音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

資料3

委員提出資料

新たな障害者基本計画の在り方について

○浅倉むつ子委員

○阿部一彦委員

○石野富志三郎委員

○伊藤たてお委員

○氏田照子委員

○大谷恭子委員

○大濱眞委員

○尾上浩二委員

○嘉田由紀子委員

○勝又幸子委員

○門川紳一郎委員

○川﨑洋子委員

○北野誠一委員

○後藤芳一委員

○佐藤久夫委員

○新谷友良委員

○関口明彦委員

○竹下義樹委員

○田中正博委員

○土本秋夫委員

○中西由起子委員

○中原強委員

○藤井克徳委員

○三浦貴子委員

○浅倉むつ子委員

 新たな障害者基本計画の「基本的方針」の(横断的視点)の中に、「障害女性」という視点を盛り込み、あらゆる分野において障害女性が直面している困難を明らかにすること、そして、その困難を解消する施策を具体的に実施していくこと。
 以上のように考える理由を以下に述べます。
障害があり、かつ女性である、ということによるさまざまな困難が、近年になって、ようやく客観的調査として明らかにされました(DPI女性障害者ネットワーク『障害のある女性の生活の困難:複合差別実態調査報告書』2012年)。それによれば、たとえば、障害女性は障害男性よりも、性的被害やDV を受ける割合が高く、被害は深刻です。また、障害者の年間収入には大きな男女差があります。ところが、このような問題があること自体、これまでは認識されていなかったため、障害女性への支援制度はまったく整っていない状況です。そこで、新たな障害者基本計画では、横断的視点の中に「障害女性」という観点もしくは項目を設定して、あらゆる分野において障害女性が直面している困難を具体的に明らかにすることが、まずは求められます。そのうえで、障害女性の困難をどのようにしたら解消できるかという視点から、すべての分野の施策を見直して、より効果的で実りのある施策を実施していくべきだと考えます。

○阿部一彦委員

【意見】
 新たな障害者基本計画については、障害者権利条約の理念と趣旨を尊重する形で作られた改正障害者基本法の理念に則り、差別のない社会づくり、社会モデル的観点からの新たな位置づけ、地域生活を可能とするための支援等が講じられるための総合的かつ計画的な指針として構成されるよう、新たに加える項目を含め、しっかりと検討していくべきと考える。
 なお、基本計画による施策がより効果的に実施されるためにも、その実施状況の把握はもとより、数値目標を定め検証が行える等の仕組みまたは体制の在り方についても検討を行うべきである。
 また、以下については、重要な観点あるいは新たな項目として、丁寧に議論が行えることを期待する。

Ⅰ.基本的な方針

1.基本的人権を享有する主体としての完全な社会参加の実現
①本人の選択に基づいた生活する場、生活するスタイルの確保
②コミュニケーション手段の充実
③社会的障壁の除去
④相談支援、ピアサポート、障害者関係団体の役割

2.人格と個性を尊重し合う共生社会(インクルーシブ社会)の実現
①社会モデルをもとにした障害概念に関する理解の促進
②地域における共生社会の実現
③障害に基づく差別のない社会の実現
④バリアフリー、ユニバーサルデザインに基づく社会づくり

3.障害の谷間の解消と社会モデルに基づく施策の展開
①ICF(国際生活機能分類)の活用
②保健・医療・福祉・就労・教育関係機関の連携
③障害者関係団体・疾病関係団体との緊密な連携

4.総合的かつ効果的な施策の推進
①行政機関・障害者関係団体・民間機関相互の緊密な連携
②障害の種別による格差のない施策、地域間格差のない施策の推進
③施策の実施状況を監視する機関による調整
④国際的協調・国際的協力に基づく客観的視点による監視機構
⑤施策体系の見直しの検討

Ⅱ.重点的に取り組むべき課題

1.生活する力の向上に関する支援とそれらの活用に基づく主体的な地域生活の実現
①教育的リハビリテーション、職業的リハビリテーション、医学的リハビリテーション、社会的リハビリテーション等による総合的リハビリテーションの活用
②各ライフステージに基づく主体的な生活の実現
③相談支援、ピアサポートに基づく主体的な地域生活の実現
④福祉用具等の研究開発とユニバーサルデザインの促進

2.生活環境の向上による誰もが主体的に暮らしやすい地域社会の構築
①自立生活のための地域基盤の整備、生活環境・社会環境の整備
②障害理解の推進と社会的障壁の除去
③バリアフリーの推進とインクルーシブな社会の構築
④経済自立基盤の強化

3.非常時においても安心して生活できる地域社会の構築
①防災等への対応、地域社会における災害時の支援体制の確立

4.国際的協調と国際的協力による障害者権利条約に基づく取り組み
①アジア太平洋地域における域内協力の強化
②国連・障害者の権利条約に関する国際的な取り組みへの参加

Ⅲ.推進体制等

1.計画推進の調査・評価・監視・管理・提言等
2.必要な法制的整備等
3.障害者政策委員会
4.都道府県等における合議制の機関
5.市町村における合議制の機関

以上

○石野富志三郎委員

1)障害者権利条約の第9条「アクセシビリティ」には「締約国は、全ての当事者にインターネットも含めたアクセシビリティの提供を行う為のあらゆる適切な措置を講じ、それを妨げる問題を撤廃する。」ということが書かれています。この条文は、障害者の社会参加におけるバリアフリー化と情報通信技術の関係という立場から、極めて重要な意味を持っています。
 国内法の整備にあたっては、全ての障害者が情報通信技術の分野でどのようなことを望んでいるのかを障害種別毎に把握し、それらを法律の拡充・改正につなげていくことが望まれます。障害者の社会参加におけるアクセシビリティの問題、特に、情報の受信および発信という問題を考える際は、課題を「音声情報の可視化」と「手話言語や書記言語による情報」の観点に分けて取り組むことです。障害者のアクセシビリティに関する要望は、先ほどの観点に沿って整理し検討することが有効であると考えられます。

2)同条第21条「表現及び意見の自由並びに情報へのアクセス」締約国は、障害者が、第2条に定めるあらゆる形態の意思疎通であって自ら選択するものにより、表現及び意思の自由(他の者と平等に情報及び考えを求め、受け、及び伝える自由を含む)についての権利を行使することができることを確保するための適当な措置をとる。と書かれています。障害者が地域で豊かな暮らしづくりを促進するためには、手話を含む言語などのコミュニケーション保障についても選択の機会を確保、またコミュニケーション支援者の育成・養成が強く求められています。とりわけ地方障害者計画の策定にあたり格差の解消および社会的な障壁を取り除くよう努力すべきことが明記されるべきです。新たな枠組として専門職の養成機関の拡大に向けた多面的な推進も必要かと思います。

○伊藤たてお委員

 障害者の福祉施策の対象に「難病」というくくりであったとしても、「疾病」が従来の固定された障害という枠組みを乗り越えて、障害者施策の対象とされたことは、我が国における福祉施策の大きな転換点であったであった。
 その意義は極めて大きなものであると評価される。
 障害者総合福祉法のみならず、その他の全ての法律、条令の見直しと点検を行うべきである。

○氏田照子委員

【全体構成に関する意見】

・「利用者本位の支援」→「本人主体の支援」へ変更
 保護の客体から権利の主体へという理念の変革に即した文言へと変更すべきである。

・「施策体系の見直しの検討」→「地域生活支援の体制整備」へ変更
 新たな障害者基本計画においては、地域生活支援の体制整備を進め、さらなる地域生活の推進をはかりたい。障がいのある人の施策は、縦割りの省庁のなかでの施策の分断や重複を生じることなく総合的、省庁横断的に考える必要がある。就労支援、生活支援、住宅等住まいの確保、所得保障、防災及び防犯、消費者保護など、障害のある人が地域で安心して暮らせる施策体系を作っていかなければならない。特にわが国では住宅施策が弱いことから、イギリスなどのように住宅政策が福祉施策にしっかりと位置付けられていくような方向性が必要である。新たな障害者基本計画には、主体者として生活が可能となる、また市民として地域に貢献していくことのできる諸環境の整備を盛り込み、真の共生社会をめざしたい。

【現行の障害者基本計画に加えるべき観点や項目】

・エンパワメント支援
 一人では参加できない知的障害や発達障害の人の参加する力の向上をはかるための支援について検討し、書きこむ必要がある。また当事者活動の支援のあり方を検証し、当事者の力をさまざまな政策決定過程に活用していく体制をつくる必要がある。

・早期支援(早期介入)
 従来の医学モデルによる支援では、障害をできるだけ早期に発見し、障害児とその家族を医療・医学的リハビリテーションにつなぐことが主であったが、このような(障害受容を急がせる)アプローチは親の自然な子育て観を歪め障害克服に向けた強い働きかけが家族の生活や子どもの育ちに大きなプレッシャーを与えることも少なくなかった。ICF が示すように、障害を抱えつつもQOLの向上を目指した支援を構築することがこれからの障害児者支援に求められている。発見から就学までの間の支援を、個々の状況に沿って、一連の流れの中で対応出来るプログラムにすべきであり、また、母子保健事業との連携により早期からの子育て支援を実現することによって、障害特性の濃淡や有無に関わらず全ての子どもを安心して育てていける状況を作り出すことができ、虐待予防ともなる。
 障害者基本法に新たに設けられた(療育)第17 条(障害者である子どもが可能な限りその身近な場所において療育その他これに関連する支援を受けられるよう必要な施策の構築と研究、開発及び普及の促進、専門的知識又は技術を有する職員の育成その他の環境整備を促進)を障害者基本計画にも反映させるべきと考える。

・人材の育成
 自分の力だけでは参加できない人への人的支援が必要であり、障害福祉分野の人材(福祉事業所従事者等)の育成による質の担保が不可欠である。

・文化・芸術
 障害者権利条約第30 条「文化的な生活、レクリエーション、余暇およびスポーツへの参加」に記されているように、障害者が他の者と同等の文化的な生活を享受し、文化・芸術・スポーツにおいて平等な存在となるよう分野別施策の項目に追加し検討する必要があると考える。

・権利擁護
 障害者権利条約の原則として挙げられている「固有の尊厳、個人の自立(自ら選択する自由を含む)及び人の自立に対する尊重」の実現に向けて、知的障害や発達障害の人たちの意思決定支援など(保護の客体から権利の主体へ)、障害のある人の「完全参加と平等」の実現をはかるために分野別施策の項目に追加し検討する必要があると考える。
 障害のある人が、療育、教育、福祉の過程で、自らの権利を知り、権利を主張していくことを基盤としたセルフアドボカシーの支援および体制をつくる必要がある。このように権利を位置づけることにより、障害者虐待防止法、障害者差別禁止法が有効となると考える。権利意識の弱い日本社会においては、権利を保障し、救済する機関の設置も必要だと思う。

○大谷恭子委員

 新障害者基本計画は改正障害者基本法に基づいて策定されるものであり、よって何よりも今回の改正の趣旨・目的を十二分に反映したものでなければならない。
 障害者基本法は、新たに「障害の有無によって、分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため」ということを法の目的とし、これは全ての事項にかかわるものである。これをふまえ、新たに設けられた障害者基本法第3条「地域社会における共生」と第4条「差別の禁止」これを横断的視点とし、かつ重点的に取り組むべき課題とするべきである。

もし現行の枠組みを生かすとしたら、具体的に各項目に以下の項目を立てるべきである。

Ⅰ 基本的な方針

(考え方)共生社会の実現を目指すこと。そのためには障害者の自立と参加の支援は障害当事者に対する個別の支援のみならず、属する社会・集団への支援が必要であるとの視点が不可欠である。

(横断的視点)現行に加え、もしくは現行の用語・表現を以下のようにすること

1、全ての分野・領域において共生社会の実現への取り組みをすること。
2、障害当事者の自己決定とエンパワーメント
3、障害の特性を踏まえた施策は上記1,2、を踏まえつつ、上記と一体としてなされること。

Ⅱ 重点的に取り組むべき課題

現行に加え、もしくは用語・表現を以下のように改めること
1、地域生活支援、特にどんなに重度でも地域生活が可能となる施策
2、差別の禁止に関する啓発、特に合理的配慮がされないことが差別であることを社会的に認知させるための施策
3、全ての分野において合理的配慮が提供されるよう、社会基盤を整備するための施策
4、生活領域全般において情報とコミュニケーション手段が保障されていること

○大濱眞委員

Ⅰ 基本的な方針

1 社会のバリフリー化の促進

○ 公共交通機関やユニバーサルデザインなどのアクセシビリティーは、現在、省庁ごとの縦割りとなっており、結果として無駄が排除されていない。よって、省庁横断的な取り組みによって、障害当事者の視点に立って検討すべき。

Ⅰ 基本的な方針

2 利用者本位の支援

 現実には以下のような課題があるにもかかわらず、従来の基本計画には盛り込まれていないので入れるべき。

○ 権利条約では「他の者との平等」な生活のために、また、障害者基本法では「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと」と謳われている。
 この内容を実現するために、重度障害者も入所施設や病院ではなく、介助を受けながら地域で独居で自立して暮らし、仕事や余暇のために介助を使って、公共交通や自家用車でも介助を使い、障害があっても本人の意思で自由に外出や旅行に行ける政策を計画に盛り込むべきである。

○ 障害者本人が希望する場合には、入所施設や通所施設などで障害者を1ヵ所に集めて介助されるのではなく、1対1の介助を受けられるようにするべきである。 特に重度障害者については、健康のためにも、「他の者との平等」を確保するためにも、この点を確実に担保できる具体的計画を策定すべき。

○ 入所施設や病院での人権侵害が続いている(例:風呂は廊下に裸で並ばされて流れ作業)。同性による介助や同性による看護を求める(特に女性の)障害者の権利が守られていない病院や施設等が未だにあるので、早急に改善すべき。

○ 障害特性と病院側の事情の両者を考慮し、必要な場合には、入院時にも介助者による常時院内介助(基本的には、在宅で認められている範囲の介助内容)を認める政策を早急に実現すべき。

Ⅰ 基本的な方針

3 障害特性を踏まえた施策の展開

○ 障害特性を踏まえた、病院、診療科を全国都道府県に拠点配備すべき(詳細は、下記「重点的に取り組むべき課題を参照」)。

Ⅱ 重点的に取り組むべき課題

1 活動し参加する力の向上

(1)疾病、事故等の予防・防止と治療・医学的リハビリテーション

○ 従来の計画では、疾病や事故などの予防および治療リハビリテーションをカバーしてきたが、今回の計画では、先進医療分野(再生医療)に政府予算が重点的に配分されている現状も考慮して反映すべき。なぜなら、再生医療の研究は、基礎研究から臨床応用へと着実に進展し、あらゆる障害の原因となる傷病の軽減をもたらすことが期待されている。実際、昨年策定された「再生医療ハイウェイ構想」では、3年後のアウトプットを目指している。
 このことは、重度障害者の障害の軽減やQOL向上をもたらす重要課題である。したがって、文部科学省ライフサイエンス課や厚生労働省医薬食品局審査管理課の取り組みを当事者の視点から基本計画に盛り込むべきである。

○ 重度障害者が病院ではなく、地域で生活できるようにするために、訪問医療などの地域医療との連携・充実が必要である。
 たとえば高位頸髄損傷などの傷病では、地域医療と専門病院が常時連携する体制づくりが不可欠である。それと同時に、専門医療に特化した病院や診療科の拠点を整備し、疾病ごと、障害ごとの専門医療を充実させるべきである。

Ⅱ 重点的に取り組むべき課題

1 活動し参加する力の向上

(2)福祉用語等の研究開発とユニバーサルデザイン化の促進

○ 個々の利用者の障害特性に適合した車椅子などの補装具を申請しても、更生相談所で認められず、泣き寝入りしている事例相談が多く寄せられている。現行制度では、相談所の医師が最終判断する医療モデルであるが、あるべき姿としては、「社会参加のための補装具」であるべきである。
 したがって、厚生相談所の改編や再整備、障害者の立場に寄り添った補装具の新しい決定機関の整備を、基本計画に盛り込むべきである。

Ⅱ 重点的に取り組むべき課題

2 活動し参加する基盤の整備

(1)自立生活のための地域基盤の整備

○ 障害程度が重いことを理由に自立生活が成り立たないサービス水準を放置するべきではない。たとえば、24時間介助が必要ならば24時間のサービスが受けられるようにすべき。

その他

○ 「Ⅲ 分野別施策の基本的方向」を議論するにあたっては、
 ①利用者本位の支援のあり方
 ②疾病・リハビリテーション等のあり方
 ③福祉用具等とアクセシビリティーの促進のあり方
の小委員会を設けるべきである。

○ 小委員会の開催にあたっては、希望する小委員会に各委員が所属できるように、各小委員会を別日程で開催すべき。

○ 数値目標を盛り込む重点施策実施5か年計画(障害者プラン)についても、障害者政策委員会で議論するべきである。

○尾上浩二委員

1.障害者権利条約批准とその完全実施の観点

 新たな障害者基本計画の期間(2022 年度)までには、障害者権利条約の批准が日程に登り、その完全実施の時期に当たることを検討の観点とする必要がある。また、そうした点からも、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」(以下、第一次意見と略)に記載されている、障害者権利条約をはじめとする国際的動向についての項目を立てる必要がある。

2.障害者制度改革推進会議・第一次意見・第二次意見や部会報告等との関係

 この間の障害者制度改革の議論の成果(第一次意見、第二次意見、並びに総合福祉部会の骨格提言や今後、つくられる差別禁止部会の意見書等)を観点や項目に加えるべき必要がある。例えば、第一次意見では、「第2 障害者制度改革の基本的考え方」として、

  • 1.「権利の主体」である社会の一員
  • 2.「差別」のない社会づくり
  • 3.「社会モデル」的観点からの新たな位置付け
  • 4.「地域生活」を可能とするための支援
  • 5.「共生社会」の実現

が掲げられている。

 これらは、新たな基本計画の考え方の中にも採用される必要があると考える。

 また、同様に、第一次意見の「第3 障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方」では、2.基礎的な課題における改革の方向性

  • 1)地域で暮らす権利の保障とインクルーシブな社会の構築
  • 2)障害のとらえ方
  • 3)障害の定義
  • 4)差別の定義
  • 5)言語・コミュニケーションの保障
  • 6)虐待のない社会づくり
  • 7)障害の表記
  • 8)実態調査

が掲げられているが、この中の「地域で暮らす権利の保障とインクルーシブな社会の構築」や「障害のとらえ方・定義」「言語・コミュニケーションの保障」等、その多くが、新たな基本計画の重点的課題として取り上げられるべきである。

 また、この6月に成立した障害者総合支援法の国会審議では、小宮山厚生労働大臣が、「骨格提言は、先ほどから申し上げているように、段階的、計画的に実現をしていきたいと考えています。法案附則の検討規定に必ずしも明記されていない事項であっても、骨格提言や国会での御議論などに基づいて検討していきたいと考えています」(参議院 厚生労働委 2012年6月19日)と答弁している。
 新たな障害者基本計画は、この障害者総合福祉法の骨格提言の段階的・計画的実現の期間でもあり、その骨格提言の内容が十分に盛り込まれるべきである。
 特に、基本計画の観点に関わっては、骨格提言の「はじめに」に記された以下の6つのポイントが活かされるべきである。

  • 【1】障害のない市民との平等と公平
  • 【2】谷間や空白の解消
  • 【3】格差の是正
  • 【4】放置できない社会問題の解決
  • 【5】本人のニーズにあった支援サービス
  • 【6】安定した予算の確保

3.改正障害者基本法(含む3年後見直し)との関係

 障害者基本計画の根拠となっている障害者基本法の改正内容を十分反映させた項目とする必要がある。また、昨年の障害者基本法改正では、その附則に3年後見直しが盛り込まれており、その3年後見直しの課題も念頭においた項目とすべきである。

①基本的な考え方に関連しては、以下のような項目がある。

インクルーシブな社会の実現を目的に明記

 改正障害者基本法では、その第1条の目的に「全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現」と規定されている。これは、推進会議での「インクルーシブな社会の構築」についての議論を受けて規定されたものである。「障害の有無によって分け隔てられることなく、共生できるインクルーシブな社会」ということが、新たな基本計画の目的に掲げられる必要がある。
 東日本大震災が(現在も続く)大きな被害を伴って示したことは、平時から、必要な支援を受け、社会参加をして暮らせるコミュニティこそ災害に強いまちであるということである。今後の復興においてもインクルーシブな社会の実現が基本となるべきであり、その点からも明記されるべきである。

権利の主体としての障がい者の尊厳の尊重と保障される権利の明記

 第1条や第3条には、「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有すること」等が記されており、新たな基本計画においても明記される必要がある。

包括的、かつ社会モデル的な観点の障害の概念の明記と各項目への反映

 第2条の「一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう」との、包括的、かつ、社会モデル的観点の障害の概念を、新たな基本計画のすべての項目の中に反映される必要がある。

「基本原則」の「地域社会における共生」「差別の禁止」「国際協調」を基本的考え方として明記

 新たに障害者基本法で「基本原則」として定められた、第三条(地域社会における共生等)、第四条(差別の禁止)、第五条(国際的協調)を観点に盛り込むとともに、関連した項目の充実を図る必要がある。
 これらに対応して、「地域生活」「差別禁止」「権利擁護」等の分野別課題の項目が設定される必要がある。

 ②また、現行の障害者基本計画では、重点課題のトップに、(社会環境の整備ではなく)「活動し参加する力の向上」が来て、その(1)として「疾病、事故等の予防・防止と治療・医学的リハビリテーション」が掲げられている。障害の社会モデル、並びに改正基本法では第三章全体が「障害の原因となる傷病の予防」となったこと等をふまえた見直しが必要である。
 その他、新たに設けられた条項(防災や消費者保護、選挙、司法)に対応した項目や、「…具体的には、障害者である児童生徒が障害者でない児童及び生徒と一緒に同じ学校の通常学級に在籍しながら教育を受けられるようにするという、この基本的方向性を示した」(末松副大臣答弁、衆議院・内閣委員会2011年6月15日)第十六条等の改正に対応した内容が盛り込まれるべきである。

 ③第十条(施策の基本方針)では、「障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策は、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて…総合的に、策定され、及び実施されなければならない」ということが明記された。また、その際、「障害者その他の関係者の意見を聴き、その意見を尊重するよう努めなければならない」という項目が新たに設けられた。
 このことをふまえ、今後、新たな基本計画のもとでつくられる重点計画も、「障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態」に応じて策定・実施される必要がある。その点から、実態やニーズ把握のための調査・ヒアリング等を障害当事者が関与して行うとともに、把握されたニーズを満たすように対象分野や数値目標の設定が行われるべきである。
 また、「障害者その他の関係者の意見を聴き、その意見を尊重する」ために、例えば、多様なヒアリングやタウンミーティング等、幅広い当事者・市民参加の機会を確保する必要がある。

 ④推進体制についても、改正基本法において設けられた障害者政策委員会の役割・機能の充実、今後の差別禁止法における紛争解決の在り方等についても盛り込む必要がある。

 ⑤さらに、推進会議の第二次意見の内、「障害のある女性」や「精神障害者に係る地域移行の促進と医療における適性手続きの確保」等が重要な課題として残されている。障害者基本法の3年後見直しでも大きな課題になることを念頭におき、新たな基本計画の中で取り扱うべきである。

○嘉田由紀子委員

1 基本的な方針として盛り込むべき項目

ア 差別禁止、権利擁護等の推進

 障害者基本法の改正により、新たに「差別の禁止」が規定され、社会的障壁の除去にかかる「合理的な配慮」が求められるなど、「社会モデル」的な観点も踏まえつつ、障害を理由とする差別や権利利益の侵害の禁止について、明確に位置づけられました。また、平成24年10月には、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律が施行され、虐待防止等に係る具体的な措置等が定められました。
 こうしたことを踏まえ、全ての障害者の基本的人権の尊重と地域社会における共生の実現を図るため、基本的な方針として、差別禁止、権利擁護等の推進を盛り込む必要があると考えます。

イ 情報・コミュニケーション支援等の推進

 改正障害者基本法では、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保や、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大などが新たに盛り込まれました。また、障害者総合支援法の検討規定に、意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援が位置づけられました。
 こうしたことを踏まえ、情報・コミュニケーション支援等の推進を、基本的な方針として盛り込む必要があると考えます。

2 重点的に取り組むべき課題として盛り込むべき項目

ア 高齢障害者、重度障害者等への対応

 障害者の高齢化により、高齢障害者への福祉制度のあり方が課題となっています。高齢障害者への福祉サービスの提供では、原則として介護保険制度の適用が優先されますが、現状では個々のニーズに対応したきめ細かな対応が難しい場合があります。
 また、重度障害者や重複障害者等の増加に伴い、地域における暮らしや日中活動の場における医療的な支援等がより一層求められるようになってきています。しかし、こうした手厚い対応が必要な人を受け入れるには、既存制度の人員配置では十分とはいえず、対応できる施設も不足しています。
 こうしたことから、新たな障害者基本計画における重点的に取り組むべき課題として「高齢障害者、重度障害者への対応」を盛り込むことが必要と考えます。

身体障害者 平成13年度 平成18年度
1級 26.2%   33.6%
65歳以上 60.2%   61.8%
知的障害者 平成12年度 平成17年度
最重度 13.8%   14.9%
65歳以上 2.8%   3.7%

※ 身体障害児・者実態調査 知的障害児(者)基礎調査 より

イ 災害対策の充実、原子力災害への対応

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災においては、多くの障害のある方々が犠牲になりました。その死亡率は、全死亡者の平均を相当上回るという統計もあり、災害時における障害者の避難誘導、避難所での障害特性に応じた支援、情報提供・コミュニケーション支援、電源確保など、災害対策全般において様々な課題を投げかけています。
 また、今般の福島第一原子力発電所の事故は、放射能汚染への対応とともに、避難の広域化、長期化といった原子力災害への対応における困難な 課題を改めて浮き彫りにしています。
 こうしたことから、新たな障害者基本計画における重点的に取り組むべき課題として「災害対策の充実、原子力災害への対応」を盛り込むことが必要と考えます。

障がい者制度改革推進会議構成員実地調査等における各県市提供資料などから

  全死亡者死亡率 うち障害者の死亡率
岩手県宮古市 0.9% 1.1%
宮城県 0.4% 1.7%
宮城県南三陸町 4.5% 13%
福島県南相馬市 1.75% 0.44%※

※南相馬市は11月までに手帳を返還した人のみ

ウ 発達障害者や難病患者への支援スキームの拡充強化

 これまで「障害者」の概念には必ずしも含まれていなかった人たちへの福祉についても、発達障害者が障害者自立支援法の改正(H22)により、また、難病患者が障害者総合支援法(H25)により、法の対象として明確に位置付けられるなど、制度の谷間のない支援に向け進みつつあります。
 しかし、こうした障害のある人に必要な地域におけるサービスのメニューは、整備が進んでいません。
 発達障害者については、障害への理解が普及しておらず、地域生活や就労など、生涯一貫した支援がさらに必要です。
 また、難病患者については、難治性疾患克服事業(臨床調査研究分野)の対象疾患が130疾患あり、そのうち特定疾患治療研究事業の対象とされるものが56疾患で、その福祉的ニーズは個々様々であるとともに、医療との密接な連携も必要であるなど、地域における支援の仕組みを見直すなど拡充強化していくことが必要です。
 こうしたことから、重点的に取り組むべき課題として、発達障害者や難病患者への、支援スキームの拡充強化等を盛り込む必要があると考えます。

エ 精神障害者施策の総合的な取組

 厚生労働省は平成23年度、精神疾患を、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病と並ぶ「5大疾病」と位置づけ、医療計画に記載すべき疾病とすることを決めました。精神疾患の患者は320万人を超え、他の4大疾病のいずれをも大幅に上回っています。
 一方で、精神障害に対する理解はいまだ進んでおらず、サービス基盤の整備も十分とはいえない状況にあります。
 精神障害者にかかる保健・医療・福祉などの関連施策の総合的かつ計画的な支援をさらに進めるため、引き続き精神障害施策の総合的な取組を、重点的に取り組むべき課題として位置づける必要があると考えます。

オ 文化芸術、スポーツの振興

 障害者基本法の改正により、障害者を文化芸術活動の担い手ととらえ、これを支援するための条件整備や助成について、国及び地方公共団体が施策を講じなければならないことが、新たに規定されました。
 障害者による文化芸術は、これまで必ずしも十分に施策が講じられていた分野とはいえませんが、近年「アール・ブリュット※」として作品の評価も高まるなど、注目されています。
 文化芸術の振興を図ることは、障害者の生きがいだけでなく、社会参加、理解促進、さらには共生社会の実現につながるものです。
 また、スポーツ、レクリエーション活動への支援についても障害者基本法に盛り込まれ、また、平成23年8月に施行された「スポーツ基本法」において「障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない」と明記されました。
 障害者スポーツはリハビリテーションとしてだけでなく、ノーマライゼーション社会の構築に向けた役割や、障害者の自立や社会参加を支援するという大きな役割を担っています。
 こうしたことから、文化芸術、スポーツの振興については、分野別施策としてだけでなく、重点的に取り組むべき課題として盛り込むことが必要と考えます。

※アール・ブリュット
 美術の専門的な教育を受けていない人が、伝統や流行などに左右されずに自身の内側から沸き上がる衝動のまま表現した芸術。日本語では「生(なま)の芸術、生(き)の美術」

○勝又幸子委員

意見:
Ⅱ重点的に取り組むべき課題の中に、独立させて、「障害のある女性の複合的差別の解消」をいれることを提案します。

理由:
基本計画の理念の基礎とも言うべき、障害者権利条約においても第6条に障害のある女子が明記されています。かつて国際会議で採択された指針である「第4回世界女性会議行動綱領(1995)」においては障害のある女性に関する行動は実施されず、また「びわこミレニアム・フレームワーク(2003-2012)」及び「びわこプラスファイブ(2007-2012)」でも、問題提起されながらも、日本国内では男女共同参画基本計画においても効果的な施策は行われてきませんでした。

また、障害者制度改革推進会議の第2次意見で、障害のある女性について総則に加える提案がなされたにもかかわらず、改正障害者基本法では、基本的施策の表現の中に「性別」を言及したことにとどまりました。このような状況では、この先日本における「障害のある女性(女子)」の状況の改善はのぞめず、障害者差別と性差別の複合的な差別状況を解消する展望はありません。是非、新しい障害者基本計画の重点的に取り組むべき課題に「障害のある女性の複合的差別の解消」を入れて、取り残された障害女性の状況の改善に結びつけるべきです。

○門川紳一郎委員

Ⅰ.基本的な方針

 現行の障害者基本計画における4つの横断的な視点として、
1 社会のバリアフリー化
2 利用者本位の支援
3 障害の特性を踏まえた施策の展開
4 総合的かつ効果的な施策の推進 がある。
 これら4つの視点に加えて、「災害に備えた総合的かつ広域的な対策の推進」を加えたい。
 昨年3月11日に発生した東日本大震災とそれに付随して発生した大津波や福島第一原発事故等の大災害は多くの犠牲者を出した。日本は地震や水害の多い国であり、今後もこのような大災害がいつ発生しても不思議ではない。
 災害関連情報を、情報へのアクセスが困難な障害者や外国人等を含めたすべての市民に徹底して保障するとともに、震災後の救援物資の過不足ない提供、避難所の確保、要援護者支援やその他の日常生活上必要な支援体制づくりなど、多岐にわたる施策の整備が重要であると考える。
 また、上記4 つの横断的視点の内、「社会のバリアフリー化」については、その施策推進のための基本方針のひとつに「ユニバーサルデザインの観点からの街づくり、物づくりの推進」が挙げられている。
 一方、障害者権利条約の第2 条において、「ユニバーサルデザイン」を次のように定義している。
 「調整または特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲ですべての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計をいう。(後略)」
 この定義からも明らかなように、ユニバーサルデザインの対象を広げ、施策推進の基本的な考え方の部分に「計画」や「サービス」を含むべきではないかと考える。なお、この場合の「サービス」には、手話、要約筆記、盲ろう者向け通訳・介助等の派遣サービス等も含まれる。

Ⅱ.重点的に取り組むべき課題

2 活動し参加する基盤の整備

 ここに(3)として、「情報へのアクセス権の保障とコミュニケーション支援の確立」を加えたい。
 障害者の権利条約第21条の(C)に、次の条項がある。
 「一般公衆に対してサービス(インターネットによるものも含む)を提供する民間の団体が情報及びサービスを障害者にとって利用可能または使用可能な様式で提供するよう要請すること」
 また、同(E)においては、「手話の使用を認め、及び促進すること」とある。
 情報へのアクセス権を保障し、コミュニケーション支援を確立することは、全ての障害者の最低限の生活の権利を保証することである。とりわけ、自然に見たり聞いたりすることに障害があり、情報へのアクセスが困難な障害者にとっては、情報へアクセスすることが権利として保障されなければ、基盤の整備が整わず、自立生活のための地域基盤の整備及び経済自立基盤の強化と共に情報へのアクセス権の保障とコミュニケーション支援の確立は重点的課題である。

○川﨑洋子委員

Ⅰ 基本的な方針

(考え方)

改正障害者基本法の障害の定義により、障害者の範囲に身体、知的、精神障害に加え、難病等を含めて、継続的に日常生活、社会生活に相当な制限を受ける状態にある者とされた。国民一人一人はそれぞれの障害者を正しく理解し、かつ個人として尊重し、障害者も社会の構成員として地域で自立した生活ができるように、お互いに協働できる共生社会を実現させる。

(横断的視点)追加項目

  • 障害者施策に関する国民への啓発
  • 災害時における効果的支援対策

Ⅱ 重点的に取り組むべき課題 追加項目

1 活動し参加する力の向上 追加項目

  • 文化・スポーツへの参加

2 活動し参加する基盤の整備 追加項目

  • 就労の場の拡充

追加課題として 司法手続きへの配慮

以上

○北野誠一委員

1.前回の国の新障害者基本計画作成における、手続き及びその中身の問題点

①平成14年の新障害者基本計画作成のための懇談会では、まだ各委員の自己紹介が終ったばかりの段階の3回目に早々と、「新障害者基本計画骨子(素案)」さらに、追い打ちをかけるように第4回には、「分野別施策の基本的方向骨子(素案)」が事務局から提起されるといった、まったく委員を無視したような運営の仕方がなされたこと。

②その後も、形式上の変更や、順番の入れ替え等は見られたが、中身の大きな変更はなく、多くの委員の意見が、活かされなかったこと。

③形式上の変更においても、素案の段階での、「基本的な考え方5点と基本的な方針10点」の方がまだしも、成案の「考え方と横断的な視点4点と重要課題4点」では、共生社会の理念も、障害者の人権の尊重も、あらゆる社会活動への実質的な参加・参画も、またその阻害要因の除去も、弱弱しい表現となってしまった感は否めないこと。

④特に、今回障害者権利条約19条で明確にされた「地域で暮らすことを選択する権利」については、国際障害者年のノーマライゼーションや「完全参加と平等」のころからの悲願であるが、(参考資料1)にもあるように、基本的な考え方においても、各論部分においても、表現が不十分であること。

⑤これも、(参考資料1)にあるように、「この障害者計画の発表と抱き合わせて出された、一定の数値目標も入った『重点施策実施五カ年計画』は、関係省庁の検討チームが勝手に作って、ヒアリングもなしに、決定版が出される始末である。しかも何らのニーズ調査も行われた気配がない。」のであり、このような形式を今回も踏襲することが、許されてはならない。それでは、障害者政策委員会が、そのモニタリング機能を、責任を持って果たすことはできないこと。

2.今回の取るべきスタイルと、加えるべき項目等についての提案

①今回の長期計画で特に重要視すべきは、障害者権利条約の批准に値するわが国の障害者法・施策と、それが基本とする理念の明確化であろう。2022年までの10年という長期計画であれば、わが国の現状をきっちりと踏まえながらも、あまりに現状にばかり拘泥してしまうのも問題であろう。ここは、改正障害者基本法や障害者総合支援法では、謳い切れなかった、「地域で暮らすことを選択する権利」に「可能な限り」といった限定詞を付けずに、大きな長期目標と理念を、明確にしたいものである。

②さて、障害者権利条約の批准をふまえて、このような理念や長期目標を明確にするのであれば、そのことを、時間をかけて行った、障害者制度改革推進会議の第1次意見書の「基本的な考え方」と「改革の方向性」を活かすのがよいと思われる。
つまり、「基本的理念」を
1.「権利の主体」である社会の一員 2.「差別」のない社会づくり 3.「社会モデル」的観点からの新たな位置付け 4.「地域生活」を可能とするための支援 5.「共生社会」の実現
等を中心に検討し、
「施策の方向性」を、
1)地域で暮らす権利の保障とインクルーシブな社会の構築・・・地域移行や地域生活支援の充実を柱に据えた施策の展開
2)障害の捉え方・・・国民全体の意識改革(医学モデル→社会モデル)
3)障害の定義・・・サービスを必要とするすべての障害者を支援
4)差別の定義・・・法律における定義の明確化(合理的配慮を含む)
5)言語・コミュニケーションの保障・・・法律における定義の明確化
6)虐待のない社会づくり・・・虐待防止、被害の救済等の制度構築
7)障害の表記・・・国民各層の議論動向を踏まえた考え方の整理
8)実態調査・・・障害者及び家族の実態把握
等を中心に検討すればよいと思われる。

③各個別分野についての問題は、そもそも、一定の数値目標の入った重点施策実施5か年計画を、前半は重点課題4点を中心に7点に取りまとめ、後半は、個別分野8点を中心に取りまとめるなど、一貫していないというのか、分かりづらい点である。
 つまりは、今後、障害者政策委員会が追跡モニタリングをおこなうに際して、政策委員会のこれから10年間の力量を勘案して、できるだけモニタリングの作業工程とその作業工程ごとのサポート体制(どこの誰が、何をどうしてくれるのか)が分かりやすい戦略を取る必要がある。
とすれば、A.「基本的理念」を踏まえた、「施策の方向性」は、各個別分野を超えた共通枠組みにおける共通理解を中心として、B.それを踏まえて、実際の障害児・者の日常生活・社会生活に必須の分野を、省庁の縦割りとデータ収集の関連を踏まえつつおこなうことが肝要である。そこでまずは、改正障害者基本法における、第二章 「障害者の自立及び社会参加の支援等のための基本的施策」を基本に据えればよいと思われる。

④ただし、これも(参考資料1)で書いたが、地域生活支援の基本である、ⅰグループホームを含めた住宅支援 ⅱ介助を中心とする生活支援 ⅲ雇用・就業を含めた所得保障 ⅳ地域で生活する際に起こるさまざまな差別や偏見に対する権利擁護 ⅴすべての障害者関連施策に対する当事者参画 の、特に①と②の取り上げ方が、弱すぎるように思われる。
 「ⅰグループホームを含めた住宅支援」は「障害者基本法第20条住宅の確保」で取り上げられてはいる。しかしである。例えば、アメリカの障害者政策委員会である、全米障害者評議会(NCD)が行った著名な1986年のレポート「自立に向かって」の10の項目の1つが、住宅問題であり、このレポートに基づいて、1988年の公正住宅法の改正が行われ、4戸以上の住宅・アパート等は、一定のバリアフリーの義務化と障害児・者の入居制限・差別が禁止されたのである。いうまでもなく、精神障害者を含む障害者の地域生活のネックはこの住宅問題であり、項目の1番にもってきてもよいと思われる。
 また「ⅱ介助の問題」は、「第14条医療・介護等」で触れられてはいるが、介護では身辺介護のイメージが強いし、医療モデルを免れない。ここは、介助支援やパーソナル・アシスタンス等を含めて展開可能な項目立てが必要である。

⑤最後に、推進体制の問題である。
 アメリカの障害者政策委員会である、全米障害者評議会(NCD)が行った著名な1986年のレポート「自立に向かって」について述べたように、障害者政策全般に対する、今後の我が国における、障害者政策委員会の、影響力の問題である。
 アメリカ連邦議会は、1984年のリハビリテーション法の改正において、NCDに「連邦政府の障害者の対する政策のうち、どのプログラムが、どの程度障害者の自立と尊厳に寄与していて、地域や学校や職場での完全な統合を促進あるいは阻害しているのかを評価すること」を求め、その結果がレポート「自立に向かって」であった。そこでは、10のテーマに対する45の勧告がなされ、1988年にはレポート「今・自立の時」で、今度は、45の勧告の内、連邦政府によってそれがどの程度実施されたかの調査を求められて、公正住宅法の改正を含めて、全体として75%について実施されたことが報告され、取り組みが遅れている、雇用と移動交通とコミュニケ―ション支援等については、ADAの必要性とその原案を提示したのである。それが2年後にはADAとして身を結ぶ結果となった訳である。
 さて、わが国の障害者政策委員会は、今まさに船出したばかりである。大切なことは2つしかない。1つは、政府や障害のある国民や障害のない国民から、一定の信認と信託を得るためには、わが国の障害者制度・政策に対して、全体として、アメリカの連邦議会が示したような、一定の展望を有する評価軸を確立していかねばならない。一定の評価軸が無くて、制度政策のモニタリングなど出来ようはずもない。もう一つは、そのために必要な人とお金と組織である。わずかな担当職員を窮地に追い込まぬような手立てが、必要不可欠である。

(参考資料)
福祉新聞 新障害者基本計画(2003年~2012年)に対する論壇 原稿
(2003年1月 北野誠一)
 ひとことで言えば、「腰くだけ」の計画だと言える。
 そのことを典型的に示しているのが、施設(病院)と地域支援の関係である。例えば「施設等から地域生活への移行の推進」の項目における「障害者は施設という認識を改めるため、保護者・関係者及び市民の地域福祉への認識を促進する」や「入所施設は、地域の実情を踏まえて、真に必要なものに限定する」については反対する委員も多かったわけだから、よく書けているようにも見える。しかし問題は、なぜそうしなければならないのかについての理念が、徹底されていないことである。上の二つの文章の前には「障害者本人の意向を尊重し、入所(院)者の地域生活への移行を促進するために…」とあるから、障害者本人の意向の尊重は出てくる。では保護者や関係者や市民が、本人の意向を無視して、本人を無理矢理施設や病院に追いやったということなのか。
 そしてもしそのような認識を改めようとしているならば、「地域の実情を踏まえ」るのは、論理矛盾であろう。ここはあくまで『障害者本人の意向を踏まえ、真に必要なものに限定する』のでなければならない。つまりは上の文章は「入所施設(病院)は、本人の自立生活の理念を踏まえて、真に必要なもの限定する」となり、もっと言えば、「入所施設(病院)は、本人の自立生活の理念を踏まえて、地域生活支援に移行する」ということになる。これは先進諸国が共通に歩んでいる道であり、日本も遅ればせながら歩む道だとすれば、10年後を見据えて、もっと明確な表現が必要だったのではないか。

 私が「腰くだけ」だと書いたのは、つまりはいくら「施設(病院)から地域への移行」を書いたところで、そこには「地域生活支援」の全体的な中身も厚みも見えてこないからである。施設(病院)関係者は、反対するポーズをとったものの「何だ、ちっとも本気じゃないな」と高をくくっているのだ。そして保護者や関係者や市民は「やっぱり地域生活は当てにならない。最後は施設(病院)しかない」と認識せざるを得ないのだ。

 地域生活(支援)は基本的に次の5つである。①グループホームを含めた住宅支援②介助を中心とする生活支援③雇用・就業を含めた所得保障④地域で生活する際に起こるさまざまな差別や偏見に対する権利擁護⑤すべての障害者関連施策に対する当事者参画である。毎回の議事録も各委員の意見書等も公開されているので、それらをつぶさに調べれば、これら5つについて、多くの委員が強く要望していることが、計画にほとんど反映されていないことが分かる。
 ①については、知的障害者や精神障害者の公営住宅への単身入居や公的保証人について、全く触れられていない。②については、そもそも介助サービスを「在宅サービス等の充実」などと書いているところが致命的である。西宮市の青葉園の実践等から分かるように、どんな重度の障害者も、地域社会の中で活動しているのであり、そのことを支援するのが、介助サービスなのだ。③については、障害基礎年金が真に所得保障になることやその利用の拡大等を求める声が無視されている。雇用・就業システムの充実は大切だが、例えば官庁の優先発注や納付金の引き上げといった具体策には触れていない。④については、障害者差別禁止法について各委員が触れているのに何ら表現されていない。雇用の場の人権侵害だけが強調されているが、人権侵害は、学校でも、病院でも、施設でも、駅舎等でも普通に起こっているのだ。⑤については、日本の行政はそもそも障害当事者の参画についての真の理解に欠けている。
 この障害者計画の発表と抱き合わせて出された、一定の数値目標も入った「重点施策実施五カ年計画」は、関係省庁の検討チームが勝手に作って、ヒアリングもなしに、決定版が出される始末である。しかも何らのニーズ調査も行われた気配がない。悲しいかな、これが打破すべき日本の現状なのである。

○後藤芳一委員

1.改正障害者基本計画の要件

(1) 障害者権利条約を批准するための条件を整えること(要件A)

 今回の改正は、障害者基本法改正の経緯からも、障害者権利条約を批准するための条件を整えることであるべきと考えます。それには、障害の社会モデル(権利条約前文(c))、権利条約の一般原則(第3条)等の同条約の前提となる諸原則は、基本計画においても、横断的(通則的)に確認しておくことが必要と考えます。

(2) 確実に成果を得ること(要件B)

 合わせて、努力することも大切ですが、政策の成果として「結果」を得ることが肝要になります。そのために、政策が適切に実施されるための仕組みが必要と考えます。

(3) 我が国独自の実践を発信(要件C)

 さらに、権利条約は国際合意を可能とするための公約数という性格があり、かつ、同条約の成立から6年、検討開始から10 年余を経て政策をめぐる要請も高度化(例:障害者の社会参加の進展とその要請の高度化、財政制約による地域格差の拡大、技術進歩による選択肢の拡大・経済的負担の増大)していることを考えますと、改正基本計画が条約の内容を織り込むだけでは不十分と考えます。我が国独自の実践を反映させて、一歩・半歩でも先の姿を示すことが、国際的な寄与につながると考えます。

2.対応策(要件A:批准への条件整備)

 今回確保すべきこととして、「物理的な利用環境(物理的なアクセシビリティ)」があります。以下により、分野横断的な検討を行い、改正基本計画の通則的視点(現行計画では「横断的視点」の部分)として織り込む必要があると考えます。

(1) 従前との相違

①社会モデル
 (障害は当事者と社会環境との相互関係によって生じるとする)「社会モデル」のもとで、環境の役割が大きくなり、「物理的な利用環境(物理的なアクセシビリティ)」はその中でも、分野横断的に関わることもあり、大きい位置を占めると考えます。

②権利・尊厳に直結する役割
 利用環境(アクセシビリティ)は、障害者の権利に関わる重要な分野(例:移動、教育、労働や雇用、文化的生活)を支えるとして、権利条約においても各分野で触れられています。いわば物理的な利用環境(物理的なアクセシビリティ)が、障害者の権利・尊厳に直結するといえます。

(2) 概念と構造

 (物理的な)利用環境、アクセシビリティ、ユニバーサルデザイン、合理的配慮、コミュニケーション、支援技術・機器・サービス、これらを含めた「物理的な利用環境(物理的なアクセシビリティ)」等の概念の、互いの関係を整理・定義しておく必要があると考えます。
 私見では、 ①「物理的な利用環境(物理的なアクセシビリティ)」は、利用環境のうちで大きい位置を占め、各分野(例:移動、教育、労働や雇用、文化的生活)へのアクセシビリティの実現に大きい役割を担う
②「物理的な利用環境(物理的なアクセシビリティ)」のなかには、福祉用具、交通や建築のバリアフリー化、情報等を包括的に含めて考える
③「ユニバーサルデザイン」は、すべての手段が共通してめざすべきもの(いわば、1階部分)であり、「合理的配慮」はユニバーサルデザインだけでは十分に対応できないところを個別対応で補う(2階部分)(ベースがユニバーサルデザイン、それを補うのが専用品)
という関係にあると整理してはいかがかと考えます。

3.対応策(要件B:結果の担保)

(1) 施策の運用の課題

 1990年代以降に、制度やそれを通じたハードの整備は大きく進んだ(例:建築、交通関連のバリアフリー法)といえると思います。その割に、当事者の感じる不便さが十分に減ったとはいえず、残る課題は多いと思われます。
 その原因は、①個々の施策をさらに充実させる余地があること、②制度の現場的な運営が不十分なことがあると考えます。①は、従来施策の増強策として分野別施策(基本計画のⅢ)で検討するとして、②は、これまでと違った対応が必要と考えます。
(注:いまの延長では「制度の整備は進んだ、しかし現場の運用が追いつかない」「よって、地域格差が存在したままになる」という状態が続くことになり、「権利条約の要求(例えば、「生活する地域を選ぶ権利」(第19条))を満たせない」という評価につながり得ることが懸念されます。)

(2) 施策横断的な原則

 政策の運用((1)の②)については、その実効を確保するために、新たな横断的な工夫を加える必要があると考えます。
 私見では、以下のような方法があると考えます。
①現場的監視
 施策や制度があっても、受け手にとって質的・量的に十分なサービスの提供がなされていない状況(例:補装具の給付制度)があり、これは現場の運用の不十分さ・不揃いとともに、施策の提供が一歩通行になっていることが大きい要因と考えられます。すべての政策に、当事者が参加することを通じた、当事者による評価を求めることを原則にしてはどうかと考えます。真に実効のある「当事者参加」「監視機能」は、権利条約の求めるところと考えます。
②各省からの立証
 政策委や内閣府が求めたこと(ポジリスト)に対して、各省が「できる、できない」を応えるのでは、「施策の谷間」をつくる恐れがあると考えます。権利条約に署名したことは各省にとっても既知のことであり、各省にも対応の計画があると思われます。
(注:例えば、改正障害者基本法の福祉用具の項(法第14 条)には、新たに「社会生活」が追加された。関係当局には当然に、それに対する追加的な施策実施の計画があると考えられます。)
 政策委員会における検討と各省の対応(例:各省は所管分野の現状をどう認識するか、批准に向けて不足はないと評価するか、不足する場合はどう対応する計画か)の把握を並行または協力して行うことにしてはいかがかと考えます。
(注:「共用品」の開発と普及、標準化に際しては、政府の関係当局も参加して協力して行い、成果を得た経緯があります。)
③総合企画調整機能
 権利条約が求めることを漏れ(例:各省所掌部分で未対応の部分、各省の所掌にまたがる部分、技術的に基本計画に載せられない(政策委員会の監視機能の及ばない)部分)なく実現するには、網羅的な状況の把握、施策の推進、施策の総合調整が必要と考えます。それを行う主体・体制と権限の明確化が必要と考えます。
 上の①(現場的フィードバック)、②(各省に立証責任)、③(総合企画調整機能)ともに、物理的アクセシビリティ以外にも共通する項目と考えられることから、「基本的な方針」に記述することを提案します。

4.対応策(要件C:将来的な権利条約の進化への寄与)

 例えば、日本独自のアプローチとして「共用品」があります。共用品は権利条約にいうユニバーサルデザインに当たり、品目数、市場規模、普及度合及び標準化において我が国は国際的に随一の位置にあります。
(注:「共用品」は、予め意匠を工夫するなどによって、障害のある人もない人も同様に利用できるモノやサービス。シャンプー容器に凹凸をつけてリンスと識別するなど我が国発の取組み国際的に普及しています。)
 共用品の開発は、当事者と産業界が当初から協働して行い、当事者の不便さ調査を続けてきていることも、取組みの正当性をもつとともに、米欧の「対立や対話で着地点を見つける」のとは違う、インクルーシブな(包括的で当事者が参加)アプローチを実践しています。
 我が国には、こうした取組みが他にもあると思われます。そうした事例を整理(例:ベストプラクティスとして収集)して、理念や手法(例:国際標準化)として国際的に発信していくことが有効と思われます。

5.対応策(小委員会の設置)

(1)「物理的な利用環境(物理的なアクセシビリティ)」をめぐっては、①課題 は残るにしても個々の施策は充実しつつある、②施策や制度を増やすだけでは埋まらない課題がある、③権利条約の批准に向けて速やかに結果を出す必要がある、という状況にあると考えられます。

(2)その対応策としては、従前の個々の施策を充実させる取組みも必要ではあるものの、上記②と③の点から、特に改正基本計画においては、施策の受け手(当事者)側の視点からアクセシビリティを満たす利用環境が連続して確保されているかという視点から点検し、それを起点に個々の施策を展開するというアプローチが重要ではないかと考えます。
(注:個々の施策は縦割りにならざるを得ないものも多いことから、施策を増やすことが受け手側の環境を連続して満たすことを保証しない。「受け手側から見る」「結果を出す」ことを指向することは、この点からも今次基本計画で欠かせない点と考えます。)

(3)そうした方向性を改正基本計画の横断的視点と分野別施策に織り込む必要があると考えます。それには、物理的な利用環境について、横断的・専門的に検討する必要があると考えます。

(4)よって、「物理的な利用環境(物理的なアクセシビリティ)」に関わる小委員会を設けて検討することが必要ではないかと考えます。その場合の体制は、利用側(例:障害当事者(団体))、供給側(例:事業者、場合によっては行政)、有識者(利用分野別の専門家、物理的アクセシビリティに関する専門家)ほか広い関係者の参加を得て行うことが望ましいと考えます。

○佐藤久夫委員

1 地域で平等にくらすために必要な支援を権利とすることを基本方針に。

 この点は障害者権利条約が締約国政府に求め、また2010年1月7日の自立支援法訴訟団と政府との「基本合意」で約束され、2011年改正の障害者基本法第3条が規定し、同年の「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」の「骨格提言」が提言し、2012年の障害者総合支援法の理念が求めていることである。
 このことは日本国憲法の要請である基本的人権の平等な保障としての国の責務である。今年4月の和歌山地裁判決が1日21時間の公的介護保障を命じ、和歌山市がそれを受け入れたように、また「骨格提言を尊重した総合福祉法の制定を」との地方自治法に基づく意見書が217の地方議会から政府に寄せられたことに見られるように、すでに司法や地方自治体の多くもこの考え方となっている。
 小宮山厚労大臣は障害者総合支援法案に関する国会答弁で繰り返し述べてきた。
 「骨格提言は障害者の願いが詰まった重いものである。ぜひこれを実現したい。しかし予算の壁などがあるので、すぐにすべてを実施することは出来ない。段階的・計画的に実施したい。障害者総合支援法は、すぐ出来るものを定めつつ、すぐ出来ないものは3年目途の検討規定に盛り込んだ。その検討は骨格提言に沿って、かつ障害者・家族などの意見を反映させつつ行いたい。」と。
 ここであげられる「予算の壁など」の「など」とは主に、必要な支援は何かを個々の障害者について公平かつ適切に評価する基準や体制の整備ということであろう。私も予算・基準・体制などは重要な要素と考える点で、また、今すぐその条件が十分には整っているとは言えないという点で、大臣の考えに同意したい。
 したがって、すでに障害者総合支援法の附則で法定されていることではあるが、新しい障害者基本計画もこの骨格提言の実施を妨げているといわれる予算的な壁と技術的な壁とを取り除く対策を基本的課題として掲げ、それらの壁を乗り越えるために取るべき政府の基本的方向を示すべきである。例えば、予算の壁と言われるものについては、まず必要とされる支援を受けて地域で安心して暮らするためにどれだけの予算増が求められるのか、サンプルでの推計調査が求められる。ニーズ評価と個別の支給決定方式についても海外の経験を学びつつ試行調査を行う必要がある。
 「壁」があるから目標の実現は困難だとするのではなく、壁を乗り越えて段階的・計画的に目標を実現するという政府の意志を明確にした新しい基本計画にするべきである。

2 「推進体制等」に「データを重視する等透明性を確保する」を新設する。

 今日の行政施策の展開には科学的な検証と市民の理解が不可欠であり、そのためにデータを重視し透明性を確保する必要がある。データには障害者の生活実態や意向に関するデータ、予算や事業実施状況などの行政データ、および諸外国の実態などの関連情報とがある。
 なお、障害者施策に必要とされる財政を確保するためには市民の理解が必要であり、そのためにもこのようなデータとその公開が必要である。

(1)「障害者実態調査」

 新たな障害者基本計画が2013年度から2022年度までであり、13-17年度が前半期重点計画、18-22年度が後半期重点計画と予定されると思われるので、「障害者実態調査」を基本計画4年目(2016年度)に実施し、5年目にそれをふまえた評価と後半期重点計画の策定がなされるべきである。同様に9年目に調査、10年目に評価と次の計画の策定へとつなげてゆく。
 この「障害者実態調査」は、企画から分析・公表まで当事者参加を重視すること、全ての障害者を対象とし、かつ在宅障害者だけでなく入所型施設・精神科病院に入所している障害者も含めること、その日常生活や社会生活の状態について障害のない市民との比較が可能な調査設計とすること、障害当事者が感じている環境の障壁も調査項目に含めること、などが重要である。なお新たな障害者実態調査を行うのか、国民生活基礎調査などの既存調査の特別編(障害者であるか否かを区別できる設問の追加)として実施するのかを検討すべきである。
 また目的は調査時点での障害者の生活実態を明らかにすること以上に、経年的な変化とそれへの障害者施策の効果を測定することにあるので、調査の方法と項目を原則として変えないという方針が取られるべきである。
 調査結果は可能な限り「性別」、「市町村規模別」などにも分類して分析する。プライバシーへの配慮を施した上で、生データを障害者団体や研究者が自由に分析できるように提供することや、市民の求めに応じてクロス集計結果などを提供するサービスなどが望まれる。

(2)行政データの収集と開示

 近年政府は行政データを集計して障害者白書や各省庁のホームページなどでややくわしく紹介するようになってきたとはいえ、まだまだ多くの行政データが公開されることなく眠らされている。たとえば、障害基礎年金・職域の障害年金の受給者に関する機能障害別、性別、都道府県別のデータ、障害者雇用助成金制度の都道府県別、障害種別利用状況のデータなど、オープンにして制度改善のために活用すべきであろう。
 オーストラリアが公的な障害福祉サービス利用者全員について毎年、「障害データディクショナリー」とよばれる統一的な項目をもとにデータを収集し、政策の基礎として活用しつつ報告書として公表しているのも参考になる。

3 「支援機器(福祉用具)・IT技術の活用」の取り組みの強化

 活動と参加を推進するための手段(環境)としての、支援機器(福祉用具)は、その重要性をますます高めている。その理由は、IT技術等の開発により機能・効果の向上と活用分野の広がりが進んでいることと、加齢にともなう「中・軽度障害者」が増加し、施設サービスや人による訪問系サービスの利用までは必要ないが、こうした支援機器の利用によって安心して地域生活を営むことが出来る人々が増えてきているからである。
 今年4月から私の授業では難聴のある学生のために「遠隔PC通訳サービス」が採用された。これはインターネットを利用して全国に散らばる4人の通訳者のもとに講義の音声を伝え、それを文字に入力して学生の目の前のパソコンに流す方式である。IT技術を活用すれば、このようにコミュニケーション保障を必要とする場所に通訳者が出向く必要は無くなる場合もある。
 しかし障害者の生活の変化や機器の技術的な進歩に対して、現行の制度は適応できていない。特に現行の福祉機器の支援制度(補装具費支給制度、日常生活用具等給付事業)は、生活現場のニーズとの解離が頻繁に生じている。具体的には、本人の選択権の拡大、対象となる機器と価格の再検討、手続きの簡素化とタイムリーな供給、修理やメンテナンスの簡便化、地域格差の縮小などの課題が指摘されている。
 この分野は医療、福祉、教育、労働、情報、交通などにまたがる横断的な性格のものであり、基本計画の「基本的方針」の中に位置づけてその研究・開発・普及のシステムを検討するべきである。障害者政策委員会の中に部会などを設けて集中的に議論すべきである。

4 重点的課題に、「療育施設の整備など障害への早期対応」を

 障害者基本法に「療育」の条項が新設された。しかし、学校と違い療育施設(障害児の通園施設(現行の児童発達支援センター等))の整備計画はこれまで明確に示されてこなかった。今年度から実施責任が市町村に移行したために、自治体間格差が広がることが懸念される。「身近な場所」が通常の保育所や幼稚園にすり替えられてはならない。一般の保育の場への参加とともに、障害にともなって必要とされる「療育」の場の保障もなされるような総合的なシステムが必要とされる。
 このシステムでは子どもの権利条約に則って「可能な限り自己負担をなくす」ことを原則とし、できるだけ入所による療育ではなく入所施設が短期入所や訪問医療などの形でバックアップしての「在宅療育」を可能にするべきである。
 さらに母子保健などとの連携強化の課題を含めて、療育現場の担当者や障害児の親の団体を含めた関係者が参画してあるべき制度を形成することを計画に盛り込むべきである。

参考:障害者基本法第十七条 国及び地方公共団体は、障害者である子どもが可能な限りその身近な場所において療育その他これに関連する支援を受けられるよう必要な施策を講じなければならない。
2 国及び地方公共団体は、療育に関し、研究、開発及び普及の促進、専門的知識又は技能を有する職員の育成その他の環境の整備を促進しなければならない。

○新谷友良委員

1.基本計画と重点施策実施計画

 現行の障害者基本計画は10年間を単位としており、「重点施策実施5か年計画」で基本計画を補強する形をとっている。また、数値目標は基本計画にはなく5か年計画に記載されている。基本計画の見直しを重点実施計画で補強する方法は理解できる面もあるが、基本計画策定等同時に前半5年間の重点施策実施計画が作られ、5年経過後、後半5年間の重点施策実施計画を作る仕組みは複雑である。また、現在の後期重点施策実施計画は「基本計画の後期5年間における諸施策の着実な推進を図るため、平成20年度からの5年間に重点的に取り組むべき課題について、120 の施策項目並びに57 の数値目標及びその達成期間等を定めるものである。」としているが、120の施策項目と57の数値目標の設定は、新たな基本計画の策定に匹敵する作業量ではないかと考える。
 評価の仕組みとしても、現行基本計画は「重点施策実施計画を策定したときは、速やかに公表し、広く関係者に周知を図るとともに、その進ちょく状況を継続的に調査して公表する」として、基本計画の年度評価というより重点施策実施計画の評価(進捗状況の報告)となっている。
 障害者政策委員会による障害者基本計画策定という節目でもあり計画期間、施策項目と数値目標との関係などを議論・整理すべきと考える。

2.計画での数値目標について

 数値目標の設定に当たっては、先導する理念や政策目標と人的資源・財源などの制約条件を明確にした議論をすべきである。

3.基本的な方針(考え方)

 現行基本計画の策定時とは異なり、国連障害者権利条約の採択による世界標準の現実化、また障害者基本法の改正など障害者制度改革の進捗状況を踏まえた基本的な方針(考え方)を文章化する必要がある。

4.基本的な方針(横断的視点)

 個別の分野を超えた横断的な視点で検討すべき理念・テーマ(例えば、差別、インクルージョン、アクセシビリティ、情報・コミュニケーションなど)を議論する場が必要と考える。

5.「法制上・財政上の措置」の進捗状況評価

 障害者基本法は第12 条で「必要な法制上及び財政上の措置」を取ることを明記している。関係省庁が必要な措置を取ることは法律上の義務であるが、その進捗状況の評価は障害者政策委員会の仕事と考える。基本計画では共通分野・個別分野の関連する主要な法規は明記し、その見直し進捗状況を評価する仕組みを記載すべきである。

6.欠格条項の見直し

 上記法制上の措置の進捗状況評価に含めるべきではあるが、特に障害者を理由とする欠格条項については、特別な評価が必要である。

7.「災害と障害者」

 東日本大震災で顕在化した「災害と障害者」の問題は、障害者基本計画の大きなテーマとして章立てすべきである。議論に際して、障害者権利条約が災害を超えた「緊急事態と障害者」という捉え方をしていることに留意する必要がある。

(参考)障害者権利条約
第11条 危険な状況及び人道上の緊急事態
 締約国は、国際法(国際人道法及び国際人権法を含む。)に基づく自国の義務に従い、危険な状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。)において障害者の保護及び安全を確保するためのすべての必要な措置をとる。

8.インチョン戦略との関係

 11月に採択されるであろう「アジア太平洋障害者の権利を実現する10年」(2013-2022)<インチョン戦略>は、「国際協力」という個別分野にとどまらず、基本計画の関連する項目で参照・評価していく必要があると考える。

9.「障害の範囲」と障害者手帳制度

 障害者基本法の障害者の定義と、障害福祉サービスの実定法である障害者総合支援法の規定には乖離がある。総合支援法附則第3条は、障害支援区分について3 年をめどに見直すとしているが、障害者支援区分の見直しと同時に障害者手帳制度の見直しを行わなければ、障害者基本法の定義に沿った必要なサービス実施は期待できない。
 障害者手帳は福祉サービスの範囲を超えて利用されている制度であり、また障害者手帳の認定基準は、年金制度の認定基準などにも利用されている。障害福祉サービスの領域を超えた手帳制度の在り方は関係する省庁も複数であることから、障害者基本計画に於いて手帳制度の在り方について方向を定める必要がある。

○関口明彦委員

はじめに

 障害者の権利に関する条約は、障害者の人権と尊厳の確保及び促進という枠組みで起草されたものであり、その趣旨は改正障害者基本法の理念にも生かされている。よってその考え方こそが基本計画を貫いてあるべきものである。その観点から既存の基本計画の枠組みを改変するとしたら

Ⅰ 基本的な方針

横断的視点

1 普遍的人権と人間の尊厳を確保する施策(差別禁止を含む)
2 インクルージョンと共生社会の推進
3 利用者(障害者)の意思に沿った支援
4 障害の社会モデルに基づく共生社会実現に向けた施策の展開
5 総合的かつ計画的観点からの施策の推進
(1)行政機関相互の緊密な連携およびその責務と統一性
(2)広域的かつ計画的観点からの施策の推進(ナショナルミニマムを含む)
(3)施策体系の計画的見直し
(4)障害者団体の参画

Ⅱ 重点的に取り組むべき課題

1 活動し参加するための法制度整備
(1)障害者総合支援法、障害者虐待防止法の見直しを射程に入れた施策体系の在り方
(2)障害者差別禁止法の在り方
2 活動し参加する基盤の整備
(1)地域で暮らしていくための基盤の強化と障害者の隔離収容の問題の解決(地域移行、病床削減を含む)
(2)経済的自立と社会保障の一体的強化
(3)ユニバーサルデザイの普及と個別の必要に応じた福祉機器の開発と利用
(4)IT革命への対応
3 精神障害者施策の障害者の権利に関する条約批准を前提とした抜本的見直し(既に批准した国々の良い実践に学ぶことを含む)

Ⅳ 推進体制等

障害者政策委員会が基本計画を作りつつ適宜に障害者施策の実施状況を精査する

(補強資料)
心のバリアフリーの経緯についてー厚生労働省と国土交通省の比較
2012/08/10

経緯

厚生労働省の経緯

心のバリアーフリー宣言

1.「精神保健医療福祉の改革ビジョン」
http://www.ncnp.go.jp/nimh/keikaku/vision/barrierfree.html
「心のバリアフリー宣言」
平成16年3月、厚生労働省は「心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会」によって、「心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会報告書」及び国民向け指針「こころのバリアフリー宣言~精神疾患を正しく理解し、新しい一歩を踏み出すための指針~」をまとめました。

2.心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/04/dl/s0411-7i.pdf
~精神疾患を正しく理解し、新しい一歩を踏み出すために~
(平成16年3月)(概要)
2.「こころのバリアフリー宣言」~精神疾患を正しく理解し、新しい一歩を踏み出すための指針~
2ページ:こころのバリアフリー宣言

3.心のバリアフリーを目指して 精神医学研究連絡会報告
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-19-t1032-6.pdf
―精神疾患・精神障害の正しい知識の普及のために―
平成17年8月29日
日本学術会議
精神医学研究連絡委員会

4.こころのバリアフリー宣言 - 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター

5.心のバリアフリー研究会
第6回世界精神医学会アンチスティグマ分科会国際会議
http://jsbfm.com/archives/120307.html
主催:こころのバリアフリー研究会、公益財団法人精神・神経科学振興財団

○竹下義樹委員

1 基本的な方針の(考え方)のところに以下の項目を加える。

(1)障害のある人の自己決定権を支える体制づくり
(2)障害のある人の地域での生活を支える体制づくり
(3)施設福祉と在宅福祉の二分化から一元化に向けた新たな視点の検討

2 重点的に取り組むべき課題として以下の項目を検討する。

(1)障害者権利条約の批准に向けた国内法の整備としての障害者差別禁止法の制定
(2)障害者総合支援法の見直し規定に基づく検討

○田中正博委員

  • 共生社会の実現に向け「地域生活を支える地域基盤の整備」
  • ライフステージに応じた支援体制の確立(含む重度化、高齢化対策)
  • 地域生活、地域共生の推進と社会のバリアフリーの推進
  • 意思決定支援の体制整備と活用に向けての具体的な計画。
  • 権利擁護システムの構築と成年後見制度普及にかかる抜本的施策。
  • 虐待防止、差別禁止など権利擁護の推進
  • 国民及び障害者相互の障害理解の促進
  • 大規模災害に対する防災、減災対策
  • 国民各層からの幅広い意見の聴取

○土本秋夫委員

1 全体的に

(1)できるだけ 難しい ことばをつかわず わかりやすくする
(例えば:施策、緊密、体系、疾病、基盤など)
(2)漢字が多いことばをならべない(例えば:横断的視点、行政機関相互など)
(3)英語は できるだけ つかわない
(例えば:バリアフリー、リハビリテーション、ユニバーサルデザイン、ITなど)
(4)「障害者権利条約」をもとにする
(5)「第一次意見」「第二次意見」「障害者総合福祉部会・骨格提言」「差別禁止法部会」の意見を大事にする
(6)指導・訓練・治療を中心としない。合理的配慮が必要。
(障がいのある当事者に問題があるのではなく、社会の側に問題がある)

2 わかりやすく 例えば

(1)横断的視点 → 幅広い見方
(2)バリアフリー → かべをなくす
(3)利用者本位 → 当事者主体
※利用者ではサービスをつかっている人だけのようにとれる
(4)IT → 情報
(5)ユニバーサルデザイン → 誰でも使いやすくすること
(6)基盤 → もとになるもの

3 「施設から地域へ」を中心とする

(1)障がいのある人たちが入所施設から出て、地域で自立した生活ができるようにしていく。

○中西由起子委員

全体構成に関する意見

1 障害者の権利条約の批准を見据えた社会モデルを中心とする内容であること。

 権利条約の批准を見据えた障害者基本法では、従来の医療モデルから社会モデルへの改革を説き、新しい時代の障害者政策を目指していると考える。そのため基本計画の中心概念は、従来の「リハビリテーション」や「ノーマライゼーション」ではなく、障害者の権利の推進となる。
 基本法作過程の討議で何回も強調されて意見のうちとくに、基本計画の作成過程においては次の点に留意すること。

  1. 障害者が施設などでの生活を地域でのサービスの不足を理由に余儀なく選択させられることがなく分離や排除されることなく、地域社会での自立生活を可能とする必要な人には市町村に過剰な財政的負担をかけることなく24時間の介助が受けられることを当然のこととする、地域で暮らす権利の保障とインクルーシブな社会を実現する。
  2. 社会モデルに基づいた障害の概念の普及
    ADL評価による障害程度区分によるサービス支給は、特に精神,知的障害者の地域での自立生活を阻害している。見守りと付き添い,相談支援体制の独立が急務である。また、地域移行十ヵ年戦略で提案された地域移行システムの構築を急ぐことが社会モデルへの移行を促進する鍵である。
  3. 障害の種別や等級にとらわれるのではない、個々人のニーズを尊重したサービスの提供
    現在の障害程度区分は市町村への財政負担の決するものであり、当事者のニーズを反映するものとはなっていない。個人のニーズに基づいた調整・斡旋モデルを早期に実施できるようにすべきである。
  4. 分離や隔離の施策、地域間格差などの差別の解消
    知的障害者の1/3 が施設で暮らす現実も支援費制度以降も変わっていない。この地域サービスの貧困が差別の温床となっている。地域間格差が自立支援法以降も拡大している。全国で介護保障請求の訴訟が頻発しているのは、地域間格差が原因である。
  5. あらゆる場面での言語・コミュニケーションの保障
    コミュニケーション支援はいまだに個別給付になっていない。必要な支援が必要な時にないことは人権侵害にあたる。全ての人が享受していると同等の生活をあらゆる障害者に保証することから、総合支援法は始まる。

2 ジェンダーを意識した計画が立案されること

 改正障害者基本法においては、女性障害者に関する明確な言及はなかった。
 「障害のある女性の生活の困難―人生の中で出会う複合的な生きにくさとは―複合差別実態調査」報告書でも指摘されたように、ジェンダーによる格差は存在する。基本計画においては、特に以下の点に留意し、女性障害者に関する事項も付け加えるべきである。

  1. 性と生殖に関する権利
  2. エンパワーメントに関わる分野
  3. 虐待防止
  4. 自立生活と介助
  5. 労働・雇用
  6. 法律上の権利
  7. 国際協力

3 推進体制とモニタリングが明確化されること

 障害者政策委員会の役割・機能を充実させるとともに、差別禁止法における紛争解決の在り方ももりこむことが必要である。また、状況に合わせて基本計画は改正すべきであることから、定期的なモニタリングは必要である。2年に一度実施状況を調査することで、改革の推進を促進することも可能となる。

現行の障害者基本計画に加えるべき観点や項目

1 「Ⅰ 基本的な方針」を文章形式の「考え方」と箇条書きの「横断的視点」にわけて説明しているが、後者はむしろ基本計画実施の際の重要視点と考えられ、「II 重点的に取り組むべき課題」の一部の内容も含まれている。

2 「Ⅱ 重点的に取り組むべき課題」は、本当に実施の際に重点として取り扱われてきたのかという疑問と、分野別施策と重複するものも多いという問題点がある。むしろこの項は上記の「横断的視点」と重複することもあるので、「横断的視点の重視」に組み入れてまとめることを提案する。

3 「Ⅱ 4 アジア太平洋地域における域内協力の強化」と一地域が限定されているが、現在のODA のありかに沿った表現とするべきである。特に最近はアフリカへの支援が重視されていることから、広く「国際社会への貢献」に変更すべきである。

○中原強委員

【新たな障害者基本計画策定にあたって】

○ 新たな障害者基本計画の策定にあたっては、現行の障害者基本計画(平成15年度~平成24年度)の内容と諸施策の進捗状況について、委員の共通認識をもつ必要がある。そのうえで、現行の障害者基本計画の基本的な方針にある(考え方)の方向性は継続すべきと考える。

○ 我が国の国連障害者権利条約への締結に向けて、権利条約が求める基本的な考え方を踏まえるべきである。

○ 総合福祉部会の骨格提言に基づく法の策定、施策の実施が計画的に実施されるものとすべきである。

【現行の障害者基本計画に加えるべき事項】

○ 現行の障害者基本計画では、我が国における少子高齢化の進展について記載されているが、高齢障害者への取り組みについての記載がされていない。障害者の地域生活が推進されていくなかで、高齢期を迎える障害者が地域生活の継続を断念することのないよう、高齢障害者に対する適切な施策の推進についても加えるべきである。

○ 内閣府の「障害者に関する世論調査」においては、「障害のある人に対して、障害を理由とする差別や偏見があるか」について尋ねているが、その結果、「少しはあると思う」と回答した人を含め、「あると思う」と回答した人が依然として多数を占めている。
 「障害者基本計画」の掲げる「共生社会」の実現を図るためには、障害のある人に対する国民の理解(国民の心のバリアフリー)を促進する必要がある。
 現行の障害者基本計画の基本的方針の(横断的視点)に「1.社会のバリアフリー化の推進」が掲げられているが、障害のある人への国民の心のバリアフリー化を促進するため、将来を担う児童を含め幅広い国民の参加による啓発・広報活動の推進についての事項も加えるべきである。

○ 現行の障害者基本計画の基本的方針の(横断的視点)にある「2.利用者本位の支援」のなかに、来年度より施行される障害者総合支援法の検討規定にある「障害者の意思決定支援の在り方、障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制度の利用促進の在り方」を踏まえた事項を加えるべきである。
 なお、成年後見制度の利用促進にあたっては、現行制度の課題に留意し必要な改正を行う必要がある。

○ 社会参加促進の観点から、教育、就労、住まいの場などの各施策の相互連携について加えるべきである。

○ 「Ⅱ重点的に取り組むべき課題」のなかに、発達障害、難病への総合的支援に係る事項を加えるべきである。

○藤井克徳委員

1.障害者が等しく権利を有することを基本として全体を構成すること

 新たな基本計画は、言うまでもなく、その拠り所として、障害者権利条約、およびそれを受けた改正障害者基本法、特に「等しく基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられる」、「分け隔てられることなく共生する社会を実現する」等の基本理念に言及することが不可欠である。そして、計画全体がこれらを踏まえて新たに構成されるべきである。
 なお、新たな基本計画に盛り込むべき内容ではないが、計画策定の前提として現行の障害者基本計画(2003年度~2012年度)についての精緻な検証と評価の必要性を強調しておきたい。

2.「アクセシビリティ」を基本的視点として取り上げること

 障害者権利条約に基づく基本的視点として「アクセシビリティ」を取り上げるべきである。現行の基本計画では「社会のバリアフリー化」などが取り上げられているが、より広範な、建物、交通、情報、言語やコミュニケーション手段の選択、司法や政治への参加、制度利用(欠格条項の見直し等を含む)、文化的生活等に関わる包括的な概念として含めるべきである。

3.統計・データの収集を行うこと

 同じく権利条約に基づき、障害関連の内外の統計、データの集約・蓄積について含めるべきである。

4.客観的で具体的な目標を明示すること

 新たな基本計画については、中間もしくは最終の段階で客観的に検証・評価ができるように、数値目標を中心とした具体的な目標の明示が求められる。目標の設定にあたっては、例えば障害をもたない市民の暮らしぶりや海外と比較可能な観点を取り入れるべきである。

5.関連審議会の再考・再編を行うこと

 障害関連の審議体のあり方については、主題によっては省内の関係部署や省庁を超えての横断化を含めた新たなスタイルが求められる。例えば、現行にあっては労働及び雇用、福祉施策(生活支援)、所得保障、住宅などの各分野がそれぞれ独自に審議されているが、障害のある人の本格的な地域生活や就労支援となると、これらが一体となって審議することでより有機的で効果的な政策が生み出されるのではなかろうか。

6.「障害者と災害」について盛り込むこと

 今般の東日本大震災を踏まえ、障害者と災害について盛り込むべきである。また今後の復興に向けて、障害のある人もない人も共に生活できる社会づくりが望まれることから、本基本計画が復興にも資するものであり、また復興の実践が本計画に基づきつつなされるべきことを述べるべきである。

○三浦貴子委員

1.わかりやすい構成、表現にすること

 知的障害の方、高齢者、小・中学生等はもとより、初めて見る方にもわかる構成や表現としてほしい。全ての国民を念頭においた、インクルーシブな計画づくりを行う。

(1)例えば、現行計画の構成・標題は、以下のように言い換える

Ⅰ 基本方針 →「この計画を作るにあたって、心したこと」等
Ⅱ 重点施策 →「この計画の中で特に力を入れて実行すること」等
Ⅲ 分野別施策→「実行する一つひとつの内容」等
Ⅳ 推進体制 →「実行するための方法・工夫」等

(2)絵・写真・図式等を効果的に使用し、わかりやすく見やすくすると同時に、視覚障害の方にもわかりやすい配慮をすること

2.現行計画に対する意見

(1)「はじめに」について

(計画期間と、確認・検証)
 計画期間を平成25 年度~平成34 年度の10 年とし、毎年計画の進捗状況を確認する仕組みを作る。尚、はじめの5ヶ年の経過時(平成29年度末)に検証による必要な修正を行い、時代に見合う計画内容として、次の5ヶ年(平成30年度~平成34年度)を導くものとする。なお、計画の進捗状況は、具体的な数値目標や工程表などにより検証すること。

(2)「Ⅰ 基本的な方針」について

(標題の表現)
 「この計画を作るにあたって、心したこと」等、わかりやすい言葉を使うこと。

(計画の考え方)
 すべての人が平等に人権を有し、障害や年齢や性別に関係なく、皆がありのままの自立を認め合い、なりたい自分になれるよう、支え合い助け合って共に生きる日本にするための計画とすること

(3)「Ⅱ 重点的に取り組むべき課題」について

(標題の表現)
 「この計画の中で特に力を入れて実行すること」等、わかりやすい言葉を使う。

①国連障害者権利条約を踏まえた施策の展開
 ○差別しない社会づくり
 ○社会への完全参加とインクルージョン(包摂)
 ○機会の均等

②利用者主体の支援
 ○自己選択、自己決定権の保障
 ○利用者の意向を十分に尊重した支援体制の構築
 ○プライバシーの確保、およびニーズへの個別対応が可能なサービス提供体制の整備

③障害の特性に対応する施策の推進
 ○常時介護と医療的ケア等を必要とする重度障害者等の生活支援保障
 ○障害の特性に応じた効果的な施策の推進
 ○障害者施策の対象とならない障害等への対応

④総合的かつ制度の谷間を生まない施策の推進
 ○障害者基本計画と障害福祉計画の連動等、計画的観点および計画を実現する施策の推進、施策体系の見直し

⑤地域福祉サービスと地域生活基盤の整備
 ○住まいの場を含む地域福祉サービスの基盤整備
 ○自立生活を可能とするための住まい、活動の場、移動手段等の基盤整備と日常生活、社会生活支援体制の充実
 ○雇用・就業・年金など経済的自立基盤の強化

⑥サービスの質の向上に向けた障害福祉サービス従事者の確保と養成
 ○サービス従事者の所得保障並びに労働環境の改善
 ○サービス従事者の専門性向上のための研修体制強化
 ○サービスの質の評価推進

⑦研究・開発・実施
 ○疾病・事故等の予防・防止と治療環境の改善を推進。機能障害等に関する高度医療の研究・開発
 ○障害者への配慮を中心とした、地域社会資源のユニバーサルデザイン化の推進
 ○コミュニケーション機器をはじめとする福祉用具・機器の研究開発

3.その他:障害者政策委員会に求めたいこと

(1)周知広報に関する検討

 推進体制の重要な柱として、周知広報の方法も議論していただきたい。
 文書だけでなく、CDやDVD、説明会等、さまざまな手段で全ての国民に伝えることが重要。

(2)財源確保

 推進体制のなかで、財源確保について考えていただきたい。
 経費の試算や資料などが障害者政策委員会に提供され、今後10 年間の施策推進に必要な経費(予算)と見合わせて、障害者基本計画を考えることのできる場としてほしい。

その他 委員提出資料

意見書(部会設置)

2012年8月20日
委員 石野富志三郎
(財団法人全日本ろうあ連盟)

表記の件につき、「アクセシビリティ」部会設置を要望します。

[理由]

 障害者権利条約(以下、権利条約)により「アクセシビリティ」が新しい重要な概念としてわが国に紹介されましたが、欧米では早くからこの概念に基づき、障害のある人とそうでない人との共生を図る施策を進めてきました。権利条約では、前文に「障害者のある人がすべての人権及び基本的自由を完全に享有することを可能とするに当たり、物理的、社会的、経済的及び文化的環境、保健[健康]及び教育並びに情報通信についてのアクセシビリティが重要であることを認め、」とあり、そして権利条約の一般原則、一般的義務に「アクセシビリティ」の用語が入り、さらに単独条項(第9 条)を設けております。さらにこの「アクセシビリティ」の概念に基づき、随所に「アクセス」「アクセシブル」の用語が使われています。言いかえれば、障害のある人が障害のない人と同じように生活していける環境を整備することが重要であることを権利条約は謳っています。この「アクセシビリティ」の概念は共生社会を構築する重要な言葉であり、精神です。

 ところが、我が国ではこの概念がほとんど理解されていません。いつでも、どこでも、誰からでも自由に情報を受け取り、いつでも、どこでも、誰にでも情報を発信すること、そして、コミュニケーションの方法や手段を自らの意思で自由に選択することができるようにすることが当然の権利として保障されること、また施設(建物利用、交通含む)、商品やサービスへのアクセス、司法、教育、医療等へのアクセスが重要であり、この概念に基づいた体系(システム)を審議するための場(部会)を設けることが必要であると考えます。また、アクセシビリティが阻害されている状況の実態調査もされていない状況ですので、アクセシビリティ阻害の実態調査を踏まえて我が国でのあるべき施策を講じることが必要と考えます。

 なお、部会設置の際、それぞれの分野での現場経験者、有識者(特に障害を持つ)を委員として選出し、実効のある審議が行われることを期します。