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特集/福祉機器開発の現状と方向

研究開発の現状と課題

北條 繁

はじめに

 障害または高齢のため、不自由な日常生活を余儀なくされる場面で、それを補うものは「人によるサービス」であったり、「モノの利用」です。

 財団法人テクノエイド協会は、日常生活の自立意欲を支援したり、介護者の介護負担の軽減に役立つ福祉用具が実用化されるよう、研究開発と普及の事業等に取り組んでいます。研究開発の取り組みには、企業や研究機関がその主体となりますが、当協会はそれに対して研究費の助成を行い、「使いやすい・低価格」の福祉用具が実用化されるよう支援しています。

研究開発の現状

当協会が助成を通じて福祉用具の研究開発に関わった課題数は、平成6年度までに延べ67件ありましたが、本年度新たに13件が加わりました。これまで、研究費の助成の終了した課題は、50件となっています。助成終了後も自助努力で研究を継続しているケースが多いのですが、ここでは、これまで実施されてきた研究開発課題の内容の一部を紹介します。《 》内は、携わった企業等の名称です。

[車イス関係]

車イス用電動ユニット

《ヤマハ発動機》

 手動式の車イスに電動ユニットを取りつけることで、電動車イスとして利用ができます。従来の電動車イスより軽量(電動ユニットを取りつけて23㎏程度)で低価格の商品化を目指しています。着脱可能なニッカド電池は1回1時間の充電で4㎞程度の走行ができます。本年11月から一部地域でテスト販売の予定です。

逆転防止機構付き前後動操作型ブレーキ

《ジェー・シー・アイ》

 車イス利用者が、坂道でも安全に上ることができる操作が簡単なブレーキ装置です。1つのブレーキに「フリー・逆転防止・ロック」の3つの機能が組み込まれています。レバーを逆転防止位置にすると、前進のときは抵抗がないのですが、上り坂の途中で手を離すと同時に逆転防止装置が働き、車輪が停止します。手を離す都度ブレーキのロックあるいは解除の操作が不要です。既に販売されています。

[移動関係]

在宅向け車イス用階段昇降装置

《横浜市リハビリテーション事業団》

 設置のために家屋及び建造物の付帯工事を必要とせず、また、移乗による本人や介護者の負担を軽減するため、車イスを利用したまま搬送できる装置です。階段昇降装置は、日本の階段に多い曲がり階段にも対応できるものとする計画です。研究開発を継続中です。

〔入浴関係]

エアーバック方式による入浴補助装置

《ティ21協同組合》

 車イス利用者が入浴する際、浴槽への出入りが容易に行える装置です。入浴のとき、洗い場に置かれたエアーバックに乗り浴槽縁の高さまで持ち上げ、一方、浴槽内で浴槽縁まで持ち上げられているエアーバックに移乗した後それを下降させます。リフト方式、油圧方式等より設備がコンパクトで操作が簡単であり、低価格を目指しています。研究開発を継続中です。

[排泄関係]

臀部を持ち上げないで、便と尿を取れる便器

《ニド・インダストリアルデザイン事務所》

 利用者の臀部を持ち上げなくても大・小便を採取できる便器です。寝具の上で利用する従来品では、臀部を持ち上げて処置するものが大部分です。そのため、体重の重い人の介助は負担が大きく、また、本人も腰を痛めやすいといわれています。これらの欠点を補正できるものを目指しています。研究開発を継続中です。

[コミュニケーション関係]

防水型補聴器

《リオン》

 補聴器が防水型となっており、つけたまま入浴、シャワー、水泳等ができます。マイクロフォンと電池ケースに水を通しません。音と空気を通す「特殊新素材」を使用し、空気電池の使用も可能となりました。電池は水銀を使わず環境にやさしくなり、寿命も伸びました。すでに販売されています。

[その他]

音声案内付き電子体温計

《オムロン》

 視覚障害者が体温測定をするとき、操作の手順と結果が音声で案内されます。また、スイッチはすべて点字で表示されています。これにより、自分自身で体温測定ができ、自分で健康管理ができる一助となりました。既に販売されています。

今後の取り組みの方向

 福祉用具の研究開発は、これまでも相当の歴史があり技術の蓄積もあるのですが、まだ多くの課題があります。また、研究開発がより進展するためには、ある程度普及化が進み利用者のニーズ(情報)が適切にフィードバックされることも大切です。

① 多様なニーズ

 福祉用具の種類は相当ありそうなのですが、現在でもまだまだ少ないと言われています。必要とする方々の生活の実態は様々であり、それぞれの場面に応じた適切なモノがあるかとなると、やはり品揃えでは一般商品に比較して見劣りしているようです。今後も研究開発を推し進めていかなくてはならない所以です。

② 低価格化

 福祉用具の価格は、求めやすいもの(低価格)であること。これには誰も異論がありません。福祉用具は、ある程度個別のニーズに対応できるように作るため、また、少数であるため、どうしてもコストが高くなりがちです。当協会からの研究費の助成の目的は、コスト低減にもあります。

③ 操作性とデザイン

 福祉用具は、使いやすいものでなくてはなりません。福祉用具を使うのは、障害者や高齢者本人またはその家族等です。介護のプロではありません。高機能ではあるけれど構造が単純で、操作が簡単(操作のレバーやボタン等の形状・色彩に工夫がある)で、合わせて、見た目にも美しいことが望まれます。難しい注文ですが。

④ 小型・軽量で丈夫

 日常生活を支援する福祉用具は、コンパクト(一定のスペースで使える)・軽量(持ち運びが楽)・丈夫(使い熟して慣れる・修理費がかからない)であることが求められています。もちろん用途に応じて程度問題ですが。

⑤ 普及化のために

 福祉用具をいざ利用しようとするとき、身近で相談ができ、また、利用中も適切なサービスが受けられる体制の整備が急がれます。日常生活全般の中で具体的にどのように困っているのか、また、家族等の支援体制の様子、利用者の住宅の状況等を踏まえて、どんな福祉用具が最適なのかを丁寧にアドバイスできる体制を広げる必要があります。合わせて、利用中のサービス(フォロー)体制の充実も大事です。

福祉用具の研究開発援助の仕組み
自立や介護を支援する福祉用具の研究開発に助成

福祉用具の研究開発援助の仕組みの図
拡大図

おわりに

 上記①~⑤のことから、福祉用具の研究開発の今後の取り組みのポイントは、やはり「利用者のニーズをきめ細かく把握する」ことに尽きると思います。

 研究開発に携わるメーカーは、第一線にある販売店や相談機関の情報だけでなく、ときには直接「利用者の声」を聞く機会を持つことが大切です。各種の展示会の有効な活用も1つの方法でしょう。当協会は、障害者や高齢者にとって(もちろん介護者にとっても)より良い福祉用具が生まれ、それが広く普及するよう今後とも取り組んで参ります。

(ほうじょうしげる・財団法人テクノエイド協会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年10月号(第15巻 通巻171号) 21頁~23頁