日の障害の予防に関するリーズ・カースル宣言(the Leeds Castle Decla‐ ration on the Prevention of Disablement)において科学者,医師および保健の行政官ならびに 政治家からなる国際グループは,とりわけ次の障害予防の実際的方策への注意を呼びかけた:

  
3. “栄養不良,感染,放置”から生じる損傷は,費用のかからないプライマリー・ヘルス・ケ アを改善することにより予防できる……
4. 中高年齢期の障害の多くは先へ延ばしたり防ぐことができる。遺伝や退化現象をコントロ ールするうえで期待のもてる一連の研究がすすめられている。
5. 能力不全は必ずしも不利になるとは限らない。簡単な治療を施さないために能力不全を増 す結果になることが多く,また,社会の態度や施設のあり方が人々を不利にする能力不全の 機会を増大させるのである。一般の人々と専門家に対する不断の教育が緊急に必要とされて いる。
6. 避けることのできる障害は,すべての国々,つまり,先進工業国においても発展途上国に おいても,経済性のむだと人間性の剥奪の原因である。この喪失は速やかに減少させること ができる。
 大部分の障害を予防あるいはコントロールできる技術はあり,かつ進歩している。必要と されていることは,社会が問題解決の任を果たすことである。現在の国内および国際ヘルスプ ログラムでは,知識と技術の普及を確実に行うことを優先するべきである。
7. 現在,大部分の障害を予防および治療的にコントロールする技術はあるが,最近の生物医学 の研究における目覚しい進歩は,あらゆる介入を格段に効果的なものにしうる革命的な新し い手段を約束している。基礎と応用の両研究に対して,今後も援助がなされていくべきであ る。

55. 損傷を予防するプログラム,あるいは損傷が大きな能力不全にならないようにするプログ ラムの方が,長期的にみて,後から障害者の面倒をみなければならなくなるよりは費用がかから ないということへの認識が増しつつある。このことはたとえば,多くの国々で依然として放置され ている関連分野である職業上の安全プログラムについてことさら当てはまる。

 C.リハビリテーション

56. リハビリテーションや他のサービスは,しばしば専門化した施設を通して提供される。し かしながら,一般の公共施設の中で統合されたサービスをより強調する傾向が強くなってきてい る。

57. リハビリテーションと呼ばれる活動の内容及び考え方の双方に変革があった。
 リハビリテーションは従来,施設の環境の中で,多くの場合医療主導の下で,障害者に与えら れる治療とサービスのパターンとして考えられていた。それが専門的な医学,社会,教育面のサ ービスを供給する一方,地域や家族も参加させて,障害者が普通の社会環境の中で損傷による能 力不全の困難を克服しようとする努力を支えるよう援助するプログラムに徐々に代わってきてい る。重度障害者でさえも,彼らを支える必要なサービスが与えられたならば,かなりの程度自立 した生活ができるということが次第に認識されてきている。施設でのケアを必要とする人の数は, 以前に推計されていたよりもはるかに少なく,彼らは本質的な意味で自立した生活を送ることさ え大いに可能なのである。

58. 多くの障害者が補助具を必要としており,そして,これらの製品を作る技術の進歩は目ざ ましいものがある。最重度障害者についてさえもその移動,コミュニケーションおよび日常生活を 助ける極めて高度な機器が開発されている。しかしながら,これらの製品のコストは高く,これ らの機器によって自立生活が可能とみられる個人に機器を提供することのできる国はほんの一部 である。

59. 多くの人びとは,移動,コミュニケーション,そして日常生活を可能にする簡単な機器を 必要としている。国によっては,このような補助具は生産されており,障害者が入手できる。し かし,入手についての情報不足や高価格のため入手できないということも起こっている。関係国 にとってより適合しやすく,大部分の障害者のニーズにもより適しており,かつ,彼らにとって より入手しやすいといった,地元方式で生産ができる,より簡易で,それほど費用もかからない 機器を工夫することへの関心が高まっている。

 D.機会の均等化

60. 障害を持つ人々が社会に参加する権利は,主に政治的社会的活動を通して獲得が可能であ る。

61. 多くの国々で,完全参加への障壁を除去もしくは減らすための重要な処置がとられた。障 害者に学校教育,就労およびコミュニティの公共施設の利用の権利と機会を保障し,障害者の移動 を妨げる物理的障壁を除去し,障害者に対する差別を禁止する法律が制定されている場合が多い。 施設からコミュニティに根ざした生活へという動きがある。先進国と発展途上国の双方において, 学校教育の重点はますます「門戸解放教育(オープン教育)に置かれるようになり,これに対応 して施設や特殊学校が減少している。公共の交通システムを障害者にも利用できるようにする方 法や感覚の障害をもつ人々に情報がわかるようにする装置も考案されている。
 このような対策に対するニードへの認識は高まっている。多くの国で,障害者に対する大衆の 態度や行動を変えるための啓蒙キャンペーンが始められている。

62. 機会の均等化の過程に対する理解を深めるために,障害者が先駆的な働きをしてきたこと も少なくない。これに関連して障害者は社会の主流への統合を主張してきたのである。

63. このような努力にもかかわらず大部分の国々では障害者は機会の均等の達成からは未だ程 遠く,障害者の社会への統合の程度も,満足すべき状態からははるかに遠い。

  1. 教育

64. 少なくとも,10%の児童が障害をもっている。この児童たちは,障害をもたない児童たち と同じく教育を受ける権利があり,また積極的な援助と専門的なサービスを必要としている。し かしながら,発展途上国の障害児のほとんどは,専門的なサービスも義務教育も受けていない。

65. 障害者のための高い教育水準をもつ国々から,そのような設備が限られていたり,全く無い 国々まで,その差異は多様である。

66. 障害者の能力についての現在の知識は不十分である。さらに,障害者のニーズならびに教 育スタッフと施設の不足に対処する法制がないことも少なくない。大部分の国々で生涯教育はこ れまで障害者には何の役にも立っていない。

67. 特殊教育の分野において,教授法の著しい進歩と重要な革新的な発展がなされてきたが, 障害者教育で,より多くのことが達成されうるであろう。しかしながら,進歩の大部分は少数の 国々あるいは少数の都会に限られている。

68. 早期発見,評価と介入,種々な場面での特殊教育プログラム―多くの障害児は普通学校 に参加しうるのに対し,他の障害児は極めて濃いプログラムを必要とするのであるが―に前進 がみられた。

  2. 雇用

69. 障害を持つ多くの人々は就労を否定されていたり,あるいは社会的に評価の低い収入の少 ない仕事についているだけである。適切な評価,訓練,職業あっせんを受ければ,多くの障害者 はかなりの範囲の仕事を平均的に要求される作業基準に従ってこなすことができるのであるが, 現状は上記の通りである。失業率が高まり不景気になったとき,最初に解雇され,雇用されると きは最後になるのが障害者であるのが普通である。経済不況の影響を受けた工業諸国の中には就 職希望の障害者の失業率が健常者の求職者の倍になったところもある。多くの国々で,障害者に 職業を創出するための多様なプログラムが開発され,対策が講じられてきた。この中には,保護 ・生産ワークショップ(Sheltered and production workshops),保護エンクレーブ(enclaves), 指定職種,割当雇用,障害者を訓練して雇う雇用主への助成,障害者のおよびそのための障害者に よる生産協同組合,その他がある。一般企業もしくは特別企業に雇用されている障害者の数は, 障害を持つ就労可能な労働者の数に比べ著しく少ない。人間工学的原理をより広く適用していく ことによって,職場・道具・機械や設備を比較的少ない経費で改善し,障害者の雇用の機会を広 げることができるのである。

70. 障害者の多くは農村地域に居住しており,発展途上国にこの傾向が顕著である。家族の経 済が農業またはその他の農村地域の職業を土台としており,かつ,伝統的な大家族が存在する場 合は,大部分の障害者に何らかの有益な仕事を与えることは可能であろう。しかし,農村地域か ら都市への家族の移動や,農業の機械化,商業化が進み,物々交換から金銭取引に変わり,大家 族制度が崩壊すると,障害者の就労状況は非常に厳しいものとなる。都市のスラムに住んでいる 障害者の場合は,就労のための競争率が高く,経済的に利のある仕事は大変少ない。スラム地域 の障害者の多くが失業を強いられており,依存した生活を余儀なくされている。そして物ごいに 歩かねばならない人々もいる。

  3. 社会問題

71. 社会の基本的単位,すなわち家庭,社交的グループ及びコミュニティへの完全参加は,人 間の経験として欠くことのできないものである。このような参加の機会の均等化への権利は世界 人権宣言に明らかにされており,障害を持つ人々を含めすべての人々に適用されるべきである。 しかし現実には,障害者が自分たちの所属している社会文化システムの活動に完全参加をする機 会を奪われていることが多い。このような権利の剥奪は,無知,無関心及び不安からくる物理的 社会的障壁に起因している。

72. 態度および行動が障害者を社会的文化的生活から排除している場合が多い。人々は障害を持 つ人々との接触や個人的つきあいを避けたがる傾向がある。障害者に対する偏見や差別が広く行 われていたり,あるいは通常の社会的交際をかなりはばまれていることが,多くの障害者に心理 的社会的問題をもたらしている。

73. 障害者と接触を持つ専門職およびその他福祉サービス担当者が,障害者が通常の社会経験を できる能力を持っていることを評価せず,障害者と他の社会グループとの統合に寄与するに至っ ていない場合が非常に多い。

74. このような障壁のために,障害者が他の人々と親密な関係を持つことが困難,あるいは不 可能になっている。結婚および親になることがたとえ機能的に何ら問題がなくても,障害者とみな される人々にとっては大変難しい場合が多い。精神障害者にとって,性のパートナーシップを含 め,人間的および社会的つながりが必要であることは,最近徐々に認識されてきている。

75. 障害を持つ人の多くは,地域社会の通常の社会生活から閉め出されているばかりでなく, 施設に閉じ込められているのが事実である。過去のハンセン病患者のコロニーはほとんどなく なり,巨大施設もかつてほど多くはなくなったが,いまだあまりにも多くの人々が正当な理由も なく施設に収容されている。

76. 物理的障壁のために社会に積極的に参加できないでいる障害者は多い。物理的障壁には, 車いすに狭すぎる玄関,建物・バス・電車・飛行機の入口ののぼれない階段,届かない電話や電 気のスイッチ,使えないトイレの設備,などがある。同様に,他の種の障壁も彼らを締め出して いる。例えば,聴力障害者のニーズを無視した口頭でのコミュニケーションや,視力障害者のニ ーズを考えない文字による情報である。そのような障壁は,無知と関心の低さの結果であり,大 部分は,綿密な計画により高くない経費で避けられうるものであるにもかかわらず依然存在している。 このような障壁の除去を立法化し,国民啓蒙のキャンペーンを始めた国もあるが,残された問題 はなお深刻である。

77. 損傷の予防,障害者のリハビリテーションおよび社会への統合のためのサービス,施設および ソーシャル・アクションは一般に,不利な立場の人々に対し資源,収入およびサービスを割当てよ うとする政府と社会の積極性と能力に密接なつながりがある。

 E.障害と新しい国際経済秩序

78. 新国際経済秩序の枠組のなかでの先進国から発展途上国への資源や技術の移行は,発展途 上国の経済強化のためのその他の対策と同様,もし履行されるなら,障害者を含めてこれらの国 国の人々に利益をもたらすであろう。発展途上国,とくに農村部の経済状態の向上は,障害者に 新しい雇用機会を創出し,予防,リハビリテーション,および機会均等のための施策を支えるた めに必要な資源を提供するものであろう。もし適切に実施されるならば,適切な技術の移行は, 身体的,精神的,および感覚的損傷のもたらす影響に対応する補装具の大量生産にかかわる産業 の発展に至り得る。

79. 第三期国連開発十年計画の国際開発戦略(総会決議35/56)には,開発の過程に障害者の参 加を得るためとくに努力を払うべきこと,ならびに予防,リハビリテーション,および機会均等化のた めの効果的施策が不可欠であることが述べられている。この目標に向けて積極的行動を行うこと は,開発のためにすべての人的資源を動員するという,より広範な努力の一部となろう。国際経 済秩序の改革は,不利な立場にある人々の完全参加を達成するための国内の改革とあいたずさえ て進められるべきものであろう。

 F.経済社会開発の影響

80. 開発への努力が実り,栄養,教育,住宅,衛生状態が改善されプライマリー・ヘルス・ケアが 行き届くと,損傷の予防および能力不全への対応も大いに改善される。この線に沿って以下の分 野の発展も促進される。

  1.  社会的扶助,公衆衛生,医学,教育,職業リハビリテーション等一般分野における人材の 養成。
  2.  障害者用設備・機器の地元での生産能力の向上。
  3.  国および地域社会の社会福祉,社会保障制度,協同組合および相互扶助のためのプログラム の確立。
  4.  障害者のための適切な職業指導と職業準備サービスならびに雇用機会の増大。

81. 経済開発は人口の規模や分布の変化,ライフ・スタイルの変化,社会構造や社会関係の変 化をもたらすため,人間の問題に対応するために必要なサービスは十分な速度で改善されたり拡 大されたりすることは通常ない。このような経済と社会の開発のアンバランスは,障害者の地域 社会への統合をさらに困難にする。

III 障害者に関する世界行動計画実施のための行動提案

 A.序

82. 障害者に関する世界行動計画の目的は,障害の予防,リハビリテーション,ならびに障害 者の社会生活と発展への“完全参加”と“平等”という目標の実現に向けて効果的な方策を推進 することにある。世界行動計画の実施にあたっては,発展途上の国々,とくに開発の最も遅れた国 国の特殊事情に当然の配慮を払わねばならない。国民全体の生活条件の改善の課題が膨大であり, 資源が一般に乏しいこのような国々では,世界行動計画の目的の達成はますます困難である。ま た同時に,世界行動計画の実施そのものが,すべての人的資源の動員と全国民の完全参加を通じ て発展へ寄与するものであることも認識されるべきである。国によってはすでに,この行動計画 が勧告している行動のいくつかに着手しあるいは実施しているかも知れないが,より多くのこと がなされなければならない。このことは,一般の生活水準の高い国々についても同様である。

83. 障害者の問題の解決は,国のレベルでの全面的な発展と密接に関連していることから,発 展途上国における問題の解決は,こうした国々の社会的経済的発展を助長する適切な国際状況が どの程度つくり出されるかにかかっている。したがって新国際経済秩序の確立は,世界行動計画 の目的の実現と直接関連がある。とくに重要なことは,第3期国連開発の10年のための国際開発 戦略(the International Development strategy for the Third United Nations Development Decade)で同意されたように,発展途上国への資源の流入を実質的にもっと増大させることであ る。

84. これらの目的に必要なものは,障害者の機会の均等化,効果的リハビリテーション・サービ スおよび予防施策に関連する政策と活動を組み合わせ調整していくためのセクトを超えた,様々 な分野にわたる世界戦略である。

85. 今後の世界行動計画の展開および実施に当たっては障害者および障害者団体の意見を聞くべ きであり,このためには,地方,国内,地域および国際レベルの障害者団体の組織化を推進するため にあらゆる努力を払うべきである。彼らの体験に基づくユニークな知識は,障害者のためのプロ グラムやサービスを計画する上で貴重な貢献をすることができる。障害者は問題の討議を通じて, 彼らに関係ある人々を最も広く代表した見解を提示してくれる。障害者は社会一般の態度に影響 を与え,障害者の協議を正当化し,また変化への力となる。また,彼らは障害者問題を最優先事 項とするうえで重要な影響力をもっている。障害者自身が自らの利益のために計画された政策,プ ログラムおよびサービスの有効性を決定するうえで,実質的な影響力を持つべきである。この過程 に精神障害者も含まれるよう特別の努力を払うべきである。

 B.国家レベルの行動

86. 世界行動計画は,すべての国々を対象に作成されている。しかし,実施期間および優先的実 行項目の選択は,それぞれの国の現状,資源状況,社会経済発展のレベル,文化的伝統,行動計 画にもられている活動を組織化し,実施できる能力により国ごとに異なる。

87. 本項に勧告されている施策の実施に対する最終責任は,各国の政府にある。しかしながら 各々の国家体制の違いによって,地方当局およびその他の公的ならびに民間諸機関もまた,世界行動 計画にもられている国家施策の実施を要請されるものである。

88. 加盟各国は,世界行動計画の目標達成のための国家レベルの長期プログラムに早急に着手 しなければならない。そうした計画は,その国の社会経済発展に対する全般的政策の構成要素と して結合されたものでなければならない。

89. 障害者にかかわる事柄は,それだけを分離したかたちではなく,適切な全体的枠組の中で 取り扱われるべきである。特定の分野を担当したり,その中で仕事をする各省庁ならびに公私の機 関は,権限を有する分野に関わってくる障害者に関連した問題に対して責任を負わなければなら ない。政府は各省庁やその他の政府諸機関ならびに民間組織の世界行動計画に関連した活動を調 査しフォローするための中核(組織)(例えば,国内協議会,委員会その他同様の機関)を設ける べきであろう。そうした機構を設定するに当たっては,障害者団体を含めたすべての関係者を組 み入れなければならない。その機関は,最高レベルの決定者と接触できるようにするべきである。

90. 世界行動計画の遂行のために各加盟国は,以下のことを実施すべきである。

  1.  各レベルでの活動の立案,組織化および財源の確保。
  2.  立法による,目的達成のための施策に必要な法的基礎と根拠の確立と施策の正当化。
  3.  障壁の除去による完全参加のための機会の確保。
  4.  障害者に対し,社会的,栄養学的,医学的,教育的および職業的援助ならびに補装具の供与 によるリハビリテーション・サービスの提供。
  5.  障害者に関連した公立および民間組織の設立あるいは動員。
  6.  障害者団体の設立および育成の支援。
  7.  障害を持つ人々およびその家族を含め,国民のあらゆる層に対する世界行動計画の諸問題に 関する情報の普及とその準備。
  8.  世界行動計画の鍵となる問題およびその実施に対する幅広い理解確保のための大衆の啓蒙 の推進。
  9.  世界行動計画に関連した事がらの研究の促進。
  10.  世界行動計画に関連した技術援助ならびに技術協力の推進。
  11.  世界行動計画に関連した決定への障害者ならびに障害者団体の参加を促進すること。

  1. 決定過程への障害者の参加

91. 加盟各国は障害者が自らを組織し,それぞれの利害と関心に関する主張を調整してゆける よう,障害者団体に対する援助を拡大しなければならない。

92. 加盟各国は,できる限りの方法で障害者からなる,あるいは障害者を代表する組織が発展 するよう積極的に努め,かつ奨励するべきである。会員や意志決定期間(governing bodies)の中 で,障害者,場合によっては親族が決定的な影響力をもっている組織は多くの国にある。しかし それらの組織の多くは,自己を主張し,自らの権利のために闘う手段を持ち合わせていない。

93. 加盟各国は障害者の組織との直接の接触を確立し,それらの組織がかかわりのあるすべて の分野での政府および決定に影響力を行使できる道筋を開いてゆかなければならない。加盟各国は, この目的達成のために障害者団体に対して必要な財政的援助を行わなければならない。

94. あらゆるレベルにおける団体もしくはその他の組織体はそれぞれの活動に障害者ができる 限り完全に参加できるようにしなければならない。

  2. 損傷,能力不全および不利の予防

95. 大部分の障害を予防あるいはコントロールする技術は利用可能であり,また進歩しつつあ るが,必ずしも十分に活用されていない。加盟各国は,損傷ならびに能力不全の予防のために適 切な方策をとり,また関連ある知識と技術の普及を確実に行わなくてはならない。

96. 社会のすべてのレベルにおける調整のとれた予防計画が必要である。この計画は,次の諸 点を含むものでなくてはならない。

  1.  国民のすべての層,とりわけ農村地域や都市スラムにゆきわたる,コミュニティに根ざし たプライマリー・ヘルス・ケアのシステム。
  2.  効果的母子ヘルス・ケアとカウンセリングならびに家族計画と家族生活についてのカウン セリング。
  3.  ビタミン,その他の栄養に富んだ食物の生産と利用を含む,とくに母子に対する栄養学的 教育と適切な食物を得るための援助。
  4.  世界保健機関の免疫拡大計画の目標に沿った,伝染病に対する免疫処置。
  5.  損傷の早期発見と早期治療のためのシステム。
  6.  家庭内や職場,道路やレジャーに関連した活動などでの事故を防止するための安全規則と 訓練計画。
  7.  仕事と職場環境の調整や職場における保健計画の実施による,職業上の障害や病気の発生 と悪化の防止。
  8.  薬物に関連した障害,とくに児童生徒と高齢者におけるそれを防止するために,医薬・麻薬 類,アルコール,タバコ,およびその他の興奮剤や抑制剤の無謀な使用を統制する方策。また, とくに懸念すべきことは,妊婦によるこれらの物質の無謀な摂取である。
  9.  国民が損傷の原因から最大限に身を守れるような生活様式を獲得するよう援助する教育活 動と公衆保健活動。
  10.  障害の予防プログラムに関連した世間一般の人々と専門家のための継続教育と広報活動。
  11.  非常時のけが人の処置に必要とされる医師,パラメディカル,その他の人々の適切な訓練。
  12.  障害の発生を少なくするのを援助するために農村生活改善指導員(rural extention work‐ ers)の訓練に予防対策を組み入れる。
  13.  就労中の事故といろいろな程度の障害を予防するために,労働者に十分に系統だった職業 訓練と実際的な実習訓練を行う。発展途上国ではしばしば時代遅れの技術が用いられている という事実に着目しなくてはならない。多くの場合,古い技術が先進国から発展途上国へ移 入される。発展途上国の状況に不適切な古い技術は,不十分な訓練と労働上の保護の不足と 相まって,就労中の事故数の増加と障害をもたらす。

  3. リハビリテーション

97. 加盟各国は,世界行動計画の目標達成に必要なリハビリテーションサービスの供給を図る と共にこれを保障しなくてはならない。

98. 加盟各国は,すべての人々に対して,損傷の能力不全化を防ぎ,あるいは軽減するために 必要なヘルス・ケアおよび関連サービスを提供することが望ましい。

99. これには,障害者一人ひとりが本人に最も適した機能レベルを達成することを可能にする 上で必要な社会的,栄養学的,保健上および職業上のサービスが含まれる。人口分布,地理的条件, 発展段階などの各種の要因に応じて,以下にあげるようなルートを通じてサービスを提供するこ とができる。

  1.  コミュニティに配置されたワーカー。
  2.  保健,教育,福祉ならびに職業などに関するサービスを提供する一般施設。
  3.  一般的施設が必要なサービスを提供することができない場合には,その他の専門サービス。

100. 加盟各国は,日常生活と自立のために補助具や機器を欠くことができない人たちに,地域 の状態に適したそれらのものを入手できるよう保障しなければならない。リハビリテーションの期 間中および終了後も補助具の給付が確実に受けられるようにすることが必要である。修理のため のアフターサービスと老朽化した補助具の取り替えもまた必要である。

101. そうした機器を必要とする障害者に対し,できる限りその財源を確保するとともに入手の 機会および使用方法をならう機会を保障することが必要である。自国では生産できず他国から輸入 しなくてはならない,自助具や機器の入手を困難にするような関税その他の輸入手続きは,でき る限り取り除くべきである。自助具が使われる(地域の)技術的,社会的,経済的状況に合わせ て,地元での生産を支援することが重要である。補装具の開発と生産は,その国の総体的な技術 の発展に沿ったものであること。

102. 補装具の地元生産と開発を促進するために,加盟各国はそのような地元での開発を支援す る責任をもった国立のセンターを設立することを検討するべきである。多くの場合,現存の特殊 学校や技術研究所などがその基礎となることができる。この点について,地域協力も考慮すべき である。

103. 加盟各国は,一般の社会サービス制度の中で障害者とその家族の諸問題に対応するために 必要なカウンセリング,その他の援助を提供する能力のある職員を配置することが望ましい。

104. 一般の社会サービス制度における資源が,これらのニーズに対応するのに不十分である場 合には,一般的な制度の質的改善がなされるまでの間,特別なサービスを行ってもよい。

105. 加盟各国は,それぞれ入手できる資源に基づいて,農村地域,都市スラム,および貧民街に 生活する障害者に必要なサービスがゆきわたると共に,十分に活用されるよう必要に応じて特別 な方策をとることが望まれる。

106. 必要なことは,障害者をその家族やコミュニティから分離してはならないことである。こ の点を保障するためには,サービスのシステムの中で次の点を考慮すべきである。すなわち交通 およびコミュニケーションの問題,支援的な社会的サービス,保健サービスおよび教育サービスの必 要性;原始的でしばしば危険を伴う生活条件の存在;そしてとりわけ都市スラムにみられる人々 のサービスを求め受け入れる意志を阻止する社会的障壁である。加盟各国は,サービスがすべて の住民や地域に必要度に応じて公正に配分されるよう保障しなければならない。

107. 精神病者のための保健および社会的サービスは,多くの国々においてとくになおざりにされて いる。精神病者の精神医学的ケアを補完するために,患者と,時として特別な負担を負っている 家族に対して,社会的援助とガイダンスを行わなくてはならない。このような援助が行われると ころでは,施設への入所期間を短縮し,再入所の確率を小さくすることが可能である。精神薄弱 者がその上にさらに精神病の問題にも苦しんでいる場合,ヘルスケアの職員が,精神薄弱に関連 した別個のニーズを認識するような対策を確実に講ずることが必要である。

  4. 機会の均等化

   a.法制

108. 加盟各国は,障害者が他の市民と平等な機会を与えられるよう保障する責任を負わなけれ ばならない。

109. 加盟各国は,障害に関する差別的慣習を除去するために必要な方策をとらなければならな い。

110. 人権に関する国内法を起草するに当たり,また障害者問題に関連した国内委員会あるいは 同様の国内調整団体に関し,同胞市民に保障された権利および自由を障害者が行使する際に不利 益な影響を及ぼす諸条件について,とくに注意を払うべきである。

111. 教育の権利,仕事をする権利,社会保障を受ける権利,非人間的または屈辱的扱いから保 護される権利などとくに重要な権利については個別に焦点をあて,障害者の視点から検討を加え ることが必要である。

   b.物理的環境

112. 加盟各国は,本文書の第8項に明記されているような様々なタイプの障害者を含めてすべ ての人々が,物理的環境を利用できるよう努めなくてはならない。

113. 加盟各国は,発展途上国の農村地域でのプログラムを含め,人間の居住地を計画するに当 たり,すべての人々が利用できるようにするという点を順守する方策をとらなくてはならない。

114. 加盟各国はすべての新しい公共建築物および施設,公共住宅および公共輸送機関が障害者の 利用できるものにするための政策を採用することが望まれる。更に現存する公共建築物や施設,住 宅,輸送機関についてもできる限り,とくに改修が行われる場合には障害者の利用できるものに する方策をとらなければならない。

115. 加盟各国は障害者がコミュニティの中でできる限り自立して生活できるような支援サービ スをすすめていくべきである。そうする中で,現在いくつかの国々で行われているように,障害 者が自らのためのサービスを自らの手で開発し管理していく機会をもてるようにしていくべきで ある。

   c.所得保障と社会保障

116. すべての加盟国はその法律および規則の体系に,社会愚障に言及した世界行動計画の一般 的および補足的目標を包括する規定を含めるべく努めなければならない。

117. 加盟各国は,障害者があらゆる形の所得とその保障および社会保障を受ける均等の機会を確 保しなくてはならない。その方法は,各国の経済のシステムと発展の程度に適応した形で行われ るべきである。

118. 一般市民のために社会保障,社会保険,その他かかる制度が存在している場合には,障害 者およびその家族に対して十分な給付や予防,リハビリテーション,機会の均等のためのサービス が行われているということ,またそのような制度の下での規定は,サービスの供給者あるいは 受給者についても,障害者を除外または差別してはならないということを確認するための見直し がなされるべきである。定められた目的の達成のためには,社会的ケアと産業上の安全および健康 保険の公的制度の創設と発展が重要な必須条件となる。

119. 障害者およびその家族が自己の権利および給付にかかわる決定に対して,公正な審理を通 じて不服申し立てが容易にしやすいような制度がつくられなければならない。

   d.教育と訓練

120. 加盟各国は,障害者が他の人々と均等な教育の機会をもつ権利を認める政策をとるべきで ある。障害者の教育はできる限り一般の教育制度の中で行われるべきである。障害者教育の責任 は教育の権限を有する機関の下におかれるべきであり,また義務教育に関する法律は,最も重度 の者も含め,あらゆる範囲の障害をもつ児童を含むものでなくてはならない。

121. 加盟各国は,就学年齢および進級に関する規定を障害者にも適用するにあたり適当である ならば試験の手続きについて幅広い柔軟性をもたせなくてはならない。

122. 障害児・者の教育的サービスの開発は,基本的な基準に従って行われなくてはならない。 それらのサービスは

  1.  個人化すること―つまり,当局管理者,障害をもつ児童とその親の間で合意され,客観 的に評価されたニーズに基づくこと。また明確に表現されたカリキュラム目標と短期的な目的 について,定期的な見直しを行い,必要な時に修正すること。
  2.  地元で受けられること―つまり,特別な場合を除いては,児童の家または住んでいる所 から手頃な距離内にあること。
  3.  統合的であること―つまり,年齢や障害の程度に関係なくすべての人々のために(サー ビスが)提供されること。従って,学齢期の児童は誰も障害の重さを理由に教育を受けられ なかったり,他の児童よりも明らかに程度の劣る教育を受けることはない。
  4.  選択ができること―そのコミュニティにおける特別なニーズに合わせた選択ができる。

123. 障害児の一般教育制度への統合を図るには,すべての関係者による計画が必要である。

124. 何らかの事情で普通学校教育の施設が障害児にとって不適切である場合にはこれらの児童 の教育は適当な期間,特別な施設で行われなくてはならない。この特別な施設での教育は,普通 学校教育に匹敵するものでなくてはならず,また普通学校と密接なつながりをもって,行うべき である。

125. 教育過程のすべての段階において親の参加が非常に重要である。障害児をもつ親はその児 童のためにできる限り普通の家庭環境を与えられるよう援助が受けられること,職員は障害児の 親と協同する訓練を受けるべきである。

126. 加盟各国は成人教育プログラムに障害者が参加できるようにしなければならない。その際, 農村地域には特別な配慮がなされなければならない。

127. 一般の成人教育課程の施設が障害者のニーズに応じられない場合にはその一般のプログラ ムが改められるまでの間,特別過程あるいは訓練センターが必要となろう。加盟各国は障害者に 大学レベルの教育を受ける可能性を与えるべきである。

   e.雇用

128. 加盟各国は,障害者が都市においても農村においても,一般労働市場の中で生産的かつ収 入を得られる職業への均等な機会を保障されるような政策,およびそれを支えるサービス機構を採 用しなければならない。農村における職業,そして適切な道具や設備の開発については,とくに 配慮すべきである。

129. 加盟各国はさまざまな方策を実施することによって,障害者の一般労働市場への統合を支 援することができる。たとえば奨励を目的とした割当雇用制度,指定または特定職種,小規模事 業所や協同組合に対する貸付または補助金,独占契約または優先製造権,障害のある労働者を雇 用する企業に対する税制上の特典,もしくはその他の技術的あるいは財政的援助などである。加 盟各国は障害者が仕事をする上で必要な補装具の開発を支援するとともに,障害者がそれらを人 手したり援助を得やすくするようにしなければならない。

130. しかしながら,政策とそれを支えるサービス機構は,雇用の機会を限定したり,民間経済 部門の活力を妨げてはならない。それとともに,加盟各国がそれぞれの国内事情に応じた様々な 方策を講じうるようにしておかなければならない。

131. 障害者の雇用の機会をふやし質を高めるための共同戦略と共同行動を推進するためには, 政府,雇用主および労働者団体の中央およビ地方レベルでの相互協力がなくてはならない。そのよう な協力は,採用方針,障害をもたらすようなけがや損傷を予防するための労働環境改善の対策, 職務中に損傷を受けた従業員のリハビリテーション対策,たとえば,障害者の条件に合わせて職場 や作業内容を調整することに関するものとなろう。

132. これらのサービスは,職能評価,指導,職業訓練(ワークショップでの訓練を含む),職 業紹介,ならびにフォローアップを含まなければならない。特殊なニーズのために,あるいはとく に重度の障害のために,一般雇用の需要に応じられない人々に対しては,保護雇用を利用できる ようにすべきである。そのような処置には,生産ワークショップ,在宅就労,自営業ならびに一 般企業内で保護的条件で就労する小グループの重度障害者などの形態がありうる。

133. 雇用主として行動する際には中央および地方政府は障害者の公共部門での雇用を促進するべ きである。法律や規則は,障害者の雇用に対して不必要な障壁となる条件を掲げるべきではない。

   f.レクリエーション

134. 加盟各国は,障害者が他の市民と同様のレクリエーション活動の機会をもてるよう保障し なくてはならない。それには,レストラン,映画,劇場,図書館等,ならびに行楽地,体育館,ホ テル,海岸,その他のレクリエーションのための場所を使用することが含まれる。加盟各国はこ の目的を実現するうえで障壁となるものはすべて除去するべく対策を講ずるべきである。旅行者に 関して権限を有する機関,旅行社,ホテル,ボランティア団体その他レクリエーション活動や旅 行に関係あるところはすべての人々にそのサービスを提供すべきであり,障害者を差別してはな らない。このことは,たとえば一般の人々への通常の情報の中に障害者に利用可能であるか否か の情報をもりこむといったことが含まれる。

   g.文化

135. 加盟各国は,障害者が自らのためばかりでなくコミュニティを豊かにするために,彼らの 創造的,芸術的,知的能力を十分に活かせる機会をもてるよう保障しなければならない。そのた めには文化活動に接する機会も保障されなければならない。必要な場合には,精神または感覚の 損傷をもつ人々のニーズに応えるために特別な配慮をすべきである。これらの中には聾者のため のコミュニケーション自助具,視力障害者のための点字図書やカセット,本人の知的能力にあわ せた読書用資料などが含まれる。文化的活動の範囲にはダンス,音楽,文学,劇,プラスチック 工芸などが含まれる。

   h.宗教

136. 障害者がコミュニティで行われている宗教活動の恩恵を充分に受けられるよう措置を講ず るべきである。このようにして,障害者のこれらの活動への完全参加が可能になるのである。

   i.スポーツ

137. 障害者にとってスポーツが重要な意味をもっていることが徐々に認識されてきている。し たがって,加盟各国は障害者のあらゆる形のスポーツ活動を,とりわけ適切な施設の提供とこれ らの活動の適切な組織化をとおして奨励すべきである。

  5. コミュニティレベレの行動

138. 政府はコミュニティに対する,世界行動計画の目標達成に向けてのプログラムを推し進め るための情報提供,教育ならびに財政援助に高い優先順位をおくべきである。

139. 地方のコミュニティ間の協力および情報や経験の交換を奨励,促進するための措置がとられ なければならない。障害に関連した国際技術援助もしくは技術協力の恩恵を受ける国は,その恩 恵や効果が最大のニードをかかえるコミュニティに確実に届くようにしなければならない。

140. 地方自治体,地方機関,およびコミュニティ団体たとえば市民グループ,労働組合,婦人団 体,消費者団体,サービスクラブ,宗教団体,政党,親の会などの積極的参加を得ることが重要 である。各コミュニティは,障害者団体が影響力を発揮できるかたちで,資源の動員と行動への 取り組みの連絡調整の中心的役割を果たすべき機関を指定することができる。

  6. 職員の養成

141. 障害者に対するサービスの開発と供給に責任を持つ当局は,職員の問題,とくに人員確保 と養成の問題に目を向けなければならない。

142. コミュニティに根ざして損傷の早期発見に取り組むワーカーの養成,初期の援助と適切な 施設への紹介,そしてフォローアップならびに紹介機関の医療チームとその他の職員が決定的に 重要である。これらは可能な限りプライマリー・ヘルス・ケア,学校,およびコミュニティ開発な どのような国連施策に統合すべきである。加盟各国は,医師に対して,ある種の薬物の濫用によ って生ずる障害について重点をおいた訓練に取り組みを強化していくべきである。野放しに使用 すると,長い間には,個人と公衆の健康に危険をもたらすような特許売薬の販売は規制するべき である。

143. 精神および身体障害に関連したサービスを現在全く受けていない障害者が増大しているが, 彼等にこうしたサービスがゆきわたるようにするためには,各コミュニティのさまざまなタイプ の保健および社会福祉のワーカーを通じてこれを提供する必要がある。彼らの活動の多くはすでに 予防や障害者に対するサービスに関連しているのである。障害者やその家族が利用できる簡単な リハビリテーション措置や技術について,特別の指導教育が必要である。これらは,その担当範 囲に応じたコミュニティまたは地区レベルのリハビリテーション・カウンセラーが教えることができる。 障害者のための地元計画の調整,ならびにその地域で得られる障害者に対するリハビリテーション その他のサービスとの連絡について責任を負うリハビリテーション・カウンセラーには,特別な 教育が必要となる。

144. 専門職ワーカーは専門的知識や技能に加え社会,栄養,医療,教育,職業等の障害者のニ ーズに関する包括的な情報知識を必要とする。十分な教育とスーパービジョンを受けたコミュニ ティワーカーは,障害者の必要とするほとんどのサービスを提供することができ,職員の不足を 克服するための貴重な要員となりうる。彼らの訓練には避妊法や家族計画についての十分な知識 も含まれるべきである。ボランティアもまた非常に有効なサービスやその他の形の援助を提供で きる。コミュニティにおける関連分野ですでに活動しているサービス提供者の知識,能力および責 任を拡大することにさらに大きな力点を置かなければならない。それらの人たちとは,教師,ソ ーシャルワーカー,保健サービスの補助者,行政管理者,行政企画担当者,コミュニティリーダ ー,聖職者,家族カウンセラーなどである。障害者の福祉にたずさわる人々には,ケア,治療, リハビリテーションおよびそれに続く生活と就職の準備に関する決定に,障害者とその家族の完全 参加を求め,励まし,援助することの意義と重要性を理解するよう,教育を行わなければならな い。

145. 特殊教育の教師の養成はダイナミックな分野で,教育が採用されることになっている国な らばどこでも,あるいは少なくとも文化的背景や発達のレベルが大きく違わないところでならば, 行われるべきである。

146. 統合を成功させるためには,普通教育と特殊教育の両方の教師として適当な養成訓練プロ グラムを行うことが必要条件である。教師の養成プログラムの中に統合教育の概念が反映されな ければならない。

147. 多くの発展途上国では,特殊教育の教師はひとりで多くの役割を果たさなくてはならない ので,その養成に当たっては,できるだけ広い範囲をカバーして行うことが重要である。高いレ ベルの養成は必ずしも必要でもないしまた望ましくもないこと,大半の職員は中程度あるいはそ れ以下のレベルの養成を経てきていることを留意しておくべきである。

  7. 情報および大衆の教育

148. 加盟国は,一般市民を含むすべての関係者にゆきわたるよう障害者の権利,貢献,満たさ れていないニーズに関する総合的な広報活動を奨励しなければならない。これに関連して,態度 変容にとくに重点を置くべきである。

149. ニュースメディアがラジオ,テレビ,フィルム,写真,印刷物の中で障害と障害者につい て,慎重かつ正確な描写,公平な説明,記録ができるように,障害者の団体と相談の上ガイドラ インを作り上げるべきである。そのようなガイドラインの基本的要素は,障害者が自ら問題を 大衆に提示するとともにどのようにして解決できるかを提案できることである。ジャーナリスト の訓練カリキュラムの中に,障害者の現実についての情報も含めるべきである。

150. 公共団体の責任者は,情報が障害者を含むすべての人々にゆきわたるように配慮する責任 がある。このことは上記の情報についてのみならず,市民の権利と義務に関する情報についても 同様である。

151. 広報活動は最も適切な情報が国民の中のすべての必要なグループに届くように行わねばな らない。通常のメディアおよびその他の伝達手段に加えて,次の点に配慮すべきである。

  1.  障害者とその家族に対し,彼等の権利,受けられる給付とサービス,および制度を利用し そこなった場合もしくは誤って適用された場合の修正の手続きについて知らせるための特別 資料の作成。これらは,視覚,聴覚およびその他コミュニケーション上の制約のある人々が利 用できるものでなければならない。
  2.  コミュニケーション上の制約のために通常の手段では伝達の難しい人々用の特別な資料の 作成。すなわち,言語,文化,文盲,遠隔地,あるいはその他の要因のために隔離されてい る人々に対するものである。
  3.  僻地で,または通常のコミュニケーション手段では効果の薄い状態でコミュニティ・ワー カーが使用できるものとして,絵入りあるいは視聴覚を利用した材料と,指導要項の作成。

152. 加盟各国は,障害者,その家族および専門識が施策とサービス,法律,専門的意見,補助機 器等に関する新しい情報が確実に得られるようにすべきである。

153. 広報担当当局は,障害の現実と障害のもたらす結果,また,リハビリテーションおよび障害 者の機会均等について,組織的な情報の提供を確実に行うべきである。

154. 障害者は,メディアを通じて自由に自らを表現し,考え方や経験を一般大衆に伝達できる ように,広報に関して平等に利用したり,雇用されたり,また十分な資源と専門的訓練を受けら れるようにすべきである。

 C.国際的活動

  1. 全般

155. 世界行動計画は,総会の採択を経て,各国政府,国連組織内の各団体,障害者を代表する 団体を含む政府および非政府機関との幅広い協議に基づく国際プランとなる。行動計画の目標達成 への進展は,各レベルにおける密接な協力があってこそ,迅速に,効果的にかつ経済的に行われ 得るのである。

156. 国際経済社会局(the Department of International Economic and Social Affairs) の社会開発人道問題センター(the Center for Social Development and Humanitation Affairs)が,今日まで,障害予防,リハビリテーションおよび障害者の機会均等化のために国連 内で果たしてきた役割を考慮するならば,このセンターを,世界行動計画の再検討と評価を含め, 実施の調整と監視の中心機関とすべきである。

157. 総会で設立された国際障害者年のための信託基金は,発展途上国と障害者団体からの援助 の要請に応えること,および,世界行動計画の実施をすすめることのために使用されるべきであ る。

158. 世界行動計画の目標を実施するため,全体的に発展途上国に向けてより多くの資源を送り こむ必要がある。従って事務総長は資金調達のための新しい方法・手段を探求し,資源の運用に ついて必要なフォローアップの方策をとらなくてはならない。政府や民間からの任意の寄付を奨 励するべきである。

159. 調整に関する運営委員会は国連組織内で世界行動計画のもつ意味を検討すべきであり,技 術協力についての総合的な方法を含めて政策と実施の連絡調整にあたっては既存の機構を活用し なければならない。

160. 国際的非政府団体は,世界行動計画の目標達成に向けての協力態勢に参加すべきである。 非政府団体と国連組織間との既存の関係を,この目的のために利用すべきである。

161. すべての国際組織および団体は,障害者によって構成される団体もしくは障害者を代表する 団体への協力と援助を行うこと,ならびに世界行動計画に関連する事柄が論じられる場合にはそ れらの団体が意見を発表する機会を確保できるようにすることが強く要請されている。

  2. 人権

162. 国際障害者年のテーマである障害者の“完全参加と平等”を達成するために,国連組織は そのすべての施設を完全にバリア・フリー(物理的障壁のないもの)にし,感覚障害者のための コミュニケーションの手段を整え,国連組織全体での障害者の雇用を奨励するための運営管理, 方針と慣行を含む肯定的行動計画(affirmative action plan)を採用することが強く要請されて いる。

163. 人権に関して障害者の地位を検討する場合,まず国連の規約とその他の文書ならびに国連 組織の中にあってすべての人々の権利をまもる国際組織の文書を優先するべきである。この原則 は,国際障害者年のテーマ“完全参加と平等”と一致するものである。

164. 障害者に直接もしくは間接の影響をもつと思われる国際協力,規約その他文書の準備と実 施の任にあたる国連機構内の組織および団体はとくに,文書等が障害者の状況を十分考慮に入れて いるものとしなくてはならない。

165. 国際人権規約の各国関係者は,報告の中で,規約条文の障害者に対する適用状況について, しかるべき注意を払わなければならない。経済的,社会的および文化的権利に関する国際規約のも とで報告の検討を委託されている経済社会理事会の作業委員会,ならびに,市民権および政治的 権利に関する国際規約のもとで報告検討の任にあたる人権委員会は,規約締結国の報告の中のこ うした点について,しかるべき注意を払わなければならない。

166. 全人類に普遍的に認められている人権や自由について障害者の行使能力を阻害するような 異常な状況が存在しうる。国連の人権委員会はそのような状況に検討を加えるべきである。

167. 国内委員会および障害者問題を扱う同様の調整団体もまたそのような状況に関心をはらう べきである。

168. 拷問を含めた人権侵害の行為は,精神的および身体的障害の一因となりうる。人権委員会は, とくにそのような暴力に対し改善のための適切な行動をとるべく検討を加えなければならない。

169. 人権委員会は,国際的に認められている障害者を含むすべての人々の基本的人権を実現す るための国際的な協力を得る方法を引き続き検討していくべきである。

  3. 技術および経済協力

   a.地域間の援助

170. 発展途上国は,切迫している問題,すなわち,農業,農村開発,人口抑制など,緊急を要 する基本的ニーズに直面している中で,障害者および何百万人という不利な立場におかれている人 人の,切迫したニーズに応えるために十分な資源を動員することがますます困難な状況におかれ ている。したがって発展途上国の努力に対し,国際コミュニティは,本章冒頭の第82節および83節 に述べられている内容に従って支援をすべきであり,また,国連第三期開発の10年にむけての国 際開発戦略の記述にあるように,発展途上国への資源の流れを十分に増加すべきである。

171. 多くの国際技術協力・援助機関は政府からの公式要請がある限り,各国に対し協力するこ とができるのであるから,障害者に関する計画の立案にかかわるすべての当事者は,政府に対し, 各機関から得られる支援の正確な中味を知らせるよう努力せねばならない。

172. 「発展途上国間の技術協力と障害の予防と障害者のリハビリテーションのための技術援助 に関する世界専門家シンポジウム」(the World Symposium of Experts on Technical Co‐ operation among Developing Countries and Technical Assistance for Prevention of Disability and Rehabilitation of Disabled Persons)で立案された「ウィーン積極的行動計 画」は,世界行動計画の中の技術協力活動の実施のためのガイドラインとなろう。

173. 世界計画に関連する分野で権限,資源および経験を有する国連組織内の諸機関は,要請を受 けた政府と協力していろいろな分野ですでに実施中の,もしくは計画中のプロジェクトに,障害 者独自のニーズに応える要素も盛り込む方途を開拓すべきである。

174. 経済・技術協力に関連した活動を行っているすべての国際団体は,加盟各国からの障害予 防,リハビリテーションおよび統合に対しての各国内の優先的順位に基づく援助要請には優先的順 位を確保するよう要請される。このような方策は,資本投資ならびに再消費の両方について,予防 およびリハビリテーション関連サービスへの資源の割当を確実に増やすことにつながるはずである。 発展途上国に対する技術協力も含め,多国間もしくは二国間援助を行うすべての機関の経済・社 会開発プログラムでは,この行動をとるべきである。

175. 障害者のニーズに対しよりよいサービスを提供するために各国政府に協力を求める場合, 民間の二国にまたがる機関ばかりでなく,国連の異なる諸機関も設定された目標の達成に対し, より有効な貢献をするため,緊密な調節のもとに投資を行うようにしなければならない。

176. すでに国連のほとんどの機関が障害者を対象としたプロジェクトの設定もしくはプロジェ クトに障害者を対象とした要素を入れることについて,個々に推進の責任を持っているが,国連 組織が国際障害者年および世界行動計画の挑戦に応えていくためには,明確な責任区分を確立する 必要がある。

  1.  国連およびとくに技術協力開発部は,専門機関,政府間組織および非政府団体と協力して,世界 行動計画の実施を推進する技術協力を行う。この点で,国際経済社会局の社会開発人道問題 センターは,世界行動計画の実施にあたって,技術協力のプロジェクトと活動に対する強力 な支援を継続すべきである。
  2.  国連開発計画は,とくに障害者のニーズと障害の予防に応じるための各国政府の要請に対し, 一般プログラムおよび手続の枠の中で十分な配慮を行うために,現地施設の活用を今後とも継 続すべきである。また,国連開発計画の多種にわたるプログラムおよびサービス,たとえば,発 展途上国間技術援助,世界的および地域間プロジェクトおよび科学技術当座基金(the Inte‐ rim Fund for Science and Technology)などを活用して,障害予防,リハビリテーショ ンおよび機会の均等の分野における技術協力を強力に奨励すべきである。
  3.  ユニセフの主たる任務は今後とも,母子保健サービス,保健教育,疾病対策および栄養改善 への強力な支援を中心とした予防施策の向上となるであろう。すでに障害を持った人々に対 しては,ユニセフは,統合教育プロジェクトの開発の推進と,安価な地元の資源を利用した コミュニティレベルのリハビリテーション活動への援助を行う。
  4.  専門機関は,それぞれの使命と責任分担の枠の中で,各国政府からの要請に基づき,可能 な場合は各機関の資源の利用を通じ,あるいは個々の国についての計画作成過程や地域,地 域間,および世界プロジェクトの立案を通じて得られる機会を生かして,障害者のニーズに応 じられるよう援助していくことに力点を置くことになる。このような考え方にたって,専門 機関の責任分担は次のようになる。;ILO―職業リハビリテーションと職業上の安全と健 康;UNESCO―障害児および障害者の教育;WHO―障害の予防と医学的リハビリテーショ ン;FAO―栄養問題の改善
  5.  多国にまたがる金融関係機関は,借款業務においては,世界行動計画の目的と提案をまじ めに考慮すべきである。
   b.地域および二国間援助

177. 国連地域委員会およびその他の地域機関は,障害予防,障害者のリハビリテーションおよび機 会の均等の分野における地域協力あるいは小地域における協力を推進すべきである。そして,地 域内の進歩の監視,ニーズの確認,情報の収集と分析,行動指向の調査の主催,助言的サービス の提供,および,技術協力活動の推進を行わねばならない。また,世界行動計画の目標に関連して は,暫時の手段として,研究開発,広報用資料の作成および人材養成を,これら機関の活動として 行い,また発展途上国間の技術協力を育成すべきである。この節の始めに言及したように活動を 展開していくうえでの重要な資源として,障害者の組織の発展を促進していくべきである。

178. 加盟各国は障害をもつ人々の利益を促進するために地域の機関および委員会と協力し,障害 者団体や適切な国際的団体と協議のうえ,障害者の利益をはかるための地域的な(あるいは小地域 的な)研究所または事務所を設立するべきである。その機能としては,前述の活動を促進するこ とであるべきである。そのような施設の機能は,サービスを直接供給することではなく,障害者 を組織的に発展させるためのコミュニティに根ざしたリハビリテーション,調整,情報,訓練およ び助言といった革新的な概念を推進させることにあることを理解しておくことが肝要である。

179. 援助を行う国々は,二国間および多国間技術援助計画の中で,加盟各国の予防,リハビリテ ーションおよび機会均等化の分野における国内もしくは地域施策に関連した援助要請に応じる方法 を見出すよう計画すべきである。この中には地域内および地域間の協力体制を拡大するための適切 な機関および団体への援助も含まれるべきである。技術援助機関は,現業職も含むすべてのレベル および職務に積極的に障害者を採用するべきである。

  4. 情報および大衆の教育

180. 国連は,世界行動計画の目標に対する一般の関心を高める活動を引続き行うべきである。 この目的のために各国の国連関係事務所(substantive offices)は,広報局(DPI)がそれら の活動をニュース発表,特集,ニュースレター,小冊子,ラジオ,テレビのインタビューおよび その他適切な形で公表できるようにそこへ定期的かつ自動的にそれらの活動についての情報を提 供するべきである。

181. 広報活動は,世界行動計画に関連するプロジェクトおよびプログラムにかかわりをもつすべ ての機関が継続的に行っていくことになる。このような機関のもつ専門性によって必然的に研究 が必要となれば,実施されるであろう。

182. 世界行動計画の原則と目的を含めた情報を,通常のメディアでは伝達できない人々やそう したメディアに不慣れな人々に伝えるために,国連は関係専門機関との協力のもとに,あらゆる 手段を動員した革新的方法を開発すべきである。

183. 国際団体は,国および地方団体に対し,世界行動計画の目的についてのモデル・カリキュ ラム,教材,および背景の知識などを提供することにより,大衆啓蒙プログラムの準備を援助す べきである。

 D.調査研究

184. 様々な文化の中での障害者の位置に関してあまり多くのことは知られていない―このこ とが社会の人々の態度や行動のパターンを決定づけているのであるが―ということを考慮すれ ば障害に関連した社会・文化面に焦点を合わせた研究を行う必要がある。このことによって,い ろいろな文化における非障害者と障害者の関係をより具体的に理解できることになろう。そのよ うな研究の結果,人間環境の現実に合った方法を提示することが可能になろう。さらにまた,問 題を分析し,それに対応したプログラムの企画ができるよう障害者の教育に関連した社会的な指 標をつくり出すべく努力がなされなければならない。

185. 加盟各国は,損傷および能力不全の原因,形態および発生,障害者の経済的社会的状況, ならびに,これらの問題に対応するために用いることのできる現有資源とその有効性についての 研究プログラムを開始すべきである。

186. とくに重要なのは,障害者およびその家族に影響を与えている社会,経済および参加の問題 に関する研究および,これらの問題に対する社会の対応についての研究である。調査データは, 各国統計事務所および国勢調査当局を通じても得られるが,一般国勢調査よりも障害問題に関す る情報収集を目的として計画された世帯調査の方が,有効な結果をもたらすという指摘は,注目 すべきである。

187. また,障害者のためよりよい自助具や機器を開発するための研究をすすめる必要がある。 発展途上国の技術的および経済的状況に適した解決策を見出すことに格別の努力を傾けなくては ならない。

188. 国連およびその専門機関は,障害および現在のニーズと優先事項を明確にするための関連的研 究課題についての国際的な研究調査の動向をフォローすべきである。と同時に,世界行動計画に 勧告されているすべての形の行動に対する革新的アプローチを重視せねばならない。

189. 国連は,世界行動計画で扱っている問題に関する知識を増強する目的をもつ研究プロジェ クトの実施を奨励・援助すべきである。各国の研究成果に熟知し,また現在承認を得ていない研 究提案にも通じていることが,国連には必要である。国連はまた,調査研究の成果に十分注目し, 研究の応用およびあらゆる調査研究に関する情報の普及を重視せねばならない。文献検索方式との 恒久的連携が大いに勧めるところである。

190. 国連地域委員会およびその他の地域機関は,各国政府の世界行動計画が提案する事項の実施 を援助するための調査研究活動を,それぞれの行動計画に包含すべきである。障害者に対する調 査研究費用の効率を最大にする鍵は,調査研究の成果に関する情報を広く知らせ,共有すること ができるかどうかにある。国際的政府機関および非政府機関は,地元機関と地元機関の間の共同研 究および情報交換のための協力機構の確立を積極的に推し進めるべきである。

191. 医学,心理学および社会学レベルの調査研究は,身体的,精神的および社会的障害を減少させ ることにつながる。研究による進展が大いに期待される分野の明確化を含むプログラムの開発が 必要である。多くの問題は,万国共通の関心事であるので先進工業国と発展途上国との相違が, 有意義な協力関係の展開を阻害してはならない。

192. 下記の分野における研究は,発展途上諸国および先進諸国の双方にとって価値のあるもの である。

  1.  障害の原因となる事象の抑制に関する臨床研究。医学的,心理的,社会的側面からの個人 の機能の評価,情報面を含めたリハビリテーションプログラムの評価。
  2.  障害の瀕度,障害者の機能制限,障害者の生活状況,および障害者の直面している問題に ついての調査。
  3.  保健社会サービスに関する研究。これには,種々のリハビリテーションやケアの施策の損 益,最も効率のよいプログラム作成方法,および代替方策の探求についての研究が含まれる。 コミュニティ・ケアに関する研究はとくに発展途上国には適したものであり,実験の実施とそ の評価および総合的実験プログラムは,すべての国にとって価値のあるものである。収獲の多 い二次的分析ができる情報が多く入手しうる。

193. 保健科学および社会科学研究機関は,障害者に関する研究の実施ならびに情報の収集を推 進するよう要請する。応用研究活動は,サービス供給の新しい技術の開発,個々の言語グループ,文 化グループに対する情報資料の作成,各地域の実情を考慮した人材養成にとくに貴重である。

 E.監視と評価

194. 障害者に関連する状況の評価を定期的に実施すべきこと,および,発展状況を測定するため の基準線を設定すべきことは,不可欠である。世界行動計画を評価する最も重要な基準は,国際 障害者年のテーマ「完全参加と平等」に示される。監視と評価は,一定の間隔を置いて国内レベ ルばかりでなく,地域レベルおよび国際レベルにおいても行うべきである。評価指標は,国連国際 経済社会局が,加盟各国ならびに関係国連機関およびその他の団体と協議の上,選定されなくて はならない。

195. 国連組織は,世界行動計画の履行における進展を定期的に厳しく評価せねばならない。こ の目的のために加盟国と協議の上適切な評価指標を選定すべきである。この点については社会開 発委員会が重要な役目を果たすべきである。国連は専門機関と協力し,情報の収集と提供のため の,適切な継続的システムを開発すべきであり,これはすべてのレベルにおける評価結果を基礎 としたプログラムの向上につながる。この関係で社会開発人道問題センターが,中心的役割を果 たすべきである。

196. 地域委員会は,国際レベルで実施される世界全体の評価に役立つような監視および評価を行 うことを要請する。その他の地域機関および政府間機関も,評価および監視の作業に参加すべき である。

197. 各国レベルで障害者関係プログラムの評価を定期的に行うべきである。

198. 国連統計部は国連事務局のその他の部,専門機関および地域委員会と共に,発展途上国と協 力し,いろいろな障害に関して,全数またはサンプルのいずれか適当な方法によるデータの収集 の現実的かつ実際的なシステムを発展させることならびにとくに,障害者の状態を改善すべく国際 障害者年後の行動計画に着手するのに重要な道具および枠組として利用しうるかかる統計収集のた めの世帯調査をどのように使うかについての技術的なマニュアル・文書を作成することを強く要 請されている。

199. この広範囲にわたる業務をすすめるうえで,国連統計部の援助を得て,国連社会開発人道問 題センターは中心的役割を果たすべきである。

200. 国連事務総長は,国連および専門機関が障害者の雇用数をふやし,それらの施設および情報 が障害者にとってより利用しやすいものにするため行っている努力について定期的に報告しなけ ればならない。

201. 定期的評価の結果および世界の経済社会の状態の進展に基づき,世界行動計画および開発の順 序と優先順位を定期的に修正していく必要があろう。修正は5年毎に行うべきであり,第1回は 1987年に,第42回国連総会における事務総長報告に基づいて行うことになる。この再検討の結果 は,第三次国連開発の10年の国際開発戦略の検討と評価を行う際のインプットの1つとなる。


国際連合アジア太平洋経済社会委員会第48回総会決議48/3
(1992年4月23日採択)

48/3. アジア太平洋障害者の十年,1993年-2002年
(Asian and pacific Decade of Disabled Persons,1993-2002)
(仮訳)

提案国: アフガニスタン,オーストラリア,バングラデシュ,ブルネイ,カンボディア, 中国,朝鮮民主主義人民共和国,フィジー,香港,インド,インドネシア, イラン(イスラム共和国),日本,キリバス,ラオス人民民主主義共和国,マカオ, マレイシア,モルディヴ,マーシャル諸島,ミクロネシア(連邦),モンゴル, ミャンマー,ネパール,ニュー・ジーランド,パキスタン,パプア・ニューギニア, フィリピン,大韓民国,パラオ共和国,ロシア連邦,スリ・ランカ,タイ, ヴィエトナム

アジア太平洋経済社会委員会は,

 障害者に関する世界行動計画についての1982年12月3日の国連総会決議(37/52)と,国連総会 が1983年から1992年を国連障害者の十年と宣言した障害者に関する世界行動計画の実施に関する 1982年12月3日の決議(37/53)をはじめとする障害問題に関する全ての総会並びに経済社会理事 会決議を想起し,

 国際障害者年の目的である「完全参加と平等」の効果的な実施とフォローアップに関わる,国 際障害者年についての1980年3月29日のESCAP決議207(XXXVI)をも想起し,

 障害の危険が高齢化と共に高まり,また,域内各国で予測される社会の急速な高齢化に伴い, 障害者の数が相当増加することに留意し,

 国連障害者の十年が障害問題への認識を高め,ESCAP域内での障害予防と障害者の更生の 両面でかなりの進展をもたらしたものの,とりわけ,開発途上国と後発開発途上国における障害 者対策に格差がみられることを認識し,

 1991年10月の第4回アジア太平洋社会福祉・社会開発閣僚会議が第2の障害者の十年への支持 を表明したことに留意し,

 更には,アジア太平洋経済社会委員会によって1991年8月に開催されたアジア太平洋地域にお ける国連障害者の十年の成果を評価する専門家会議が,ESCAP地域での現在までの成果をさ らに確実にするために第2の障害者の十年が必要であると勧告したことに留意し,

1. ESCAP地域で1992年以降,障害者に関する世界行動計画の実施に向けて新たな刺激を与 えると共に,同世界行動計画の目標,特に完全参加と平等の達成に影響している問題を解決す るための域内協力の強化を目的として,1993年から2002年をアジア太平洋障害者の十年と宣言 する。

2. 経済社会理事会及び国連総会に対し,本決議を承認し,世界レベルで本決議の実施への支持 を勧めるよう要請する。

3. 全ての加盟国,準加盟国政府に対し,以下の諸事項を含む障害者の完全参加と平等を促進す る施策の策定を目的とし,自国,自地域での障害者の状況をレヴューするよう要請する。

  1.  経済・社会開発における障害者の参加を促進するための国内政策と計画の策定及び実施。
  2.  障害者問題に関する国内調整委員会の設立及び強化。同委員会内での障害者,障害者組織 の役割と適切且つ効果的な代表の強調。
  3.  国際開発機関・NGOと協力し,障害者への地域に根ざした支援サービスの拡大と家族へ のサービス提供のための支援。
  4.  障害を持つ児童・成人への肯定的な態度を〓養するための特別な努力と障害を持つ児童・ 成人の更生,教育,雇用,文化・スポーツ活動,物理環境へのアクセスの改善。

4. 障害に関係する要素を各機関の活動計画に系統だてて統合し,本決議の各国内での実施を支 援するために,関連する全ての国連システムの専門機関と機関にESCAP地域内で実施中の プログラム,プロジェクトの調査を行うよう要請する。

5. 障害者組織の能力と活動を強化するために,社会開発分野の非政府組織に,その経験と専門 知識を活用するよう要請する。

6. 障害を持つ市民が潜在的可能性を完全に発揮できる手段を整備するために,政府機関と協力 すると共に,自助能力を高めるために,先進国と途上国の障害者間の結び付きを強化するよう, 障害者組織に要請する。

7. 以下の面で,加盟国・準加盟国政府を支援するよう事務局長に要請する。

  1.  新「十年」での国内行動プログラムの策定・実施。
  2.  建築物,公共施設,運輸・通信システム,情報,教育・訓練,福祉機器への障害者のアク セスを促進するためのガイドライン,立法の策定と実施。

8. 「十年」終了まで,本決議の実施について本委員会に2年毎に報告し,必要に応じて「十年」 の勢いを維持するための行動を本委員会に勧告するよう,事務局長に要請する。


アジア太平洋地域の障害者の完全参加と平等に関する宣言

(ESCAP総会決議、1993年4月)
(日本障害者リハビリテーション協会訳)

1.われわれ、アジア太平洋経済社会委員会(Economic and Social Commission for  Asia and the Pacific,ESCAP)加盟国、ならびに準加盟国の政府指導者は、次の認 識に立つ。

  • この地域では、栄養不良や病気、環境面での危険、天災、交通事故、労働災害、市 民闘争、戦争によって、日々人々は障害者となっている。
  • 子供の生存状態の向上にともない、障害をもちながら生存する子供の数は増加して いる。
  • 寿命の伸びにともない、障害をもつ高齢者も増加している。
  • 大多数の障害をもつ人々、とりわけ農村地域における生活状況は、一層改善される 必要がある。

2.アジア太平洋諸国においては、障害をもつ人々に対する、最低限のケアとサービスの 大部分は、伝統的家族や地域社会の枠内で提供されている。しかし、障害をもつ人々 が自身の可能性を最大限に発達させ、急速に変貌しつつある地域の経済・社会的状況 に対応し、自らの手で自らの運命を切り開いて生きていけるようにするためには、も っと多くのことがなされなければならない。

3.当地域全体において、障害をもつ人々の完全参加と平等の機会は、障害のない人に比 べて未だにはるかに少ない。これは特に、リハビリテーション、教育、雇用において 顕著である。この理由はおもに、社会の否定的態度によって、障害のない人と同等の 権利をもつことから排除されるためである。このような社会的態度は、障害をもつ人 々が社会的接触をもち、障害のない人と個人的に親密な関わりをもつ機会をも奪って いる。あまりにもしばしば障害に関連して引き起こされる社会的偏見は、すべて根絶 しなければならない。

4.アジア太平洋の多くの既存の環境は、障害をもつ人々の特別のニーズへの配慮なく計 画されてきた。物理的・社会的障壁により、障害をもつ市民は、地域社会や国家の活 動に参加する機会を奪われている。参加や平等へのさまざまな障壁は、特に障害をも つ少女や女性にとってきわめて大きい。障害をもつ人々に対する社会の態度を改善し 、認識を増し、より多くのサービスを提供することにより、だれもが参加できる社会 を建設できるはずである。すなわち、われわれは、すべての人々のための社会の建設 へ向かって進まなければならない。このことに関連して、自由な情報交換をわれわれ は要請する。

5.アジア太平洋地域が、経済的には、今日、世界で最も急速な成長を遂げている地域で あるという事実を、われわれは誇りとしている。同時に同地域内の諸国の発展状況が さまざまであることも認識している。そこでわれわれは、われわれの社会の中でこの 極度に脆弱な社会的集団、すなわち障害をもつ人々のために捧げるわれわれの努力に 、経済の進歩が反映されるようにすることを決意する。

6.われわれは、アジア太平洋経済社会委員会による「『アジア太平洋障害者の十年1993 -2002』に関する決議48/3」の採択を歓迎する。これは、われわれの総人口のお よそ10分の1を占める障害をもつ人々を取り巻く状況の制度的な改善をめざす、国、 小地域、地域レベルでの効果的かつ新たな政治的イニシアティブと行動、および障害 をもつ人々の発達可能性の完全実現化の媒体となる。

7.ここにわれわれは、それぞれの国や領地において、アジア太平洋障害者の十年の理想 と目的を行動に移すための共同の決意を宣言し、誓うものである。そして、“…人間 としての尊厳と価値において…”との信念をうたった国連憲章に基づき、努力を続け ることを確認する。


(「アジア太平洋障害者の十年」(1993年~2002年)開始会議、
1992年12月でのものESCAP総会において採択、1993年4月)
(日本障害者リハビリテーション協会訳)

アジア太平洋障害者の十年

(1993-2002)
行動課題

I 緒言

 1983年から1992年までの国連・障害者の十年は、アジア太平洋地域の多くの国々におい ては、経済が大きく活性化した時期でもあった。さらに、国連・障害者の十年の締めくく りにあたる数年間には、敵対国家間の紛争解決や国交回復における著しい改善に示される ように、域内の平和建設に大幅な進展を見た。
 1991年10月、社会福祉・社会開発に関する第4回アジア太平洋閣僚会議がマニラにおい て開催され、「西暦2000年およびそれ以降のESCAP地域の社会開発戦略」が採択され たのは、このような決議が受け入れられる環境が整っていたからであった。この「戦略」 の最終目的は、ESCAP地域の全ての住民の生活の質的向上である。この目的を念頭に 置きながら、「戦略」は、基本的には、絶対的貧困の消滅、公正な分配の認識、大衆参加 の促進を目指している。このような目的の範囲内で、「戦略」では、域内で不利益を被っ ている障害をもつ人々などの弱者の社会グループが優先されている。
 この決議に加えて、1992年4月に開催された第48回ESCAP総会に参加した33ヵ国は 「アジア太平洋障害者の十年1993-2002」(以下、「アジア太平洋の十年」という)に関 する決議48/3の共同提案国となった。同決議採択にあたり、地域の各国政府は、障害 をもつ人々に関する完全参加と平等の実現に対し、集団での決意を表明した。
 アジア太平洋の十年は、国家レベルでの進歩を支援する地域ぐるみの協力体制を新たに 協調することにより、ESCAP地域の56の国や地域に対し、国連・障害者の十年の間 に開始された事業を強化する機会を提供する。特に、障害をもつ人々の生活を左右する重 要問題の解決にあたり、地域内の開発途上国と先進国の間のみならず、開発途上国間の技 術協力を強化する状況を生んでいる。
 アジア太平洋の十年の目的達成のためには、行動課題(Agenda for Action)が必要であ る。これは、国連・障害者の十年のアジア太平洋地域における成果の検討および評価に基 づいて、障害者に関する世界行動計画を、地域の行動課題として翻案するものである(SD /DDP/1,ESCAP,1992)。
 ここに行動課題の骨子を紹介する。骨子はESCAP決議48/3の実現に向けて努力 を求められる主要政策分野に分けられる。

○国内調整 (National coordination)
○法律 (Legislation)
○情報 (Information)
○国民の認識 (Public awareness)
○アクセシビリティとコミュニケーション (Accessibility and communication)
○教育 (Education)
○訓練と雇用 (Training and employment)
○障害の原因の予防 (Prevention of causes of disabilities)
○リハビリテーション・サービス (Rehabilitation services)
○福祉機器 (Assistive devices)
○自助団体 (Self-help organizations)
○地域協力 (Regional cooperation)

 骨子となる各政策分野には、アジア太平洋地域の障害をもつ人々の完全参加と平等を支 援するための政策の発展に直接関わる問題領域がリストアップされている。
 行動課題の作成は、地域の目標設定を行うものでも、また、全ての国々に共通な戦略の 策定を試みるものでもあってはならない。この地域が広大かつ多様であることを考えると 、ESCAP加盟国ならびに準加盟国がそれぞれ自国の活動計画の詳細に関して、立場を 異にするであろうことは必至である。特定の活動に与えられる相対的な優先度も異なって くる。実施へのアプローチや速度ばかりでなく、個々の長・短期目標も国ごとに異なるで あろう。とはいえ最終的には、行動課題は、アジア太平洋の十年の目標である、障害をも つ人々の完全参加と平等の実現を目指す、この地域独自の取り組みの基礎を築くことにな ろう。
 さらに、この行動課題は、障害者に関する世界行動計画をはじめとする、国連・障害者 の十年の国際基準、義務、勧告などの枠組みの中で検討されるものである。

II 問題領域

1. 国内調整(National coordination)

国内障害者問題調整委員会の設置、もしくは既存の委員会の強化

(a) 適切な下部組織に支えられた恒久的機関としての委員会

(b) 関連政府機関、および障害をもつ人々自身を適切に代表する者など、民間団体から の代表者によって構成される。

(c) 障害者問題に関して国の中心的役割を果たし、障害者に関する世界行動計画ならび に行動課題の実施へ向けての、全国的な総合的アプローチの継続的発展を促す。そ のために以下の仕事を行う。

  • 障害をもつ人々を代表し、障害をもつ人々のために活動しているあらゆる機関や 民間団体の活動を見直し、調整する。
  • 障害をもつ人々が直面している問題に対処する国の政策を発展させる。
  • 政策、立法、計画、プロジェクトの推進が、障害をもつ人々に及ぼす影響に関し て、国家や政府の長、政策立案者に対し諮問する。
  • 障害をもつ人々の権利を守るための法令の施行や、障害をもつ人々に不利な解釈 の排除について各省庁を指導する。
  • 障害関連の問題に関し、全国規模のデータベースを開発するよう、支援体制をと る。
  • 障害をもつ人々に関する世界行動計画ならびに本行動課題を各国語(地方語)に 翻訳し、また適切な形態になおし、あらゆる階層に広く普及するようにする。
  • 特に管理技術や政策・プログラムの立案について、国内調整委員会のスタッフの 能力を高め、また職員の募集や訓練に際しては障害をもつ人々を含める制度とす る。
  • 産業界、慈善家その他の寄贈者からの寄付などの適切な資金作りなど、資源調達 を図る。
  • 国の計画および国連開発計画(United Nations Development Programme‐‐UNDP )やユニセフ(United Nations Children's Fund‐‐UNICEF)などの国際機関の 支援を受けたプログラム、プロジェクトへの障害をもつ子供や女性を含む全障害 者の統合を推進する。
  • 障害をもつ人々に及ぼす影響の観点から、資金援助機関の助成政策をそれらの機 関と一緒に検討する。
  • 障害をもつ人々の完全参加と平等に関する政策や計画をモニター・評価し、その 結果を関係者に伝達する。
  • ESCAP決議48/3の実施に関する地域協力活動に国の参加を促す。
  • アジア太平洋の十年の目標達成に際立って貢献した活動に対する、一般の認識を 高める方策を確立する。
  • 国内障害者問題調整委員会または同様機関の設立と発展に関し、適切な国連のガ イドラインの活用を促す。

2. 法律 (Legislation)

(a) 既存の法律に関連して、

  • 障害をもつ人々を制約するような法規定の調査
  • 上記のような制約的法規定を修正もしくは廃止、および障害をもつ人々に不利な 解釈の排除

(b) 全ての障害をもつ人々の権利の保護と、虐待、軽視、差別の禁止に関する基本法の 制定

(c) 例えば、以下のような分野での障害をもつ人々の機会均等を目指す法律の制定

  • 障害をもつ人々が教育、訓練、職業紹介、雇用、経営などに参加できる機会を促 進するような積極的対応(affirmative action)の対策と奨励策
  • 適切ならば、障害をもつ成人および障害をもつ子供の親や保護者のための、免税 ならびに補助金
  • 障害をもつ人々の日常生活を容易にするのに必要な、輸入された車や福祉機器、 医薬品などの設備と資材に対する税関の許可と関税の免除

(d) 障害をもつ市民の移動の自由を妨げる建造上または物理的な障壁の廃止を目的とす る、以下のことがらへの奨励策など、法律の制定

  • 民間・公共セクターの既存の環境のアクセス向上への関与
  • 障害をもつ人々による陸上・海上・航空輸送機関利用の促進

(e) 障害をもつ人々が一般に直面する社会的・物理的孤立感を少なくするために、例え ば、以下のような分野に及ぶコミュニケーションの障壁の除去を目的とする法律の 制定

  • 適切な形態での情報、特に公的な情報の作成と配布(拡大文字、点字、地域固有 の手話、視聴覚カセットとフロッピーディスクなど)
  • 障害をもつ人々の郵便、電話によるコミュニケーションの設備やサービスの利用 の促進と、そのための認可や補助金

(f) 社会保障に関する法律に障害問題を取り入れること

(g) 職場や公共の場所、家庭における健康と安全の促進を図るための、法律の制定。例 えば、

  • 一般の健康を害するものとしての喫煙の禁止
  • 小火器(ライフル、ピストルなど)、花火などの販売
  • アルコール消費と運転に関する規制
  • 車の安全整備に関する規制
  • 玩具など子供の手に触れやすいものや、職場や家庭内で、そして個人で使用する 機器や品目の安全基準

(h) 以下のような法律を効果的に施行または実施するための手段の開発

  • 施行のための規定とガイドライン
  • 地域レベルの委員会、オンブズマン制度、施行審査会など、法律施行のための機 関
  • 法律施行のモニターと評価の機関

(i) あらゆる年代の全身性障害をもつ人々が、居住型施設ではなく、地域社会において 、自己決定権と尊厳をもって生活できるよう地域での日常生活介助サービスの提供 を優先した法律の制定

(j) 特に障害をもつ人々とその代弁者に対して法律に関する情報の伝達

  • 障害をもつ人々の機会均等を推進するための法制定
  • 障害をもつ人々を含む、より広範な一般の人々の利益を図る法制定(例えば、特 定の問題[貧困の軽減]、または特定の集団[女性]のため)

(k) 国の障害者法に関する国連の適切なガイドライン利用の推進

(l) ESCAP加盟国や準加盟国の間での、機会均等法の制定や実施に関する専門知識 や経験の交換の奨励

3. 情報 (Information)

(a) 以下のことがらに関する国の能力の開発

  • 全国的な障害者の状況に関する、総合的かつ正確なデータの収集と分析
  • 国内の障害関連の問題、およびプロジェクトの文書化
  • 国内の障害関連の問題に関する問い合わせへの正確かつ迅速な対応
  • 多様な利用者のための情報の集約
  • 国内で利用できる障害関連の資源のリストの準備と配布
  • 本行動課題(Agenda for action)を推進するために、域内の協力を進めるための 国の資源とニーズの確認

(b) フロッピーディスク、拡大印刷、点字、オーディオカセットおよびビデオカセット の形での情報資料をより多く入手できるようにするための、公立図書館、情報セン ターおよび障害をもつ人々自身の団体間の協力

(c) ビデオカセット、映画やテレビ番組の字幕の挿入

(d) 障害関連のデータの収集において、個人のプライバシーを守る方法の確立

4. 国民の認識 (Public awareness)

(a) アジア太平洋の十年の目標に対する国民の認識を高めるため、以下のような方策を 通して国の役割を強化する。

  • 障害をもつ人々のコミュニケーションおよびアジア太平洋の十年に関する、情報 サービスやマスコミに従事している人々、障害をもつ人々自身の団体の代表者の 訓練
  • 障害をもつ人々のコミュニケーションの改善に関する、国連ガイドラインの活用 の奨励
  • 地域の放送や報道機関に対し、この問題に関する国の能力開発への支援の要請
  • アジア太平洋の十年に関するマスコミの報道内容の質のモニタリング促進と、国 連のガイドライン遵守について報道機関へのフィードバック
  • 障害や障害をもつ人々に対する根深い偏見との闘いの一助として、報道機関、街 頭劇場や民間メディアグループ、人気マスコミ・タレントに協力を求める。

(b) 障害をもつ人々の能力を高め、障害をもつ人々に対する前向きの態度を養うため、 以下のような対象および目標として全国的キャンペーンを継続的に展開する。

  • 一般大衆
  • 変化を引き起こし得る立場にあるグループ(地域社会のリーダー、障害をもつ人 々の家族・子供、学生、政策立案者、行政当局者、専門家など)
  • 奇形をもつ人々に対する汚名の除去
  • 障害をもつ人々が子供をもち、家庭生活を営む権利を尊重することの推進
  • 広告キャンペーンやその他のマスコミ活動における、障害をもつ人々の尊厳の重 視および差別用語の除去

(c) 一般大衆の関心を、平等の市民としての障害をもつ人々に向けさせる活動の奨励。 例えば、

  • 障害をもつ人々が参加した、統合した形の活動などの文化的行事や競技会
  • 障害とは関係のない一般のものも含むマスコミ活動への障害者の直接参加

(d) 障害をもつ個々人を言い表すのに、「(能力)障害者(the disabled)」あるいは 「(社会的)障害者(the handicapped)」ではなく、「障害をもつ人々(people/ persons with disabilities)」のように、障害よりもその人自身に焦点を合わせた 用語使用の奨励

5. アクセシビリティとコミュニケーション (Accessibility and communication)

(a) アクセス向上の方策の開発という観点から、計画中の、あるいは既存の建築環境お よびその増築やメンテナンスの方法の検討

(b) 新築および改築や増築の際の、障壁のない設計規則の開発(事務所や住居のビル、 公共施設、建物の周りの環境、道路や交通機関など)

(c) 防火規定と同等の重要項目として、現行法にアクセスに関する規定を盛り込むよう 改正

(d) 障害をもつ人々の協力を得て、交通機関を含む建築環境作りや、その維持に関わる 専門家や技術者の訓練プログラムにアクセスに関する事項を導入

(e) 以下の目的で電子機器へのアクセスに関するガイドラインの策定と実施

  • 特殊な周辺器具(すなわち電子機器を利用できるようにする特殊な補助具、例え ば、拡大印刷や点字表記、音声入出力の機能、高性能キーボードや代替機器)の 利用あるいは利用なしで、障害をもつ人々が使う可能性のある電子機器の入手し やすさの向上
  • 器具の購入や賃貸に際し、障害をもつ人々の電子機器へのアクセスを考慮するよ う政府機関や民間団体へ奨励

(f) 教育、情報、住宅、商業などの主要分野を含む社会のあらゆる分野にアクセス向上 の手法を開発するよう市民や団体のイニシアティブの奨励

(g) より広範な規模で反復して使えるよう、国家機関によるアクセス向上の適切な方法 の選択

(h) 大衆と接触する仕事に従事する人々に対する、視覚障害をもつ人々や認知障害をも つ人々と上手にコミュニケーションをとるための訓練

(i) 以下のことがらを目標とした、手話の開発への支援

  • 手話通訳サービスを利用しやすいように改善
  • 聴覚障害をもつ人々と公共サービス(コミュニティ・センター、法律相談機関、 銀行、職業紹介所、警察、病院など)関係者など、聴覚障害をもたない人々との コミュニケーションの促進

(j) 通信リレーサービスや字幕サービスなど、聴覚や言語障害をもつ人々のための通信 サービスの拡大

(k) 以下のような方法で視覚障害者向けの情報を入手しやすくすることへの支援

  • 点字、カセットテーブ、コンピュータや音声シンセサイザーによる情報サービス の拡大
  • 朗読サービスの提供
  • 点字およびコンピュータの訓練
  • 拡大印刷やハイコントラスト方式、触覚表示に加えて、フロッピーディスクによ る情報提供の奨励
  • 低価格の弱視者用機器を一層入手しやすくすること

(l) 認知障害をもつ利用者のために単純化された情報(例えば図解)の作成の奨励

6. 教育 (Education)

(a) 国民皆教育の目的にかなうよう、国の公式・非公式プログラムへの特に障害をもつ 人々の受け入れ

(b) 障害をもつ少女や女性を国民識字・教育プログラムの恩恵に浴する対象者として明 示

(c) 障害をもつ人々の教育推進計画に一定の国家と州、県予算の計上

(d) 以下のような対策により、さまざまな種類の障害をもつ子供や成人が、通常の教育 制度に参加するための支援

  • 障害をもつ子供のための家庭や地域を基盤とした早期療法サービスの開発
  • 障害をもつ子供の親と家族の教育
  • 型にはまった障害者観を打破するため、教育現場の障害のない人々(例えば、学 校管理者、教師、生徒)を対象とする、建設的な態度を作り上げるプログラムの 実施
  • 障害をもつ人々を教育プログラムに参加促進させる物的支援(輸送、宿舎など) の組織化
  • 個々のケースごとに確実に統合化を成功させるため、障害をもつ子供の個人個人 の教育的ニーズの変化に対応できるよう、学校を援助する、親と教師による助言 グループの導入
  • 特殊教育の段階的普通教育への統合
  • 障害をもつ生徒の能力を最大限に引き出せるよう教師の能力を向上させるための 、教員研修、再教育プログラムの改正
  • 特別な学習ニーズをもつ子供向けに利用できるよう教師用教材の配布
  • 普通学級の教師に対する追加支援の組織化
  • 障害をもつ人々が、高等教育の修了などの学校の修了資格を得られるよう試験実 施手順の改正
  • 教科書や参考資料を適切な形態で利用しやすくする科学技術の活用やサービスの 組織化

7. 訓練と雇用 (Training and employment)

(a) 訓練・雇用プログラムの実施・開発の手引きおよび参考として、障害をもつ人々の 職業リハビリテーションや雇用に関する適切な国際労働基準の活用

(b) 障害をもつ少女および女性の訓練・雇用機会への参加に関する特別配慮

(c) 障害をもつ少年少女が、自らの選択で職業訓練や職業あっ旋を受けるのに必要な準 備ができるよう中学・高校レベルなどでの、職業前訓練の開発

(d) 以下のことを保障する。

  • 障害をもつ人々が、労働市場において収入が得られる就職を目指して、適切で十 分な準備ができる職業訓練の質
  • 障害をもつ人々が、一般の労働市場において適切な就職ができるような障害者職 業あっ旋サービスの全面的展開

(e) 以下のことを目的として労使、障害者自身の団体などの民間組織や協同組合の代表 およびその他の地域指導者を対象としたワークショップやセミナーの開催

  • 障害をもつ人々のための、新たな訓練や雇用機会の発掘
  • 職務適応と職場調整の奨励
  • 障害をもつ人々のための訓練・雇用制度の開発

(f) 特に以下のことに重点をおいた対策を通して、職業リハビリテーション・サービス の強化

  • 職業リハビリテーションスタッフの訓練
  • 職業リハビリテーション・サービス企画にあたり、適切な職能評価対策により障 害をもつ人々の興味やニーズへの十分な考慮
  • 障害をもつ人々に関する職業の発掘選択、募集、あっ旋、フォローアップのため に労働省、社会省およびリハビリテーションセンターの職業あっ旋担当官の能力 向上

(g) 障害をもつ人々の以下の訓練

  • 自分への信頼、移動能力、ならびに経営および助言サービス活用の技能開発の訓 練
  • 収入を得られる雇用のための訓練
  • 雇用主となる人との面接の準備などの、地域で就職を探すための方法や手段に関 しての訓練
  • 可能かつ適切である限り、一般の人材開発施設での訓練

(h) 以下のような手段を講じ、障害をもつ人々のビジネスへの支援

  • 関係者の技術や興味との調和を考慮した需要度の高い製品やサービスの生産機会 の確認
  • このようなビジネスが成り立つための可能性調査の実施
  • 特に農村に住む障害をもつ人々のニーズに応えることに主眼を置き、事業の相談 、ローンやその他貧困救済制度からの資金の提供とフォローアップの実施

(i) 障害をもつ人々の平等な参加を促す協同組合の設立と発展に対する支援

8. 障害原因の予防 (Prevention of causes of disabilities)

 以下のことがらを目標とする、国家の政策、プログラムおよび実施のガイドラインの策 定

(a) 情報、教育およびコミュニケーション

  • さまざまな方法による、障害のさまざまな種類とその社会的・経済的影響の範囲 との相対関係の検証
  • 事故(交通事故や労働災害など)、暴力、薬物中毒(アルコールとニコチンを含 む)の予防ならびに伝染病や風土病、栄養不良の防止に関する個人、企業、国家 の責任についての国民の認識の推進
  • 児童の虐待、放置、搾取、武力紛争の犠牲にともなう障害についての、国民の認 識の推進
  • 精神障害についての国民の認識の推進
  • 障害をもつ人々の生存権を守るよう障害の原因の防止に関する報道やキャンペー ン活動の展開
  • 一般大衆、技術者、行政官、政策決定者に対する、環境・公衆衛生問題での障害 関連情報の提供

(b) 以下のような方策を講じての、健康と安全の推進

  • 出産前後、および新生児ケアの改善
  • 分娩時外傷の予防、新生児感染症の予防と処置、先天性奇形の早期発見と治療先 の紹介についての伝統的出産介添人や助産婦の訓練
  • 伝統的治療者などのヘルスケア専門家の訓練での障害予防技能の開発
  • 安全な飲料水、水質管理・衛生システムの設置範囲の拡大
  • 地域社会の衛生や個人レベルの保健活動の奨励
  • はしか・風疹と小児麻痺を主体とする予防接種実施対象の拡大
  • 危険物の使用と管理に関する厳しい規制
  • ゴミ廃棄に関して定められた安全基準の遵守
  • 低価格の保護具を利用しやすくするとともに、工業・農業・建設部門での労働者 の健康で安全な労働環境の推進
  • 騒音規制
  • 交通安全の強調
  • 薬物の合理的使用の奨励
  • 製品設計段階での安全性への配慮の強調
  • 平和時にあっても人々を障害者にしたり、殺害する武器の製造、販売、使用を規 制する国際法の尊重、および被災国における対人地雷の無力化と完全撤去への強 い関心の喚起

(c) 次のような対策を講じての食品の生産と消費の注視

  • 食料摂取総量および微量栄養素の不足の結果として障害者となる危険性のある社 会集団への十分な食料供給の確保のための学校、家庭菜園の推進
  • ヨード添加塩の配布
  • 食品の生産、加工、保存、貯蔵過程における毒性の危険の低減

(d) 特に以下のことに関する判定、処置、照会の強化

  • 先天性奇形、感染症、障害者となる可能性のある状態や損傷の早期発見と管理
  • 障害の早期発見と処置のため、出産前後および出産中の原因による、障害をもつ 可能性のある子供の記録の保存、およびその後の追跡調査
  • 子供の定期検診プログラムの開発
  • 低所得階級向けの集中眼科耳鼻科治療プログラム(アイ[眼科]キャンプ、イヤ ー[耳鼻科]キャンプ)の実施
  • 保健ワーカー、教師、ボランティアに対する、検査、検査結果の分析、専門医へ の照会についての訓練の実施

(e) 例えば次のような方策を講じて、特に農村地域でタイミング良く外科的処置が受け られるように改善する。

  • 適切ならば訓練を受けた臨床スタッフに委ねるが、(基本的には)多分野の専門 家チームによって対応するよう基礎的外科施設の開発
  • 遠隔地の障害をもつ人々に対するサービスを行う移動チームへの支援

(f) 神経や四肢、眼球の損傷による進行性障害を予防するための多種類の薬治療、訓練 、カウンセリング、補助器具の利用改善とあわせて、長期的社会教育によるハンセ ン病制御への支援

9. リハビリテーション・サービス (Rehabilitation services)

(a) 以下のようなリハビリテーション・サービスの開発

  • 需要の大きさや性質について、信頼できるデータに基づくリハビリテーション
  • 個々人に対する期間が限定されているリハビリテーション
  • 遠隔地に住む人を含め、経済力ない障害をもつ人々にも利用できるリハビリテー ション
  • 身体障害だけでなく、精神障害にも対応できるリハビリテーション
  • プライマリーヘルスケア、母子保健などの主要開発プログラムに総合されたリハ ビリテーション

(b) 特に次のような方策を通じてのリハビリテーション・サービスの強化と拡大

  • 人材開発、社会開発、保健、災害対策に関する、国の政策の特定要素としてリハ ビリテーションの含合
  • さまざまな組織で実施しているリハビリテーション・サービスの調整
  • こうしたサービスの利点が理解もされず、また受け入れられてもいないというこ とを念頭において、リハビリテーション・サービスの需要のレベルの継続的検討
  • 障害をもつ人々のリハビリテーション政策・プログラムの立案や実施への参加の 推進
  • リハビリテーション・サービスの改善を促進する上で、郡や市町村の公務員、お よび地域のリーダーの役割を強化するための彼らを対象とした啓蒙プログラムの 開発
  • 国・県・郡・地区レベルでの訓練指導者の養成
  • 資格やサービスの質、専門家としての行動規範を規定する国家基準の制定を通し て、正規の訓練を受けたリハビリテーション・サービス職員の、専門家としての 能力の向上
  • 病院、保健所、診療所などのリハビリテーション・サービス提供能力の強化
  • 日常の社会・経済生活の中での、可能な限りのリハビリテーション活動の展開
  • リハビリテーション・サービスをさらに発展させるための地域の文化資源(例え ば、適切な伝統的慣習)の選択的活用
  • 普及を目的として、リハビリテーションの技術開発に関する国の経験の文書化

(c) リハビリテーション資源に関する情報の準備と配布

  • マスコミその他の公共サービス網を通じて
  • 障害をもつ利用者に適した形態で

(d) 以下のような方法で、リハビリテーション・サービスを一層利用しやすくする方策 としての地域に根ざしたアプローチの開発

  • 政策、制度的および財政的支援の提供
  • 文化・言語・経済的状況の異なる各地域のニーズに合うよう、既存のマニュアル の応用
  • スラムや農村地域で活動するフィールドワーカー養成の促進
  • 第一段階の照会に焦点をおいた照会制度の強化
  • 障害をもつ人々とその代弁者が地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)活 動を開始し、展開していくための支援
  • 代弁者や家族の基礎的リハビリテーション技術の訓練
  • CBRサービスを精神障害をもつ人々にも広げるため、障害をもつ人々の自助運 動から得た経験の活用
  • 調査、評価、情報交換の実施

(e) 特に以下の手段によって、CBRの発展を支援するため既存のリハビリテーション ・サービス提供施設の資源センターとしての役割の拡大

  • CBRのトレーナー、フィールドワーカー、ボランティアの養成
  • マニュアルなど、低価格の訓練用教材の配布
  • 必要に応じて、専門的フォローアップの実施
  • 福祉機器の需要に応じる援助
  • 研究とネットワーク作り

10. 福祉機器 (Assistive devices)

(a) 以下の手段による福祉機器に関する地域協力発展への国の支援

  • 福祉機器製造のために活用できる、国の資源の発掘
  • 低価格のものも含む福祉機器に関する専門家の名簿作成
  • 適切な福祉機器の地域内流通促進のため、国内製造品目のリストアップ

(b) 全体的ニーズの評価、適切さと耐久性、製造、輸入のニーズと輸出の可能性、新製 品開発、流通、修理と維持、訓練などの項目を網羅した福祉機器に関する国家計画 の作成

(c) 福祉機器のニーズの実地調査のためのサービスや設備、および機器の正しい装着法 に関する専門知識をより利用しやすいよう改善

(d) 耐久性があり、地域の職人・技術者が修理でき、魅力ある福祉機器を利用しやすく するための新技術の採用に主眼を置いた、研究開発(R&D)活動を支援するため の政策・プログラムの作成

(e) 研究・開発機関、職員(リハビリテーション工学士、応用科学研究者など)、消費 者(すなわち、障害をもつ人々)、製造工場(職人、機械工、義肢装具士、視力矯 正技師など)、流通網(非政府組織、企業、学校、社会福祉省庁、病院、保健所な ど)相互の情報交換の促進

(f) 研究・開発の推進のために、国産や輸入の福祉機器や資材の使用体験(例えば、適 切さ、地域への適合性、価格、生産と流通関係の要素)の文書化ならびに地域内で の適切な福祉機器の売買の促進

(g) 福祉機器製造についての訓練指導者グループの国内養成プログラムの実施

(h) 特に、専門技術の国家基準の設定、再教育コースや試験の実施、技関認定書の発行 、および熟練訓練指導者の名簿の管理を通しての養成支援

(i) 地方レベルで福祉機器の製造・維持・修理について機械工、技師および職人の技術 の活用を奨励するプログラム(例えば、図式の資料やモデルの作成および配布)の 確立

(j) 障害のための余分な個人負担を考慮し、地域レベルの団体やグループ、特に低所得 者層への福祉機器購入の援助(運転資金の貸与、一部補助するための寄付金の利用 など)

11. 自助団体 (Self-help organization)

(a) 障害をもつ人々の代弁者や家族の会など、障害をもつ人々自身の自助団体の設立と 強化を目指しての、政策・プログラム・資源面の援助

(b) 以下について方策を提供する団体の設立・強化

  • 障害をもつ人々の経済的自立と社会統合を推進するための方法について、直接障 害の影響を被った人たちとの共同調査
  • 政策やプログラムの開発への障害をもつ人々自身の代表の参加

(c) 障害をもつ人々の自助団体による、特に以下のことを目標とするプログラムの実施

  • 個人個人のニーズに応えるためのピア・カウンセリング、肯定的役割モデル、技 術開発などの手段を通じての団体会員間での自身の育成
  • 国の政策やプログラム立案に効果的に参加するため、特に組織運営、広報活動、 特定の問題点を主張するための技術的知識に関する会員の専門知識の強化
  • 一般の人々や、特に障害をもつ人々が利用できる資源に関する、適切な形態での 情報へのアクセスの促進
  • 性の問題への理解の強化
  • 社会におけるさまざまな役割(例えば、会員、市民、有権者、被雇用者、事業家 、サービスの消費者として)にともなう権利と責任に関する研修の実施
  • 障害をもつ人々の文化活動の方法の開拓
  • 草の根レベルでの会員の拡大
  • 障害問題に関する決定における、障害をもつ人々が果たすべき役割の増大

(d) 障害をもつ少女や女性の指導力の奨励

(e) 発達障害をもつ人々の自己の権利(self advocacy)の主張への支援

(f) 情緒や精神の問題を抱える人々のニーズに対応するためのピア・カウンセリングの 推進

(g) 全国団体や政府資金の援助を得て、障害をもつ人々の自助組織による全ての障害者 グループを代表する全国フォーラムの結成

(h) 政府機関や団体とフォーラムの協力を通して、以下の領域での国の障害統計の改善 努力への参加

  • 政府機関と協力して、臨床的所見の他に、さまざまな人生段階における主な生活 活動(聞く、見る、動く、話す、認知する、通学する、働くなど)を行う上での 機能の限界についての考察を加えた、障害の定義の確立
  • 消費者の調査団体と協力して機能的側面から見た、障害の分布率調査の実施

(i) 全国フォーラムの活動

  • 政策向上の手段として、障害をもつ人々が日常生活において重要と考える問題に 関する調査と情報の配布
  • 国の障害者問題調整委員会へ、必要であればその他の団体へも、フォーラムのメ ンバーを代表して代表者の派遣
  • 権利擁護の実施
  • 障害をもつ人々に直接利益になる活動のための資金調達
  • 関連機関や団体と、さまざまな障害のグループとの連絡の推進
  • 加盟団体からの訓練の要請に応えるためのプログラムの運営
  • 地域内や地域間の同様な自助組織との関係の樹立
  • 機能が制限された消費者のニーズに応える製品やサービスの考案を奨励するため 、消費者保護団体や市場調査機関との連携の確立
  • 福祉機器の生産と品質管理を向上させるため経験を積んだ会員の参加

(j) 政府諸機関と障害をもつ人々の団体による、障害者問題に関する協議機構の確立

III 行動課題(Agenda for Action)の実施に関する地域協力と支援

 ESCAP決議48/3と行動課題の実施の主眼は、国レベルにあるが、それぞれの経 験や知識を交換することで域内各国および各地域は利益を得る。

1. ネットワーク作り

 地域内協力は、行動課題の国での実施を支援する関係機関や団体のネットワークを作る こと、およびそのネットワークを通じて選ばれた領域で特定の活動を展開すること、とい う形で実現されよう。ESCAPが事務局をつとめる、アジア太平洋組織間障害関連問題 作業委員会は、資金の提供があり、ネットワークの確立と運営・活動に関して法的支障が ない、という条件で、ネットワークの形成と運営の責任をもつことになる。作業委員会は 強化され、上記の機能を果たすための特別活動グループの設立を考慮することになろう。
 ネットワークは、分権化ベースで運営される。特定の関係分野に活動の主眼を置いてい る機関や団体は、小ネットワークを作ることができる。IIに列挙した活動の優先分野で情 報交換のニーズが高まったとき、これに応えてネットワークが作られるものと考えられる 。小ネットワークを全て合わせたものが、48/3決議実施のための情報・技術交換のネ ットワークを形成するのである。
 さらに、これまでの国連・障害者の十年の間に、多くのESCAP加盟国、準加盟国は 、障害に関わる特定の分野(例えば、障害をもつ人々の自助組織の強化、福祉機器の製造 )において、目覚ましい進展を遂げてきた。今後、それらは、ネットワークの運営に必要 な事務局の下部構造の提供や支援を行うことにより、小ネットワーク設立の中心的役割を 果たすようになろう。
 各小ネットワークは、特に以下のことがらに関して、その特定の分野内において、アジ ア太平洋の十年の間に、進歩を促す責任を負う。

(a) 特定優先分野に関連して、決議48/3を実施するため、ESCAP地域における さまざまな資源(テクノロジー、技術、技能、資材など)の利用の増大

(b) 同分野での情報交換の促進

(c) 域内の発展途上国の実情に応じて生まれた技術、テクノロジー、資材などの質的向 上を図るための、同分野における研究・開発方法の強化の支援

一方、各中心的団体は、次のような活動を行うにあたり、基本的な責任を負う。

(a) 技術協力ニーズ、資源、可能性、進行中の活動、実施経験、主要連絡先についての 、域内情報とデータベースの開発

(b) 特定優先分野を推進している、全ての機関や団体間での、ネットワーク作りの開始

(c) 特定優先分野に関する資源やニーズの最新情報へのアクセスの確保

(d) 決議48/3の実施にあたり、特に開発途上国間技術協力(TCDC)促進のため に、要請があれば各国を援助するため、そのサービスが必要とされるベテラン専門 家の名簿の作成

(e) 各地の障害をもつ人々に、具体的で肯定的な影響を及ぼす、特殊技術協力活動の設 置と実施

 ネットワークの分権的な性質は、参加者相互の責任分担により、活動資金を調達しやす くする。特に中心的な団体は、地域協力への貢献の一環として、各小ネットワークの活動 費の大半を負担するであろう。ネットワーク全体として効果的に機能するために、適切な 追加資金調達の可能性を探ることになろう。

2. 監視と検討

 ESCAP事務局は、資源が確保できれば、行動課題の実施状況を監視・検討し、『障 害をもつ人々の完全参加と平等に関する宣言』に込められた10年の目標達成のための方 法に関して助言するため、障害をもつ人々の団体の代表者およびその他の専門家による諮 問委員会を設置する。
 アジア太平洋の十年に関するESCAP総会の決議により、事務局長は、アジア太平洋 の十年終了まで、ESCAPに対し、2年毎に決議の実施に関する進行報告を提出しなけ ればならない。ESCAPは、アジア太平洋地域内の各国や各地域における進展状況を2 年毎に調査しなければならない。また、成果を検討し、アジア太平洋の十年の盛り上がり を維持するために必要と思われる活動を選定するため、国内障害者問題調整委員会の会議 を2年毎に開かなければならない。これらの会議では、各国の障害者問題調整委員会の代 表者は、行動課題(Agenda for Action)の実施における各国の経験の詳細な報告を行うよ う求められる。アジア太平洋組織間障害関連問題作業委員会は、決議を支持するための参 加団体の取り組みを検討するために開催されなければならない。


アジア太平洋経済社会委員会

(Economic and Social Commission for Asia and The Pacific, ESCAP)

ESCAP

 国連システムの主要機関である経済社会理事会(Economic and Social Council, ECOSOC の下部組織で、5つの地域委員会のひとつ。
 1947年アジア極東経済委員会(ECAFE)として発足し、1974年に改称された
 現在加盟国および準加盟国は58か国、本部はバンコク。職員数は約500名で事務局長 はラフューディン・アーメド氏である。
 おもな目的は、域内の経済社会活動の協力と促進。貿易、技術移転、エネルギー、天然資 源の開発、環境問題、食料、農業、農村開発、教育などの調査・研究活動、開発プロジェク トを実施している。

加盟国および準加盟国(地域を含む) (1994年2月現在)

域内加盟国(43)

アフガニスタン、オーストラリア、アゼルバイジャン、バングラデシュ、ブータン、 ブルネイ、カンボディア、中国、北朝鮮、フィジー、インド、インドネシア、イラン、 日本、カザフスタン、キリバス、キルギスタン、ラオス、マレーシア、モルディヴ、 マーシャル諸島、ミクロネシア連邦、モンゴル、ミャンマー、ナウル、ネパール、 ニュージーランド、パキスタン、パプア・ニューギニア、フィリピン、韓国、西サモア、 シンガポール、ソロモン諸島、スリランカ、タジキスタン、タイ、トンガ、 トルクメニスタン、トゥヴァル、ウズベキスタン、ヴァヌアツ、ヴィエトナム

域外加盟国(5)

フランス、オランダ、ロシア連邦、イギリス、アメリカ合衆国

準加盟国(10)

北マリアナ諸島連邦、クック諸島、仏領ポリネシア、グァム、香港、マカオ、 ニューカレドニア、ニウエ、パラオ、米領サモア


アジア太平洋地域におけるリハビリテーション関連会議・大会開催予定


開催国 会議・大会予定
1994


 


11
12
フィリピン

日本
中国
インド
インド

「アジア太平洋障害者の十年」キャンペーン’94
マニラ会議
第2回筋ジストロフィー協会世界連合日本大会
フェスピック北京大会
世界精神薄弱者育成会世界会議
世界ろう連盟アジア・太平洋代表会議
1995






未定

インドネシア
インドネシア

オーストラリア
オーストラリア
スリランカ
フィジー

RIアジア・太平洋地域会議
「アジア太平洋障害者の十年」キャンペーン’95
ジャカルタ会議
国際アピリンピック
第21回国際てんかん学会議
第12回アジア精神薄弱者会議
世界盲人連合東アジア地域会議
1996



10
未定

ニュージーランド
ニュージーランド

香港
マレーシア

第18回リハビリテーション世界会議
「アジア太平洋障害者の十年」キャンペーン’96
オークランド会議
世界盲人連合世界会議
世界ろう連盟アジア太平洋ろう者会議
1997 未定 日本 国際リハビリテーション医学会第8回世界大会

主題:
「アジア太平洋障害者の十年」(1993年~2002年)

発行者:
財団法人日本障害者リハビリテーション協会

発行年月:
1994年3月発行

文献に関するお問い合わせ:
〒162 東京都新宿区戸山1-22-1
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