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気になるカタカナ

ノーマライゼーション

久保耕造

 ノーマライゼーションは北欧の障害者福祉の中から生まれてきた考え方であり手法であるが、今日では我が国を含めすべての国々の障害者福祉の共通理念になっているといっても過言ではない。そこでは、従来、障害者や高齢者などの社会的弱者を正常(ノーマル)なものとせず社会から隔離する傾向にあったことを反省し、むしろ一定の弱者が存在する社会こそが正常であると理解される。

 これは決して、障害を軽減して「正常」に近づける、あるいは、施設の中における生活環境条件を社会に近いものにするという意味ではない。むしろ、あるがままの障害者が、地域で障害のない者と同様の社会生活をおくることを可能とするための条件整備を行うことがノーマライゼーションの中心課題である。

 障害者福祉に関連するパラダイムは医療モデルから自立生活モデルへ、ADL(Activities of Daily Living 日常生活動作)からQOL(Quality of Life 生活の質)へ、施設から地域へ、あるいは保護主義から人権尊重、当事者の主体性尊重へなどと様々に変化してきた。これらの流れの背景として存在していたのがノーマライゼーションの理念でもあったといえる。

 国際障害者年のテーマでもある「完全参加と平等」、その後の「万人のための社会」なども基本理念はノーマライゼーションにある。主にアメリカで用いられるメインストリーム、主に教育の分野などで用いられるインテグレーションなども同様の考え方であるといえる。

 ノーマライゼーションの父ともいわれている故バンク・ミケルセン氏は、「ノーマライゼーションを難しく考える必要はない。自分が障害者になった時にどうしてほしいかと考えればすぐに答えはでてくる」という意味のことを述べている。やさしい表現であるが、ノーマライゼーションとは何かを見事に言い切っている。

 発音の関係でノーマリゼーションと表記されることもある。適切な日本語訳はない。

 最近は、インクルージョン、エンパワメン卜あるいはソーシャル・ロールバロリゼーションなど、いわばポスト・ノーマライゼーションともいうべき考え方も登場してきており、これらも注目に値する。

(くぼこうぞう・エンパワメント研究所)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年10月号(第15巻 通巻171号) 40頁