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資料2

新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見(案)

 障害者政策委員会は、障害者基本法(昭和45 年法律第84 号)第11 条第9項において準用する同条第4項の規定に基づき、障害者基本計画についての内閣総理大臣への意見を以下の通り取りまとめる。

はじめに

1、これまでの計画

 我が国では、国際障害者年(昭和56(1981)年)を契機に、以下の長期の計画等の下で障害者に対する施策が継続的に実施され、様々な課題を抱えながらも、その取組が強化されてきた。

①障害者対策に関する長期計画(昭和57(1982)年)

 国連障害者の十年の国内行動計画として、障害者施策に関する初めての長期計画として策定された計画。

②障害者対策に関する新長期計画(平成4(1992)年)

 平成5(1993)年度からおおむね10 年間を計画期間とし、同年12月に改正された障害者基本法により同法に基づく障害者基本計画と位置付けられた計画。

③障害者プラン(平成7(1995)年)

 新長期計画の後期重点施策実施計画として策定され、障害者施策の分野で初めて数値による施策の達成目標が掲げられた計画。

④障害者基本計画(平成14(2002)年)

 新長期計画における「リハビリテーション」及び「ノーマライゼーション」の理念を継承するとともに、障害者の社会への参加、参画に向けた施策の一層の推進を図るため、平成15(2003)年度から24(2012)年度までの10年間に講ずべき障害者施策の基本的方向について定められた現行の計画。

 また、同時に我が国の障害者施策は、これらの計画とともに下記に示す国際的な取組の一環としても実施されてきた。

②国連障害者の十年(1983年~1992年)

 国連障害者に関する世界行動計画を推進。

③ESCAPアジア太平洋障害者の十年(1993年~2002年)

 1992(平成4)年、国連障害者の十年の終了を受けて、アジア太平洋地域における国連障害者に関する世界行動計画を更に推進。

④びわこミレニアム・フレームワーク(2003年~2012年)

 2002(平成14)年、我が国の主唱により、アジア太平洋障害者の十年を更に10年延長し、すべての人のための障壁のないかつ権利に基づく社会に向けた次期10 年の行動課題として障害者施策を推進。

2、この10年間の動き

 これらの計画、特に障害者基本計画の期間(平成15(2003)年度から24(2012)年度までの10年間)における障害者に関連する新たな動きとして、主なものを次のように挙げることができる。

平成15(2003)年

  • 社会福祉の基礎構造の改革の一環として、身体障害者及び知的障害者の福祉サービスについて、「措置制度」から「支援費制度」に移行。
  • 触法精神障害者の処遇に関して、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行ったものの医療及び観察等に関する法律(平成15 年法律第110号)が成立。

平成16(2004)年

  • 基本的理念の規定に障害を理由として差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない旨等を追加した障害者基本法の一部を改正する法律(平成16 年法律第80号)が成立。
  • 第二次アジア太平洋障害者の十年及びわが国の障害者施策を推進するとともに、障害者の権利を推進することを目的に障害者団体を中心として連携を図るという目的の下に、11の主な障害団体を発起団体として日本障害フォーラム(JDF)が設立。

平成17(2005)年

  • 身体障害、知的障害、精神障害の三障害を福祉サービスの対象とする障害者自立支援法(平成17年法律第123 号)が成立。

平成18(2006)年

  • 内閣府「災害時要援護者の避難対策に関する研究会」検討報告
  • 従来の盲・聾・養護学校の制度を特別支援学校の制度に転換すること等を内容とする学校教育法等の一部を改正する法律(平成18 年法律第80号)が成立。
  • いわゆるハートビル法と交通バリアフリー法を統合した高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18 年法律第91号)が成立。
  • 2001年から議論されてきた障害者の権利に関する条約(仮称)(以下「障害者権利条約」という。)が第61 回国連総会において採択。

平成19(2007)年

  • 日本政府が障害者権利条約に署名。

平成20(2008)年

  • いわゆる教科書バリアフリー法である障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律(平成20 年法律第81号)が成立。

平成21(2009)年

  • 障害者権利条約の締結に必要な国内法の整備を始めとする我が国の障害者制度の集中的な改革を行うため、内閣に障がい者制度改革推進本部を設置。
  • 障がい者制度改革推進本部長により、障害者施策の推進に関する事項について意見を求めるため障がい者制度改革推進会議の開催が決定。

平成22(2010)年

  • 国(厚生労働省)が障害者自立支援法訴訟原告ら(71名)との間で訴訟上の和解を行い、速やかに応益負担(定率負担)制度を廃止し、遅くとも平成25年8月までに、障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する等とした「基本合意文書」を締結。
  • 障がい者制度改革推進会議の第一次意見を最大限に尊重して、政府が「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」を閣議決定。
  • いわゆるつなぎ法である障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて障害保健福祉施策を見直すまでの間において障害者等の地域生活を支援するための関係法律の整備に関する法律(平成22 年法律第71号)により、障害者自立支援法が一部改正。
  • 実効性確保の観点から、できる限り具体的な数値目標やスケジュールを明確に設定し、達成状況について定期的にフォローアップを行う第3次男女共同参画基本計画が男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)に基づいて閣議決定。女性障害者の複合的に困難な状況に言及。
  • 障がい者制度改革推進会議が、インクルーシブ社会の構築、障害概念の社会モデルへ転換、施策の実施状況を監視する機関の創設等を内容とする障害者基本法の改正について、第二次意見をとりまとめる。

平成23(2011)年

  • 東日本大震災により未曾有の被害。
    NHKによると障害者の死亡率は障害のない人のほぼ2倍。
  • 以前よりの懸案であった虐待防止について、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号)として議員立法によって成立。
  • 上記推進会議の第二次意見を踏まえ、障害者基本法の一部を改正する法律(平成23年法律第90号)が成立。
  • 障がい者制度改革推進会議の下に設置された総合福祉部会が「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」をまとめる。

平成24(2012)年

  • 改正障害者基本法に基づき障害者政策委員会が発足。
  • 地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律(平成24年法律第51号)により、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)が制定。
  • 障がい者制度改革推進会議の下で発足し障害者政策委員会に引き継がれた差別禁止部会が「障害を理由とする差別の禁止に関する法制」についての意見をまとめる。

3、新しい基本計画にむけて

 以上のように、この10 年間は、国際的にも国内的にも極めて大きな議論を伴いながら障害者に対する法制度が目まぐるしく動いた時期であり、まさに激動期であったとも言える。

 このような状況の中にあって、日本政府は、障害者の権利の保障および尊厳を守るという観点から、障害者権利条約の意義を認め、起草段階から積極的に参加してきたところであり、平成19(2007)年の署名以降、条約締結に向けた国内法の整備が進められてきた。

 特に、平成21(2010)年12月からは、当面5年間を障害者の制度に係る改革の集中期間と位置付け、内閣に設置された障がい者制度改革推進本部の下で開催された障がい者制度改革推進会議を中心に、障害者権利条約の締結に必要な国内法の整備を始めとする我が国の障害者に係る制度の集中的な改革のための議論が行われてきた。

 障がい者制度改革推進会議及びその下に設置された総合福祉部会及び差別禁止部会(平成24(2012)年7月より障害者政策委員会の下で開催。)という2つの部会の議論において大きな指針となったのは、前述の障害者権利条約と平成22(2010)年1月に国(厚生労働省)と障害者自立支援法訴訟原告らとの間で結ばれた「基本合意文書」であり、推進会議及び部会の議論の成果は、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」(平成22年6月)、「障害者制度改革の推進のための第二次意見」(平成22年12月)、「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(平成23年8月)、「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」(平成24年9月)として取りまとめられている。

 この間の障害者制度改革の主要な成果として、平成23(2011)年に障害者基本法が改正され、障害者の定義に社会モデルの考え方が反映されるともに「合理的配慮」の概念が盛り込まれ、さらには、国内において障害者基本計画の実施状況を監視し、勧告を行う機関として障害者政策委員会が設置された。また、平成24(2012)年には障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)が制定されたところである。

 しかし、制度改革全体からすれば、まだ道半ばであって、特に、障害者総合支援法の附則事項の検討や差別禁止法の制定等、大きな課題が残っている状況である。

 このような状況を踏まえて、次の新しい障害者基本計画(以下、新基本計画という。)を展望するに当たって、留意しなければならないことは、現行の計画期間において問題とされた重要な課題の多くは、新基本計画の計画期間においても、依然として重要な課題であるということである。

 平成25(2013)年度から始まる新基本計画は、引き続きこのような課題に立ち向かうためものとして、障害者制度改革の成果物である障がい者制度改革推進会議(後の障害者政策委員会)が取りまとめた4つの意見書(第一次意見、第二次意見、障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言、「障害を理由とする差別の禁止に関する法制」についての差別禁止部会の意見)を踏まえ、障害者権利条約批准に向けた法整備と批准後の条約の実施を想定したものであることが求められる。

 また、この新基本計画は、改正された障害者基本法の下で策定される初めての基本計画となるが、基本計画は、障害者基本法第32 条第2項第3号の規定により障害者政策委員会により、その実施状況が監視されることになり、必要があると認められるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告することができることになっていることに鑑みると、基本計画の策定に当たっては、その実施状況を検証できる期間、形態、方法が採用されるべきであり、そのための客観的な統計資料の収集も基本計画に織り込まれることが求められる。なお新基本計画の期間について、障害者政策委員会では5年とすることが適切との意見が多かったが、中長期の取組を必要とする課題があることから10 年とするべきとの意見もあった。

 以上、これまでの経緯や改正された障害者基本法の趣旨に基づいて新基本計画は策定されるべきである。

Ⅰ 基本的な方針

1、基本理念

 新基本計画の理念として重要なことは、障害者権利条約が示す他の者との平等を基礎とした障害者の権利の確保である。
 ここで、他の者との平等とは、障害のない一般市民と同様にという意味であり、障害者に何らかの特権を認める趣旨ではない。
 そのうえで、この権利が確保されるには、権利の実現を阻む社会的障壁を除去するとともに、障害者の自立と選択及び社会参加を可能とする支援の提供が不可欠であり、このことにより、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生できる社会の実現が図られるべきである。

2、基本原則

 新基本計画を策定するに当たり、以下をすべての障害者施策の基本原則とすべきである。

(1)地域社会における共生等

 地域社会における共生を基本原則とする障害者基本法第3条を踏まえ、障害者施策は、インクルーシブ社会という理念と現実との間にある大きな格差を埋めるため、あらゆる分野の活動に参加する機会の確保、どこで誰と生活するかについての選択の機会の確保、意思疎通又は情報の取得や利用に必要な手段を選択する機会の確保に資するものでなければならない。

(2)差別の禁止

 差別の禁止を基本原則とする障害者基本法第4条を踏まえ、差別禁止に関する法律を制定することが求められるとともに、条例による地方自治体の取組が期待されるところである。
 同時に、国のあらゆる障害者施策が差別的な、または差別を助長するものであってはならず、いわゆる障害を理由とする欠格事由を規定する条項や差別的であると指摘されている法制度の在り方については、かかる観点からの見直しがなされるべきである。
 また、近年、多くの国民が障害を理由とする差別や偏見が改善されてきていると感じている一方で、障害を理由とする差別や偏見があると感じる国民が増えてきているという調査結果があり、本計画期間においては、このような状況も勘案し、障害を理由とする差別や偏見を解消するためのより積極的な施策の展開が求められる。
 さらには、女性障害者への複合差別については、すべての施策に複合差別を解消する視点が盛り込まれる必要がある。

(3)国際的協調

 国際的協調を基本原則とする障害者基本法第5条を踏まえ、国内的には障害者権利条約の批准並びにその実施を通して共生社会の実現を図るとともに、対外的には、第3次アジア太平洋障害者の10 年を推進し、仁川戦略に積極的に取り組むことが求められる。

(4)政策決定過程への障害者等の参画

 障害者権利条約を踏まえると、障害者に関連する施策の策定や検証などの過程において、「私たち抜きで私たちのことを決めないで」という理念に基づき、過半数の当事者参画が手続的に保障されることが原則とされるべきである。また、障害に特化しない一般施策であっても、障害者の生活に大きな影響が及ぶことも多いため、その決定過程である国や自治体の審議会等について障害者の参加を確保する方向性が必要である。

Ⅱ 共通して求められる視点

 新基本計画を策定するに当たり、以下に掲げる事項は、すべての施策の策定及び検証に当たって共通して求められる視点である。

1、アクセシビリティ(使用したり利用できる状態)の拡大

 物理的環境、公共交通、知識、情報、コミュニケーション、公的手続等へのアクセス(これらを使用したり、利用できること)はインクルーシブな社会(障害の有無で分け隔てられない社会)において障害者が自らの権利を実現するための前提条件であること。

2、意思決定支援

 障害者の自己決定を保障する観点から、判断をするために必要な情報をわかりやすく伝える支援(情報のバリアフリー化等)とともに、本人の意思を聴き取ることによる本人主体の意思決定に向けた支援が重視されなければならないこと。

3、格差の是正

 男女間の格差を是正するため、女性障害者に配慮した視点をすべての施策に盛り込むこと、及び地域間の格差の発生を事前に防止し、事後に是正するための仕組みを設けること。

4、関係機関の連携等

 障害者に関連する施策は各府省にまたがる中で縦割り行政の弊害(制度の谷間、施策の方針のずれ等)をなくすためには、各府省間のパートナーシップが重要であること、また、地方分権を踏まえて、国がマクロな視点で方向を示しつつ、地域における共生という視点から、国が密接に地方公共団体と連携すること、さらには、国が策定する計画と地域福祉計画や障害者自立支援法に基づく障害福祉計画等、市町村が策定している他の計画と連携を保つこと。

Ⅲ 先送りできない重要な課題

1、谷間や空白の解消

(1)精神障害

○ 精神障害者の社会的入院問題の解消及び地域移行の促進

○ 医療における適正手続の担保

○ 精神障害者への偏見の除去

(2)難病

○ 障害と病気の関係を整理し、難病の定義を明確にすること

○ 難病患者への支援を拡充すること

○ 再生医療を踏まえた治療の研究と実施

(3)高次脳機能障害

○ 障害者施策にどう位置づけるのかについての検討

○ 基本計画の中に盛り込むべき事項についての検討

2、積み残してきた課題

(1)欠格条項の見直し

(2)身体障害者福祉法の別表を含む障害者手帳制度の在り方

(3)成年後見人制度にかかわる課題

(4)家族依存からの脱却(要検討)

3、障害者制度改革に関する課題

 「障害者の権利に関する条約(仮称)の締結に必要な国内法の整備を始めとする我が国の障害者に係る制度の集中的な改革の推進を図る」として、平成22年6月29日に「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」が閣議決定されている。
 この閣議決定で横断的な課題として示された
(1)障害者基本法の改正と改革の推進体制
(2)障害を理由とする差別の禁止に関する法律の制定等
(3)「障害者総合福祉法」(仮称)の制定
のなかで、障害者総合支援法附則の検討(総合福祉部会骨格提言の計画的段階的実施)及び差別禁止法制の実現が大きな課題として残されている。

Ⅳ 分野別施策の基本的方向

1、医療、介護等【14条】

(1)医療

(P)

(2)暮らしの支援

(P)

2、年金等【15条】、経済的負担の軽減【24条】

<障害者政策委員会での意見>

(1)所得保障(年金や諸手当)について

○ 障害者の雇用・就労を推進する施策とともに、年金や手当による所得保障も不可欠である。

○ 非効率的な給付や重複する給付は見直すという視点も必要である。

○ 現時点で公的年金制度の完全一元化、最低保障年金等の新年金制度の検討において障害年金については議論されていないため、基本計画では現行障害年金の改善についての検討規定を入れるべきである。

○ 生活保護ではなく、雇用と所得、社会保障によって生活できるように施策を改善するという観点から、障害基礎年金の改善が必要である。

○ 働いて稼ぐ額と年金との相関関係等、所得保障制度の在り方を再検討する必要がある。

○ 給付水準が高い障害厚生年金は、障害基礎年金と切り離して議論すべきである。

○ 生活保護給付の受給対象者には障害者が多いため、生活保護と年金制度や手当(基礎自治体による難病への手当を含む)との関係も問題になる。

○ 在日外国人等である障害者の無年金問題への対応を検討するべきである。

○ 無年金障害者への基礎自治体の対応等をデータ化し、是正の方向につなげるべきである。

○ 難病等はざまに落ちている方を含め障害者の所得保障を体系づけるべきである。

○ 諸手当については地域的な格差を解消し、全ての障害を対象にするべきである。

○ 住宅等特別のニーズには手当等で充足する等、年金に限定せず所得保障制度全体の在り方を考える場が必要である。

○ 職場の支援体制を整備し、働いて所得を得たいと考える人が働けるようにする必要がある。

○ 働くことが困難な人が地域で当たり前に暮らせる体制をつくる必要がある。

(2)経済的負担の軽減について

○ 基礎自治体は障害者の社会参加を促進するために割引や減免等を実施している。

○ 税制控除は所得がある方が対象で、所得がなく非課税の方は使うことができないので、所得の再分配から考えると公平ではない。また、障害者への適用実態についての調査もない。

○ 減免はJR 等の公共交通機関を利用できる人や博物館、美術館等に行くことができる人等、移動の手段や自由が確保されている人しか利用できない。

○ 経済的負担の軽減の制度は障害者が低所得だからかわいそうだという意識につながる面もあるので、基本的には所得保障の制度で対応するべきである。

○ 障害者はヘルパーの交通費や入場料等を支払っており、1人分の料金では社会参加できない。

○ 自立支援医療の入院費等の医療費やその他の費用の軽減策を精神障害者や難病患者にも拡充すべきである。

○ 障害福祉サービスや就労支援事業などの利用者負担問題を改善すべきである。とりわけ就労支援事業における利用者負担は無料とすべきである。

○ 家賃や住宅改修費の助成制度等についても今回の基本計画の中に位置付ける必要がある。

(3)データ等についての意見

○ 障害者の経済活動や生活実態、消費実態を明らかにする基礎データを整備するべきである。

○ 経済的扶養の実態を明らかにするためにも障害者の家族の実態把握が必要である。

○ 施策の進捗状況の評価・検証のための指標づくりの際に外国の例を参照するべきである。

○ 男女別集計によると女性は障害基礎年金だけを受ける人が多く、男性に比べて年金受給水準が低い。男女の就労形態の違いが年金に現れている。

○ 年金を受給していない障害者に対する包括的実態調査が必要である。また、年金の要件を満たさない理由とその割合、地域差の状況等も把握するべきである。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 現行の年金や諸手当等の所得保障制度全般について、総合的な検証を行うこと。その際、以下の点に留意すること。

  • 生活できる給付水準であること
  • 地域格差がないこと
  • 障害種別で谷間がないこと
  • 無年金障害者への対応

◎ 基本計画の監視に当たり、以下のデータを把握すること。

  • 障害者(無年金障害者を含む)とその家族の生計実態についてのデータ
  • 上記の男女別データ

3、教育【16条】

(1)インクルーシブ教育システムの構築について

<障害者政策委員会での意見>

○ 障害者制度改革、インクルーシブ教育システム構築のためには、共生社会の形成に向けた国民の共通理解を一層進めることとともに、障害者制度改革を社会的機運として醸成すべきである。

○ 障害者基本法の第16 条第1項に「共に教育を受けられるよう」という文言が入ったことを受けて、障害者基本計画において基本方針が転換していることを明確にすべきである。

○ 障害者基本法は、第1項で共に学ぶことに配慮するとし、第2項が保護者の意見の尊重、第3項が交流及び共同学習を規定していることを踏まえ、保護者の意向を尊重し、入学段階で障害を理由に学校設置者及び学校等は障害者(障害児を含む)を排除すべきではない。合理的配慮を保障しても学校及び学校設置者が就学を保障しえないと証明し得た時には、保護者の意向に沿わないこともやむを得ないとする仕組みにすべきである。

○ 障害者基本法で確認された障害の有無によって分け隔てられない共生社会を前提に、障害の有無によって入学の時に分けないのが、インクルーシブ教育である。その上で、希望する場合には特別支援学校に入学できるようにする仕組みにすべきである。

○ 障害者基本法の改正を受け、障害者基本計画では共に学ぶことを基本にすべきである。その際に、障害の有無にかかわらずすべての子どもに対して同時期に就学通知を送付し、希望がある場合には特別支援学校も選べるようにすべきである。

○ 共に学び育つことを原則にし、このことが障害者基本計画に盛り込まれるべきである。その際、卒業後の地域生活に繋がることを重要な観点として位置付けるべきである。

○ インクルーシブ教育システム構築のために、特別支援教育の推進を踏まえた評価・検証できる仕組みを作るべきであり、例えば学校経営の評価に、インクルーシブ教育システム構築の評価指標を導入することを検討すべきである。

○ 障害の種別や発達段階等により、必ずしも共に学ぶことで学びが充実しない可能性がある。学びの多様性、学びの連続性、それぞれの場の充実により、できるだけ皆で学ぶ仕組みに到達すべきである。

○ 共生社会では,ろう者の手話とろう文化、視覚障害者の点字、同じ障害を持つ仲間とのつながりなども尊重されなければならない。基礎的環境整備と合理的配慮を十分保障した地域の学校で障害のない子供たちとともに学ぶ利点と比較したうえで、それでもなお独自の言語や文字による教育、同じ障害を持つ仲間集団の力、個別の障害特性に特化した教育の専門性などを評価して、本人、保護者が特別支援学校への就学を希望する場合は、それを保障することもまたインクルーシブ教育システムである。

○ 身近な場で学べる状況を現在の状況下でどのように作るかが重要である。特別支援学校に在籍してもできる限り地域で学ぶことを考えるべきである。副籍や支援籍について、地域社会と繋がる仕組みという観点から検討を進めるべきである。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 学校教育においては、地域での生活の基盤を形成できるよう、可能な限り障害者と障害のない者が共に学ぶことができる配慮が行われること。

(2)初等中等教育における就学相談・就学先決定等について

<障害者政策委員会での意見>

○ 本人及び保護者の意向を最大限に尊重する必要がある。特別支援教育を必要とするニーズは、あくまでも本人及び保護者の求めによるべきである。

○ 就学相談では、地域の学校に行けることを情報提供すべきである。

○ 高等教育では障害を理由に入学拒否はしないということであった。この観点を幼稚園、小・中・高へと一貫させるべきである。

○ 相談支援では、障害者の地域生活を見通せるように地域生活をしている障害者が関わるべきである。

○ 普通学級での学びを原則にするように、重みづけをするべきである。

○ 地域の学校への入学で拒否されないことは重要であり、同時に、子ども同士の手話でのコミュニケーションを可能にし、アイデンティティの確立ができる環境が重要である。

○ 就学先決定では、障害者・保護者の意見を最も大切なものとして尊重し、継続した相談支援を行い、かつ教育支援計画の適切な運用を徹底させるべきである。ニーズが発生した時には、速やかに計画を見直すことができる相談支援体制が必要である。その際に、情報の整理、記録保管のためにIT技術の活用を検討すべきである。

○ 中教審の報告においては、就学先の決定については、市町村教育委員会が、本人・保護者に対して十分情報提供しつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重して、教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことが原則としており、市町村教育委員会が就学先を決定する際には、可能な限り共に学ぶという観点を踏まえつつ、一人一人の教育的ニーズに応じた十分な教育が行われるべきである。

○ 就学先決定については、障害者・保護者の意見を最大限尊重しつつ、教育委員会や学校等との合意形成を図るのが、ベースラインである。今回の障害者基本計画には、特別支援教育システムからインクルーシブ教育システムへの大きな制度改革の中身を盛り込むようにすべきである。

○ 相談においてある就学先を強制されるべきではなく、教育支援計画では障害者・保護者の参画と共に、保護者が指名した第三者等の出席を確保しながら策定すべきである。

○ 障害者・保護者の意見を尊重するためには、連続性のある多様な学びの場を確保するべきである。子どもの発達や程度を勘案しつつ柔軟に就学先を変更できるようにすべきである。卒業後に福祉サービスをスムーズに利用できるようにするために、知事部局と教育委員会が連携すべきである。

○ 就学時健康診断の障害判定基準(就学基準)、特に聴覚障害に関する判定基準については障害の範囲に密接に関係する問題で、最新の教育的、医学的見地から再検討が必要である。

○ 健康管理の記録(乳幼児健診記録、就学時健康診断記録、学校診断記録など)は、厳重な情報管理のもと各教育段階で共有し、個別の教育支援計画、個別の指導計画の基礎に据えられるべきである。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 障害者及び保護者の意見を最大限尊重するために、障害者の教育的ニーズの把握の下、市町村教育委員会及び学校等において、就学先における支援の内容について合意形成が図られること。

◎ 市町村教育委員会において、就学先のすべての可能性について説明を行い、障害者及び保護者が希望する場合には体験や見学をした後に決定されるよう支援すること。

◎ 市町村教育委員会と医療、保健、福祉等の関係機関との連携を強化するとともに、教育相談や就学相談等を通じた、障害者及び保護者に対する十分な情報提供を確保すること。

◎ 障害者及び保護者の参画を得て個別の教育支援計画が策定され、その計画に基づく教育活動が実施されること。

◎ 就学時に決定した就学先を固定したものとせずに、障害者の教育的ニーズに応じて変更できるようにすること。

◎ 本人、保護者と教育委員会で就学先についての判断が異なり、合意形成ができない場合は、中立的な機関による調整の仕組みを確保すること。

(3)初等中等教育における合理的配慮及び基礎的環境整備等について

<障害者政策委員会での意見>

①合理的配慮について

○ 合理的配慮は、学校現場に要請される作為義務である。基礎的環境整備は、国及び地方公共団体が行うべき義務であって、両方行われることでインクルーシブ教育が保障できる。

○ 障害のある子どもが学びの達成感をもてることが保障されるよう教育活動が行われなければならない。そのために、合理的配慮が提供されるべきである。それぞれの学びの場において、地域生活につながる力、生きる力をもつ教育ができることが大前提である。

○ 地域の学校から排除されずに、自己の地域社会において初等中等教育の機会が与えられるよう、合理的配慮が提供されるべきである。

②合理的配慮が確保されるべき場面について

○ 普通学校で学ぶ子どもにも、盲学校と同様のレベルの教科書が保障されるべきである。

○ 教科書について、特に読みに困難のあるディスレクシアの子どもたちには、読み上げ機能を持つデジタル教科書、教材が保障されるようにすべきである。

○ 保護者に付き添いを求めずに、必要な人的な支援が行われるようにすべきである。

○ 障害をもつ教員にも合理的配慮が、保障されるべきである。

○ 医療的ケアについては、看護師を配置しつつ教員も支援に加わり、支援を提供できるようにすべきである。

○ 土日の過ごし方についても個別支援計画に含め、必要な支援を提供するべきである。

③合理的配慮に関する課題について

○ 障害をもつ教員に関する合理的配慮について、検討する場を設けるべきである。

○ 合理的配慮の提供を担う人材については、その待遇面が不安定であるため地位を保障すべきである。教育支援計画と障害児サービス利用計画等、福祉関連の個別支援計画とを連携できるようにすべきである。

○ 障害者が体育に参加できるよう、個別支援計画で合理的配慮の在り方を検討すべきである。

○ 合理的配慮の実践事例の収集と分類や、インクルーシブ教育システム構築のモデル校、モデル地域の決定は、反差別や人権教育という観点で行われるべきである。

○ 学校現場が中心になって支援内容に合理的配慮を含む教育支援計画のモデル案を策定し、活用について推進すべきである。同時に、啓発活動もすべきである。

④基礎的環境整備について

○ 基礎的環境整備については、地域格差が生じないように国又は地方自治体が責任をもつべきである。

○ 学校の施設を利用する時に、ルビが無かったり、スロープが無かったりするので、障害者と話し合いながら学校施設を整備すべきである。

○ 通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校が連携しつつ基礎的環境整備を充実すべきである。通常の学級においては、少人数学級を推進すべきである。

○ 物理的な環境整備に当たっては、市町村で計画的に整備していく仕組みをつくるべきである。

○ 地域の学校で学べるようにする人員配置をすべきであり、特別支援学校や学級で配置されている教員の定数と、普通学級とでは格差があるためそれを縮めるべきである。

○ 普通学級における合理的配慮について、予算を含めて充実させるように重点施策、優先的施策として取り上げるべきである。

○ 特別支援学校に就学した子どもたちは、地域の中で孤立してしまうことがあるため、スポーツ等を通じて地域の子どもとの交流が可能となる環境を整備すべきである。

○ だれもが使えるデジタル教科書の整備をすべきである。

⑤その他の関連する課題について

○ 学習指導要領については、普通学校と特別支援学校との2本立てが今後も必要なのか、検討されるべきである。

○ 通常の学級では、聴覚障害児は言語力の形成に困難を抱え、言語力形成の遅れが学科学習の遅れにつながることがある。そうした学力の遅れが積み重なる前に障害のある児童生徒を把握する仕組みが必要である。

○ 特別支援学級で学ぶ子どもについては、普通学級での交流の時間に上限を設けている自治体があるため、それを撤廃するようにすべきである。

○ 通学支援及びコミュニケーション支援の提供の在り方について検討するべきである。

○ インクルーシブ体育についての研究を進め、学校体育における合理的配慮について、ガイドラインを策定すべきである。

○ 盲者、ろう者、盲ろう者等への教育については、専門性を確保し、かつ、継続的な教育が行えるように人事異動で配慮されるべきである。

○ 地域の学校に特別支援教育を熟知した教員が、配置されるべきである。

○ すべての教員が、障害者を受け入れることができるように教員が養成されるべきである。

○ 教員養成や学校へ入ってからの教員研修において、特別支援教育に関する専門性を担保する仕組みを作るべきである。

○ 高校入学試験について、全国の合理的配慮の取組をまとめウエブを活用し広報すべきである。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 合理的配慮は障害者及び保護者から要請されることによって、学校に作為義務が生じるものとし、基礎的環境整備は国及び地方公共団体が行うべき義務とすること。

◎ 基礎的環境整備に当たり、地域格差が生じないよう配慮されること。

◎ 障害者が障害のない者と平等に教育の機会が保障されるよう合理的配慮が確保されるべきであり、個別の教育支援計画にその内容が盛り込まれること。

◎ 通常の学級における少人数学級を推進するなど、環境整備を進めるとともに、通常の学級に在籍する障害者への合理的配慮が確保される仕組みを構築すること。

◎ 国において合理的配慮の提供事例等の収集と分類を行い、それを初等中等教育における合理的配慮が確保されるよう学校設置者及び学校等に情報提供をすること。

◎ 障害者が教職員という職業選択を行うことができるよう、学校での教職員への合理的配慮が確保される仕組みを構築すること。

(4)高等教育における障害学生支援について

<障害者政策委員会での意見>

①障害学生支援の在り方について

○ 高等教育について、障害者基本計画で独立した項目を設けるべきである。職業教育、成人教育にアクセスでき、合理的配慮を確保し、後期中等教育との連携についても含めるようにすべきである。

○ 大学入学の際に障害を理由に拒否しないことを大原則にし、同時に教育のレベルを落とさないことを前提にすべきである。理念の明確化も含め、大学の情報発信等が重要である。

○ 入試で障害を理由とした排除や差別を禁止すべきである。レベルを落とさないということではなく、共生社会の構築のためには、学力だけではなく多様な人間の在り方が認められるべきである。

○ 知的障害、発達障害者について、入試で切り捨ててしまうのではなく、人間の可能性が広がる場として大学教育での学びについて検討すべきである。

○ 大学教育での教育の質については、多様な能力という観点から専門性について検討されることを期待したい。

○ 障害を理由にした出願、受験、入学の拒否が起きないように、障害者基本計画で目標を設定し、大学は情報提供するようにしっかりと取り組むべきである。

○ 障害を理由に差別されず、一緒に過ごせるようにすべきである。どうやって受験するのか、通学についても支援が必要である。

○ 大学教育は専門性を担保し、人材育成する責務があり、義務教育とは異なる面がある。理念を掲げるのは誰も反対しないが、現場で実際に成果が得られるかどうか、危惧する。

②合理的配慮に関する課題について

○ 合理的配慮は学業遂行だけではなく、社会的自立をも対象にし、自治体、NPO、民間団体とも連携しつつ提供するべきである。通信教育のスクーリングに参加するための通学支援は、障害者にとっては非常に重要である。

○ 大学等は視覚に障害のある学生等に対して学習に必要な教科書や研究に必要な学術論文などの電子化等の合理的配慮を行うことが求められる。

○ 質の高いノートテイクが確保されなければ授業の理解が不十分になるため、合理的配慮として提供されるノートテイクの質の向上が求められるべきである。

○ 手話通訳、要約筆記について、ボランティアによる提供は支援の質に問題がある。研修の在り方を含めて、検討すべきである。特に、相談でのコミュニケーション支援は、団体と連携しながら体制を整備する必要がある。

○ 障害者を受け入れる普通学校の教育実習先が少ない実態があるが、合理的配慮として大学と関係機関が連携し提供できるようにすべきである。

○ 職業体験や実習においても学内と同じレベルの合理的配慮が提供されるべきである。

○ 大学が合理的配慮を保障し、障害者に費用負担が生じないようにすべきである。

○ 大学への通学支援の実態調査を行い、支援の在り方を検討するべきである。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 各大学等において障害を理由にした出願、受験、入学の拒否が生じないことが確保される仕組みを構築すること。

◎ 独立行政法人大学入試センターが行っている障害のある受験生への「特別措置」については、多様なニーズをもつ障害者への合理的配慮の確保の観点から検証し、「特別措置」の内容について充実が図られるようにすること。

◎ 障害のある学生が障害のない学生と平等に高等教育の機会が保障されるよう、情報保障・コミュニケーション支援等の合理的配慮が確保される仕組みを構築するとともに、計画的に大学等の施設整備を推進すること。

◎ 障害学生支援の優れた取組を公表するとともに、大学間での情報共有や連携を図るために、拠点校を整備すること。

◎ 入試での合理的配慮を含む「特別措置」の内容及びその取組方針、入学後の障害学生支援、施設等のバリアフリー化の状況に関して、障害者及び高等学校等に対する公表を促進すること。

◎ 大学の認証評価において、障害学生支援の取組実績が考慮されるようにすること。

4、療育【17 条】

(P)

5、職業相談等【18 条】、雇用の促進等【19 条】

(1)労働と福祉の一体的展開について

<障害者政策委員会での意見>

①労働と福祉の一体的展開について

○ どこで働いても必要な支援を得られるよう、労働と福祉を一体的に展開する必要がある。

○ 通勤支援に福祉施策を使えるようにする等、制度の谷間が生じないようにする必要がある。

○ ソーシャルファーム、コミュニティビジネス、協同組合、社会的事業所等多様な働き方について様々な観点から検討するために、パイロットスタディ(試行事業)による検証が必要である。

○ 一般就労、福祉的就労など、多様な働き方から最も適した働き方が選択できるよう、本人のニーズと支援の必要度に基づいたアセスメント・支給決定の仕組みの構築が必要である。

○ 福祉的就労を一般労働市場に位置付けた場合に障害年金をどうするか、賃金補填等と納付金制度の関係、労働能力評価の公平で客観的なあり方等の検討を計画に位置付けるべきである。

○ 福祉的就労への労働法適用については福祉的労働法のような新たな法制でカバーすることも含め、今後の検討課題とすべきである。また、所得保障との一体的な議論が必要である。

○ 労働と福祉の一体的展開について、労働と日中活動等の福祉サービスの中間の層をどう位置づけるか等は複雑な問題である。

○ 雇用と福祉的就労の格差の解決は必要だが、そのための方法は賃金補填や事業体系の見直しに限らず、様々な観点からの検討が必要である。

○ 賃金補填は労働の対価としての賃金の性格をゆがめることにならないか。

○ 賃金補填が民間企業への雇用を促進するような制度設計もあり得る。国内の自治体やヨーロッパ等の取り組みを検討し、データに基づいて議論するべきである。

○ 福祉的就労と一般就労の格差の解消には慎重な検討が必要で、今回の計画で急ぐべきではない。

○ 雇用と福祉的就労の格差をなくすために最低賃金を適用した結果、就労継続支援B型で働けなくなる人を生まないようにする必要がある。

②データ等についての意見

○ データの収集を今回の基本計画に位置付け、次の基本計画の審議はそのデータに基づき行うことができるようにするべきである。

○ 障害者の就労施策全体を把握するために、国や地方自治体から投入されている財源の全体をつかみ、日本の就労施策全体に位置付ける必要がある。

○ 何をもって福祉的就労から雇用就労への移行というのか、雇用の定義(短時間労働に満たない就業を含めるのかどうか、就労継続支援事業A型を含めるのかどうか等)を明確にしたうえで、データを収集し分析する必要がある。

③福祉的就労について

○ 就労継続支援B型では工賃は低いが、そこでも障害者が誇りを持って働ける状況を作る必要がある。

○ 一般就労が困難な障害者等の働くことについての意向が尊重されるよう、一般就労の促進のみを重点施策とせず、多様な就業の機会の一つとして、福祉的就労を充実させることが重要である。

○ 福祉的就労の工賃問題を検討するに当たり現行制度の検証、評価が必要である。

○ 工賃倍増計画は成果を上げていない。これを達成するには障害者基本計画を自治体に浸透させ、官公需における優先発注を位置付ける必要がある。

○ 福祉的就労の場の送迎加算とは別に、支援を得ながら自分で通所することへの助成が必要である。

○ 障害者総合支援法の3年後見直しを着実に計画的に実施するべきである。

④全般について

○ 施策を着実に進めるには、見込み的な形で計画に盛り込むことには慎重であるべきである。

○ 障害者を雇用する経営者の意見も十分に踏まえるべきである。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 労働と福祉の一体的展開の在り方について検証すること及びその一環として多様な働き方についての試行事業を実施すること。

◎ 労働と福祉の一体的展開の在り方について検証する間、現行の福祉的就労については以下の点に留意すること。

  • 一般就労が困難な障害者等の働くことについての意向が尊重されるよう、多様な就業の機会の一つとして、福祉的就労を充実させること。
  • 福祉的就労の場における工賃の現状を幅広い観点から検証し、必要な改善を図ること。
  • 福祉的就労の場への通所の助成について幅広い観点から検証し、必要な改善を図ること。

(2)障害者雇用について

<障害者政策委員会での意見>

①障害者雇用の促進全般について

○ 障害者の就業率をどこまで上げるのかという視点で根拠のある数値目標が必要である。

○ 障害者雇用が過去最高を更新し続けていることを評価する。

○ 今後も一般就労を支援する施策を柱として進めるべきである。雇用前の支援制度の更なる充実、雇用後、職場定着までの支援制度の充実、職場定着後の継続的支援が重要な課題である。

○ 雇用促進のための基盤整備、手話通訳等支援者の養成・確保・定着、補助犬育成事業の検討等が必要である。

○ 難病患者・長期慢性疾患患者にも障害者雇用率の適用を拡大するべきである。

②現行制度について

○ この10 年の就労支援施策の成果を踏まえ、改善を検討するべきである。

○ 法定雇用率、納付金制度、ダブルカウント、特例子会社は障害者雇用推進の根幹となる制度である。

○ 法定雇用率を引き上げるべきである。また、公的部門との取引は雇用率達成企業に限定することを検討するべきである。

○ 雇用率は全体として向上しているが、軽度の障害者が多いのではないか。雇用率の対象外となっている障害者の雇用を増やすことを検討するべきである。

○ ダブルカウント制度は重度障害者の雇用を進めるためには当面必要だが、インクルージョンを重視した雇用施策も重要である。

③一般就労のために本人が求める支援について

○ 自力通勤ができない障害者や職場での支援を必要とする障害者への支援が必要である。

○ 採用時の健康診断は難病患者の雇用を困難にする。難病により退職すると再就職が困難となる。通院等への配慮、復職時の能力評価等を検討する必要がある。

○ 就労支援に当たっては、本人はもちろん家族や関係者も支援する機能が重要である。

○ 就労支援については、基礎自治体において就労支援センター等とハローワークの連携がこれまでなされてきており、計画に明記する必要がある。

④企業への支援について

○ 企業内の理解者を育成する積極的なアプローチ等、企業への支援が必要である。

○ 本人への支援同様、精神障害の場合は企業への支援も重要である。就業・生活支援センターの拡充等、企業の相談を受ける場の整備が必要。

○ 事業主への支援という観点から助成金制度等に関する議論が必要である。

⑤就労支援機関について

○ 就業・生活支援センターとハローワークの役割の検討と地域格差の是正も必要である。

○ 就業・生活支援センターを全障害福祉圏域に設置するべきである。今後は難病等への支援も必要になるため、職員やジョブコーチの増員について計画に盛り込むべきである。

○ 一般就労をする障害者が増えたために地域における就労支援は疲弊しており、体制の強化が必要である。今後は就業が困難な方という枠組で検討する必要がある。

○ 就労移行支援の充実、特に定着支援を制度化する必要がある。

○ 企業での雇用を成功させるには就労移行支援でのアセスメントと訓練、就業・生活支援センターやジョブコーチによる本人と企業への支援が重要であり、省庁等を超えた連携が必要である。

⑥難病に関する就労施策について

○ ようやく障害者施策の対象とされた難病患者の就労支援の今後の方向性を示すべきである。

○ 難病は現行制度のままでは、障害の固定や永続を基本とする身体障害者手帳の認定基準には該当しづらく、症状が安定しなければ手帳や所得保障、手当等の受給率も低く、支援が受けられない。医療とのかかわり、症状の変化や状態の個別性など難病の特性に着目して、就労支援各事業の対象とするよう総合的に検討することが必要である。難病患者雇用開発助成金制度の実績や効果についての検証が必要である。

○ 難病患者が継続して働くには、服薬や通院の保障や休暇・休憩などの配慮、職場での病気の理解促進などの環境作りが必要である。また小児期に長期入院や入退院を繰り返した難病患者に対する就労支援の在り方については、医療とのかかわりや職業訓練・能力開発への工夫・配慮が必要である。

⑦紛争解決について

○ 就職後の人権擁護について、未然防止と起きた時の調停等の仕組みの双方が必要である。

○ 雇用の場における人権侵害の相談・解決に向けた制度が必要である。

⑧その他の意見

○ 公的部門での障害者雇用を促進する必要がある。

○ 障害者を就労に結びつけていく上でトライアル雇用は有効だが、予算が不足しており財源の拡充が必要である。また、次回の障害者計画の中にも位置付けるべきである。

○ 障害者の主訴が個別化し、支援者の専門性が問われている。支援者養成の計画が必要である。

⑨データ等についての意見

○ 行政評価の手法の進展を踏まえ必要なデータと評価・活用の仕方を検討する必要がある。

○ 計画が障害者雇用にどのような効果を与えるのか、アウトカムの視点が必要である。

○ 雇用されている障害者の人数だけではなく、定着支援と雇用継続等に関する指標が必要である。

○ 新たな政策はデータに基づいて立案されるべきである。

○ 具体的には以下のようなデータが必要である。

  • 障害者の雇用形態(正規と非正規)や障害別の雇用率についてのデータ
  • 就労への移行がスムーズに行われているか(求職登録の期間等)についてのデータ
  • 離職者の状況、最低賃金減額特例のデータ(都道府県格差の実態等)
  • 雇用に関する男女別や一般市民との比較をしたデータ
  • 女性障害者の就労状況についての事例調査を含むデータ 等

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 法定雇用率制度は継続しつつ、その対象の拡大について検討すること。

◎ ダブルカウント制度、特例子会社制度については当面継続しつつ、その在り方について幅広い観点から検討すること。

◎ 通勤支援、職場での生活支援の在り方についての検証と見直しに着手すること。

◎ 障害者雇用を促進する観点から当事者及び企業支援の拡充、就労支援機関の在り方及び支援者養成、予算の確保等必要な施策について検討すること。

◎ 基本計画の監視に当たり、以下のデータを把握すること。

  • 障害者の雇用形態(正規と非正規)や障害別の雇用率についてのデータ
  • 就労への移行がスムーズに行われているか(求職登録の期間等)についてのデータ
  • 離職者の状況、最低賃金減額特例のデータ(都道府県格差の実態等)
  • 雇用に関する男女別や一般市民との比較をしたデータ
  • 女性障害者の就労状況についての事例調査を含むデータ 等

(3)就労施策に関するその他の事項について(自営業・起業への支援等)

<障害者政策委員会での意見>

①自営業・起業への支援について

○ 自営業の場合に職場介助者や移動支援が得られないという問題点を改善するべきである。

○ 自営業、起業のための職業的な自立に向けた訓練や経済的支援を講じるべきである。

○ 基礎自治体が情報通信技術等の研修を在宅就業促進のために提供することを奨励する枠組が必要である。また、起業への支援についての基礎自治体とハローワークの連携を計画に明記する必要がある。

②国等による障害者就労施設等からの物品との調達の推進等に関する法律(平成24年法律第50 号、以下、障害者優先調達推進法)等について

○ 障害者優先調達推進法を実効性があるものにするよう新基本計画に書き込むべきである。また、この法が自営業にも適用されることを周知するべきである。

○ 障害者優先調達推進法に民間企業を加え、発注企業への支援策を検討するべきである。

○ 工賃、賃金の向上に向けた取組の必要性を新基本計画に入れ込むべきである。また、優先調達推進法の有効な運用のカギになる共同受注窓口を同法による受注主体と認めその整備を急ぐ必要がある。

③データ等についての意見

○ 自営業や起業を支援する施策をつくるために、実態調査が必要である。

○ 自営業に従事する障害者の実態と必要な支援についての実態調査が必要である。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 自営業に従事する障害者への職場介助や移動支援の制度化、自営業や起業のための訓練及び経済的支援等について検討に着手すること。

◎ 障害者優先調達推進法の施行に当たり制度の周知と実効性の確保に留意すること。

◎ 基本計画の監視に当たり、自営業に従事する障害者の実態及び必要とする支援内容についてのデータを把握すること。

6、住宅の確保【20条】

(P)

7、公共的施設のバリアフリー化【21条】

(P)

8、情報の利用におけるバリアフリー化等【22条】

(P)

9、相談等【23条】

(P)

10、文化的諸条件の整備等【25条】

<障害者政策委員会での意見>

(1)環境の整備について

○ 文化芸術振興にあたり、障害者が制作しやすい環境作りと評価を受ける機会の確保をすべきである。障害の有無に関わらず共に参加できる、インクルーシブな展覧会等が開催され、様々な人が関われるようにすべきである。

○ 空き教室を利用して、身近な場所で展示できる場所を増やして頂きたい。

○ 講演、文化教室には、手話通訳・要約筆記が配置されない。また、字幕がないため聴覚障害者は参加できない。趣味や教養に関するものについても合理的配慮が提供されるべきである。ボランティアでは情報保障の質が確保されない。

○ 美術館等の説明は、ルビがなく理解できない。点字もない。障害者が美術鑑賞できるように環境が整備されるべきである。

○ 新国立劇場のオペラ鑑賞では、日本語の字幕が付与されているが、視覚障害者はそれを利用できない。劇場等のバリアフリーを進める際には、様々な意見を聞いて推進していただきたい。文化、芸術、スポーツにおいても、インクルーシブな視点で、障害の有無に関わらず一緒に参加できるようにすべきである。

○ 文化的施設における文字表示装置等の設置についてガイドラインの作成を障害者基本計画に盛り込むべきである。

(2)スポーツについて

○ スポーツの普及、振興に当たり、障害者も指導できる指導者の養成がカギになる。障害者スポーツ指導員の資格を取りやすくする施策が必要である。

○ 障害者スポーツ指導員の養成を充実させ、どこにおいても誰でもスポーツできる環境づくりが求められる。

○ 障害児・者の体育・スポーツ(インクルーシブ体育に関する内容を含む)に関する科目を体育教員養成時の必修科目とする。

○ パラリンピックについては、オリンピックと一緒にできる競技を少しずつ増やしていくべきである。

○ パラリンピックについては、文部科学省と厚生労働省が連携し、効率的で日本独自の選手の養成システムを構築するよう検討するべきである。

○ デフリンピックの国民の認知率を高めるために、パラリンピックと併記すべきである。

○ 全国障害者スポーツ大会は、競技の種類を増やすべきである。発達障害者も参加ニーズがあるためそれに対応できるようにすべきである。

○ 障害者スポーツの普及や実施率を示すデータが存在していないため、そのためのデータ収集をすべきである。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 障害の有無にかかわらず、文化芸術活動、スポーツ及びレクリエーションに参加し、これらを楽しむことを可能とするため、バリアフリー化を含む施設の整備や情報保障の充実等、必要な環境整備を促進すること。

◎ 文化芸術活動において、障害者が制作しやすい環境づくりと評価を受ける仕組みと機会を確保すること。

◎ 地域におけるレクリエーションやリハビリテーションとしての障害者スポーツの振興を図ること。

◎ 障害者の競技スポーツについて、障害のない人のスポーツの所管官庁との一元化について検討すること。

◎ 障害者スポーツの普及や実施率を示すデータを収集すること。

11、防災及び防犯【26条】

(P)

12、消費者としての障害者の保護【27 条】

<障害者政策委員会での意見>

(1)障害者の消費者被害の事前防止及び被害からの保護

①情報提供及び相談支援の整備

○ 消費生活センターへのアクセスを改善する必要がある。例えば、ろう者の電話等での本人確認については、手話通訳によって確認できる方法が必要である。また、消費者生活センターの連絡先が電話番号しかないため、聴覚障害者は相談自体ができないことがある。ファックスもしくはEメールなどでの窓口対応が必要である。

○ 福祉サービスや銀行、郵便局や飛行場、駅、商店、レストラン等その他の提供者側と消費者である障害者との対等な関係の在り方を、苦情の申立てやフィードバック等の必要性も含めて捉えなおす必要がある。

○ 障害者に身近な地域の窓口の設置や民生委員、障害者団体、消費者団体の活用等も検討されるべきであり、グループフォーラム等の事例もあるが、消費者団体や地域で活動する様々な団体と障害者との連携の促進を図る見守りネットワークの県単位開催の必要がある。

○ 情報提供に関しては、消費生活センターの窓口において相談員の体制が不十分であり、小規模な自治体における体制は広域的に整備する必要がある。

②クーリングオフの改善

○ クーリングオフは、制度として利用できるための周知が必要である。書面により説明を行うことが求められているが、これは文字が読めない人(知的障害者、視覚障害者等)は活用することができないため改善が必要である。

○ 障害者については、クーリングオフの期間を通常よりも長くすることが必要である。

③消費者被害の対応

○ 消費者被害については、被害実態の掘り起しが必要であり、悪質な事業者については、行政でしっかりと対応すべきである。

④啓発活動の推進

○ 医療機関と患者の間には適正な役務の提供が求められており、インフォームドコンセント等も含めて消費者基本法(昭和43年法律第78号)の理念との関係で考える必要がある。

○ 障害者については、一般の消費者と比べて、情報及び交渉力の面で格差が生じており、行政が積極的にエンパワーメントする必要がある。

○ 消費者庁において、作成している見守りガイドブックは、ロールプレイング等も掲載されており、今後、“分かりやすい版”等も作成が必要である。

○ 消費者としての権利に関する理解を深めるため、消費者教育の推進に関する法律(平成24 年法律第61 号)との関連を踏まえて啓発活動等に積極的に取り組む必要がある。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 消費生活センターについて、ファックスやEメール等での相談窓口を明示するなど、電話や来訪しての相談が困難な障害者の消費者相談へのアクセスを改善すること。

◎ 障害者の消費者被害の実態の掘り起しと、悪質な事業者については適切な行政指導が必要であること。

◎ クーリングオフ制度に関する周知等、障害者の消費者被害の事前防止及び被害からの保護について、障害者にも分かりやすい周知・啓発が必要であること。

13、選挙等における配慮【28 条】

(1)選挙等における必要な配慮の提供

<障害者政策委員会での意見>

①個別の配慮に関連して

○ 知的障害者の場合、文字は書けないが記号や色の識別が可能な人はたくさんいる。他の国で実施されている例を参考として、記号・マーク等での候補者の識別、それによる投票が実行されることが必要である。

○ 病院等に入院中の選挙人には、そもそも選挙公報も投票入場券もその病院には送られてこない。この点の配慮を入院中も行う必要がある。

○ 選挙の点字による「お知らせ版」が選挙公報と同じ内容ではない。点字や録音媒体という技術的な制約にあまり縛られずに、選挙管理委員会のホームページで音声による選挙公報を出せば視覚障害者に情報を提供できる場合もあるので、より柔軟な方法を検討する必要がある。

○ 投票所の車いす用の投票ブースは低いので、隣接する一般投票ブースから投票内容が見られるのではないかという心配がある。ブースの位置等の配慮が必要である。

②政党及び立候補者による配慮に関連して

○ 聴覚障害者が個人演説会等において候補者の政見等を知る機会をできるだけ確保することが必要。演説会等で演説内容を要約筆記し、その文字をOHPスクリーンに投影することを可能にすること。

③郵便投票制度の見直し

○ 参政権保障の観点から郵便等投票ができる者及び郵便等投票における代理記載のできる者の範囲を拡大することが必要。具体的には、介護保険の要介護5に該当しない者でも事実上、外出が困難と認められる在宅の寝たきりの高齢者、重度の紫外線アレルギー、精神病等の疾病のため外出できない者などに拡げること。

○ 郵便等投票については、視覚障害者が点字で投票できるようにすること。

④不在者投票制度等の見直し

○ 知的障害者の施設においては、本人が1人で投票所に行くことが困難な現状があり、入所施設内で不在者投票ができる施設の対象として知的障害者等の施設も含めることが必要である。

○ 郵便投票等や不在者投票施設における不在者投票は、障害者がほかの人と同様に投票所で投票することができない場合に対する暫定措置とすべきであり、基本的には投票所に行って投票できるようにすることが必要である。

○ 知的障害者の施設で不在者投票を可能にすると、投票所に出かけることが社会参加の機会のひとつであったことが、それを制限することにつながる懸念がある。

○ 不在者投票のできる施設に知的障害者の施設を入れることは、都道府県の選管連合会からの法改正要望でもある。当該施設の入所者が対象になるが、その施設で投票するかしないかは、あくまでも本人の選択になる。

○ 老人ホーム等の施設における不在者投票の在り方は、運用上、問題がある(施設の長等に誘導されて投票する等)ので、知的障害者や高齢者(特に認知症の人等)の不在者投票に伴うチェック機能が望まれる。

⑤その他の制度上の見直し

○ 最高裁判所裁判官国民審査の視覚障害者の点字投票では、一般投票と同様に記号等により投票できるようにすること。

○ 聴覚障害者は電話を使うことができないが、加えて、選挙運動においてはファックスやメールの使用は公職選挙法に抵触するため、大きな制約を受ける。こうした点について、柔軟な見直しが求められる。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 視覚障害者等のより多くの障害者に選挙情報を提供するために、音声による候補者情報の提供等、柔軟かつ多様な方法による選挙情報の提供を検討する必要があること。

◎ 記号やマーク等でのわかりやすい候補者の識別及びそれらによる投票ができるよう検討すること。

◎ 投票所における投票が困難な障害者について、指定病院等における不在者投票又は郵便等による不在者投票を柔軟に実施する検討を行うこと。あわせて、在宅の障害者のインターネットによる投票についても将来の課題として検討を行うこと。

◎ 入院中の選挙人が適切に投票できるよう、指定病院等での不在者投票の拡大を図ることについて検討を行うこと。

(2)成年後見制度と選挙権について

<障害者政策委員会での意見>

○ 後見人に託す財産上の法的な保護がなされる一方で、被後見人になったときに選挙権を奪われてしまうのは人権上の大きな問題である。人権を尊重する前提で制度に不備があるという視点で見直すことが必要である。

○ 選挙の公正を確保するためどうしても選挙権を制限する必要があるときは、成年被後見とは別に、本人の選挙権を行使したいという意思や能力に着目し、選挙権を喪失させるのが相当かどうかを特に判断する新たな審判制度を設ける必要がある。

(3)公的活動への障害者の参画の拡大(審議会委員への登用の促進等)

<障害者政策委員会での意見>

○ コミュニケーションに課題がある障害者にとっては、その人の障害特性に見合った支援方法を具体的に提案する必要がある。

○ 知的障害者等の審議会等への参画については、自治体の先進的な事例を参照し、本人への事前の十分な情報保障と合わせてできる限り推進する必要がある。

○ 国や自治体の各種の審議会等における当事者(本人・家族等)の参画の割合の設定については、二つの考え方が示された。一つは、男女共同参画政策において女性の委員参加に中期及び長期の数値目標が設けられて進捗が定期的に公表されているのと同様に、障害者についても、審議会の種類に関わらず一定の比率を定めてその実現をめざすこと。もう一つは、障害者の制度・政策に関する審議会等は過半数とし、一般的制度・政策に関するな審議会等については一定の比率を定めてその実現を目指すという意見が出された。

14、司法手続における配慮等【29条】

(1)司法手続における必要な配慮の提供について

<障害者政策委員会での意見>

①刑事裁判手続

○ 捜査では、障害者が被疑者となった場合に求められる配慮と犯罪の被害者となった場合に求められる配慮がある。

○ 取調べの可視化は有用であり、必要である。今後は、取り調べ後の弁護士の関わり方などについて運用面での検証が必要である。

○ 取調べの可視化では、録音・録画の対象は知的障害等の障害者を想定しているため、本人の意思決定の確認方法については継続的な検証が必要である。

○ 捜査の段階、取調べの段階から公判段階まで、障害者に対する合理的配慮が必要である。とくに、障害特性に見合った適切な情報保障が行われなければ真実を見誤りえん罪が生まれてしまう危険性がある。

○ 知的障害者や発達障害者は特有の誘導されやすさ等についての問題があるので、支援者等の立会いの仕組みを保障したり、司法や警察関係者が、知的障害や発達障害者の理解を深める必要がある。

○ 裁判員制度では、被告人が障害者である場合、一般市民である裁判員が障害について十分理解していないと誤った判決をしてしまう可能性があるため、障害者への適切な理解を持ってもらうことが必要である。一方、裁判員に障害者が選ばれた場合、十分な情報保障がなければ裁判員としての職務を果たせないことになる。

②民事裁判手続

○ 現在の民事裁判制度の諸規定では、情報保障をはじめとして、障害者に対する配慮がほとんど記載されていない。

○ 裁判費用については、障害が理由で追加的に発生する費用は国庫で負担する必要がある。

○ 裁判所から訴状が視覚障害者に送付されても、そのままでは訴状を理解できない。裁判所による配慮とともに、行政による代読や代筆等のサービス等による在宅の障害者が司法手続きに関する十分な情報保障を受けられる体制が必要である。

③刑事裁判・民事裁判に共通する問題

○ 傍聴の問題として、裁判所では車いすの傍聴が困難な場合もある。ろう者の傍聴者が手話通訳者を見にくいことがある。障害者が障害のない者と同様に裁判を傍聴できる配慮が必要である。

○ 司法に参加する機会が増えているが裁判所における障害者に対する配慮が十分ではない。被告人への情報提供、また傍聴人への情報提供、盲ろう者や難聴者等のコミュニケーションについて裁判体ごとに対応が異なる。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 捜査、取調べの段階から公判段階まで、情報保障や支援者の立ち会い等の障害者に対する合理的配慮を提供すること。

◎ 民事訴訟等についても、適切な情報保障等が受けられるよう、必要な行政サービスの提供を検討すること。

◎ 知的障害によりコミュニケーションに困難を抱える被疑者等に対する取調べの可視化については、現在試行されているところだが、今後、その本格導入に向けさらなる検討を行うこと。また、その際には本人の意思決定の確認方法等について適正性が確保されるよう制度が設計されること。

(2)司法関係者に対する研修の実施について

<障害者政策委員会での意見>

○ 司法に関係する全職員に対する障害特性に対する理解、必要な支援、合理的配慮等について十分な研修が必要である。

○ 最高検に設置された「知的障がい専門委員会」の中に知的障害の当事者が入っていない。事者参画という原則から構成等の再考が必要である。

○ 保護観察に関連して、保護司に対する福祉的支援の研修について検討が必要である。

○ 刑務所には、知的障害とろうの重複障害の人もいる。刑務官に対しては、障害の種別、特性ごとに研修するカリキュラムが必要である。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 司法に関係する全職員に対する障害特性に対する理解、必要な支援、合理的配慮等について十分な研修を行うこと。

(3)障害を有する受刑者・出所者等に対する処遇及び支援の在り方について

<障害者政策委員会での意見>

①受刑者の処遇

○ 受刑者の中で知的障害者の割合が高いという現実を踏まえた対策が必要である。不起訴、起訴猶予、処分保留という形で受刑を免れた知的障害者については、福祉サービスをどうのように提供していくのかが課題である。

○ 矯正施設で提供される医療は、一般に提供される水準からみて不十分である

○ 矯正施設内では、詐病であると言われて薬を投与してもらうことができない。今までかかっていた主治医と連絡をとりたいなどの訴えが多いのが現状である。

○ かなり重い状態にならないと医務官のところまで情報が入ってこないという実態があるのではないか。情報の流れの検証と刑務官、医務官のスクリーニングに関する研修が必要である。

○ 刑務所内の介助について、福祉機器の提供と同じように介助の位置づけを明確にする必要がある。

○ 刑務所内の介助に関連して、介護が必要な人は福祉刑務所のような特化ユニットを今後はつくることも必要ではないか。

○ 刑務所内の聴覚障害者については、手話通訳や要約筆記の派遣を利用し専門的な人を配置するべき。

○ 日本は欧米の刑事施設と比べて処遇が非常に厳しい。刑務官は怒鳴りっぱなしで知的障害者は萎縮してしまい、自分の言いたいことも言えない状況を経験した。処遇のあり方の再検討がまず必要である。

○ 受刑者への処遇に関するプログラムは検証が必要であるが、出所後の地域定着支援のあり方とともに、今後の基本計画及び障害福祉計画の段取りの中でどの程度までを目標にしていくかを考える必要がある。

○ 各刑事施設では、医療や介助等の様々な合理的配慮にかかわる対応に格差がある。各刑事施設全体に共通するガイドラインの策定と実施が必要である。

②出所者に対する支援

○ 処分決定に至るまでの過程を踏まえて、社会に戻る段階で支援プログラムをつくる必要がある。

○ 地域生活定着支援センター等と刑務所内でのプログラムの展開を合わせて個別支援計画をつくる必要がある。

○ 地域生活定着支援センターは、都道府県が実施主体になって民間だけではできないことを補うが、まだ緒についたところである。先行モデルを目標にしていったらいいのではないか。

○ 累犯障害者の地域移行にあたっては、安易に施設入所が選択されることがないように配慮が必要である。

○ 刑務所を満期で出所しても、精神保健福祉法による通報がされると措置入院になる。満期で責任を果たしているのに、一方的な通報で精神保健福祉法による措置入院につながる事例もあるのはおかしい。

<障害者基本計画に盛り込むべき事項>

◎ 受刑者の処遇に関する中で、特に、医療の提供の水準を確保すること。

◎ 障害特性に応じた個別の矯正プログラムを提供し、出所後の支援につなげること。

◎ 介助が必要な障害者には、介助を受けることができるよう体制の整備を図り、その他障害のない受刑者と同等の処遇を得るために必要な合理的配慮を確保すること。

◎ 保護観察所等の関係機関との連携の下、障害者が出所後に必要な福祉的支援を受けることができるよう、地域生活定着支援センター等による支援の充実を図ること。ただし、それは隔離的な処遇であってはならないことに留意すること。

15、国際協力【30条】

(P)

Ⅴ 推進体制等

1、推進体制の構築

 新基本計画の期間内において障害者権利条約の批准が想定されることから、障害者権利条約が求める国内実施体制を明確にする必要がある。
 すなわち、条約第33 条第1項で、条約の実施に関連する事項を取り扱う中央連絡先や政府内における調整のための仕組みについて、同条第2項では、条約の実施を促進し、保護し、及び監視するための枠組みについてそれぞれ言及しているが、批准後の条約の実施を念頭に、現行体制で十分であるか否か、障害者施策の推進体制の在り方を改めて検討することが求められる。

2、関係機関の連携

(1)条約第33 条第1項に規定される政府内における調整のための仕組みに関連するが、省庁間の連携に加え、周辺領域の基本計画に係る事項を所管する委員会等の連携を図るべきである。

(2)同時に、基本計画の推進体制は第一義的には国が責任を持つべきであるが、地方公共団体・民間団体・障害当事者との共同も必要不可欠であることを認識し、その連携を図る必要がある。

3、広報啓発

 広報啓発により市民の障害者への理解を広げ、態度や対応の改善につなげることは基本計画を推進するに当たり不可欠である。したがって、広報啓発については現行基本計画のように分野別施策で述べるのではなく、推進体制の項目に移すべきである。

4、基本計画の実施状況の監視及び勧告等について

(1)障害者政策委員会の位置付け

 障害者基本法上、障害者政策委員会は、
①基本計画策定に関して意見を述べること、
②障害者施策に関して調査審議し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は関係各大臣に対し、意見を述べること
③障害者基本計画の実施状況を監視し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告すること
等について、役割を果たすことが求めている。
 これらの点からすると、障害者政策委員会は、障害者基本計画の策定と実施状況の監視、あるいは、障害者施策に関する調査審議を通じて、必要なときには、意見を述べ、あるいは勧告するといった方法により、障害者施策の推進に寄与することが求められている。これらのことを基本計画の上でも、推進体制として明確にすべきである。

(2)監視の在り方

 障害者政策委員会における基本計画の実施状況の監視に当たり、その体制や方法について、検討することが求められる。その際、評価、検証、見直しのサイクルを明示することが重要である。
 また、監視するには、監視のための指標を設定することが重要である。特に、障害のない市民との格差や地域間格差の状況を明らかにする指標を据えることが求められるが、その他、監視のための指標としていかなるものが必要であるのかの検討が必要である。その検討に当たっては、その指標設定により、いかなる成果がもたらされるのかといった観点からの検討も重要である。
 さらに、一般的な監視に加え、テーマを絞った集中的な監視の実施、とりわけ、「Ⅲ 先送りできない重要な課題」に関連する施策の実施状況の監視は重要である。
 なお、監視に当たっての各省庁との連携の在り方なども、検討すべきである。

(3)検討結果の反映

 基本計画の実施状況についての監視の在り方については、十分に検討できる時間的余裕がないことに鑑みて、引き続き、政策委員会において検討すべきであるが、その検討に基づく結果については、随時基本計画の監視の手段として実施に移されるべきである。

5、調査及びデータの収集について

(1)男女別統計

 障害者施策に関する統計を取る時には男女別の統計を取るべきである。

(2)データ収集

 監視のためのデータ収集について、これまでに全くなかったデータを収集する必要がある場合と、既存のデータについて障害という視点から再構築することで必要なデータを利用できる場合、または、これまで行われているデータ収集に際して障害に関連する指標を入れ込むことで必要なデータとして利用できる場合等があると思われるが、その際には、隣接領域の施策を所管する省庁との連携を図ることが重要である。
 また、独自の調査研究や情報収集が必要な場合には、事務局体制と予算が確保されなければならない。

(3)都道府県が作成する都道府県障害者計画

 障害者政策委員会は、都道府県が障害者基本法に基づいて策定する都道府県障害者計画やその実施状況に関する資料を収集し、その実施状況を把握することが求められる。その上で、障害者政策委員会としては、それらの状況を踏まえて、国全体としての基本計画の策定に関し意見を述べ、また、その実施を監視しなければならない。

6、法制的整備

 本基本計画の期間に予定されている障害者差別禁止法(仮称)の制定については、平成22年6月29日閣議決定された「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」に基づくものであり、かつ、障害者権利条約の批准という観点から必要な法制的整備である。また、障害者総合支援法の9項目の見直し、障害者基本法の3年後見直しは、法律の附則に基づくものであり、これについても、今後の法制的整備が求められるところである。