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特集/福祉機器開発の現状と方向

人にやさしい福祉用具の開発の推進

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業

早野幸雄

はじめに

 近年、我が国は急速に高齢化が進んでいます。国民全人口に占める65歳以上の高齢者の割合が7%を超えた国は、「高齢化社会」の段階に達した国であると定義されていますが、我が国では、昭和45年に初めて7%を超え「高齢化社会」の仲間入りをしたほか、最近では既に14%を超え「高齢社会」の段階に入ったとも言われています。今後はさらに、2000年に16.3%、2021年には23.6%という急激な高齢化の進展が推定されています。

 このような社会的環境の変化の中で、従来の人的支援を中心とした社会福祉から、医療福祉機器による物的支援を活用しつつ、総合的に生活の質(QOL)の向上をめざすことが求められつつあります。つまり、高齢者や障害者が住み慣れた家庭や地域で安心して暮らし続けることができるために、できるだけ自立し、積極的に社会参加していける環境を整備するだけでなく、人による介護から福祉用具を活用した介護の受け入れが必要となり、より人にやさしい福祉用具の開発が期待されています。

 ここでは、人にやさしい福祉用具の開発を推進している新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDOという)の事業について、紹介させていただきます。

医療福祉機器をとりまく環境とNEDO

 高齢者や障害者を含めた国民をとりまく生活環境の整備は、「ゆとりと豊かさを実感できる生活大国」の実現のためには不可欠の課題です。特に、急速に進展する高齢化社会に対応するために、高齢者や障害者の生活及び社会参加を支援する福祉機器の果たす役割はますます重大となってきています。

 このような流れの中で、通産省及び厚生省の共同提案で「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」(福祉用具法)が平成五年度に制定されました。この法律は、「心身の機能が低下し、日常生活を営むのに支障のある老人及び心身障害者の自立の促進並びにこれらの者の介護を行う者の負担の軽減を図るため、福祉用具の研究開発及び普及を促進」することを目的としたものです。

 この法律に基づき、NEDOでは、平成五年度に「医療福祉機器センター」を設置し、福祉用具等に係る新たなニーズに対応する事業展開を進めております。具体的には、従来の医療福祉機器の技術研究開発事業に加えて、新たに福祉用具の実用化開発の助成及び福祉用具開発に関する情報提供等の事業を実施しております。

NEDOの事業内容

 医療福祉分野に関するNEDOの事業は、次のとおりです。

(1) 医療福祉機器技術研究開発事業

 通商産業省工学技術院の医療福祉機器技術研究開発制度の一環として、NEDOが産学官の連携のもとに最先端の産業技術の成果を駆使して、新たに開発が要請されている医療機器及び福祉機器の研究開発を行っています。今年度は、表1に示した15テーマの研究開発を実施しているところです。

表1 医療福祉機器技術研究開発事業における研究開発テーマ

研究開発テーマ名

研究開発期間

光断層イメージングシステム 平成4年度~10年度
無侵襲的脳代謝計測用13C-MRS装置 平成6年度~9年度
定位的がん治療装置 平成4年度~7年度
微量細胞情報検出システム 平成7年度~12年度
高感度DNA光検査装置 平成7年度~11年度
超高速・高精度脳機能計測MRIシステム 平成7年度~11年度
脳腫瘍等手術支援システム 平成7年度~11年度
次世代オーラルデバイス・エンジニアリングシステム 平成5年度~9年度
体内埋込型人工心臓システム 平成7年度~11年度
10 食道発声補助装置 平成6年度~10年度
11 荷重制御式歩行補助装置 平成3年度~7年度
12 高齢者・障害者用食事搬送自動ロボットシステム 平成6年度~10年度
13 排泄自立支援システム 平成5年度~10年度
14 障害者対応マルチメディアシステム 平成6年度~10年度
15 車イス総合支援システム 平成5年度~10年度

(2) 福祉用具実用化開発推進事業

 高齢者や障害者にやさしい社会の実現のため、高齢者や障害者のニーズに合った福祉用具の開発は不可欠です。

 しかしながら、福祉用具は一般的に市場リスク・開発リスクが大きいため、福祉用具の実用化に利用可能な新枝術が開発されても企業が単独で当該技術の実用化を図ることは非常に困難です。企業側にこれらのリスクを克服し、開発を継続する意欲とともに体力がなければ、せっかくの技術的可能性も実用化に至ることができません。そこで、企業による福祉用具の実用化開発を促進するための支援が必要になります。

 このため、NEDOでは、すぐれた技術や創意工夫のある実用的な福祉用具の開発に取り組もうとする事業者を応援し、助成金を交付しています。

 助成金事業の概要は、次のとおりです。

① 開発期間‥3年以内

② 助成率‥2/3以内

③ 助成金額‥年1,000万円程度以内

④ 助成実績‥平成5年度から助成金交付を開始

  平成5年度 新規13件採択

  平成6年度 新規6件(継続と合せ19件)

  平成7年度 新規9件(継続と合せ20件)

⑤ 助成テーマの例‥(表2参照)

 

表2 福祉用具実用化開発推進事業における助成金の交付先及びテーマ名

実用化開発テーマ名

事業者名

平成6年度で開発が終了したもの 視覚障害者用点字ブロックの開発 株式会社 リコー
座位保持装置脚部機構の開発 株式会社 ひげ工房
家庭用入浴介護支援リフトの開発 株式会社 ミクニ
高齢者・障害者用車輛誘導表示板の開発 有限会社 完装
点字読み取り装置の開発 株式会社 日本テレソフト
スロープ浴槽用の座高可変入浴車の開発 ビーファイ株式会社
高齢者・障害者用グランド・ゴルフ用具の開発 株式会社 アシックス
前年度から継続して開発を実施しているもの 新4輪型ソリ付歩行器の開発 リハビリエイド有限会社
視覚障害者用電子白杖の開発 株式会社 シースター・コーポレーション
発声発語訓練システムの普及版装置の開発 松下通信工業株式会社
視覚障害者用音声ワープロの開発 協同組合 けんぶんろん
床ずれ防止用マットの開発 日本タングステン株式会社
在宅・入浴介護用移動式チェアの開発 安全福祉技術開発有限会社
視覚障害者用誘導補助システムの開発 株式会社 サニー・シーリング
電動パワーアシスト機能付き車イスの開発 日本ウィールチェア株式会社

松下電器産業株式会社

肢体不自由者用フレキシブル・パソコン入力エミュレーターの開発 ジャパン・イー・エム株式会社
遊戯要素を活用した身体機能向上訓練機器の開発 株式会社 ナムコ
視覚障害者用楽譜システム 株式会社 マイクロ・シー・エー・デー
平成7年度に新たに開発を開始したもの 電動式起立補助器の開発 株式会社 有薗製作所
デジタル録音図書システムの開発 シナノケンシ株式会社
視覚障害者用携帯型音声合成装置の開発 株式会社 高知システム開発
抑揚を制御できる電気式人工喉頭の開発 株式会社 電制
手話トレーニングサポータシステムの開発 株式会社 ウイネット
簡易型多目的カットアウトテーブル(折りたたみ式)の開発 株式会社 つくし工房
旅行用超軽量携帯用車イスの開発 株式会社 フジワラ
レーンチャンジ・エイドシステムの開発 ナルデック株式会社

マツダ株式会社

障害者用移動介護呼出装置の開発 財団法人 広域社会福祉会

(3) 医療福祉機器国際共同研究事業

 高齢化社会の到来及び進展は、欧米諸外国等先進諸国における共通の動向ですが、特に、我が国においては、高齢化社会の進展が急激に起こるという他国にはない深刻な特徴があります。

 北欧諸国等は、既に高齢化社会を経験しており、支援技術を実際に応用した成功と失敗の経験が蓄積されています。これらの国々の技術及び知識を生かし、かつ、我が国の先端的技術及び生産管理技術等を活用することによって国際共同研究を実施することは、我が国の福祉機器の技術向上と国際貢献の上で意義深いことでもあります。

 このため、NEDOでは、医療福祉機器開発における国際共同研究の実現をめざして、各国の医療福祉機器開発の技術動向調査を実施し、国際共同研究の可能性を検討しています。

(4) 福祉機器情報収集・分析・提供事業

 福祉機器の開発に当たっては、身体機能等が低下した高齢者や障害者のニーズを的確に把握し、かつ、介護者の負担を軽減するものであることが必要です。

 しかしながら、福祉機器開発の現状は、高齢者や障害者のニーズと機器とのギャップ、ハイテク指向の機器開発による実用化の遅れ、多品種少量生産による生産効率の悪さ等から、必ずしも機器の使用者のニーズに合った福祉機器が聞発されているとは言えず、普及の障害となっている場合も少なくありません。

 NEDOでは、今後、急速に進展する高齢化に対応するため、学識経験者、専門家等の意見を総合して、ニーズ及びシーズの把握・分析・検計を行い、開発可能な福祉機器の具体的なイメージを提示するとともに、メーカーにおける改良、研究開発課題の提供及び今後の研究基盤の方向づけを行う、「福祉機器ニーズ・シーズ適合調査研究」を実施しています。

 さらに、人にやさしい福祉機器の設計に役立てるために、高齢者や障害者の感覚・運動等の諸特性がどのように変化するかを定量的、かつ統計的に把握しておく必要があります。特に、元気な高齢者の身体機能等が、健常な若年者に比べてどのように機能低下しているかを計測し数値化し蓄積することは、今後急速に進展する高齢化に対応した福祉機器を開発、設計する上で重要な基盤となるものです。

 このため、NEDOでは高齢者や障害者の身体機能等の諸特性を計測し、蓄積する「身体機能データベースの構築に関する調査研究」を実施しています。

 また、今後、福祉用具の開発に必要な情報を福祉用具開発事業者や研究者に提供できる国際情報ネットワークの構築についても検討しているところです。

おわりに

 急速な高齢化が進む我が国にとって、人にやさしい福祉用具を活用して、高齢者や障害者が安心して暮らせる環境を整備することが高福祉社会を実現する第一歩です。少しでも多くのユーザーの方々の声を福祉用具開発に反映し、かつ、開発事業者の方々がより円滑に福祉用具開発に取り組めるような環境を整備する必要があります。NEDOの事業に関する御意見、御質問等ございましたら、ぜひとも事務局までお寄せください。

事務局‥新エネルギー・産業技術総合開発機構

 (NEDO)

 医療福祉機器センター

 TEL03-3987-9353

 FAX03-5992-0044

(はやのゆきお・NEDO開発部長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年10月号(第15巻 通巻171号) 17頁~20頁